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子ども理解と保育の質に関する一考察(2) : Learning Storyの読み取りから

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はじめに A市立保育所所長らによる自主保育研究会3では、ニュージーランド就学前統一カリキュラ ム「TeWhriki」に注目し、マーガレット・カー(Carr,Margaret)4と保育実践者らが開発 した Learning Storyを用いて、 2009年より子どもの姿を観察し記録している。 この LearningStoryとは、「目標とする学びの構えの5領域のうち1つ以上が一人一人の姿に表 れた場面をいきいきととらえた「スナップ写真」あるいは臨場感のある記録を継続的に積み重 ねていけるようデザインされている」5 とあるように、ナラティブな方法を用いた観察をより 構造化したものである。つまり、子どもに一番近い保育者が、その遊びを「ありのまま」に記 録することで、今まで以上に子ども理解を深めていくための観察手法である。 前回は「子ども理解と保育の質に関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」に おいて、テ・ファリキ(TeWhriki)作成における背景理解を基盤とし、子どもの行為を捉 える5つの視点から「関心を持つ」という行為に軸を置き、その姿の可視化を試みた。 そこで今回は、それを継承し「熱中する」という行為を軸に子どもの学びの姿を考察する。 乳幼児の何気ない姿を、学びとして捉えることの意味を示すことで、子ども理解と保育の質の 向上に関する示唆が与えられると考えるからである。

子ども理解と保育の質に関する一考察(2)

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猪田 裕子

要旨 A市保育研究会では保育の質の探究をきっかけに、ニュージーランド就学前統一カリキュラム 「TeWhriki」に関心を持ち、LearningStoryを用いることで、子どもの姿を継続的に観察し共 有してきた。そして、現在600件を超える LearningStoryから、A市における子どもの学びの姿 の特性を整理するため、それを可視化することに取り組み始めた。前回「子ども理解と保育の質に 関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」1 において、テ・ファリキ(TeWhriki)

作成における背景理解を基盤とし、子どもの行為を捉える5つの視点2から「関心を持つ」という 行為を軸に、その姿の可視化を試みた。 そこで今回は、それを継承し「熱中する」という行為を軸に、子どもの学びの姿を考察する。乳 幼児の何気ない姿を、学びとして捉えることの意味を示すことで、子ども理解と保育の質の向上に 関する示唆が与えられると考えるからである。 キーワード:LearningStory 学びの姿 遊びの等価性 子ども理解 保育の質

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Ⅰ.子ども理解の視点 1)テ・ファリキ(TeWhriki)の背景と目指す人間像 日本では幼稚園教育要領6及び保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領8 が2017年に改訂告示された。そこで大きく取り上げられたのが保育の質の向上である。しかし 2004年、OECD(経済協力開発機構)により報告されたニュージーランドの就学前教育統一カ リキュラム「テ・ファリキ」は、既にその素養を充分に包含するものであった。 現在、ニュージーランドではマオリ族9をネーションとして受け入れているが、主流国民は ヨーロッパ系であり、その援助と保護によって二文化主義が達成されている。その為、テ・ファ リキは、ヨーロッパ側、マオリ族側、ニュージーランド政府関係者らが集い、其々の観点から 検討が行われ作成された経緯がある。そこで飯野(2014)は当時を知るマオリ族側の作成者に インタビューを行った。その内容は「マオリ語でWhrikiが意味するのは、マオリ族の祖先 と現在生きているマオリ族とがともに作り出す産物のことを意味しており、そこには無限の模 様が存在しています。このことは、個人の間で、個性、心情、能力等に異なりがあることを意 味したものです。マットというものは、人が立ち、座り、横たわる場所であり、つまりそれは 人生の象徴ともいえる場所ともいえます。マオリ族にとって Whrikiとは、人が誕生し、生 活を営み、そして、死を迎える、いわば人の一生を意味する語句としてとらえているのです」10 というものであった。この Whrikiの理念がヨーロッパ側の目指していた子どもの個々の発 達を全体的に捉えるという考えに一致し、就学前教育統一カリキュラムとしてテ・ファリキ作 成が実現したのである。 テ・ファリキでは、小学校の準備教育としての就学前教育ではなく、子どもの「今ここにあ る生活」を軸に、包括的な学びを保障する保育カリキュラムが構成されている。そこには 4つ の原理(Principles)と 5つの領域(Strand)とがあり、それらを織り糸となぞらえ、複雑に 織り合わさった一枚の織物を織りあげるとのイメージ11である。

