18先端-8
調査・研究報告書の要約
書 名 平成18年度 機械産業に係る企業の公的負担が企業活力に 与える影響調査報告書 発行機関名 社団法人日本機械工業連合会・財団法人企業活力研究所
発行年月 平成19年3月 頁数 90頁 版型 A4
[目次]
第1章 日本と海外における企業公的負担の比較 第1節 法人税負担の国際比較 第2節 社会保障費負担の国際比較 第2章 法人税の転嫁と帰着に関する議論
第1節 法人税の転嫁と帰着とは 第2節 部分均衡論的分析 第3節 一般均衡論的分析 第4節 実証分析(K-Mモデルを中心に) 第5節 社会保障費の転嫁と帰着 第3章 企業財務データによる実証分析
第1節 法人税率について 第2節 仮説と分析方法について 第3節 統計データについて 第4節 基礎的財務データ 第5節 基礎的財務データの業界比較 第6節 法人税 第7節 法定実効税率による分析 第8節 税効果会計適用後税率による分析 第9節 実際支払税率による分析 第4章 まとめ
第1節 法人税負担について 第2節 法人税の転嫁について 第3節 今後の検討課題
[要約]
企業活動のグローバル化が進展するなか、企業が事業活動拠点を選定する上で、当該地 域の税負担や社会保障負担は大きなポイントになっている。そこで、日本の法人税制度や 社会保障制度といった公的制度が競争相手国に比較して劣っていると指摘は、日本企業の 国際競争力を低下させる要因となると同時に、日本が投資先としてグローバル企業に選択 されず、日本の競争力低下を招く要因になっているとも考えられる。そこで、法人税負担 の実態を探るために、税の転嫁と帰着の問題を考慮しながら、企業が実際に支払っている 法人税の実態を調査した。法定実効税率に加えて税効果会計適用後税率や、税引前利益と 支払い税額との比率として算出した実際支払税率を指標とし分析した結果、税率の変動あ るいは税負担の重い軽いが利益率に対して逆の動きをもたらしている可能性が見受けられ た。法人税の転嫁については、学術的にも明らかな結論は得られていないが、この結果は、
法人税が転嫁されていないという主張を後押しするものと考えられる。
第1章 日本と海外における企業公的負担の比較
企業活動のボーダーレス化が進み、グローバルな事業展開を広げている企業にとっ て、事業活動の拠点を選定する上で、その国の税負担は大きな要因のひとつである。
企業の誘致によって地域経済活動を活発化させ、雇用の拡大を図りたい各国政府の意 向を反映し、近年、法人税の引き下げ競争ともいうべき状況が起こっている。
税の公平性や負担のあり方という観点から、このような状況の是非について議論も あるが、現実に企業は法人税負担の低い国や地域を新しい事業の拠点として選択し、
企業の競争力を何とか維持しようとしていることを踏まえれば、我が国の法人税負担 を諸外国の水準と同等なものにしていくことが、国の競争力維持という意味から避け て通れない選択肢となってくる。
では、我が国の法人税制は、本当に企業に過大な負担を強いているのか。法人税は、
諸外国と比較して本当に高いのか。これまで多くの議論が繰り広げられており、まず は整理した結果、「日本の法人税負担は世界最高レベルにあって、企業は過重な負担を 強いられており、グローバルな競争で他国の大企業に対して大きなハンディを負って いる。」という主張は、妥当性を持っていると考えられる。
次に企業の社会保障費負担について国際比較を行い、わが国における企業負担の特
徴を明らかにしている。
まず、高木(2000) では、企業保障について「企業がその従業員や家族のために行う 生活保障」であると定義し、これを法定福利費と法定外福利費に分類し、国際的に比 較してみることによって、我が国の企業福祉の特徴を整理している。
その結果、我が国の社会保障の特徴としては、法定外福利費の労働費用全般に対す る比率は欧米並みであるが、法定福利費については平均を大幅に下回っていることが 明らかになった。社会保障の類型については、法定福利費も法定外福利費も高い「企 業保障先進国」にプロットされた国は、ドイツ、フランスなど西欧大陸諸国、「法定外 福利優先」は自助主義が社会保障を抑制しがちなアメリカ、「企業保障後進国」は社会 保険や公的社会福祉サービスを優先するイギリス、デンマークなど、という結果にな った。我が国については、法定福利費も法定外福利費も少ない類型である。これは北 欧諸国と同じ類型に属していることを意味するが、実は家族による福祉のウェイトが 高い故に、このような結果となったと解釈されている。
橘木(2005)では、法定福利厚生費の特に社会保険料の事業主負担について、以下 のように国際比較を行っている。事業主の社会保険負担については、日本は国際的に 比較して低いグループに属しており、一般的に福祉国家と言われている北欧諸国は、
フィンランド、スウェーデンなど 20%を越える負担率である。さらに、福祉国家とは 認識されていないフランスにおいては、名目負担率が29%であり実質負担率では40%
