論証図インタフェイスと適応的フィードバック機能を備え
た論理力育成支援システムの開発
Development of a learning support system for logical skill
based on an interface and an adaptive feedback function for logical argument diagram
淺野 直人
1東本 崇仁
1Naoto ASANO
1,
Takahito TOMOTO
1 1東京工芸大学工学部コンピュータ応用学科
1
Department of Applied Computer Science,
Faculty of Engineering,
Tokyo Polytechnic University
Abstract: For the purpose of nurturing logic skills,we demand learners to draw logical paths by argument charts and
develop a system that gives adaptively feedback to that.In particular,hold logic elements in predicate logic form,to implement the functions that the system itself can evaluate.
1 はじめに
近年の社会では,物事を論理的にとらえて分析し, 説明する能力として,論理的思考を求められるよう になっている.また,文部科学省が提唱する20 世紀 型スキルの一つである批判的思考[1]には,証拠に基 づく論理的で偏りのない思考が必要であるとされて おり,この観点からも論理的思考の需要がうかがえ る.さらに,論理的思考は大学の入学試験や就職試 験などでも論理的検査という形で測定,評価され入 学や採用の評価基準の1 つとして活用されている[2]. 論理的思考能力の育成は長期間の訓練が必要であ り,多くの場合はディスカッションやグループワー クなどを通して能力の育成を試みる研究がなされて いる.しかし,大人数で議論を行うには,前提とし てある程度自分自身の考えを伝えることができる能 力が必要である.しっかりとした結論があたったと しても,なぜその結論が導かれたのか,相手に伝え ることができないのであれば,理解を得ることはで きない.また,聞く相手側も伝えられた考えを読み 解く必要がある. その結論がどのような根拠から導き出されている のか,その根拠は結論を導くのに十分な強さを持っ ているのか,議論全体の方向や道筋はどうなってい るのか.それらを正しく読み取り,理解し,評価す る能力が論理力であると著者らは考える.そこで, 本研究では,論理力を高めることを目的とし,論証 図というインタフェイスと,その診断機能,適応的 フィードバック機能を備えたシステムの開発を行う.2 関連研究
論理力の育成方法に関しては様々な提案がなされ ている.論理的思考の定義は様々であるが,本研究 では「主張と主張の関係あるいは,まとまり全体と その部分となる主張の関係を考えられる力」と定義 している. 北村らは論理の三角モデルを用いた論理組み立て 活動システムを提案している.主張・理由づけ・根 拠の関係性を明示化し,各要素を推論によって導き だすことで,論理的思考の育成をしようとしている 試みである[3].しかし,ここで要求されているのは, 主張・理由付け・根拠の関係性を正しく設定できる ことであり,ある主張をする際にどのように道筋を たてて根拠を述べていけばよいかという全体の流れ については取り扱われていない. 大槻は学生に国語の教材の説明文の論理構造を調 べ,文章の論理展開上の不備を見つけ出し修正するこ とで論理的思考の育成を試みている[4].しかし,修正を 学生に行わせているのだが,初学者である学生が適切 に修正できるとは限らない.そのため,学生が誤った回 答をした場合に,どのようにフィードバックを与えるかが 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B506-17課題となる.特に,正解が限定的な数学などとは異なり, 学習者の誤答は多岐にわたることが予想され,十分な 理解をもつ教授者がフィードバックを与えるとするとその 負荷は膨大となる. 崔らは,自身の思考を客観的に振り返る自己内対話 と,他者の思考や意見を取り入れて問題解決のための 知識の生み出す他者対話に分割する「思知」ツールを 用いて,自身と他者の思考の対立をメタ認知する事で 議論の能力を高めようとした[5].しかし,崔ら自身が論 文中で言及している通り,そもそも他者対話は,自己内 対話と他者理解の両タスクを同時に要求される負荷の 高い作業である.そのため,そもそも自己内対話におい て論理的な思考ができない場合には,対話の前提とな る論理的思考力を育成する必要があると著者は考える. 京谷らは「思知」の改善策として,思知で作成した論 理構造をグラフで表す,「悟知」を開発している[6].本ツ ールでは,学習者自身に思考を整理し,論理構造を作 成させているが,作成した時点で学習者の論理構造が 誤っていた場合は,有益な議論を行えず,個別診断,フ ィードバックの問題が残っている. 野矢は,論証構造演繹・推測,論証の批判など論 理力を身につけることための問題を集め,論理トレ ーニングを支援する本を出版している[7].ここでは 多くの問題と,丁寧な解説が添付されているが,学 習者が誤っている場合に,解説を見なければ自身の 解答の正誤を判断できず,解説を見てしまうと深く 考えずに納得してしまう危険性がある.このため, 学習者自身が試行錯誤できるフィードバックの提供 が必要となる. よって,本研究では学習者に文章全体の論理展開を 考えさせ,主張・理由づけ・根拠の関係性の推論の誤 りをシステムによりどのように誤っているのかを個 別にフィードバックすることで,学習者の試行錯誤 を促し,論理的思考の育成を行うシステムの開発を 試みる.