4つの原理(Principles)として、「家族と地域(Family& Community)」、「エンパワメン ト(Empowerment)」、「全人格的発達(HolisticDevelopment)」、「家族と地域(Family& Community)」が記されている。また、5つの領域(Strand)として、「幸福(Well-being)」、 「所属感(Belonging)」、「貢献(Contribution)」、「コミュニケーション(Communication)」、 「探究(Exploration)」がある。それぞれの要素は、子どもにとって望ましい環境として挙げ

られており、社会文化的背景に影響されることなく、平等に学びの機会が保障されるのである。 そこでは様々な人やモノ、自然や文化等によって出会いや対話が与えられ、これらを通して子 どもは生きる意味を実感し、学ぶ意欲を培っていくのである。つまり「competentandconfi -dentlearnersandcommunicators,healthyinmind,body,andspirit,secureintheirsense ofbelongingandintheknowledgethattheymakeavaluedcontributiontosociety.」12 記されているように、心身共に健康であり、何かの一員としての所属感を持ち、社会に貢献す るという信念や、コミュニケーション能力を兼ね備えた、有能で自信のある学び手としての子 どもの姿が、テ・ファリキの目指すべき人間像であることを理解することができる。

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2)LearningStoryと学びの視点 テ・ファリキの理念に基づいた幼児教育の現場では「評価」も重要な視点の一つである。こ こでの評価とは「旧来のモデルは、学びを個人的で文脈と無関係なものと見なすものであった。 そこでは、重要な学びの成果というものは、断片的で、文脈とは切り離されて存在する、学校 に適応するためのスキルと捉えられていた。これに対して新しいモデルにおいては、学びとは 常に、その学びが置かれている文脈の中にある何ものかを獲得する」13とカーも述べているよ うに、形成的評価14を目指すものである。 そこでカーは観察において5つの行為の視点を示した。それは「関心を持つ、熱中する、困 難に立ち向かう、考えや感情を表現する、自ら責任を担う、あるいは他者の視点に立つ」15 いうものである。この視点でもって子どもを捉えようとすると、その姿が肯定的に見えてくる という。 わが国においても、LearningStoryを用いた実践報告やその有用性は文献等で紹介されて いる。飯野(2014)16はテ・ファリキの作成過程に着目し、それを民族の価値観から見解を示 している。川原(2017)17や目良、石沢、土橋(2018)18らは、日本の5領域とテ・ファリキの それとを比較し、日本の保育への還元の可能性を探究している。中でも大宮や鈴木らの文献19 は、多くの保育実践者達が知るところである。 そこで本論文においては、 これまでの研究20を継承し、 A市保育研究会で収集された LearningStoryの中から「熱中する」という行為を軸とし、成長と共に遷移する学びの姿の 可視化に取り組む。乳幼児の何気ない遊びの姿を学びとして捉え、それを様々な視点から再考 することが、子ども理解ひいては保育の質の探究に繋がると考えるからである。 Ⅱ.A市における子どもの遊びと LearningStory 1)LearningStoryからの学び これまでA市保育研究会で収集された LearningStoryを0歳児から5歳児へと年齢別に分 類し、さらにテ・ファリキの学びの視点に倣い5つの行為に分類した。 下記の図21は「関心を持つ」という子どもの行為から学びの姿を抽出し、それを成長の遷移

