膝前十字靭帯再建術後の競技復帰に向けた
片脚機能評価と主観的パフォーマンスの変化
―Limb symmetry index に着目して―
笹木 正悟
1,2),今村 省一郎
2),菅沼 勇作
3),永野 康治
4)ACL 再建術後の大学生サッカー選手に対して,片脚支持の機能評価を経時的に評価した.さらに,選手 が感じている主観的パフォーマンスを調査した.競技復帰後の主観的パフォーマンスが半分程度の時期に は,single hop 距離,figure-8 hop スピード,側方への着地時 COP 軌跡長に limb symmetry index(LSI) の低下が残存していた.ACL 再建術後の選手に対して,LSI を用いた片脚機能評価と主観的パフォーマン スを組み合わせて競技復帰を考えていく有用性が示唆された. キーワード:ファンクショナルパフォーマンス,非対称性,サッカー (受付日:2020 年 4 月 1 日,受理日:2020 年 7 月 1 日)
Ⅰ はじめに
1.1 問題提起 競技者は一定の期間の中で自己の能力を最大限に高 め,最高のパフォーマンスを発揮する必要がある.この ことは,職業としての契約期間を有するプロアスリート のみならず,小学・中学・高校・大学といった入学/卒 業(スポーツ少年団・クラブチームであれば入団/卒 団)を繰り返すカテゴリーでも同じことがいえる.こう した限られた時間の中で長期離脱を余儀なくされる外 傷・障害と遭遇した場合には,競技復帰に至る過程だけ でなく,競技復帰後にも十分なパフォーマンスを発揮で きているか否かを問いながら選手と寄り添うことが,競 技者を支援する指導者(特にメディカル・コンディショ ニングスタッフ)には重要である. 長期離脱となる重篤なスポーツ外傷の 1 つに膝前十字 靭帯(ACL)損傷があげられる.本邦中高生における ACL 損傷は 2005 年以降男女とも増加傾向であり1), ヨーロッパの男子プロサッカーをみても 2000 年初頭か ら ACL 損傷は一向に減少していない2).そればかりか, 術後 1 年以内でサッカーに復帰できたとしても,そのう ちの約 35% は 3 年後に受傷前よりカテゴリレベルを下 げた(もしくは引退に至る)状態でプレーを継続してお り2),もとのパフォーマンスが十分に発揮できないまま, 限りある競技人生を過ごしていることが推測できる. スポーツ現場では医師とアスレティックトレーナーが 緊密な連携をとりながら段階的なリコンディショニング プランを組み立てていくが,医学的知見を踏まえた医師 から特定の動作(例:ランニング,ジャンプ,アジリ ティなど)や最終的な競技復帰(Return to play: RTP) が許可されたとしても,すぐにパフォーマンスに直結す るわけではない.むしろ,その時に選手自身が「できる (できている)」ことと「できない(できていない)」こ とを明確にして,個人の課題と向き合っていくことが 「アスレティックトレーニング」という観点では重要で ある.そのためには,単一的な側面からの評価ではな く,よりスポーツ現場で求められる体力要素を意識しな がら選手の機能を評価していく必要性を感じている. ACL 再建術後の膝関節に対しては,アスレティック リハビリテーション初期からスポーツ復帰を目指した膝 伸展 / 屈曲の筋力測定や大腿四頭筋の筋体積計測が行わ れている3).また,ACL 再建膝の機能を反映する下肢の 運動能力を評価するために,多様な機能評価(functional performance test)が考案されている.例えば,single-leg hop for distance や triple hop,single-test)が考案されている.例えば,single-leg hop height といった片脚での跳躍距離を測定するテスト, 6-meter timed hop や figure-8 hop,side-hop,up-down hop といった片脚での運動遂行スピードを評価するテス トなどが行われており,それぞれのカットオフスコアや 信頼性について報告されている4).ACL 損傷は片側性の 1)東京有明医療大学保健医療学部,〒135-0063 東京都江東区有明 2-9-1 2)早稲田大学ア式蹴球部,〒202-0021 東京都西東京市東伏見 3-4-66 3)東京有明医療大学大学院 保健医療学研究科,〒135-0063 東京都江東区有明 2-9-1 4)日本女子体育大学体育学部スポーツ健康学科,〒157-8565 東京都世田谷区北烏山 8-19-1実践報告
