リニア中央新幹線による経済効果と二酸化炭素排出量の変化 06D8102006E 丸山裕樹
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2010 年 3 月
あらまし:本研究では,リニア中央新幹線による 都道府県ごとの経済効果と二酸化炭素排出量の変 化を予測し,その意義を考察する.
キーワード:リニア中央新幹線,経済効果,県内 総生産,四段階推定法,二酸化炭素
1 はじめに
本研究では,リニア中央新幹線による経済効果 と二酸化炭素排出量の変化を予測し,その意義を 考察する.予測する期間は開通予定の 2025 年か ら 2035 年までとする.
2 経済効果の予測 2.1 経済効果の考え方
リニア中央新幹線が開通する場合の県内総生産 から開通しない場合の県内総生産を引いた値を経 済効果とする.
2.2 地域魅力度
本研究では式 1 の形で表わされる地域魅力度を 都道府県ごとに求め,その値が大きい都道府県ほ ど人が集まるものと考える.
P
i= GDP
−1i∙ ∑ (GDP
46j −1j⁄ GV
ij) (式 1)
GDP
−1iは i 県の前年度県内総生産, GV
ijは i 県と j 県の間の交通一般化費用である.交通一般化費 用は移動に掛かる平均的なコストを数値化したも のであり,式 2 の形で表わされる.
GV
ij= α
ijC
ij,r+ β
ijC
ij,c+ γ
ijC
ij,a(式 2)
α
ij,β
ij,γ
ijは鉄道,自動車,航空の交通シェア である.C
ij,kは対応する交通手段による移動に掛 かるコストであり,式 3 の形で表わされる.
C
ij,k= F
ij,k+ ω ∙ T
ij,k(式 3)
F
ij,kは運賃,T
ij,kは所要時間,ωは 1 分間を金銭 に換算した値である.リニア中央新幹線が開通す ると鉄道の運賃や所要時間, 交通シェアが変化し,
地域魅力度に影響を与える.
時間が持つ価値には個人差があり,その分布は 一般的に対数正規分布に従うとされている.対数 正規分布のパラメータ μ , σ とメディアンを都道府 県ごとに求め,メディアンの平均値をωとする.
μ , σ を求めるには,2007 年の交通量の統計[1]
を使う.交通シェアが犠牲量モデルに則っている と仮定してパラメータを推定する.対数正規分布 のパラメータについて,式 4 の関係が一般に成り 立つと知られている.
F
−1(P(X ≤ x)) =
1σ
∙ ln x −
μσ
(式 4)
ただしF
−1は標準正規分布の累積分布関数の逆 関数である.各都道府県間において交通量と運賃,
所要時間のデータから時間価値dとP(X ≤ d)を求 めれば,最小二乗法を用いて傾きと切片を求める ことができる.
また,リニア中央新幹線の運賃と所要時間を仮 定すれば, μ と σ からリニア中央新幹線開通後の交 通シェアを推定することもできる.本研究では,
リニア中央新幹線の東京・愛知間の運賃は 11080 円,所要時間は 40 分と仮定する.
2.3 人口
人口は式 5 を用いて予測する.
NL
i= NL
−1i∙ (1 + δ) + NM
i− NX
i(式 5)
NL
−1iは i 県の前年度人口, δ は出生と死亡によ る人口変化率,NM
iは i 県への総転入者数,NX
iは i 県からの総転出者数である.j 県から i 県への転 入者数は式 6 を用いて予測する.
V
ij= a ∙
RPijb∙NL−1ic ∙NL−1jd
DTije∙LPijf
(式 6)
RP
ijは i 県の地域魅力度を j 県の地域魅力度で除 した値,DT
ijは i 県本庁と j 県本庁との間の距離,
LP
ijは i 県の住宅地地価を j 県の住宅地地価で除し た値である.
2.4 県内総生産
県内総生産は式 7 を用いて予測する.
