• 検索結果がありません。

小学校教員養成課程における理科の指導法に関する授業実践 : 主体的で対話的で深い学びの実現を目指して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小学校教員養成課程における理科の指導法に関する授業実践 : 主体的で対話的で深い学びの実現を目指して"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

質の高いものであらねばならない。 子どもたちが主体的に遊びや生活を展開し,未来に向かって力強く生きていく力,学びに向かう 力が育まれる環境を構成していくには,今後もますます保育者の専門性と質の高い保育が求められ ることだろう。 (長江) おわりに 子どもの育ちを支える環境構成の在り方と保育の質向上 本稿で取り上げた現職の保育士研修の講師を務めた長江は,本稿3節で岸井(2003)を参照し, 遊びの楽しさは教育的であり,子どもの充実感や発達に求められるものであることを確認している。 その上で「子どもたちが夢中になったり,繰り返し遊んだりする遊びには,モノとの関わりにより 対話が生まれるといった関係性が存在」すると述べている。子どもが関わり対話するようなモノに よって環境を構成するということは,「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」等に示されているとお り,環境を通して教育することにつながる。幼稚園や保育所における「教育の質の向上」をもたら すには,子どもに寄り添うだけでなく,幼児教育や保育の目標・ねらいに基づいて,遊びの楽しさ をもたらし,子どもの育ちを支える環境構成が保育者に求められる。 (伊藤) 【参考文献】(長江分) (1)全国保育研究所2016 保育所保育指針の改定に関する中間とりまとめの概要 社会保障審議会児童部会保育専門委員会 (2)教育変革への展望 変容する子どもの関係2016 遠藤利彦 岩波書店 (3)保育用語 森上史郎 (4)あそび中心の保育 川邉貴子 1 一般社団法人愛知県現任保育士研修運営協議会『「保育分野における中核的専門人材育成」事業 報告 現任保育士研修開土ライン』2016 年 2 月,同協議会『「保育分野における中核的専門人材養 成カリキュラム開発」事業報告 モデルカリキュラムのシラバス』2017 年2月等参照。

2 Hiromi ITO, Mitsuko NAGAE, Fumito SATO, “Study on Training Programs and In-Service Training of Kindergarten Teachers, Child-Carers and Nursery Teachers (Provisional Name),” The 12th AASVET International Conference 2016 Abstracts and FullPapers of the Parallel Session Presenters(全 13 頁)参照。 3一般社団法人愛知県現任保育士研修運営協議会(2017)においては5年目現任保育士研修のモデ ルカリキュラムに「環境構成」の時間が割かれている。註1参照。 4 森上史朗「環境構成」森上史朗・大場幸夫・秋山和夫・高野陽(編)『最新保育用語辞典(三版)』 ミネルヴァ書房(1998)pp.84-85。 5 佐伯胖『幼児教育へのいざない』東京大学出版会(2001)pp.114-115 6 倉橋惣三「就学前の教育」『倉橋惣三選集 第三巻』フレーベル館(1965)p.432。 7 岸井勇雄『子育て小事典』エイデル研究所 (2003) pp.135-141 8 佐伯胖『幼児教育へのいざない』東京大学出版会(2001)pp.133-134

小学校教員養成課程における理科の指導法に関する授業実践

――主体的で対話的で深い学びの実現を目指して―― 日比野博,人間生活科学部特任教授 伊藤博美,非常勤講師 要約:平成 29 年公示の学習指導要領では、「何を学ぶか」という教育内容の見直しに加え、「どのよ うに学ぶか」「何ができるようになるか」の視点から改善が求められている。これらについて概観し、 とりわけ「どのように学ぶか」に関連して「主体的・対話的な学び」「深い学び」に着目して名古屋 経済大学における教科教育法(理科)の授業実践を報告し、新学習指導要領に即した学びを理科の 授業で展開できる小学校教員養成の在り方を検討した。そこから、自分だけでなく学習者の興味関 心を踏まえながら他の学生と対話的に計画する経験は、小学校教員を志望する学生は、主体的・対 話的で深い学びを生み出す授業を立案することにつながるといえる。 はじめに 2017(平成 29)年3月、文部科学省は新たな学習指導要領を公示した。小学校学習指導要領に見 られる理科教育の変遷は、大阪府教育センターによるとそれぞれ次のキーワードで表される。1947 (昭和 22)年(施行年、以下同じ)が生活単元学習・問題解決学習、1958(昭和 33)年が教育の近 代化1・系統学習、1971(昭和 46)年が探究学習、1980(昭和 55)年がゆとり教育、1992(平成4) 年が個性を生かす教育・生活科の誕生、2002(平成 14)年が生きる力を育てる教育である2 現行の2008(平成20)年改訂・小学校学習指導要領3では、「発達の段階に応じて,児童が知的 好奇心や探究心をもって,自然に親しみ,目的意識をもった観察・実験を行うことにより,科学的 に調べる能力や態度を育てるとともに,科学的な認識の定着を図り,科学的な見方や考え方を養う ことができるよう改善を図」4り、下記左欄の目標が掲げられた。 その成果は、2016(平成28)年12月の中央教育審議会答申5によれば、PISAやTIMSS(国際数学・ 理科教育動向調査)の結果に認められるが、課題として以下の三つがあげられた。第一に、「「観 察・実験の結果などを整理・分析した上で,解釈・考察し,説明すること」などの資質・能力に課 題」があるとされた。これを踏まえ、第二に「「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力等」, 「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱に沿った」資質・能力を整理して示すことが課題である。 第三に「科学的な見方や考え方」を「理科の見方・考え方」へと改めて検討する」ことが課題とさ れた6 この答申を踏まえ、2017(平成29)年3月に学習指導要領が公示され7、小学校学習指導要領第 2章第4節「理科」の目標は、以下のように改められた。 表1 小学校学習指導要領「理科」の目標 現行 平成 20 年告示・平成 27 年一部改正反映後 平成 29 年公示、 平成 32 年度完全実施学習指導要領 第1 目標 自然に親しみ,見通しをもって観 第1 目標 自然に親しみ,理科の見方・考え

