「人物学習」を視点とした中学校社会科歴史的分野の授業構成と単元開発
103
0
0
全文
(2) 目. 次. 序章 1. 第1節 問題の所在と目的. ・・り. 第2節 先行研究の考察. ・。。. 1 意思決定力の育成を目指す「人物学習」の批判的考察. 。・。. 2 制度・しくみの構想力の育成を目指す「人物学習」の批判的考察. … 7. 第3節 研究の対象と方法. 。・・. 0. 第1節 中学校社会科歴史的分野における教科書の課題. ・・。. 1. 1 教科書分析の観点. … 11. 2 教科書分析に見られる「人物学習」の課題. … 12. (1) 教材構成面(人物数・関連資料)における課題. ・。・. (2) 指導方法面(学習課題・発展学習)における課題. … 13. 第2籔 中学校社会科歴史的分野における「人物学習」の指導方法論の課題. 。・・. 2 2. 第1章 中学校社会科歴史的分野におけるr人物学習」の現状と課題. 2. 0. 第皿章 r人物学習』を視点とした歴史授業構成の類型. 第1節 r人物学習」を視点とした歴史授業構成の類型化の視点. … 27. 1 学習内容に関する類型化の視点. … 27. 2 学習方法に関する類型化の視点. … 31. 第2節 「人物学習」を視点とした歴史授業実践事例の類型. … 36. 第皿章 r人物学習」を視点とした歴史授業構成の事例と特性. 第1節 歴史学習的興味・関心を意図した歴史授業構成. … 45. 1 歴史授業構成の事例と特性. … 45. 2 歴史授業構成の典型事例一r明治維新」. り・・. 第2節 歴史的興味・関心を意図した歴史授業構成. … 48. 1 歴史授業構成の事例と特性. … 48. 2 歴史授業構成の典型事例一「徳川家康と江戸幕府の成立」. … 49. 第3節 歴史的態度を意図した歴史授業構成. 。・・. 1 歴史授業構成の事例と特性. ・。・. 2 歴史授業構成の典型事例一r本間光丘と植林」. … 51. 6. 0 0.
(3) 2. 第4節 歴史的思考・判断を意図した歴史授業構成. 。・・. 1 歴史授業構成の事例と特性. 9・・. 2 歴史授業構成の典型事例一r伊能忠敬と日本地図j. 。・・. 第5節 歴史的技能・表現を意図した歴史授業構成. 。・・. 1 歴史授業構成の事例と特性. … 55. 2 歴史授業構成の典型事例一「応仁の乱と戦国大名一越前朝倉氏」. ・・。. 2 3 5. 1 歴史授業構成の事例と特性. 6 ・Q・ 7 7 ・・。. 2 歴史授業構成の典型事例一r戦国時代の出雲一米原綱寛」. … 58. 第6笛 歴史的知識・理解を意図した歴史授業構成. 第N章. 「人物学習』を視点とした中学校社会科歴史的分野におけるモデル単元開発. 第1節 単元開発の視点. 1 2. 学習内容と学習方法の設定. 「坂本龍馬と幕末jの単元開発の視点. 第2節 モデル単元「坂本龍馬と幕末」(第1学年)の学習指導案. 1. モデル単元r坂本龍馬と幕末」(第1学年)の単元計画. ・り・. 0. … 60 … 62 … 63. … 63. (玉〉 単元目標. … 63. (2) 単元設定の理由. … 63. (3〉 単元指導計画. 。・弓. 4. 。・・. 5. 2. モデル単元r坂本龍馬と幕末」(第1学年)の授業計画. (1) 導入部. 第1時「龍馬の夢一‘日本のせんたく’」の授業計画. … 65. (2〉 展開部. 第2時「脱藩か、一藩勤王か」の授業計画. … 67. (3〉 展開部. 第3時r密約決裂か、成立か」の授業計画. … 70. (4) 展開部. 第4時「倒幕か、討幕か」の授業計画. 。・・. (5〉 終結部. 第5時r龍馬の夢一‘日本のせんたく’の先に」の授業計画… 77. 4. 終 章 研究の成果と今後の課題. 1 研究の成果. … 80. 2 今後の課題. ・。・. 2.
(4) 序章. 第1節 問題の所在と目的 現代社会において、少子・高齢化、情報化、国際化が急速に進展する中、生徒を取り巻 く状況は日々刻々と変化を遂げている。それに伴い社会の様々な分野において従来のシス テムを見直した上での大胆な改革が進められている。教育の分野においても例外ではなく、 新しい時代に適合した様々な改革が積極的に推し進められている。. しかし、このような改革とは裏腹に実際の中学校現場に目を転じてみると、授業レベル においては、いまだ高校入試・定期考査といった現実の壁を越えることができず、学習進 度を気にして、断片的な知識を一方的に教え込む授業形態がまだまだ主流をなしているよ うに思われる。中学校社会科歴史的分野においても、通史上の歴史的な出来事を年代順に. 網羅的に取り上げ、解説を加えていくだけの無味乾燥な授業によって生徒の学習意欲を奪 い、単に暗記教科としてとらえさせざるを得ない状況を生み出しているように感じられる。. このような知識注入を中心とした授業の課題はいくつか考えられるが、特に次の点が重 要である。①歴史学習の意義の理解、②歴史学習に対する興味・関心の育成、③主体的な 学習態度の育成、④資料活用能力や歴史的思考力の育成といった点である。. そこで、これらの課題を解決するための視点として中学校社会科歴史的分野において、 「人物学習」を取り入れたいのである。巻末資料1に見られるように、歴史教育における. 歴史的人物の扱いが昭和33年度版学習指導要領で打ち出されて以来、現行学習指導要領 (平成10年度版)に至るまで「人物学習」はその重要性を増してきている。その理由と しては、様々な要因が考えられるが、中でもr人物学習」の持つ多様な意義を挙げたい。 例えば、元来生徒は歴史的人物に対しての関心が強く、自主的に人物を求めている面があ る*1。その心理的な側面を生かし、・歴史的人物を取り上げることによって、歴史学習に 対する興味・関心や学習意欲を高めたり、あるいは、歴史的人物の行為の意図や願い、果 たした役割等の学習を通して、時代的背景の具体的把握や歴史的思考力の育成を図ったり することが可能である*2。この飽にも「人物学習」には、「歴史学習に対する親近性」、 「抽象的な歴史的事象の具体化」、r歴史的人物に対する共感の喚起」、「意思決定力の育 成」、「人問の歴史に対する主体的役割の理解」、「豊かな人間性の育成」などがその意義. として考えられる。それらをまとめたものが巻末資料2である。これら「人物学習」が有. する多様な意義によって、上記のような課題を解決し得る視点になるのではないかと考え た。. そして、もう1つ「人物学習」を取り入れたい理由として、次のような意図の授業開発 を行いたいと考えたからである。それは、生徒がより良い自己実現に向けて自分自身の生 き方を考えていけるような授業、すなわち歴史的人物の生き方を通して生徒の人間形成に 寄与するような授業を開発したいのである。 *1 福島正義「小学校杜会科における歴史上の人物について」 『杜会科教育研究』16号 1962 *2 小原友行「人物を取り入れた歴史学習』 朝倉隆太郎編集代表『現代社会科教育実践講座 日本の歴史の学習②』 現代社会科教育実践講座刊行会 1991. 董.