GDP
i= LT
i∙ (PD
−1i∙ θ) (式 7)
LT
iは i 県の就業者数, PD
−1iは i 県の前年度国民 経済生産性, θ は国民経済生産性の成長率である.
国民経済生産性とは 1 人の就業者が生み出す GDP のことである. LT
iは人口に比例して増減し,
θの値には 2001 年度から 2007 年度の全国成長率 の相乗平均を固定値として用いる.
2.5 経済効果の予測結果
リニア中央新幹線が正負のどちらの経済効果を もたらすかを図 1 に,経済効果の値の抜粋を図 2 に示す.
日本全体に約 4 兆 2000 億円の正の経済効果を もたらすが,これは国民経済生産性が低い地域か ら高い地域に人口が移った結果である.
3 二酸化炭素排出量の予測 3.1 予測の流れ
自動車の二酸化炭素排出量は,自動車の交通量
と所要時間を掛けた値の総和の変化に応じて増減
するものとする.鉄道の二酸化炭素排出量は交通
量に依存せず,リニア中央新幹線が開通した場合
図 1 経済効果の正負
図 2 経済効果の抜粋
は毎年約 2400 万 kg 増加すると仮定する.航空の 二酸化炭素排出量は変わらないものとする.
3.2 四段階推定法
自動車の二酸化炭素排出量を予測するには交通 量を予測する必要がある.交通量の予測には四段 階推定法を用いる.
発生交通量と集中交通量は同じ値を取ると仮定 し,原単位法を用いて予測する.比例定数は 2000 年から 2007 年の各年ごとに発生・集中交通量を 人口で除し,その 8 年分の数値の平均を取ること で求める.分布交通量はフレーター法を用いて予 測する.分担交通量は分布交通量と経済効果の予 測に用いた交通シェアから予測する.配分交通量 は本研究では必要がないので予測しない.
交通シェアの変化と,人口の変化がもたらす交 通量の変化,2 つの要因によって二酸化炭素排出 量は変化する.
3.3 二酸化炭素排出量の予測結果
交通シェアはリニア中央新幹線により変化する が人口は変化しないという仮定の上で自動車の二 酸化炭素排出量を予測したところ,増加するとい う結果になった.実際にはリニア中央新幹線によ り自動車の交通シェアが大きくなるとは考えにく く,今後に課題を残す結果となっている.
交通シェアは変化しないが人口は変化するとい
図 3 二酸化炭素排出量差の正負
図 4 二酸化炭素排出量の抜粋
う仮定の上で自動車の二酸化炭素排出量を予測す ると,減少するという結果になった.実際には自 動車の交通シェアが小さくなり,さらに二酸化炭 素排出量は減少すると見込むことができる.二酸 化炭素排出量差が正負のどちらになるかを図 3 に,
二酸化炭素排出量差の値の抜粋を図 4 に示す.
2035 年の時点で,リニア中央新幹線の排出量を 含めて約 4 億 5000 万 kg 削減される.
4 まとめ
リニア中央新幹線は沿線 6 県に正の経済効果を,
他の 41 県に負の経済効果をもたらす. 2035 年の 時点で,日本全体には約 4 兆 2000 億円の正の経 済効果をもたらすが,地域格差の是正を考慮に入 れるべきである.
人口移動による交通量の変化により,二酸化炭 素排出量は 2035 年の時点で約 4 億 5000 万 kg 削 減される.リニア中央新幹線は環境に優しい存在 と言える.
参考文献
[1] 国土交通省, “旅客地域流動調査”, (オンラ
イン) ,入手先<http://www.mlit.go.jp/k-toukei/ry uudou-chousa/ryuudou-chousa.html>.
-100 -50 0 50 100 150
2025 2027 2029 2031 2033 2035
経済効果
[
千億円]
西暦 6県計
41県計 全国
-100 -50 0 50
2025 2027 2029 2031 2033 2035
二酸化炭素排出量差[
千万kg]
西暦
自動車計 3県計
44県計 鉄道含む