1.はじめに
東京〜秋田間の交通機関分担 率は、鉄道:航空のシェアが 59:
41 となっている1)。一般的に鉄 道と航空の選択は、4 時間が壁 となると言われており、現在、
秋田新幹線の東京〜秋田間の所 要時間が 3:50(2011 年)1)であ るため、鉄道の利用者が航空の 利用者を上回る結果となってい ると考えられる。この状況
を踏まえると、鉄道の利便性向上策の1つとして速達 性の向上が挙げられる。
そこで、本研究では秋田新幹線沿線地域から秋田県 への交通機関分担の現状と、東京〜秋田間の交通機関 分担の推移を把握することにより、所要時間と交通機 関分担の関係について考察を行った。そして既往の需 要予測モデルと輸送データを用いて需要予測を行い、所要 時間の短縮が交通量・交通機関分担に与える影響を定 量的に算出した結果を報告するものである。
2. 全国幹線旅客純流動調査による現状把握 (1)地域別の秋田県への交通機関分担率
2010 年度全国幹線旅客準流動調査を用いて、地域別 の秋田県への交通機関分担率を集計した(図-2)。
①南関東(東京、神奈川、千葉)からの移動
航空では羽田空港から秋田空港への直通便があるこ と、鉄道では秋田新幹線があることから、これら2つ の分担率が高くなっていると考えられる。
②埼玉県からの移動
南関東に比べて羽田空港までの距離が遠くなるため、
航空を利用した移動の所要時間が長く、航空の分担率 が低くなっていると考えられる。
③群馬県からの移動
鉄道では、大宮駅を経由する経路であるため、所要 時間が長く埼玉県に比べると鉄道の分担率が低くなっ ていると考えられる。乗用車については、関越自動車
道と上越自動車道があるため、所要時間が短く、乗用 車の分担率が高くなっていると考えられる。
④栃木県、茨城県からの移動
鉄道では、大宮駅、仙台駅を経由し、乗換が生じる ため、埼玉県と比較して鉄道の分担率が低くなってい ると考えられる。
⑤宮城県、岩手県からの移動
乗用車では、東北自動車道、秋田自動車道があり、
所要時間が短く分担率が高くなっていると考えられる。
各地域から秋田県への交通手段は、空港、鉄道、高 速道路の整備状況と所要時間に応じた分担率であるこ とが確認できた。
(2)東京都〜秋田県間の交通機関分担率の推移
1990 年-2010 年の全国幹線旅客準流動調査を用いて、
東京都〜秋田県間の交通機関分担率の推移を集計した
(図-3)。航空は 1990 年から 2000 年にかけて増加した が、2000 年以降は減少傾向である。鉄道は 1990 年から 2000 年で減少したが、2000 年以降は増加傾向である。
東京〜秋田間の交通機関分担に関する一考察
東日本旅客鉄道㈱ 東北工事事務所 開発調査室 正会員 ○坂本 浩貴 東日本旅客鉄道㈱ 東北工事事務所 開発調査室 正会員 淺見 知秀
図-1 東京都〜秋田県位置図
図-2地域別の秋田県への交通機関分担率
7.5%
2.4%
16.0%
6.3%
35.0%
31.6%
36.7%
32.9%
3.9%
14.0%
32.8%
28.0%
40.0%
65.1%
56.3%
56.5%
44.9%
54.5%
5.9%
6.0%
2.0%
3.1%
4.9%
7.6%
5.1%
80.1%
59.7%
69.5%
38.0%
26.7%
5.5%
6.9%
10.8%
7.4%
1.2%
94.9%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
岩手(n=5443) 宮城(n=3482) 茨城(n=67) 栃木(n=82) 群馬(n=50) 埼玉(n=352) 千葉(n=254) 東京(n=1300) 神奈川(n=316) 南関東合計(n=1870)
航空 鉄道 バス 乗用車
(千人/年)
30.1% 32.5% 40.9% 37.4% 34.2%
54.3% 50.0% 37.8%
55.3% 57.3%
2.6% 3.3%
3.8%
5.8% 4.4%
13.1% 14.2% 17.5%
1.6% 4.1%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
90 95 00 05 10
航空 鉄道 バス 乗用車
図-3 東京都〜秋田県間の交通機関分担率年度
キーワード 交通機関分担、需要予測
連絡先 〒980-8580 仙台市青葉区五橋 1-1-1 TEL 022-204-7221
IV-8
土木学会東北支部技術研究発表会(平成25年度)乗用車は、1990 年から 2000 年にかけて増加傾向だった が、2010 年には減少している。