(5) 第2節 先行研究の考察 1 意思決定力の育成を目指す「人物学習」の批判的考察. まずは、これまでに歴史教育として適切な「人物学習」を授業モデルなどの具体的な形 で提唱してきた先行研究を取り上げ、先の問題意識に関連して考察を進めていく。. はじめに、1987年に発表された小原友行氏の論文「意思決定力を育成する歴史授業 構成一『人物学習』改善の視点を中心に一」を取り上げる*3。. 小原氏の論文を取り上げる理由としては、吉田正生氏がその論文の中でも述べているよ. うに次の2点を挙げることができる*4。1つに、小原氏は1980年に「中学校2年『野 中兼山と士佐藩』の授業」を発表するなど、長きにわたって「人物学習」研究に携わって. きた。その集大成というべきものが、この1987年の論文であり、広範な文献に基づい てまとめられている点からも、これ以前の「人物学習」研究の総決算として位置付けるこ とが可能である。2つには、平成元年度版小学校学習指導要領において、人物や文化遺産. を中心とした歴史学習の徹底を図るために、取り上げるべき人物42人の名前が例示され て以来、学会誌や大学の研究紀要に「人物学習」をテーマとするものが登場するようにな った。小原氏の論文は、その2年前に発表されていることからも、このような研究動向の 先駆的なものとみなすことが可能であるという点である。. 小原氏は論文の中で戦後の社会科において育成すべき公民的資質の中核をなすものとし て、意思決定力を挙げている。意思決定力とは、r問題場面での自己の行動を選択・決定. するために必要な能力であり、問題を解決するために考えられる実行可能ないくつかの行 動案の中から、より望ましいものを選択・決定することのできる能力」と定義されている。. 社会科の究極目標をこの意思決定力の育成と考えた場合、歴史教育においても歴史認識の 形成を通して意思決定力の育成を目指すことが必要となる。そこで、どうすれば歴史学習 において意思決定力を育成することができるのか、また、そのためには歴史の授業構成を. どのように行えばよいのかを間題意識として持ち、r人物学習」をその重要な方法の1つ として位置付け、考察を進めている。. 小原氏は意思決定力の育成という観点から、r注入j r経験」r追休験」といったこれま での「人物学習」の方法原理の問題点を指摘した上で、新たな「人物学習」の方法原理と して「研究」型を提案している。すなわち、「研究」型の「人物学習」とは、意思決定を. 迫られた歴史上の論争的な問題場面における人物の問題解決的行為の事実を、児童・生徒 自ら「記述」「説明」「判断」するものである。具体的には、教材として選択された人物. の問題解決的行為の事実に対して、r記述」r説明j「判断」を求める学習問題を発見・構. 成し、収集した資料から学習問題に対する回答を引き出し、学習成果をレポートや歴史新 聞などにまとめ発表する「人物学習」である。. 論争的な間題場面における人物の問題解決的行為についての研究は、次のように行われ るとしている。. *3 広島史学研究会『史学研究』177号 1987 *4 吉田正生「新しい『人物学習』の構想一制度・しくみを構想するカを育成するために一」 全国社会科教育学会『社会科研究』第58号 2003 pp.1−10. 2.