(2)

察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を 愛する心情を育てるとともに,自然の事物・現 象についての実感を伴った理解を図り,科学的 な見方や考え方を養う。 方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行う ことなどを通して,自然の事物・現象について の問題を科学的に解決するために必要な資質・ 能力を次のとおり育成することを目指す。 (1) 自然の事物・現象についての理解を図り, 観察,実験などに関する基本的な技能を身に付 けるようにする。 (2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養 う。 (3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決し ようとする態度を養う。 このように学習指導要領が改訂されるなか、独立行政法人・科学技術振興機構理科教育支援セン ターによる「平成 20 年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」と 「理科を教える小学校教員の養成に関する調査報告書」において小学校教員の6割が理科の指導に 苦手意識を持っていることが明らかになった1ことを踏まえ、小柳(2017)は、子どもの主体的な学 習を理科でさせることの困難さを指摘し、小学校教員養成課程における理科の指導力育成の必要性 と課題を明らかにしている2 そこで本稿では、以下で平成 29 年公示の学習指導要領において新たに示された「どのように学ぶ か」にあたる「主体的・対話的な学び」および「深い学び」について概観した上で(1章)、名古屋 経済大学における教科教育法(理科)の授業実践を報告し(2章1節・2節)、新学習指導要領に即 した学びを理科の授業で展開できる小学校教員養成の在り方を検討したい(2章3節)。 (伊藤) 1 平成 29 年公示小学校学習指導要領 今回の新しい学習指導要領では,学校の教育活動を進めるにあたり,主体的・対話的で深い学び の実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,児童に 生きる力を育むことを目指すものとしている。そして,これまで改訂の中心であった「何を学ぶか」 という指導内容の見直しに加えて,「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の視点から も内容が改善されている。また,学習指導要領が,学校教育を通じて子どもたちが身に付けるべき 資質・能力や学ぶべき内容,学び方の見通しを示す「学びの地図」として機能するようになってい る。 理科においては,これまで「科学的な見方・考え方」を育成することが重要な目標として位置付 けられてきたが,今回の改訂では,資質・能力がより具体的なものとして示されている。一方,中 教審の答申では,「見方・考え方」が,資質・能力を育成する過程で働かせる物事を捉える視点や 考え方として整理されている。この「理科の見方・考え方」が,「深い学び」と密接な関係にあり, これが学びの「鍵」となってくる。 1 例えば川﨑弘作・角屋重樹・木下博義・石井雅幸・後藤顕一(2015)「初等教員養成課程学生の理科における問題 解決能力の実態に関する研究-小学5,6年生・大学1年生の比較を通して-」『理科教育学研究第 56 巻第2号』 pp.151-158 では、初等教員養成課程の大学1年生と小学校5,6年生の問題解決能力を比較し、大学1年生の方が 低いことを明らかにしている。 2 小柳慶一(2017)「小学校教員養成課程における理科教育の課題」『東海学園大学教育研究紀要第1巻』pp.133-141。 なお、日本理科教育学会では大会で部会を設け教員養成の研究が継続的に重ねられている。

(3)

