中学校音楽における歌唱指導 : 発声指導に関する一考察
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(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部A) 第45巻 第2号. 平成7年3月. Se i I i fEduca i lo f Hokka ido UD i t t t Journa c onIA)VO ver s on( yo -45 .2 , No. March , 1995. 中学校音楽における歌唱指導. 発声指導に関する一考察-- 野. 田. 鷹. 志. 北海道教育大学札幌校声楽研究室. はじめに 歌唱において, 発声は音楽的表現に関わる全ての要素と密接な関係を持っており, その善し悪しが表現の 可能性を大きく左右するといえる‐ 歌唱のための声というのは, 話し声とは機能的に全く別のものであり, 普 段, 日常 生 活 の 中で はほ と ん ど使 わ れる こ と がな い‐ 従 っ て, 歌声 の ため に特 に必 要とさ れる 筋 肉 の訓 練. なくしては, 声楽的な, 自由で伸びがあり, しなやかにして存在感のある歌声は決して望めないのである‐ しかしながら, 発声訓練というのは考えようによっては非常に難しいものである‐ 学校教育において÷ 歌唱 指 導の 中 で発声ま で 取り 上 げて指 導 して いる とこ ろ は少 な い‐ もち ろ んそ れ には, 発 声 の難 しさ だ けではな い, いろ い ろ な 理 由 が考 え ら れる‐ 中学 校 で は, 生徒 たち が変声期 を迎 え, ある い はそ の直 後 にあ っ て, 声. をうまくコントロールできないということもあるだろう‐ また, 授業としてそれを取り上げるだけの十分な 時間がないということもあるかもしれない‐ しかしそこに, 発声を指導することに対する教師の迷いという ものはないだろうか‐ どのようなメ ソー ドを使っ て, どの程度時間を掛けるのか‐ また, 集団を指導すると き の問 題 は どう な の か‐ 人は 皆違う 顔 を して いる. こ の違 い は, 持 っ ている 楽 器の 違い を意 味 している‐ こ. の場合, 違う も の を同 時 に指 導する こ との 難 しさ は避 けら れな い の である. そ して, 発声 にはいろ いろ な 主 義主張があり, メソー ドの数や種類も非常に多く, ほとんど声楽教師の数ほどあるのではないかと思われる ほどである‐ 一方では, こう した情報の氾濫がさらに問題を複雑にし, 発声をより分かりにくいものとして いる現実がある. こう した難しさはさらに, 発声に対する誤った考え方を生み出す原因ともなっている. 本論は, 歌唱指導が最も難しいと言われる中学校における現状を分析し, 発声指導の必要性を説くととも に, 発声の概念についての分析と比較的多く見られる誤っ た歌声における機能面からの分析を通して, 導入 段階での発声指導のあり方を考察するものである‐. 1. 現状分析 音楽の授業において, 歌唱が占める時間の割合は, 器楽, 理論, 鑑賞などに比較して大きいといえる. そ の理由の一つ としては, 歌は誰にとっ ても身近なものであるということが挙げられるだろう‐ 楽器を用意す る必要もなく, いつでも, どこでも, 簡単にできるのである‐ また, それに加えて指導方法も, 生徒の力量 に 合わ せ て いく ら でも 変 え ら れる, とい う 利 点 もあ る‐ 質さえ 問 わ な けれ ば, 楽 器と しての 声 は だ れでも 持. っ ているし, たとえ楽譜が読めない子がいたとしても, 口伝えで耳から教えることも可能である. 歌える子 に混 じっ て 声を 出 してい れ ば, いつ しか覚え て しまう も の だか ら‐ この よう に, 歌 は 身近 なも の であ り, どの段 階か ら でも 入 っ て行 ける も の である. ま た, 教科書 を初 め と 121.
(3) . 野 田 膳 志. して, 市販されている独唱, あるいは合唱用の楽譜な ども含めると, 教材も豊富であるから, 授業に取り上 げる も の と して, こ れ程 扱 い易く, 便利 なも の はな いの である.. 歌唱における利点であるこの手軽さは, 一方では注意を要する‐ どの段階からでも入れるということは, 言 い方 を 変 え れ ば, どの 段 階でも 終 える こ と ができる と いう .こ と である. 授 業の 中 で, ま ず, この こ と だけ. は教えなければ音楽にならない, という導入段階における進度を示す基準が分かりにくい‐ リコーダーを教 材として取り上げたとき, 指使いを教えずに, 曲を演奏することなどできるだろうか. 鍵盤楽器を取り上げ たとき, 音階の位置を教えずに, 演奏することなどできるだろうか‐ 歌の場合には, 特に出し方を教えなく とも, 発声器官に特別病的な障害がない限り, 誰もが簡単に自分の声を出すことができるのである. しかし 極一 般 的なク ラス では発声 法 を心 得 ている 生徒 な どはもち ろ んい ない‐ 従 っ て, 声 の 出る 量 という の は, 歌 う こ との 好 き なク ラス と嫌い なク ラス, 元 気 がよく 活発 なク ラス とお とな しいク ラス な ど個々 のク ラス が持. っ ている独自の雰囲気, あるいは個人の性格, その時の精神状態等, 発声技術以外の要素によって左右され るのである‐ 教師からの指示も, 発声法の技術に関するものは全く為されないか, 必要最小限に押えられ, 生徒の気持ちを歌に集中させること, あるいは歌を楽しく歌える方向へ導くことから始められる. このこと は, 歌唱の授業を成功させる上で, まず最初にやらなければならないこととして, 多くの教師が指摘する と ころである‐ ある程度声が出てく、 る と, リ ズム, 音程, 言葉’ 曲想の問題へと進むのである‐ 授業の中の歌 唱指導では, これらの順序はさておき, おおよそ以上の内容が展開される. この場合, 声の出方というのは, 発声法というよりは, 教師の生徒に対する精神面での働き掛けに全てが掛かっている といえる. ここで ”あ る程度声が出てくる” ということについて考えてみる‐ この言葉はいかにも暖味な表現のように見えるが, 他に適切な言葉は見当たらない‐ 声の出方にはそれを表す尺度はない‐ 何を以て “ある程度” と言うのだろ うか. これは授業における, あるクラスの始めの数時間とその後の変化を比較して表わした言葉である. 故 ・ 声量が増し, 声に輝 にこのことは当該クラスの授業を担当している教師だけが判断できることなのである. きが出てきた時点をもってある程度声が出 てきた, と判断するクラスもあれば, 小声で消極的ながらもほぼ 全員が歌っている と思われた時点がそれである, とするクラスもあるだろう. これが先に述べた “どの段階 でも 終える こ と ができる“-と いう こ と である」 この 場 合の 声 の出方 につ い て は, 例 え ばグ レー ドのよう な,. 進度を客観的に位置付ける尺度となるものは存在しない. 歌唱の第一歩である歌声を出すということに関し て教師は専門的な発声技術というよりはむしろ, 精神面での働き掛けを中心に展開しなければならない. そ うかの判断は, 教師の主観に委ねられているのである. 手軽に取り組めるはずの歌 して, 声が出ているかど‐ 唱指導であるが, 歌声を出すという最も基本的な問題について, また場合によっては, 歌唱の授業そのもの の成立を左右し兼ねない程の重要なこの問題について, 教師は具体的に何を どのように捉えて指導すべきな の か, そ してその 結 果 につ い て どの様 に判 断す べき な の か, と いう こ と が一切 明確 にさ れていな い の である‐. 生徒に対する精神面での働き掛け, そこでは教師の志向や心的内面が反映される. 教師自身の音楽そのもの に対する情熱, 生徒と一緒にいい歌を歌おう とする熱意, 性格や人間性も相僕って, 全て生徒の前に映し出 されるのである‐ それらのものを背景として, 指導上の具体的なアイディアが試みられる. 生徒達の心を刺 激し, 教師の言葉が説得力を持つためには, 教師一人ひとりが独自の, あるいは自分に合った方法を見出だ すことが重要である‐ 生徒に対する精神面での働き掛けについて述べることはこの論文の趣旨ではないので これ以上深入りはしないことにする‐ しかし, これは音楽教師にとって大きな問題といえる だろう‐ 研究会 等 で度々 テ ー マ と して掲 げら れる 所 以 である.. 量としての声を出すということは歌唱指導の第一歩であるということを述べてきたが, それでは次に, 質 の 問題 は どう であろう か. ある 教 師 はこ のよう に言 っ て いる‐ 「(一年 生の授 業 にお いて) 最初 の1, 2 時間 はあ まり 発声 のこ と につ い て は言 わ ない んです. けれ ども, そ のまま でいく と, 地 声 で 『ウ ァ ー ン』 と 張り 122.
