中央大学理工学部情報工学科 卒業論文
駅構内広告スペースの評価
学籍番号 02D8101006i
村田 広喜
指導教員 田口 東 教授
2006 年 3 月
概要
広告媒体の価値とは,概して広告媒体の大きさと広告がどれだけの人に見られるかによって決 まる.大きさについては,広告媒体の時間や面積などの具体的な数値により,広告媒体を評価す る要素として明瞭である.一方,どれだけの人に見られるかという要素は,見る側が静的なテレ ビ,雑誌,インターネットなどでは,具体的な数値にしやすいが,見る側が動的な屋外広告など では,見る側の動きを考慮に入れ数値化しなければならない.とくに,駅構内などの狭くて,人 通りの多い密集空間では,見る側の動きに加え,視線も考慮に入れ数値化しなければ,厳密な要 素に成りえないであろう.
本研究は,地下鉄大手町駅を対象にし,駅構内の広告スペースがどれだけ見られているかを,
人の動きと視線を考慮に入れ数値化するものである.
目次
第1章 はじめに... 1
第2章 地下鉄大手町駅... 2
2.1 地下鉄大手町駅...2
2.2 メッシュの作成...3
2.3 地下鉄大手町駅構内の人通り...3
2.4 地下鉄大手町駅構内の広告...3
第3章 広告スペースの評価方法... 7
3.1 歩行モデル...8
3.1.1 ネットワークモデルによる経路の決定...8
3.1.2 電気モデルによる移動方向の決定...8
3.2 視線モデル...9
3.2.1 視界の定義...9
3.2.2 視線の強さの定義...9
3.3 広告スペースの評価... 11
第4章 視線シミュレーション... 12
4.1 データ構造...12
4.2 視線アルゴリズム...13
4.2.1 視線走査...14
4.2.2 障害物との交差判定...14
4.3 計算量...15
第5章 地下鉄大手町における広告スペースの評価... 17
5.1 シミュレーションの設定 ...17
5.2 AD値の視覚化...17
5.3 駅の構造とAD値の関係...22
第6 章 おわりに... 25
6.1 まとめ...25
6.2 今後の課題...25
謝辞 26
参考文献 27
第 1 章 はじめに
今日では,首都圏の地下鉄網の発達により地下鉄の利用率は高くなっている.なかでも 午前 7 時台では通勤・通学による利用によって,多くの人の流れが生じている.このこと は,広告主から見れば,多くの人の流れが生じる地下鉄構内は広告媒体としての価値が高 いと考えられる.しかし,駅構内などの狭い空間に多くの人の流れが生じると,混雑が生 じる.混雑状態では,歩行者が互いに視線を遮り,壁に貼られた広告が見えなくなってし まう.よって,混雑箇所は多くの人がいる割に,実際は広告媒体としての価値は低くなる であろう.
本研究では,地下鉄の歩行通路のような人通りの多く狭い空間において,群集歩行者の 視線を考慮し,駅構内広告スペースを評価する.具体的には,まず,駅構内における歩行 者の動きをシミュレーションする.つぎに,歩行者に「見る」という動作を付加し,歩行 者の視線がどれだけ広告スペースに触れるかを数値化する.
本論文の構成を以下に示す.
第 2 章では,本研究でシミュレーションの対象とした地下鉄大手町駅の構造と人通りの 多い通路,また実際配置されている広告の場所を述べる.
第 3 章では,歩行モデルの概要を述べ,視界の定義を明確にし,歩行者と対象物との位 置関係により決まる視線の強さを定義する.
第 4 章では,視線シミュレーションを述べる.視線シミュレーションとは,平面走査法 を用いて,視線を視界内で走査させ,視線と障害物との交差判定をおこない,視線の強さ を計算することである.
第5章では,実際にシミュレーションをした結果と考察を記し,本研究の成果とする.
第6章では,本研究のまとめとして,問題点と改良案,そして今後の発展性を述べる.
