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国語科で指導される言語論理の感情的側面の検討 -「感情論理」(L. チオンピ)の理論を援用して-

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(1)Title. 国語科で指導される言語論理の感情的側面の検討 −「感情論理」(L. チオンピ)の理論を援用して−. Author(s). 幸坂, 健太郎. Citation. 語学文学, 55: 33-45. Issue Date. 2016. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8089. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 国語科で指導される言語論理の感情的側面の検討. 幸 坂 健 太   郎 . を用いる側の感性的な力によって、その行方が大きく左右され. 体は中立的な技術という側面が強いかもしれないが、実はそれ. ──「感 情論理」(L.チオンピ)の理論を援用して ─ ─. 一.問題設定・目的・方法. ~一四四頁) 。高木は、国語科で指導される「中立的な技術と. かなまなざしを養うことも忘れてはならない」とする(一四二. る」と指摘し、「論理の力を真に価値あるものにするためには、. 国語科教育で、ことばの論理的な使い方を学習者に学ばせる ことの重要性が指摘されて久しい。特に、井上尚美が理論的に. 上、二〇〇七:井上他、二〇一二など) 。言語論理教育は、文. 的な方法・系統の提案が続けられてきた(井上、一九八九:井. 〇~二八頁)、その指導の具体的な方法を検討している。藤森. などの条件を満たす論理のことを「〈美しい論理〉」と呼び(二. 場から想像していること」「適切なことばが紡がれていること」. と を 主 張 し て い る。 同 様 に、 藤 森( 二 〇 一 三 ) も、 「他者の立. その基礎として感性的な側面、換言すれば「他者」へのあたた. 主導した言語論理教育では、 国語科で指導すべきことばの論理、. いう側面が強い」言語論理にも、何らかの感情的側面があるこ. 1 「温かい言語論理教育」の萌芽. つまり言語論理の内実が明らかにされ、その指導のための具体. 学的文章の指導が中心的に指導されていた国語科教育に対する. の論も、国語科で指導される言語論理に、「美しい」と感じる. 一九八九、 二二頁) を扱うべきだという問題意識を背景にもつ。. もないが、 相対的独立にとらえて「論理的側面」のこと」 (井上、. 藤(感情的経験)」を生じさせる必要があると指摘している(七. 〇〇六)は、説明的文章の読みの指導で、「論理・構造」に関. ような感情的側面があることを示すものである。また、 河野 (二. (1). 語論理教育は、 「言語に「情感的側面」のあることは言うまで. アンチテーゼという形で提案されたものである。そのため、言. しかし二〇〇〇年以降、ことばの理性的側面である言語論理 を、ことばの感情的側面と切り離すことはできないという指摘. 七~七八頁)。この指摘は、言語論理の学習過程における学習. する知識であるメタ認知的知識を指導する際、学習者の中に 「葛. がなされるようになった。高木(二〇〇一)は、 「論理それ自. -  - 33.

