主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2) : 特別支援学校における“人間関係を形成する力の発達”に応じた支援の在り方
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第62巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.62,No.2. 平成凶年2月 February,2012. 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2) 一特別支援学校における‘‘人間関係を形成する力の発達”に応じた支援の在り方−. 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永長 明之・自府 士孝 秋場いづみ・松木 貴司*・五十嵐靖夫*・北村 博幸*・細谷 一博*. 北海道教育大学附属特別支援学校 *北海道教育大学函館枚. ClassDesignedforHeighteningtheSociability(2) −SupportforChildrenwithaFocusInterpersonalRelationship DevelopmentAbilityinSchoolforSpecialNeedsEducation−. FUJIMURATsutomu,ITOMinoru,WADASatoru,EINAGAHiroyuki,SHIRAFUNoritaka,. AKIBAIzumi,MATSUKIKiyoshi*,IGARASHIYasuo*,KITAMURAHiroyuki*andHOSOYAKazuhiro* SchoolforSpecialNeedsEducationattachedtoHokkaidoUniversityofEducation. *HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEdueation. 概 要 特別支援学校において,主体的に社会にかかわっていくための力を育成するために,授業においてどのよ うな支援を行っていくべきかについて検討を行った。筆者らは,第1論文「主体的に社会にかかわっていく 力を育む授業の創造(1)」において,三項関係を基盤とした,主体的に社会にかかわっていく力を育むための. 3つの授業像を想定し,その妥当性を明確にした。本研究では,この3授業像に対応する効果的であると考 えられた支援の観点を設定した。/ト学部,中学部,高等部の各学部で,設定した支援の観点を基にした授業. 実践を行い,その成果から支援の観点の妥当性を検討した。その結果,三項関係を成立させる授業において は,「情動の共有」及び「共同注意」の支援が有効であることが示唆された。また,三項の関係性を深める 授業においては,「役割の交替」及び「目的の共有」の支援,人間関係が広がる授業においては「自己・他 者理解」及び「状況判断」の支援が有効であることが示唆された。. 害分類改訂版−(ICF)」が採択されて10年が経 問題と目的. 2001年にWHOで「国際生活機能分類一国際障. とうとしている。その間,多くの特別支援学校に. おいては,このICFの考え方に基づいた実践がな. 67.
(3) 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永良明之・自府士孝・秋場いづみ・桧木貴司・五十嵐靖夫・北村博幸・細谷一博. されている。しかしながら,その実践は個々のケー. 「三項関係を成立させる段階」においては,「もの」. スで行われることが多く,授業の在り方全体につ. とのかかわりが重要であり,教材の工夫や教師の. いて触れているものはほとんどない。本研究は,. かかわり方が工夫された授業が望ましいことが示. 特別支援学校の授業の在り方とその支援につい. 唆された。また,三項関係が成立し,「もの」と. て,ICFやこれまでの先行研究で明らかとなって. のかかわりから「ひと」とのかかわりへと広がる. いる三項関係の考え方(例えば熊谷,2006)を取. ようになる「三項の関係性を深める段階」におい. り入れながら,考察を加えることを目的としてい. ては,他者を意識したり,認め合ったりすること. る。. のできるような授業が望ましいことが示唆され. 桧田(2008)は,ICFの特徴は,「環境因子と. た。さらに,人間関係が広がり,集団を意識する. 個人因子を導入し,生活機能の低下(障害)は,. ようになる「人間関係を広げる段階」においては,. それらの背景因子との関係で生じると説明したこ. 意図的に他者を理解したり,場の状況が理解でき. とである」とした。また,右隈・玉瀬・緒方・永. たりするような授業が望ましいことが示唆され. 松(2004)は,1CFの障害概念は障害と環境と. た。先に述べたように,これらの授業の具体像は. の関係を重要視しているとし,関係性の中でどの. 三項関係や集団の形成過程の研究により想定され. 要素とどの要素の間に援助のニーズがあるのかを. たものである。このような授業を行うにあたって,. みていくという観点から作成されているとした。. 支援を考えていく際には,これらの研究の知見が. これらのことから,子どもと環境の相互作用の中. 参考になると考えられる。