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と共に表記したものである。当初は0歳児から5歳児へと発達に沿って子どもの学びの姿は細 分化されると考えていたが、実際は5歳児へと成長するにつれ集約されるという結果になった。 これに関して、子どもの成長と共に多くの情報が整理され精査されていくのではないかとの見 解に至った。また、乳児期における遊びの姿の中にも学びは存在し、それを保育者が丁寧に関 わることにより、幼児期の様々な関心に繋がることを改めて再確認した。 では「熱中する」という行為を視点に収集された LearningStoryから、乳幼児の姿を可視 化することで、どのような遷移がみられるのかを考察していく。 2)乳幼児の「熱中する」に着目した学びの姿 0歳児の LearningStoryから、「熱中する」という行為を軸に子どもの姿を抽出し分類22 たところ、「安定」「まねっこ」「応答」「身体の発達」「表現」「意欲」「達成」の7つの学びの 姿が挙げられた。1歳児では「集中」「工夫」「人との関わり」「表現」「応答」「達成感」「意欲」 「まねっこ」「欲求」の9つで、2歳児では「夢中」「発見」「試す」「挑戦」「達成」「人への関 心」「応答」「自身」の8つであった。 その後、年齢ごとに子どもの姿の関連性について話し合いの場を持った。0歳児で「熱中す る」という行為の姿を捉えることは難しいが、心身共に安定している遊びの中にその萌芽は見 られたとのことである。「布がふわふわと顔の前で揺れるたびに表情が豊かになり声がでる」 「繰り返し興奮した声をあげて喜んでいた」「顔を隠したり「ばあ」といって顔をだしたり繰り 返していた」等の記録からも、それを読み取ることができる。また1歳児では、何度も繰り返 して遊ぶ姿に「熱中している」姿というより、「集中して繰り返される遊びの姿」との表現の 方が保育者には違和感がないようであった。2歳児になると「夢中」や「挑戦」という姿が見 られるようになってきたが、やはり「熱中する」姿ではなく、「達成感を味わう姿」等の表現 の方が適当のようであった。このように、0歳児から2歳児で「熱中する」という行為を見出 すことは難しいが、そこに至るまでの過程が遊びの中にはあるのではないかとの見解が示され た。 3歳児になると、LearningStoryからは「楽しい」「人間観察」「イメージ」「発見・試す」 「集中」「応答」の6つの学びの姿が挙げられた。4歳児では「一人で集中」「認めて欲しい」 「競争」「工夫」「友達との関わり」の5つで、5歳児では「一人・気の合う友達と」「発見」 「工夫」「居心地の良さ」「挑戦」「表現」「協働」「チーム力」の8つであった。 また「熱中する」という行為の視点で話し合いを行う中で、「夢中になっている」「集中して いる」等の子どもの姿が何度も出された。つまり「熱中する」という行為に至るまでには、そ の過程において「夢中」や「集中」等の学びの姿が在るといえる。換言すると、「関心を持つ」 という行為からいきなり「熱中する」という行為に変遷するのではなく、そこに至るまでの過 程をいかに捉えて深めていくか、という保育者の視点が必要であるとの見解が示された。 右記の図2は、これまで述べてきた子どもの行為の遷移図である。LearningStoryから集 約した「熱中する」という行為の視点から、各年齢と対照させ発達に沿って整理し記載したも のである。

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3)0歳児から2歳児の遊びの姿からの考察

0歳児から2歳児までの遊びの姿を成長に沿って概観したところ、0歳児では「安定」とい う姿が、1、2歳児になると「集中」や「夢中」に移った。つまり、「熱中する」という行為 は、安心して生活できる基盤があってこそのものであり、まさにテ・ファリキにおける領域 「幸福(Well-being)」や「所属感(Belonging)」に即する姿であるといえる。また、様々な 子どもの姿に応える保育者の姿が「人との関わり」から「人への関心」へと向かわせていく。 その中で「自信」を持って活動することができる2歳児の姿へと成長を見せていく。この「自 信」という過程を経て「熱中する」行為が深められていくのであろう。 さらに0歳児に「達成」と捉えられる姿が記録されている。例えば「マジックを渡すと、な ぐり描きをしては、パチパチと手をたたいて笑顔で描いていた」「ポットン遊びで中に入った 時には、手をたたいて喜び、繰り返し遊んでいた」「ミルク缶に入れると「ポトン」と音がし たので、一瞬目を丸くし喜ぶ。保育士が「上手ね」とほめると自分でもじょうず、じょうずを する」等である。日常の何気ない姿であるが、これを学びの姿として捉え観察することで「達 成」が「達成感」や「集中」に移り、1歳児になると次第に「欲求」として現れ、やがて2歳 児で「夢中」になり「挑戦」する姿や「自信」を持つ姿へと遷移する。ここでも保育者の0歳 児への丁寧な関わりの必要性が見えてくる。 2歳児で記されている「発見」の姿では、様々な活動の中で「試す」ことを通して予測する 力が育っているのではないかとの考察が保育者間でなされた。例えば「ジョーゴでザーザー水 をこぼしていたが、何回か繰り返し遊んでいるとそっとこぼさないように入れようとしていた」 との記録から、「〇〇すると〇〇になる」との予測が伺えたのである。この「予測」の姿が 「工夫」する姿へと遷移し、「熱中する」行為の姿として捉えられるのであろう。 この「熱中する」するという行為は「関心を持つ」行為に比べると、0歳児から2歳児にお いては特に捉えにくい姿であった。しかし、図2にも記されているように、0歳児の安定した 生活環境の中で育まれる遊びが、やがては「集中」や「工夫」、「達成感」や「意欲」へと繋が り、何度も繰り返して遊ぶ中で「熱中する」行為の姿へと遷移するとの見解に至った。 図2 成長に沿った「熱中する」子どもの行為の遷移