察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を 愛する心情を育てるとともに,自然の事物・現 象についての実感を伴った理解を図り,科学的 な見方や考え方を養う。 方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行う ことなどを通して,自然の事物・現象について の問題を科学的に解決するために必要な資質・ 能力を次のとおり育成することを目指す。 (1) 自然の事物・現象についての理解を図り, 観察,実験などに関する基本的な技能を身に付 けるようにする。 (2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養 う。 (3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決し ようとする態度を養う。 このように学習指導要領が改訂されるなか、独立行政法人・科学技術振興機構理科教育支援セン ターによる「平成 20 年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」と 「理科を教える小学校教員の養成に関する調査報告書」において小学校教員の6割が理科の指導に 苦手意識を持っていることが明らかになった1ことを踏まえ、小柳(2017)は、子どもの主体的な学 習を理科でさせることの困難さを指摘し、小学校教員養成課程における理科の指導力育成の必要性 と課題を明らかにしている2 そこで本稿では、以下で平成 29 年公示の学習指導要領において新たに示された「どのように学ぶ か」にあたる「主体的・対話的な学び」および「深い学び」について概観した上で(1章)、名古屋 経済大学における教科教育法(理科)の授業実践を報告し(2章1節・2節)、新学習指導要領に即 した学びを理科の授業で展開できる小学校教員養成の在り方を検討したい(2章3節)。 (伊藤) 1 平成 29 年公示小学校学習指導要領 今回の新しい学習指導要領では,学校の教育活動を進めるにあたり,主体的・対話的で深い学び の実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,児童に 生きる力を育むことを目指すものとしている。そして,これまで改訂の中心であった「何を学ぶか」 という指導内容の見直しに加えて,「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の視点から も内容が改善されている。また,学習指導要領が,学校教育を通じて子どもたちが身に付けるべき 資質・能力や学ぶべき内容,学び方の見通しを示す「学びの地図」として機能するようになってい る。 理科においては,これまで「科学的な見方・考え方」を育成することが重要な目標として位置付 けられてきたが,今回の改訂では,資質・能力がより具体的なものとして示されている。一方,中 教審の答申では,「見方・考え方」が,資質・能力を育成する過程で働かせる物事を捉える視点や 考え方として整理されている。この「理科の見方・考え方」が,「深い学び」と密接な関係にあり, これが学びの「鍵」となってくる。 1 例えば川﨑弘作・角屋重樹・木下博義・石井雅幸・後藤顕一(2015)「初等教員養成課程学生の理科における問題 解決能力の実態に関する研究-小学5,6年生・大学1年生の比較を通して-」『理科教育学研究第 56 巻第2号』 pp.151-158 では、初等教員養成課程の大学1年生と小学校5,6年生の問題解決能力を比較し、大学1年生の方が 低いことを明らかにしている。 2 小柳慶一(2017)「小学校教員養成課程における理科教育の課題」『東海学園大学教育研究紀要第1巻』pp.133-141。 なお、日本理科教育学会では大会で部会を設け教員養成の研究が継続的に重ねられている。 そこで,以下1節2節で紹介する教員養成課程における授業では、将来小学校の教師となるべく 学んでいる学生に視点を当て,理科における「主体的・対話的で深い学び」について考えさせてい くとともに,どのようにしたら主体的・対話的で深い学びを実現していくことができるかを考えさ せることとした。 (1)主体的・対話的とは何か 平成 28 年6月 21 日教育課程部会総則・評価特別部会資料の「学習指導要領等改訂の基本的な方 向性」の中で,「主体的な学び」の実現とは,学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成 の方向性と関連付けながら,見通しを持って粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返って次に つなげることができているか,「対話的な学び」の実現とは,子ども同士の協働,教職員や地域の 人との対話,先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ,自己の考えを広げ深めることができ ているかという学びの姿が記されている。 理科においては,ややもすると積極的に実験や観察に参加し,進んで結果を発表している子ども を主体的に学んでいると捉えがちである。確かに,主体的には活動をしているが,そこには何のた めの活動であるか,目的意識をしっかりと持たせた上での活動でなければ学びとならない。また, 討論や発表など表現活動においても,この活動や発表がどういう意味を持つのかを子ども自身がき ちんと理解した上でのものでなければならない。すなわち,主体的な学びとは,子ども自身が目的 意識や考え,見通しを持って活動しているかどうかが重要となり,それが深い学びへとつながって いくのである。 教育現場では,観察や実験で得た結果や結果から分かることを考察するとき,あるいは調べる方 法などを考えるときに,グループによる話し合いを行わせることが多い。そこでは,個人の考えを しっかりと引き出すことや持たせることが十分に行われていない状態で話し合いをさせてしまうこ とがある。その結果,一人一人が考えや意見を持たず活動を始めてしまい,例えば4人グループの うちの1人の意見だけで決まってしまい,後の3人が何も考えることもせずに終わってしまい,終 始受動的な学びの状態でいることが多く見られる。そのような場合には,前述したように,何のた めにやっているのか,この結果が何を意味するのかが分かっていないまま学びが進んでしまい,結 果だけを覚えて終わってしまうことがある。実験や観察もただ単にやったというだけで終わってし まい,技能は身につかず,実験や観察した喜びや新しい発見,驚きも感じることもないまま流れて いってしまう。 そこで,「対話的な学び」を行うためには,次のような個人から相互作用による広がりへ,そし て,また個人に戻る対話を中心とした活動を行うことが必要である。 このような主体的・対話的な学びを織り交ぜ,相互作用を構築しながら学ばせることで,個々に, A 個 人 ・・・ 自分なりの意見・考えを持つ ↓↑ B 子ども同士の話し合い ・・・相互作用で学びを深める 知見や聞き取り、調べる活動 ↓↑ C 個 人 ・・・ 新しい智の確認・進化・拡充につながる

(4)