そこで,3つの授業の. で,子どもたちの障がいを捉えていく必要が重要. 具体像に迫ることができるための効果的な支援の. であると考えられる。. 観点を以下のように想定した。. 学校生括においては,教室環境といった生活環 境や活動の基盤となる学習環境などが存在する。. 三項関係を成立させる授業とその支援. 三項関係が成立する前には,二項関係が存在し. これまで,本校では子どもの身の回りの生活環境. ている。熊谷(2006)によると,二項関係は2種. を構造化という観点で整備し,この環境がどのよ. 類存在する。第1の二項関係は子どもに対して第. うな場所でも同じになるよう,保護者とのミー. 二項が「ひと」になる場合で,第2の二項関係は. ティングを通して子どもの生活環境の整備に配慮 してきた。また,学習環境についても教育課程を. 将来の生活に直結するよう再編成を行うことで整. 「もの」になる場合である。一般的に,第2の二. 項関係は第1の二項関係が成立した後に成立する (熊谷,2006)。しかし,第2の二項関係が成立. 備してきた。より一層子どもたちが,これらの環. しても第1の2項関係が消滅するわけではない。. 境と適切に相互作用していくためには,子どもた. これは,「ひと」「もの」に別々にかかわることは. ちが主体的にこれらの環境にかかわっていくこと. できるが,同時に「ひと」「もの」にかかわるこ. が必要になる。本研究では,このような子どもた. とができないことを意味している。この2つの二. ちが主体的に環境と相互作用している姿を主体的. 項関係から三項関係を成立させていくためには,. に社会にかかわっていく力を発揮している姿と押. 「もの」を介したやりとりを成立させるための支. さえ,その力を育てるための支援を明らかにする。. 援を行っていく必要がある。具体的には自らの注. 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業. 意と他者の注意を関連付けていくことが必要にな. 松木・藤村・伊東・駒野・和田・松倉・自府 (2010)は三項関係の考え方に基づき,主体的に. る。ScaifeandBruner(1975)も,三項関係の 成立と関連して,周囲の環境の中から他者の注意. 社会にかかわっていく力を育む授業の具体像を三. を感じ取り,自らの注意をそこに位置付けること. 項関係の成立過程や健常児の集団の形成過程の研. が可能になるとし,その関連性を明らかにしてい. 究をもとに3つにまとめている。それによると,. る。このような,他者の注意がどこに向いている. 68.
(4) 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2). のかを定位したり,他者の注意や興味を引こうと. な情動に対する理解を促すという視点だけではな. したりする行動や能力のことを共同注意と呼ぶ. く,自分の情動と他者の情動を区別すること,さ. (菊池,2009)。これらのことから,授業におい. らに自己一他者間の間で密接な関係性を築き,そ. て支援を行うにあたっては,共同注意の観点が必. の中で彼らの情動理解を促す必要があると述べて. 要であると考えられる。共同注意はそのかかわり. いる。このことからも,共同行為の重要性が窺え. の度合いから3つに分けられる(長崎・中村・吉. る。Bratman(1992)は,共同行為について3. 井・若井,2009)。これによると,子どもの視線. つの要素で説明している。第1は,活動に関して. に大人が合わせることで成立する「支えられた共. の目的の共有があること。第2は,活動に適した. 同注意」,アイコンタクトが可能で,大人からの. 相互の役割を理解して遂行すること。第3は,活. 働きかけに応じて成立する「受動的な共同注意」,. 動において相互の役割を理解し,役割を果たそう. 子どもから大人の注意の共同を促す「能動的な共. とする他者に必要に応じて支援を行うことであ. 同注意」に分けられる。このことから,共同注意. る。3つの要素を概観すると,子どもの実態に応. の観点を用いて支援を行う際には,子どもの実態. じて,共同行為の目的を共有するための支援が必. に応じて支援を行っていく必要があると考えられ. 要であり,もう1つは役割を交替しながらその役. る。. 割を理解していくことが必要であると考えられ. また,共同注意と同様に,三項関係を形成する. る。菊池(2009)も,相互性の体験,相補性の関. ために必要な支援の要素として,情動の共有が挙. 係を積み重ねることの重要性を説いている。共通. げられる。三項関係は「もの」などを介した子ど. の目標のもとで相互性の体験はなされるし,役割. もと他者の共同行為と考えることができる。. を理解して活動することで,相補性の体験はなさ. Tomasello,Carpenter,Call,BehneandMoll れるものであると考えられる。このことからも, (2005)は,この共同行為に関して,乳児,自閉. 目的を共有したり,役割を交替したりするといっ. 症児などを対象とした研究から,発達の初期の段. た観点をもちながら支援を決定していくことが効. 階では情動の共有が見られ,その後,目標と知覚. 果的であると考えられる。. の共有,意図と注意の共有が見られていくことを. 人間関係を広げる授業とその支援. 明らかにしている。このことから,情動の共有に. 