を超えている。この要因としては、フランスが社会保険料負担に関して、労働者と事 業者の負担割合を 20%:80%としていることが指摘されている。我が国における労働 者と事業者の負担割合は 50%:50%であり、他の先進国もこれに近いが、フランスや 北欧諸国においては、事業者負担の割合が高くなっている。
事業者負担と労働者負担の比率を、各国の社会保険料率を人件費との比率で整理す ると、最も高いのはフランスであり 38%、ドイツ、イタリア、スウェーデンなどが負 担率の高い国である。日本は 19%と中位である。特殊な国としては、デンマークが挙 げられる。デンマークは福祉国家として知られているが、その財源を社会保障費とし てではなく税、主に付加価値税として徴収しており、社会保障費の割合が低くなって いる。
さらに永野(2000) では、日本の社会保障制度について1975年と1989年のデータを 用いた国際比較を行うことによって、今後の見通しを分析している。
日本の社会保障負担額の水準は、アメリカ、イギリスなどとともに国際的には低負 担国に位置しており、高負担国としては、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国が
該当する。調査年の間における日本の社会保障負担の上昇率は極めて高く、今後、高 負担国に加わっていくことが予測される。
社会保障の負担上昇率が高い国(スペイン、イタリア、ノルウェー、フィンランド)
では、社会保障財源が保険料負担から租税負担へと移行し、保険料負担も事業主から 被保険者へと配分変動が行われてきているが、唯一日本だけが保険料負担の強化へと 動いている。これは、企業が納める保険料の事業主負担部分、つまり法定福利費が他 の諸国に比べて高額化することを意味している。そして日本企業は、このような収益 悪化要因を避けるために、社会保障財源を保険料率引き上げではなく税負担の拡大に よって確保すべきだと考えている。
第2章 法人税の転嫁と帰着
租税負担が経済全体でどのように配分され、最終的に所得分配にどのような変化を もたらすかを見極めることは容易ではない。財政理論では、伝統的にこの問題に対し て転嫁と帰着の概念によって分析を行ってきた。
まず、転嫁とは通常、法律上の納税義務者が何らかの方法で課税により負担を他の 人々に移しかえることを言う。転嫁がどのように行われるかは、一般的には経済的な 条件に依存する。一方で帰着とは、租税負担の最終的な帰属を指している。転嫁は常
に100%行われるとは限らず、一部分が転嫁されるというケースも少なくない。また最
終的な帰着も複数の人々に分散して負担されるということもある。税の帰着を正確に 捉えるには、税を課したことによる影響が、経済全体に波及する効果を見極める必要 がある。
法人税の部分均衡的分析について考察すると、まず、法人税は法人という形態をと っている企業の利潤に対する課税であるから、完全競争下あるいは純粋独占下の短期 の企業の価格や産出量に影響を及ぼすことはない。つまり、完全競争下あるいは純粋 独占下の企業にとっては、法人税が課されたからといって法人税が課税されないとき に決定された均衡産出量(独占の場合は価格)を変更する理由は無い。税引後利潤極 大産出量と税引前利潤極大産出量が均しいことから、この均衡状態を変更することに よって税引後利潤を増加させる余地が無いからである。従って、法人税はこの限りで は転嫁されない、という結論が法人税に関する古典的結論である。
しかし、企業が実際の市場において利潤極大化を目的に行動していないとすれば、
この帰結は修正される。例えば純粋独占市場における場合、企業が独占禁止法の適用 を避けようとしたり、労働組合からの賃上げ要求を避けようとしたりする場合、さら には潜在的な参入企業を牽制しようと考えた場合、製品価格を高く設定して市場支配
力を100%行使するという行動を選択しないかもしれない。つまり、このようなときに
独占企業は、価格を低めに設定し独占利潤をそのまま実現しないこととなるが、法人 税が課税されると利潤減少の穴埋めに製品価格を引き上げることとなり、税の転嫁が 生じる。
法人税転嫁の有無については、複雑な様相を呈し現在でも意見の一致を得られてい ない。法人税のように経済全体に広範な影響を及ぼす税を分析する場合、部分均衡分 析では十分な分析を行うことが難しい。部分均衡分析は、租税の転嫁と帰着を分析す る上で、複数の市場に波及する課税の効果を十分に把握できないという弱点を持って いるのである。つまり、課税に伴って製品市場と生産要素市場に起こる変化を、市場 間の相互依存関係を明示的に取り入れて扱うことが困難であり、さらに、税収の使途 が分配面や総需要の変化に与える影響を分析することも難しい。