下記のようなことが生まれ,深い学びへとつながっていく。 ○ 理解してもらった,認めてもらったという喜びを感じることで,自信や次への主体 的な学びにつながる。 ○ 多くの意見や知恵を得ることで,新たな知恵や考え,発見が生まれる。 ○ 相手に説明することで,自分自身の考え方の確認と深まりが生まれる。 (2)深い学びとは 「学習指導要領等改訂の基本的な方向性」の中で,「深い学び」の実現とは,各教科等で習得し た概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ,問いを見いだして解決したり,自己の考え を形成し表したり,思いを基に構想,創造したりすることに向かうことができているかに依拠する と記されている。「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」に基づけば,理科におい ては,自然の事物・現象について,理科における「見方・考え方」を働かせて,探究の過程を通し て学ぶことにより,資質・能力を獲得するとともに,「見方・考え方」も成長するものであると考 えられる。さらに,獲得した資質・能力や成長した「見方・考え方」を次の学習や日常生活等にお ける問題発見・解決に活用することによって,「深い学び」につながっていくものと考えられると 同報告では記されている。ここで大切なことは,教科の本質に迫り,習得した知識や技能を活用し, 主体的・対話的な学びを基礎としつつ,深い学びを目指している点である。すなわち,深い学びと は,「見方・考え方」を学ぶだけでなく,答えのない課題に直面したとき,今まで学んだことから, 様々な見方・考え方を自在に引き出し,自分なりの解答を導き出し解決に持っていくことができる 力にまで高めるような学びである。そのために,次期学習指導要領では,各教科等を「知識・技能」 「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」という教科横断的な共通の柱で再整 理し,教科等の枠を超えて活用できる力にまで引き上げようとしているのである。 2 模擬授業における実践 名古屋経済大学において2016(平成28)年度に筆者が実施した授業実践は次のとおりである。 ○ 授業科目 「教科教育研究(理科)」 ※ 使用教科書 「5年新しい理科」(東京書籍) ○ 学 生 数 3年生24名 ○ 授業形態 4~5人のグループで構成されたグループ学習が中心 ○ 授業時数15コマ(1コマ90分)のうち,4コマ分の実践 (1)単元の学習課題作成の場面(授業時数2コマ) 理科に興味があるか,好きかと問うと,授業を受講している学生の2割ほどしか肯定的に答えて いない。ほとんどの学生が,あまり好きでない,どちらかと言えば嫌いと回答している。理由とし ては,よく分からない,興味がない,観察が面倒くさい,などの理由を挙げている。この結果は, 以前私自身が小学校の担任をしていたときの学級の結果よりも,明らかに悪いものである。小学校 では理科が好きであると答える子どもたちが多いわけではないが,小学校の教員を目指す大学生が このような結果では,情けない限りである。そこには,最初から面白くないもの,難しいものとい う気持ちがあるのではないだろうか。 これまで,多くの授業を行ったり,参観したりしながら思うことは,最初の課題提示が,その後 の授業の成否に大きく関わっていることである。理科の授業をするにあたり,課題設定がとても重 要であり,きちんと吟味しながら設定をしていくことで,子ども自身が目的を持って学びを全うす

(5)

下記のようなことが生まれ,深い学びへとつながっていく。 ○ 理解してもらった,認めてもらったという喜びを感じることで,自信や次への主体 的な学びにつながる。 ○ 多くの意見や知恵を得ることで,新たな知恵や考え,発見が生まれる。 ○ 相手に説明することで,自分自身の考え方の確認と深まりが生まれる。 (2)深い学びとは 「学習指導要領等改訂の基本的な方向性」の中で,「深い学び」の実現とは,各教科等で習得し た概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ,問いを見いだして解決したり,自己の考え を形成し表したり,思いを基に構想,創造したりすることに向かうことができているかに依拠する と記されている。「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」に基づけば,理科におい ては,自然の事物・現象について,理科における「見方・考え方」を働かせて,探究の過程を通し て学ぶことにより,資質・能力を獲得するとともに,「見方・考え方」も成長するものであると考 えられる。さらに,獲得した資質・能力や成長した「見方・考え方」を次の学習や日常生活等にお ける問題発見・解決に活用することによって,「深い学び」につながっていくものと考えられると 同報告では記されている。ここで大切なことは,教科の本質に迫り,習得した知識や技能を活用し, 主体的・対話的な学びを基礎としつつ,深い学びを目指している点である。すなわち,深い学びと は,「見方・考え方」を学ぶだけでなく,答えのない課題に直面したとき,今まで学んだことから, 様々な見方・考え方を自在に引き出し,自分なりの解答を導き出し解決に持っていくことができる 力にまで高めるような学びである。そのために,次期学習指導要領では,各教科等を「知識・技能」 「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」という教科横断的な共通の柱で再整 理し,教科等の枠を超えて活用できる力にまで引き上げようとしているのである。 2 模擬授業における実践 名古屋経済大学において2016(平成28)年度に筆者が実施した授業実践は次のとおりである。 ○ 授業科目 「教科教育研究(理科)」 ※ 使用教科書 「5年新しい理科」(東京書籍) ○ 学 生 数 3年生24名 ○ 授業形態 4~5人のグループで構成されたグループ学習が中心 ○ 授業時数15コマ(1コマ90分)のうち,4コマ分の実践 (1)単元の学習課題作成の場面(授業時数2コマ) 理科に興味があるか,好きかと問うと,授業を受講している学生の2割ほどしか肯定的に答えて いない。ほとんどの学生が,あまり好きでない,どちらかと言えば嫌いと回答している。理由とし ては,よく分からない,興味がない,観察が面倒くさい,などの理由を挙げている。この結果は, 以前私自身が小学校の担任をしていたときの学級の結果よりも,明らかに悪いものである。小学校 では理科が好きであると答える子どもたちが多いわけではないが,小学校の教員を目指す大学生が このような結果では,情けない限りである。そこには,最初から面白くないもの,難しいものとい う気持ちがあるのではないだろうか。 これまで,多くの授業を行ったり,参観したりしながら思うことは,最初の課題提示が,その後 の授業の成否に大きく関わっていることである。理科の授業をするにあたり,課題設定がとても重 要であり,きちんと吟味しながら設定をしていくことで,子ども自身が目的を持って学びを全うす る引き金や手立てとなり得る。学習課題は,教師があらかじめ提示をしたり,教師の示した現象を 見て子どもたちが考えたり,見いだしたりすることが多い。また,驚きや新しい不思議さ・謎など に興味を見いだし,謎解きのように見通しを持って観察や実験に取り組むことができるのである。 そこで,理科における導入の授業構想は様々あるわけだが,子どもたちが問題解決に進むために, あるいは驚きや新しい不思議さ・謎などに興味を見いだし,見通しを持って観察や実験に取り組む ことができる学習課題の工夫を学生に取り組ませることとした。そして,自分で進んで考え,話し 合い・意見交換などがいかに大切であるかを体験してもらうこととした。 1)3年生「昆虫と植物」(単元名 チョウを育てよう)での取組 目 標・ モンシロチョウの成長過程に興味・関心をもち,進んで世話をしようとする ・ チョウの成長過程や成虫の体の観察をして,成長の様子や体のつくりについて考察し, 表現することができる ・ 卵から成虫までの成長変化と食べ物の違いについて,分かりやすく記録することがで きる ・ チョウは卵→幼虫→蛹→成虫の順に育つことや昆虫の定義を理解することができる 3年生「昆虫と植物」の取組において,担任として最初に提示するもの(学習課題を含む)につ いて,個々に考え,話し合わせながら,どのような提示の仕方が良いかを考えさせる授業を進めて いった。いくつかの学習課題の設定が学生の中から聞かれたが,単に育ててみよう,どうしたらう まく育てることができるのかなど育てることにだけ方向が向いてしまい,育てたいという気持ちを 出させ,成虫になるまで責任を持って育てるためにはどうしたら良いかなど,学習に対して深まり を見せることはなかった。なぜ深まりを見せることができなかったのか。これは,学生自身が育て てみたいという気持ちにならなかったこと,しっかりと植物やチョウの育て方や飼い方を調べ,ど のような飼い方をすれば子どもたちに生き物に対する敬愛の気持ちを持たせられるかが,十分に押 さえられていなかったことが原因として考えられた。 次時は,4年生における授業内容に取り組み,その後3年生と同じB区分の内容についての実践 を行い,その報告をした。 2)5年生「生命のつながりを考えよう」(単元名 人のたんじょう) 目 標 ・ 人の誕生と母体内での子どもの成長に興味・関心を持ち,進んで母体内の子どもの 様子を想像したり,調べたりしようとする。 ・ 調べたことから,母体中での成長について考え,表現することができる。 ・ 資料を活用して調べたり,人の母体内での子どもの成長過程を調べたりして,変化 の特徴をとらえて記録することができる。 ・ 人は,母体内で成長して生まれることを理解することができる。 5年生「人のたんじょう」の取組において,学生には,3年生「チョウを育てよう」での反省を 踏まえ,児童の学習目標「人は,母体内で成長して生まれること」を学ばせていくための学習課題 について個人で考えさせた。また,母体内での子どもの成長の様子は,昆虫や植物のように実際に 目で確認したり,肌で感じたりしながら学びを進めていくことは難しい。そのために,担任として, どうしたら子どもたちが興味関心を持って,単元の終わりまで学習を進めていくことが出来るかを 念頭に置かせながら考えさせた。その結果,学生の中からは, ○ 自分たちはもうすでに多くのことを既習しているが,小学生はそうではないことを考慮して いく。