(3) 者の感情の重要性を述べたものである。. 方向性を認めることができる。 方向性①:基礎論. 方向性③:指導・学習過程論. 方向性②:目標・内容論. 感情的側面を踏まえた教育を目指すこれらの研究のことを、「温. このように、近年の国語科論理教育では、言語論理の感情的 側面を重視しようとする論がみられる。本稿では、言語論理の かい言語論理教育」研究と呼ぶ。この呼称は、 認知心理学で「温. 方向性①は、言語論理にどのような感情的側面があるのかを 理論的に明らかにする方向性である。そして方向性②は、方向. 性①も踏まえながら、言語論理教育の内容として、言語論理の. ある。先に挙げた高木(二〇〇一)や藤森(二〇一三)は、明. おいて、学習者の感情がどのように関わるか、また感情的側面. 確に方向性①・②を区分してはいないが、これら二つの方向性. 感情的側面をどのように位置付けるかを明らかにする方向性で. )認知」の捉え方と、感情 く影響されるとみなす「熱い( hot 的 側 面 を 排 除 し た 情 報 処 理 理 論 が 明 ら か に し て き た「 冷 た い. を併せもつ研究である。一方、方向性③は、言語論理の学習に. ( 1986 )の論を踏 かい認知」を検討した Sorrentino & Higgins は、人間が感情に強 まえたものである。 Sorrentino & Higgins. ) 認 知 」 の 捉 え 方 を 区 分 し た 上 で、 「 熱 い 認 知 」 と「 寒 ( cold い認知」はあたかもメビウスの輪のように不即不離だとする (. 本稿は、これらの方向性のうち、 方向性①・②で論を進める。. までを踏まえてどのような指導を行えばよいかを明らかにする. 方向性である。学習者の「感情的経験」と学びの関わりを論じ. ) 。そして、 「行動を決定づけるものは熱さでも冷たさ pp.8-9. ) で あ る と し、 「 熱 い 認 知 」 と「 冷 た で も な く、 温 か さ 」 ( p.8 い認知」をブレンドした「温かい認知」研究の必要性を提唱し. た河野(二〇〇六)の研究がこの方向性をもつ。. (2). た。国語科教育において言語論理の感情的側面を検討する研究. 方向性①・②の先行研究として位置づけられる高木(二〇〇 一)は、言語論理に感情的側面があることは指摘しているが、. . 具体的にどのように両者がかかわるのか、その詳細までは明ら. も、論理という人間の認知的な部分に関わるものと感情とを関 が提案す Sorrentino & Higgins る「温かい認知」研究の一種だといえる。まだ研究上の新しい. かにしていない。また、同じく方向性①・②をもつ藤森(二〇. 連づけようとする試みであり、. 流れではあるが、 「温かい言語論理教育」の重要性への認識が. ついての検討が必要である。本稿は、これらの先行研究が明ら. ており、他の感情的側面が言語論理とどのように関わるのかに. 一三)は、 「美しさ」という感情的側面に限定した論を展開し. 広がっている。 2 「温かい言語論理教育」の方向性と本稿の位置・目的 「温かい言語論理教育」研究には、大きく次の三つの研究の. -  - 34.

(4) かにしていない点について検討していく。 具体的には、本稿の目的は次の二点である。 .言語論理と感情がどのように関わっているのかを理論的 1  に明らかにする。 (方向性①). 感情. り方と様式のこと」(チオンピ、二〇〇五、六七頁). 「内的または外的な刺激によって引き起こされる、 ・・・・・・ さまざまな質や持続時間や意識されやすさを持っ. た、全体的な心身の状態」(チオンピ、二〇〇五、 五五頁). カニズムを説明するための理論であり、特に本稿の目的1のた. を詳細に論じている。チオンピの論は、論理と感情が関わるメ. 理」という概念を明確に定義した上で、それらの密接な関わり. )の論 本稿では、精神分析学者であるチオンピ( Ciompi, L. を援用し、右の二点について論じる。チオンピは、 「感情」 、 「論. また、「感情」についてチオンピは、「関心、不安、怒り、悲 しみ、喜び」が「五つの基本感情」であるとしている(チオン. 理」と呼ぶこととする。. その「論理」が言語として表れ出ている場合、それを「言語論. チオンピの定義する意味で「論理」という語を用いるが、特に. チオンピは「論理」 なお、「認知」という語からわかるように、 を、 人間の頭の中の状態の一種のことと捉えている。本稿では、. めに援用できる。. な気分」についても、「緊張の比較的少ない中間的感情様態」. .言語論理と感情の関わりを、言語論理教育の目標とどう 2  関わらせるのかを明らかにする。 (方向性②). チオンピの論に基づいて言語論理と感情の関わりを明らかに し、その論を踏まえて目的2、すなわち言語論理教育の目標と. として「感情」の一種に含めている(チオンピ、二〇〇五、五. 2 記憶と感情 チオンピは、人間が何らかの知識を記憶していく際、そこに 「感情的色づけ」(チオンピ、二〇〇五、三五頁)がなされる. 七頁) 。. ピ、二〇〇五、七三頁) 。加えて、チオンピは「日常的平均的. の関わりについて論じる。. 1 重要概念の定義 まず、チオンピの理論に基づき、言語論理と感情の関わりに ついて論じる。だがその前に、本研究を進める上で重要な概念. としている。たとえば、子どもが火を記憶する際、子どもは、. 二.言語論理と感情の関わり─「感情論理」─. となる「論理」と「感情」について、チオンピの論をもとに次. いう形で」記憶する(チオンピ、一九九四、七四頁)。このよ. 火に対する「不快感情や危険を、不安のシグナルや警戒命令と 「さまざまな認知内容が互いに結びついているあ ・・・・・・. のように定義しておく。 論理. -  - 35.

