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私立大学におけるガバナンスの有効性に関する実証 研究

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(1)

研究

著者 宮嶋 恒二

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 17

号 2

ページ 83‑97

発行年 2016‑03‑10

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014407

(2)

概 要

 本研究は、近年の大学におけるガバナンスの 議論が活発化される中で、学校法人ならびに私 立大学におけるガバナンス要因が私立大学の経 営力や組織内部の運営・実行力、組織の有効性 にどのような影響を持つかを実証的に分析し、

その関係性を明らかにした。また、実証分析か ら明らかになった論点について、大学経営層(理 事、事務局長、事務局次長)にインタビュー調 査を行い、その実態について、さらに分析を進 めた。

 ひとつには、私立大学の経営力と学校法人の ガバナンス要因との関係について「理事総数に 対する大学関係者の割合」が高い場合と「理事 長と学長が同一人物」である場合には、私立大 学の経営力を表す指標が高くなることが明らか になった。この点について、インタビュー調査 の分析では、学校法人と大学執行部の間に大学 の改革を促進する機能として、政策的な会議や 意思決定の会議、インフォーマルな打ち合わせ が頻繁に行われていることが明らかになった。

 ふたつには、私立大学における組織内部の運 営・実行力や組織の有効性とガバナンス要因と の関係について、アンケート調査の分析ではす べての指標において、「学長のリーダーシップ を発揮する仕組みや風土がある」という項目が 統計的にプラスの有意を示した。この点につい て、インタビュー調査では学長のリーダーシッ プを発揮する仕組みとして、学長裁量の予算の 設置や学長を中心とした政策策定・執行の組織 や会議・委員会を設けるなどの方策が取られて

いることが明らかになった。

研究の目的と分析枠組み 1. 1 研究の目的

 2012年に経済同友会が「私立大学における ガバナンス改革」を発表した。2014年2月に は中央教育審議会大学分科会において「大学の ガバナンス改革の推進について」(審議のまと め)がまとめられた。その後、学校教育法が改 正され、2015年4月より施行されている。こ のように、私立大学のガバナンスの改革につい ては、大学内外から注目されている。

 大学のガバナンスに関しては、これまでも 様々な調査・研究が行われてきた。それら先行 研究では、ガバナンスの仕組みや特徴、またそ の類型化によるガバナンスの仕組みの相違点な どの研究が行われてきた。しかし、私立大学の 組織内部の運営・実行力や組織の有効性とガバ ナンス要因との関係を実証的に分析し、明らか にした研究は多くない。

 本論では、2012年に実施した「大学経営効 率化」に関するアンケート調査1をもとに、私 立大学の組織内部の運営・実行力や組織の有効 性とガバナンス要因との関係について分析を行 う。さらに、学校法人または私立大学の経営層

(理事、事務局長、事務局次長)に対してイン タビュー調査を行い、その実態を明らかにする ことを目的とする。

1 平成24年度科学研究費助成事業(研究種目名:基盤研究(C)、研究期間:平成24年度〜平成26年度)「私立大学経営の効率性・有効 性評価―内部及び外部環境の視点から―」(研究代表者 山﨑 その)の研究で実施されたアンケート調査。

私立大学におけるガバナンスの有効性に関する実証研究

宮 嶋   恒 二

(3)

日々の大学運営に関わる事業(業務)が実行さ れ、機能している度合いを示す。これら2つの 指標は、複数の項目を合成(項目得点を合計)

したものを用いる。指標の作成方法については 後述する。

 最後に、私立大学における組織の有効性とガ バナンス要因との関係について分析を行う(仮

説2-2)。組織の有効性の指標として、収容定

員充足率を用いる。その理由は、大学は組織の 目的である教育・研究活動およびそれに関わる 社会貢献活動を行っている。こうした日々の諸 活動の評価が志願者確保に繋がり、ひいては収 容定員の充足に繋がる。よって、定員充足率は 組織の有効性の代理指標になると考える。ここ で志願者倍率ではなく収容定員充足率を選択し たのは、志願者倍率は単年度の様々な募集活動 の状況によって増減があるため、収容定員充足 率の方がより指標としての安定性が担保できる と考えたからである。また、収容定員充足率は、

大学における教育活動や研究活動、社会貢献活 動の個々の活動の有効性ではなく、大学の組織 全体を総合的に評価する、いわゆる総合指標と みなすことができる。よって、本分析において 収容定員充足率を組織の有効性の代理指標とし

1. 2 分析範囲と枠組み

 分析する対象の範囲は、私立大学の主たる運 営主体である学長を中心とした大学執行部、そ して大学の意思決定を考える際には欠かすこと のできない教授会とする。また、私立大学は設 置者である学校法人の理事会(および理事長)

との関係は不可分の関係にあることから、学校 法人のガバナンスについても分析の対象とする。

なお、学校法人を構成する組織であり内部統制 の役割を果たす評議員会、監事機能ならびに学 校法人および私立大学の管理・運営の支援を行 う事務組織については、分析の対象から除外す る。

 分析の枠組みは、図1のとおりである。最初 に私立大学の経営力と学校法人のガバナンス要 因との関係について分析を行う(仮説1)。私立 大学の経営には学校法人との関係が不可分であ るため、その影響について分析する。ここでの 大学の経営力の指標は、大学が自ら定めた方針・

目標に向かって経営されている度合いを表す。

 次に、組織内部の運営・実行力と私立大学の ガバナンス要因との関係について分析を行う

(仮説2-1)。組織内部の運営・実行力の指標は、

図 1 分析の枠組み

私立大学

(大学執行部)

学校法人

(理事会)

組織の有効性

(収容定員充足率指標)

大学の経営力

(大学の経営力指標)

仮説 学校法人のガバナンス

仮説 私立大学のガバナンス

組織内部の 運営・実行力

(組織内部の運営・実行力指標)

仮説

私立大学のガバナンス

(4)