様々な人とつながっていくようになると,集団. 関する支援を行うことで,共同行為の目標に気付. を意識するようになる。先述したように,このよ. いていくと考えられ,そのことはすなわち三項関. うな「人間関係を広げる段階」においては,意図. 係の成立を促すことと考えてよい。. 的に他者を理解したり,場の状況が理解できたり. 以上のことから,三項関係を形成する授業を行. するような授業が望ましい。人間関係を広げるに. うにあたっては,共同注意及び情動の共有の観点. あたっては,大勢の他者の中での自分の存在を位. をもちながら支援を決定していくことが効果的で. 置付けていく必要がある。二項の関係性を深める. あると考えられる。. 授業の中で,目標の共通や役割の交替の観点で支. 三項の関係性を深める授業とその支援. 援を受けることで,他者と自己が比較される。こ. 三項関係が成立すると,「もの」だけではなく, 「ひと」とのかかわりも広がっていく。先述した ように,この段階においては他者を意識したり,. の比較を様々な他者で行うことを繰り返す中で, 集団の中の自己が位置付けられていく。菊池 (2009)は,他者を理解するということは,自己. 認め合ったりすることのできるような授業が望ま. と比較することで可能となり,自己を理解するこ. しい。そのためには,授業において,共同行為を. とは,他者と比較することで成立すると述べてい. 行う中で,自分の行為の中に他者の行為を位置付. る。このことからも,自己と他者を比較すること. けていく必要がある。菊池(2009)も単に無人称. は必要であり,そうすることで自己理解と他者理. 69.
(5) 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永良明之・自府士孝・秋場いづみ・桧木貴司・五十嵐靖夫・北村博幸・細谷一博. 解が相補的に促進されていく。以上のことから,. れに伴う支援の観点をもとに,小学部,中学部,. 授業を行っていくにあたっては,自己・他者理解. 高等部においてそれぞれ3つ,計9つの授業案を. の観点が必要であると考えられる。. 作成し,各学部で想定された授業像に沿ったもの. また,集団の中で活動していく際には,様々な. であるか,想定した支援の観点が適切に用いられ. 状況の変化があり,その場に応じた行動が必要に. ているかについて吟味を行った。授業実践後,各. なる。そのためには,先に述べた自己・他者理解. 学部で授業における子どもの姿を交流し,子ども. が必要であるが,それだけでは集団の活動の中の. が主体的に「もの・こと・ひと・集団」にかかわっ. 自分の役割を自覚するには不十分である。場に応. ているかどうかについて考察を行った。考察は各. じた状況判断が求められ,そのための支援が必要. 学部の複数の教員で行い,同じ内容と思われる考. であると考えられる。熊谷(2006)は,三項関係. 察を採用することとした。考察はもの(教材)と. に基づき,自閉症児の発達を4つに分けている。. かかわっていると思われる活動の量,及び活動の. その中で,自己・他者理解が可能になっていく第. 質的な変化,ひと(友だちや教師)とかかわって. 4段階では,経験を照合してルール化していくこ. いると思われる活動の量,及び活動の質的な変化. とに課題があり,そのためにソーシャルストー. を取り上げ,その量的・質的な変化を総合的に判. リーなどの支援を用いて社会的場面でどのような. 断し,支援の観点の妥当性を検討した。授業はす. 行動をしたらよいかを示すマニュアルが必要であ. べて自立活動の時間における指導の中で行い,ね. ると述べている。これはつまり,状況を判断する. らいも自立活動のねらいとした。. ための支援が必要であることを意味している。. 以上のことから,人間関係を広げる授業を行う 授業実践. にあたっては,自己・他者理解及び状況判断の観 点をもちながら支援を決定していくことが効果的. 想定された支援の観点を用いた計9つの授業実 践のうち,3授業の実践例を以下に示す。以下に. であると考えられる。. 示す記録は,実践のもとになった指導案,及び授 本研究では,以上のように,三項関係を成立さ せる授業,二項の関係性を深める授業,人間関係. 業後にまとめられた授業記録をもとにまとめ直し たものである。. を広げる授業という3つの具体的な授業の具体像 を想定し,それに伴う効果的な支援の観点を想定. 実践1 三項関係を成立させる授業とその支援. した。このような支援の観点を用いて授業実践を. 先に述べたように三項関係を成立させる授業に. 行い,支援の観点の妥当性を検討した。. おいては,共同注意及び情動の共有の観点をもち ながら支援をしていく必要がある。そこで,小学 部において以下のような手続きにより授業を行っ. 方 法 対象児. 北海道教育大学附属特別支援学校小学部,中学 部,高等部の3∼7名で構成される小集団グルー プ(9グループ)で授業実践を行った。 実践期間. 2010年5月∼2011年2月に実践した。 手続き. 先に述べた3つの具体的な授業の具体像及びそ. 70. た。 1)手続き. (手単元名 みんなで遊ぼう わくわくドミノ (卦単元目標. ・ みんなで並べたドミノ倒しの様子を先生や友 だちと一緒に見て喜ぶ。 (卦対象児童. 小学部1年生1名,2年生2名,5年生1名, 計4名。自閉症,知的障がい,ダウン症の児童で.