外傷である(言い換えれば,受傷側と非受傷側が存在す る)ため,受傷前のレベル以上に戻すことを最終ゴール に設定するのはもちろんであるが,再建膝(受傷側)を 正常膝(非受傷側)の機能に近づけることを目標として 現場でのアスレティックリハビリテーションを実施する ことは少なくない.また,ACL の受傷メカニズムや再 受傷予防を考えても,競技復帰に向けたパフォーマンス 評価を「片脚」で行うことの臨床的意義は高いといえ る.しかしながら,従来の機能評価は ACL 不全者や健 常者の横断データから各テストのカットオフ値が定めら れているものの,どのような機能回復の過程を以て ACL 再建術後から競技復帰に至ったという経時的なレ ポートはみられない.また,先行研究のカットオフ値は 運動能力の回復やスポーツ復帰の判断基準の一助にはな るものの,それが RTP の許可判断には利用されるのは 好ましくないとの見方もある4).なぜなら,スポーツ現 場では選手のパフォーマンスに対する主観的な感覚も重 要であり,画一的/単一的なテストバッテリーの結果が 良好であっても,選手自身の競技に対する運動感覚が一 致せず,専門的競技能力が高まっていない場合もみられ る.テスト時の主観的な評価や動作時の動的アライメン ト変化などの観察と判断も重要である4)ことからも,選 手自身が抱えるパフォーマンスに対する「主観的指標」 と片脚での様々な機能評価による「客観的指標」を組み 合わせることで,選手の競技復帰に向けた新たな視点や ヒントを築けると考えられる. 1.2 実践報告の目的 今回我々は,アスレティックトレーナーとして ACL 再建術後から競技復帰に至るまでの男子サッカー選手を サポートするなかで,経時的に機能評価を実施した.そ の経過を踏まえ,ACL 再建術後の男子サッカー選手に おける片脚支持機能と主観的パフォーマンスの変化か ら,RTP にむけたフィールドでの機能評価の有用性を 考察することを本研究の目的とした.
Ⅱ 方法
2.1 対象 事例対象は 2017 年 12 月 28 日に内側ハムストリング (STG)を用いた右膝 ACL 再建術を行い,2018 年 8 月 30 日に RTP を果たした大学生男子サッカー選手 1 名 (受傷時の年齢 18 歳,身長 166 cm,体重 61 kg,ポジ ション FW,右利き)である.競技復帰後,2018 年 11 月 22 日に同部位の抜釘術を行い,2019 年 2 月 15 日に 再復帰した.復帰後の 2019 年度には大学サッカーリー グ戦への出場を果たした,比較的競技レベルの高い選手 の事例である.対象者にはフィールドでの機能評価を開 始するにあたり,測定の目的・意義と方法およびテスト 実施に伴う注意事項などを説明し,定期的な計測を行う ことに対する同意を得た.また,本実践報告を公表する 意義と目的を説明し,対象者から同意を得た. 2.2 受傷メカニズム 2017 年 10 月中旬に相手選手との接触後にバランスを 崩して着地し,右膝関節に違和感を訴えた.その後も数 日は練習・試合の継続は可能であったが,シュート後に 右足で片脚着地した際に膝関節が外れる感覚を訴え,翌 日(2017 年 10 月 18 日)に専門医を受診したところ, 右膝前十字靭帯損傷と診断された.いずれの着地におい ても膝関節への接触はなく,ノンコンタクトもしくはイ ンダイレクトの ACL 損傷事例である. 2.3 観察期間の基礎情報 ACL 再建術後の競技復帰に向けたアスレティックリ ハビリテーションは,担当医師(日本整形外科学会認定 スポーツ医,日本スポーツ協会公認スポーツドクター) の指示に基づき日本スポーツ協会アスレティックトレー ナー(JSPO-AT)が実施した.定期的な医師のチェッ クにあわせて,術前および術後 144 日,305 日,365 日, 419 日に Cybex を用いた等速性膝伸展 / 屈曲筋力測定 (60 deg/sec)が病院内の理学療法士によって行われた. フィールドでの機能評価は,術後 166 日(RTP 前 / ジャ ンプ・アジリティ許可),319 日(RTP 後 / サテライト チームメンバーでリーグ戦未出場),537 日(RTP 後 / トップチームメンバーでリーグ戦出場後)の計 3 回, JSPO-AT によって実施された(表 1). 2.4 フィールドで実施した機能評価テスト A)跳躍距離Single hop, triple hop, crossover hop5)の跳躍距離を メジャーで測定した(図 1).対象者は片脚立位の状態 から前方へできるだけ遠くへ跳び,最後の着地後に片脚 でバランスを崩さずに支持できたものを成功試技とし た.着地後にバランスを崩して逆足が床についた試技, 着地後に支持基底面が移動した試技は失敗試技とみな し,再測定を行った.体育館シューズを履いて左右 2 回 ずつ実施し,2 回の平均値を代表値として採用した. B)スピード