2 宮嶋恒二(2010)「私立大学のガバナンス研究と現状分析」『大学行政管理学会誌(第14号)』194-195頁から抜粋して掲載(一部修正)。

3 吉岡民雄・原田一郎・浅野清彦・吉川隆博(1994)「私立大学の管理運営・経営に関する研究」『東海大学紀要』1994年第2号,1-26頁。

4 山崎博敏(1996)「大学法人理事会の役員構成とその構造変化」『広島大学 大学教育研究センター 大学論集』第25集,303-320頁。

5 同書、315頁。

6 両角亜希子「私立大学のガバナンス―概念的整理と寄附行為の分析―」『東京大学大学院教育学研究科紀要』39巻,2000年,235-243頁。

7 両角亜希子小方直幸「大学の経営と事務組織―ガバナンス,人事制度,組織風土の影響」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第51巻,

2011年,159-174頁。

出身者が学長に就任し創設関係者が理事長に就 任して経営と教学が分離するようになり、さら には、教員出身者が学長兼理事長に就任すると いうパターンをとる例が見られる」5。と指摘し た。それに加えて、理事と監事の教員の割合を みると歴史の新しい大学ほど専門職の比率が高 く、古い大学ほど教員の比率が高くなっている。

また、理事長が教員出身者である割合について も、設置年が新しい大学に比べて古い大学の方 が教員出身者の割合が高いことが実証された。

 両角(2000)6は、従来の研究が理事あるい は学長といった特定の役職のみに焦点があてら れており、ガバナンスの体制やメカニズムを総 体として捉えていないとして、学校法人の評議 員会や教学組織の教授会を含め、ガバナンスと いう概念を広い制度的な決定プロセスとして分 析を行った。いわゆる理事会と評議員会、教授 会、学長の4者のパワーバランスを分析した。

大学における権力関係が相対的に生み出される という点に着目し、組織の構造にどのような違 いがみられるのかを検証した。この研究で両角 は、200校にも及ぶ学校法人の寄附行為を概観 し、先行研究で重要とされた要素である①学長 と理事長の兼任パターンと②大学の歴史に着 目して、3パターンの私立大学を抽出して分析 を行った。その結果、私立大学のガバナンスの パターンを評議員会や教授会などの教員や卒業 生・父母等の大学の構成員が力をもっている「構 成員参加型」のガバナンスと経営の執行部であ る理事会が力をもっている「執行部支配型」の ガバナンスの2つのガバナンス類型があること を明らかにした。

2. 2 大学のガバナンス研究の実証的研究

 日本においては、大学のガバナンスの有効性 を分析した研究は多くない。その数少ない先行 研究の1つに両角・小方(2012)7がある。こ の研究では、大学が経営上選択し得る方策のう ち、経営状態を維持・改善させる要因を明らか て用いることとした。

先行研究のレビュー

2. 1  日本の私立大学におけるガバナンス 研究

2

 最初に日本の私立大学のガバナンス研究を確 認する。まず挙げられるのは、吉岡ほか(1995)

の『私立大学の管理運営・経営に関する研究』

である3。この研究では、日本の私立大学の組 織と構造を経営管理、教学管理、社会評価の3 つの側面から分類を行っている。経営管理の側 面では、学校法人の理事会と私立大学の教学と の関係性を「経営・教学分離方式」「理事長・

学長兼務方式」「学長付託方式」に分類してい る。教学管理の側面では、大学の設置目的と設 置学部の系統および教学管理の方法から「総合 系大学」「複合系大学」「単科系大学」に分類し ている。社会的評価の側面では、「歴史的貢献 度」「大学の立地条件」「教育・研究・社会貢献 業績の高い大学」「付属校を含めた一貫教育へ の適合度」「規模ならびにイメージ面での評価」

など学校法人の経営に影響をもつ地域や社会に よる評価の視点から分類がされている。この研 究では、欧米先進国なかでもアメリカの大学の 管理・運営と対比しながら、日本の私立大学の 経営構造と特徴の分析がなされた。そこで、日 本の私立大学におけるガバナンスの多様性の実 態が明らかにされた。

 山崎(1996)の実証研究4では、それまであ まり行われてこなかった大学管理・運営の社会 科学的研究が行われた。特に理事や理事長、理 事会構成に焦点にあてた実証的な研究が行われ た。この研究では、理事長職と学長職の兼任状 況を分析し、経営と教学の分離が一定程度進行 していることが実証されている。また、大学に おける管理・運営の移行経路として、「創設者 が理事長と学長を兼任していた時代から、教授

(5)

私立大学の有効性に影響を与える ガバナンス要因の定量的分析

3. 1  アンケート調査の概要とデータの  特徴

3. 1. 1  「大学経営効率化」に関する   アンケート調査の概要

 2012年に実施した「大学経営効率化」に関 するアンケート調査は、大学経営の実態を把握 することを目的とするものである。アンケート の調査項目は表1のとおり二部構成となってい る。第一部では定量的なデータで大学経営の現 状を把握する内容となっており、回答する対象 期間は2011年4月1日〜2012年3月31日の 状況である。第二部では、大学経営全般を把握 している当事者が、大学の現状に対して自己評 価を行う内容となっている。

 アンケートは、日本の国公私立大学735校(放 送大学、大学院大学は除く)を対象として実施 した。調査方法は、大学の事務局長宛に郵送で アンケート用紙を送付し、回答は郵送で回収し た。調査期間は、2012年10月下旬から2013 年1月下旬までとした。

 回答数は、対象の735校中194校(26.4%)

から回答を得た。回答大学の設置形態別の内訳 は国立大学が27校(13.9%)、公立大学は41 校(21.1%)、私立大学は126校(64.9%)であっ にしている。定員充足率を経営状態の代理指標