第
2章 地下鉄大手町駅
この章では,本研究の対象となる地下鉄大手町駅の構造の概略と人通りの多い通路,駅 構内に実際貼られている広告の位置について述べる.
2.1
地下鉄大手町駅
地下鉄大手町駅は東京都心にある大規模な駅である.現在,丸ノ内線,東西線,千代田 線,半蔵門線,三田線が乗り入れているが,これらの路線が順次開通していったため,そ の構造は複雑である(図2.1).またそのため,午前7時台のラッシュ時では他路線への乗り 換えのため,駅構内を多くの人が通行する.
図2.1 大手町駅構内の全体図 出典:東京地下鉄株式会社[5]
大手町駅の地理情報データベースは,中央大学理工学研究所先端技術研究センター(文 部省私立大学ハイテク・リサーチ・センター)における“統合型地理情報システムの研究”
の一環として作成されたものを用いる.作成手順については鈴木[3]を参照されたい.
大手町駅のデータベースではB0,B1,B2,B3,B4の5階層で構成され,B1には丸ノ
内線,B2には千代田線,B3には東西線,B4には半蔵門線のホームがある.その概要を図 2.2〜図2.6に掲載する.図中の赤色の線分は階段・改札を表す.
2.2 メッシュの作成
メッシュとは,安西[2]によって大手町駅の地理情報データベースから作成された,1 辺 40cm(以下,1 単位距離とする)の正方形である.このメッシュに正方形の中心点の座標 値と,移動可能または移動不可能という情報を持たせ,大手町駅を再現している.本研究 では,移動不可能なメッシュを壁と呼ぶ.
2.3 地下鉄大手町駅構内の人通り
安西[2]の研究結果から,図2.2〜図2.6の赤色で囲んだ箇所において,人通りが多いこと が分かる.これを見ると,ホームに直接繋がっている階段や改札口の付近に人が集中して いることが分かる.また,幅の狭い通路でも混雑が生じていることが分かる.
2.4 地下鉄大手町駅構内の広告
実際に,広告が大手町駅構内のどこに貼られているかを知るために,現地調査を行う.
その結果を図2.2〜図2.6に黄緑色の線で示す.
44単位距離 E
N
0
図2.2 フロアB0
E
N
0
図2.3 B1フロア
100単位距離 丸の内線ホーム
160単位距離 E N
0
図2.4 B2フロア
千代田線ホーム
110単位距離 N
0
図2.5 B3フロア
東西線ホーム
E
57単位距離 0
N
E
図
半蔵門線ホーム
2.6 B4フロア
第 3 章 広告スペースの評価方法
駅構内における広告スペースである壁の評価とは,歩行者にどのくらい見られているか によって決まるものである.そこで,壁がどのくらい見られているかを,壁に集まる歩行 者の視線を数え上げることによって評価する(図3.1).
また,歩行者にとって壁の見え方は,視界内の対象物の位置により異なるものである.
たとえば,図3.2のような歩行者と壁の位置では,進行方向上にある壁①の方が,壁②より 見え易いと言えるであろう.この壁の見え方の違いを,図3.3で示す,歩行者と壁までの 離 と,歩行者の進行方向と壁の位置により決まる角度
も
d θ
距 で定め,定量的に表す.これ
視線の強さと呼ぶこととする.
また,壁③は,視線上に人が存在するため見えない.人により視線が遮られるという状 は,第4章で述べる.
図3.1 歩行者と壁
壁
歩行者と進行方向 歩行者の視線
×
図3.2 壁の見え易さ
壁③ 壁② 壁①
を
況
壁
θ d 進行方向
θ:進行方向と視線との成す角 d :歩行者と壁までの距離
の
3.1 歩行モデル
3.1.1 ネットワークモデルによる経路の決定
ネットワークモデルとは,空間をいくつかのエリアに分割することにより,空間をネッ トワークとして表現し,ネットワーク上の経路選択を行うことにより,歩行者の大局的な 動きを表現したものである.
