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非完備情報とプロジェクト評価モデル

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Academic year: 2021

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(1)非完備情報とプロジェクト評価モデル1). 芝. 田. 1 はじめに. 隆. 志・). 資プロジェクト機会のオプション価値が導出さ れている.ここで注意されたい点とは,投資プ ロジェクト機会を実行するか否かという意思決.  本論文では,非完備情報を仮定してリアル・ オプション評価モデルを構築する.具体的には,. 定に直面している企業は,将来時点における利. 投資プロジェクト機会を保有する企業は,投資. 得の実現値に関しては不確実性を伴うが,現時. を実行するまでは投資を実行したときの利得に. 点の実現値に関しては完全に観測できると仮定. 関する情報を部分的(間接的)にしか観測でき. した上でモデルが構築されている.この仮定は. ないと仮定した上で,企業が保有する投資プロ. 完備情報とよばれている.. ジェクト機会のオプション価値を金融工学での.  それに対して,本論文では,投資プロジェク. 価格式を用いて導出する.そして,導出された. ト機会を保有する企業は,将来時点における利. オプション価値が外生的パラメータに関してど のような影響を受けるかについて考察すること. 得の実現値に関して不確実性を伴うばかりでは. により,企業にとっての最適な投資戦略につい. 完全には観測できない,すなわち部分的にしか. て考察する3).本論文における独創的な点とは,. 観測できないと仮定した上で,リアル・オプシ. 非完備情報を仮定した既存の評価モデルを精緻:. ョン評価モデルを構築する.この仮定は完備情. 化する点にある.. 報ではないことから,本論文では非完備情報と.  リアル・オプション評価モデルでは,多くの. 定義する.本論文において非完備情報を仮定す. 分析において,投資プロジェクト機会に関する. る理由とは,投資プロジェクト機会を保有する. 企業の利得(状態変数)は,確率過程としてモ. 企業は,投資を実行するまでは投資プロジェク. デル化されるので,将来時点における企業の利. ト機i会の現時点における利得に関しても完全に. 得は不確実性を伴っている.その結果,リア. は観測できないという状況に,実務において企. ル・オプション評価モデルでは,企業が将来的. 業はしばしば直面していると考えられるからで. に直面する不確実性を考慮に入れて,企業の投. ある.このため,企業は投資プロジェクト機会. なく,現時点における利得の実現値に関しても. による利得に関する情報を獲得しようとして,  1)本論文はShibata(2004)を加筆修正したも. のである㌔本研究は科学研究補助金若手B. 実務における企業は投資を実行する前にマーケ ティング調査や研究開発などの経済活動を営ん. (17710128)から助成を受けている.. でいる.したがって,企業が投資プロジェクト.  2)京都大学大学院経済学研究科.. 機会による利得に関する情報を現時点において. Email:shibata@econ.kyoto−u.acjp.  3)本論文における非完備情報とは,経済主体 が自分の利得を左右する状態変数に関する現時点 での情報を,現時点においても完全に観測するこ とができないこと,と定義する.この定義の詳細 はLaτnbrecht and Perraudin(2003)やD6camps et al.(2005)を参照されたい.. も完全には観測できないと仮定して評価モデル. を構築することは,実務における観点から考慮 して,現実味を帯びた興味深い評価モデルであ. ると考えられる.そこで,本論文では,こうし た非完備情報を仮定した上でリアル・オプショ. 『エコノミア』第56巻第2号(2005年11月),1一17頁[Ecoηo〃z’αVoL 56 No.2(November 2005), pp.1−17].

(2) 2. ン評価モデルを構築する.. ましいという戦略が結論づけられる.第2に,.  非完備情報を仮定したリアル・オプション評 価モデルは,本論文が最も先駆的な(唯一の). 利得(状態変数)および推定の不確実性が増大. 評価モデルという訳ではない.非完備情報を仮. ン価値は増加し,投資戦略としては意思決定を. 定して既に構築された評価モデルとしては,. 遅延した方が望ましいという結果が得られる.. Thilssen et al.(2001), Bernardo and Chowdhry. このように,本論文では,利得は確率過程に従. (2002),Lambrecht and Perraudin(2003),. い,かつその情報は非完備と仮定した上でリア. D6camps et al.(2005)があげられる.しかしな. ル・オプション評価モデルを構築するので,企. がら,これらの非完備情報を仮定した既存の評. 業が直面する不確実性が3つの不確実性に分解. 価モデルでは,利得が確率変数(時間とともに. されることになる.これらの3つの不確実性は,. 変化しない)としてモデル化されている.完備. それぞれ経済学的な含意をもっているので,本. 情報を仮定した評価モデルでは,状態変数は確. 論文では,経済学的な意味を具体的にもつそれ. 率過程(時間とともに変化する)としてモデル. ぞれの不確実性の変化に関する投資戦略につい. 化されているのに対し,完備情報から非完備情. て考察する.. 報に拡張した既存の評価モデルでは,利得が確.  本論文の構成は以下の通りである.次回では,. 率変数としてモデル化されている.将来時点に. 本論文で考察されるモデルを設定する.そして,. おいて投資プロジェクト機会が不確実性を伴う. 投資プロジェクト機会のオプション価値が満た. と仮定した上で投資戦略を考察できる点が,リ. すべき方程式を導出する.第3節では,第2節. アル・オプション評価モデルにおいて最も注目. で得られた投資プロジェクト機会のオプション. をあつめている点である.それゆえ,完備情報. 価値に関する評価式を用いて,オプション価値. から非完備情報に評価モデルを拡張しても,利. の推定と企業の投資戦略について考察する.こ. 得は確率過程としてモデルを構築した方が望ま. のとき,オプション価値が満たさなければなら. しいことは言うまでもない.そこで,本論文で. ない方程式が,解析的に解くことができないた. は,情報は非完備かつ状態変数は確率過程に従. め,その方程式に関する性質を数値計算を用い. うと仮定した上で,リアル・オプション評価モ. て考察する.第4節では本論文で得られた結果. デルを構築する.すなわち,本論文における独. ついて纏める.. するならば,投資プロジェクト機会のオプショ. 創的な点とは,非完備情報を仮定した既存の評. 2 モデル. 価モデルを精緻化する点にある..  本論文では,利得が確率過程に従いかつその.  本節では,非完備情報を仮定した新しい評価. 情報は非完備であると仮定した上で,リアル・. モデルを構築し,投資プロジェクト機会のオプ. オプション評価モデルを構築する.これらの設. ション価値が満たさなければならない方程式に. 定の下では,企業が直面する不確実性は,情報. ついて導出する.. の不確実性,利得の不確実性,推定の不確実性,. 3つに分解される.すなわち,それぞれの不確.  2.1 設定. 実性とは,利得の情報に関する不確実性,利得.  いま,ある企業はある投資プロジェクト機会. 自体の変動による不確実性,そして利得に関し. を独占的に保有している.その企業はリスク中. て推定する際の不確実性に対応している.. 立的な経済主体であり,リスク中立な割引率.  本論文で得られた結果は次の通りである.第. (利子率)を正の定数7∈R++と仮定する.. 1に,情報の不確実性が増大するならば,投資 プロジェクト機会のオプション価値は減少し,.  本論文における不確実性は,完備な確率空. 企業は投資の意思決定を早期に決定した方が望. ンを(丑〉∈R.と表記する.また,確率空. 間(∫2,F,P)で定義され,そのフィルトレーショ.