として、それを規定する要因を①ガバナンス

(「オーナー理事長」「職員理事存在」「教授会自 治強い」)、②人事制度(「適切な人事が実施」

「自大学出身者が多い」)、③組織風土(「業務し やすい環境」「教員と信頼関係」「目標が共有」)

の変数を設定し、分析している。 

 この研究では、先の3項目8変数に規模と選 抜制で統制したモデルで重回帰分析を行った結 果、ガバナンス項目ではオーナー理事長がマイ

ナスで0.1%水準の有意であり、「職員理事存

在」、「教授会自治強い」はプラスで1%水準の 有意であった。人事制度項目では「自大学出身 者が多い」がマイナスで0.1%水準の有意、組 織風土項目では「業務しやすい環境」がプラス

で5%、「目標が共有」はプラスで1%水準の有

意であった。

 こうした結果から①ガバナンスについては適 切なパワーバランスが経営改善にプラスの影響 があること、②業務のしやすさや課題共有と いった組織風土もプラスの影響があること、③ 人事制度は経営状態の良し悪しには関係してい ない、ただし、職員のモチベーション向上には 一定の効果を持っている、と結論づけられてい る。

表 1 「大学経営効率化」に関するアンケート調査項目

項 目 内  容

Ⅰ大学全体に関する情報 機能分化、学部数、研究科数、入学定員数、収容定員数、

大学の理念・目標、計画の策定状況、附属学校(併設校)

の有無に関すること

Ⅱ学生に関する情報 在籍学生数、入学者数、学位授与数、学部卒業生の進学・

就職等に関すること

Ⅲ教育支援に関する情報 教育支援制度、学部教員数、大学院教員数、研究所・セン ター、国際交流、公開講座・産学連携、施設・設備等に関 すること

Ⅳ管理運営に関する情報 職員数、入学試験、就職支援、理事監事評議員、理事会 教授会、計画・評価等に関すること

第二部

大学の現況に対する主観的評価 内部質保証、学生支援、管理運営、理念・目標・計画、ガ バナンス、大学外部の動向等に関すること

(6)

関東(東京、神奈川除く)は12校(9.5%)、

甲信越は4校(3.2%)、北陸は4校(3.2%)、

東海(愛知除く)は5校(4.0%)、近畿は(京都、

大阪、兵庫除く)3校(2.4%)、中国(広島除く)

は4校(3.2%)、四国は1校(0.8%)、九州(福 岡除く)は4校(3.2%)であった。また、都 市部の大学は、宮城は2校(1.6%)、東京は27 校(21.4%)、神奈川は5校(4.0%)、愛知は8 校(6.3%)、京都は10校(7.9%)、大阪は10 校(7.9%)、兵庫は12校(9.5%)、広島は2校

(1.6%)、福岡は3校(2.4%)であった。2011 た。本調査の集計結果については、伊多波他

(2013)の「『大学経営効率化』に関するアンケー ト調査結果」8を参照いただきたい。

3. 1. 2 分析するデータの特徴

 これ以降の分析データについては、すべて私 立大学に限定したものである。データの特徴を 確認する9。地域別にみると図2のように全国 から幅広く回答を得た。エリア別には北海道が 6校(4.8%)、東北(宮城除く)は4校(3.2%)、

8 伊多波良雄・山﨑その・宮嶋恒二「『大学経営効率化』に関するアンケート調査結果」、Doshisha University Center for the Study of the Creative Economy Discussion Paper Series,2013年,No.2013-02,1-54頁。

9 2011年度全国大学(私立大学のみ)のデータは、財団法人文教協会「平成23年度全国大学一覧」より作成した。

図 2 アンケート調査回答大学のエリア・都市別割合

(注)*2011年度全国私立大学のエリア ・ 都市割合(株式会社立大学2校を含む)。

図 3 学部数別の割合

(注)*2011年度全国私立大学の学部数割合(株式会社立大学2校を含む)。

(7)

3. 2 仮説と分析方法 3. 2. 1  仮説の設定

 本研究においては、前述した図1の分析の 枠組みに基づき、「仮説1」、「仮説2-1」、「仮説 2-2」を設定した。以下では、この順に沿って 仮説の説明を行う。

仮説 1: 私立大学の経営力に関する ガバナンス仮説

 仮説1は、私立大学の経営力と学校法人のガ バナンス要因に関する仮説である。仮説1は、

以下の4つの個別仮説で構成される。

 仮説1-① 「理事の職務分担」が明確な私立 大学は、不明確な大学と比べ、高い経営力を持 つ。

 各理事が担当職務を明確に持つことで、その 職務に専念することが出来、その結果理事会全 体の経営に対する監督・指導力が高まり、大学 の経営力にプラス効果を発揮する。

 仮説1-② 「理事総数に対する大学関係者の 割合」(「理事の大学関係者割合」と略す)が高 い私立大学ほど、経営力は高い。

 理事の大学関係者割合が多い場合には、理事 年度私立大学全体のエリア別、都市部の大学数

の割合と比較したが、大きな偏りは無かった。

 次に、学部数別にみると、1学部の大学が50 校で全体の39.7%、2〜3学部41校で32.5%、

4学部以上は35校で27.8%であった。2011年 度私立大学全体との比較でみると、若干2-3学 部の回答大学が少なく、4学部以上の大学の回 答数が多いという傾向であった。

 入学定員別では、500名未満が70校で全体 の55.6%、500名以上1,500名未満が34校で

27.0%となっており、1,500名以上が22校で

17.5%であった。2011年度の全私立大学の入学

定員別の大学数の割合と比較すると、500名未

満と500名以上1,500名未満の回答が若干少な

く、1,500名以上が若干多かった。

 以上のように、今回の調査のデータは、概ね 対象年度の全私立大学のデータと近いことか ら、極端な偏りがあるデータではないことが確 認された。よって、今回の私立大学におけるガ バナンスに関する実証研究では、一定の代表性 があるデータでの分析といえる10