3.1.2 電気モデルによる移動方向の決定
電気モデルとは,対象物をプラスとマイナスの 2 種類の点電荷に設定し,電荷を与え,
斥力と引力を計算させるものである. で などにプラスの電荷を,ホー ム,出口,階段,曲がり角,交差点などにマイナスの電荷を与える.このことにより,人
視線
図3.3 歩行者と壁との位置関係
以上のことを踏まえ,この章では,広告スペースである壁が,どのくらい歩行者の視線 を集めているかを数値化するモデルを定義し,広告スペースを評価する.
なお,歩行者の経路・移動方向は,3.1節で述べる安西[2] 歩行モデルにおいて決定され る.
ここ は,人,壁,柱
は各点電荷からの斥力と引力のベクトルが計算でき,この 2 つのベクトルの和により移動 方向が決定される.このことにより, 歩行者や壁・柱を避け,また,ホームや 出口などに向かって移動することを表現 照されたい.
3.2 視線モデル 3.2.1 視界の定義
視界とは,見渡せる範囲のことであ ここでは,視角と,視線の届く距離によって定 義する.静止時の視角を180°,歩行時の視角を60°,視線の届く距離を3.6m(9単位距 離)とし,1.2m(3 単位距離)以内は近すぎるため見えにくく,0.2m(0.5 単位距離)以 内は完全に見えない範囲と定める.また,歩行時の視角を強視,歩行時の視角以外の静止 時の視角を弱視とし,2つの視角の範囲において,視線の強さをはっきりと区別させる(図 3.4).
人は,他の
できる.詳細は安西[2]を参
る.
60
°
180°
1.2m 3.6m
図3.4 視界の定義
弱視 弱視
強視
3.2.2 視線の強さを定義
歩行者の視線の強さは,歩行者と壁までの距離dと,進行方向と視線との成す角θ によ り決まる.そこでまず,進行方向と視線との成す角θが及ぼす視線の強さについて述べる.
永野,梶,森[4]によると,水平視野では,単に明るさを感じる視野は 180°,大雑把に
物が見える視野は60°,明瞭な視野は12°,細部を識別することのできる視野は約1°で あるとされている.歩行者の視線は,常に前方15°の範囲をきょろきょろと動いているも のなので,視線の強さを設定する際に,歩行者の視線の動きも考慮に入れなければならな
.このことを,各視野が両端に 15°広がると考えることとする.単に明るさを感じる視
0.01 0.3,明瞭な視線の強さを0.8,細部を
1.0とすれば,視線の強さは図3.5のステップグラフと い
線の強さを ,大雑把に物が見える視線の強さを 識別することのできる視線の強さを
して表すことができる.このステップグラフは,θ
1.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8
90 45 0 15 21 45 90
1.0
細部を識別することのできる視界 1.0
21 15 単に明るさを感じる視界
0.01
大雑把にものが見える視界 0.3
視線の強さ
α
進行方向と視線との成す角θ [度]
が進行方向に近いほど,視線の強さが大
図3.5 進行方向と視線との成す角 きくなることを表している.
θによる視線の強さ
このステップグラフを図 3.5 の曲線,式(3.1)により補間し,進行方向と視線との成す 角θによる視線の強さα を定義する.
明瞭な視界 0.8
) 5 . 2 , 03 . 0
(a= b=
) 1 . 3 ( )
exp( 2 )
( 2
b − aθ
π 2 )
( =
= f θ α
視線の強さを定義する上で,歩行者と物体までの距離dも重要な要素となるので,ここ で述べておく.
歩行者と壁までの距離dと視線の強さの関係は,dが 3〜9単位距離の間で小さいほど,
視線の強さは大きなものとなる.dが 3 単位距離以内であれば,壁との距離が近すぎるた め,見えにくくなり,視線の強さは小さいものとなる.