(5) うに、ある経験や概念は、 感情と無縁に記憶されるのではなく、. の経験を結びつけるということである。. 感情が「 「接着剤」あるいは「結合組織」」として機能し、複数. 3 思考と感情 (1)思考への「感情的色づけ」. 何らかの感情を伴って記憶される。 さらにチオンピは、感情を伴って記憶された複数の経験が、 それぞれ別個に記憶されるのではなく、相互に結びつくと述べ ている。. な働きをしている。 (引用者中略)/同一の、あるいは類似. 五、八八~九〇頁)。つまり、記憶が「感情的色づけ」によっ. 門のような働きをし」たりするとしている(チオンピ、二〇〇. 「感情は、つねに注意の焦点を決定し」 チオンピによれば、 たり、 「さまざまな記憶装置への通路を開いたり閉じたりする. 次に、人間が何かについて思考する場合、そこに感情がどの ように影響するかについてのチオンピの論を分析する。. の感情的特性と対応関係のあるさまざまな認知要素が互いに. てなされていたのと同じように、その記憶にアクセスして考え. 感情は連続性をつくりだしている。つまり、感情は認知要 素に対してある種の「接着剤」あるいは「結合組織」のよう. 機能的に結合することによって、状況の中で重要な意味を持. 的色づけ」がなされるということである。. つものとして選択される認知内容の間にも統一性が生じるこ 怒り、悲しみなどのうちのどれか一つの感情を伴う全生涯に. たとえば、成功できるかどうか大きな不安を抱えながら仕事 をしても、集中できず、うまく進まないということがありうる。. たり、何かに注意を向けたりするような人間の思考にも「感情. わたるさまざまな記憶が、実験的にその感情状態を(催眠、. とになる。 (引用者中略)具体的には、たとえば恥、不安、. 薬物、またはそのほかの方法で)誘発することによって、 「一. また、その不安状態の中で自分は普段通り考えを進めているつ. もりでも、マイナス思考で考えてしまい、後ろ向きの結論、た. て」 、思考が制限されうまく働いておらず、不安感情の影響を. 言えば、そのような状態は、不安の「オペレイター作用が働い. (チオンピ、二〇〇五、九〇~九一頁). 団となって」想起されるということが確認された。. たとえば、怒りを伴った経験は、怒りを伴った他の経験とと もに、ひとまとまりの「怒りの経験」として記憶される。同様. 受けた思考を行っている状態だということである。. とえば「どうせ自分はがんばっても成功できないんだ。諦めよ. に、関心、不安など他の感情を伴った経験についても、同じ感. う」という結論を出してしまうこともある。チオンピの用語で. 情を伴った経験同士が結びつき、 記憶されていく。換言すれば、. -  - 36.