なお 1997 年の秋田新幹線開業により、東京〜秋田間 の 鉄 道 の 所 要 時 間 が 大 幅 に 短 縮 さ れ て い る (5:08(1987)⇒3:50(2012))ため、分担率が 1995 年から 2000 年にかけて増加すると想定したが、分担率の増加 は確認できなかった。これについては、次章で他のデ ータを用いて、検証を行うこととする。
3.各交通機関調査による現状把握
東京〜秋田間の鉄道と航空の交通機関分担を各交通 機関調査資料を用いて集計した。航空は航空統計年報、
鉄道は JR 東日本会社要覧を使用した。ここで用いる東 京のデータは、航空では 2011 年度の羽田発着の実績、
鉄道では 2011 年度の東京・横浜・八王子・大宮エリア 発着の実績である(図-4)。
1987 年から 2011 年までの間、東京〜秋田間の輸送人 員は増加傾向にあったが、2008 年のリーマンショック以降は減 少し、2009 年には 6,000 人/日を下回った。また 1997 年以降、輸送人員と鉄道の分担率が増加していること が確認できた。これは、秋田新幹線の開業によるもの と考えられる。この集計結果から、東京〜秋田間の鉄 道の到達時分短縮により、利用者が増加することが確 認できた。
4.新幹線 東京〜秋田間の所要時間短縮の効果分析 (1)交通機関分担の予測方法の概要
東京〜秋田間の所要時間の短縮が利用者・交通機関 分担に与える影響の定量的把握を行った。実務上、需 要予測を容易に行うために、以下の前提に立ち需要予 測を行った。なお使用するデータは、図-4 のものを使用 し、鉄道の所要時分と料金(3:50、16,810 円)は東京 からの最速達列車、航空の所要時分と料金(2:53、
26,120 円)はアクセス・イグレスを考慮しているものである。
① 既往の需要予測モデルのパラメータ2)を用いる。
② 遠距離移動のためバス・乗用車を対象外とする。
③ 施策の有無にかかわらず発生・集中交通量は不変と 仮定する。また誘発交通は考慮しない。
④ 施策の実施により交通量が変化する OD ペアが限定 的であることから経路配分を行わない。
以下に今回需要予測に用いたモデルとパラメータを示す。
Vi=α 1 T1i+α 2 T2i+α 3 Ci+α 4 J+α 5
i :各交通機関を示す。 i=R・・・鉄道 i=A・・・航空Pi :i 交通機関の選択確率 e :自然対数の底
Vi :i 交通機関を利用した場合の効用 T1i :i 交通機関を利用した場合の幹線時間(分)
T2i :i 交通機関を利用した場合のアクセス・イグレス時間(分)
Ci :i 交通機関を利用した場合の総費用(円)
J :鉄道を利用した場合の乗り換え回数(回)
α :効用を計算する際に各説明変数にかかるパラメータ
鉄道(R) 航空(A)
α 1
幹線時間-0.017601980
α 2
アクセス・イグレス時間-0.008216325
α 3
総費用-0.000220985
α 4
鉄道乗換回数-0.476743 -
α 5
定数項 現状再現のために算出-
(2)交通機関分担の予測結果
東京〜秋田間の所要時間を 10〜60 分短縮することに より、東京〜秋田間の鉄道の分担率は 62.9〜80.4%に 増加する結果となった(図-5)。
5.おわりに
本研究では、各地域から秋田県への交通手段は、空 港、鉄道、高速道路の整備状況と所要時間に応じた分 担率であることが確認できた。また秋田新幹線開業に 伴う所要時間の短縮により、鉄道利用者が増加したこ とが確認できた。交通機関分担の予測では、鉄道の所 要時分を短縮することにより、鉄道の利用者が一定数 増加することが確認できた。今回確認した状況を踏ま えて、お客さまサービスの向上に努めていきたい。
【参考文献】
1) JR 東日本会社要覧 2012-2013
2) 新幹線と在来線との直通運転に関する調査研究-山 形〜東京間についてのケース・スタディー;財団法人運輸経 済研究センター,昭和 63 年 3 月
図-4 東京〜秋田間の鉄道・航空の分担率
69%67%
61% 60%
58% 58%
56%
53%
51%
48%
60%
58%
55% 55%
53% 54%55% 55%57%58%60% 60% 62% 62%
59%
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 年度
輸送人員(人/日)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
鉄道の分担率
鉄道
航空
鉄道 シェア
Pi=
e Vi e VR +e VA
図-5東京〜秋田間の鉄道・航空の分担率(予測) 土木学会東北支部技術研究発表会(平成25年度)