そこで、様々な変数の相互依存関係を取り入れた一般均衡分析の手法が不可欠であ るとの主張が多く展開されてきたが、これに最初に取り組んだのが A.C.ハーバガー (1962)である。後述するが、A.C.ハーバガーは、「法人税の帰着を分析するためのモデ ルとして、①経済は法人・非法人の二部門にて形成されている。②生産要素は所与の 労働と資本であり完全雇用が常に達成されている。③完全競争市場である。という前 提において、法人部門に投資された資本方の所得に課税されれば、資本は法人部門か ら非法人部門に移動し、この移動は両部門における資本の税引後収益率が均衡するま で行われる。この結果、法人所得税は長期的にみて、法人部門のみならず非法人部門 も含めた企業に対して投資を行う投資家一般により負担される。」と結論しており、静 学的帰着論といわれる。
一方で、動学的帰着論として整理されている主張として、まずM.フェルドスタイン は、「資本の存在量と労働力が変化し、経済全体の貯蓄率は税引後収益率に依存すると すれば、法人税は貯蓄率を下げ、長期的には資本蓄積を減少させ、賃金所得の上昇を 抑制する可能性がある。」としている。しかし、J.E.スティグリッツは「借入による資 金調達の可能性と支払利子の損金算入を考慮すれば、法人税は投資決定に影響を与え ない。」と主張している。
ハーバガーの確立した一般均衡モデルは、先に述べた複雑な市場間の相互依存関係
を明示的に説明し、様々な市場の変化を分析している。そして、法人所得税のみなら ず、あらゆる租税の転嫁および帰着の分析をも可能にした。
法人所得税転嫁に関する実証研究に、最初に計量経済学の手法を導入したのが、ク リシャニヤック=マスグレイブ(以下、K-M)である。彼らは、時系列データに基づい た多重回帰分析によって法人所得税率を含む諸要因が資本収益率に与える影響を分離 しようと試みている。
K-M モデルは多くの国において実証分析に利用されてきた。まず、アメリカの場合 は、いくつかのケースが実験されているが、対象期間は1930年代前半と戦時中の1943 年~47年を除いた、1935年~1959年である。対象は製造業であり、被説明変数とし て転嫁の指標は総資本収益率である。結果としては、134%もの転嫁度が表れた。これ についてK-Mは、法人所得税率の変更は、寡占企業により価格引き上げのシグナルと して解釈され、その際に、租税以外の要因に対する調整も同時になわれると考え、企 業の租税回収能力が強すぎるので、100%を超える転嫁度が生じてしまう、という解釈 を行っている。
西ドイツの場合は、ロスカンプ(1965)が実験を行っている。税制の複雑性に起因する いくつかの調整を経ているが、西ドイツにおいても108%から140%もの転嫁度という 結果が出ている。
インドの場合は、ラマウス(1966)が法人所得税の転嫁度の推計を行っている。期間は 1950年~1962年であり製造業、鉱業、プランテーション、貿易業の750~1,333社を 対象としている。転嫁度は177%という結果が算出されている。
クリシャニヤック・マスグレイブによるモデルを用いた分析によれば、各国により 多少の差はあるものの、法人所得税は極めて大きな転嫁度を示すという結論が導かれ る。これは、極めて深い政策的含意を有している。つまり、法人所得税が完全に転嫁 するならば、法人の税引後収益率は低下せず内部資金量も減らないから、法人の投資 と成長を損なうことはない。また、法人所得の二重課税問題は解消し、配当所得の軽 減課税は不必要であり、留保所得の場合は資本利得の完全課税などにより個人所得税 との統合が必要になる。そして、法人所得税が価格上昇をもたらすならば、インフレ 時の短期的な物価安定手段として用いることができない、というような意味を持って くる。
法人税の転嫁と帰着に関する研究に比較して、社会保障費に関する転嫁と帰着に関
しては、橘木(2005)にも指摘されている通り、「我が国における社会保険料の事業主負 担に関する転嫁と帰着をテーマにした研究は、非常に少なく、実態はほとんど明らか になっていない。」社会保障費の事業主負担を実質的に誰が負担しているのは本当に 企業なのか、それとも本当は労働者が負担しているのか、事業主負担分のすべてが労 働者に帰着しているのであれば、事業主負担分は賃金と同義である。実際に起こりう る 3 つの可能性としては、①労働者の賃金が削減される。②企業自身(資本家)によ る負担。③生産価格の上昇によって消費者の負担となる、が考えられる。
第3章 企業財務データによる実証分析
企業の財務データに基づいた分析を行う前に、法人税の税率について、改めて整理 してみる必要がある。
まず一つは「法定実効税率」であり、ここまでの議論においてはこの税率を比較す る対象として考えてきた、いわゆる表面税率である。日本で課される法人税の計算方 法としては、東京の場合、国税である法人税が 30%、都道府県税である法人事業税
7.56%、都道府県と市町村双方の課税である法人住民税 20.7%から、以下の数式によ