(6) 人間の思考に影響を与えるのか。この点について、チオンピは. ところで、先にチオンピが日常的な気分についても感情の一 種と捉えていることを確認した。では、この日常的な気分も、. めた当初は、遥か下に見下ろす景色への喜びや、高度への恐怖. 着きと思考で乗ることのできる人も、おそらく飛行機に乗り始. が費やされ」たはずである。たとえば、飛行機に日常的な落ち. (チオンピ、二〇〇五、一〇〇頁). 快感をもって見いだされる個々の問題解決法あるいは緊張 解消法は、それ以前にすでに快感をもって見いだされていた. (チオンピ、二〇〇五、一六四頁). 活動はいつでも快を目指すのである。. たとえば、ひどい痛みに苦しんでいるときにさえ、すべて の活動の背後には不快回避への志向が隠されている。つまり、. 「感情的色づけ」をされた思考が、つねに「快」 チオンピは、 を目指すと述べている。. (2) 「快の道筋」. れていったのである。. き、飛行機に乗ることが日常的な思考・行動として位置づけら. につれ、そのような喜びや恐怖の「エネルギーは低下してい」. などの感情が去来していただろう。それが飛行機に何度も乗る. でも、それを獲得した段階では「かなり膨大な情動エネルギー. 次のように述べている。 私たちの日常思考をつくりあげている「平均的」で「自明 な」、つまりほとんど自動化されているような認知的操作(オ ペレイション)のすべては、 (引用者中略)日常論理に属し ている。 (チオンピ、二〇〇五、九八頁) その(引用者注:日常論理の)一つ一つを最初に獲得した り構成したりする際には、かなり膨大な情動エネルギーが費 やされなければならなかったのであり、時を経るにしたがっ てようやく、これに要するエネルギーは低下していったので. この記述からわかるように、チオンピは、日常的な気分も思 考に影響を与え、「日常論理」を形成すると考えている。ただ、. 「通路」によって連絡され、より効率性の高い「快の道筋」. ある。. 日常的な気分の影響を受けた思考は「ほとんど自動化されてい. をつくりあげていく。. (チオンピ、二〇〇五、一〇三頁). るような」ものであり、私たちは感情の影響を意識しづらい。 しかし、そのような「ほとんど自動化されているような」思考. -  - 37.

(7) 精神的なダメージを被るので、 それを避けるために 「諦めよう」. 例を挙げた。この場合についても、もし自分が失敗した場合に. たとえば、先に(1)で、成功できるかどうかという不安に 「色づけ」された思考が後ろ向きの結論を出してしまうという. 二〇〇五、二〇五頁)で進むということである。. は「快獲得軌道」 「不快回避軌道」とも述べている。チオンピ、. い、負担のない形での回路、すなわち「快の道筋」 (チオンピ. に「快」を志向している。つまり、人間の思考は、最も心地よ. 思考は、様々な「感情的色づけ」をなされているが、どのよ うな感情によって「色づけ」がなされていても、その思考は常. るのである。. 全体として互いにまったく別様であるということが起こりう. めに、ある同一の状況の中で最後に到達する帰結がそれぞれ. されて認知内容が別様の選択、統合、価値づけを施されるた. ているといった場合を考えれば、理解しやすい。言い換えれ. 動が閾下で作動しているのに、表面上は冷たい静寂が保たれ. のことは、憎悪や嫉妬、あるいは共感や愛情といった強い情. なったものになってしまうことがあるという事実である。こ. 最終的に生み出されてくる思考様式は全体としてまったく異. 「形式論理上まったく正しく行われ」 一般的に考えて、思考が たならば、 「最終的に生み出されてくる思考様式」はいかなる. (チオンピ、二〇〇五、九九頁). ば、ある同一の形式的論理が用いられていても、感情に規定. 推論が形式論理上まったく正しく行われていても、そこから. という結論を出し、 その精神的ダメージを回避するという 「快」 を志向した結果であるといえる。このような思考・志向が同じ い「快の道筋」 」としてパターン化されていく。. 場合にも同じはずである。しかし、「感情に規定され」た思考は、. ような過去の経験と「連絡され」ることで、 「より効率性の高. (3)思考が導く結果. そのため、結果的に人それぞれ論理が異なってくる。. 感情の影響を受けるままに「選択、統合、価値づけ」を行う。. 「快」を志向 以上のように、思考は感情に「色づけ」され、 しながら進められる。チオンピは、そのような思考が導く結果. 右のような現象の例として、チオンピは、 「政治的に互いに 敵対する人たち、夫婦げんかや訴訟事件の当事者、さらには異. ンピ、二〇〇五、九九頁)。多くの人々は、このような諍い・. について、次のように述べる。 私たちの構想全体において、はかり知れないほど重 ・・・・・・ 要な意味を持つ事実はむしろ次のことにある。すなわち、そ. 議 論 で 勝 つ た め に は、 「 妥 当 」 で「 適 切 」 な 論 理 形 式 を 使 う べ. なるイデオロギーを主張して争う人たち」を挙げている(チオ. れぞれの感情特異的な(感情)論理の内部では個々の結合や. -  - 38.