(4) . 中学校音楽における歌唱指導. )歌声に対するこの認 上げて, 音楽の美しさをあまり感じないで歌を歌っ てしまう子たちが育ってしまうJI 識の仕方は全く正しい. 量としての声を出させることに成功したこの段階での生徒の歌声というのは, 地声 で, 響きは重く, このような声の出し方の当然の結果として, 音程は定まらず, 言葉は母音・子音ともに不 明瞭で, リ ズムも音楽的な切れ味の良さからはほど遠い状態となっている‐ このような問題を抱えた声とい う の は, こ のまま では 歌唱 に適 した もの と は 言え な いの である‐ 歌唱 と しての 完成 度 を引 き上 げる ため に,. 一応音が取れて声が出てきたこの段階で, 直ちにリ ズムや音程の整理, 発音の直し, 更にはディナーミクに 関する諸注意な どに取り掛かるのは間違いである と言わなけれ ばならない‐ リ ズム, 音程, 発音, 表現は, いずれも個々に独立した問題ではなく, それぞれが発声と密接な関係を持っており, 決して切り離して考え ることなど出来ないものなのである. 正しい発声法なくして, それらを修正することは不可能である. 彼ら の 声 を ピ アノ に例 える な ら ば, 厚 い毛糸 の 手袋 を はめ た子供 に ピ アノ を弾 かせ て いる よう なも ので ある. 無 理 か らぬこ とと して, リ ズ ム やタ ッ チ が乱 れ, 音色 が揃 わな い, 指 が纏 れてう まく 回らな い, 手 がよく 開 か. ずに隣の鍵盤を引っ掛けるなどのことがおこるだろう‐ 音楽的なことに関して教師がいくら注意を与えたと ころ で, ま た生 徒 が一生 懸 命 にそ れ を実 行 しよう と した ところ で, 根 本的な 問題の 解 決 に はな っ てい な いの. である. これではいい演奏ができる筈はない‐ 音楽的な諸注意を与える前に, はめている手袋を外すよう指 示しなければならないのである‐ 歌唱の場合, 彼らの声は正にこの状態にあるということを認識する必要が ある‐ こ こ にお い て 是非 とも, 発 声の指 導 が必 要 となる の である‐ 正 しい 発声 法 によ らない, そ の 時 の気 分. や勢いに支配された歌声というのは, 声楽発声法の観点から見ると, 発声器官各部の総合的な働きにおいて, 著 しく バ ラ ンス を 欠 い たも の と な っ て いる. に の 声 につ い て は, W で 音 声 生理 学 的 に分析 する). ま た こ の. 声は, 音楽的な歌唱に必要不可欠な, 声の自由さとしなやかさというものを全く失っているのである‐ さら に無視できないこととして, 自由さとしなや かさを伴わない声は, もともと音楽の好きな子にさえも, “歌 は嫌い” と言わせてしまう程の影響力をもっ ている. 生徒の興味深い言葉として, “音楽は好きだけれど, 歌うのは嫌い” という のを聞くことがある. この言葉は, 音楽的に不快感を覚える自分の声に対する嫌悪, 声を出す時に伴う身体的苦痛, 音楽的表現が儒ならない声に対する欲求不満, これらのことを端的に表した ものといえるが, いずれも非音楽的な歌声が原因となっ ているのである. 音楽が好きでも嫌いでもどちらで もない子にとって, その子が接する音楽の中で最も身近にあるものが歌であると したなら, いい声で歌える かどうかということは, 歌のみならず音楽そのものを好きになるかどうかの大きな問題をも含んでいるとい う こ と がで きよう‐ 歌 唱 にお ける 発声 の 問 題 につ いて は, 単 に声 の質 や 音色 の 問 題 で はなく リ ズ ム ▼音 程 , , , 発音 はもちろ んの こ と, 音楽 的 表現 の 全て と密 接 に関 わ っ ている という こ と そ して 歌 を好き になる ため , , には, ま ず 第 一 に克 服 しな け れ ばな らな い問 題 であ る と いう こ と, 以上 を認 識す べ き である‐. 亘. 指導上の問題点. 難しさの側面. ”目 か ら音 を 出す” “耳 か ら息 を吸う” “吐き気 がき た と きの 様 子 をや る” “う な じで バ を吸う” これ ソ , , ,. らは発声や呼吸法の指導の際に教師によって使われた言葉である. 声を出すときの体感を得さ ・せるための教 師の苦労が窺われる. 発声の難しさには, 技術そのものの難しさの他に次のような副因がある‐ イ) 人それぞれ持っ ている楽器がみな違う.. 声帯の質や大きさの違いは元より, 人は皆違う顔をしてい る. 歌の場合, これは楽器における共鳴箱の違いを意味しており, そこで共鳴して出てくる響きはそれぞれ に異なったものとなる. 指導上とくに問題なのは, たとえ出てきたものが同質の響きであっても, 共鳴に対 する体感, つまり身体の中での感覚的な受け止め方が生徒一人ひとり皆違うことである‐ ある生徒には顔の 前方での共鳴と感じられ, ある生徒には後方での共鳴と感じられることがあるのである. 何故このようなこ 123.
(5) . 野 田 鷹 志. とが起こるのか‐ 音声学的に見て, ある音が同じ共鳴膝で共鳴したなら ば, 同質の響きを得ることはできる. しかしこれを得よう とするとき, 共鳴膝の形状や位置の僅かな違いにより, 発声に関与している個々の筋肉 や発声器官の働きに, バランス上, 微妙な差異が生じる‐ それが各々の生徒において, 異なった体感となっ て知覚されるのである‐ 教師は生徒に目的の音色を出させよう とするとき, ある者には前方と言い, またあ る者には後方と言わなければならない場合もあることを念頭に置くべきである‐ 体感の違いは勿論生徒のみ ならず教師や声楽家にもある. これについて石井末之助が興味深いことを述べている. 「どの声楽家にも, 永年の経験と努力から, 感覚的に, 正しく どこに当て, どこに置けば, 目的とした音色の声が得られる かを 知 っ て いる わ けである‐ しか し, い っ た ん 自己流 にこ れで声 が出た となる と, こ れこ そ正 統 で, 他 は 間違 い. ないし, 声楽家同士で論議しても, それ であるとの信念を持ってしまうので, 人にも, その方法でしか教え‐ ぞれの体感をもとにしているので, 表現がまちまちとなり, しかも自己の主張を信ずるあまり, 譲ることが 2 )この言葉は次のことを踏まえて読む必要があろう 声楽家の 声に対する技術上の主義に違いがあ ない.」 . , る場合, つまり目的とする音色がそもそも違う場合は, 当然方法が違ってくる ということ. 技術上の主義が 同じ, つまり目的とする音色が同じ場合でも, 各々の体感を通しての理解の仕方が違う ということである‐ ロ) 成長過程において楽器も変化する‐ 思春期、 第二次性徴ホルモンによっ て起こる変声はこの最も激 しいものである‐ 女子の場合, 変声期と認められる発声器官の成長はだいたい10~12歳頃に見られる. 成長 の度合いは大きくはなく, その変化は緩やかである. 従って歌唱への影響も, 人によって多少声がかすれる こ と がある 程 度 で, ほ と ん どな い とみ てよ い. 一 方男 子 の 場 合, 12~13歳 頃, 2~ 3 か月 の 間 に急 激 に成 長. するのが普通だが, 長く掛かって一年ぐらい, 短いのでは一晩という極端な例もあるよう だ. 成長の度合い が大きいため, 話し声や歌声への影響も非常に大きい. 