リード復元力の非線型性を考慮した フリーリード楽器のモデル化
Modeling of Free-Reed Instrument Considering Nonlinear Characteristics of The Reed
1w110367-8 中村 歩己 指導教員 及川 靖広 教授
NAKAMURA Ayumi Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要:本研究では,フリーリード楽器のモデル化について,リード復元力の非線型性を考慮して検討した.その理由 としてリード楽器では音量増加に伴って音高降下が生じることが知られているが
[1–4]
.その原因については検討され てこなかった.本研究ではまず,鍵盤ハーモニカにおける音高降下の実測によりモデル化再検討の必要性を明らかに し,次に高速度カメラによる非吹奏時のリード振動の計測により,音高降下の要因がリードの物理的特性にあること を確認した.最後に実測により得られたリード復元力の非線形性を考慮したモデル式を提案し,数値シミュレーショ ンによりそれが音高降下の要因となっていることを明らかにした.キーワード:リード楽器,フリーリード,非線型性,モデル化
Keywords: reed instruments, free reed, nonlinearity, modeling
1. ま え が き
楽器の種別のひとつにフリーリード楽器と呼ばれるも のがある.これらは共通の発音機構としてフリーリー ド(自由篁)を持つ.先行研究によってリード楽器では 音量増加に伴って音高降下が生じることが知られている が,これは音量の増減によって旋律の調子や他の楽器と の調和が変化することを表し,フリーリード楽器をダイ ナミクスの幅が大きい楽曲や他の楽器との合奏に用いる 際には,音高降下がより少ない機構が求められる.何が 音高降下を考慮したモデルを提案できれば,音高降下の 少ないフリーリード楽器の設計に貢献できる.本研究で はリード復元力の非線型性に着目し従来のモデル化につ いて再検討を行った.
2. 鍵盤ハーモニカの物理モデル 2. 1
楽 器 構 造フリーリードは,金属製のリードとそれを取り付ける 薄いプレートからなり,息を吹き込むか空気を送り込み 演奏される.本研究でモデル化の対象として選択した鍵 盤ハーモニカのフリーリードを図
–1(a)
に示す.また,モ デル化した構造を図–1(b)
に,リードを拡大した部分を 図–1(c)
に示す.2. 2
リード挙動の定式化リードの挙動は以下の連立微分方程式で表される.
p(t) = ρU 2 2C 2 D(x) 2 + ∂
∂t
% ρUδ CD(x)
&
(1a)
dp dt = ρc 2
V
%
U 0 − U + 0.4W L dx dt
&
(1b)
m ∂ 2 x(t)
∂t 2 + 2mγ ∂ x(t)
∂t + mω 2 1 (x(t) − x 0 )
= − 1.5W Lp(t) (1c)
プレート リード 鍵盤 (裏側)
(a)
鍵盤ハーモニカにおける フリーリード(b)
簡略化された鍵盤ハーモ ニカの楽器構造(c)
モデル化したフリーリード 図–1 鍵盤ハーモニカの楽器構造表–1 モデル化に用いた記号・初変数 リードの長さ
L [m]
リードの幅W [m]
リードの厚さ
h [m]
先端部の変位x(t) [m]
初期変位
x 0 [m]
隙間b [m]
固有角周波数
ω 1 [rad/s]
密度ρ r [kg/m 3 ]
実効質量m [kg]
プレートの厚さH [m]
体積
V [m 3 ]
空気慣性の長さδ [m]
空気密度
ρ [kg/m 3 ]
音速c [m/s]
流量係数
C
流入する体積速度
U 0 [m 3 /s]
流出する
体積速度
U(t) [m 3 /s]
楽器内圧力p(t) [N/m 2 ]
減衰係数γ
(1a)
はBernoulli
の法則より導かれるリードプレート 間を流れる体積速度U (t)
と楽器内圧力p(t)
の関係,(1b)
は楽器内圧力p(t)
とそこ流入,流出する空気流の関係,(1c)
リード先端部の変位x
に関しての運動方程式を示す.80 85 90 95 100 105 440
440.5 441 441.5 442 442.5 443 443.5 444
measured value
図–2 騒音計で集音した音圧と周波数の関係
表–2 非吹奏時の振幅と振動周波数の関係 振幅小
447.92 [Hz]
振幅大
447.08 [Hz]
周波数降下
0.84 [Hz]
表–3 実験により得られた
K 0
とβ
の値K 0 97.4
β −7.00 × 10 3
(1c)
においてこれまではリード復元力にあたるx − x 0
の係数について
mω 1 2 = const
仮定されているが,先行 研究ではこれらの式を用いたシミュレーションよりも大 きな音高降下が観測されており,従来の定式化ではこの 現象を説明できない.本研究ではリード先端の変位と復 元力の非線型性を考慮して式(1c)
および式ω 1
に対し再 検討を行った.3. 鍵盤ハーモニカにおける音高降下
図
–4
に鍵盤ハーモニカの吹奏時における音圧と音高の 関係を示す.最大3.5 Hz
程度の音高降下は人間の最小可 知差異を上回っており[5]
,鍵盤ハーモニカの楽器として の挙動を考えるにあたってモデル化を再検討する必要が ある.表–2
に鍵盤ハーモニカのリードを直接はじいたと きの振幅と音高の関係を示す.定常的な空気流の影響が 無い状態でも音高降下が生じ,リードの物理的要因が存 在することが明らかになった.4. リード先端の変位と復元力との非線型性
リードの先端部に荷重F [N]
をかけたときの変位x − x 0
[mm]
を測定し,非線型な関係が成り立っているかどう かを調べた.実験により得られた実測値と2つの近似線 を図–3
に示す.これによりF = K (x − x 0 ) (2) K = K 0 + β(x − x 0 ) 2 (3)
という非線型な関係にあることがわかった.実験で得ら れた
K 0
とβ
の値を表–3
に示す.0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
x 10
−30
0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35
Measured Value Linear Non linear
図–3 騒音計で集音した音圧と周波数の関係
125 130 135 140
425 430 435 440 445
SPL [dB]
Frequency [Hz]
Linear Nonlinear
図–4 シミュレーションによる音量と音高の関係
5. リード復元力の非線型性を考慮したモデル化 (1c)
は変形するとm ∂ 2 x(t)
∂t 2 +2mγ ∂x(t)
∂t +4.12 K
L (x(t) − x 0 ) = − 1.5W Lp(t) (4)
と な る ,上 記 の 測 定 結 果 を も ち い た モ デ ル 化K = K 0 (1 + β(x − x 0 ))
と従来のモデル化K = K 0
について シミュレーションを行った.その結果を図–4
に示す.こ れによりリードの非線型性が音高降下をもたらすことが わかった.6. 総 括
本研究ではまずフリーリード楽器の音高降下に着目し てモデル化を試みた.まず音高降下の様子を測定し.そ の後非吹奏時の音高降下から音高降下の要因がリードに あることを確かめた.そしてリードの非線型性を測定し シミュレーションによって非線型性を考慮したモデル化 の有用性を明らかにした.今後の展開としては定量的な 評価が考えられる.
参 考 文 献