(6) 1) 人物はどのような問題に直面していたのか、問題を解決するためにどのような行為 を行ったのか、その結果どのような変化が生じたのかについての「記述」。. 2) なぜ人物はそのような行為を行ったのかについての「目的論的説明」と、なぜその. ような問題に直面しなければはらなかったのか、なぜ人物はそのような行為をとらざ るをえなかったのかについてのr因果的説明」。. 3) 人物の行為の結果として生じた変化の事実に基づいて、何が解決され何が解決され なかったのか、人物の選択した行為は望ましかったのか望ましくなかったのかという、. 人物の行為の歴史的評価についての「価値的判断」と、自分自身がそのような間題場 面に直面していたらどのような行為を選択したか、どのような行為を選択すべきだっ たか、それはなぜかについての「実践的判断」(問題場面での意思決定)。 上記のような研究過程によって、次の2っの理由から意思決定力の育成が可能であると されている。第1に、歴史上の人物がどのような問題状況の中で、どのように意思決定を. 行い、その結果どうなったのかを、追体験的に学習させることによって、意思決定力の育 成を可能にする。第2に、歴史上の人物の行為の場合、行為の結果を事実として確認する ことができるため、歴史上の人物の意思決定についての歴史的評価を行うことや、また、. 歴史上の人物が直面していた問題場面での意思決定を実際に行わせることもでき、このこ とが意思決定力の育成を可能にするといった主張である。. では、上記のような小原氏の「人物学習j研究においては、前節で挙げた現在の中学校 社会科歴史的分野における知識注入を中心とした授業の課題4点や歴史的人物の生き方を 通して生徒の人間形成に寄与するような授業構成について、どのような示唆が与えられて いるのであろうか。. 小原氏は意思決定の研究としての「人物学習」において、学習内容として、歴史上の人 物の問題解決的行為の事実を記述する記述的知識、それを説明する説明的知識、資料から. 記述的知識を抽出し、まとめ発表することができる技能、人物の行為を目的と手段・原因 と結果の関係から推論によって目的論的・因果的に説明することができる思考力、人物の. 行為に対する価値的判断を反省的に吟味することができる価値判断力、歴史上の論争的な 問題場面での実践的判断を行うことのできる意思決定力といった5つの要素を単元ごとに 具体的に設定することが必要であると述べている。そして、これらを習得させる教材選択. の視点の1っに、児童・生徒の興味・関心や研究心を喚起するような具体的な事例を挙げ ている。. また、学習内容として位置付けられた技能・思考力・価値判断力・意思決定力という能 力を実際に育成するために、次のような単元の授業過程を提案している。. 導入部では、歴史的論争問題の場面の提示、既有の知識・経験では説明できない教材・. 資料の提示、事象の水平的・垂直的比較、知的好奇心を喚起する教材・資料の提示、作業 的活動の導入、生活経験との関連付けなどの方法によって、児童・生徒に記述・説明・判 断を求める問い(学習問題)を発見させ、問いに回答していくための学習方法を明確にさ せる。. 展開部では、導入部で発見した問いに対する回答を探求していく活動を行う。具体的に は、記述〔資料の収集、資料から記述的知識を抽出、知識をまとめ発表〕、説明〔問題把. 3.
(7) 握、仮説の設定、仮説の推論、資料の収集・分析、仮説の検証〕、価値的判断〔問題把握、. 判断基準の明確化、価値的判断、価値的判断の反省的吟味〕、実践的判断〔間題把握、達 成すべき目的・目標の明確化、すぺての実行可能な解決策の提出、解決策の論理的結果の 予測、解決策の選択と根拠づけ〕、以上の4つの活動が、教師の指導の下に行われる。. 終結部では、報告書、レポート、歴史新聞などの作成と発表といった、総合的な表現活 動を行う。また、それについての自己評価・相互評価の活動を行う。. このような小原氏が考える授業構成によれば、課題である②歴史学習に対する興味・関 心の育成、③主体的な学習態度の育成、④資料活用能力や歴史的思考力の育成も図られる. のではないかと考える。しかし、課題①歴史学習の意義の理解や生徒の人間形成に寄与す るような授業構成については言及されておらず、その解決の手立てが求められる。. 次に、1999年に発表された峰明秀氏の論文「意思決定力を育成する中学校社会科歴 史授業一単元『田中正造のメッセージ』の場合一」を取り上げる*5。. 峰氏もまた、小原氏同様に社会科において育てるべき公民的資質の中核を、民主主義社 会の主権者として、社会の変化や課題に対して、合理的な判断を行い、将来、他と共に生 きていくために適切な社会的行為を選択していく能力、すなわち意思決定力ととらえてい る。論文では、この意思決定力を育てる視点から中学校社会科歴史的分野の授業をどのよ. うに構成すべきか、授業の方法原理および授業の実際を示して、理論仮説の有効性を検証 しようとしている。. まず峰氏は、小原氏の「研究j型r人物学習」の問題点を指摘した上で、授業構成上の 改善点を提案している。その問題点とは、「実践的判断」活動における問い一歴史上の人 物が直面している問題場面で、自分ならばどのような行動を選択・決定するであろうか一 の限界性であり、次の3点を挙げている。第1は、現在の自分のおかれている状況や社会 的制約を考慮に入れなくても答えることができる点。つまり、さまざまな立場に学習者を 立たせる発問を用意しても、現在の自分自身の生活に直接的に何も影響を及ぽさない仮想 の意思決定で、リアリティが無く、言葉遊びに終わってしまっている点。第2は、学習者 自身を過去の社会的状況の中に立たせるために、資料を十分用意し、臨場感を演出しても、. 追体験が難しい点。第3は、歴史的事象に対する認識の深まりの程度の違いがあっても歴 史評価は可能であり、価値判断の分析的な吟味はできるが学習者自身の経験や内面の価値. 観を変革するほどの評価には結びついていっていない点。これらいずれの問題も、学習者 自身の現実の意思決定とr研究」とが結びっいていない点に集約されるとしている。. そこで峰氏は、「研究」の発展として意思決定を授業の終末段階に組み込む授業過程で はなく、方法原理としての意思決定が「研究jを取り入れ、概念探求・価値分析の授業過. 程を組み込むことととらえ直し、上記の問題点を克服するために授業構成上の改善点を以 下のように示している。. 第1に、手段としての歴史認識(時間軸を柔軟に構成するということ)。上記の問題点 に関連して、学習者の意思決定に現実味をもたせるためには、なぜそのような歴史的事象 *5 全国社会科教育学会『社会科研究』第50号 1999年 pp・271−280. 4.