10 学部構成別(医学・歯学部を含む学部を設置する大学、薬学部を含む学部を設置する大学、理工系学部(理・工・農学系)を含む学部を 設置する大学、文系学部(人文科学・社会科学系)を含む学部を設置する大学、その他系(家政・教育・体育・芸術系、その他)学部を 設置する大学)に比較すると、理工系の回答が若干多く、文系学部が若干少なかったが、概ね回答属性に偏りが無い状況であった。

図 4 入学定員別の割合

(注)*2011年度全国私立大学の設置形態別大学数割合(株式会社立大学2校を含む)。

(8)

会での意思決定に、大学の事業方針や大学の意 向がより強く反映され、その結果理事会と大学 の意思の同質性が高まることで、大学の経営力 にプラスの効果を発揮する。

 仮説1-③ 「理事会と大学の政策を調整する 組織・会議体」(「理事会・大学間の調整組織」

と略す)の存在は、私立大学の経営力にプラス の効果を持つ。

 理事会・大学間の調整組織が存在することで、

組織間のコンフリクトを解消し、理事会の支持 を受ける大学経営を行うことが出来、結果とし て大学の経営力にプラス効果を発揮する。

 仮説1-④ 理事長・学長が同一人物である ことは、私立大学の経営力にプラスの効果を持 つ。

 「理事長と学長が同一人物」(「理事長・学長 同一」と略す)であると、理事会と大学間の意 思疎通が良くなり、大学の重要案件の決定ス ピードが高まることで、大学の経営力にプラス 効果を持つ。

仮説 2

-

1: 組織内部の運営・実行力に      関するガバナンス仮説

 次に、私立大学の組織内部の運営・実行力と 私立大学のガバナンスの関係について仮説設定 を行う。仮説2-1は、私立大学の組織内部の運 営・実行力を「学生支援」「内部保証」「管理運 営」の3点に注目して見たとき、私立大学のガ バナンス要因がどのような効果を持つかに関す る仮説である。具体的には、仮説2-1は、以下 の3つの個別仮説で構成される。

 仮説2-1-① 「学長のリーダーシップが発揮 できる仕組み・風土」(「学長のリーダーシップ」

と略す)の存在は、組織内部の運営・実行力に プラスの効果を持つ。

 学長のリーダーシップがあると、大学として の意思決定が大きく遅延することが減り、結果 として意思決定のスピードが高まる。また、そ の意思の実行者である教職員の中で、学長の政 策意図や政策目的に対する理解が深まり、広が ることで、構成員が同じ方向に向かって大学運 営ができることから組織の運営・実行力にプラ

図 5 私立大学の経営力に関するガバナンス仮説

理事の大学関係者割合

理事長・学長同一(ダミー)

理事の職務分担(ダミー)

+ + + +

理事会・大学間の調整組織(ダミー) (私立大学の経営力指標)

私立大学の経営力

図 6 組織内部の運営・実行力に関するガバナンス仮説

①学生支援関連指標

②内部保証関連指標

③管理運営関連指標 教 授 会

+

学長のリーダーシップ 仕組み・風土

+

大学・学部間の調整組織(ダミー) (組織内部の運営・実行力指標)

組織内部の運営・実行力

(9)

ス効果を持つ。

 仮説2-1-② 「大学の政策と学部の政策を調 整する組織・会議体」(「大学・学部間の調整組 織」と略す)の存在は、組織内部の運営・実行 力にプラスの効果を持つ。

 大学執行部と学部の意向の間にコンフリクト が生じても、両者の政策を調整する組織・会議 体が存在すれば、そのコンフリクトが解消され る確率が高まり、その結果、組織内部の運営力・ 実行力にプラス効果を持つと期待できる。

 仮説2-1-③ 「大学政策の意思決定に与える 教授会の影響」(「教授会」と略す)が強いと組 織内部の運営・実行力にマイナスの効果を持つ。

 組織内部の改革に関わる事柄は、専門家集団 である教授会は積極的に関与することなるが、

その際に大学執行部とのコンフリクトを起す場 面が出てくる可能性があり、組織内部の運営・

実行力にはマイナスにはたらく。

仮説 2

-

2: 組織の有効性に関する      ガバナンス仮説

 最後に、私立大学における組織の有効性とガ バナンス要因との関係について仮説設定を行 う。具体的には、仮説2-2は、以下の3つの個 別仮説から構成される。

 仮説2-2-① 学長のリーダーシップを持つ大 学は、組織の有効性が高い。

 学長のリーダーシップを持つ大学は、組織内 部の運営・実行力にプラスの効果をもつことか ら(仮説2-1-①)、収容定員充足を高める等の 大学組織の目的を実現する可能性が強いと考え

られる。よって、組織の有効性に学長のリーダー シップはプラス効果を持つと考えられる。

 仮説2-2-② 大学・学部間の調整組織の存 在は、組織の有効性にプラスの効果を持つ。

 大学・学部間の調整組織の存在は、組織内部 の運営・実行力にプラスの効果を持つことから

(仮説2-1-②)、収容定員充足を高める等の大 学組織の目的を実現する可能性を強めると考え られる。よって、組織の有効性に対しても、こ のような調整組織・会議体の存在はプラス効果 を持つと考えられる。

 仮説2-2-③ 教授会の影響が強いと組織内 部の運営・実行力にマイナスの効果を持つ。

 教授会の影響が強いと、大学執行部と教授会 でコンフリクトが起こり、意思決定が滞る可能 性があり、また構成員が同じ方向で大学運営が できないことから組織の有効性にマイナス効果 を持つと考えられる。

3. 2. 2  指標(被説明変数)の作成

 「大学の経営力指標」および「組織内部の運営・ 実行力指標」については、アンケートにおいて 5件法11で回答を得た、次の調査項目の得点を 合計したものを指標とする。