Side hop test, up-down test, figure-8 hop test6)のタ イムをストップウオッチで測定した(図 2).Side hop test および up-down test は,片脚で左右(30 cm 幅) もしくは上下(20 cm 高)に裸足で 10 往復移動するの に要した時間を記録した.Figure-8 hop test は,5 m 間 隔に置かれた 2 つのカラーコーンの周りを 8 の字を描い
てできるだけ速く進み,片脚で 2 周するのに要した時間 を記録した.Figure-8 hop について,術後 166 日およ び 537 日はグラウンドにおいてサッカースパイクを履い て実施し,術後 319 日は体育館において裸足で実施し た.各測定は左右 2 回ずつ実施し,2 回の平均値を代表 値として採用した. C)下肢パワー(連続ジャンプ)
Vertical single-limb hop test7)の跳躍高をビデオ映像
から算出した(図 3).対象者は片脚での垂直ホップを 10 秒間連続して実施し,できるだけ高くジャンプを継 続すること,着地後にバランスを崩さずに飛び続けるこ とが指示された.対象者の動作を矢状面からデジタルビ デ オ カ メ ラ(Casio EX-FC 150,120 Hz) で 撮 影 し, ホップ動作を視覚的に「接地期」と「跳躍期」に分類し てフレーム数を映像からカウントした.跳躍期のフレー ム数に 120/1000 秒を乗じることで滞空時間を求め,そ 表 1 観察期間の基礎情報
図 1 跳躍距離の機能評価テスト
(a) single hop test, (b) triple hop test, (c) crossover hop test
こから跳躍高(=1/2 g(t/2)2,g:重力加速度 9.81 m/ s2,t:滞空時間)を算出した.体育館シューズを履い て左右 1 回ずつ実施し,10 秒間で繰り返し算出される 跳躍高の平均値を代表値として採用した.
D)動的バランス
Single drop jump landing8)の床反力および足圧中心 (center of pressure: COP)軌跡長を移動式フォースプ レート(SS-FP40UD,1000 Hz)で測定した.対象者は 裸足かつ両手を脇の下に組んだ状態で高さ 20 cm の台か ら 片 脚 で 前 方(forward drop jump) も し く は 側 方 (lateral drop jump)にジャンプし,フォースプレート 中央部に同脚で着地後,5 秒間の片脚立位を保持した ( 図 4). 静 的 バ ラ ン ス と は 体 重 心(center of mass: COM)が支持基底面内に留まった中での安定性を指し, 静止立位保持のように一定の状態をなるべく動かさない ように保持しようとする能力である.一方で,動的バラ ンスとは COM が支持基底面外に移動するような中での 安定性であり,立ち座りや歩行など身体運動中の COM を効率的に制御する能力とする見方ができる9).本研究 では,動的バランスの指標として,片脚着地時に生じる 体重あたりの鉛直最大床反力,着地後 0.2 秒までの COP 軌跡長,着地後 5 秒までの COP 軌跡長を算出した10). 動的バランスが優れていれば,床反力は小さく COP 軌 跡長が短い安定した着地となる.着地後 5 秒間の片脚支 持を保てないこと,立位保持のため支持基底面を移動さ せること,脇の下から腕組を外すことは失敗試技とし, 再試行を実施した.左右 3 回ずつ実施し,3 回の平均値 を代表値として採用した. 2.5 健側と患側の比較 健側と患側の比率を算出するために,limb symmetry index(LSI)を算出した.筋力,跳躍距離,跳躍高は 数値が大きいほど能力が優れていると判断されるため, 患側値を健側値で除して評価した.その一方で,タイ ム,最大床反力,COP 軌跡長は数値が小さいほど能力 が優れていると判断されるため,健側値を患側値で除し て評価した.LSI が 100% を越えるということは,患側 が健側より優れたパフォーマンスを発揮できたことを示 図 2 スピードの機能評価テスト
(a) side hop test, (b) up-down test, (c) figure-8 hop test
している. 2.6 パフォーマンスの主観的評価 術後 537 日の機能評価テストを行った日に,術後 166 日および 319 日の主観的なパフォーマンスを後ろ向きに 評価した.本研究で評価した主観的パフォーマンスと は,普段の練習や試合で発揮できている能力として振り 返りを行った.視覚的アナログスケール(VAS: visual analog scale)を用いて,「想像できる最高のパフォーマ ンスが発揮できている状態」を 100,「自身が有するパ フォーマンスを全く発揮できない状態」を 0 として主観 的評価を行った.
