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変貌するラテンアメリカのファミリービジネス -- あとを追う研究 (特集 変わる世界、変わる研究 -- 地域編)

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変貌するラテンアメリカのファミリービジネス --

あとを追う研究 (特集 変わる世界、変わる研究

--地域編)

著者

星野 妙子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

269

ページ

42-43

発行年

2018-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00050196

(2)

特 集

変わる世界、変わる研究

●1980年代のラテンアメリカ企業研究 1970年代、日本では従属論が一世を風靡し、ラテン アメリカの低開発を先進国による収奪の結果ととらえ る見方が広まった。そこでは地場の企業は、従属状況 に受け身に対応する脆弱な存在として描かれていた。 はたして受け身と言い切れるほどラテンアメリカの企 業研究は進んでいるのだろうか。それが当時大学院生 だった筆者の頭に浮かんだ疑問である。そんな経緯も あって、1980年代初頭に入所したアジ研で、筆者がま ず研究対象に選んだのが、ラテンアメリカの企業だっ た。フィールドとしたのはラテンアメリカでは比較的 研究が進むメキシコ。分析視角として戦前期日本の財 閥研究を参考にした。 当初の予想どおり、メキシコや米国において研究蓄 積は乏しかった。特に今日のファミリービジネス研究 に連なる、企業を所有・経営支配するファミリーに注 目した研究は、文化人類学や歴史学の事例研究に限定 されていた。研究蓄積が乏しかった要因として2つの 点を指摘できる。第1に資料入手の困難である。ファ ミリービジネスの株式上場が進むのは1980年代後半以 降であり、非上場企業の一次資料は手間暇かけなけれ ば入手が難しかった。第2に、経済における地場企業 の存在感が小さかったために、研究対象として認知さ れていなかったことがある。しかしそのような状況が 1980年代に変化し始める。 ●ラテンアメリカのファミリービジネスの淘汰と 再生 1980年代以降ラテンアメリカは、1982年の対外債務 危機を皮切りに、度重なる経済危機に見舞われた。ファ ミリービジネスにとっては試練の時代であったが、注 目されるのは、その過程において巨大化し、多国籍企 業化するファミリービジネスが出現したことである。 その背景には、対外債務危機以降のラテンアメリカ各 国で、経済立て直しのために新自由主義経済改革が実 施されたことがある。貿易と資本の自由化により競争 が激化したことでファミリービジネスの淘汰が進む一 方、生き残ったファミリービジネスや新興のファミ リービジネスは、経済構造の転換や経済グローバル化 が生み出すビジネスチャンスを捉えて、国内外で事業 を拡大していった。 ●経済グローバル化とビジネスグループ研究の興隆 経済アクターとしてのファミリービジネスの台頭は、 ラテンアメリカのみならず、1980年代末以降、世界各 国でみられた現象であった。その背景に金融のグロー バル化、世界的な資本流動性の増加がある。国際金融 市場での資金調達が可能となったことで、ファミリー ビジネスの長年の成長制約要因であった資金制約を克 服する道が開けたのである。このような変化は、ファ ミリービジネスの研究環境にも変化をもたらした。第 1に資料へのアクセスが改善されたことである。国際 金融市場での資金調達のために、ファミリービジネス が情報開示を始めたのである。メキシコを例に挙げれ ば、コーポレートガバナンス改革の一環として、2002 年7月から上場企業の有価証券報告書がメキシコ証券 取引所ホームページで閲覧できるようになった。第2 に、ファミリービジネスが経済アクターとして重要性 を増し、研究対象として認知されるようになったこと がある。研究環境の変化にともない、1990年代後半か ら画期的な研究が次々と現れた。欧米の経営史学で大 きな影響力をもつ、チャンドラーやバール=ミーンズ の近代産業企業における所有と経営の分離命題に反証 を突き付けたのは、ラポルタらであった。彼らは世界 の大企業において、家族支配企業が経営者支配企業以 上に一般的な存在であることを明らかにした(参考文