以上をまとめ,視線の強さを式(3.2)のように定義する. 便宜上,視線の強さを0から 1の間の値とする.
⎪⎪
⎪⎪
⎨
⎧
⎩ <
<
≤
×
− ≥
×
) 5
. 0 ( , 0
) 2 . 3 ( ) 3
5 . 0 ( , 4
) 3
( 10 ,
13
単位距離
単位距離
) 単位距離
( 視線の強さ=
d
d d d α
α
3.3
告
ま あ 与える視線の強さを,式(3.2)で計算し,その広告ス ス ,ある一定時間その壁に与える視線の強さの総和とす
. を advertisementの略語)値とし,広告スペースを評価する指標とする.
広告スペースの評価
広 決 ー
これ
スペースの価値とは,歩行者の視線がどれだけの強さで,どれだけ注がれているか で る.歩行者1人が, る壁に
ペ の価値を,歩行者全ての人が AD(
る
第 4 章 線シミュレーション
体
)によって遮られてしまうこと を
る.
ここで,視線シミュレーションの概要を説明する.歩行者が障害物を見る,という判定 を,歩行者の視線と障害物の辺との交差判定により表現する.歩行者の視線とは,第 3 章 で述べたとおり,歩行者と障害物を結ぶ線分である.歩行者の視線を,視界内において平 面走査することにより,視界内に存在する障害物全てとの交差判定を行う.視線と障害物 との交差判定において,人と交差したのであれば,その視線は遮られ,壁と交差したので れば,歩行者はその壁を見たと判定する.判定した壁において視線の強さを計算するこ
4.1 データ構造
ここで,辺を作成する方法の詳細を説明する.メッシュが持つ中心点の座標値から計算 れた,4隅の座標値を辺データとし,各辺に持たせる.実際には,視界内に多くの人が並 でいても,歩行者の視線は人ごみの隙間をぬうことがあるので,図4.1のように,壁の辺
1辺40cm(1単位距離),人の辺は1辺20cm(0.5単位距離)とする.
視
人が視界内において物 を見るという動作を計算機上で実現したものを,視線シミュレ ーションと呼ぶことにする.駅構内において,歩行者が広告スペースである壁を見る,ま たは歩行者の視線が壁や他の歩行者(以下,障害物とする
表現するために,視線シミュレーションを用いることにする.本章では,視線シミュレ ーションについて述べ
あ
とにより,広告スペースを評価する.
視線シミュレーションで用いる,視線と障害物との交差判定を行うため,障害物のメッ シュが持つ中心点の座標値を基に,メッシュ4隅の座標値を求め,辺を作成する.
さ ん は
壁の辺の作成
) 5 . 0 , 5 . 0
(x− y+ (x+0.5,y+0.5)
) 5 . 0 , 5 . 0 (x+ y− )
, (x y
) 5 . 0 , 5 . 0 (x− y−
図4.1 辺の作成
4.2 視線アルゴリズム
視線アルゴリズム
STEP1.移動方向の決定 STEP2.視線走査
STEP3.障害物との交差判定 STEP4.視線の強さの計算
3.1節で述べた歩行モデルにより,移動方向が決定される.歩行者の位置と決定された移 動方向を用いて,視線走査を行う.視線走査において,障害物が存在したのなら障害物と の交差判定を行う.交差したものが壁であれば,視線の強さを計算する.以上が視線アル ゴリズムである.
人の辺の作成
歩行者が障害物を見るという動作を視線シミュレーションと呼び,平面走査法と線分の 交差判定を用いて表現する.そのアルゴリズムを以下に示す.交差判定と平面走査法のア ルゴリズムは浅野,今井[1]を参照されたい.