生徒を良く観察していて, 変声期にある声には注意 を要する, とはいっても特別神経質になる必要はないのである. ただ, 変化の最も激しい時期の1か月間ぐ らい は, いい 声 が出な い か らと い っ て無 理 な発声 練習 を しな い こ と である. そ れを した とこ ろ で, 日々 変 化. して行く声帯に, 発声の感覚が付いて行けるはずもなく, いたずらに声を疲労させ, 痛めつけるだけである. この期間だけは, 一時的に, 発声のことは置いておくのが賢明だろう. とりあえず, 普通に歌えるところを 歌っているのが良い だろう. 変声期を過ぎても発声器官の成長はまだ続くのである‐ 米山文明による と 「軟 )と 言う 事 実 大学 生 でもま だ声 種 が定ま らな い 者 がいる ま た 骨 が固ま っ てく る の は24~25歳 ぐらい」3 . ‐ , ,. 人によっては, 毎日自分の声が微妙に違って感じられる者もいるのである。 成長を続ける楽器を相手に指導 する際, 気をつけなければならないのは, 発声器官の機能のバランス を崩して, 声帯に過度な負担を掛けな いということである. 求めるものは, 明るい頭声を中心とした, 発声器官がバランスよく機能した声である‐ 避けなければならない主なものとしては, 胸声を中心とした, 力強いが, 重い声, 深く取り過ぎた暗い声, 焦 っ て 響き を 求め たた め に, 機 能 の バ ラ ンス を失 っ た, い わゆる ダン ゴ声等がある. これらの声は後に修正 するのが非常に難しいものであり, このようにして何年か歌った後では, 場合によっては取り返しのつかな いこともある (これらの声についてはWで詳しく分析する) ‐ 楽器が常に変化し, 不安定で難しいこの時期 こそ, 発声の正しい概念に基づく, 適切な基礎指導が是非とも求められるのである. ハ) 他 者 が聴 い ている 声 と, 歌 っ て いる 者 自 身 が耳 に している 声 と で は, 聴 こ え方 が違う.. 人か ら発せ. られた声は空気を伝って他者の耳に入る. 自分以外の人の声はみな同じ経路を辿って聴こえるのである が, 自分の声だけはそれにもう一つの要素が加わる. 声帯から直接骨や筋肉を伝わってくる振動である. 耳を塞 いで声を出してみると, 何やらボワボワとした妙な声が聴こえる‐ これが他者には聴こえずに, 自分だけに 聴こえている部分である. つまり自分に聴こえる声というのは, 身体の外部からと内部からの, 二つの音声 がミ ッ クス さ れたも の である. そ れに対 して, 他 者 が聴 い て いる 声 という の は, 外部 へ出 たもの だ けである‐. テープに録音された声を聴いてみる と, 他の人の声は兎も角として, 自分の声だけが特に異質なものに, 普 124.
(6) . 中学校音楽における歌唱指導. 段, 自 分の 耳 に慣れて いる もの と は全く 違 っ たも の に感 ずる の はこ のため である‐ D. B. マク ロス キー が. ) 「私たちはいまだかつて自分自身の発声音を完全なものとして自分で聴くことはできないのである 4 一 と言 っ ている の はこの こ と であ る‐. 二) 歌声を言葉で表すことの難しさ.. 仮にAという歌手がいるとしよう. Aの歌を聴いたことがある者. 同士 で, そ の声 につ いて 話を した場 合, 難なく 話 は通 じる であ ろう‐ こ れは話 している 者 が互 い に, す で に Aの 声 を そ れ ぞれの 記憶 に止 め て いる か らである. と ころ が過去 に於いてA の歌 声 を一度 も 聞い たこ と の な. い者にその声についての話をしても, 歌声を正確に把握させることは困難で, 不明な部分を多く残したまま 言葉は尽きてしまうであろう‐ 今日では1 9世紀以前の, 録音技術がまだなかった頃の歌手達の声については, ただ想像する他はなく, 細部の技術的なことに関してはほとんど知り得ないのである. ホ) 音程や音色の変化にともなう発声器官の働きを自分の目で見て確かめられない.. ピアノの場合, 手. の 形や 腕 の使 い 方 な ど, 又 ヴァ イ オリ ンの場 合, ボーイ ン グの 時の腕 の 使 い方 な どを, 目 で見 たり触 れたり. しながら確認できる‐ これとは異なり, 歌の場合, 複雑な機構と高度な機能を備えていながら, 外から見え るものは÷切なく, 技術修得における必要なことの全ては, 歌う者自身の体感だけを頼り に進めて行かなけ れ ばな らな いの である. フ ァ イ バー ス コー プを用 い れ ば声帯 の振動 する 様 子 をモ ニター に写 し出 して観 察す る こ とも できる が, こ れは鼻 を通 してカメ ラ を挿 入する こ と になる ため, 歌 を歌う には極 め て不都 合 なも の. である. 従って現段階でのこ・ の機器の利用は, 音声学の研究, あるいは医療分野での場面に限られ, 発声練 習 に は向 かな い.. 生徒たちは, 日々変化する, 自分固有のものでありながら姿形の見えない, 他者が耳にするのと同じもの を自分で聴くことは不可能な, しかも言葉で表すことも容易ならざるものを相手に奮闘しなければならない の であ る. 生徒 に と っ ての難 しさ はそ のまま 教 師 に と っ ての 難 しさ でもあ り, 発声 指 導 の こ と で悩 ま れたり ,. 苦労されている教師は少なくない.. 皿. 発声練習再考 a. 基礎段階での発声練習 発声 は難 しい, よく 分 か らな い と いう こ と を 教 師の 口 か ら度々 耳 にする‐ そ れ につ い ては 先 に江 で上 げ ,. たことが大きく影響している‐ 難しさを克服するために最も重要なことは, 発声に対する正しい概念を持つ こ と である‐ 正 しい 概 念 に基 づ い て, 多 数ある 練習 方 法の 中か ら 適切 な も のを 選択 する の であ ,る‐ 今日 で ,. は, 様々な練習方法が考え出され, 実践されている‐ 声楽教師の経験によって編み出された 理論的という , よりむしろ, 感覚的な練習方法も相当ある‐ 具体的な数字でそれを表すことはできないが 声楽教師が自分 , の体感を元にして練習方法を編み出したとしたなら, 先にn-イ) で指摘したように, 持っている楽器が皆 違うことを考えれば, メソー ドの数も声楽教師の数だけ出来上がることになる‐ その練習が生徒にとって効 果 的である か どう かは 置 い ておく と して, 一 方 では, そう した こ と が発声 に対 して一層 難 しいも の 不 可解 , なも の とい う 印象 を与 え ている こ と は否 め な い‐ とも あ れ 教 師 に求め ら れる こ と は 生徒 の 喉 に合 っ た練 , ,. 習方法を適切に選択する力をつ けることである. とはいえ, 初心者が必要とする練習メニューという のは元 来それほど多いものではない‐ 技術が進んでくると,・個々の楽器の特徴を生か した練習を心掛けなければな らなく なる ため, ト レーニ ン グ内容 にも個 人差 が出てく る. 歌 っ た年 数 が長 い ほ ど ある い は 歌唱 の レベ , ,. ルが高いほど, その人の発声における長所や短所など, 問題点がよりいっそう明確に出てくる‐ 従って そ , れら に対 処 する ため に, 多 種 に わ たる 技術 ト レー ニ ン グの 方法 が必 要 にな っ てく る わ けである. 一 般 には ,. 発声器官の働きの中でも, 話し声に使われるところ以外というのは非常に不活発である‐ そのために 初心 , 125.