 大学の経営力は、「大学の理念に基づいた運 営がされている」「大学の教育目標の実現に向 けた取り組みがされている」「大学の中長期計 画は着実に実行されている」の3項目を合計し た得点とする(大学の経営力指標)。大学の経 営力を計る指標として、この3つの項目を使用 した理由は、各項目が大学を経営していくため

11 「5点:強くそう思う」〜「1点:まったくそう思わない」で回答を得た。

図 7 組織の有効性に関するガバナンス仮説

学長のリーダーシップ

+ +

教 授 会

大学・学部間の調整組織(ダミー)

(収容定員充足率指標)

組織の有効性

(10)

業務管理などは、私立大学を管理運営していく ために重要な項目と考えたからである。

 大学における組織の有効性の代理指標として

「収容定員充足率」を用いた理由は、前述した とおりである(「1.2 分析範囲と枠組み」を参 照)。

3. 2. 3 分析方法

(分析方法1)

  大 学 の 経 営 力 指 標 に 対 し て、「理 事 の 職 務分担」、「理事の大学関係者割合」、「理事 会・大 学 間 の 調 整 組 織」、「理 事 長・学 長 同 一」の影響の程度をみるために、重回帰分 析 を 行 っ た。大 学 の 経 営 力 に 対 す る 影 響 は、これら4項目以外に大学および学校法 人の規模や多様性の影響を考慮する必要が あ る と 考 え、大 学 の 規 模 を 示 す「入 学 定 員」12と学校法人の多様性を示す項目である

「附属学校の有無」の影響を統制する方法を用 いることとした。それにより、大学および学校 法人それぞれの影響を除いた上で、「理事の職 務分担」、「理事の大学関係者割合」、「理事会・

大学間の調整組織」、「理事長・学長同一」の影 響について分析を行った。

(分析方法2-1,2-2)

 組織内部の運営・実行力および組織の有効性 についての4つの指標それぞれに対して、「学 長のリーダーシップ」、「大学・学部間の調整組 織」、「教授会」、の3項目(いずれも5件法)

の影響の程度をみるために、重回帰分析を行っ た。なお、組織内部の運営・実行力に関する3 つの指標に対しては、3項目以外に、大学の多 様性や規模の影響を考慮する必要があると考 え、大学の規模や多様性を示す項目である「入 学定員」と「学部数」の影響を統制する方法を 用いることとした13

 組織の有効性に関する指標に対しては「入学 定員」「学部数」に加え、大学の立地や歴史に よる影響の可能性が考えられるため、立地につ いての項目(「都市部」か否か)14と大学の歴史 に重要でかつ大学の発展に寄与する項目と考え

たからである。大学としての方向性を明確にし て、理事会や学部との調整や理念の浸透と実行 を計る指標として適切であると考えた。

 組織内部の運営・実行力は、大学の目的のひ とつである教育活動の運営および管理につい て、アンケートの「学生支援」「内部保証」「管 理運営」に関する項目から3つの指標を作成し た。

 「学生支援」指標は、大学の学生に対する主 に正課外活動の支援活動と定義する。この指標 は、アンケートの「学習支援は機能している」「留 学生支援は機能している」「就職支援は機能し ている」「正課外活動への支援は機能している」

「学生への経済的支援は機能している」「学生へ の精神的支援は機能している」の6項目を合計 した得点とする。大学の学生支援に関わる運営・ 実行力を計る指標として、この6つの項目を使 用した理由は、各項目が入学から卒業までの学 生生活を直接支援する項目であると考えたから である。

 「内部保証」指標は、大学自身の内発的改善 活動と定義する。この指標は、「学生の授業評 価は機能している」「自己点検評価による改善 は進んでいる」「第三者評価による改善は進ん でいる」「社会への説明責任は果たしている」

「FDは機能している」「SDは機能している」の 6項目を合計した得点とする。大学の内部保証 に関わる運営・実行力を計る指標として、この 6つの項目を使用した理由は、大学自らが教育 活動の改善に向けて取り組む項目であると考え たからである。

 「管理運営」指標は、大学における管理運営 の充実状況と定義する。この指標は、「危機管 理は機能している」「情報の共有化は進んでい る」「情報の一元化は進んでいる」「業務の効率 化は進んでいる」「業務の委託化は進んでいる」

「管理運営組織の見直しは進んでいる」の6項 目を合計した得点とする。大学の管理運営に関 わる運営・実行力を計る指標として、この6つ の項目を使用した理由は、危機管理や情報管理、

12 完成年度に満たない大学や修業年限が6年の大学を同等に扱えるように「収容定員」ではなく「入学定員」を選択した。

13 大学の歴史に関わる「設置年数」をコントロール変数として追加して分析を行ったが、統計的に有意な結果が得られなかったため、ここ では除外して分析を行った。

14 都市部は東京都ならびに政令指定都市(2012331日現在)に所在地(キャンパスが複数の場合は法人本部の所在地)のある大学とし、

それ以外を非都市部とした。

(11)

学の規模と学校法人の多様性を示す項目等(「入 学定員」「附属学校の有無」)による有意な影響 は見られなかった。

(結果2-1)

 組織内部の運営・実行力に関する3つの指標 に対する「学長のリーダーシップ」「大学・学 部間の調整組織」「教授会」の影響について、

重回帰分析の結果を表3に示す。「大学・学部 間を調整組織」と「教授会」の項目がいずれの 指標に対しても有意に影響していない(内部保 証指標は「教授会」の影響が10%水準で有意 傾向)のに対して、「学長のリーダーシップ」

の項目は3つ全ての指標に対して1%水準でプ ラスの有意な影響が見られた。また、影響を統 制した「入学定員」と「学部数」の項目につい についての項目(「設置年数」)も加えて統制す

ることとした。それらの影響を除いた上で、「学 長のリーダーシップ」「大学・学部間の調整組織」

「教授会」の影響について分析を行った。

3. 3 実証分析の結果

(結果1)