(6) 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2). 構成されていた。. などを行った。. 友だちと一緒に並べたドミノを倒す場面におい. (彰児童の実態. 教師とのかかわりについては,遊び活動の際に,. ても共同注意の観点から支援を行った。児童の興. 子どもの方から声をかけたり,手を引っ張ったり. 味を引くよう,ドミノ倒しの最後の場所に大きな. して自分の要求を伝え,かかわりを求める様子が. 旗を用意し,最後までドミノが倒れるとその旗が. 見られる。また,ゲームをしている時に,「やった,. 上がるような仕組みを用意した。その旗が上がる. 勝ったね」や「よかったね」という教師の言葉が. 直前に児童の実態に合わせ,支えられた共同注意. けにうれしそうに応える様子が見られた。一方,. の観点から,最後の仕掛けを指差し,「もうすぐ. 子ども同士のかかわりについては,教師の支援が. あがるよ」といった期待感がもてるような言葉が. あると成立するようになってきている。. けをするとともに,教師も一緒に見ているという. (彰指導計画. ことを指差しなどで伝えたり,能動的な共同注意. Tablelのように授業の単元指導計画を作成し. の観点から,児童の先生に見て欲しいという仕草. た。本単元では,様々な素材(木やダンボール等). が見られるまで待ったりするという支援などを. の大小様々なドミノを用意し,ドミノ倒しを行っ. 行った。. た。単元前半ではそれぞれがドミノを並べ,ドミ. ドミノが倒れている場面においては,情動の共. ノ倒しを楽しんだ後,単元後半では友だちとドミ. 有の観点から支援を行った。嬉しそうな様子を言. ノを一緒に長くつないで,倒すという活動を行っ. 葉にして置き換えて児童に伝え返したり,児童か. た。ドミノへの関心が高い子どもたちであったた. ら出た言葉を真似したりして共感していることを. め,ドミノという「もの」へのかかわりの中で「も. 伝えた。また,児童から出たハイタッチに積極的. の」だけではなく,教師や友だちという「ひと」. に教師が応じるなどの支援を行った。. へと目を向けていくことができるであろうと考え. 2)結果(児童の変容). ドミノを並べる場面では,授業時数の進行とと. た。. もに,自分の並べるドミノに注目するだけではな Tablel/ト学部の授業(みんなで遊ぼう わくわく ドミノ)の単元指導計画(全5時間) 授. 業. 名. く,友だちが並べている様子にも注目し,ドミノ. を並べ終わるのを期待している様子が確認され 授業時間. た。このことから,児童とドミノという「もの」. ドミノ倒しの倒し方を知ろう. 1時間. とのかかわりから,児童と一緒に活動している友. いろいろな素材でドミノ倒しをしよう. 1時間. だちといった「ひと」へのかかわりに広がったと. 先生と一緒にドミノ倒しを楽しもう. 1時間. 考えられる。. 友だちと一緒にドミノ倒しを楽しもう. 1時間. また,ドミノを倒す場面では,授業時数の進行. みんなでドミノ倒しを楽しもう. 1時間. とともに,友達が並べたドミノが倒れるのを見て,. 教師と一緒に楽しむ様子が確認されるようになっ (参支援の方針. ドミノを並べる場面では,共同注意の観点から. た。さらに,ドミノがうまく倒れなくて床に倒れ. こむなど,自分なりの表現で感情を表出している. 支援を行った。一人でドミノを並べる場面では,. 様子も見られるようになった。このことから,ド. 児童の実態に合わせ,支えられた共同注意の観点. ミノという「もの」とのかかわりを深めているこ. から,教師も一緒に並べていることを伝えるため,. とが確認された。. ドミノを指差しながら支援を行ったり,能動的な. 3)考察. 共同注意の観点から,児童の先生に見て欲しいと. 共同注意や情動の共有の観点を用いて支援を行. いう仕草が見られるまで待ったりするという支援. うことで,自分のドミノを並べることに関心をも. 71.