(3) 3. 問(∫2,F,P)上で定義される任意の確率過. な点となっている5).なお,企業が投資プロジ. 程(ア,)’∈&に対して,(呪ア),∈品は,確率過. ェクト機会を実行する際,単純化のため,投資. 程(γ,),∈意によって生成されるσ一加法族と定義. 実行の費用はゼロと仮定する6).. する.すなわち,」畔:=σ({ア,,∫≦∫})である..  ここで,本論文における非完備情報に関する.  企業は投資プロジェクト機会を実行するなら. 仮定について説明しよう.本論文では,企業は. ば,企業の利得は,時刻’においてんθ,と仮定す. 投資プロジェクト機会を実行していなければ,. る.ここで,利得は状態変数αに十分に大きな. 企業は投資による利得を部分的にしか観測でき. 正の定数K∈R・\[0,1]を乗じて定義するが,. ないと仮定する.すなわち,企業は状態変. この理由については後で詳細に議論する.なお,. 数(θ‘)ご∈R.の現時点における実現値を,現時点. 状態変数は確率過程(θ,),∈&として定義し,確. においても観測することができないと仮定す. 率過程(αン∈&は確率空間(Ω,F,P)上で次の確. る.ただし,企業は状態変数(θ,)、∈R.が確率微. 率微分方程式. 分方程式(1)に従い,状態変数の初期状態θo が正規分布に従っていることは認識可能である. 4α=・伽一α脚σβ4・戸, θ0∼N(μ0,γ0),. と仮定する.換言すれば,状態変数は確率微分 (1). 方程式(1)に従い,確率微分方程式(1)の パラメータ水準がどのような水準なのかは,企. に従うと仮定する.ただし,α,吻,σβは正の定. 業は完全に認識できている.しかしながら,企. 数(み・面癖準ブラウン翻,時点ゼ・. 業は状態変数の実現値を現時点において観測で. における状態変数θ0は,期待値μ0かつ分散VOの. きないので,企業は投資プロジェクト機会の現. 正規分布に従うと仮定する.(1)式は状態変 数が平均回帰過程に従うことを意味している.. 時点における利得水準を完全には観測できてい. この仮定は,企業がある投資プロジェクト機会. 文では非完備情報と定義する.ただし,企業は. を独占的に保有しているが,その投資機会は完. 状態変数に関する情報を完全には観測できない. 全競争的な投資機会であることを含意してい. が,状態変数に関する情報を部分的(間接的). る.数学的には,状態変数が将来的に平均的な. には観測できると仮定する.なぜならば,もし. 水準に推移する傾向をもつと仮定している4).. 企業は状態変数に関して部分的にも観測できな. ただし,状態変数は将来的には平均的な水準に. いと設定するならば,企業は状態変数に関する. 推移するが,その推移自体は不確実であること. 情報を全く獲得できなくなるため,リアル・オ. を確認されたい.(1)式において最も重要な. プション評価モデルを構築できなくなるからで. 点とは,状態変数は時間に依存して時々刻々と. ある.. 変化すると仮定している点にある.既存の非完.  そこで,本論文では,企業は状態変数に関す. ないという設定になっている.この仮定を本論. 備情報を仮定したリアル・オプション評価モデ ルでは,状態変数が確率過程ではなく確率変数 に従うと仮定されているため,この設定が既存.  5)例えば,Bernardo and Chowdhry(2002)で. 研究とは大きく異なり,本論文における独創的. は,状態変数は,. 4α=0,  と仮定されている..  4)確率微分方程式(1)においてα=Oと設定 し,確率微分方程式を定常ではない確率過程に従 うと仮定しても,本論文における評価モデルは構 築可能である..  6)単純化のため,本論文では投資実行の費用 はゼロと仮定するが,この仮定は一般性を失わな い.詳細はDi)dt and Pindyck(1994)を参照された い..