(8) を学ばなければならないのか、また授業時問内で獲得した歴史認識が現在及び将来にどう. 活用できるのかということを意識化させることが必要であるとしている。例としては、環 境という視点から、学習者の目前で生起している豊島問題を過去の足尾銅山鉱毒事件の探. 求から学ぶ事例が挙げられている。この場合、学習者が自らの体験や経験に照らして意思 決定できる状況・場面を有効に設定する上で、追体験の難しい過去のその時点に立たせる ことや過去から現在・未来へという順序性を踏まえる必要性はないと考えられ、1時間の. 授業の中で、単元全体の中で、過去・現在・未来の時間軸を柔軟に組み合わせた授業構成 が提案されている。. 第2に、価値選択性の保証である。授業者は取り上げた歴史的事象や人物をどう評価し ていくのか、教材にはどのような価値が含まれ、学習者はどのような価値に気付き、どう. 価値付けていくのかをできる限り想定しておく必要があるとし、その上で、学習者自身の 価値選択の機会を注意深く保証していくことが重要であるとしている。ここで例示された. 授業モデルでは、経済発展、人権、環境などの価値に気付き、それらの関係をどう価値付 けていくのか、具体的にはどのような行為・政策の選択が望ましいのかを各集団・組織、 自分自身の立場に分け、考えられるようにしている。. 第3に、問題解決における2つのアプローチの区別である。授業者は取り上げる問題の 質によって、問題の解決における2つのアプローチを区別しておく必要があるとしている。. そのアプローチとして、1つはa将来のあるべき姿を描き、現在の期待水準、価値認識ま で踏み込み価値創造を行うもの。この場合、どのような社会を目標にするか、という理想 の設定からスタートすることになる。他方は、b現時点での事実認識を踏まえ原因追求を 行うものである。この場合、現状の把握がスタートになり、現状と明確な目標とのギャッ. プの原因の追求に向けられていくことになる。ここで例示された授業モデルでは、身近な 問題として豊島問題を取り上げ、経済発展、人権、環境という価値を中心に据え、導入及. び終結部でaのアプローチを、展開部でbの問題解決アプローチを採馬している。 以トのような授業構成トの改善点を踏まえて、次のような授業過程が示されている。 導入段階で過去に起こった足尾銅由鉱毒事件をモデルに現時点で実際に起こり得る問題 に置き換えるシミュレーションによる意思決定を通して、環境問題に対する自分自身や友 人の立場の明確化・解決策を模索することの困難さに気付かせる。. 次の展開部では、足尾銅山鉱毒問題で知られる歴史的な事実から、原因の究明・因果関 係を追求させると同時に、人物の生き方をたどることにより、人物への共感や当時の人々 の思いや願いなど心情面にっいても吟味する。. 終末段階では過去のそのような事実を踏まえっつ、現在の豊島問題について考えさせ、. 導入段階での自らの価値判断・意思決定を吟味しつつ、将来社会において、どのような価. 値判断・意思決定が重要なのか、自分自身は今、何ができるのかを迫る。現在及び近未来 における政治・社会のシステムのあり方の提案や自分自身、一個人としての現在の行動の 反省的吟味を行うというものである。 この峰氏の授業過程は、小原氏の「入物学習」の諸類型の考え方に従えば、「問題解決」. 型のr人物学習」にあてはまるものと考えられる。r問題解決」型とは、歴史上の人物の 問題解決的行為の事例を教材として学習し、そこで学んだ知識・経験を用いて、現在の社 会においていかに生きるべきかという実践的な問題を解決させることを目指したr人物学. 5.
(9) 習」である*6。. 峰氏の「問題解決」型「人物学習」の研究では、検証授業が行われており、学習者の授 業中の発言やワークシートに記述された内容からは、現実味をもった価値判断・意思決定 場面の報告がなされている。峰氏は、意思決定を方法原理とすることによって、いつ、誰 が、どのような立場、場面で意思決定するのか、それはどのような価値に基づいているの. か、どのような事実を参考にしているのかを問うカが学習者に身に付くための方法に関す る有効性を述べている。. では、上記のような峰氏の「人物学習」研究においては、どのような示唆が与えられて いるのであろうか。. 峰氏の場合、身近な環境問題を取り上げて、単元の終末段階で「第2の豊島を出さない ためには、どんなことを考えていかなければならないのだろうか。」、「これまでの授業を. 振り返って、では、自分(自分たち)がこれから考えていかなければならないことは、何 だろう。」と学習者に迫ることによって、現在の対応策及び将来の社会システムヘの展望 あるいは自分自身との関わりを考えさせようとしている。この時、学習者にとって意思決 定のベースになるのが、展開部での田中正造が直面した足尾銅山鉱毒問題についての歴史 学習である。学習者は教師の指導の下に、シミュレーション化された豊島問題と足尾銅山 鉱毒問題との質の異同を比較検討した上で、先の問いに対して意思決定するわけであるが、 この段階において、なぜ取り上げられた歴史的事象を学ばなければならないのか、また獲 得した歴史認識が現在及び将来にどう活用できるのかということを学習者が意識すること となる。すなわち、課題①歴史学習の意義の理解が図られるわけである。. このように、小原氏の「研究」型「人物学習」の「間題」が過去の人物の「問題」であ るのに対して、峰氏の「問題解決」型r人物学習」の「問題」は自分と関わり、現在及び 将来解決していくぺき「問題」として取り上げられている点に違いが見られる。この学習. 者にとって、切実な「問題」を扱っているという点が、学習者の人間形成に寄与するとい う主張の根拠となっているものと考える。. 次に、課題④資料活用能力や歴史的思考力の育成に関しては、主に展開部にその意図を 見ることができる。ここでは、足尾銅山鉱毒事件の検証を学習内容として、第2時では産 業発展のために殖産興業政策を進める明治政府の立場を教師が代弁し、それに対する反論 を学習者が考えるという学習方法によって、水没を強いられた谷中村民の願いや思いに迫. ろうとしている。第3・4時では明治政府が谷中村民をほぽ無補償で離散させ、水没を行 った事実から、谷中村民はなぜ抵抗できなかったのかを、教師提示の資料を基に当時の明 治政府、栃木県の政策や足尾銅山経営の状況から考察させようとしている。また、田中正 造の生涯を読み物資料によって確認したり、当時の人々が田中正造の行為に対してどのよ うな思いを抱いていたのかを資料によって検証しようとしたりしている。. 上記のように峰氏が考える授業構成によれば、課題である①歴史学習の意義の理解、④ 資料活用能力や歴史的思考力の育成も図られるのではないかと考える。また、生徒の人問 形成に寄与するような授業構成に関しても示唆が与えられている。しかし、課題②歴更学 *6 前掲書2 PP.10−11. 6.