(8) 最も心地よく、負担が少ない」というパターン)をつくり上. 感情に「色づけ」され、「快」 ○たとえ論理的に誤りがなくとも、 を志向することで、個人・集団間で意見の対立が起こる場合. きだと考えるだろう。しかしチオンピは、これらの人々の間の. もある。(論理の正確さ・妥当性・適切性についての個体・. げる。. 彼らの思考が感情に 「色づけ」 され、 それぞれがそれぞれの 「快」. 諍いは、決して彼らが「形式論理的な誤謬」をしているわけで. を志向している以上、必然的にそれぞれの思考とそこから導か. 集団依存の可能性). はないという(チオンピ、二〇〇五、九九頁) 。そうではなく、. れる結論が異なってしまい、対立が生じてしまうのである。. あっても、感情の影響がある以上、論理間の対立をなくすこと. かし、実際はそうはいかず、たとえ論理が正確・妥当・適切で. 個人・集団の間で論理の対立は起きないと考えがちである。し. るものであるといえる。そのため、言語論理も必然的に「感情. 合、言語論理とは、右記のような記憶・思考の中で紡ぎ出され. 論理が言語として表れ出たものが言語論理であると考えた場. チオンピは、このような「感情論理」に関わる議論を、必ず しも言語論理に焦点化して進めているわけではない。しかし、. このようなチオンピの考えを認めるならば、次のことが言え るだろう。すなわち、 私たちは論理が正確・妥当・適切ならば、. は困難である。. 関係として捉え直すこととする。. チオンピが述べる「感情論理」は、そのまま言語論理と感情の. 論理」としての性質を持つものであるといえる。したがって、 4 まとめ . 三.言語論理教育の目標としての「感情論理」. 以下にまとめる。チオンピは、 ここまでのチオンピの理論を、 感情の影響を受ける左記のような人間の記憶・思考のことを、 「感情論理」と呼んでいる(チオンピ、一九九四、三頁) 。. どのように取り入れていけばよいのか。ここでは、特に言語論. 言語論理と感情との関連が二で述べた「感情論理」のような ものであるとして、では、言語論理教育の中に「感情論理」を. 験が結びつきながら蓄積されていく。同様に、人間の思考も. 「感情的色づけ」を受けながら、複数の同じ感情経 ○記憶は、. 理教育の目標の中に「感情論理」をどのように位置づけるかに ついて論じる。. 「感情的色づけ」を受けながら進む。 ○感情に基づく思考は常に「快」を志向し、その継続によって  「快の道筋」 (=「この感情の時はこうやって思考すれば、. -  - 39.

(9) 1 従来の言語論理教育の目標. 右記に述べたような言語論理教育の目標を、チオンピの「感 情論理」の知見に照らし合わせてみよう。. 2 「感情論理」の観点からみた言語論理教育の目標. 式面だけからは判断できない。なぜなら、その論理の背後に個. 情論理」の理論によれば、論理の妥当性や確実性は、論理の形. 言語論理教育の目標は、言語論理についての妥当性、真偽、 確実性・適否を「判断できる」こととされている。しかし、「感. 言語論理教育の目標は、言語論理教育の「指導の手引」の中 に示されている(井上他、二〇一二) 。次に引用する。 第1 目標 言語論理教育は、次の3点について判断できる能力を子ど もにつけさせることを目標とする。. 人・社会による「感情的色づけ」がなされており、どのような. このことを踏まえるならば、言語論理の妥当性、真偽、確実 性・適否というのは、それを生み出した個人・社会と無関係に. 論理も 「快の道筋」に沿ってつくり出されるものだからである。. 存在するものではなく、それらとの関連の中で捉え直すべきも. (妥当性) (1)論の進め方は正しいか。 (2)情報の内容は真か偽か。 (真偽) . (井上他、二〇一二、二二六頁). (3)情報はどの程度確かであるか、また、現実と照らし合  わせて適切であるか。 (情報の確実性、適否). いるが必ずしも十分に扱われていなかった領域の指導につい. 述べられていないが重要だと思われる事項、また述べられては. 連するのか。この点については、 「従来の「学習指導要領」で. 「指導の手引」に示された目標は、国語科教育の目標とどう関. 言語論理教育の目標は、論や情報の妥当性、真偽、確実性・ 適否を「判断できる能力」を育成することとされている。この. それは自分の中にあるどのような「感情論理」に起因する判断. 自分がその論理を妥当とみなせるか、もしくはみなせないか、. かを共感的に推測する。そして、それを受け取る側、すなわち. 理をどのような思い(=「感情的色づけ」)でつくり出したの. る。すなわち、その論理をつくり出した個人・社会が、その論. その上でその論理が妥当かどうかを判断することが重要であ. のであろう。ある論理が妥当かどうかを考える場合、その背後. て、「言語論理教育」の立場から強調したもの」だと位置づけ. なのかを振り返る。さらには、相手と自分の「感情論理」が、. にどのような「感情的色づけ」がなされているのかを見極め、. られている(井上他、二〇一二、二二二頁) 。. その「感情的色づけ」の部分においてどうしても相容れないも. のである場合、どのようにして相手と自分がうまく共存してい. -  - 40.