(4) 4. る情報を,自らの経済活動によって獲得できる. さらに,企業は投資プロジェクト機会を実行す. と仮定する.実務では,これらの経済活動は市. る際,あるいは企業は投資プロジェクト機会を. 場に関する情報収集,例えば,マーケティング. 放棄する際には,企業は研究開発を停止するこ. 調査あるいは研究開発として捉えることができ. とになるが,単純化のため,その撤退費用もゼ. る.本論文では,この市場に関する情報収集活. ロと仮定する.. 動を研究開発とよぶことにする..  最後に,本論文で設定するリアル・オプショ.  企業は市場に関する情報収集(研究開発)活. ン評価モデルを簡潔に要約しよう.本論文では,. 動により,状態変数に関する情報を部分的に観 測できるように設定するため,次のような仮定. 企業は投資プロジェクト機会を実行しなけれ ば,企業は投資プロジェクト機会の利得を完全. を置くことにしよう.まず,投資プロジェクト. には観測できないと仮定するため,企業はその. 機会の実行による利得と比較すれば小さいが,. 情報を獲得するために研究開発という経済活動. 企業は研究開発の活動からも利得を獲得できる. を開始する.この研究開発(活動)により,企. と仮定する.そこで,企業の研究開発活動によ. 業は投資プロジェクト機会の利得に関する情報. る累積利得(累積キャッシュフロー)を,確率. を動学的に推定し,企業は投資プロジェクト機. 空間(9,F,P)上の確率過程(ξ,〉∈私として定義. 会のオプション価値を推定することになる.具. し,次の確率微分方程式. 体的な数値例として,いま,確率微分方程式. (1)(2)における確率過程(θり’∈品 4ξ’=θ読+σ・4・g,ξ・=o,. (2). と(ξ’),∈&のサンプルパスをシミュレーション. してみよ1 、.確率過程(θ∂,∈&(多)’∈意のサン. に従うと仮定する.ただしσ。は正の実. プルパスをシミュレーションした結果は,図表.     数,(zごン∈凡は丹標準ブラウン運動と仮定する. また,(窮のθ・は,それぞれ独立と仮定す. 2.1の通りである.ここでは,シミュレーショ. る.ここで,確率微分方程式(2)のドリフト は,投資プロジェクト機会の状態変数と設定し. けるサンプルパスを100個を発生させている. このとき図表2.1から,企業が観測できる確率. ている点を確認されたい.すなわち,研究開発. 過程(ξ・),∈露のサンプルパスは,企業が観測で. による利得は,投資プロジェクト機会の状態変. きない確率過程(θ∂,∈&のサンプルパスよりも. 数の水準と不確実性(確率)項で構成されてい. 変動が大きいことが確認できる.したがって,. る.本論文では企業は確率過程(多ン∈&の現時. 企業はこのような情報の不確実性を考慮に入れ. 点での実現値を観測可能と仮定する.したがっ て,企業は確率過程(ξり 納情報(め,。瀞. て,状態変数の特性値を推定しなければならな. ンは,初期値をゼロとして日時で100日間にお. い.     ,. ら確率過程(θ,〉∈R.の特性値を動学的推定(フ. ィルターリング)することにより,企業は投資.  2.2 投資プロジェクトのオプション価値. プロジェクト機会の利得を間接的(部分的)に.  本項では,前節で設定したモデルの仮定から,. 観測できることになる.数学的には,本論文に. 企業の投資プロジェクト機会の利得が,自らの. おいて企業が観察できる情報はフィルトレーシ. 意思決定に関してどのように定義されるのか考. ・ゾとなる.明らかにE⊇呪ξかつ琳呪ξな. 察する.. ので,本論文のリアル・オプション評価モデル.  企業の投資プロジェクト機会の価値をGと表. は非完備情報モデルとなっている点に注意され. 記すれば,ベルマン方程式を用いることにより,. たい.. 企業の投資プロジェクト機会のオプション価.  また,企業は研究開発の経済活動を営む際,. 値Gは,. 単純化のため,その参入費用はゼロと仮定する..

(5) ∫. 図表2,1確率過程のサンプルパスについてのシミュレLション 確率過程(θ,)のサンプルパス. 確率過程(ξ・)のサンプルパス. 0.5. 0.5. 0. 0. 一〇.5. 一〇.5.                  り . む        む.   日時(時間).   日時(時間). 欝欝列(3>. 100. 利得よりも相対的に十分に大きい規模であると 設定するためである.なぜならば,本論文の焦 点が,投資プロジェクト機会のオプション価値 を評価する点にあるからである.. となる.(3)式の右辺各項における期待値は,. フィルトレーションEではなく,フィルトレー.  2.3 情報の動学的推定. シ・ゾで条件づけられている点に臆され. じたオプション価値を表している.第1項は,.  本項では,状態変数の実現値に関する動学 的推定(フィルターリング)について考察す る.本論文では,企業は状態変数の実現値を 間接的(部分的)にしか観測できない.間接 的な観測では,状態変数の期待値や分散が企. 企業が投資プロジェクト機会を完全に放棄した. 業にとって最も重要な推定量になる.そこで,. 場合のオプション価値を表している.これは企. 本項では,状態変数の実現値に関する期待値. 業が投資プロジェクト機会を完全に放棄した場. や分散について考察する.なお,本論文では,. 合,研究開発の撤退費用はゼロと設定されてい るからである.第2項は,企業が投資プロジェ. 状態変数が確率微分方程式に従うと仮定して いるため,状態変数の平均や分散は,確率解. クト機会を実行するか否か,意思決定を遅延し. 析におけるカルマン・フィルターリング理論. ているときのオプション価値を表している.そ. を用いて導出される7).. れゆえ,第2項は,研究開発からの利得と投資 プロジェクト機会を保有するオプション価値,.  本論文では,状態変数(θ,)の期待値と分散. たい..  (3)式の右辺各項は,企業の意思決定に応. を,. 2つの価値の総和として定義されている.第3 項は,企業が投資プロジェクト機会を実行した. μ・・E[θ杷ξい・=7[θ招ξ],. 場合の利得を表している.このとき,企業の利. 得は,状態変数θ,に十分に大きな正の定 数K(κ∈R・\[0,1])を乗じて定義されている.. 定数κを十分野大きな値と定義する理由は,投 資プロジェクト機会の利得が,研究開発による.  7)カルマン・フィルターリング理論について は, Liptser and Shiryaev (2001a,20011)) , ()ksenda1(2003)を参照されたい..

(6) 6. と定義する.これらの推定量はフィルトレーシ. 補題2.2 常微分方程式(5)の解は,. ・ン吻条件の下で議されている点を確認.        (α2一α1)∫.   α1十Bα2ε σ♂ (α2一α1)’  , w=. されたい..  カルマン・フィルターリング理論によると,.   1+Bθ σ♂. 状態変数の期待値および分散は,. w舵7ε.  4μ=α伽一μ)4’. +訓士(4多一μのト. α1・・=. (4). i一・σ浸±σ・・2σ3+・ザ)   α1一「レO. B=.   VO一α2,. となる.さらに,もレ→○○ならば,w→α1と.          V2. 4w=一2・w+・》一誌4ち. (7). (5). なる.. に従うことになる.このとき,次の2つの重要.  補題2.2は,もし時間が十分に経過するなら. な補題が得られる.第1に,状態変数の期待値. ば,状態変数の分散wは正の定数α1に収束する. (4)式に関する補題が次のように得られる.. ことを意味している.すなわち,もし時間が十. 補題2.1 次のように定義される確率過. 分に経過するならば,状態変数の分散は時間変. 禰〉函. 動が消滅することを含意している..  本項では,状態変数の実現値を動学的推定す. 4・1=士痂,. (6). るため,状態変数の実現値に関する情報推定値 として,期待値と分散の動学的な方程式を導出. は牟標準ブラウン翻である.ただし確率過 程C>・ン∈R・は,. 蝿一 ワ訟 と定義される.. 補題2ユは,の・∈&が尋標準ブラウン翻で はないことを意味している.すなわち,フィル トレーションEの条件の下では,確率過程( αz,). のはそれぞれ独立な螺準ブラウン運動に従 っていたが,フィルトレーションFξの条件の. した.これらの結果は,次項において用いられ る..  2。4 投資プロジェクトのオプション価値.  本項では,企業の投資プロジェクト機会のオ プション価値が満たさなければならない方程式 を導出する..  もし企業は状態変数θ‘を観測できるならば,. 企業の投資プロジェクト機会のオプション価 値Gは,状態変数αの関数として表せることに なる。しかしながら,本論文では,企業は状態. 下では,確率過程のが融準ブ今ウン翻. 変数θ,を完全には観測できないので,オプショ. に従うことになる.. 数として表されることになる8).すなわ.  第2に,状態変数の分散に関する補題が次の. ン価値C,は状態変数の期待値と分散(μらv,)の関. ように導出できる.状態変数の分散(5)式は,. 確率微分方程式ではなく,確率項を持たない微 分方程式に従っている.この微分方程式はリッ カチ型とよばれる常微分方程式であり,その解 は解析的に次のように解くことが可能である..  8)企業の投資プロジェクト機会のオプション 価値は,G=C(μ,,vらりとはならない.なぜなら ば,状態変数の期待値μが臨界値を超えなければ,. 企業は投資に関する意思決定を永久に遅延するか らである.すなわち,本論文において投資プロジ ェクト機会は金融商品におけるアメリカン・オプ ションと捉えることができる..