(7) 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永良明之・自府士孝・秋場いづみ・桧木貴司・五十嵐靖夫・北村博幸・細谷一博. つだけではなく,友だちの活動にも関心を広げる. かかわりになることが多い。. など,「もの」とのかかわりを深めるのと同時に,. (彰指導計画. 教師や友だちといった「ひと」とのかかわりを広. Table2のように授業の単元指導計画を作成し. げていくことが明らかとなった。このような「も. た。本単元では,友だちと一緒にラリーの目標回. の」とのかかわりの深まりや「ひと」へのかかわ. 数を設定,2∼3名に分かれ,コートをはさんで. りの広がりは,小学部の他の2授業においても確. 向かい合い,風船を打ち合う活動を行った。本活. 認された。また,支援によって,児童の感情表出. 動は,風船を用いて自分たちで設定した目標回数. の広がりも見られることが明らかとなった。. 以上にラリーを続けられるとよいというルールで. 以上のことから,三項関係を成立させるための. ある。本活動はルールが明確であり,目標ももち. 授業を行っていくためには,共同注意を促す支援. やすい。相手に取りやすく風船を打ち返すとラ. を児童の実態に合わせて行ったり,情動の共有を. リーが続きやすくなり,目標回数に近づきやすく,. 意図的に行ったりしていく支援が重要であること. チームにとって有益になるというゲームの特性も. が示唆された。. あり,相手も意識しやすい。このような活動を繰. 実践2 三項の関係性を深める授業とその支援. り返すことで,集団を意識したり他者の感情に気. 先に述べたように三項関係を深める授業におい. 付いたりすることができると考えた。. ては,目的の共有及び役割の交替という観点をも ちながら支援をしていく必要がある。そこで,中. 学部において以下のような手続きにより授業を. Table2 中学部の授業(つなげよう!風船バレー) の単元指導計画(全12時間). 授. 行った。 1)手続き. (手単元名 つなげよう!風船バレー (卦単元目標. 業. 名. 授業時間. 風船バレーのルールを知ろう 2人で風船バレー 4人で風船バレー. ・仲間と役割(打つ,回数を数える,交互に打 ち合うなど)を交替しながら,活動に取り組む ことができる。. ・相手が取りやすいように工夫しながら,風船 バレーを長く続けることができる。 ・結果について,思ったことを表現する。 (卦対象生徒. 中学部1年生2名,2年生1名,3年生2名,. (彰支援の方針. 授業最初のラリーの目標回数を決める場面にお いては,目的の共有の観点から支援を行った。前. 回までの記録を教師が提示したり,生徒の発言を 促し,その意見をまとめるなどの支援を行なった りして,達成感を味わうことのできる目標が設定 できるよう支援した。また,ラリーが終わり結果. 計5名。自閉症,知的障がい,高機能自閉症の生. を発表する場面においても,目的の共有の観点か. 徒で構成されていた。. ら支援を行った。回数の発表の係を決めて,発表. (彰生徒の実態. をしやすいようにしたり,感想の例を提示して子. 興味のあることに関しては,独自の表現を用い. どもたちの感想を出しやすいようにしたりして,. ながら相手にかかわろうとする姿が見られ,身近. 互いに称賛できるような場の設定を行い,目的が. な大人など意図を汲んで接してくれる人とは相互. 達成できた達成感を共有できるように配慮した。. のやりとりや活動が成立する。一方,生徒同士で. 実際に風船バレーのラリーを行っている場面に. は,相手の状況に合わせて話しかけること,相手. おいては,役割の交替の観点から支援を行った。. の反応を待つこと,かかわるきっかけとなる適切. 相手が打ちやすいような返し方をするよう促し,. な言葉を伝えることなどに課題が多く,一方的な. 相手が打ちやすいような返し方をした場合には称. 72.