(7) . 野 田 磨 志. 者においては, とりあえず訓練しなければならないところにも共通点が多いのである. 発声器官はもともと 高度な機能を備えているのだが, その一部は日常的にはほとんど使われることがないため, それを取り巻く られること 筋肉や神経も意識を失って眠っ た状態にあるといえる‐ 従って, 初期の段階での発声練習に求め‐ というのは, 発声器官全体にバランスよく刺激を与えることによって, これらの不活発な筋肉や神経を呼び 覚ますことであり, そのことによって歌唱のための機能を回復することである‐ これを発声における 基礎練 習の最大の目的としなければならないのである‐ b. 呼吸法, 及び声を支える筋肉 発声に関する誤っ た概念として, 呼吸法への過信, 盲信を指摘しなければならない. 「科学的に正しい呼 吸法が歌唱法の95%を占める重要な要素であることを私は極力強調し, 学習者に印象づけたい と思っ てい ) 「発 声 指 導 の80~90% は この 呼 ) 「コ ン トロ ー ルさ れた 呼気 こ そ 上 手 に歌 える ”こっ“ であ る 一6 る.」5 ‐ , , ) 7 呼吸 法の重要 吸 法 に費や しても よ い と い っ て も過 言で はな い.」 こ のよう に, 歌 唱 法や 発 声法 に関連 して,. 性を説く人が少なくない. こうした考えに対して論を展開する前に, 次の二点について予め押さえておきた い. まずは, 歌唱法は, 呼吸法との関連, つまり, 身体的運動としての側面から見る限りにおいては, 発声 法と同義の内容を持つものであるということ. 次に, 発声法とは, ある音色による音声の設定と, その保持, この二本の座標軸から成り立っている ということである. さて, 呼吸法の重要性を述べている先の意見に対 して指摘しなければならないことは, 呼吸法の重要性を論ずる 際に, 声帯が既に理想的に, 正しく使われて いる こ とを前 提 と している という こ とである‐ も しこ の前 提 が崩 れた と した ら, この 論 はも はや成 立 しな い. のである. 声帯を思うような状態にコントロールすることができなければ, いくら正しい呼吸をしたところ で, 目的とする音色は得られないのである. 声の音色は, 声帯の長さ, 厚さ, 緊張度, 声門の開閉など, 声 帯 自 体 とそ れを 取り 巻く 多 数の筋 肉 に よ っ てコ ン トロ ー ルさ れている の であ る‐ バイ オリ ンで, 時 に はG 線,. D線, A線などのハイ ポジションを使って音色を変化させるのと同様のことである‐ 音源自体を変化させる のだから, これが音色を作る上で決定的な役割を果たすことは自明である‐ どんなによくトレーニングされ た呼気を以てしても, 声帯を変化させる機能を働かせることなしに, 目的とする音色を得ることなど不可能 であ る 逆 に 声 帯 の コ ン トロー ル によ っ て, 音色 の変 化 は勿 論のこ と, 全く 声 を無く して, 呼気だけを出 .. ,. すことさえ可能である ことを考えれば, 音色を決定する 上での, 声帯の機能に対する呼吸法の優位性は完全 に消滅するのである. 音色の保持については, 呼吸との関係を全面的には否定することはできない‐ もちろん, 時には呼吸の訓 練を必要とすることもある. ただその場合は, あくまでも歌の作品を用いて, 少なくとも声を伴った練習の る筋肉というのは, 目的の音色を崩さずに維持しようと 中で訓練されなけれ ばならない. 声の支えに使われ・ する声の色に対する識別能力, それと, 音色を設定した瞬間に得られる体感とが 同時に作用する 中で鍛え ら れるべ き な のである. 声 を伴 わな い息り ある い は筋 肉運動 だ けに よる トレー ニ ン グによ っ て鍛 え ら れる べ. きではない. そのような方法によって鍛えられたものというのは, 音色を設定する際にも, また, それを保 持する際にも障害となることが多く, 歌声と呼吸の間の機能的なバランスを崩してしまうのである. これは 歌唱上極めて不都合なことであり, 根本的な誤りと言わなければならない‐ かつて, 東京芸術大学において 野口三千三先生が, ある簡単な実験をやってみせてくれたことがある‐ 学生に床の上で胡座をかかせ, 足, 腰, 腹と, 順に力を入れさせ, その力を抜かずに, “立て” の合図で立たせようというのであっ た. 結果は 誰一人として立ち上がることはできなかった‐ 立ち上がるためには, 予め入れた力 を抜かなければならない のである, こ の 実 験 で分 かる こ と は, 筋 肉 に予 めい れら れた力 は, そ の 次の働 き を妨 げる という こ とである‐ ” “ “ カ ー トで は 腹 をよ く 動 かす” な 練習 にお い て よく 言 わ れる, “腹 筋 を き た える” , お 腹 を動 かす , ス タ ッ 126.
(8) . 中学校音楽における歌唱指導. どの言葉は, ある音色を設定することに先行して, 筋肉の働きを意識させてしまう可能性がある‐ その場合, 先に力を入れた筋肉の歌声に対する協力関係は崩れてしまい, 無駄な力というより, むしろ邪魔な力となる の であ る‐ 息による呼吸法のトレーニングとは, 後にも先にも腹式呼吸をマスターすることであり, それ以 上 の こ と で はな い‐ 呼吸 法 に関 して ゴ ー ネリ ウス ・ L ・リ ー ドは 次 の よう に 言 っ て いる. 「呼吸 技 術 は 発 声. 8 ) に対しては, 常に従属的なものとして考えられる必要があり, 単に, 共同する一要素にすぎないのです‐一 C. フ オ ー ム フォ ー ム につ い ては, 発声 法, 呼吸 法 に見 ら れる よう な指 導 者 間での意見 の相 違 はあま り ない‐ いく つ か. のチェックポイントを挙げてみると, *身体の凝りをほぐして, 余計な力を抜く, *首は真っ直ぐにしてお く, * 顎 を引く, *胸 は 開い て かろ く 持ち 上 げる, *腕 は だらり と 真 っ 直 ぐ下ろ す, * 足 は肩 幅 に開い て ど ち ら か一 方 を少 し前 に出す, *前 か がみ になり 過 ぎな い, *後ろ に反り 過 ぎない’ *重心を足の裏全体にか ける, 等 が主 なも の であ ろう か‐ フ ォ ーム につ い て の考 え 方で 重要 な こ とを 整 理 して みる と, 首 か ら上 を解 放 しておく こ と, 音 声 の 保持 の ため に使 わ れる 筋 肉 を解 放 しておく こ と, 以 上 の 2点 である. 首 か ら上 の解. 放は, 音声の設定を障害なく行うために, 絶対に必要なことである. 仮に, オペラな どで, 演出上, 首を身 体に対して正面以外のある一定方向へ向けたまま歌い続けなければならないとしたら, 遠からず喉の故障を 訴えることになるだろう. また, 首から上に外部から何らかの力が加えられた状態で歌わなければならない と したら, 首や喉頭の回りの筋肉は, 加えられた力に対応する形での働くため, 音声設定のための働きは著 しく阻害される‐ その結果, 目的の音色を得ることは困難となるだろう. 外部からの力に対して, 首から下 を解放することによって対応できる場合は, 問題は幾分解消されることも考えられるが, 小さな首に対して 大きな身体を解放することの難しさは伴うであろう‐ 次に, 音声保持のための筋肉の解放については 既に , 述べ た 通り, “筋 肉 に予 め入 れら れた力 は, 次の 運動 を妨 げる” こ の 考 え方 がこ こ でも 生 きてくる‐ つ ま り ,. 音声保持のために使われる筋肉は, 特定の姿勢を維持する為に使われてはならない‐ そうではなくて, その 筋肉が次の瞬間に最も働きやすい状態で準備されていなければならないのである‐ 歌のフォームにおける最 大の 問題 は, こ の こ と を どこ ま で 理想 的 に実 現する か と いう こ と であ る‐ こ の場 合 視覚 的 に どう 捉 えら れ ,. るか形は問題ではない. 頭, 顎, 胸, 足, の位置など, 外見上, 形が整っていても, 音声の保持に関与すべ き筋 肉 が, 次 の 運動 がで きな い 状態 にある な ら ば, そ れ はよ い フォ ーム と は 言え な い 逆 に 椅子 に腰 掛 け . , てい ても, 歩 い て い ても, さ ら に は, 横 た わ っ て い ても, そ れらの筋 肉 が 次の 運動 の ため に最 大 限 に準 備 , さ れて いる な ら ば, よ い フォ ー ム という こ と がで き よう. 加 古三 枝 子 は 次 のよう にも 言 っ て いる 「オ ペ ラ .. でもやるようになれば, どんな姿勢でも歌えるようにならなけれ ばならない. ベッ ドの中で死にそう になっ て歌 っ たり, 泣 き な が ら歌 っ たり, いろ いろ な場 合 がある から, 呼吸法 さ え 完 全 にマス タ ー で き れ ば 最 終 , ) 的 に は, どんな 姿 勢 でも 声 は でる も の である.」9 先 に挙 げたチ ェ ッ ク ポイ ン トの 中 で ”顎 を引 く” は, 正 しく 理解 さ れてい ない こ と がある の で 特 に説 明 ,. を要する. 顎を引く, という 言い方自体, 誤解を招く恐れがある. 顎は引けているのが正しいのである 顎 ‐ が引 けて いる か どう か, こ れもま た 外見 か ら判 断さ れる べ きも の ではな い 顎を 首の ほう へ押 し込ん だとこ ‐. ろで, いわゆる顎が出た状態の声は出せるし, 顔を多少上へ向けても, 顎の引けた声を出すことは可能であ る‐ 顎の位置の善し悪しを決めるのは, 舌の位置との関係 においてである‐、舌の付け根が後方 あるいは , , 後下 方 にあ る とき, 顎 は前 に押 しや ら れる. この 状 態 を 顎 が出 た状態 という の である 初 心 者 にお いて , ‐ ,. 舌が最も後方に位置する 母音”ウ“の時に(図1参照) , 顎が出た形の音色になりやすいのはそのためである. では何故, 舌が後方, あるいは後下方に落ちていると, 声楽的な音声設定に支障を来すのか, この因果関 係を考えてみる‐ 舌は, 発声器官が特に声楽的に機能するとき, 顎の上方に載せられた状態で位置する‐ 発 127.