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4)3歳児から5歳児の遊びの姿からの考察 3歳児以上になると、自分で遊びを選ぶ姿が多く見られるようになる。所謂、遊びにおける 「自己選択」「自己決定」「自己責任」が連鎖する姿である。例えば、3歳児の「大好きなレー ル汽車で遊び、線路をつなげる遊びを繰り返している」、4歳児の「粘土を伸ばしたものを 「人参できた」といって作り続け25本ほど作る」、5歳児の「レゴブロックを組み立てている。 外れても何度も組み立てている」等の記録はそれに相当する姿であると考える。 また、3歳児の「発見・試す」や「集中」の姿に関して「何度も繰り返し混色する」「他児 が話しながら集まってきたが、本児はその場で黙々と赤ばかり集めたアイクリップでザリガニ のはさみを作っていた」等の記録がある。これは 2歳児の単に「発見」や「試す」の姿とは異 なり、3歳児の「楽しい」という姿が深められる中で、次第に「発見・試す」や「集中」とい う姿に繋がるといえる。 4歳児になると「熱中する」行為の姿は LearningStoryに多く捉えられるようになる。特 に「競争」や「工夫」、「友達との関わり」の姿は、5歳児の学びの姿に広く反映している。例 えば「カプラで井形を作り、高さを競い合っている」等の「競争」が、5歳児になると「挑戦」 や「表現」、「チーム力」という姿に遷移する。また「お店屋さんごっこでおでんの具のまき昆 布を考えて作っている。色紙を巻くだけだとすぐに広がってしまう。しばらく考えてセロハン テープでとめた」という4歳児の工夫は、その後5歳児の「発見」や「工夫」、「表現」等に遷 移する。 これまで「熱中する」という行為を軸に学びの姿の遷移を考察してきた。そこでは0歳児か ら2歳児に抽出された学びの姿は、3歳児と4歳児で一旦集約されたように見えた。しかし、 その後5歳児の学びの姿で再び広がりを見せた。これは、乳児期に一人ひとりが大切にされる 経験が基盤となり、3、4歳児で「一人で熱中」や「楽しい」という姿が保障され、それが5 歳児の「チーム力」等に反映された為ではないかとの見解に至った。 Ⅲ.LearningStoryから学ぶ保育者の視点 1)乳幼児の「熱中する」という行為の遷移 膨大な資料を整理及び分析する中、一つの LearningStoryから、いくつもの視点を読み取 ることができた。また、関連ある子どもの姿を集約する過程で、これまで気に留めることもな く、ただ漠然と流れていた子どもの姿の中に、実は深い学びがあることに気づかされた。これ は LearningStoryを用いなければ気づくことのできなかった視点である。 例えば、図2における0歳児の「安定」と付けた姿に「布がフワフワと顔の前でゆれるたび に表情が豊かになり声がでる」等の記録があった。何気ない遊びの姿であるが、保育者の丁寧 な関わりが0歳児に安定をもたらしている。それが1歳児になると「集中」や「人との関わり」 等の姿に遷移する。そこでは「ひしゃくで水をかける行動をくりかえしていた」や「カーテン をめくると偶然友達が隠れていて笑いあう」等、一人で集中する姿や他者を意識する姿が記さ れていた。2歳児になると「集中」は「夢中」、「人との関わり」は「人への関心」の姿に遷移 する。例えば、「シャボン玉をストローで吹く→シャボン玉が出る→ストローにシャボン玉を 乗せる→おもしろいを繰り返し楽しむ」等、遊びに没頭する姿、所謂「夢中」になる姿の記録