(10) 背後にある「感情論理」を踏まえることが重要である。. 理について何らかの価値判断を下す場合には、その言語論理の. けばよいのか、その具体的な方策を探る。このように、言語論. 否について、自分の中のどのような感情論理に基づいて行って. 現など、さまざまな情報を参照することとなる。そして、 (2). 「感情論理」を捉えるために、論展開や、他者が用いている表. る他者の感情を推測することを挙げている。ここでは、他者の. かを述べる。. 以下、論理的な文章を読むことを例に、右記の新たな言語論 理教育の目標が、具体的にどのような学習者像を指しているの. 3 「感情論理」を意識できる学習者像の具体. とである。. けさせることを、従来の言語論理教育の目標に加えたというこ. に、他者と自分の言語論理の背後にある「感情論理」に目を向. いるのかまで自覚した上で判断することを挙げている。要する. では、従来の目標に位置づいていた妥当性、真偽、確実性・適. 以上のことを踏まえ、言語論理教育の目標に「感情論理」の 観点を加え、次のように変更することを提案する。 第1 目標 言語論理教育は、次の2点について判断できる能力を子ど もにつけさせることを目標とする。 (1)他者の言語論理の背後にはどのような感情が働いてい  るか(他者の「感情論理」 )を判断する能力 (2)自分の中にある感情論理を自覚した上で、他者の感情 論理に対して価値判断する能力. 桑原茂夫「ちょっと立ち止まって」(光村図書『国 たとえば、 語1』平成二七年検定)の読みの場合を想定しよう。この文章. では、ルビンの壺などのだまし絵の見方が変わることを例に、. 1 論の進め方は正しいか。自分が正しいと判断する理  由(自分の中の感情論理)は何か(妥当性) 情報の内容は真か偽か。 自分が真と判断する条件 (自 2  分の中の感情論理)は何か(真偽). れている。. ぞれが持つ「感情的色づけ」により、このテクストへの価値判. とえば、次のような反応である。いずれの反応も、学習者それ. この文章に出会った学習者は、最初は無意識的にではあるが、 この文章に対して自分の感情論理で応じようとするだろう。た. 物事を「ちょっと立ち止まって」捉えることの重要性が論じら. 3 情報はどの程度確かであるか、また、現実と照らし  合わせて適切であるか。自分が確かだ、適切だと判断 する条件(自分の中の感情論理)は何か(情報の確実 性、適否) 変更した目標では、まず(1)として、言語論理の背後にあ . -  - 41.