(10) 習に対する興味・関心の育成、③主体的な学習態度の育成については言及されておらず、 その解決の手立てが求められる。. 2 制度・しくみの構想力の育成を目指す「人物学習」の批判的考察. 次に、2003年に発表された吉田正生氏の論文「新しい『人物学習』の構想一制度・ しくみを構想するカを育成するために一」を取り上げる*7。. 吉田氏もまた、小原氏・峰氏の系譜に属する意思決定力育成を志向した「人物学習」研 究に取り組んでいる。. 吉田氏が意思決定力育成型r人物学習」をとる理由には2つある。1つは、価値注入 に陥ってしまう危険性から遠いところにありながら、しかも「価値教育」を行うことがで きる点。もう1つは、歴史学の成果も伝達できるという点である。歴史教育は、単に科学. 的な知識を習得させればよいというものではなく、学習者の人格形成にも寄与すべきもの. という立場を明らかにしている。では、意思決定力育成型「人物学習」においては、ど のような授業構成が望ましいと考えられているのであろうか。. まず、吉田氏は小原氏の「研究」型「人物学習」に対する峰氏の批判に賛同した上で、 今度は峰氏のr間題解決」型「人物学習」の問題点を次のように指摘している。それは、. 峰氏の授業モデルにおいては、当時の利害関係者の言動、「人物」やそれをめぐる人々・. 集団、さらには日本がおかれていたという状況が学習対象とされてはいるが、制度や社会 のしくみは学習対象とされていないという点である。その論拠は、社会科が社会認識教科 という性格をもっている以上、社会を認識するとは、社会のしくみや制度をとらえること. が大きな要素であり、したがってf人物学習」もむかしの社会のしくみや制度をとらえ させることが1っの大きな要素であると考えられている。. そこで、吉田氏は次のような授業構成を提案している。学問の成果伝達と学習者の人格 形成を行う、この2っの要求を同時に満たすために、歴史上の「人物」が何らかの価値(観). をもって制度や社会のしくみを構想したことを学習対象とし、過去の社会のしくみにっい. て学ぶとともに、同様の制度やしくみを学習者なりに構想させ、そこに現れた自己の価値 (観〉を省察させるようにするというものである。. 論文では、9段階からなる授業モデルが示されており、その主な学習内容は以下のよう に構成されている。. 1) 価値の析出一学習者に自由に発表させ、学校観・教育観などを吐露させる。 2) 条件の限定一明治期の日本がおかれていた国際環境と似た条件を付け、歴史学習へ と近付けていく。. 3) 歴史的事実を踏まえての自案の修正一明治期の目本がおかれていた国際環境を押さ. えた上で、そうした状況下で国民国家を形成・維持していくためには学校というもの をどういうものにする必要があったかを考える。 4) 「歴史的人物jとの出会い一「歴史的人物」の生い立ち、生きていた時代や社会の. 状況について理解するとともに、「人物」が何を解決すべき問題としていたかを把握 *7 前掲書4 pp.1・10. 7.
(11) する。. 5) 制度・しくみに込められた価値(観)の析出一自己プランをr歴史的人物」の立場 から評価させることによって、その「人物」がつくろうとした制度・しくみに込めら れた価値や価値観を析出する。. 6) 自己の価値析出一「歴史的人物」の価値や価値観に気付いた上で、自分自身がもっ ている価値や価値観に気付く。. 7) 「人物」と自己の相対化一「歴史的人物」は、当時の国や社会が直面していた問題. を解決するために、自分が活用できる物質を基に、また様々な考え方の中から取捨選 択をして、制度・しくみを構想したことを理解する。また、自分自身が制度・しくみ を構想するときに最優先しようとしているものが何かに気付く。. 8) 未来の予測一次の段階の最終的な意思決定のために、「歴史的人物」の価値や価値. 観を優先した制度・しくみ下で生きるとどうなるのか、自分たちの価値や価値観で生 きるとどうなるのかを国家・杜会レベルで予測する。. 9) 自己プランの作成一望ましい制度・しくみについての最終的な意思決定をする。. この授業モデルでは、次の4点にねらいをおいている。1つ目に、制度・しくみについ ての知識を得ること。2つ目に、そこに込められた価値(観)について把握し、自らの価 値を析出すること。3っ目に、自らの価値観によって制度・しくみをつくったときに何が 帰結するのかを予測すること。4つ臼に、予測した帰結から自らの価値(観)の再構成を 行うことというものである。. このように吉田氏の「人物学習」研究においては、過去の社会制度やしくみをとらえさ. せ、そこに込められたr人物」の価値や価値観を学習し、学習者自らの価値観をも再構成 させるという新たな視点を提案している。. では、上記のような吉田氏の「人物学習」研究においては、どのような示唆が与えられ ているのであろうか。. 吉田氏の場合、初代文部大臣・森有礼が構想した学校教育制度を学習対象として、そこ. に込められた森の価値(観)に基づく意思決定から学び、学習者が自分の価値(観)を再. 構成していく授業モデルが示されている。特にそれは、授業過程の5)「制度・しくみに. 込められた価値(観)の析出」から9)「自己プランの作成」に至る段階において位置付 けがなされている。具体的には、5)の「制度・しくみに込められた価値(観)の析出」. 段階で森の学校教育制度に込められた価値(観)を見出させ、6)の「自己の価値析出」. 段階で、導入部で学習者が構想した学校に込めた価値(観)に気付かせるようにする。そ して、7)の「『人物』と自己の相対化」の段階で、森と学習者の考えを比較した上で、. それぞれの優れている点に目を向けさせ、学校をっくる時に両者が何を最優先させようと していたのかに気付かせるようにする。8)の「未来の予測」の段階では、森と学習者そ. れぞれの価値(観)を優先して学校をつくった場合、国あるいはその国民はどうなるかを 予想させ、留保条件を付けながら両者の考えを歩み寄らせるようにする。最後に9)の「自 己プランの作成」では、自分を文部大臣にしてほしいという自己推薦書を書く形で、自分 が望ましいと考える学校教育制度について最終的な意思決定を行うようにするというもの である。. 8.