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である。その基には1歳児の「集中」する姿があり、これに保育者が丁寧に関わることで、 「夢中」になる姿へ至ったといえる。また、同じ2歳児の「ことあるごとに名前を呼ぶ」とい う記録からは、単に人との関わりを楽しんでいた1歳児から、特定の「人への関心」に遷移し たことが確認される。 3歳児になると「夢中」の行為の中に「楽しい」が意識されるようになり、4歳児では「一 人で熱中」する姿が多く見られるようになった。例えば、「一人でブロックを組み立てて遊ぶ」 「砂場で穴掘りをして遊ぶ」「カップでボールから色水をすくい机に並べている。20個くらいひ たすら入れて並べている」等である。その後、5歳児になると「一人・気の合う友達と」とい う姿が見られるようになり、「友達と大きいスコップを使う」「3人の女児が地面に向かってシャ ボン玉を吹いている」「かき氷を作ることに集中し、お客さんに渡していた」等の記録が取ら れた。また、「人への関心」は「友達との関わり」から「協働」や「チーム力」、「居心地よさ」 へ遷移した。 今回、0、1、2歳児の中で「熱中する」行為そのものを確認することは難しかった。しか し、全ての行為は、その後の「熱中する」行為の基盤となっていることが、子どもの姿を可視 化することにより明確になった。0歳児から2歳児の時期に大切な基礎が培われることは、こ れまでも周知の事実ではあったが、LearningStoryを用いて子どもの姿を丁寧に可視化する ことで、改めてその重要性を実感し再確認することができた。更には、子どもの行為の遷移は、 全て遊びの中に見られ、それは生きる力として必要な学びの姿であることも併せて確認するこ とができた。 2)「熱中する」という行為と遊びの等価性 子どもの姿を5つの視点の中の「熱中する」という行為で整理すると、5歳児の「熱中する」 では、「発見」や「工夫」という姿の記録が非常に多かった。そこでは「セミ取りで鳴き声を 聞いてセミの場所を探している」「いろいろな容器に水を入れて、花、葉、茎を入れては「浮 く」という」「色水の混色を楽しんでいる。「赤と白と黄色をまぜた」といい、できた色と保育 者のTシャツの色が同じなので喜ぶ」等、個々の子どもの姿が記されている。同じ「発見」や 「工夫」に分類される姿であっても、記録された内容は様々である。つまり、目に見える子ど もの遊びの姿は全く別のものであっても、そこで得られる学びの姿は同じであった。それ故、 子どもの遊びは全てに等しく価値があるとの捉え方ができる。つまり、個々の遊びの姿を丁寧 に、そして肯定的に捉えて行くことが、子ども理解及び保育の質を深めて行く為には必要な視 点であると、LearningStoryを通して再確認した。 また「発見」や「工夫」の姿を成長と共に遡ると、「試す」や「夢中」、「集中」等の姿にな る。「トロトロの片栗粉粘土をかけると笑って感触を味わっていた」「自分から興味のある玩具 に向かってさわりに行く」「ガーゼを手にすると落ち着き、口元に持っていき、落ち着いて感 触を味わっている」等の記録にあるように、どの年齢においても、異なる遊びの姿の中に同じ 学びの姿を捉えることできる。 結局、子どもが取り組む様々な遊びの姿の中には、同じ学びの姿が存在するということであ