(9) . . 野 田 贋 志. 声器官の, 声楽的な働きの中で重要なものとして, 喉頭懸 垂機 構 (図6 参照) の働 き がある こ と は, F ・ フ ース ラー の 研 究 で知 ら れている‐ こ れは上下 に引 き 合う 筋 肉の バ ラ. ンスの中に喉頭を繋ぎ止めておくものであり,ノ喉頭筋すな. し 三豊キ 責 ; 宝 三 金 李 駿 呈 的驚喜凋三 船 婆. 図. 母音の三角形:5っの母音を構成す るときの, それぞれの舌の位置を線 で結ぶと逆三角形ができる. ィ. ウ \ /; ァ. の 付 け根で ある 舌 根 は, 懸 垂機 構の 筋 肉の 中の引 上 げ筋 の. 一部にあたる, 甲状-舌骨筋, 茎状-咽頭筋と相互に影響 しあ っ ている と見 る こ と がで きる。 この こ と は舌 根 が, 甲 状- 舌骨 筋 と同 じ, 舌 骨 に付着 して いる こ とか ら. も容易に分かる. 舌は, 声楽的に望ましい音声設定が行われると, 懸垂機構の引き上げ筋の影響を受け, そ れ自体に余分な力を入れなければ, やや上方に持ち上げられる. この時, ごく自然な状態にある顎は, 舌の 下方に, あるいは, 舌の運動を妨げない形で取り残される. この結果, 両者の間には上下の位置関係ができ る の で ある‐ 従 っ て, 舌 が何 ら かの 原 因 によ っ て 後 方, ある い は, 後 下 方 に押 しや ら れた場 合, (つ ま り 顎. が前に出た場合であるが,) 懸垂機構の働きが妨げられるので, 声楽的な音声設定は困難になるのである‐. W. 誤った歌声の機能分析 誤った歌声のうち, 一般に多く見られるものについて, その誤りを発声器官の機能に照らし合わせて分析 する. (なお, 発声器官の各機能, 及びアンザッツ (図 7 参照) はF. フ ー ス ラ ー の 理 論 に よ る. 図2 ~ 7 l o ) ) はF‐ フ ース ラー 著 「う たう こ と」 か らの転 写 である. 図2. a) 甲状軟骨 b) 輪状軟骨 c) 破裂軟骨. 一. 図4. 声帯の伸展. a. 輪状-甲状筋は, 輪状軟骨に対して甲状軟骨を前方に傾け ることによって, 甲状軟骨の内側から破裂軟骨に渡って付 着している声帯を引き伸 ばす働きをする. 声帯:後ろから見た断面図. a) 声唇 b) 声帯朝帯 c) 仮声帯 d) 弾性円錐. 128. 輪状-甲状筋. 言、、‐ c. \b. 図5. 図3. 喉の軟骨 :中央から切断した右側半分. 筋肉質からなる声唇と呼ばれ部分と, それを覆っている弾性の ある膜である弾性円錐と呼ばれる部分からなる‐ 弾性円錐のう ち, 縦の線維からなる声帯の緑にあたる部分は声帯靭帯と呼ば れる. 声唇の筋線維の一部が弾性までの びた部分は, 声帯朝帯 も含めて, 緑辺帯域と呼ばれる. 声唇は能動的に, 自らの力で 活動するが, 声帯鞍帯は受動的で, 外からの力によって働きか けられる.
(10) . 中学校音楽における歌唱指導. 図6 喉頭懸垂機構. 喉頭懸垂機構というのは, 上下に引き合ういくつかの筋肉 の中に, 喉頭を繋ぎ止めておくものである‐ 引き上げ筋と してはa) , b) , C) , 引き下げ筋としてはd) , e), 以 上の筋肉のほかに, 気管と食道がある‐ 懸垂機構を形成す るこれらの筋肉の中で, e) 輪状-咽頭筋は輪状-甲状筋 が働く際に輪状軟骨がぐらつかないよう押さえておく働き をするが, 懸垂機構が機能しないのでは, この筋肉の働き は全く期待できない‐ また声楽発声のために最も重要なも のの一つであるといわれるこの筋肉は, 話し声の発声には ほとんど使われない 注) 口 蓋 - 喉頭筋 : 原著 に はGaumen‐Kehlkopfmuskeln, ‐ l l t a o a vyng eu s口蓋喉頭筋と訳されるが, 解剖書には見 pa 当 た ら な い. 恐 ら く 口 蓋 咽 頭 筋 M pa t a o‐pharyngeus の , l. 2 ) ことであろう, との石井末之助の指摘がある‐. 5. 図7. 4. ア ンザ ッツ. アンザッツ:声を 「当てる」 という言い方がある‐ 声は, 当てる位 置によって, 異なった独特の音響効果を作る. F‐ フースラーはこ の 「音響効果」 と 「当てる位置」 を整理分類して, 1~6のナンバ ーで示すと同時に, 当てることによって喚起される発声器官の働き につ い て 明 ら か に した. 1. 2. a‐ 勢いで出した声 発声の指導を受けずに気分 に任せて勢いで出された声は, 呼気を大量に放出する‐ ある程度の音量を出す ことはできるが, 声 には声楽的な美しさはない‐ ざらざらと艶がなく, やや荒つ ぽい響きとなる 声の声楽 ‐ 的な美しさという のは, 声帯 (図5参照) の中の縁辺帯域の働きによるところが大きいといわれる 縁辺帯 ‐ 域 は声帯 が引 き伸 ばさ れる こ と によ っ ての み, この 役目 を果 たす の である が こ の場 合 声帯 は引 き伸 ばさ , ,. れてはいない. 本来の任務が, 声帯を薄く引き伸ばすことにある輪状-甲状筋 (図3・4参照) は 働くこ , とができない状態に置かれているからである‐ この筋肉が安定的に働くためには 喉頭懸垂機構 (図6参照) , の協力を必要とするのであるが, 声楽的に訓練を受けていない発声器官では この懸垂機構の活動が十分で , はな いの である. 従 っ て こ こ で は 美 しく 微 妙な 声 を作る 緑 辺帯 域 は働 い て いな いの である , ‐. 一方, 呼気を多く使うと, 声帯に掛かる呼気圧は高くなる‐ 声帯筋からなる声唇は自らその圧力に対抗す る形で緊張度を増すであろうが, 呼気量はそれを上回つ ているものと想像される. そのために息漏れの多い , 声帯を息で吹き上げる形の発声となるのである. この声の状態は - ある一音に落ち着くま でに時間を要し, , 正確な音程を作る上でも, リ ズムの表現においてもまつ たく望ま しいものではない 歌唱に使われる音程と . いうのはまた, 本来, 声帯朝帯 に掛かる筋線維の極めて高度な働きによつ て調整されるべきものであるが , この場合はそれによらず, 高い呼気圧に対して, それに直接対応するところの声帯筋の緊張度を変化させる こ と によ つ て調 整 さ れている の であ る‐ こう して 作ら れた音 の高 さ と いう の は不 安 定極ま り なく 音程 とは , いい 難 いも の であ り, 正 しいも の は一つ も な いと 言 つ ても過 言 ではな い .. b. 胸声中心の重い声 声 の 傾 向 と して は, “a‐ 勢 い で 出 した声” と 同列 の も の と い える が こ れは 大 き な声 を出 して 歌う こ と ,. にいくぶん慣れてきた段階での声である‐ 呼吸が整いはじめ, 息漏れも改善されて来た状態といえる とは ‐ 129.