(12) このように吉田氏は、より望ましい価値(観)に基づく制度を構想するカを育成するた めに、過去における人物の意思決定を手がかりにするという手立てを用いている。このこ とは学習者にとって、自分のある一定の価値(観)が人物の国際環境・社会状況など様々. な条件下で選択された価値(観)に基づく意思決定を学ぶことによって、より広い視野を もって吟味され、再構成されていくことになる。つまり、この価値再構成の過程が学習者 の人間形成に寄与するものであり、また歴史を学ぶ意義として意識化されるものであると 考える。. 次に資料活用能力と歴史的思考力の育成に関しては、授業過程の3)「歴史的事実を踏 まえての自案の修正」、4)「『歴史的人物』との出会い」、5)「制度・しくみに込められ た価値(観)の析出」、7)「『人物』と自己の相対化」の4つの段階において、その位置. 付けが見られる。すなわち、3)r歴史的事実を踏まえての自案の修正」段階では、導入 部で学習者が構想した学校プランを提示された歴史的事実と関連付けて考察させた上で見 直しを迫っている。4)「『歴史的人物』との出会い」の段階では、森の人物像・森の学 校教育制度に込められた願いや思い、当時の時代的背景などが読み物資料「森有礼のあゆ み」によって把握され、学習者の学校プランを比較の視点として森が構想した学校教育制 度に込めた価値(観〉を5)r制度・しくみに込められた価値(観)の析出」段階で考察 させている。7)「『人物』と自己の相対化」の段階では、その森の価値(観)と時代的 背景を関連付けて考察させた上で、学習者の学校プランが今の社会のあり方とどのような 関わりがあるのかを再考させている。. 上記のように吉田氏が考える授業構成によれば、峰氏同様、課題である①歴史学習の意 義の理解、④資料活用能力や歴史的思考力の育成も図られるのではないかと考える。また、 牛徒の人間形成に寄与するような授業構成に関しても示唆が与えられている。しかし、課. 題②歴史学習に対する興味・関心の育成、③主体的な学習態度の育成については言及され ておらず、その解決の手立てが求められる。. 以上、ここまでの3氏による先行r人物学習」研究と前節で挙げた課題との関連性をま とめると下の表 序一1のようになる。. 表 序一1 先行r人物学習」研究と課題との関連性 課 題 研究者. 小原氏の研究. 峰氏の研究. 吉田氏の研究. ①歴史学習の意義の理解. △. ○. ○. ②歴史学習に対する興味・関心の育成. O. △. △. ③主体的な学習態度の育成. ○. △. △. ④資料活用能力や歴史的思考力の育成. ○. ○. △. ⑤人間形成に寄与する授業構成. △. ○. ○. ○ 課題解決のための示唆が与えられているもの. △ 課題解決のための示唆が与えられていないもの. 9.
(13) 第3箇 研究の対象と方法 本研究では、現在の中学校社会科歴史的分野における知識注入を中心とした授業の課題 一①歴史学習の意義の理解、②歴史学習に対する興味・関心の育成、③主体的な学習態度 の育成、④資料活用能力や歴史的思考力の育成一を克服するとともに、歴史的人物の生き 方を通して生徒の人問形成に寄与するような授業構成のあり方を明らかにするために、「人. 物学習」を視点として、以下のような研究対象と研究方法に従い考察を進める。. (1) 中学校社会科歴史的分野における「人物学習」の現状について教科書分析を基に. 検討する。また、これまで中学校においてはどのような「人物学習」の理論が提案 され、それによって知識注入を中心とした授業の課題が克服されてきたのか否かを 明らかにする。 (2) 「人物学習」による実践事例を対象として、目標領域と関連する学習内容と学習. 方法から分析することによって、その授業構成の特性を明らかにする。 (3) (2)で明らかとなった授業構成の特性に基づいてr人物学習」を視点とした中. 学校社会科歴史的分野におけるモデル単元を開発する。. 10.
(14) 第1章 中学校社会科歴史的分野における「人物学習」の現状と課題 序章では、小原氏・峰氏・吉出氏の先行「人物学習」研究を概観することによって、現 在の中学校社会科歴史的分野における知識注人を中心とした授業の課題に対して、どのよ うな解決の手立てが示されているのか、あるいはそうでないのかを見てきた。. 3氏の先行研究においては、意思決定力の育成という大目標を志向しながら、個々の課 題解決に向けての示唆が与えられていた。しかし、一単元において4つの課題克服につな がる授業構成あるいは歴史的人物の生き方を通して生徒の人間形成に寄与するような授業 構成のあり方までは示されていなかった。. 本章では、中学校社会科歴史的分野における「人物学習」の現状について、教科書分析 を基に検討するとともに、これまで中学校において、どのような「人物学習」の指導方法. 論が提案され、それによってどのような課題の解決が目指されてきたのか、また何が問題 として残されているのかを明らかにする。. 第1節 中学校社会科歴史的分野における教科書の課題 現行学習指導要領(平成10年度版)の目標(2)にはr国家・社会及び文化の発展や 人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を、その時代や地域と. の関連において理解させ、尊重する態度を育てる。」とあり、内容の取扱いエにおいては 「国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物に対する生徒の. 興味・関心を育てる指導に努めるとともに、それぞれの人物が果たした役割や生き方など について時代的背景と関連付けて考察させるようにすること。その際、身近な地域の歴史 トの人物を取りトげることにも留意すること。」と記述されている。このように中学校に おいても歴史的人物を取り上げて、歴史学習を進めることが期待されている。. では実際に中学校において、このような学習指導要領の意図に基づく歴史学習が行われ ているのであろうか。. この問題を考える糸口として、歴史的分野の教科書を取り上げてみたい。その理山は、. 社会科教員の多くが‘主たる教材’である教科書に頼り、教科書に沿って授業を展開して. いるためである。また、そうしなければ歴史学習を展開しきれないのが現実のようにも思 われるからである。. そこで本節では、教科書の重要性に日を向け、「人物学習」を進める上で教科書の何が 問題となっているのかを考え、中学校における「人物学習」の現状をとらえてみたい。 1 教科書分析の観点. ここでは、代表的な教科書会社であるA社の中学社会歴史的分野(平成18年発行)の 教科書を取り上げ、次の10点にっいて教科書から抽出を行った。これらを一覧表にまと めたものが表 1−1(15∼19頁を参照)である。 ①時代区分 ②日本史上の歴史的人物名 ③世界史上の歴史的人物名. ④歴史的人物に関連する歴史的事象・文化遺産・業績 ⑤記述量 ⑥関連する資料. 11.