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「熱中する」という行為を軸に子どもの学びの姿の遷移を見てきたが、どの姿においても等し く学びがあり価値があることを確認することができた。 3)保育者の視点 子どもの行為を捉える5つの視点を軸に、LearningStoryを整理し分析する過程で多くの 気付きがあった。例えば、5つの視点の中で最も記録数の少ない行為は「貢献する」であり、 次いで今回の「熱中する」であった。「貢献する」に関しては、読み取りの難しさと、保育者 の意識がそこに向いていなかった為ではないかと推測する。「熱中する」という行為の記録が 少なかった理由として、年齢によっては「熱中する」という行為以前の姿が多く捉えられてい たところに要因があると考える。特に0歳児や1歳児では「熱中する」という行為の前提とし て、安心できる生活環境や身近な大人との信頼関係構築としての姿が多く記録された。つまり、 乳幼児期を如何に豊かに過ごすかによって、その後の「熱中する」という行為の姿に大きく影 響するのである。 今後、更に子ども理解を深める為には、子どもを肯定的に捉えて行く観察の視点が必要であ る。何故なら「子どもを信頼するという本質」23が子ども理解の根底にあるからである。それ 故、子どもを信頼し、肯定的視点でもって捉えていくためにも、継続的に LearningStoryを 用い、多角的視点から子どもの学びの姿を探究していく所存である。 おわりに 今回は、LearningStoryの読み取り及び保育者間の共有を踏まえ、「熱中する」という行 為を軸に、子どもの学びの姿を発達に沿って可視化した。そこでは、記録を丁寧に保育者間で 共有することにより、これまでとは違う視点から見えてくる子どもの姿があった。 例えば、0歳児の「まねっこ」という姿は、遷移図において5歳児には繋がっていないが、 「まねて試すことで、どうなのだろうかと考える姿が見られた。これは科学的な考えの芽生え ではないか」との捉え方がされていた。また、2歳児に見られた「発見」の姿は5歳児まで繋 がっており、5歳児では「工夫や発見では道具を使ったり、意図的に考えたりする姿が見られ る。また、結果を予測してそこに至るまでの過程を探究する姿がある。これは子どもなりの研 究といえるのではないか」との話しもあった。何気ない日常の姿から、有能な学び手としての 子どもの姿を読み取ろうとする保育者の姿である。 このように LearningStoryに基づいて話し合われる時間の中にこそ、保育の質の向上に繋 がる本質があるのではないかと考える。それ故、今後も LearningStoryを用いて丁寧に子ど もの姿を捉えていく所存である。 註 1 猪田裕子著「子ども理解と保育の質に関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」『神戸親和 女子大学教職課程・実習支援センター研究年報』第3号,2020年. 2 「関心を持つ、熱中する、困難に立ち向かう、考えや感情を表現する、自ら責任を担うあるいは他者の視 点に立つ」という5つの行為の視点で子どもを捉えると、その姿が肯定的に見えてくるといわれている。 3 A市では保育所の民営化が進んでいる。最終的には、現在の半分にまでなる予定である。そのような中、

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どのような状況にあっても保育の質は守るべきという思いから、月に一度、自主保育研究会を持つようになっ た。本論では以降、この研究会をA市保育研究会と呼称する。

4 ワイカト大学教育学部教授である。テ・ファリキの理念に基づき子どもの学びをアセスメントするため、 カーが中心となり保育実践者らと共に研究を行い、テ・ファリキの策定及び LearningStoryを開発した。 5 Carr,Margaret,AssessmentinEarlyChildhoodSettings,:LearningStories,SAGE Publications,

2001,p96(マーガレット・カー著,大宮勇雄・鈴木佐喜子訳『保育の場で子どもの学びをアセスメントす る:「学びの物語」アプローチの理論と実践』ひとなる書房,2013年,161頁.) 6 文部科学省『幼稚園教育要領』フレーベル館,2017年. 7 厚生労働省『保育所保育指針』フレーベル館,2017年. 8 内閣府,文部科学省,厚生労働省『幼保連携型認定こども園教育・保育要領』フレーベル館,2017年. 9 マオリ族はニュージーランドのポリネシア系先住民である。初期の移住は9世紀以前に行なわれたといわ れているが、その後再びタヒチ方面より大移住があり、それと共にマオリ文化が開花した。マオリとは、マ オリ族の用いる言語で「普通」という意味である。マオリ自身が西洋人と区別するために「普通の人間」と いう意味で「TangataMaori」を使用したが、その発音が難しく、次第にマオリ(Maori)と呼称される ようになった。 10 同上書,97-98頁. 11 前掲書,猪田裕子著「子ども理解と保育の質に関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」5 頁.上部の図1を参照のこと。

12 New ZealandMinistryofEducation,TeWhriki.HeWhrikimataurangamongamokopunao Aotearoa:EarlyChildhoodCurriculum,NewZealand Gavernment,2017,p6.