(7) 7. ち,G=C(μらvのと表される.. c(μ万,γ)=亙・μH,.  企業が投資に関する意思決定を遅延している. Cμ(μ,v)コ0,. (12). (13). とき,投資プロジェクト機会のオプション価値 は,前節で導出したように,. c。伽,。)=与. (14).       π .. G=E[(1一醐(G+4の+4ξ,毘ξ],(8). となる.他方,関数G=C(μらv’)に伊藤の公式 を適用すると,. となる.ただしμは,分散vをある水準に固定 した場合に,企業が投資プロジェクト機会を放 棄する臨界値,μ∬は企業が投資プロジェクト機. 会を実行する臨界値と表記する.さらに,もし 時間が十分野経過するならば,投資プロジェク α(現一μ)01∫. げC(μ,w)=Cμ. ト機会のオプション価値Cは,次の常微分方程. +希{孟(必一μり}. 式. ÷Cμμ診C・・(一μ)+μ一κ・・(15). 曜一σ1一評. (9)  を満たさなければならない。なお,この場合の +÷cμμ. (wσα)24ご ,.    境界条件は,上述した4つの条件(ユ1)(ユ2)     (13)(14)と同一である..  命題2.3において,(11)(12)式はバリュ となる.ただしG,Gごσ∈{μ,γ})は偏微分を表. す.このとき,前項で得られた2つの補題を用. }ッチング条件,(13)(14)式はスムー ズ・ペイスティング条件とよばれる境界条件で. いて,上述した2つの式(8)(9)を整理す. ある9).なお,本論文では臨界値μちμHは内生. るならば,オプション価値についての命題が次. 的に決定されるので,本論文のリアル・オプシ. のように得られる.. ー・. ョン評価モデルは,自由境界値問題となる’0)..  前項の補題2.2で示したように,もし時刻‘が. 命題2.3 企業が投資に関する意思決定を遅延 している場合,企業の投資プロジェクト機会の オプション価値は,次のような偏微分方程式. 十分に経過するならば,状態変数の分散wは正 の定数に収束した.それゆえ,時間∫が十分に 大きい場合には,企業の投資プロジェクト機会 のオプション価値は,偏微分方程式(10)では. ÷疇+α〔一加+σ1一謝. なく常微分方程式(15)を満たさなければなら. ない.なぜならば,もレ→OQならば4 v−0と +Cμα伽一μ)+μ一・C・0,  (10). なるからである.. を満たさなければならない.また,偏微分方程 式の境界条件は,.  9)バリュー・マッチング(value−matchi119) 条件,スムーズ・ペイステイング(smooth−pasting). C(μ,ソ)=0,. (11). 条件に関しては,Dixit and Pindyck(1994)を参 照されたい..  10)臨界値が未知な問題は,自由境界値問題 (free−boundary value problem>とよばれる..

(8) 8.  企業が投資プロジェクト機会の意思決定を遅. w加rθ. 延している際,もし分散をある水準に固定する. 左・去蟻+α一㎞+σ1一器. ならば,状態変数の実現値に関する期待値は領 域(μ,μH)に属することになる.以下では,こ. ,.   +Cμα(〃z一μ)+μ一7C. の領域(μちμH)を続行領域とよぶことにする.. つまり,本項では,続行領域において投資プロ. に書きi換えることができる.もしC>びならば,. ジェクト機会のオプション価値が満たさなけれ ばならない偏微分方程式と常微分方程式を導出. (15)式の第1項が等号で成立し,偏微分方程 式(10)と同一となる.他方,もしC<C*なら. した.なお,これらの式(10)(15)は,閉じ. ば企業は投資を実行するので,偏微分方程式. た解(closed form solution)を求めることがで. (15)の第1項が等号で満たされる必要はない.. きない.そこで,次節では微分方程式(10). すなわち,(15)式の第2項が等号で成立する. (15)と続行領域(μちμのの近似解とその性質. こととなる.したがって,(15)式を同時に満. について,数値計算を用いて考察する.. たす解を数値的に解くために,ρを非常に大き. 3 数値計算  本節では,前節で導出された方程式を用いて,. な値として,(15)式を1つの式として ノ1+ρ×〃2ακ{C*一C,0}=0,. (16). 投資プロジェクト機会のオプション価値を推定 する.そして外生パラメータの変化に関するオ. と書き換えることができる.び>Cならばρが. プション価値への影響を考察することにより,. 大きい値であることから,ρ(C㌧C)が支配的. 企業にとっての最適な投資戦略について分析す. となり,C*=Cとなる.他方, C*<Cの場合に. る.なお,オプション価値を推定する前に,本 節で使用する数値計算の方法,パラメータの設. は偏微分方程式ZL=0が成立しなければならな い.この(16)式の偏微分方程式を解くことで. 定条件について簡潔に述べる.. 企業の投資プロジェクト機会のオプション価値 と続行領域の水準について数値的に求める.こ.  3.1 数値計算の方法. のような数値計算方法は,ペナルティ・アプロ.  本論文では,陰的有限差分法を用いてプロジ. ーチとよばれる12).. ェクト価値を推定する1ユ).また,本論文では陰. 的有限差分法を用いる際,ペナルティ・アプロ.  3.2 パラメータ設定. ーチという手法を用いて数値計算を行う.以下.  本論文では,プロジェクト価値を評価する際,. では,ペナルティ・アプローチの概略について. パラメータ設定において次のような条件を仮定. 説明する.. する..  いまC*を行使時点における投資プロジェクト.  本論文における評価モデルでは,状態変数の. 機会の価値と定義する.このとき,偏微分方程. 分散v,が時間とともに減少するようにパラメー. 式(10)は,. タを設定する.なぜならば,分散v,は状態変 数θ,の推定量なので,分散v,は状態変数αに関. ノ1≧0,(C−C*)≧0,ノ1・(C−C*)=0, (15). する推定の不確実性と捉えることができ,推定 の不確実性は時間が経つにつれて減少すると考 えられるからである.この仮定を置くため,状.  11)陰的有限差分法(implicit finite difference method)の詳細については, Brandinlarte(2002), Seydel(2002)などを参照されたい.. 態変数の不確実性σβは非常に小さい値とした.. その他のパラメータは,Bernardo and Chowdhry(2002)において使用されたパラメ.