Ⅲ 結果−本事例における実践記録
術後 144 日では膝伸展 / 屈曲ともに患側の筋力低下が みられたが,RTP 後(術後 305 日,365 日,419 日)に おける伸展筋力の LSI は 5% 以内の低下であった.その 一方で,術後 1 年を経過しても患側の膝屈曲筋力は健側 に比べて低かった(表 2). フィールドで実施した機能評価テストの結果を表 3 に 示した.医師からジャンプ / アジリティトレーニングが 許可されていた術後 166 日では,跳躍距離およびスピー ドを指標とした全ての項目の LSI は 3~8% の低下を示 した.さらに,single hop 跳躍距離および figure-8 hopタイムは,RTP が許可されていた術後 319 日において も 3% の低下がみられた.これらの絶対値をみてみると, 術後 166 日に single hop test で 5 cm,figure-8 hop test で 0.47 秒,術後 319 日に single hop test で 7 cm,figure-8 hop test で 0.23 秒の健患差が生じていた.さらに,術 後 537 日の single hop test では LSI 4%(絶対値 8 cm) の患側機能低下が残存していた一方で,figure-8 hop test の LSI は 102% まで回復していた.実際に figure-8 hop test の動作を静止画にて比較してみると,術後 537 日は術後 166 日に比べてコーンを回る際に身体の内傾を 保てており,低重心かつコンパクトに片脚での方向変換 移動が行えていた(図 5).また,映像全体を通してみ ると,術後 537 日の figure-8 hop test ではコーンを回る 前後の加減速が非常にスムーズであり,特に片脚支持で しっかりとブレーキをかけながらコーンを回る姿勢に備 えられていることが視覚的に観察できた. 連続ジャンプにおける跳躍高は,術後 166 日(LSI : 91%),術後 319 日(LSI : 93%)ともに 10% 以内の患側 機能低下であった.しかしながら,RTP 後の時間経過 とともに患側の跳躍高は向上していく傾向がみられ,術 後 319 日(19.8 cm) に は 術 後 166 日(18.2 cm) か ら 8.7% 増加,術後 537 日(21.6 cm)には 18.6% の増加が みられた. 動的バランスの指標として用いた鉛直最大床反力の 図 4 動的バランスの機能評価テスト
表 3 機能評価テスト
表 2 等速性膝伸展 / 屈曲筋力(60deg/sec)
LSI は,全ての時期において 100% を越えていた.また, RTP 後の時間経過とともに最大床反力の大きさと左右 差は減少する傾向を示した.COP 軌跡長をみてみると, 前方に比べて側方への着地で LSI 低下が生じており, 術後 537 日における側方への着地後 0.2 秒の COP 軌跡 長は LSI 90%,着地後 5 秒の COP 軌跡長は LSI 87% で あった. VAS による主観的なパフォーマンスは,術後 166 日 で 12/100,術後 319 日で 43/100,術後 537 日で 82/100 であった.
