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人間科学研究 Vol. 29, Supplement(2016)
修士論文要旨
MASを用いた混雑緩和と満足度向上のための情報提供法の最適化
Optimization of Information Provision for Congestion Mitigation and Satisfaction Promotion Using Multi-Agent System
藤野 直輝(Naoki Fujino) 指導:松居 辰則
1. はじめに
情報操作によるテーマパークにおける混雑緩和支援は,
Multi-Agent System(MAS)を用いた従来のシミュレー ション研究により一定の効果が示されているが,それによ る来場者の心的状態変化を考慮した研究は少ない.また,既 存の研究では,来場者が個々の意思決定のもとで行動する モデルが一般的に使用されており,2人以上の集団での行 動は考慮されていない. 本研究では,テーマパーク内のア トラクションの混雑情報を携帯情報端末によって取得する 来場者について,MASを用いたシミュレーション上での集 団行動を実現した上で,混雑に対する意識と満足度の関係 を検証することを目的とする.
2. モデルの設計
本研究で構築した集団モデルでは,来場者が集団で来場 し集団での意思決定のもとアトラクションを巡回する.
テーマパーク内には,10箇所のアトラクションが配置され,
集団の人数 n は全ての集団で同一とした.集団内の成員 i(i=1,2�,n)はアトラクションj(j=1,2,�,m)に対して 総合効用値 uij に基づき,各アトラクションを評価する.総 合効用値は,個人の嗜好 Pij ,アトラクションまでの距離 Dij ,確率 r で所持する混雑情報Rij(アトラクションjの待 ち行列人数)から次の式で算出される.
j ij ij
ij P D R
u 1
集団での意思決定において各成員は意思決定に対する影 響量Xi を保持し, uij に基づきXi を比例配分したxij を算出 する.その上で,xij をアトラクションごとに加算した Tj を
算出し,Tj の最も大きいアトラクションを次の集団の目標
アトラクションとした.
満足度モデルは意思決定及びアトラクション搭乗の2つ のフェーズに分けられる.意思決定フェーズにおける満足 度は,成員自らの希望がどれほど集団の決定に反映された かを表わす「希望の反映度(hi )」と集団内での意思決定 がどれほど均等であったかによって算出される「意思決定 の均等度(ei )」で構成される.また,アトラクション搭乗 フェーズにおける満足度は,オリバーの期待不一致モデル を基に作成した.具体的には,アトラクション搭乗前に抱 いた「期待」と退出後に感じられた「成果」を定量化し,そ
の差分を得ることで評価するものとした.
3. 実験
シミュレーションは,rが0~ 1.0,n が0~ 1.0となる範 囲で行った.また,集団を各成員に対する影響量の与え方 によって,均等型(影響量を各成員に均等に与えた集団),
階差型(影響量を適度に不均等に与えた集団),リーダー主 導型(影響量を1人に偏らせて与えた集団)の3種類に分 類し,それぞれシミュレーションした.
その結果,各条件共通の傾向として,混雑の最も緩和す る混雑情報提供率は単独よりも集団の場合の方が低いこと,
高い提供率では混雑緩和の効果が薄まることが判明した.
また,意思決定フェーズにおける満足度は,提供率に比例 して増加すること,アトラクション搭乗フェーズにおける 満足度は,提供率の低いときに最大となり,提供率が高く なるにつれて減少すること,などが傾向として見られた.
図1 平均滞在時間最小及び満足度最大となる混雑情報提供率
高い提供率では,意思決定フェーズにおける満足度は高 くなるものの,アトラクション搭乗フェーズにおける満足 度は低くなり,低い提供率と比較すると混雑は緩和されな いこと,低い提供率では,混雑は緩和され,アトラクショ ン搭乗フェーズにおける満足度が高くなるものの,意思決 定フェーズにおける満足度は低くなる,という結果が得ら れた.これらの要因として,意思決定における混雑情報が 集団内での統一した行動指針となることにより,意見一致 の程度が高くなったことが考えられる.
4. 今後の課題
満足度モデルの精緻化に加え,集団の特性を複数混合さ せたシミュレーションを行うことによって,統一的な見解 を導き出すことなどが挙げられる.