(9) 9. 図表3.1 パラメータの数値 パラメータ. σα. σβ. 襯. 水準. 0.10. 0.10. 0.2. α. 8.0. 0.05. 0.2. 図表3.2 オプション価値と続行領域の推定値. v. y. ’. σα. μ. μH. C(μ=0,v). 一〇.39. 0.24. 2.7695. 一〇.51. 0.35. 3.4165. μ. μH. C(μ=0,v=0.15). infinity. 一〇.32. 0.18. 2.4853. 0.20. 一〇.27. 0ユ6. 2.0824. 0.05. 一〇.31. 0.21. 2.0621. 12. 一〇.41. 0.24. 4.0637. 0.15 0.20. 一タ水準を用いる’3).具体的なパラメータ水準.  図表3.2は,投資プロジェクト機会のオプシ. は,図表3.1で表記される通りである.. ョン価値および続行領域の推定値を掲載してい る.また,図表3.3は,分散をv=0.15に固定し.  3.3 投資プロジェクト機会価値の計測. た場合におけるオプション価値Cと期待値μと.  本論文におけるリアル・オプション評価モデ. の関係を描写している.’ }表3.3における実線. ルでは,企業の投資プロジェクト機会のオプシ. と点線で表されるそれぞれ曲線は,偏微分方程. ョン価値Cは2変量(μ,v)に依存するので,オプ. 式,常微分方程式から導出されたオプション価. ション価値を平面上で描写する際には,2変量 のどちらか一方を固定する必要がある.投資プ. 値である.具体的には,実線で表される曲線は,. ロジェクト機会のオプション価値Cは,分散γ よりも期待値μとの変量関係の方が興味深いの. 点線を表される曲線は,時間1が十分半経過し. で,以下の議論では,分散をある水準に固定し. 表3.3における2つの曲線の関係により,時間. てオプション価値Cと平均μとの関係を2次元. が経過するにつれて,投資プロジェクト機会の. 空間で描写する.. オプション価値は減少すると結論づけることが. 時間が十分に経過する以前のオプション価値,. た後のオプション価値である.したがって,図. できる..  本論文におけるリアル・オプション評価モデ ルでは,時間が十分に経過する以前の投資プロ ジェクト機会のオプション価値に興味があるの.  12)ペナルティ・アプローチ(penalty approach) の詳細については,Brandimarte(2002), Seydel (2002)を参照されたい.. で,以下では偏微分方程式から導出されたオプ.  13)Bernardo and Chowdhry(2002)では, Schwartz and Moon(2001)での推定値を参考に.  図表3.2から,期待値μがゼロの場合のオプ. ション価値について考察する.. して,パラメータをカリブレーション(calibration). ション価値が2.7695,続行領域. している.. が(μL,μH)=(一〇.39,0.24)と推定されている..

(10) 図表33 オプション価値と続行領域の推定値 C(value) 8. 7 6.    ValUe of Delaying    .whφn llme g。e$lt・infinity..劣. 5.             ,’”.             ’.            幽.’.’.. 4. Value of Delaying.           ノ.   層\”/’. 3 2.       メ .    !   \. 1.           Valuφof Carrying Out 一  i画唖. 0 一1. 一〇.4. 一〇.3. 一〇.2      −0.1        0       0.1. 0.2. μ(condidonal expectation). これらの推定値は次のことを含意している.ま. るのかについて分析することにより,投資プロ. ず,企業は状態変数の推定量(期待値)がゼロ と推定される場合では,投資プロジェクト機会. ジェクト機会を保有する企業の最適な投資戦略 について考察する.. を保有するオプション価値は正の値2.7695と評. 価されている.状態変数の推定量がゼロと推定.  3.4 情報の不確実性に関する比較静学. されたとしても,オプション価値が正値と評価.  本項では,パラメータσαに関する比較静学. される理由とは,投資プロジェクト機会は現時. について考察する.パラメータσαは,状態変. 点では実行する価値を保有していないが,投資. 数である確率過程(θ,),∈R.に関する情報を間接. プロジェクト機会の利得は将来においては不確. 的に含んでいる確率過程(ξ・),∈ルのボラティリ. 実に変動するので,その投資機会は将来的には. ティなので,パラメータσαは情報の不確実性. 正の利得を企業に享受させる可能性を残してい. と捉えることができる.. るからである..  続行領域の計測結果から,企業にとっての最.  図表3.4では,パラメータσαをそれぞれ0.10,. 適戦略は次のように結論づけられる.いま,分. 0.20に設定した場合における,投資プロジェク. 散をv=0.15に固定したと仮定する.このとき,. ト機会のオプション価値Cと期待値μとの関係. もし状態変数の期待値μが臨界値μ=一〇.39よ. が描写されている.ただし前項と同様に,分散. りも小さく推定されるならば,企業は投資プロ. はv=0.15の水準に固定している.もしパラメ. ジェクトを放棄(研究開発も活動停止)すべき. ータσαが0.10から0.20に増大するならば,期. である.他方,もし状態変数の期待値μが臨界. 待値μがゼロの場合における投資プロジェクト. 値μH=0.24よりも大きく推定されるならば,. のオプション価値は,2.7695から2.0824に減少. 企業は投資プロジェクトを実行すべきである.. し,続行領域(μ,μH)は(一〇.39,0.24)か.  本節の残りの項では,外生パラメータの変化. ら(一〇.27,0.16)に範囲を減少する.具体的な数. に関して,企業の投資プロジェクト機会のオプ. 値について図表3.2を参照されたい.すなわち,. ション価値や続行領域がどのような影響を受け. パラメータσαが0.20となる場合,もし状態変.