り40.69%が算出されている。
次に、「税効果会計適用後の実効税率」がある。これは、2000年度決算期以降より企 業に有価証券報告書上での記載が義務付けられたことによって、企業収益における実 際の税負担が明らかになり、定量的な分析が可能になったものである。つまり、企業 の財務会計上と税務上の取り扱いの違いに起因して所得額に違いが生じることから、
決算上、その調整を行っている。
最後にもう一つ、上記のような会計上の調整を経ない数値として、実際に企業が負 担した当該年度税負担額と税引前利益との比率についても、支払税率として比較する ために、考慮の材料として考えていきたい。
これらの税率が、企業の利益にどのような影響を与えているのかを明らかにするこ とによって、法人税の転嫁の有無を探っていこうと試みる。つまり、法人税が転嫁さ
法人税率×(1+住民税率)+事業税率 1+事業税率
法定実効税率=
れているならば、各種の法人税率が変化した場合、あるいは税負担が重いか軽いかに よって企業の業績は左右されない。逆に法人税が転嫁されず、法人自らが負担を負っ ているのであれば、税率の変動する方向と同じ向きに利益率も変動するのではないか。
<仮説>
法人税が転嫁されていなければ、税率の変化、税負担の重い軽いが企業の業績に影 響を与える。という仮説に対して、いくつかの分析方法を用いながら検討していきた い。
<分析方法1>
法人税の対前年度変化が「+」または「-」であるとき、利益率の対前年度変化は 同じ方向に「+」または「-」であるか。
<分析方法2>
平均税率と当該企業の税率の差が「+」または「-」であるとき、平均利益率と当 該企業の利益率の差が「+」であるか「-」であるか。
<分析方法3>
税の影響が利益率に反映されるのは当年度か、次年度か。または、複数年の影響が 次期以降の利益率に影響を与えているか。
<分析方法4>
法人税率については、先に示した3つの指標「法定実効税率」「税効果会計適用後税 率」「実際支払税額/税引前利益」を用い、上記の分析を行う。
<分析方法5>
被説明変数としての利益率は、「株主資本利益率」と「総資本利益率」を用いる。
第4章 まとめ
企業の法人税負担を議論するとき、多くの場面において法定実効税率が比較するた めの材料として扱われてきた。ところが、企業が実際に負担している税率は、法定実 効税率とは大きく乖離している場合がある。税効果会計適用後税率や、実際支払税率 などから法人税の負担を比較していくと、以下のような傾向があった。
税効果会計適用後税率については、法定実効税率とは大幅に乖離しているばかりで なく、個別企業ごとに大きな差がある。会計上は税引前利益のほとんどを法人税の支
払いに充当している企業が存在し、一方で、各年度において 10%程度の税負担となっ ている企業も存在している。
企業が実際に支払った法人税額と税引前利益の比率については、法定実効税率との 乖離や個別企業間での格差が、より一層大きくなる。また、00年度期、01年度期にお いては半数以上の企業が 50%を超える税負担を負っていた。最大値については欠損を 計上した期との関係などの詳細な分析を行っていないが、各期とも税引前利益額を上 回る法人税を納付している企業が存在している。
法定実効税率に比べて、企業間格差が著しい税効果会計適用後税率や実際支払税率 を利用することによって、企業の税負担と利益率の関係を明らかにできるのではない かとの想定で作業を行ったが、いずれの処理でも、明らかな傾向をつかむことはでき なかった。つまり、「法人税が転嫁されているならば、法人税率が変化した場合、ある いは税率が高いか低いかによって企業の利益率は左右されない。逆に法人税が転嫁さ れず、法人自らが、つまり株主が負担を負っているのであれば、税率の変動する方向 と逆方向に利益率が変動する。」という仮説が正しいか、間違っているか、ここまでの 調査では明確な主張をすることはできない。
ただ、どちらかというと、税率が企業の利益率に対して影響を与えているような感 触を得た。つまり、法定実効税率に加えて税効果会計適用後税率や、税引前利益と支 払い税額との比率として算出した実際支払税率を指標とし分析した結果、税率の変動 あるいは税負担の重い軽いが利益率に対して逆の動きをもたらしている可能性が見受 けられた。法人税の転嫁については、学術的にも明らかな結論は得られていないが、
この結果は、法人税が転嫁されていないという主張を後押しするものと考えられる。
一方で、法人税が企業の負担になっていることは事実であるが、企業の業績を左右 するのは、もっと多くの要素、条件が考えられる。法人税率が、その中で、どの程度 の寄与をしているのか、個別企業の財務データを詳細に調べていかなければ明らかに なってこないのではないだろうか。
以上
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://keirin.jp/