(11) . 野 田 贋 志. いっても, 呼気圧は相変わらず高く, それに対応して声帯筋の緊張度もまだ高い. ただそれを上回っての呼 気の無駄な流出は少なくなっている というだけのことである.呼気圧を上げて声帯を振動させている分だけ, そ れなり の 声量 もあ り, 力 強 く も あ る こ の 声 は, 歌 っ て いる 者 に と っ て は, “声 を 出 して いる” という 実 感. は言うまでもなく, ある意味での満足感すら与えられるものだ. しかし機能的に見ると,,前方引き上げ筋で ある甲状-舌骨筋が強く働いているのに対して, 後方引上げ筋である茎状-咽頭筋, および後方引き下げ筋 である輪状-咽頭筋はわずかにしか働いていない. 当然声帯は厚く保たれたままの状態で閉じられている. いといえる‐ 響きは, 鼻腔が閉じ この段階では, 懸垂機講はま だ歌唱のための能力をほとんど発揮していな、 られているため, 硬質で広がりが少なく, いわゆる頭声とは両極に位置するものとなっている‐ この状態で 高 音 を 出 す こ と は非 常 に困難 で, ア ンザ ッ ツNo.5 の フ ァ ルセ ッ トを 使用 する しか道 はな い だろう. ア ン ザ. o工 とN o ッツとしてはN .2が中心であるこの声は, 前方引き下げ筋である胸骨-甲状筋の働き (これは特に アンザッツN o .2の中での働きである) が促される方向に進むと, この先, 懸垂機構の活動が活発になるこ とに対して幾分希望が持てるのである. しかしながらその際, 呼気圧はもっ と下げられなければならない‐ そのことによって, 声帯筋に掛かっ ている過度な緊張を緩和する必要がある. 加えて, 声帯筋は薄く伸ばさ れた状態で使うよう心掛けることも忘れてはならない. 何故なら, 声帯筋の伸展がなければ, 緑辺帯域によ る美しい歌声のための価値ある働きは望めないからである. C. 深く取り過 ぎた暗い声 この声は, 喉頭懸垂機構に寄与する筋肉のうち, 口蓋一喉頭筋, 茎状-咽頭筋, 輪状-咽頭筋, 胸骨-甲 状筋, 以上4つの筋肉の働きが強いのに対して, 喉頭をやや前方へ引き上げるための甲状-舌骨筋の働きが 弱 い こ と による もの である‐共 鳴腔 と しては 声帯 のす ぐ上の 空 間が大 きく 形成 さ れ,ア ンザ ッ ツ はNo.4 とNo‐ 6 が 中心 と なる. この 声 は, 芯 がなく, 気 息 的 で, 明る さ と張り にや や 欠 ける も のの, い わ ゆる頭 声 への 抜. けが良いために, よい歌声として受け入れられやすい‐ 輪状-甲状筋の働きによって, 声帯は薄く引き伸 ば され, レガートを歌うために効果的な柔らかさを備えた声が引き出される. しかし, 一度この響きを捉えて, これが最も良い歌声なの だと理解してしまうと, 次に, 思わぬ落とし穴が待っている‐ 歌声による全ての表 現 を この 声, つ ま りア ンザ ッ ツNo‐4 とNo.6 の響 きの 範 囲内で行 っ て しまう こ と になる の である‐ 音色 の変. 化といっても, 先に挙げた, 懸垂機構の中の強調された4つの筋肉の調整と, 声帯筋自体の緊張度の調整に よっ てだけ行われることになる. したがって音質面での変化はあまり期待できず, 表現も一面的で単調なも の と なる の で ある. こ の よう な 歌 い 方 を 続 け て行 く と, 口蓋 - 喉頭 筋 と茎 状 上- 咽 頭 筋 はア ンザ ッ ツNo‐4. と位置的に非常に近いということが原因となって, 声を当てることによる体感と, 筋肉の働きとを混同して しまい, 声を当てているつもりが, それとは意識しないまま, 必要以上にこの筋肉を活動させるという誤り を 犯 して しまう の である. こ の 2つ の筋 肉が強く 引 か れる と, 体感 と して既 に しっ かり 捕 え ら れて いる ア ン. 対抗筋である輪状-咽頭筋, 胸骨-甲状筋の働きがやはり ,強く促さ れる. その結果, これらの筋肉と. 懸垂機構のうちで一つ だけほとんど休止状態にあっ た, 甲状÷舌骨筋と の活動量の差は益々広がっ てくるのである. 一方, このような力関係によってできる共鳴腔も偏ったものと ザ ッ ツNo‐4 とNo.6 を維持するために,. なり, 声帯 のす ぐ上 の 空 間 だ け が広 がりを みせる.・No‐4 とNo.6 だけが どん どん強調 さ れ, しかも ここ が広. がった分だけ頭声への抜けは次第に悪くなる. そして遂には, 他のアンザッツヘの移行は困難なものとなる の であ る‐ と り わ け, ア ンザ ッ ツNo.3 a, No.3 bというのは, その存在すら忘れられてしまうほどである. この時, 声は深くて暗く, 存在感のない空虚なもので, しかも次第にいわゆる “のど声” に近づき, 自由さ は失 わ れて 行く の である. この 状態 に陥 らな い だめ の対 策 と して は唯一, ア ンザ ッ ツNo‐4 とNo‐6 に よる 頭 声 が意 識 で き たな ら, こ れを失 わな い よう に しな がら, 早 い 時期 にア ンザ ッ ツNo‐3 a とNo‐3 bを練習する 130.