3 論証
本研究では論証に着目したシステムの提案をしよう と思う.論証とは根拠の接続関係によって構成され ている. 例えば,野矢は書籍[7]にて次の問題を出題してい る.「①HIV 感染の動向は,他の性感染症とあわせて 総合的に性感染症全体の疫学を監視することが必要 である.②エイズは内科の病気であり,泌尿器科, 性病科の病気とは臨床的には全く異なる.③しかも 性行為では伝播するという点では,他の性感染症と 同じである.④しかし,性感染症にかかって局所に 炎症があると,HIV の感染率は数倍上昇する.⑤だ からエイズ予防の視点からは,疫学的に他の性感染 症と同時に扱う必要がある.」この文章は,①では「エ イズは性感染症とともに扱うべきである.」と結論付 けており,②の「エイズは泌尿器科,性病科の病気 ではない.」と①の主張を否定しているが,③の「エ イズは性行為で伝播する.」と④の「性感染症にかか って局所に炎症があると HIV の感染率が上がる.」 の二つを根拠として再び⑤で①と同様の結論を出し ているのだと考える必要がある. しかし,②の主張と③の主張は反対の意見を出し ているのに文中ではその二つの文は「しかも」とい う添加の接続詞でつないでいることは間違いであり, ③と④の主張は同じ方向の主張であるのに「しかし」 という逆説の接続詞でつながれていることも間違い であるため,この文章は全体的に論理的にまとまっ ていないと気が付かなければいけない.4 提案システム
4.1
システム設計
本研究では事実と論拠を合わせて,結論を導く論 証を行なわせる.日常会話では,論拠は必ずしも説 明しなければいけない事ではなく,自他で共有する 知識や一般常識により,省略されるときもある.た とえば,「テレビを見ると子どもの目が悪くなる. したがって,テレビは悪いものである」という論証 においては,常識である「目が悪くなるということ は,悪いものである」という論拠が省略されてい る.通常,これをすべて会話内で表現すると冗長に なるため,共通の理解については省略される.一方 で,無意識にこのような論拠を省略してしまい,自 身の論理的な飛躍に気づけないケースも存在し,こ のような場合,自他の会話の食い違いを自覚できな いなどの様々な不利益が存在する.そこで,本研究 では,事実と論拠,結論を適切に関係づけることが できる能力の育成を目指し,事実や論拠を提示した 状態で,正しい結論を導くための論証を組み立てる 能力である論証力の育成を支援する. 論証力の育成のためのインタフェイスとして,野 矢茂樹が考案した論証の表現方法である論証図[7] を使用した.論証図とは根拠A から主張 B が導かれ る時に2 つを矢印でつなぎ論証構造を図式化したも のである,また主張B が根拠となって,そこから新 たなる主張C が導かれる場合,図 1 のようにさらに 矢印で関係を描画していき,文章全体の論証構造を 理解しやすくするものである. 図 1 論証図しかし,学習者が論証図を作ることができない原 因として「導出や論拠を理解できない」ことがある のではないかと考える.したがって,本研究では導 出や論拠となる文を問題に記述することにする.そ れによりすべての論証は根拠と導出の二つから主張 を導くことになると考え,システムの構築を行っ た.本研究では,問題で与えられた複数の命題のう ち,既知の命題群から導ける結論を組み立てる作業 を要求する.