 大学の経営力の指標に対する「理事の職務分 担」、「理事の大学関係者割合」、「理事会・大学 間の調整組織」、「理事長・学長同一」の影響に ついて重回帰分析の結果を表2に示す。分析の 結果、大学の経営力に対しては「理事の大学関 係者割合」と「理事長・学長同一」から5%水 準でプラスの有意な影響が見られた。なお、大

表 2 大学の経営力と学校法人(理事会)のガバナンスとの関係 大学の経営力指標

標準化係数(β) t値 有意確率

定数

入学定員 0.020 0.198

附属学校(ダミー) 0.091 0.939

理事の職務分担(ダミー) 0.023 0.236

理事の大学関係者割合 0.258 2.496 **

理事会・大学間の調整組織(ダミー) 0.025 0.260

理事長と学長同一(ダミー) 0.206 2.116 **

調整済み決定係数 0.090

F 2.761 **

サンプル数 n=108

(注)***1%水準、**5%水準、*10%水準で有意であることを示す。

表 3 組織内部の運営・実行力と大学のガバナンスとの関係(学生支援、内部保証、管理運営)

組織内部の運営・実行力指標

学生支援指標 内部保証指標 管理運営指標

係数標準化(β) t値 有意確率 標準化係数(β) t値 有意確率 標準化係数(β) t値 有意確率 定数

入学定員 0.504 2.671 *** 0.035 0.183 0.305 1.706 *

学部数 0.350 1.824 * 0.039 0.205 0.134 0.734

学長のリーダーシップ 0.320 3.527 *** 0.278 3.051 *** 0.383 4.468 ***

大学・学部間の調整組織(ダミー) 0.014 0.140 0.073 0.750 0.097 1.052

教授会 0.031 0.331 0.173 1.852 * 0.032 0.367

調整済み決定係数 0.115 0.080 0.145

F 3.868 *** 2.973 ** 5.026 ***

サンプル数 n=111 n=115 n=120

(注)***1%水準、**5%水準、*10%水準で有意であることを示す。

(12)

バナンス要因である「理事の大学関係者割合」

と「理事長・学長同一」が大学の経営力に有意 に影響しているという結果が得られた。理事長 と学長が同一(兼任)であることや、理事の構 成において大学関係者比率が高いほど、大学の 政策等を理事会の方針に反映させやすくなるの はごく自然である。このことから、理事会と大 学執行部で大学の理念や教育目標、中長期的な 計画が共有され、方向性が整合していることが、

政策等を進めていくうえで重要であることを示 していると考えられる。

 また、「理事会・大学間の調整組織」は、大 学の経営力に対して統計的に有意な影響はみら れなかった。経営力に結びつくのは、両者を調 整する組織の有無よりも、同じ方向性を見出し、

実行力を促進する機会としての政策的な会議や 意思決定会議等である可能性も考えられる。

 次に、「学長のリーダーシップ」が、組織内 部の運営・実行力をみる3つの指標の全てに対 して有意に影響しているという結果から、学長 のリーダーシップが発揮できる仕組み・風土が あることで、学生に対する支援や大学の内発的 改善活動および管理運営の効果を高める要因に なっていることが明らかになった。組織内部の 運営・実行力が高まることは、その発揮の方向 性を誤らない限り、教育力の向上や退学率の減 少などに結びつき、そのことが大学の評価を高 めることになると考える。

 最後に、「学長のリーダーシップ」は組織の 有効性(収容定員充足率)に対しても有意に影 響している。よって、学長のリーダーシップを ては、学生支援指標に対しては「入学定員」が

プラス(入学定員が多いほど学生支援指標の得 点が高い)の1%水準の有意な影響が「学部数」

がマイナス(学部数が多いほど学生支援指標の 得点が低い)の有意傾向(10%水準)の影響 が見られた。管理運営指標は「入学定員」がプ ラス(入学定員が多いほど管理運営指標の得点 および定員充足率が高い)の有意傾向が見られ た。なお、内部保証指標については、大学の規 模および多様性を示す項目による影響は見られ なかった。

(結果2-2)

 組織の有効性の指標(収容定員充足率)に対 する「学長のリーダーシップ」「大学・学部間 の調整組織」「教授会」の影響について、重回 帰分析の結果を表4に示す。組織の有効性の指 標に対しても、「大学・学部間の調整組織」と「教 授会」の項目がいずれの指標に対しても有意に 影響していないのに対して、「学長のリーダー シップ」の項目で5%水準のプラスで有意な影 響が見られた。また、影響を統制した「入学定員」

「学部数」「都市部(ダミー)」「設置年数」の項 目については、「入学定員」がプラス(入学定 員が多いほど収容定員充足率が高い)の5%水 準、「設置年数」についてもプラス(大学の歴 史が長い方が、収容定員充足率が高い)の1%

水準の有意な影響が見られた。

3. 4 実証分析の考察

 本アンケート調査の分析では、学校法人のガ

表 4 組織の有効性と大学のガバナンス(収容定員充足率)との関係 組織の有効性(収容定員充足率)

標準化係数(β) t値 有意確率

定数

入学定員 0.367 2.196 **

学部数 0.222 1.345

都市部(ダミー) 0.100 1.189

設置年数 0.420 4.526 ***

学長のリーダーシップ 0.159 2.074 **

大学・学部間の調整組織(ダミー) 0.005 0.066

教授会 0.038 0.471

調整済み決定係数 0.332

F 9.372 ***

サンプル数 n=119

(注)***1%水準、**5%水準、*10%水準で有意であることを示す。

(13)