星 野 妙 子

変貌する

ラテンアメリカのファミリービジネス

―あとを追う研究―

地 域 編

42

アジ研ワールド・トレンド No.269(2018. 3・4)

(3)

ジネスの族生地でありながら、ラテンアメリカ は2000年代までのファミリービジネス研究の世 界的潮流から外れていたといえる。そのような 状況に、2010年代に変化のきざしが現れた。歴 史学の研究者によるラテンアメリカ規模での ファミリービジネス研究の連携の動きである。 連携の旗振り役となったのは、経営史学を専門 とするスペインとアルゼンチンの研究者である。 11カ国22人のスペインとラテンアメリカの歴史 学の研究者が参加したプロジェクトの成果は、 2015年に出版されている(参考文献④)。プロ ジェクトを資金面で支援したのは、スペインの BBVA銀行の財団であった。旧宗主国による植 民地支配の痕跡探しの作業のようにみえて興味 深い。これまであまり知られてこなかったラテ ンアメリカ中小国にまでファミリービジネスの 実態解明を進めたという点で、このプロジェクトの意 義は大きい。スペインとラテンアメリカのファミリー ビジネスに共通するイベロアメリカ的特質が析出でき れば、世界のファミリービジネス研究への大きな貢献 になると思われるが、残念ながらそこまでには至って いない。今後の研究の進展に期待したい。 (ほしの たえこ/アジア経済研究所 ラテンアメリ カ研究グループ) 《参考文献》

① La Porta, Rafael, Florencio Lopez-de-Silanes and Andrei Shleifer, “Corporate Ownership around the World,” Journal of Finance, Vol. 54, No.2, April 1999, pp.471-517.

② Khanna, Tarun and Yishay Yafeh, “Business Groups in Emerging Markets: Paragons or Parasites?” Journal of Economic Literature, Vol.45, No.2, June 2007, pp.331-372.

③ Colpan, Asli M., Takashi Hikino and James R. Lincoln, The Oxford Handbook of Business Groups, New York: Oxford University Press, 2010. ④ Fernández Pérez, Paloma, Andrea Lluch eds.,

Familias empresarias y grandes empresas familiares en América Latina y España una visión de largo plazo, Bilbao: Fundación BBVA, 2015. 献①)。カンナとヤフェは「お手本?あるいは厄介者?」 という刺激的なタイトルで、研究サーベイをもとに発 展途上国のビジネスグループの多様性を明らかにした。 発展途上国のビジネスグループの多くは、家族が所有 経営支配するファミリービジネスである。彼らはビジ ネスグループの形成、存続、進化を途上国の制度環境 への適応と捉え、国、時期、グループ個別の事情によ り、未発展な制度を補完するお手本となることも、レ ントシーキングや独占力によって厄介者となることも あると説いた(参考文献②)。発展途上国のビジネス グループ研究の集大成としては、チョルパンらが編集 したハンドブックを挙げることができる。同書は発展 途上国のビジネスグループを国別に分析した国別編と、 ビジネスグループに共通する特徴を理論的に分析した 理論編の2部から構成され、1990年代から2000年代に 興隆したビジネスグループ研究の主要な論点を網羅し たものだった(参考文献③)。 ●ラテンアメリカのファミリービジネス研究にむ けたスペイン発の新しい動き 1990年代、2000年代のビジネスグループ研究を主導 したのは、主に先進国の経済学者、経営学者、法学者 だった。ラテンアメリカに関する研究であっても、ラ テンアメリカで研究する研究者によるものは意外と少 ない。あったとしても公開資料を用いた経営学者によ る紋切り型の経営分析が多い。つまり、ファミリービ

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アジ研ワールド・トレンド No.269(2018. 3・4) ラテンアメリカのファミリービジネスは財団活動に熱心だ。 カルロス・スリム財団が運営するソウマヤ美術館 (メキシコシティにて筆者撮影)

参照

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