(11) ■■. 図表3.4 情報の不確実性に関する比較工学 C(value) 10. 9 8 7 6.    ”V白lu6 bfDdayih白”:’− 『     ’影 噛.    ..when§喧rpaβiphq≒Q,1Q..    乙. 5.        \.〃. 4.           ロ   ノ Value・of belaying・『・、・一・…        ’・. 3.            ♂ when sig巾a alpha属p.20    ・,. 2.          ヒグロ.       7/  ・\・…、・…. 1.     チ ’”              Value of Carrying Out.   一:一. 0 一1. 一〇.4. 一〇.3. 一〇.2    −0.1      0     0.1. 0.2. 03.  μ(condidonal expectation). 数の期待値μが臨界値μF−0.27よりも小さく. も,情報の不確実性が増大するならば,企業の. 推定されるならば,企業は投資プロジェクトを. 投資プロジェクト機会のオプション価値は減少. 放棄する.他方,もし状態変数の期待値μが臨. することを意味している.. 界値μH=0.16よりも大きく推定されるならば,.  シミュレーション結果3.1は,もし情報の不. 企業は投資プロジェクト機会を実行すべきであ. 確実性が減少するならば,投資の意思決定を遅. る.この結果は次のように纏めることができ. 延することが企業にとって最適な投資戦略であ. る.. ることを含意している.このメカニズムは次の ように説明することができる.もし情報の不確. シミュレーション結果3.1 状態変数が確率過程. 実性が減少するならば,企業は意思決定を遅延. に従い,かつ非完備情報を仮定した上でリア. することにより相対的に精密な新しい情報を獲. ル・オプション評価モデルを構築した場合,情. 得できるので,投資の実行を遅延させる戦略が. 報の不確実性が増大するならば,投資プロジェ. 企業にとって最適な戦略となる.換言すれば,. クト機会のオプション価値および続行領域は減. もし情報の不確実性が増大するならば,企業は. 少する.. 意思決定を遅延しても相対的に精密な新しい情 報を獲得できないので,投資の意思決定を早期.  シミュレーション結果3.1で得られた結果は,. に決定することが企業にとって最適な戦略とな. Bernardo and Chowdhry(2002)の評価モデル. る14).. で得られた結果と全く同一である.しかしなが ら,Bernardo and Chowdhry(2002)と本論文.  a5 利得の不確実性に関する比較静学. との評価モデルにおける相違点とは,前者では.  本項では,パラメータ吻に関する比較静学. 状態変数が確率変数として,後者では状態変数. について考察する.パラメータσβは,状態変. が確率過程としてモデルを構築している点であ. 数である確率過程(θり’∈&のボラティリティな. る.それゆえ,シミュレーション結果3.1とは,. ので,パラメータ吻は投資プロジェクト機会. 状態変数を確率過程に従うモデルに拡張して. による利得の不確実性を表している.また,本.

(12) ■2. 図表3.5 利得の不確実性に関する比較京学 C(value) 10 9 8 7 6.                〃. 5.      Valueφf Delaying i               :’     _when$igma beta乎α10_ ,ノ... 4.         ・\/”. 3 2 1. 0.           ロ.  ,、V母1μe ofP臼layio9.’           4の.           ロン   when sigma beta≒0.05  ♂:.      ’潔‘;; H\    ,’♂ ’”Vとlp6 bf’¢a卜rying』dUゼ   , ■の , ’一  ■■曝. 一1. 一〇,4. 一〇.3. 一〇.2     −0.1       0       0.1. 0。2. 0.3.  μ(condidonal expectation). 論文の評価モデルでは,企業は確率過. たい.もしパラメ「タ吻が0.05から0.10に増. 程(θ,ン∈&の実現値を観測できないが,確率過. 大するならば,期待値μがゼロの場合における. 程(θ、),∈R.がどのような確率微分方程式に従う. オプション価値は2.0621から2.7695に増大し,. のか,つまり確率過程(θ,),∈拓のパラメータが. 続行領域(μL,μH)は(一〇.31,0.21)か. どのような水準なのかについては企業は認識可. ら(一〇.39,0.24)に増大する.いま,パラメー. 能である点に注意されたい.それゆえ,本項で. タ吻が0.10に増大したと仮定しよう.このと. は,既知のパラメータ砺の変化に関して,投. き,もし状態変数の期待値μが臨界. 資プロジェクト機会のオプション価値がどのよ. 値μF−0.39よりも小さく推定されるならば,. うな影響を受けるのかについて考察する.. 企業は投資プロジェクトを放i棄する.他方,も.  図表3.5では,パラメータ砺をそれぞれ0.05,. し状態変数の期待値μが臨界値μH=0.24より. 0.10に設定した場合における,投資プロジェク. も大きく推定されるならば,企業は投資プロジ. ト機会のオプション価値Cと期待値μとの関係. ェクトを実行する戦略を選択すべきである.こ. が描写されている.ただし前項までの議論と同 様に,分散はγ=0.15の水準に固定している.. の結果は次のように纏めることができる.. 具体的な推定値については図表3.2を参照され. シミュレーション結果3.2 状態変数が確率過程. に従い,かつ非完備情報を仮定した上でリア ル・オプション評価モデルを構築した場合,利 得の不確実性が増大するならば,投資プロジェ  14)直観的には,もし情報の不確実性が増大す るならば,企業は投資プロジェクト機会に関する 精密な情報を獲得できなくなるので,企業は投資 を実行するか否かを一種の『賭け』で決定する以 外に選択肢はないことを評価モデルは意味してい る.ここでの一種の『賭け』という言葉の意味と は,『情報に頼らず早期』に企業は投資の意思決定 を行うことを意味している.. クト機会のオプション価値および続行領域は増 大する..  前項でも述べたように,非完備情報を仮定し た既存のリアル・オプション評価モデルでは,. 状態変数は確率変数としてモデル化されてい.