(8) 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2). 賛し,風船を打つ,風船をもらうの役割を意識し. 実践3 人間関係を広げる授業とその支援. やすいように配慮した。また,風船を打ち合う相. 先に述べたように人間関係を広げる授業におい. 手を意識しやすいよう,顔写真の描かれたカード. ては,自己・他者理解及び状況判断という観点を. などを用いて一緒に活動する生徒を伝えた。. もちながら支援をしていく必要がある。そこで,. 2)結果(生徒の変容). 高等部において以下のような手続きにより授業を. みんなで決めた目標回数をクリアするという共 通の目的を目指す支援を行うことで,授業時数の. 行った。 1)手続き. 進行とともに,目標を達成した時にはハイタッチ. (手単元名 心をひとつに∼仲間と気持ちよく活動. をしたり,自分なりの喜びの表現をしたりしてい. するために∼. る様子が確認されるようになった。また,支援に. (卦単元目標. より相手が明確になったこともあり,授業時数の 進行とともに,相手に対して取りやすいパスを出. ・ やりとりの中で他者の気持ちの変化に気付 き,自分の言葉や行動を調整できる。 意見の意図に注目し,仲間と一緒によりよい. すようになった。これらのことから,他者を意識 している様子が見られるようになったと考えられ た。. また,失敗してしまった友だちを励ますような 言葉をかけたり,ボールに触れる回数の少ない友. 考えを作り上げられる。 ・全体の状況を確認しながら物事を進められる。 (卦対象生徒. 高等部1年生1名,2年生1名,3年生4名,. だちにパスをしたりするなど,他者の感情を意識. 計6名。自閉症,知的障がい,広汎性発達障害,. した行動も見られるようになった。. ADHDの生徒で構成されていた。. 3)考察. (彰生徒の実態. 授業を行った結果,上記のように友だちに積極. 集団の決まりや手順を理解して参加できる。他. 的にかかわっていく様子が見られるようになっ. 者と相談をしながらゲームの達成を目指す活動の. た。つまり,「ひと」とのかかわりの量が増加し. 中で,他者の言動に目を向けたり,全体の状況を. たり,かかわりの質的な変化が見られたりした。. 確認したりしながら適切な行動を取れる場面が増. また,中学部における他の2授業においても類似. えている。また,他者の意見を受け入れ自分の意. した結果が見られた。このことから,三項の関係. 見との調整を試みる場面や,他者が行動しやすい. 性を深めるための授業を行っていくためには,目. ような工夫を試みる場面も見られる。他者の感情. 的が共有できる活動を生徒の実態に合わせて工夫. の理解やそれを踏まえた行動の調整が課題であ. したり,役割を交替することで,立場によっての. る。. 感情の感じ方の違いを体感したりするなど,目的. (彰指導計画. の共有及び役割の交替の観点を用いた支援が重要 であることが示唆された。. また,チームの目標の達成に伴って情動を友だ. Table3のように授業の単元指導計画を作成し た。本単元では,生徒全員の関心の高いテレビ番. 組のCM作りを行った。単元前半では,話し方・. ちと積極的に共有するといった集団を意識してい. 聞き方と他者の感じ取り方の関係や自己と他者の. ると思われる行動も見られるようになった。岩田. 意見の意図の存在についての学習を行った。そし. (2001)は発達に伴い,「私たち」すなわち集団. て,単元後半にCM作りを行った。CM作りは,. を意識した行動をするようになることを明らかに. 時間的制約があり,内容を絞る必要がある。その. している。本授業の子どもたちも,チームを意識. ため,内容決定や撮影の場面において友だちと相. しており,発達に伴って集団を意識していくこと. 談する必然性や他者の感情に配慮したり,状況を. も明らかとなった。. 判断したりする必然性が生まれやすい。このよう. 73.