(6)

○ 保健の指導と理科の指導との違いは何かを明確にしていく。 ○ 人の誕生で興味・関心があることは何か。 ○ 母体内で生命が成長していくことの素晴らしさや神秘さをどのように伝えていくことができ るか。そのために何を子どもたちに提示すれば良いか。 などを考慮していくことが大切であるとの考えが出てきた。 次に,4~5人のグループの中で,各々の意見を出し合い,前述の個々の考え方を基に,子ども たちが知りたいことは何か,興味を持っていることは何かなどが中心とした話し合いが行われてい った。学生の中には,親にへその緒について聞いて,それを提示しながら進めていくと良いのでは ないか。という意見も見られた。 3)学生の変容 3年生の実践と比べ,5年生の実践で変わってきたことは,学生自身が自分の小学生の頃を思い 出し,知りたかったことや関心のあったことはどんなことだったかということを振り返って考える ようになり,学習への動機づけや問題解決への道筋まで思いをはせるようになったことである。ま た,一時間の中で学習課題を解決し,次時への学習課題へとつなげていくことも大切であるが,最 終的に単元終了後に解決できる学習課題や動機づけの事象提示をすることで,子ども達は単元終了 まで意欲が持続するのではないかという捉え方をする学生も出てきた。5年生の授業後,どのよう に活動や意見の交流をさせていけば,児童は主体的・対話的な学びができるのかを改めて学生に問 い,どのような工夫をしていかなければならないかを考えさせていった。 子ども達に学び方を考えさせていくとき,常に,自分が小学生であったらどのような知識や考え 方を持ち,どのようなことに興味関心を抱くか,またどのような学びを進めていけそうかなど,学 ばせるためにはどうすれば良いかを考えていく姿勢を持ちながら,学習課題を提示したり子どもた ちに考えさせたりすることはとても重要である。その点を鑑みても学びに対する取組に大きな変化 が見られたのは確かである。 (2) 単元構成を考えていく場面(授業時数2コマ) 科学的な見方や考え方を養うには,子どもたちが自分の考えに基づいて探究できるようにする 工夫が必要である。そこで以下の単元構成をどのように考えていけば,子ども自身が学びやすく, 結果や考えを振り返りながら次時の学習につなげていくことが容易であるかという視点で,学生に 考えさせていくこととした。 5年生「物のとけ方」 (東京書籍) (単元名 物のとけ方)での取組) 目標 ・ 食塩やホウ酸の溶け方に興味・関心を持ち,溶ける様子や溶け方の違いについて, 進んで調べようとする ・ 実験の結果を基に,物の溶け方の規則性について考察し,表現することができる ・ 物の溶け方について調べる実験を安全に正しく行い,結果を定量的に記録すること ができる ・ 物が水に溶ける量には限度があること,物が水に溶ける量は水の温度や量・溶ける 物によって違うことやこの性質を利用して溶けている物を取り出すことができるこ と,物が水に溶けても水と物とを合わせた重さは変わらないことを理解することが できる 教科書や指導書・指導要領解説編(理科)で,学ぶ内容をつかんだ後,次のような学習課題を設定 した。