(12) . 中学校音楽における歌唱指導. こ と である‐. 、d. ダンゴ声 これは芯はないのだが妙に艶があり, それでいて開放された自由さと広がりは全くなく, 響きが喉の回り に集中した, 窮屈な束縛された声である‐ これも懸垂機構の崩壊によっ てでき上がるものである. 発声を勉 強したことのない者にもこの声を真似ることはすぐできる‐ 子供にクラシック歌手の真似をさせる と, まず ほとんどがこの声を出す. このように, 誰にでもすぐに出せることからも分かる通り, これは声楽的に訓練 さ れた結 果 のも の ではな い という こ と である (こ の点 で, “c‐ 深く 取り 過 ぎた 暗い声” とは異 なる). 日常. 的に使われていて, 神経支配がつねに行き届いている筋肉 (舌-舌根筋、 味下筋) の働きによるものである. 歌唱における懸垂機構の十分な訓練を待たずに, 性急に何か歌声らしい響きを得ようとした時, これらの筋 肉が安易に歌声の構成に参加してくるのである. 懸垂機構の引き上げ筋は前方, 後方のいずれも全く働いて おらず, 喉頭は後方に高く上がり, やや後ろ向きに傾き, 咽頭の壁に押しやられている‐ このため, 共鳴腔 は咽頭のところで一度塞がれた状態になる‐ このような声で2~3年以上も歌い続けると, 事態は抜き差し ならぬところまで進んでしまう. もちろん程度にもよるが, 後にこれを直すには大変な困難が伴うだろう‐ 歌唱のために使われる種々の筋肉や機能の全てが, この状態を土台として訓練されてしまうからである‐ 訓 練の過 程 で知 覚 さ れる 体感 は, 次の訓 練 へのス テ ッ プと なる‐ 歌 い 続 ける という こ と は, 喉にと っ て は訓 練 さ れ続 ける こ とでもあ る‐ 従 っ てこ の場 合, 歌 い 続 ける と いう こと は, 誤 っ た体感 を 積 み重 ねて行く こ と に. なるからである. 既に歌うことと共に喉に備わっ た体感は, この段階ではもう, 完全に払拭することはほと んど不可能と言っても過言ではない‐ 最初のボタンの掛け違いに気付いたなら, できるだけ早い対応が望ま れる の であ る‐ こ の声 の 直 し方 と して は, 徹 底 的 にア ンザ ッ ツNo‐2 を 練習 する こ と であ る‐ そ の こ と によ. っ て, 引き下げ筋の胸骨-甲状筋, および輪状-咽頭筋の活動を活発にし, 喉頭を下方へ引き下げ, そこへ 繋ぎ止めてやることである‐ もしこのことに成功したなら, 発声器官はそれまでとは全く異なった働きを開 始し, 誰の耳にも明らかな, 見違えるほどの, 全く別人のような音色を得ることができるだろう‐. V. 基礎練習の実践 ここま で 考 察 してくる と, 歌 唱 の ため の 発声 にお い て 重 要 な こ と が幾つ か見 え てく る‐ 技術 面 で は 喉頭 , 懸 垂機構 をバ ラ ンス よく 活動 さ せる こ と である‐ ま た, ア ンザ ッ ツNo ‐1~No .6 の どのタイ プも 瞬時 に選 択 ある い は移 行 でき る こ と である‐ しか しな が ら注意 した い の は, こ れら は互 い に別 のも の を意 味 している の. ではないということである‐ 音声を正しく 設定すれば, 懸垂機構は自動的に機能し始める. しかも, 懸垂機 構力蕩効率よく働けば, アンザッツの選択なら びに移行は瞬時に行われるということなのである. 懸垂機構の 筋肉は個々に分離して, 意識的に操作できるものではない. ある音色の声を取ろうとするとき, それに刺激 さ れ, 筋 肉 の活動 が促 さ れる のであ る‐ こ こ で最も 重 要 なこ と が明ら かと なる の である‐ つ まり 発声 にお , いて は,.音色 を正 しく 設 定 する こ と こ そ が, そ の勉 強 にお ける 出 発点 とな る べ き だと言う こ と である‐ こ の. 視点に立ったとき, 技術面での難しさというのは, 意外にも単純なものが支配していたということに気づく のである‐ ところで, 問題が単純であるということは初心者のために, それに取り組む上で望ましいことと いえるだろう. 一方, 構造面で重要なことは, 技術以外の難しさを整理 し, 理解することである‐ 人間の喉 という楽器は, 身体の中に位置するという他の楽器には見られない特殊性のゆえに 独特の問題を抱えてい , る‐ この 問 題 が技術 的な も の をより 難 しいも のへ と、 さ らには 混乱へ と導 い ている のである‐ 発声 の訓 練の. ためには努めて冷静に, 客観的でなくてはならない. 何が難しいのかということが明らかであれば, 少なく 131.
(13) . 野 田 庚 志 、. とも そ れ以 外 は難 しいこ と で はな い はずであ る. 技術 面, 構造面, い ず れに しても 概 念 を明確 にする こ と が,. 発声を修得する大きな鍵といえる‐ ここに実際の練習例を示すが, これまで述べてきた発声に対する考え方 を踏まえた上での練習方法というのは, 他にもいろいろ考え得る だろう. 実際に生徒の声を聴きながら, そ れに合 わせ て工 夫する のもよ い. 練習1. 母音 「ア」 による 導 入期 にお ける 頭 声 の獲得. ア ン ザ ッ ツNo‐4, 6. 「ア」 という のは舌が最も低いところに位置する母音である そのため軟口蓋から咽頭に掛けての空間を . 広 く 取る こ と ができる.. a‐ ス タ ッ カ ー トによ る ア タ ッ ク 練習 (楽 譜 1) (半 音 ずつ 移 行 しな が ら, F ~C を 中心 に, 無 理 の な い. 音域で行う‐ 以下同様) 息を深く吸い込んだ時の軟口蓋の状態を崩さないようにして, 頭の中全体で 「ア」 の母音がはじけるよう にする. 喉頭への特に不快な刺激がなく, 声の当たりと横隔膜の運動との一体感が得 ら れる よう にな れ ばよ い‐. 楽 譜I E号E等 手 当i. b. メ ゾス タ ッ カ ー ト練習 (楽譜 2). 楽譜2 憲 ;E弓. ス タ ッ カ ー トを徐々 に長く して行く‐ アタ ッ ク も. 前より少し柔らかくして, 声を長めにとっても当た. ア. ア. I. H. ア. っ た感 じが失 わ れない よう にな れ ばよ い‐. c‐ ロ ン グトー ン練習 (楽 譜3) アタ ッ ク を しな い で, 声 をそ っ と置く よう に取る‐ できる だ け長く伸 ばす こ と を目 的とする の で はなく,. 頭声を安定した状態で保つことを目的とする. 伸ばしている時間としては4秒程度でよい.. 楽譜3. E I. 諾. 練習 2. 母音 「イ」 による 明る い 声 の獲 得. ア ンザ ッ ツNo.3 a, 3 b. これは最も重要な練習の一つである. ただこの練習は, 練習1によって頭声がある程度できるようになっ て か ら行 っ たほう がよい だろう二 も し1の 練習 が正 しく 行 わ れな か っ たな ら, その結 果 と して, 次 に頭 声 に. 回っ た声を得るのがやや困難になることが考えられるからだ. 「イ」 というのは喉頭蓋が最も縦に開かれる 母音である‐ したがっ て喉頭からの声をまっすぐ効率よく鼻腔に当てることができる‐ a. ス タ ッ カ ー トによる アタ ッ ク 練習 (楽譜 4). 声は鼻腔から顔面, そして眉間に上がってくるよ うに意識されなければならない‐ 決して口から外へ 散 っ て は行 けな い. 132. 楽譜4 謙. ヨ. ョ. ー. 著.
(14) . . 中学校音楽における歌唱指導. b‐ 二度音程練習 (楽譜5) 練習 2 -a で, 声 が鼻腔 に乗る よう になっ て からこ の 練習 に入る. 最初 はゆ っ く り動 き, 慣 れて 来 て から. 次第にテンポを上げてゆく‐ ー 楽譜5. ・ ー. - -‐. 1 1 - ・ イ. -. -. -. -. 練習 3. 母音 「イ ・エ ・ ア」 による 頭 声 を含 む明る い声 の 獲得. ア ンザ ッ ツNo‐3 a, 3 b, 4. 母音 を 換 える とき, 音 が切 れな いよう に, なお かつ, 声 の当 たり が外 れな いよう にす る. 特 に 「ア」 の 母. 音に替わる時, 舌の位置が下がると同時に, 声も鼻腔からはずれて口の外へ散ることが多いので注意する. a. 母音 交換 の 練習. b‐ 母音 交換 と二度 進 行 練習. 【 仕 ヒ 」 「ゴ ー. 、′譜 6 1一 一 一 ー. 「,. . 一. . . 楽譜 7. ¥ 8沙. . -3、 ′i・ -柄 コH ー. 送話ラ. “、. ′3・. ロコ - -- FF 羽コ メ コ コ コ;千 ゴ Lコ れず」. イ エ アイ エ ア イ エ アイ エ ア. イ. c. 母音交換と分散和音練習 楽譜8. ′3、. 一・. ′3、. 冥. ・-1 1 日. 主 - -. - 撃と. イ エ アイ エ アイ エ アイ エ ア . . イ. . 練習 4‐ 母 音 「イ .エ . ア. オ. ウ」 に よる 頭 声 を 含 む明る い声 の 獲得. ア ンザ ッ ツNo‐3 a, 3 b, 4, 6. 「イ ・エ ・ ア ・オ ・ ウ の順 で母 音 を交換 する こ と によ っ て 舌 は最 も 無 理のな い移 行 をする 力 を入 れ 」 , .. ず滑らかに行う. a‐ 母音交換の練習 (楽譜9) 声 と して は 「ウ」 ま で し っ か り顔 面 を 維 持 する こ と なお 言 語 によ っ て は 「ウ」 の 母 音 にア ン ザ ッ ツNo . ‐ 6 が自動 的 に 含ま れる が, 日 本 語 の場 合, そ れは ほ と ん どな い と 言 っ て よ い 「ウ」 はま た 日 本 人 に と っ . , ても 最 も 難 しい 母 音 でも あ る‐ 誤 り と して多 く 見 ら れる の は 「ウ」 のつ も り で発 声 したも の が 口の 中 で , , 妙 に響い た 「ユ」 に近 い音 にな っ て いる こ と である. こ のよう な 現象 は 舌 が強 く 後ろ に引 かれる ため に軟 ,. 口蓋から咽頭に掛けての空間が狭くなり, 声が顔面から眉間にかけて十分に上がらなくなることによって起 きる の である. 練習 2およ び練 習 3 を丁寧に繰り返してから再度試みるとよい .. 楽 譜 9 辞 イ. 亘i エ. ア. オ. ウ. 133.