(9) 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永良明之・自府士孝・秋場いづみ・桧木貴司・五十嵐靖夫・北村博幸・細谷一博. な活動の中で,集団の中の自分の存在に気付いた. た。. り,他者の感情に気付いたりしていくことができ. 3)考察. 授業を行った結果,上記のように他者にかかわ. ると考えた。. りながら自己を調整したり,場の状況に応じて判 断を行ったりする様子が見られるようになる等,. Table3 高等部の授業(心をひとつに∼仲間と気持 ちよく活動するために∼)の単元指導計画(全. 「ひと」とのかかわり方において質的な変化が見. 7時間). られた。また,高等部における他の2授業におい 授. 業. 名. 授業時間. かかわり名人になろう. 4時間. 心を一つにCMをつくろう. 3時間. ても類似した結果が見られた。. 以上のことから,人間関係を広げるための授業 を行っていくためには,自己の行動が他者にどの ような影響を与えているかについて気付くよう支. (釘支援の方針. 授業の最初にはCMのキャッチフレーズを決. 援するといった,自己・他者理解の観点を用いた 支援が重要であると同時に,人とのかかわりの中. める話し合いを行った。その際には自己・他者理. で変化する判断の過程などに気付くように支援す. 解の観点から支援を行った。他者に対して共感的. るといった,状況判断の観点を用いた支援が重要. な返事をした際に,その行動が他者にどのように. であることが示唆された。. 受け止められるかについて伝えたり,共感的な様 子が見られた際にはそれをどのように伝えるとよ いかについてモデルで示したりした。. カメラ係や撮影監督,タレント係などの係を決. 総合考察. 予め想定されていた3つの授業の具体像に迫る. める際には,状況判断の観点から支援を行った。. ため,効果的であると想定した支援の観点が適切. 自分の希望の係を相手に譲る際には,その判断の. であったかについて授業実践で検証した。/ト学部. 過程を教師が伝え返すなどして状況判断の理由を. では,三項関係を形成させるための授業が行われ. 明確にするようにした。. た。これらの実践から,三項関係を成立させる授. 実際のCM撮影の際にも,状況判断の観点か. 業においては,共同注意及び情動の共有の観点を. ら支援を行った。他者の担っている係の進行状況. もちながら支援にあたることの重要性が示唆され. や,準備ができているかどうかなどについて,理. た。また,中学部では,三項の関係性を深めるた. 解できるようにそのつど生徒に質問したり,注意. めの授業が行われた。これらの実践から,三項の. を促したりするように支援した。. 関係性を深める授業においては,目的の共有及び. 2)結果(生徒の変容). 役割の交替の観点をもちながら支援にあたること. CMを撮影する場面では,授業時数の進行とと. の重要性が示唆された。高等部では,人間関係を. もに,ビデオに写りこむ机を自分から外によけた. 広げるための授業が行われた。これらの実践から,. り,ビデオの背景を調整したりする姿が見られる. 人間関係を広げる授業においては,自己・他者理. ようになった。このことから,状況を判断しなが. 解及び状況判断の観点をもちながら支援を行うこ. ら行動していると考えられた。また,CMの. との重要性が示唆された。. キャッチフレーズを決める場面では,授業時数の. 熊谷(2006)は,自閉症児の社会性の発達につ. 進行とともに,先に出した自分の意見について,. いて,それまでの自閉症に関する研究を概観し,. 友だちの意見を参考にして変更をするなどしなが. 三項関係に基づき,4つの段階にまとめている。. ら話し合いに参加するなど,他者とのかかわりの. これによると,各段階には,自閉症のつまずきが. 中で自己を調整している姿が見られるようになっ. 存在し,それに適切な支援が必要であるという。. 74.