(13) 図表3.6 推定の不確実性に関する影響 C(value). 12. 10. 8. 6. 4. 2.                  :魂                  ノ      Value。f:De[ayi・g:   H3’・.                ’     コ め      ロ  コ  む                ノ. :_蜘㎎、9. _ノ.  .,.when va『iance耳α:15、.           /−’.       ,/一’ \・   !ノ     V・1白・・fCarryi・g O・t ■■ ロ画 ’印■. 0 一〇.5    −0.4    −0.3.  一〇.2    −0.1      0      0.1. 0.2   0.3. μ(conditional expectation). る.その結果,Bernardo{md Chowdhry(2002). いる.それゆえ,利得の不確実性が増大するな. の評価モデルとは,本論文の評価モデルにおい. らば,企業にとっては投資を遅延することが最. てα=0とσβ=0.00と設定した特殊な評価モデ. 適戦略となるので,市場における投資水準(量). ルとなっている.したがって,既存の非完備情. は減少することとなる.この結果は実証研究と. 報を仮定した評価モデルでは,利得の不確実. 整合的な結果であり,リアル・オプション評価. 性3孟gわに関する比較静学については考察されて. モデルにおいても最も重要な命題と考えられて. いない.. いる..  他方,McDonald and Sega1(1986),Dixit.  本項では,完備情報モデルでは分析されてい. and Pindyck(1994)などに代表される完備情. たが,既存の非完備情報モデルでは考慮されて. 報を仮定した既存のリアル・オプション評価モ. いなかった利得の不確実性に関する比較静学に. デルでは,状態変数が確率過程としてモデル化. ついて考察した.本項では,完備情報モデルと. されている.それゆえ,完備情報モデルでは,. 非完備情報モデルでは利得の不確実性に関する. 利得の不確実性に関する比較静学について考察. 比較静学では同一の命題が得られることを数値. されている.これらの分析では,もし利得の不. 計算で確認した.. 確実性が増大するならば,投資プロジェクト機 会のオプション価値や続行領域は増加するとい.  3.6 推定の不確実性に関する効果. う命題が証明されている..  本項では,状態変数θの分散変量ソに関する影.  これらの結果を纏めると,シミュレーション. 響について考察する15>.変量vは,確率過. 結果3.2は,リアル・オプション評価モデルを. 程(ξり &に関する情幸既ξ),・遊条件とした. 非完備情報に拡張しても,完備情報モデルと同. 確率過程(θ,),∈R.の分散推定量であるため. 一の命題を数値計算から確認可能であることを. (w=7[α1め,変量・は推定の不確実性と捉. 意味している.具体的には,利得の不確実性が. えることができる.. 増大するならば,企業は利得の推移を十分に時.  図表3.6では,分散変量vをそれぞれ0.15,0.20. 間をかけて考慮する必要があることを含意して. に設定した場合における,投資プロジェクト機.

(14) ■4. 図表3.7 利潤規模に関する比較静心 C(value). 14. 12. 10.               :ノ               ・ノ              ’ザ              グ:.              4   ”ValueウfDelayinす’       ”〃’    when K=12          り. 8. 糖、ゐ\1た”’. 6. 〉ラ繍凹. 4. 2 ■喚 ’. 0.           .wbeRKrβ1...... 一〇.4    −03     −0.2    ・0.t      O     O.1     0.2     0.3     0.4.         μ(conditional expectation). 会のオプション価値Cと期待値μとの関係が描. シミュレーション結果3.3 状態変数が確率過程. 写されている.もし分散変量ソが0.15から0.20. に従い,かつ非完備情報を仮定した上でリア. に増大するならば,期待値μがゼロの場合にお けるオプショジ価値は2.7695から3.4165に増大. ル・オプション評価モデルを構築した場合,推 定の不確実性が増大するならば,投資プロジェ. し,続行領域(μ,μH)は(一〇.39,0.24)か. クト機会のオプション価値および続行領域は増. ら(一〇.51,0.35)に範囲が増大する.具体的な数. 大する.. 値は図表3.2を参照されたい.いま,パラメー.  シミュレーション結果3.3は,推定の不確実. タvが0.20に増大したと仮定しよう.このとき,. 性が増大するならば,企業は状態変数の実現値. もし状態変数の期待値μが臨界値μL=一〇.51よ. に関する情報の推定をさらに十分に時間をかけ. りも小さく推定されるならば,企業は投資プロ. て考察する必要があることを含意している.シ. ジェクトを放棄する.他方,もし状態変数の期. ミュレーション結果3.3で得られた結果は,. 待値μが臨界値μH=0.35よりも大きく推定され. Bernardo and Chowdhry(2002)の評価モデル. るならば,企業は投資プロジェクトを実行すべ きであることを意味している.この結果は次の. で得られた結果と全く同一である.前々項で述 べたように,Bernardo and Chowdhry(2002). ように纏めることができる.. の評価モデルでは状態変数を確率変数として,. 本論文では状態変数を確率過程としてモデル化. している.それゆえ,シミュレーション結果 3.3とは,状態変数を確率過程に従うモデルに 拡張しても,推定の不確実性が増大するならば,  15)本項での考察は,外生パラメータの変化に よる比較静学とは異なる.本論文における評価モ デルでは,企業のプロジェクト機会のオプション 価値Cは2変数ψ,v)に依存するため,ここでの考 察は,内生変数の変化に対するオプション価値へ の影響についての分析である.. 企業の投資プロジェクト機会のオプション価値 や続行領域は増大することを意味している 3.7 利潤規模パラメータ変化に関する比較静学. 前述した3つの項では,不確実性(ボラティ リティ)に関する比較静学について考察した..