課題が残った。これらの点をさらに追究するた めに、各大学へのインタビュー調査を行った。

私立大学の有効性に影響を与える ガバナンス要因の定性的分析

4. 1  経営層に対するインタビュー調査の 概要

 私立大学の経営力や組織内部の運営・実行力、

組織の有効性を向上させるガバナンス要因につ いてさらに考察を行うため、「大学経営効率化」

に関するアンケート調査の結果を踏まえて、9 校の大学にインタビュー調査を実施した。

 調査は、2014年10月から2015年5月にか けて実施した。対象校は、大学の立地や規模、

組織の特徴を勘案しながら選定した(表5)。

対応者は、学校法人または大学の経営層(理事、

事務局長、事務局次長)に対して行った。イン タビュー方法は、半構造化面接により約40分 から60分間で実施した。質問内容は、①理事 会と大学を調整する機能の働きについて、②学 長のリーダーシップを発揮させる仕組み等につ いて聞き取りを行った。詳細は、後述する。

 これまで検証してきたアンケート調査の分析 では私立大学の経営力の高さは、学校法人のガ バナンス要因である「理事の大学関係者割合」

や「理事長・学長同一」との関係が強いことが 明らかになった。また、組織内部の運営・実行 力や組織の有効性と私立大学のガバナンス要因 である「学長のリーダーシップ」との関係が強 いことも明らかになった。では、こうした要因 が具体的な組織運営の場面ではどのように表出 しているのだろうか。これは、各個別大学の特 徴に合わせて構築されているはずである。

 本インタビュー調査の集約ならびに分析・考 察にあたっては、協力大学の匿名性を重視し、

詳細な内容の掲載は控える。具体的な数値につ いては、区分して掲載する。また、当該大学の 特有の組織や役職等の名称が含まれるため、大 学全般に使用されている一般的な名称に置き換 えて記述を行った。

発揮する仕組みや風土を持つことは組織の有効 性を高める要因となるとことが明らかになっ た。ただし、今回の一時点のみの分析結果では、

先に見た組織内部の運営・実行力で得られた結 果が即、組織の有効性に反映されたかまでは検 証することはできない。

 しかし、これらの結果から学長のリーダー シップが私立大学における組織内部の運営・実 行力ならびに組織の有効性を高めるための重要 な要素の一つであることは明らかにされた。

 一方、大学の規模を表す「入学定員」につい ては、「学生支援指標」、「管理運営指標」、「収 容定員充足率」に対してプラスの方向に影響す る。このことから、学生数を多く確保している 大学の経済的な基盤の安定性が、行き渡った学 生支援やスムーズな組織内の業務の流れの構築 に影響していると考えられる。多様性を表す「学 部数」の多さが「学生支援指標」に対してはマ イナスの方向に影響するという結果は、学部数 が多くなることで学生サービスが分散されるこ とになり、大学全体として統一的に学生支援の 質を高い水準に保つことが難しくなるからであ ると考えられる。

 また、大学のガバナンス要因の一つである「大 学・学部間の調整組織」については、組織内部 の運営・実行力や組織の有効性に統計的に有意 な影響を与えるものではなかった。これらの調 整機能をもつ組織や会議体は、その存在の有無 よりも機能性(求められている制度的役割の違 いや調整組織の実行力が機能しているか否か)

に組織内部の運営・実行力や組織の有効性に対 して影響があるのではないかと考えられる。

 このように、組織内部の運営・実行力および 組織の有効性の両方に影響するのは、「大学・

学部間の調整組織」や「教授会」ではなく、「学 長のリーダーシップ」であるという結果は、変 革期にある日本の私立大学の中で、大学におけ る伝統的な組織運営(教授会による判断を優先 する)がその形態を変えてきていることを表し ているとともに、大学改革推進の柱として学長 のリーダーシップの重要性が強調されることの 妥当性を示しているといえる。

 今回のアンケート調査結果からは、学長の リーダーシップを発揮する仕組みや風土および 意思決定を調整する組織の機能性が具体的にど のようなものであるのかが読み取れないという

(14)

行った。

 インタビュー調査の分析方法については、ア ンケート調査の分析結果をもとに論点を二つに 絞った。ひとつは、私立大学の経営に対する学 校法人の影響(論点1)、二つには、組織内部 の運営・実行力や組織の有効性に対する学長の リーダーシップの影響(論点2)と設定した。

4. 2 インタビュー調査の内容と分析方法

 インタビューの内容は、表6のとおり①理事 会と大学執行部との関係について、②大学執行 部のマネジメントについて、③学長のリーダー シップを発揮させる仕組みや風土について、④ ガバナンス改革の現状について、聞き取りを

表 6 インタビュー調査の内容

調査項目 質問内容

理事会と大学執行部との関係について

大学の運営にかかわり理事会との関係をどのように構築しているか。調 整する組織はあるか。

理事の職務分担制を取っているか。大学運営に大きな影響をもたらして いるか。

理事総数に対する大学関係者比が大学運営に大きな影響をもたらしてい るか。

大学執行部のマネジメントについて

大学執行部体制はどのように決定され、組織化されているか。その権限 は。

教授会は、どのような権限で運用されているか。大学の政策的な内容に どのようにかかわっているか。大学の政策を阻害することはあるか。そ の頻度は。

大学執行部と学部教授会を調整する組織はあるか。どのような役割を果 たし、権限が与えられているか。有効的に機能しているか。

学長のリーダーシップを発揮する仕組 みや風土について

学長のリーダーシップが発揮されているか。それはどのような場面か。

されていない場合、その原因は。学長のリーダーシップのあり方とし て、どのようなタイプが望ましいと考えているか。

・学長のリーダーシップを発揮するための組織や仕組みはあるか。

学長のリーダーシップを発揮するための支える人材の存在とその育成を 行っているか。

ガバナンス改革の現状について

・いつ頃、どのような改革を行ったか。

・改革を行った理由は何か。

・ガバナンスの改革は、誰(どの組織)が行うのか。

表 5 インタビュー調査対象大学の属性

大学名 A大学 B大学 C大学 D大学 E大学

都市・非都市 非都市部 非都市部 都市部 都市部 都市部

大学設置年度 1991年以降 1991年以降 1959年以前 19601990 1959年以前 学部数規模 1学部 4学部以上 4学部以上 23学部 4学部以上 入学定員規模 500名未満 5001,500 1500名以上 5001,500 1500名以上