(11) 断がなされている。 るのかも」. ○「ぼ  くが具体例をたくさんある文章を面白くないと思うのは、 ダイレクトに意見だけを言ってほしくて、それ以外の情報を. 〔目標(2)について〕 ○「挙げられている具体例の絵は、女の人にもおばあさんにも どちらにも見える!この文章は面白いなあ」. れない。でも、書き手はぼくたちのことをむしろ思って、わ. の文章は適切に展開されていないけれど、他の多くの中学生. かりやすくするためにたくさんの具体例を挙げている。ぼく. 余計で不必要なものだとうっとおしく感じているからかもし. ○「要は多面的に物事を見るってことでしょ。だらだらと具体 例が書かれていて、面白くない文章だな」 この段階だと、学習者は自分の「感情論理」をおそらく自覚 しておらず、またこの文章の書き手がどのような思いでこの文. にとっては良い展開ということになるな」. みたいな意見だけを言ってほしいと思う中学生にとってはこ. 章を書いたか、その「感情論理」には意識が向いていない。 新たな言語論理教育の目標(1) (2)に示したのは、最初 は右記のような読みの反応をしていたとしても、最終的には次. 目標(1)に挙げた読みの反応例では、この文章の書き手が 読み手に対してどのような思いを抱いているのか、また書き手. がつくり出した論理展開の背後にはどのような 「感情的色づけ」. がなされているのかを判断しようとしている。もちろん、書き. のように考えることができる学習者である。 〔目標(1)について〕. きない。しかし重要なことは、間違っているかもしれないが、. 使っているし、もしかしたら書き手は、 「ひと目見たときの. ○「本文に「私たちは、ひと目見たときの印象に縛られ」とい うところ(五一~五二頁)で「縛られ」るという強い表現を. ては適切な展開ではないが、読み手によっては適切な展開とも. 情的色づけ」 を内省している。その上で、この文章は自分にとっ. また、目標(2)に挙げた読みの反応例では、自分がどうし てこの文章を面白くないと判断したのか、その背後にある「感. 書き手の「感情論理」を忖度し、 判断しようとする姿勢である。. 手に直接尋ねることができない限り、判断を確定することはで. ○「もしかしたら、書き手は私たち子どもにも共感してほしい なと思いながら、一目見てわかる絵を三つも例に挙げたのか. 印象に縛られ」て何か失敗した経験があるのかもしれない。. いえることに気づいている。このような読みの反応がもしもで. も知れない」. だから、読み手にもそんな失敗をしてほしくないと思ってい. -  - 42.

(12) きたならば、自分の「感情論理」を踏まえ、他者の言語論理の 適切性を判断できているといえる。 以上、本稿が提案した新たな言語論理教育の目標が達成でき た学習者とはどのような学習者なのか、その具体像を示した。 「感情論理」を意識できる学習者は、言語論理を個人・社会と の関連の中で捉え、言語論理を血の通った「温かい」ものとし て捉える学習者である。. 四.成果と課題. いく上での基盤になるといえる。 2 課題. 本稿一.2で述べた三つの研究の方向性に即しながら、今後 の課題を挙げる。. まず、研究の方向性①(基礎論)である。今回は、あくまで もチオンピの理論だけを援用した。他にも、直接的には扱って. おらずとも、説得、レトリック研究など、人間の感情的側面に. 関わると考えられる理論が存在する。それらの理論も踏まえな. くことで、なぜ妥当・適切と思われる論理間でも対立が起き、. や「快」への志向から逃れられないとする「感情論理」に基づ. 現在稿者は、特に学習者が自分の「感情論理」に目を向ける ことと関わって、学習者が論説・評論の読みを〈自分ごと〉と. ある。. しながら、 「温かい言語論理教育」の具体を示していく予定で. がら、本稿の理論を拡張していく。. わかり合うことができないのか、その理由を説明することがで. して捉えることについて研究を進めている(幸坂、二〇一五:. 1 成果. きる。言語論理は個人・社会からの「感情的色づけ」と切り離. 向け、自分は目の前の言語論理にどのような思いを抱くのか、. 次に、研究の方向性②③(目標・内容論、方法論)である。 今後は、 「温かい言語論理教育」の目標に基づき、その内容・. すことはできないものだと考えるべきである。. それは自分のどのような「感情論理」に起因するのかと問うこ. 本稿では、精神分析学者であるチオンピの理論を援用しなが ら、言語論理の感情的側面について、 「感情論理」 「快の道筋」. また、「感情論理」の視点を取り入れた、新たな言語論理教 育の目標も提案し、 その目標が示す具体的な学習者像も示した。. とは、学習者が目の前の言語論理を自分に関わるもの(=〈自. 方法についても明らかにしていく。具体的な実践も構想・実施. ここで設定した目標は、言語論理の感情的側面を踏まえた「温. 分ごと〉)として捉えることに他ならない。このような言語論. などの概念をもとに明らかにした。言語論理が 「感情的色づけ」. かい言語論理教育」で育てるべき学習者の姿を示したものであ. 幸坂、二〇一六) 。 学 習 者 が 自 ら の 内 な る「 感 情 論 理 」 に 目 を. り、今後「温かい言語論理教育」の内容・方法を明らかにして. -  - 43.