13 Op.cit,Carr,Margaret,AssessmentinEarlyChildhoodSettings,:LearningStories,p4(前掲書, マーガレット・カー著,大宮勇雄・鈴木佐喜子訳『保育の場で子どもの学びをアセスメントする:「学びの 物語」アプローチの理論と実践』23頁.) 14 結果の質的評価からプロセスにおける質的評価への転換である。 15 Ibid,p96.(同上書,161頁.) 16 飯野祐樹「ニュージーランド就学前統一カリキュラム TeWhriki(テ・ファーリキ)の作成過程に関す る研究-関係者へのインタビュー調査を通して-」『保育学研究』第52号第1号,2014年,pp.90-104. 17 川原亜津美「ニュージーランドの乳幼児カリキュラム「テファリキ」の所属感に基づいた領域「環境」の 再考」『研究紀要』69巻,高松大学,2018年,pp.1-12. 18 目良明子,石沢順子,土橋久美子「意欲や主体性を育む教育:領域「健康」「人間関係」「環境」からみた 日本とニュージーランドの比較」『白百合女子大学初等教育学科紀要』4巻,白百合女子大学人間総合学部 初等教育学科紀要編集委員会,2019年,pp.71-79. 19 Ibid,p96.(同上書,161頁.) 20 前掲書,猪田裕子著「子ども理解と保育の質に関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」 21 同上書,8頁. 22 LearningStoryを 0歳児から 5歳児と年齢別に分類し、さらにテ・ファリキの学びの視点に倣い、「関 心を持つ」「熱中している」「困難に立ち向かう」「考えや気持ちを表現する」「こうけんする」の 5つの行為 に分類した。その際、一つの記録及び一人の子どもの姿から複数の学びの視点が読み取れるので、それを更 に細かく分類した。最後に、5つの視点に集まった記録を、類似する内容ごとに分け、其々子どもの行為に 見合う言葉を付けた。これらの分類を発達に沿って整理した。

23 Op.cit,Carr,Margaret,AssessmentinEarlyChildhoodSettings,:LearningStories,p108(前掲書, マーガレット・カー著,大宮勇雄・鈴木佐喜子訳『保育の場で子どもの学びをアセスメントする:「学びの 物語」アプローチの理論と実践』179頁.)

参考文献

Carr,Margaret,AssessmentinEarlyChildhoodSettings,:LearningStories,SAGEPublications,2001. (マーガレット・カー著,大宮勇雄・鈴木佐喜子訳『保育の場で子どもの学びをアセスメントする:「学び の物語」アプローチの理論と実践』ひとなる書房,2013年.) 猪田裕子著「子ども理解と保育の質に関する一考察 -LearningStoryの読み取りから-」『神戸親和女子 大学教職課程・実習支援センター研究年報』第3号,2020年. 飯野祐樹「ニュージーランド就学前統一カリキュラム TeWhriki(テ・ファーリキ)の作成過程に関する研 究-関係者へのインタビュー調査を通して-」『保育学研究 第52巻第1号』,2014年.

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『高松大学研究紀要』第69号,2017年.

目良明子,石沢順子,土橋久美子「意欲や主体性を育む教育:領域「健康」「人間関係」「環境」からみた日本 とニュージーランドの比較」『白百合女子大学初等教育学科紀要』4巻,白百合女子大学人間総合学部初 等教育学科紀要編集委員会,2019年.

NewZealandMinistryofEducation,TeWhriki.HeWhrikimataurangamongamokopunaoAotearoa: EarlyChildhoodCurriculum,LearningMediaLimited,1996.

NewZealandMinistryofEducation,TeWhriki.HeWhrikimataurangamongamokopunaoAotearoa: EarlyChildhoodCurriculum,NewZealandGavernment,2017.

大宮勇雄『保育の質を高める―21世紀の保育観・保育条件・専門性』ひとなる書房,2006年. 大宮勇雄『学びの物語の保育実践』ひとなる書房,2011年.

大宮勇雄『子どもの心が見えてきた―学びの物語で保育は変わる』ひとなる書房,2011年.

佐伯胖「子どもが『アートする』とは-レッジョ・エミリアの幼児学校から学ぶ」『教育美術』9月号(NO. 843),2012年.

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