Ⅳ 考察
本研究は,ACL 再建術後の大学生サッカー選手に対 して RTP 前後に実施したフィールドでの機能評価事例 を紹介した.術後は医師による患部の臨床評価(画像所 見,関節動揺性 / 可動域,筋力など)に基づきながら 図 5 RTP 前後(術後 166 日 /537 日)における figure-8 hop test の方向変換比較LSI: limb symmetry index LSI(跳躍距離,跳躍高)=患側 / 健側×100
LSI(スピード,床反力,COP)=健側 / 患側×100
BW: body weight, IC: initial contact, COP: center of pressure
RTP に向けたアスレティックリハビリテーションを進 めていくが,フィールドにおける全身的な運動機能に対 する評価はアスレティックトレーニング/リコンディ ショニングを考えていくうえで有益な情報を与える.本 事例においては, RTP 前のアスレティックリハビリ テーション期(術後 166 日)のみならず,RTP を果た した術後 319 日においても片脚での single hop 距離, figure-8 hop,側方への着地時 COP 軌跡長に LSI の低 下が残存しており,その時の主観的パフォーマンスは半 分に満たなかった.しかし,主観的パフォーマンスが 80 以上まで向上していた術後 537 日には figure-8 hop の左右差は消失し,その時の動作改善がみられた.ま た,側方への着地時 COP 軌跡長には依然として 10% 程 度の LSI 改善余地が確認できた.このことから,サッ カー選手に対する ACL 再建術後の運動機能評価や フィールドにおけるリコンディショニングのポイントと して,片脚でのスピードを伴う方向変換や側方への着地 安定性に着目することの有用性が示唆された. 本事例では,過去に概説された ACL 再建膝に対する 片脚でのファンクショナルパフォーマンステスト4)に加 えて,ACL 損傷の危険因子となりうる動的バランス11), ACL 再建術後の RTP 基準の 1 つとして提唱されている 片脚連続ジャンプ7)を組み合わせて,安全な競技復帰と パフォーマンス向上を目指す選手の課題を探索してき た.実際のスポーツ現場では,フィールドレベルで選手 のパフォーマンスを評価することが求められ,我々も簡 便かつ現実的な方法として上記の機能評価テストを応用 した.片脚跳躍距離を用いたテストでは,LSI が概ね 90% 以上となることをスポーツ復帰の判断基準として いる4)が,本研究では RTP 前の術後 166 日から全て健 患比が 94% を超えていた.Logerstedt et al.12)は特に術 後 6 か 月 に お け る crossover hop の 健 患 比(cut off score>94.9%)が 1 年後の良好な膝機能を予測するのに 適していると報告しており,本事例でも順調に RTP を 果たすことができた.その一方で,single hop 跳躍距離 については主観的パフォーマンスに大きな影響を及ぼさ なかったものの,術後 537 日まで 4% の LSI 低下を続け ていた.このことは,膝屈曲筋力の回復が不十分であっ たことが原因の 1 つとして考えられる.先行研究におい て,single hop 跳躍距離は角速度 60 deg/sec における 膝伸展筋力(r=0.651)および屈曲筋力(r=0.685)と 中程度以上の相関を示すことが報告されており,この効 果量はその他のパフォーマンステスト(0.193<r<0.416) に比べて大きかった13).本事例では,術後 419 日で膝伸 展筋力の LSI は 100% を越えていたものの,膝屈曲筋力 の LSI は 71% であった.術後 537 日での筋力測定は実 施できていないが,膝屈曲筋力の左右差が残存していた ことで single hop 跳躍距離にも影響を及ぼした可能性 が考えられた.対象者は内側ハムストリングを用いた ACL 再建術を行っているため,膝屈曲筋力の回復に フォーカスしたさらなるアプローチが必要であると考え られた.また,術後 166 日に 542 cm を記録した患側 crossover hop が術後 537 日に 623 cm まで向上してお り,左右差だけでなく RTP 後の経時的変化にも注視し て選手の目標設定を行うことが重要であると考えられ た. また,我々は比較的下肢筋力に依存しやすい跳躍距 離13, 14)だけでなく,ACL 損傷予防のキーターゲットと なる神経筋協調性15, 16)を意識する中で,片脚でのスピー ド,持続パワー,動的バランスを評価した.RTP 前の 術後 166 日は特に「敏捷性・アジリティ」の再獲得を目 指していた時期であり,スピードを指標とした評価は全 体的に左右差が大きかった.しかし,RTP 後の術後 305 日には side-hop および up-down の左右差は消失し て い る 一 方 で,figure-8 hop の LSI は 97% で あ っ た. Side-hop や up-down は左右 / 上下といった単一方向か つ一定スピードの能力を必要とするテストであるが, figure-8 hop は多方向への移動やスピードの加減速を含 んだテストである.