著者
菊谷 竜太
雑誌名
東北文化研究室紀要
巻
54
ページ
87-91
発行年
2013-03-29
URL
http://hdl.handle.net/10097/56401
2012年度 東北文化公開講演会 表象としての身体一死の文化の諸相 -87-発表5
インド・チベット密教における死兆と臨終儀礼
東北大学大学院 菊 谷 竜 太 インドにおいて、ヴェ-ダ期からボス_ト・ヴェ-ダ期にかけて、宗教および医学の分野でさま ざまな死の教理体系が蓄積・整備されていったことは既に指摘されている。 EINO [2004]を踏 まえた杉木[2007]によれば、それらの体系は主に次の三要素から構成される。① 「死の兆し(Skt. mrtyucihna-, mrtyulaksapa-; Tib. bchi ba yi mtshm ma)」
② 「死[神]を欺くこと(Skt. mrtyuvancana-; Tib. bchi blu ba)」
③ 「転生の実践(Skt. utkrantiyoga-; Tib. bpho babュ rnal bbyor) 」
(Dの「死の兆し」とは、死が迫っていることを知らせる兆相である。 ②の「死[神]を欺くこ と」とは、自分にとって望ましくない死を回避する手段であり、 (砂の「転生の実践」とは、回避 され得ない死、もしくは自らが望ましい死を受け入れるための実践に当たる。 EINO [2004]が指摘するように、これらの死の実践体系は汎インド的に展開・受容されつつ インド仏教を継承したチベット世界へと伝達された。例えば、チベットにおける代表的な医学書 『四部医典』には「人の死の兆候」として次の内容が説かれている(図1 ・ 2)。 I 「夢兆による『人の死の兆候』」 :
i夢をみる原因、 ij吉祥なる夢兆、 iij死亡する夢兆、 iv失明する夢兆、 V健康・長寿・壮快なる夢兆
Ⅱ 「死兆による『人の死の兆候』」 :
i死亡の兆候、 ii瀕死の兆候、 iii臨死の兆候、 iv死兆を回避する方法
上記①②(Dの死の三要素と比べれば、 ①がIおよびⅡのi ∼iii、 ②がⅡ -ivの内容にそれぞれ 対応すると考えられる。また、それが回避され得ない死であること、地・水・火・風という身体 を構成する四大元素の衰退が死の兆相と関わることとを考慮するならば、 Ⅱ -iiiの内容は(砂と関 わるものと言えよう。
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て重要な点と思われる。注目すべきは、以上の「兆相」がいずれも医師が果たすべき領域の境界を知るための基準であ
るという点にある。つまり、 『四部医典』はあくまで医師を対象とするものであり、 ①②が中心 となる。一方、チベット仏教世界において③の役割を主に担ってきたのが、インド密教の流れを 汲む僧侶であった。エヴァンス・ヴェンツ(1878-1965)によって「チベットの死者の書」とし て紹介された『パルドゥ・トェ・ドル(中有において聴聞することによる解脱)』は、 ③を主題 とするものと言える。また、活仏(トウルク)制度を明らかにする上でも、 ③の教理内容は重要 である。 以上の背景を踏まえれば、医学文献とインド・チベット密教典籍との関連を知るためにインド 密教がチベットに伝達される複数の伝達過程に注目するべきだと言える。参照文献
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