(10) 主体的に社会にかかわっていく力を育む授業の創造(2). 第Ⅰ段階では,視線の不一致や常同的・反復的な. 理解を促すことが必要であると言い,それが情動. パターンとなりやすいことが課題となり,第Ⅲ段. すなわち自己と他者の感情の理解につながってい. 階では,共同で行為を進めるために必要な,待つ. くという。本研究に置き換えると,三項関係を成. こと,誘うことが身に付きにくいこと,第Ⅲ段階. 立させる授業における情動の共有の観点は,人間. では,集団の中でそれぞれの人がどのように役割. 関係を広げる授業における自己・他者理解と関係. を分担し,自分はその中で何の役割をしていくか. すると思われる。今後は各観点間のかかわりや系. について理解を進める必要性,第Ⅳ段階において. 統性を明らかにしていく必要があるだろう。. は,相手の立場や感情の理解が必要であり,自分. の体験と人の体験を比較して共通点を見つけた 引用文献. り,一般的なストーリーと照らし合わせたりする ことが必要であるという。熊谷(2006)にある自 閉症児のつまずきと,本研究を比較すると共通点 がみえる(松木ら,2010)。第Ⅰ段階及び,第Ⅲ. Bratman,M.E.(1992).Sharedcooperativeactivity.Phi− わぶ坤ゐオc(77月g〃わぴ,101(2),327−341. 石隈利紀・玉瀬耕治・緒方明子・永松裕希(2004).学校. 心理士による心理教育的援助サービス 北大路書房. 段階における支援は本研究の三項関係を成立させ. 岩田純一(2001).〈わたし〉 の発達 ミネルヴァ書房. る授業と類似している。熊谷(2006)は,視線の. 菊池菅平(2009).自閉症児における自己と他者,そして. 不一致や共同での行為に必要な二者関係の在り方 を述べており,このことは共同注意及び情動の共. 情動 ナカニシヤ出版 熊谷高幸(2006).自閉症一私とあなたが成り立つまで−. ミネルヴァ書房. 有の支援の観点に対応している。また,第Ⅲ段階. 松田次生(2008).〈わたし〉 の発達 ミネルヴァ書房. は二項の関係性を深める授業と類似している。集. 松木貴司・藤村敦・伊東芙・駒野司・和田悟・松倉泰. 団の中での役割の分担の必要性は役割の交替の支 援の観点と対応している。また,自分が集団の中. で,どのような役割をしていくかについて理解を 深めるには役割の分担だけでは不十分であり,集 団の目的を理解するという支援の観点も必要であ ろう。さらに,第Ⅳ段階における支援は人間関係. を広げる授業と類似している。相手の立場や感情 の理解を促すには,自己・他者理解の観点での支 援が必要であるし,自分の体験と人の体験を比較 して共通点を見つけたり,一般的なストーリーと. 介・白府士孝(2010).主体的に社会にかかわっていく 授業の創造(1)一人間関係を形成する力の発達に焦点を あてて一 北海道教育大学紀要(教育科学編),61(1), 115−122.. 長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009).自閉症. 児のための社会性発達支援プログラム 日本文化科学 社 Scaife,M.,&Bruner,C.(1975).Thecapacityforjoint Visualattentionintheinfant.Ndure,253,265−266. Tomasello,M.,Carpenter,M.,Call,J.,Behne,T.,&Moll, H.(2005).Understandingandsharingintentions:The Originsofculturalcognition.BehavialandBrainSci− g乃C(ヲ∫,28,675−691.. 照らし合わせたりするためには,集団内の自分と いうものを見出すための状況判断の観点での支援 が必要である。これらのことからも,本研究で明 らかになった支援の観点は妥当なものであったと 考えられる。. 今回想定された3つの授業の具体像及びそれに. 付 記 本稿は,北海道教育大学附属特別支援学校,研. 究紀要第25号及び,平成22年度北海道教育大学附 属特別支援学校公開研究協議会指導案集をもと. 対応する6つの観点は,これまでの先行研究から. に,同校研究部を中心にまとめ直したものである。. 見出したものである。それゆえ,その観点間の系. なお,実践をまとめるにあたっては,授業者であ. 統性は検討されていない。菊池(2009)は自閉症. る本校の永田由紀教諭(小学部),根山智美教諭(小. 児への対人関係性の発達支援を行う際には,自己. 学部),宮下知子教諭(中学部),永長明之教諭(中. 一他者の2著聞係が重要であり,その中で情動の. 学部),大澤潤子教諭(高等部),加藤琢也教諭(高. 75.
(11) 藤村 敦・伊東 実・和田 悟・永良明之・自府士孝・秋場いづみ・桧木貴司・五十嵐靖夫・北村博幸・細谷一博. 等部)に実践事例の提供をいただいた。. (藤村 敦 附属特別支援学校教諭) (伊東 実 同校教諭) (和田 悟 同校教諭) (永長 明之 同校教諭) (自府 士孝 同校教諭) (秋場いづみ 同校教諭). (松木 貴司 函館校教授) (五十嵐靖夫 函館校准教授) (北村 博幸 函館校准教授) (細谷 一博 函館校准教授). 76.
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