(7)

○ 保健の指導と理科の指導との違いは何かを明確にしていく。 ○ 人の誕生で興味・関心があることは何か。 ○ 母体内で生命が成長していくことの素晴らしさや神秘さをどのように伝えていくことができ るか。そのために何を子どもたちに提示すれば良いか。 などを考慮していくことが大切であるとの考えが出てきた。 次に,4~5人のグループの中で,各々の意見を出し合い,前述の個々の考え方を基に,子ども たちが知りたいことは何か,興味を持っていることは何かなどが中心とした話し合いが行われてい った。学生の中には,親にへその緒について聞いて,それを提示しながら進めていくと良いのでは ないか。という意見も見られた。 3)学生の変容 3年生の実践と比べ,5年生の実践で変わってきたことは,学生自身が自分の小学生の頃を思い 出し,知りたかったことや関心のあったことはどんなことだったかということを振り返って考える ようになり,学習への動機づけや問題解決への道筋まで思いをはせるようになったことである。ま た,一時間の中で学習課題を解決し,次時への学習課題へとつなげていくことも大切であるが,最 終的に単元終了後に解決できる学習課題や動機づけの事象提示をすることで,子ども達は単元終了 まで意欲が持続するのではないかという捉え方をする学生も出てきた。5年生の授業後,どのよう に活動や意見の交流をさせていけば,児童は主体的・対話的な学びができるのかを改めて学生に問 い,どのような工夫をしていかなければならないかを考えさせていった。 子ども達に学び方を考えさせていくとき,常に,自分が小学生であったらどのような知識や考え 方を持ち,どのようなことに興味関心を抱くか,またどのような学びを進めていけそうかなど,学 ばせるためにはどうすれば良いかを考えていく姿勢を持ちながら,学習課題を提示したり子どもた ちに考えさせたりすることはとても重要である。その点を鑑みても学びに対する取組に大きな変化 が見られたのは確かである。 (2) 単元構成を考えていく場面(授業時数2コマ) 科学的な見方や考え方を養うには,子どもたちが自分の考えに基づいて探究できるようにする 工夫が必要である。そこで以下の単元構成をどのように考えていけば,子ども自身が学びやすく, 結果や考えを振り返りながら次時の学習につなげていくことが容易であるかという視点で,学生に 考えさせていくこととした。 5年生「物のとけ方」 (東京書籍) (単元名 物のとけ方)での取組) 目標 ・ 食塩やホウ酸の溶け方に興味・関心を持ち,溶ける様子や溶け方の違いについて, 進んで調べようとする ・ 実験の結果を基に,物の溶け方の規則性について考察し,表現することができる ・ 物の溶け方について調べる実験を安全に正しく行い,結果を定量的に記録すること ができる ・ 物が水に溶ける量には限度があること,物が水に溶ける量は水の温度や量・溶ける 物によって違うことやこの性質を利用して溶けている物を取り出すことができるこ と,物が水に溶けても水と物とを合わせた重さは変わらないことを理解することが できる 教科書や指導書・指導要領解説編(理科)で,学ぶ内容をつかんだ後,次のような学習課題を設定 した。 ア 水溶液とは何か イ 食塩を水に溶かすと溶けるのか ウ 食塩は水にどのくらい溶けるのか エ 食塩は水に溶けると重さは変わるのか オ 食塩は水の量は増えたら溶ける量は変わるのか カ 食塩は水の温度を変えたら溶ける量は変わるのか キ 水に溶けた食塩を取り出すことはできるのか ク 物によって溶け方は違うのか ケ (やってみよう)ミョウバン・食塩・ホウ酸の結晶を作ってみよう その後,どのように学習課題を進めていくと子どもたちの見方や考え方に沿った学びができるか, 身近な体験や日常の経験から気付いていくものであるか,実験が無駄(準備・時間)なく進められ るか等を話し合わせながら(個人⇔グループ)考えさせていった。特に,子どもたちに見通しを持た せること,ここでは,一つの学習課題を解決したことが次時の学習課題への布石や関心につながり, 次の問題解決の意欲や手がかりにつながることを念頭に置かせた。 また,実験する過程で,振り返りや表現する場面を設 けていくことも同時に考えていくことを考えさせた。そ れぞれのグループでまとめたことを発表し,全体で 再度検討を重ねた。最初は 17 種類(表2)の単元構 成が出され,グループで検討を重ねた結果2種類の 方法に落ち着いた。また,学生の中から,塩や砂糖 で子どもたちの見方や考え方を進めていき,その後 教科書で取り上げられているホウ酸やミョウバンに ついて深めていく方が良いという意見や、溶液の均 一性について確認してみたい,牛乳は水溶液か等の 疑問,運動した後に汗をかき塩をふくことに言及す るなど,学生自身にもう少し広がりを持って調べて みたいという姿勢も見られ始めた。 この2コマの授業を進めていく中で,学生の中か ら様々な意見が出て,議論し始めることもあった。 これは,子どもの立場に立って考えること,何のた めに単元構成を考えていく必要があるのかが,しっ かりと捉えられていたためである。そして,どのよ うにしたら子ども達が学んでいきやすいかを考えて いくことができるようになっていった結果である。 実際に実験をして,解決していく場面ではないが,今回の授業のように自分の考えにもとづき, 考えを整理する活動と考えを振り返り,見直す活動を取り入れながら,単元を習得・活用・探究と いう流れの中で学ぶということが深い学びにつながっていくことを、学生には押さえた。