) 25 . 0 , 25 . 0
(x+ y− ) 25 . 0 , 25 . 0
(x− y+
) 25 . 0 , 25 . 0 (
) 25 . 0 , 25 . 0
(x+ y+ )
, (x y
−
− y
x
4.2.1 視線走査
平面走査法とは,平面上に与えられた対象物に対して,移動する走査線を考え,対象物 が走査線に触れたら何らかの処置を行うものである.
ここでの対象物とは,4.1節で述べた障害物の辺であり,走査線とは歩行者の視線である.
図4.2のように,視界内において視線を離散的に動かしていく.このことを視線走査とする.
このときの走査角度は,∆θとする.
障害物との交差判定
の視線ごとに,視界内全ての障害物の辺と交差判定を行う.
いる人からの距離が最小の辺を選ぶ.最小の辺が人であれば,
によって視線は遮られているとし,壁であれば,その壁は歩行者によって見られている と
進行方向
+90°
-90°
視界
線走査 視線
θ
∆
図4.2 視
4.2.2
前節で述べた,走査線として 交差した辺のなかから,見て 人
判定する.見られていると判定された壁の辺に対して,視線の強さを計算する.このこ とを,歩行者の視線と障害物の辺との交差判定とし,交差判定アルゴリズムを以下に示す.
交差判定アルゴリズム STEP1
4.3 計算量
この問題を解決するために,フロアデータを1辺が20単位距離の正方形に分割する.こ 1つの正方形を1エリアとする.分割した結果,B0は168エリア,B1は1836エリア,
.歩行者の位置と進行方向から視線の始点・終点を計算する.
STEP2.視線と壁の辺との交差判定を行う.
STEP3.交差した壁の辺の中から,人との距離が最小の辺を見つける.
STEP4.視線と人の辺との交差判定を行う.
STEP5.交差した人の辺の中から,人との距離が最小の辺を見つける.
STEP6.最小の辺が壁の辺であれば,その辺に対して視線の強さを計算する.
) sin ,
cos
( 視線の届く距離 視線の届く距離
視線の終点 = x+ × θ y+ × θ
θ
視線
:障害物(人)
:障害物(壁)
) 位置(
視線の始点=歩行者の x,y
図4.3 視線と障害物との交差判定
4.2.2節で述べた障害物との交差判定において,歩行者1人の視線に対し,フロア全ての 壁とフロアの残存者の辺との交差判定を行おうとすると,膨大な計算量が必要となる.
の
B2は2686エリア,B3は1674エリア,B4は168エリアとなった.図4.4のようにエリ
,障害物の探索範囲がフロア全範囲ではなく,進行方向6〜8エリ アに分割することにより
アで済むことになる.
20 20
探索範囲 探索範囲
図4.4 エリアへの分割
第 5 章 地下鉄大手町における広告スペースの評価
ュレーションにおける駅の初期状態は,駅構内に誰もいない状態 あるので,広告スペースの評価をするにあたり適切でない(図 5.1).そこで,駅構内全 に人が行き渡った時間からある一定の時間においてのみ,視線の強さを加算し,AD値を 計算する.
本研究では,午前7時から200秒後を初期状態とし,シミュレーション時間を300秒間 する.また,視線走査角度は5°とする.
.2 AD 値の視覚化
シミュレーションで計算されたAD値を,Micro AVS 7.0を用いて視覚化する.その様子 図5.2〜図5.6に示す.
評価をするにあたり,AD値を高い順にA〜Eの5段階のランクに分ける.ランクの分け であるが,E ランクを0〜10,Dランクを 10〜全体の平均値
5.1 シミュレーションの設定
安西[2]の群集歩行シミ で
体
と
5
を
方 ÷2,Cランクを全体の平
値 〜全体の平均値,Bランクを,全体の平均値〜CからEランクを除いた平均値,A ンクを,CからEランクを除いた平均値〜BからEランクを除いた平均値とする.表5.1
,AD値のランク分けを示す.