(15) ⑦学習課題 ⑧学習内容を確かなものにしたり、より深めたりする活動 ⑨学習課題に関連する記述量 ⑩授業時数. 2 教科書分析に見られる「人物学習」の課題 (1) 教材構成面(人物数・関連資料)における課題 中学校社会科歴史的分野における教科書の教材構成面の課題として、人物数と関連資料 の問題性の2点を挙げることができる。. まず、教科書に取り上げられている人物数の問題性について述べる。. 表 1−1で示す通り、このA社の教科書に何らかの形で記述されている歴史的人物は 190人(日本史上の歴史的人物149人、世界史上の歴史的人物41人)と実に多くな っている。したがって、教科書全体の分量から1人1人に対する記述量が自ずと少なくな っている。平均すると1人当たり本文3∼4行である。本文で10行以上記述されている 歴史的人物の数は11人(中大兄皇子、平清盛、源頼朝、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、. 徳川吉宗、ペリー、ハリス、孫文、ヒトラー)と全体からみて低い割合になっている。ま. た、A社の教科書は年間学習指導計画が全88時問で、6つの主な大単元より構成されて おり、これによれば1時間当たり平均して2∼3人、1つの大単元当たりおよそ32人を 取り上げて指導することになる。. そして、前回の教科書(平成14年発行)との比較では、今回新たに追加された歴史的. 人物18人、削除された歴史的人物26人と取り上げる歴史的人物において流動的な側面 も見られる。. 1人でも多くの歴史的人物を掲載することで、現場教員の特色ある授業づくりや地域教 材に幅広く対応することができるという利点も考えられるが、取り上げる歴史的人物を絞 り込んでいかない限り、学習指導要領が期待する歴史的人物を取り上げての歴史学習は難 しい面があるように思われる。. 次に、教科書に取り上げられている歴史的人物に関連する資料の問題性について述べる。. 先述のように190人という歴史的人物を取り上げ、それぞれについて記述する分量が 少ないため、それに関連する資料も自ずと少なくなっているのが現状である。実際、1人 当たりの資料は平均するとおよそ1点という数であり、関連する資料が全く掲載されてい. ない歴史的人物の数は84人となっている。 関連資料の内容は、肖像爾(肖像写真)・地図・写真・想像図・系図・史料例文・模型 図・グラフ・表・年表などと多彩ではあるが、如何せん資料の数が少ないため、教科書本 文で歴史的人物の業績などを語ってしまう形が多く見られる。例えば次のような記述であ る。. 「…奈良時代には、仏教は国家を守り、政治を安定させるカをもっと考えられていまし た。そのため、聖武天皇は、地方の国ごとに国分寺と国分尼寺をつくり、奈良には大仏を まつる東大寺を建てました。」. ここでは、聖武天皇の大仏建立などといった業績を資料から見つけ出し、「聖武天皇は、. どんな願いをもってこのような大きな大仏をつくらせたのか」という学習課題を設定する ことで、聖武天皇による仏教を中心とした国づくりを追究していく学習展開が考えられる。 12.
(16) そのためには、聖武天皇の願いや思いを複数の資料から解釈し、その歴史的事象のもつ意 味について理解を図ることが必要である。その際には、やはり多くの資料が掲載されてい. ることが望ましいが、A社の教科書においてはr東大寺の大仏」の写真が1点掲載されて いるのみである。. このように、1人の歴史的人物に関する資料が少なく、それを補う意味で本文が記述さ. れる形では、学習者の考える材料がないまま答えが示されてしまうことになる。また、資. 料は本文を読むことによって、素通りされてしまう危険性さえ考えられる。つまり、歴史 的人物を中心に据えた歴史学習を試みようとしても、資料の少なさ故、それを読み取り解 釈する活動が困難であるため、結果的に人物中心の歴史学習にはなりえないように思われ る。. (2) 指導方法面(学習課題・発展学習)における課題. 中学校社会科歴史的分野における教科書の指導方法面の課題として、「学習課題jと「発 展学習」の問題性の2点を挙げることができる。 まず、r学習課題」の問題性について述べる。. A社の教科書では、授業1時間単位で小見出しの下に「学習課題」が設定されており、 それに関連する本文の記述量はおよそ2ぺ一ジ分となっている。. r学習課題」の数は75あり、そのうち何らかの形で歴史的人物が該当ぺ一ジ内で登場 する「学習課題」の数は58である。その多くが「平安時代の仏教の広がりや文化は、ど のような背景からつくりあげられたのだろう」といった社会的背景、r中国ではどのよう. な文明がおこり、どのように発展したのだろう」といった歴史的変遷、「元の襲来はどの ようなもので、その後、幕府や御家人にどのような影響をあたえたのだろう」といった歴. 史的影響、r江戸時代には、どんな文化が花開いたのだろう」といった歴史的事実、rl 5世紀の東アジア諸国は、日本とどのようなかかわりをもったのだろう」といった歴史的 関係、「なぜヨーロッパ人はアジアに向かう必要があったのだろう」といった歴史的因果 関係などを問う「学習課題」となっている。. この58あるr学習課題」の中で、歴史的人物(個人あるいは集団)を中心にしている ものは、「藤原氏は、どのようにして勢力を拡大していったのだろう」、「源氏や北条氏は、. どのようにして政治の実権をにぎったのだろうj、r民衆や戦国大名は、どのようにして カを強めていったのだろう」、r天下統一を果たした秀吉は、どのようにして人々を支配 していったのだろう」、r秀吉は、どのような貿易を行い、なぜ朝鮮を侵略したのだろう」. のわずか5つである。個人に至っては豊臣秀吉1人のみである。 これらの「学習課題」に沿って授業が展開されるのであるならば、歴史的人物を中心に. 据えた歴史学習ではなく、上記のような社会的背景や歴史的変遷などの理解に重点がおか れた歴史学習になるものと考えられる。 次に、「発展学習」の問題性について述べる。. 「学習課題」同様、1時間の授業ごとに「学習内容を確かなものにしたり、より深めた. りする活動」、すなわち発展学習の紹介が欄外に設けられている。その数は全部で75あ. り、そのうち何らかの形で歴史的人物が該当ぺ一ジ内で登場する数は56である。その主 13.