(15) ■∫. それに対して,本項では,他の外生パラメータ.  本論文で得られた最も重要な結果とは,非完. に関する比較静劇として,パラメータκに関す. .備情報でリアル・・オプション評価モデルを構築. る比較静学について考察する.パラメータκは. したとしても,利得の不確実性が増大するなら. 投資プロジェクト機会の利潤に関する規模(大. ば投資プロジェクト機会のオプション価値も増. きさ)を表すパラメータである.. 大するζとを示した点にある.この命題は,既.  図表3.7は,パラメータκをそれぞれ8,12に. 存の完備情報モデルでは証明されていたが,非. 設定した場合における,投資プロジェクト機会. 完備情報モデルでは確認されていなかった.す. のオプション価値Cと期待値μとの関係につい て描写している.ただし,分散をv=0.15と固. なわち,本論文では,完備情報,非完備情報の. 定している点を確認されたい.もしパラメー タKが8から12に増大するならば,期待値μが ゼロの場合におけるオプション価値Cは2.6795. も,同一の命題が得られることを数値計算によ. 業が利得の実現値に関して現時点においても完. から4.0637に増大するが,続行領域(μちμH). 全には観測できない場合でも,利得自体の不確. は(一〇.39,0.24)からほとんど変化しない.具体. 実性が増大すると認識しているならば,企業は. 的な数値は図表3.2を参照されたい.これらの. 投資を遅延して状態変数の実現値に関してさら. 結果に関する含意に関しては,利潤の規模が増. に情報収集すべきであることを含意している.. 大するならば,オプション価値が増大するとい うメカニズムについては明らかである.他方,.  リアル・オプション評価モデルにおいて仮定 される完備情報という条件は,評価モデルを容. 続行領域がほとんど変化しないというメカニズ. 易にするために置かれた仮定であると考えられ. ムに関しては,以下で説明する2つの相反する (相殺しあう)作用が同規模で拮抗するからで. る.この点を踏まえて,本論文における評価モ. デルでは,さらに現実的に妥当と考えられる評. ある.還元すれば,パラメータKの増大により,. 価モデルに拡張するために,完備情報から非完. 投資を遅延させる効果と早期に実行させる効果. 備情報にモデルを拡張した.しかしながら,本. が同程度に作用するからである.前者の効果と. 論文における評価モデルでは,投資プロジェク. どちらを仮定して評価モデルを構築したとして り確認した.この経済学的な含意とは,もし企. は,パラメータκの増大がオプション価値を増. ト機会のオプション価値を解析的には導出でき. 大させる作用に起因し,後者の効果は,パラメ. ず,数値計算を用いて考察した.投資プロジェ. ータκの増大が投資実行利潤を増大させる作用. クト機会のオプション価値は解析的に考察され. に起因する.後者の効果は,図表3.7において. る方が望ましいことは言うまでもない.この点. 利得直線の勾配が急な直線になる作用である.. については今後の課題としたい.. したがって,これらの2つの相反する作用が同 程度に拮抗することにより,パラメータκの増 大に関して投資戦略は変化しないという結論が.       3.A 補色命題の証明. 得られる..  この命題に関しては,()ksendal(2000)の第6章に. おわりに.  本論文では,非完備情報を仮定したリアル・ オプション評価モデルにおいて,既存研究で確. 率変数と仮定されていた状態変数を,確率過程 としてモデルを拡張した.その結果,本論文で は,拡張された評価モデルを用いて,企業の最 適な投資戦略について考察した..  3.A.1 補題2.1の証明. おける補題6.2.2と補題6.2.3を参照されたい.なお, Lipster and Shiryaev(2001a,2001b), Klebaner(1998). も同様に参照されたい..

(16) ■6F.  3.A.2 補題2.2の証明. W厩・1・・=. i一・σ3±σ・ノ・2σ3+σず),. リッカチ型常微分方程式(5). と書き換えることができる.初期条件鋲0を考慮. 4菱IL2卿)一vぎ1)+酵,. すれば,. 響醗謡燃副泌薄続霞声. 、42. α1−VO. .41. VO一α2,. となるので,リッカチ型常微分方程式の解が(7). u留一(響1+σ(り留・ ゾ(の・9(り. 式として得られる..  最後に,α1>0,α2<0からα1一α2>0なの となるので,リッカチ型常微分方程式(5)は, 9〃”. ヨ+9[詣9−11. 雄). で,’→○○ならば,v∫→α1となる.すなわち,時間. が十分に経過するならば,wは正の定数,γ窩α1と. ( ノ〃(∫))2. なる. (〃(り)2. 参考文献         グ. +[9’+2・9]瑠一耐=・・. (A.1). [1]. Bernando, A. E., and Chowdhry, E. B.,. 2002.Resources, Real Options, and Corporate Strategy,ノ。αrηal of F加aηclal. と書き換えることができる.さらに,gをg=σ3. Ecoηomfcs,63, PP.211−234.. と仮定するならば,(A.1)式は,. [2]. Brandimarte, P.,2002. Nロmeη℃a1−Mb亡加ds 加F加aηce, Wiley Interscience.. σぬ” iり+2・σ翻’ iの一(フず・(り=0,(A2). [3]. D6camps J., Mariot㌻i, T., and Villeneuvβ, S.,. 2005π1:η加gα刀derエh comPle亡e.Z力丘)㎜a亡foη,. 20,pp.472−500. と書き換えることができる.常微分方程式(A.2). [4]. Dixit, A, K., and Pindyck, R. S.,1994.. エhves亡meη亡ひηder乙肋cer亡a1η亡y;Princeton. の一般解は,. University Press. [5]. 。・オ1・β1’M、・β2’,. Lambrecht B. and Perraudin, W.,2003. Real. Options and Preemption under Incomplete Information,.丑)αrηal of Ecoηomlc Dyηamlcs.                   . 熱勤)翻燕寄している. aηdCoη亡ro孟27, PP619−643 [6]. Liptser, R. S., and Shiryaev, A. N,2001a. S亡a亡fs亡fcs .of j∼a12 dom 」Processes ’一Z’Gell eral. Theo以Second Edition, Springer. W=σμβ1・β且ご+オ・β・・β2’. [7]. Liptser, R. S., and Shiryaev, A. N.,2001b.. S亡a亡fs亡fcs of ∫∼aη(10m  Processes l II..       オ1εβ・’+オ2εβ・”. .App万ca60ηs, Second Edition, Springer.. w加πθ. β1,・=σδ2. (A.3). [8]. ノと)αrηal of Ecoηonコfcs,101,PP.707−727.. (一・σ3±σ・・2σ3+・塚),. となる.さらに(A.3)式は,. [9]. ②sendal, B.,2003.5亡ochas亡ゴ。 Dff飴reη亡ゴal. [10]. Schwartz, E, and Moon, M.,2001.”Rational. Eqロa亡foηs,6th edition, Springer..       .オ2 (α・一α1)∫. Pricing of Internet Companies Reivisited”,.    α’+『万α2ε・♂ v’=:. McDonald, R, and Siegel, D. R.,1986.The. value of waiting to invest. Qロar亡erly. workfη9 Pape乙University of California,.   オ2(α・一α1)∫’. Los Angels.. 1+.41θ σ♂ [1ユ]. Seyde1, R.,2002. Tools五)r Comp召亡a亡foηa1 翫aηce, Springer..

(17) ∫7. [12]. Shibata, T.,2004. The Impacts of Fragmented Volatilities by Learning about. Investment under Vanishing Uncertainty due to Information Arriving over Time,.. Predictability in the Rea1. Options. Tπわeエ9 乙肋fve「sf亡y Dfscロssfoη Paper;2001−. Approach, worlffηg paper, Kyoto. 14.. University. [13]. Thijssen, J. J. J., Van Damme, E. E. C.,. Huisman, K. J. K., and Kort, P.M.,2001.. (京都大学大学院経済学研究科助教授).

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参照

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