表5.1 AD値のランク分け
Aランク(赤) Bランク(黄) Cランク(緑) Dランク(水色) Eランク(青)
均 ÷2
ラ に
227.17以上 87.11〜227.17 43.55〜87.11 10〜43.55 0〜10 シミュレーション開始5秒 シミュレーション開始200秒後
図5.1 初期状態の設定
図5.2 フロアB0
図5.3 フロアB1 図5.3 フロアB1 図5.2 フロアB0
0 8単位距離 0 18単位距離
N
W
W N
N W
0 100単位距離
丸の内線ホーム
図5.5 フロアB3 図5.4 フロアB2
E N
0 57単位距離
千代田線ホーム
東西線ホーム
N E
0 73単位距離 N
E
0 150単位距離
図5.6 フロアB4
結果から,半蔵門線ホーム以外の各ホームで,Aランクの壁が見られる.よって,
の壁は広告としての価値が高いことが分かる.また,フロアB3の細長い通路では,E クの壁がほとんどであり,広告としての価値が低いことが分かる.
図5.7の赤色の線は改札と階段を,緑色の線は広告の掲載箇所を示す.また,赤で囲んだ 箇所は人通りの多い箇所を示す.図5.7と図5.8を比較すると,
で人通りの多い箇所はAD値も高いことが分かる.また,実際広告が掲載されている壁が,
視線シミュレーションにおいて,AD値が高い壁であることが分かる.このことは,図5.7 から分かる,実際広告が掲載されている箇所は,歩行シミュレーションにおいて人通りが 多いということからも分かる.
ホーム ラン
N E
0 55単位距離
半蔵門線ホーム
群集歩行シミュレーション
図5.8 B1フロアの D値の評価 図5.7 B1フロアの階段・改札・広告の位置
0 100単 位 距 E
N 丸の内線ホーム
丸の内線ホーム
0 100単位距離 W
N
A
5.3 駅の構造と AD 値の関係
見られる.
ため,改札付近の壁のAD値は高い.
図 5.9 の③のような形の壁において,歩行者の流れに対面する側の頂点は,ランク A と
こ ているので,歩
行者の視線は,歩行者の流れに対面する壁に当たり,AD値が高くなる.
以上に述べたことは,フロアB0だけでなく,全てのフロアに共通して言えることである.
駅構内の階段や改札の配置,壁の形などによる,AD値への影響が
まず,図5.9を参照し,フロアB0についてその影響を述べていく.
① 階段付近の壁は,A〜CランクとAD値が高い
前述したとおり,階段付近は人通りが多いため,階段付近の壁のAD値は高い.
② 改札付近の壁は,A〜DランクとAD値が高い ①同様,改札付近も人通りが多い
③
AD値が高い.また頂点に近い壁も,C,DランクとAD値は高い れは,歩行者の流れの動きが,直角的ではなく滑らかなカーブを描い
:階段
:改札
③
②
①
図5.9 駅構造とAD値 フロアB0
続いて,フロアB1について述べる.
まず,図5.10のような,同様の人通りをもつ幅の違う通路を比較すると,幅の狭い通路 AD値はEランク,幅の広い通路では,AD値がB,C,Dランクの壁が集中してい このことから,幅の狭い通路の壁より,幅の広い通路の壁の方が歩行者の視線を集め
続いて,図5.11のような曲がり角に注目する.
①の円内における曲がり角の隅の壁は,AD値がEランクであり,その周辺の壁は,A〜
D ランクである.このことから,通路における曲がり角の隅の壁は,歩行者の視線が集ま りにくいと言える.
また,②で示す壁では,左と右の壁の違いはあるが,AD値が高い.このことは、曲がり 角手前と少し過ぎた場所の壁は,歩行者の視線が集まると言える.左と右の壁の AD 値の 違いは,安西[2]の移動のルールにおいて,歩行者は進行方向に進めない場合は左に避ける と設定されているためであると考えられる.
では,
る.
ていることが分かる.