(13) 理への〈自分ごと〉認識という観点を切り口にした研究を継続 し、「温かい言語論理教育」の内容・方法について明らかにし ていく。. 的思考を鍛える国語科授業方略【小学校編】』渓水社. の融接現象の不思議─』金子書房. 海保博之編(一九九七) 『「温かい認知」の心理学─認知と感情. メタ認知の内面化の理論提案を中心に─』風間書房. 河野順子(二〇〇六)『 〈対話〉による説明的文章の学習指導─. 語科の読みの指導理論─学習者の読みの「構え」の形成を中. 幸坂健太郎(二〇一五) 「論説・評論を〈自分ごと〉にする国. 注. 意味」と「感化的意味」に区分し、前者の側面が強調され. (1)井上(一九八九)は、ことばの「意味機能」を「情報的. 心に─」 『国語教育思想研究』国語教育思想研究会、一一号、. 幸坂健太郎 (二〇一六)「論説・評論の自律的な読みに資する 〈自. 二一~三二頁. 分ごと〉認識についての検討」 『全国大学国語教育学会発表. るのが言語論理教育、後者の側面が強調されるのが文学教 育についてはすばらしい実績を挙げている日本の国語教育. 要旨集』一三〇集、六七~七〇頁. 育と位置づけている(二四~二五頁) 。その上で、 「文学教 が、言語論理の教育についてはあまり力を入れてこなかっ. ’. (L.チオンピ/松本雅彦・井 Nachfolger GmbH, Stuttgart. 上有史・菅原圭悟訳、一九九四、 『感情論理』学樹書院). Ciompi, L. (1982) Affektlogik. J.G. Cotta sche Buchhandlung. 一頁. 誠一・W.ブランケンブルク『精神医学』青土社、四三~八. 裂病治療からカオス理論へ」河本英夫・L.チオンピ・花村. L.チオンピ/聞き手=花村誠一・河本英夫(一九九八) 「分. ひらくことばの学び─』東洋館出版社. 藤森裕治(二〇一三)『すぐれた論理は美しい─Bマップ法で. 館書店. 高木まさき(二〇〇一) 『「他者」を発見する国語の授業』大修. たからそれを強化しなければならない」と述べている(二 五~二六頁) 。 (2)日本でも、海保編(一九九七)のように、認知と感情の 関係性をさまざまな観点から明らかにしようとする試みが ある。. 参考引用文献. 考─』明治図書. 井 上 尚 美( 一 九 八 九 ) 『言語論理教育入門─国語科における思. 学習・言語論理─〈増補新版〉 』明治図書. 井 上 尚 美( 二 〇 〇 七 ) 『思考力育成への方略─メタ認知・自己 井上尚美・大内善一・中村敦雄・山室和也(二〇一二) 『論理. -  - 44.

(14) Entwurf einer fraktalen Affektlogik. Vandenhoeck &. Ciompi, L. (1997) Die emotionalen grundlagen des denkens: ( L. チ オ ン ピ / 山 岸 洋・ 野 間 俊 一・ Reprecht, Göttingen. 菅原圭悟・松本雅彦訳、二〇〇五、 『基盤としての情動─フ ラクタル感情論理の構想─』学樹書院). cognition: Warming up to synergism. In Sorrentino, R. M. &. Sorrentino, R. M. & Higgins, E. T. (1986) Motivation and Higgins, E. T. Eds. Handbook of motivation and cognition: Foundations of social behavior. The Guilford Press. pp.3-19. [付記] 全国大学国語教育学会(於:筑波大学) 本稿は、第一二七回 での口頭発表にもとづく。発表時、貴重なご意見を下さった諸 氏に感謝申し上げる。. -  - 45.

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参照

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