サッカーにおいては,着地場面だけ でなくプレッシングといった片脚支持での方向変換場面 が ACL 損傷の受傷メカニズムとして提唱されており17), 競技特性を考慮した中でテストバッテリーの構成要素を 意識することも重要である.Itoh et al.6)は figure-8 hop test において ACL 不全膝 50 例で平均 1.45 秒の左右差 を認めており,0.81 秒の左右差を正常膝のカットオフ値 として報告している.ACL 再建術を施し,RTP を果た した本事例は先行研究で示されているカットオフ値は下 回っているものの,RTP 後にも LSI 低下が 100% に満 たなかったことは注視すべき点であると考える.術後 305 日における評価時の感想として「膝が全体的に動き づらかった」ことを述べており,その時のサッカーのプ レーでも満足いくプレーには至っておらず,対象者の主 観的パフォーマンスは 48/100 であった.Figure-8 hop test は特にコーンを回る際に膝関節への外反および回旋 のストレスがかかりやすい試技であり,方向変換時の身 体コントロールがタイム短縮には重要な技術となる.顕 著な患側遅延(LSI 95%,健患差 0.47 秒)がみられた術 後 166 日は,主観的なパフォーマンスが向上傾向にあっ た術後 537 日(LSI 102%,健患差−0.16 秒)に比べて 方向変換局面に身体が直立しており,スムーズな回転運 動ができていなかった(図 5).素早い方向転換には, 適切な前傾姿勢18)に加えて身体の内傾角度を維持する ことが重要19)であり,ホップタイムだけでなく全体的 な動作にも着目することが,RTP からパフォーマンス
向上に向けて重要なポイントとなる.このように,評価 時の映像を使いながら動作特性を共有することで,課題 解決に向けて選手と考えるヒントを得ることができると 考えられる.
片脚での連続ジャンプの機能評価として vertical single-limb hop test を採用したが,先行研究7)では比 較的大きなフォースプレート(102 cm×72 cm)から実 験的に跳躍高と床反力を算出している.しかしながら, 本事例のように現場レベルで簡便な跳躍高の評価を行に はビデオ映像の活用が有益であり,RTP 前後の左右差 や経時的変化を追えることが確認できた.ACL 再建術 者の患側機能として,術後期間に関わらず 11% の跳躍 高低下,12% の床反力増大が報告されている7).Tuck jump を使った評価では床反力の大きさを反映するス ティッフな着地様式を映像から視覚的に評価する試みも 行われており20),高解像度のモバイル端末やタブレット も充実している近年の技術革新を活かしつつ,現場の工 夫次第で,距離やスピードといった観点以外からの力学 的評価が可能になると考えられた. 動的バランスの評価指標として,本研究では衝撃や姿 勢動揺を制御する能力に着目した.COP は足底におけ る身体のゆらぎを直接的に評価する指標であり,床反力 は COM の加速度に比例した全身にわたる質量分布の慣 性挙動を集約的に包含する物理量として姿勢動揺性を定 量化できる9).片脚着地時の最大床反力はアスレティッ クリハビリテーション期間中の術後 166 日から継続的に 左右差の消失が確認できた一方で,COP 軌跡長は RTP を果たしていた術後 537 日でも特に側方ジャンプでの左 右差(0.2 秒の COP 軌跡長:LSI 90%,5 秒の COP 軌 跡 長:LSI 87%) が 確 認 さ れ た. そ の 時 の 主 観 的 パ フォーマンスをみてみると,術後 537 日では VAS が 82/100 であり,トップチームとして公式戦出場を果た せていたものの「想像できる最高のパフォーマンスが発 揮できている状態(VAS=100)」には至らなかった. このことから,特に側方に対する姿勢安定化のための制 御戦略に再建膝の機能低下が生じやすく,主観的パ フォーマンスの回復と密接に関わっている可能性が示唆 された.ホップ試技を用いた先行研究でも,前方に比べ て側方への片脚動作で下肢アライメントが変化しやすい と報告されており21),ACL 再建術後のアスレティック リハビリテーションにおける評価ポイントとして考えら れている.また本事例の絶対値をみてみると,側方への 着地における 0.2 秒後の COP 軌跡長は健側(166 日: 20.0 cm,319 日:19.5 cm,537 日:18.5 cm) に 比 べ て 患 側(166 日:22.8 cm,319 日:19.4 cm,537 日: 16.4 cm)で緩やかな改善傾向を示すことは興味深い. この健側と患側における COP 軌跡長の機能改善過程の 違いが,動的バランスの中における LSI 低下の原因に なっている可能性も推察できた.しかし,本研究の動的 バ ラ ン ス 測 定 に は 移 動 式 の 小 型 フ ォ ー ス プ レ ー ト (40 cm×40 cm)を用いたが,これは特殊なデバイスが 必要となるため,現場での汎用性を考えた場合にはさら なる検討が必要となる.また,本事象は実践報告として 示唆される可能性であり,導き出された仮説を一般化す るには,さらなる基礎研究の充実が不可欠である.大学 生女子ハンドボール選手に対する多サンプルの前向き調 査では,動的バランス指標が ACL 損傷リスクのスク リーニングとして有用である可能性が示されている11) が,大学生男子サッカー選手に対しても受傷前データや RTP に向けたデータの蓄積が必要になると考えられ, 今後引き続き事例の集積を行っていきたい.