4.2 システム画面
図2 にシステム画面を示す.画面右中央に問題と して,複数の命題群が提示される.学習者はこの命 題を組み合わせて,主張できる結論を導く作業が要 求される.この際,既知の事実は論拠がなくてもよ いが,既知ではないものについてはほかの事実から 導いていく必要がある. 各命題には,数字が割り振られており,画面右上 の数字のオブジェクトを画面左側の空間に移動さ せ,論証関係を入力することで論証図を作成させ る.論証図の作成方法は画面下中央にある入力スペ ースに文に割り振られた数字を入力する.入力部上 段二か所に根拠となる文の数字を入力,下段に主張 となる文の数字を入力し,画面右下にある結合ボタ ンを押すことデータベースに入力情報を保存され る.保存した入力情報をもとに根拠同士をつなぐよ うに下線と間に十字,ふたつの中間点から根拠まで 矢印を描画することでひとつの論証図を作成する. これを複数回行うことで図3 のような文章全体の論 証関係を図式化した論証図を作成することができ る.図3 の事例は,参考文献[7]の問題を,常識な どの論拠についても命題とする形で一部改変したも のである.図3 では,事実として,「①犯人は A か B である」「②A はいつも C と一緒にいる」「③C に はアリバイがある」「⑧アリバイがある人と一緒に いる人にも,アリバイはある」「⑨アリバイがある 人は犯人ではない」が与えられている.ここから学 習者は,②と③を論拠とし,「④A はアリバイのあ るC と一緒にいたことになる」を導く.さらに, ⑧と導かれた④より,「⑤だからA にもアリバイが ある」を導く.そして,⑨と導かれた⑤より,「⑥ A は犯人ではない」を導く.最後に,①と導かれた ⑥より,「⑦B が犯人である」という結論を導くこ とになる. 学習者は自身の作成した論証図が適切であると思 った場合,画面下部の診断ボタンを押す.診断ボタ ンを押すと,システムは学習者の入力した論上手の 構造に基づいて,個別診断を行い,適応的にフィー ドバックを与える. 図 2 システム画面 図 3 論証図の作成画面4.3 正誤判定
システムで扱う命題は,図4 のように,日本語 文,述語論理,真偽(既知であればT,最終結論は G,それ以外は F)としてデータベースに保存され ている.本システムは,学習者の構築した論証図を もとに,論拠となる命題群から導ける論理を,述語 論理形式で計算する.さらに,学習者が論証の先と した命題の論理式と比較することで,各論理が適切 であるかを診断する. 例えば図4 の場合は,⑤「だから A にもアリバ イがある」と⑨「アリバイがある人は犯人ではな い」のふたつの根拠より⑥「なのでA は犯人では なく」の主張を導いている.これを述語論理で⑤ alibi(A),⑥¬criminal(A),⑨∀x(alibi(x)⇒¬ criminal(x))と表すことができると考え,根拠の⑤ alibi(A),⑨∀x(alibi(x)⇒¬criminal(x))の二つが真で あるなら,alibi(A)⇒¬criminal(A)が真であるはずで ある.それを変形すると¬alibi(A)∨¬criminal(A)となり,⑤alibi(A)が真であるので¬alibi(A)が偽とな り¬criminal(A)が真であることになる.つまり ⑤alibi(A)∧⑨∀x(alibi(x)⇒¬criminal(x))=⑥¬ criminal(A)となる論理関係にあると考える.このよ うに(根拠A∧根拠 B)を変形することで,主張 C を導き出すことができるのであれば,その論証は正 しく書かれていると考えられる. また,論証の正しさを評価するためには,論拠と している命題が既知である必要がある.そのため, ある結論を導くための論拠はすべて既知(真)であ る必要がある.仮に論理的な構造が正しいとして も,使われている論拠が真でない場合は誤りと診断 する.これはデータベース内の真偽値(T,F)に より診断する.問題であらかじめ既知のものはすべ てT としている.さらに,論拠がすべて既知 (真)である場合,結論として導かれる命題の真偽 をF から T に更新する.この繰り返しにより,結 論が導けるかを診断する. 図 4 命題データベース