3)考察 次期学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善がうたわれている。 今回の授業実践では、将来小学校教師を目指す学生にとって,理科における「主体的・対話的で深 表2 学生が考えた単元構成の種類

(8)

い学び」について考えさせていくこと,模擬授業を通して,どのようにしたら主体的・対話的な学 び,そして深い学びにつなげていくことができるかを,学生自身が教師であり,また学ぶ側の子ど もの立場から体験させていった。そして,教師自身が興味を持つことができ,子どもたち自身の考 えや思いが反映され,子どもたち自身の手で解決できるよう課題を設定することを学生に試みさせ た。さらに子どもたちの見方は多種多様であるため,子どもたち自身がその多種多様な考えを受け 止めながらコミュニケーションを通して深めていく学び合いとなるよう,教師としてどのように受 け止め助言するか,学生に試みさせた。 その中で,学生自身が主体性を持ち対話や意見交換を通して学びを深めていくことの面白さや大 切さに気づき,そこに至るまでの教師側の準備や配慮などの必要性を捉えることができるようにな っていった。しかし,単元の導入の場面や単元構成を考えていく場面での実践が中心であり,実験 や観察を通して課題を追究していく場面での実践は、今回の授業では十分に行われなかった。 理科においては,自然の事物・現象について,理科における「見方・考え方」を働かせて,探究 の過程を通して学ぶことにより,「見方・考え方」も成長するものである。さらに,その「見方・ 考え方」を次の学習や日常生活等における問題解決に活用することが求められ,それが「深い学び」 につながっていくものと考えられる。 今後は,具体的な観察・実験などを取り入れた学習過程についての「深い学び」について,学生 が教師であり,そして子どもである実践を通して学びについて考えていきたい。 (日比野) おわりに 川﨑ら(2015)は、小学校教員養成課程の大学1年生の方が小学校高学年より問題解決力が低い と指摘している。加えて日比野も自身の授業の受講学生のうち、理科に興味がある、また好きと答 える学生が2割しかおらず、自身が小学校で担任した学級よりも低い割合であることに危機感を持 っている。このことは教員養成課程において、理科に興味関心をもち科学的探究としての学習活動 が行える教師を育成することが課題であることを意味する一方で、小学生の学習単元に大学生が改 めて教師の側だけでなく学習する側の立場から向き合うことにより、改めて知的好奇心や探求心を 喚起する機会ともなることを意味するのではないか。もちろん、小学生が習得すべき知識のレベル に留まっていては授業計画を立案するには不十分であることは確かである。しかしながら、小学校 の理科では日常生活や社会との関連が重視されており、新学習指導要領では教科横断的な三本の柱 で再整理された「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」とい う資質・能力を,「教科等の枠を超えて活用できる力にまで引き上げようとしている」と日比野も 指摘しているように、大学生が、日常生活や社会での経験から改めて知的好奇心や探求心をもち、 学習単元に向き合うことは、学習者として「主体的・対話的で深い学び」を得る契機となり、その 経験は、児童(学習者)の立場から理科だけでなく幅広く指導計画を立案する際に活かされるもの と期待される。 例えば、本稿2章1節1項の授業実践では、学習課題の提示など授業の導入部分に着目して、学 習課題の設定を学生にさせたところ、学生は活動そのものや活動の成否にのみ目が向きがちであっ た。すなわち学生は当初、チョウを育ててみたいという主体的な学び、成虫になるまで育てるとい う責任感という人間性を育成するような単元の導入場面を計画することができなかった。しかしそ の後の授業では、人の誕生という学生も身近に感じやすい単元であることも手伝って、学習内容を 未習である子どもの立場や子どもの興味関心から学習課題を設定できるようになっている。その際、 保健体育との違いも踏まえている点は、子どもの側に立ち、教科をまたがって考えることができる

(9)