Ⅴ 結語
ACL 再建術後から RTP に至るまでの大学生サッカー 選手に対して実施した片脚支持の機能評価について, LSI を用いて経時的に評価した.さらに,各機能評価の 時期に選手が感じていた主観的パフォーマンスを調査し た.RTP 前には片脚での跳躍距離やスピードに患側機 能の低下がみられ,その時の主観的パフォーマンスは低 かった.また,RTP 後を果たしていても主観的パフォー マ ン ス が 半 分 程 度 の 時 期 に は,single hop 距 離, figure-8 hop スピード,側方への着地時 COP 軌跡長で LSI の低下が残存していた.主観的パフォーマンスの改 善がみられた術後 537 日では特に figure-8 hop スピード の LSI 低下が消失し,身体の内傾を保持しながらスムー ズな加減速を伴う回転運動ができていた.その一方,側 方への着地時 COP 軌跡長には依然として LSI の改善余 地が確認できた.このことから,ACL 再建術後の選手 に対して,LSI を用いた片脚機能評価と主観的パフォー マンスを組み合わせて選手の RTP を考えていく有用性 が示唆された.謝 辞
本研究にご理解・ご協力いただいた選手に深謝いたし ます.文 献
1 )高橋佐江子,奥脇 透 : 我が国の中高生における膝前十 字靭帯損傷の実態,日本臨床スポーツ医学会誌,23(3): 480-485,2015.2 )Waldén M, Hagglund M, Magnusson H, Ekstrand J.: ACL injuries in menʼs professional football: a 15-year prospective study on time trends and return-to-play rates reveals only 65% of players still play at the top
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13)伊藤浩充,坂本年将,市橋則明:膝前十字靭帯損傷の膝 関節機能を反映する下肢の機能的運動能力評価―健常者に おける検討―,理学療法学,18(5):549-553,1991. 14)Barber SD, Noyes FR, Mangine RE, McCloskey JW,
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Changes in single-legged functional ability and subjective performance toward
return-to-play after an anterior cruciate ligament reconstruction: Focused on the
limb symmetry index
Shogo SASAKI1,2), Shoichiro IMAMURA2), Yusaku SUGANUMA3), Yasuharu NAGANO4) 1)Faculty of Health Sciences, Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences, 2-9-1 Ariake Koto-ku,
Tokyo 135-0063, Japan
2)Waseda University Association Football Club, 3-4-66 Higashifushimi Nishitokyo-city, Tokyo 202-0021, Japan 3)Graduate School of Health Sciences, Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences, 2-9-1 Ariake Koto-ku,
Tokyo 135-0063, Japan
4)Department of Sports Wellness Sciences, Japan Womenʼs College of Physical Education, 8-19-1 Kitakarasuyama
Setagaya-ku, Tokyo 157-8565, Japan
Abstract This study presents a single-legged functional ability and subjective performance toward return-to-play (RTP) to soccer competitions after anterior cruciate ligament reconstruction. A male collegiate soccer player was assessed using the following battery of single-legged tests: single, triple, and crossover hop for distance; side hop, up-down, and figure-of-eight hop for speed; vertical single-limb hop for lower limb power; and vertical ground reaction force and center of mass pressure (COP) trajectory during forward and lateral drop landing tasks for dynamic balance. The limb symmetry index (LSI) was expressed as a ratio of the injured limb to the uninjured limb. Lower limb asymmetry appeared in single-legged hop for distance and speed tests in a prior stage of RTP. After returning to play at a low performance level, a functional deficit was shown in the single hop for distance, figure-of-eight hop for speed, and COP trajectory during lateral drop landing. In the improvement stage of subjective performance, the LSI of figure-of-eight hop was over 100 and a smooth change-of-direction maneuver with body inclination was observed in the figure-of-eight hop test. This practical study may contribute to successful return-to-play, not only in terms of safety and early return-to-play, but also performance enhancement.