(17) な内容と活動例を挙げてみると、r中国と交流のあったローマ帝国は、このころどんなよ うすだったのか、調べてみよう」といづた調査活動を促すもの、rこの時代に、どうして. 日本が律令国家となる必要があったのか、考えてみよう」といった考察を促すもの、r源. 氏と平氏の戦いを調べ、それを地図や年表にあらわしてみよう」、「それぞれの政治改革 の特徴をまとめ、表にしてみよう」といった地図・年表・表作成を促すもの、「インドや 中国の動きが、日本にどのような影響をあたえたのか、話し合ってみよう」といった話し 合い活動を促すもの、「関東大震災の被害を調べ、近年に起きた地震と比べてみよう」と. いった比較調査を促すもの、「アンネ=フランクが残した『アンネの日記』を読んでみよ う」といった関連図書を紹介するものなどに分類される。. この中で歴史的人物(個人あるいは集団)を中心にしているものは、次のわずか8つで あり、9人の個人名が登場するのみとなっている。「聖徳太子にまつわるものや話が身近 な地域にないかを、調べてみよう」、「信長はどのような人物だったのか、調ぺてみよう」、. 「信長と秀吉の天下統一までをくわしく調べ、年表にまとめてみよう」、「関孝和の和算. や伊能忠敬の日本地図などを調べて、現代の学問と比べてみよう」、「孫文の業績につい て、もっとくわしく調ぺてみよう」、「海外で活躍した医学者・自然科学者の業績につい て調べてみよう」、「独立運動にかかわるガンディーと孫文について調べてみよう」、「ム ッソリー二とヒトラーがどのような人物だったのか、くわしく調べてみよう」。. 発展学習の紹介は、1時間の学習内容の定着あるいは深化を意図して設定されたもので あると考えられる。したがって、学習内容との関連性は強く、発展学習の紹介内容にもそ. れが反映されたものとなっている。っまり、発展学習に歴史的人物があまり取り上げられ ていないということは、歴史的人物を中心に据えた学習内容になっていないという表れで あるように思われる。また歴史的人物を取り上げた発展学習を設定することで、学習者の. 歴史的人物に対する興味・関心の喚起を一層図ることが可能であるように思われるが、そ のような意図も発展学習の紹介内容を見る限りにおいてはないようである。 以上、ここまで見てきたように教科書分析からは、教材構成・指導方法の両面において、. r人物数の問題性」、r関連資料の開題性」、r『学習課題』の問題性」、曜発展学習』の問. 題性」の4点を指摘することができる。すなわち、A社の教科書においては、歴史的人物 を主語としていない「学習課題」が多く、歴史的人物にスポットを当てて学習が始められ ない点。また、歴史的人物を取り上げようとしても、掲載人物数の多さが原因で記述量・ 提示資料が不十分な点。そして、学習内容の定着・深化を図る「発展学習」に歴史的人物 が据えられていない点が主な課題として挙げられた。現場教員の多くが教科書に沿って授 業を進めている実情とこれらの課題を合わせて考えてみると、中学校では歴史的人物を中 心に据えた歴史学習を展開していくことが難しいように思われる。. このように、教科書分析の結果を見る限りにおいては、歴史的人物に対する興味・関心 を育て、その役割や生き方などにっいて時代的背景と関連付けて考察させるような教科書 記述・資料提示とはなっておらず、結果的に歴史的人物についての理解を図り、これを尊 重する態度を育てるまでには至っていないように思われる。つまり、先述した学習指導要 領が期待するような歴史的人物を取り上げての歴史学習とはなっていないことが現状であ ると考えられる。. 14.
Outline
関連したドキュメント
学校に行けない子どもたちの学習をどう保障す
tiSOneと共にcOrtisODeを検出したことは,恰も 血漿中に少なくともこの場合COTtisOIleの即行
なぜ、窓口担当者はこのような対応をしたのかというと、実は「正確な取
タカチホヘビ ヤマカガシ ニホンカナヘビ シマヘビ ニホントカゲ シロマダラ ニホンマムシ ニホンヤモリ ジムグリ アオダイショウ ニホンイシガメ
我々は何故、このようなタイプの行き方をする 人を高貴な人とみなさないのだろうか。利害得
このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた
このようなパヤタスゴミ処分場の歴史について説明を受けた後,パヤタスに 住む人の家庭を訪問した。そこでは 3 畳あるかないかほどの部屋に
Rule F 42は、GISC がその目的を達成し、GISC の会員となるか会員の