フロアB1−Ⅰ
フロアB1−Ⅰの拡大図
図5.10 駅構造とAD値
後に,図5.12のような混雑箇所における,壁の構造の違いが及ぼすAD値への影響を 述べる.
される鋭角な曲がり角に比べ,AD値が高い.よ っ
図5.12 駅構造とAD値 最
①で示される鈍角な曲がり角は,②で示
て,鈍角な曲がり角の構造における壁は,混雑時においても歩行者の視線を多く集める と言える.
このような結果は,このフロアが複雑な構造を持つために見られる.
① ②
図5.11 駅構造とAD値
フロアB1−Ⅱの拡大図
フロアB1−Ⅱ
フロアB1−Ⅲ
①
②
第
6章 おわりに
6.1 まとめ
本研究は,地下鉄大手町駅を対象に,駅構内の広告スペースがどれだけ見られているか を,歩行者の動きと視線を考慮に入れ,数値化した.歩行者の視線は,歩行者の視界内に おける対象物の位置により見え易さが違うので,対象物の見え易さを,歩行者と対象物と の距離と,歩行者の進行方向と視線との成す角度によって表現し,対象物に対する視線の 強さと定義した.
また,大手町駅のような狭くて人通りの多い空間では,壁や他の歩行者が障害物となり,
壁に貼られている広告を遮ってしまう.このことを,歩行者の視界内における視線走査と,
各歩行者と障害物の辺との交差判定を用いて表現した.さらに,それぞれの壁に対して,
一定時間内に集まる全ての歩行者の視線の強さの和を AD 値と定義し,広告スペースを評 価する指標とした.
本研究では,大手町駅を対象に,全ての壁のAD値を計算し,Micro AVS 7.0を用いて視 覚化した.この結果から,駅構内のど
て価値が高いまたは低いか を,定量的に測ることを可能にした.また,混雑箇所における幅の広い通路では,狭い通 路より人の視線を集め易いなどの,駅の構造による壁の見え易さの違いが評価できた.
.2 今後の課題
なければならない.本研究において,
視
なければならない.
々な場所の評価が可能となる.例えば,シ ップにおける客に見られやすい陳列,監視が必要な場所における監視員の設置場所,街 の案内板や看板の設置箇所などが挙げられる.
の壁が広告スペースとし
6
視線シミュレーションの精度を高めることを考え
界を定義し,視線モデルを構築したが,必ずしも正確なモデルであるとは言い難い.視 線モデルをより現実の歩行者の視線に近いものとするために,歩行者の視界についての諸 研究を参考にしていか
また,3次元空間におけるシミュレーションを行うため,3次元のGISデータベースと3 次元に拡張した視線シミュレーションを用いた研究が望まれる.
本研究のように,GIS データベースと人の歩行,またはそれに付随する歩行者の視線を 組み合わせることによって,駅構内に限らず様
ョ 中
謝辞
本研究を進めるにあたり,多くのご指導,ご助言を頂いた中央大学理工学部情報工学科 田口東教授に深く感謝いたします.また,多くのご助言,ご協力を頂いた鳥海重喜氏,福 智一正氏,円地隆之氏をはじめとする,田口研究室の皆様に深く感謝いたします.
参考文献
報工学専攻修士論文,2000.
[4
[1] 浅野孝夫,今井浩,計算とアルゴリズム,オーム社,東京,2000.
[2] 安西保幸,“地下鉄大手町における群集歩行シミュレーション,”中央大学大学院理工学 研究科情報工学専攻修士論文,2001.
[3] 鈴木啓真,“地下鉄大手町駅の GIS データベースの構築と駅の評価,”中央大学大学院 理工学研究科情
] 永野俊,梶真寿,森晃徳,視覚系の情報処理,啓学出版株式会社,東京,1993.
[5] 東京地下鉄株式会社,駅構内案内図,2005,http://www.tokyometro.jp/rosen/eki/otemachi/