別紙1
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
報告番号 甲 第 3229 号 氏 名 安部 勇蔵
論文審査担当者
主査 教授 美島 健二 副査 教授 上條 竜太郎
副査 教授 高見 正道
(論文審査の要旨)
論文題名「Tumor protein D52 is upregulated in oral squamous carcinoma cells under hypoxia in a hypoxia-inducible-factor-independent manner and is involved in cell death resistance」
掲載雑誌名:Cellular Oncology(投稿中)
上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
低酸素下での口腔扁平上皮癌におけるTPD52の機能を解析する目的で、口腔扁平上皮癌株化細胞を用いた 解析が行われた。すなわち、低酸素下で培養した当該細胞ではTPD52の遺伝子発現およびタンパク発現がと もに増加した。しかしながら、この増加はHIFに依存しない事が明らかとなり、TPD52の発現抑制とHIFの 活性阻害を同時に行うことで細胞生存率は大幅に低下することが明らかとなった。さらにTPD52の発現を恒 常的に抑制した当該細胞のヌードマウスへの移植実験ではHIFの活性阻害薬の投与により顕著な腫瘍サイ ズの減少が認められた。本研究により、HIFの阻害剤とTPD52の発現抑制を併用することが新規癌治療法と なる可能性が示された。
本論文の審査において、副査の上條委員および高見委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す る回答を以下に示す。
上條委員の質問とそれらに対する回答:
1.酸素濃度2%を低酸素環境として設定しているがこの根拠はなにか。酸素濃度依存性が存在するのか。
(腫瘍内微小環境は2~5%程度と言われている。 酸素濃度1%では24時間以内にほとんどの細胞が死滅する ため実験を組むことができなかった。 また、酸素濃度2%で低酸素因子の機能が活発になることが他の論文 でも示されているため、それを参考とした。)
2.TPD52ファミリーのなかで低酸素環境の影響を受けるのはTPD52だけなのか。
(今回の実験において、TPD53とTPD54は低酸素環境の影響を受けないと考えられる。 また、他のファミリ
ーメンバーとしてTPD55が存在するが、これは口腔扁平上皮癌細胞に発現しないため、不明である。)
3. Western Blottingでは低酸素でTPD52の発現が上昇しているが、同じファミリーであるTPD53、54の 発現が遥かに高い。これはTPD52に影響を与えうるのか。
(当ラボにおける先行研究でTPD53は癌細胞や腫瘍の増殖にはほとんど影響を与えていないことがわかって
いる。 しかしながら、TPD54はTPD52対して抑制的に作用し、過剰に発現させた際に腫瘍増殖を負に調節 していることが明らかになっている。 しかし、今回の実験では低酸素下で発現が上昇したのがTPD52のみ であり、TPD53とTPD54については発現があるものの変化はなかったので、影響は低い、もしくはほぼない と考えられる。)
高見委員の質問とそれらに対する回答:
1.低酸素下では3日後に多くの細胞がHIFの阻害によって死滅しているが、これらの細胞を用いてWestern
Blottingを行った結果の妥当性について述べよ。
(今回は、3日目に生存していた細胞を用いてWestern Blottingを行った。 1日目あるいは2日目では差が ほとんど出現せず、実験の意味がないため、3日目を用いて行った。)
2.TPD52がオートファジーを抑制することをより明確にするにはどのような実験が必要と考えられるか。
(オートファジー関連タンパク質として知られるLC3やBeclin-1、PI3K等の発現についてWestern Blotting による解析が必要と考えられる。 また、オートファジーの観察として蛍光免疫染色を用いたオートファゴ ソームの観察が必要と考えられる。 他にChloroquineとBafilomycin A1といったリソソーム阻害剤を用 いることでオートファジー経路を阻害し、LC3-Ⅱのバンドへの影響からオートファジーの誘導を判断する、
オートファジーフラックスアッセイを用いる必要があると考えられる。)
3. TPD52を標的として口腔扁平上皮癌を制御する方法を開発することは可能か述べよ。
(これまでの研究結果から、TPD52を標的にできたとしても単独の抗腫瘍効果は小さいものと考えられる。 既
存、あるいは将来的に開発されるであろう分子標的薬と併用することで、口腔扁平上皮癌をより制御ことが 期待できる。)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 美島委員の質問とそれらに対する回答:
1.TPD52とTIA-1/TIARがComplexを形成していることを証明するための実験系は構築されたか。
(今回はTIA-1/TIARの二重染色だけであったのでTPD52 mRNAの集積との関連を見ることはできなかった。
TPD52 mRNAも含めた染色が必要と考えられるので、蛍光In situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)を
用いた三重染色を行い、顕微鏡を用いた観察を行う必要があると考えらえる。 また、定量的に観察する方 法としてはPCRを利用したRIPアッセイが考えられる。TIA-1/TIARはストレス顆粒の構成要素として知ら れているが、これら以外にもLAF-1、FUS、Whi3、G3BP1/2、EIAFが構成要素として存在する。これらに対し、
RIPアッセイを行うことでTPD52 mRNAがストレス顆粒の構成要素となることを証明できると考える。) 2.TPD52 knockdownにより誘導されるApoptosisがオートファジーに依存していると考えられる根拠は。
(Western Blottingにおいてオートファジー関連タンパクであるp62の濃度低下とCaspase3/7活性がTPD52 knockdownとHIF阻害の組み合わせにおいて上昇していたことを根拠とした。 また、2016年のShangらが、TPD52 ノックダウン時にオートファジー関連タンパクであるp62の濃度低下とLC3-Bの濃度上昇があり、それに伴っ てApoptosisが誘導されたという報告をしていることも根拠の一つである。 しかしながら、今回の研究では オートファジーそのものを抑制する実験系を行っていなかった。 今後の研究で3-メチルアデニン、ラパマイ シン等のオートファジー阻害剤を用いた実験を行うことでさらに解析する必要があると考えられる。 また、
同時にWestern Blotting解析を行い、p62以外にLC3-B、Beclin-1といった他のオートファジー関連タンパク についても解析する必要があると考えられる。)
主査の美島委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
本論文は本学大学院学位論文(博士)審査基準を満たしており、学位論文に値すると判断した。
(主査が記載)