(15) . . 野 田 鷹 志 、. c. 母音 交換 と分 散和 音 練習. b‐ 母音 交換 と 二 度進行 練習. 楽 譜11. 楽 譜IQ. . . . イ エ ア オ ウ オ ア. エ. ′′. . イ. - -、. ・. . イ エ ア オウ オ ア エ. 練習 5‐ 母音 「イ ・ アー」 による 縁辺 帯 域 の活動 の確 認 と強化. . イ. ア ン ザ ッ ツNo.3 a, 3 b, 4. 「イ の 母 音 か ら 入る こ と に よ っ て ア ン ザ ッ ツNo 3 a 3 b が強く 意 識 さ れる この こ と によ っ て . , ‐ 」 , ,. 声楽的な音色のために重要な働きをする声帯の緑辺帯域が活動する‐ この縁辺帯域の活動を活発にするため の 練習 である.. ) a. 二度進行練習 (楽譜12 母音を交換した後, 頭声と顔面の声が維持されていることを確認してから動き出す. { -. - -. イ. ア. -. ー. c‐ ター ンを含 む跳 躍 練習. b‐ 分 散和 音 練習 楽 譜13. - -. {h. ”. 楽 譜12 - {. 楽 譜14. . にE -ロ. に 割 イ. ア. ー. . ーサ イ ア. ー. ′5. ー. -. -. e. 高 音 跳 躍 練 習. d. ト リ ル の 練 習. 楽譜 1 5 墨田廓日朝三 割 奪目ョ話 イ ア. -. 1 6韮ヨ巨≦…圭三軽目ヨ 楽譜 L. -. 練習 6. 母音 「イ . ア ー オ」 による 胸 声 の確 認. イ. ア ー. -. ア ン ザ ッ ツNo.2, 3 a, 3 b, 4. 「イ・アー」 の母音交換に関しては練習5と同様のことである. 下降してD音以下に降りた時, 声の中に 自動的に胸声が混じってくるのを確認する. ここで胸声を確認できないときは, 練習2をもう一度やり直す 必要がある. ) a‐ 下降練習 (楽譜17 最低音で母音を 「ア」 から 「オ」 へ換える ともっとよく確認できる. 楽譜17 ¥. 134. F !→. ドFなー コ. イ. ー. ア. H オ.
(16) . 中学校音楽における歌唱指導. 練習 7. 濁 音 「ゴ」 による 胸 声 の強 化. この練習は胸声を強化するためのものであっ て, それを獲得するためのものではない‐ a. ス タ ッ カ ー トによる ア タ ッ ク 練習 (楽 譜18 ) 胸 声 は確 か にア ンザ ッ ツNo.2 による もの だ が, 設 定 は ア ンザ ッ ツNo .3 a, 3 bの延長上にあるものとし て 行 わ れな け れ ばな ら ない. 喉頭 懸 垂 機 構 がま だ 機能 して い ない訓 練頭 初 か ら, た だち にア ン ザ ッ ツNo.2. で設定しようとすると, 誤っ た声を捉えてしまう危険性がある‐ したがって, この練習は, 練習6 において 胸声を確認してから行うとよい.. 楽譜1 8 奪. 結. 3. -. -. ゴ. ゴ. ゴ. ) ,. 1 1. び 人 間は元 来, 誰 でも 歌う ため の 能力 を持 っ ている. しかも, そ れは他 の どんな 楽 器も 及 ばな いよう な 高 ,. 度な機能と無類の柔軟性を備えている‐ 歴史もまたそれを語っているようだ‐ 「 1 8世紀においては声楽が器 1 )喉頭 と 喉 楽 を見 下 してお り, 難 しい 譜 面 は声 楽 のも の だ っ た と いう こ と を忘 れて は な ら な い の であ る 一1 ‐ 頭 懸 垂機 構, こ れら の優 れた機 構 はと う て い話す ため だ けのもの と は思 わ れな い の である‐ い い 歌声 を出 し た い と思う のな ら, ま ず は, そ の 喉 が持 っ ている 可 能 性 を信 じる こ と であろう そ してつ い には そこ に 隠 ‐ ,. されている能力を完全に引き出すことである‐ 偉大な歌手の喉も普通の人の喉も 実はそれ程変わりはない , と いわ れて いる. だた その 声 を どの よう に引 き 出す かが 問題な のである 発声 法 につ いて は 楽 器 が 身体の ‐ , 中 にある が故 の難 しさ と いう の は, もち ろ ん無 視 でき な いも の と して ある‐ しか し 誰も が構造 的 に は人 間 , と して 同 じ機 能 を備 え た 喉 を持 っ て いる の だから そこ で惑わ さ れる こ と はな い の である 男 女 とも 大 人 , . ,. も子供も, 基本的には皆同じである. そして, 技術獲得の為の手段というのは 言い換えると 喉に潜在し , , ている 能力 をい か に して引 き 出 す かの 具 体 的な ア プロー チ とい う の は 既 に述べ た通り 決 して難 しい も の , ,. ではない‐ 発声に関する機構とそれらがもつ個々の役割を理解していれば, また 種々の筋肉が運動するた , めの原則を理解していれば, 為すべきことは自ずと見えてくる‐ しかも 声を正しく引き出そうとすればす , る ほ ど, 問 題 は単 純 なも の と なる の である. さて 学 校 教育 にお いて は 生徒 にこ れら の理 論を 説 明する 必 , , 要 は全く な い であろう‐ む しろ, そ れ は避 けら れる べ き である‐ その 理 由は 彼 らを混 乱 に陥 れな い為 と , ,. いうこともあるが, 歌う瞬間においては, 彼らが全神経を曲の中に集中できるよう配慮すべきだからである . そ して, 発声 とい う の は, 簡単 で 分 かり易 い とい う こ と が 彼 ら にと っ て の 理想 なの である 教 師 が歌唱 の , ‐. ための発声を単純なものとして理解し, この理想を実現するとき 彼らの歌声は生まれ変わるであろう , .. 135.
(17) . 野 田 庸 志. 引用文献 ‐4 1 89年 5月号 音楽之友社 P‐ 1) 「教育音楽」 (中学・高校版)19 「 2年 音楽之友社 P-76 8 2) 石井末之助: 声のしくみ」19 . 77 9 1年 主婦と生活社 P76 3) 米山文明: 「声がよくなる本一19 7 4年 音楽之友社 P-49 4) デイヴィ ド・プレア・マクロスキー (高山教子訳) : 「美しい発声法」19 66年 音楽之友社 序 (鈴木佐太郎訳) : 「発声の科学と技法」19 87年 西村書店 P一97 6) D. F. プロクター (原田康夫訳) : 「呼吸 発声 歌唱」19 「 1年 8月号 音楽之友社 P-42 7) 教育音楽」 (中学・高校版)198 7 98 7年 音楽之友社 P二16 8) ゴーネリウス.L. リー ド (渡部東吾訳) : 「ベル・カント唱法」1 「 9) 加古三枝子: 歌いかたの基礎」1969年 音楽之友者P-9 87年 音楽之友社 P 1 0 ) フレデリック・フースラー, イヴォンヌ・ロッ ド=マーリング (須永義雄, 大熊文子訳) : 「うたうこと」19 5) リーザ・ローマ. - -27 , 28 , 35 , 37 , 89. 7 90年 東京書籍 P-20 ) 石井宏: 「クラシック音楽意外史」19 1 1. 136. . γ. --. -.
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