い学び」について考えさせていくこと,模擬授業を通して,どのようにしたら主体的・対話的な学 び,そして深い学びにつなげていくことができるかを,学生自身が教師であり,また学ぶ側の子ど もの立場から体験させていった。そして,教師自身が興味を持つことができ,子どもたち自身の考 えや思いが反映され,子どもたち自身の手で解決できるよう課題を設定することを学生に試みさせ た。さらに子どもたちの見方は多種多様であるため,子どもたち自身がその多種多様な考えを受け 止めながらコミュニケーションを通して深めていく学び合いとなるよう,教師としてどのように受 け止め助言するか,学生に試みさせた。 その中で,学生自身が主体性を持ち対話や意見交換を通して学びを深めていくことの面白さや大 切さに気づき,そこに至るまでの教師側の準備や配慮などの必要性を捉えることができるようにな っていった。しかし,単元の導入の場面や単元構成を考えていく場面での実践が中心であり,実験 や観察を通して課題を追究していく場面での実践は、今回の授業では十分に行われなかった。 理科においては,自然の事物・現象について,理科における「見方・考え方」を働かせて,探究 の過程を通して学ぶことにより,「見方・考え方」も成長するものである。さらに,その「見方・ 考え方」を次の学習や日常生活等における問題解決に活用することが求められ,それが「深い学び」 につながっていくものと考えられる。 今後は,具体的な観察・実験などを取り入れた学習過程についての「深い学び」について,学生 が教師であり,そして子どもである実践を通して学びについて考えていきたい。 (日比野) おわりに 川﨑ら(2015)は、小学校教員養成課程の大学1年生の方が小学校高学年より問題解決力が低い と指摘している。加えて日比野も自身の授業の受講学生のうち、理科に興味がある、また好きと答 える学生が2割しかおらず、自身が小学校で担任した学級よりも低い割合であることに危機感を持 っている。このことは教員養成課程において、理科に興味関心をもち科学的探究としての学習活動 が行える教師を育成することが課題であることを意味する一方で、小学生の学習単元に大学生が改 めて教師の側だけでなく学習する側の立場から向き合うことにより、改めて知的好奇心や探求心を 喚起する機会ともなることを意味するのではないか。もちろん、小学生が習得すべき知識のレベル に留まっていては授業計画を立案するには不十分であることは確かである。しかしながら、小学校 の理科では日常生活や社会との関連が重視されており、新学習指導要領では教科横断的な三本の柱 で再整理された「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」とい う資質・能力を,「教科等の枠を超えて活用できる力にまで引き上げようとしている」と日比野も 指摘しているように、大学生が、日常生活や社会での経験から改めて知的好奇心や探求心をもち、 学習単元に向き合うことは、学習者として「主体的・対話的で深い学び」を得る契機となり、その 経験は、児童(学習者)の立場から理科だけでなく幅広く指導計画を立案する際に活かされるもの と期待される。 例えば、本稿2章1節1項の授業実践では、学習課題の提示など授業の導入部分に着目して、学 習課題の設定を学生にさせたところ、学生は活動そのものや活動の成否にのみ目が向きがちであっ た。すなわち学生は当初、チョウを育ててみたいという主体的な学び、成虫になるまで育てるとい う責任感という人間性を育成するような単元の導入場面を計画することができなかった。しかしそ の後の授業では、人の誕生という学生も身近に感じやすい単元であることも手伝って、学習内容を 未習である子どもの立場や子どもの興味関心から学習課題を設定できるようになっている。その際、 保健体育との違いも踏まえている点は、子どもの側に立ち、教科をまたがって考えることができる ようになっていることを意味する。また2章2節の授業では、物の溶け方という身近な単元につい て、学生が子どもの立場から考え対話や意見交換を通して一単元の学習課題構成を設定することを 経験した。最終的に、表2のように単元構成の種類はそれほど多様なものにはならなかったが、こ れは逆に学生達が物の溶け方について対話を通して「深く学」んだため、子ども達にとって学んで いきやすい流れがまとまったものだと考えられる。 冒頭に述べたように、理科の指導に苦手意識を持つ小学校教員が6割という指摘もあるなか、小 学生のように理科に興味関心をもち、問題解決力を備えた教員を育てることが課題となっている。 それには、学生がまず教員養成課程における授業で、普遍を追究する科学的思考に支えられた理科 という教科内容について「主体的・対話的で深い学び」を経験することで、子どもにそうした学習 活動を経験させる授業を立案できるようにすることが求められているといえるかもしれない。学習 課題を設定するという課題の達成には、教材への興味関心からくる主体的な学び、子どもにもそう した興味関心をもってもらいたい、そのためにはどうすればよいか他の学生と対話を重ね、より教 材に対して深く学ぶことが求められる。すなわち、問題解決の力と態度が教員養成の授業において 教員志望の学生に育成されることが期待される。 (伊藤) 参考文献(日比野分) 教育課程部会総則・評価特別部会資料 平成28年6月21日 科学技術・学術審議会学術分科会 「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」平成27年1月27日 理科の教育 03 編集 一般財団法人日本理科教育学会 理科授業において設定される問題の型に関する研究 日本科学教育学会研究会研究報告 VoL.29 No.6 (2015) 1 「現代化」と表現するものもある。日野純一(2016)「日本の理科教育の変遷と展望」『京都産業大学教職研究紀 要第 11 号』p.23 参照。 2 大阪府教育センター「学習指導要領の変遷に見る「理科教育」の移り変わり」URL: http://www.osaka-c.ed.jp/kak/karikenweb/webpdf/webcur/wc10rika/wc1001.pdf 2017 年8月 24 日閲覧。 3 日野(2016)は、2008 年の学習指導要領の特徴を「時間と内容の充実、理数の充実(国際的な通用性・系統性、 反覆指導、観察実験、課題学習)、小2領域制」としている。註1、p.33 参照。 4 文部科学省(2008 年) 『小学校学習指導要領解説理科編』URL: http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/12/28/1231931 _05.pdf 2017 年6月 16 日閲覧 5 中央教育審議会(2016 年)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び 必要な方策等について(答申)」 URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/138090 2_0.pdf 2017 年8月 24 日閲覧 6 文部科学省『小学校学習指導要領解説理科編』平成 29 年6月 URL: http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/27/1387017 _5_1.pdf 2017 年8月 24 日閲覧 7 平成 32 年からの完全実施に向け、小学校では平成 29 年度が周知、平成 30、31 年度が移行期間。

(10)

参照

関連したドキュメント

「総合健康相談」 対象者の心身の健康に関する一般的事項について、総合的な指導・助言を行うことを主たる目的 とする相談をいう。

「主体的・対話的で深い学び」が求められる背景 2030 年の社会を見据えて 平成 28(2016)年

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

指導をしている学校も見られた。たとえば中学校の家庭科の授業では、事前に3R(reduce, reuse, recycle)や5 R(refuse, reduce, reuse,

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2