オーナー系 オーナー系 オーナー系 オーナー系 オーナー系 非オーナー系

理事長と学長 非兼任 兼任 兼任 非兼任 非兼任

附属校の有無 有り 有り 有り 有り 有り

大学名 F大学 G大学 H大学 I大学

都市・非都市 非都市部 都市部 都市部 非都市部

大学設置年度 19601990 19601990 1959年以前 1991年以降 学部数規模 4学部以上 1学部 1学部 23学部 入学定員規模 5001,500 5001,500 500名未満 5001,500

オーナー系 非オーナー系 オーナー系 非オーナー系 オーナー系

理事長と学長 非兼任 非兼任 非兼任 非兼任

附属校の有無 有り 無し 無し 有り

(15)

て、学長に人事権や予算権限が与えられていな い場合や学校法人の意向が強く働いている場 合、特にオーナー系の大学で、理事長の影響力 が過度に強い場合に学長のリーダーシップが発 揮されていない状況が確認された。

研究のまとめと今後の課題

 本研究では、日本の私立大学のガバナンスの あり方が大きく変化していく中で、私立大学の 経営力や組織内部の運営・実行力、組織の有効 性とガバナンスとの関係について、アンケート 調査による実証分析ならびにインタビュー調査 によって考察を行った。

 その結果として、ひとつには私立大学の経営 には学校法人のガバナンス要因が影響すること が明らかになった。アンケート調査の分析では、

「理事の大学関係者割合」が高い場合や「理事 長と学長が同一」である場合に統計的にプラス の有意を示した。これは、私立大学の経営に関 して理事会と大学が同じ方向を目指していると いうところにポイントがあると指摘した。この 点について、インタビュー調査の考察において も学校法人の業務と大学の業務を兼務している 場合に学校法人と大学の運営がスムーズに行わ れていることが明らかになった。また、「理事会・ 大学間の調整組織」の要因が私立大学の経営力 に統計的な有効性はみられなかった。その点に ついては、両者を調整する組織の有無ではなく、

同じ方向性を見出すための政策的な会議や意思 決定会議が影響を与えるのではないかと指摘し た。インタビュー調査において、大学の改革を 推進する機能として政策的な会議や意思決定の 会議、インフォーマルな打ち合わせが頻繁に行 われていることが明らかになった。

 ふたつには、組織内部の運営・実行力や組織 こうした論点に関わる点をインタビュー調査の

文脈から探索し、考察を行った。

4. 3 インタビュー調査の考察

 インタビュー調査から論点1、論点2につい ての考察を行う。まず、論点1として、私立大 学のガバナンスに対する学校法人の影響に関す る文脈を探索した結果を考察すると、①大学経 営に携わる人物が、学校法人の業務と大学の業 務を兼務している場合がみられ(特にオーナー 系と単科大学)、学校法人と大学とのベクトルを 合わせて運営を行うガバナンスとなっている15

②学校法人と大学の関係構築については、学 内・学園理事会や常任・常勤理事会などを頻繁 に行うか、もしくはインフォーマルの形式で頻 繁に打ち合わせ等を行っている。または、大学 の政策運営の会議に理事長や理事が参加してい る16。③オーナー系の大学では、理事長(兼務、

非兼務)は教学に対しても強い関心を持ち、教 学に関する会議にも理事長が出席する場合が多 く、大学運営への影響力を与えている17と言え る。論点1では、学校法人(経営)と大学(教 学)での方向性が整合していることや理事会と 大学間での意思決定を調整する組織等の役割と 機能性が重要な要因であることが確認できた。

 論点2の組織内部の運営・実行力や組織の有 効性に対する学長のリーダーシップの影響につ いて考察すると、①学部増設・改組や志願者の 確保、競争的資金などを獲得しているなど、結 果が目に見えている場合に、学長のリーダー シップが発揮されていると実感している。それ にはガバナンスの影響が大きいと感じている18

②理事長と学長が同一人物(特にオーナー系)

の場合には、スピード感を持って意思決定がな されており、改革を進めている19。この他に学 長のリーダーシップが発揮できない原因とし

15 理事長(学長兼務)、副理事長、常務理事が全て大学と兼務しているため、理事会運営および大学の執行の両面を上手く運営することが できている(B大学)。

16 理事長と大学執行部との関係については、緊密に連絡をとっている(D大学)。理事長と学長は朝少し打合せするなど、常に大学運営の 方向性などについて確認している(H大学)。常に学長と理事長が、何かあれば話をする機会を持っており、お互いの意思疎通が円滑にいっ ている(I大学)。

17 オーナー系の大学なので、もめるようなことはない。教学に関する会議に理事長が入ることもある(G大学)。

18 学長のリーダーシップというのは、ここ2・3年発揮されている。その結果が競争的資金や私立大学総合改革支援事業などに非常に大き く出ている(A大学)。

19 意思決定については、かなり迅速にできている。学部の設置や改編も相当行ってきた。理事長と学長が兼任していることが大きいと感じ ている(C大学)。

(16)

財団法人文教協会「平成23年度全国大学一覧」財団法人文教協 会、2011年。

宮嶋恒二「私立大学のガバナンス研究と現状分析」(若手研究 奨励報告)、『大学行政管理学会誌』第14号(2010年度版)、

pp.193-203、2011年。

両角亜希子「私立大学のガバナンス―概念的整理と寄附行為 の分析―」、『東京大学大学院教育学研究科紀要』第39巻、

pp.235-243、2000年。

両角亜希子・小方直幸「大学の経営と事務組織―ガバナンス,

人事制度,組織風土の影響」、『東京大学大学院教育学研究科 紀要』第51巻 2011、pp.159-174、2012年。

山崎博敏(1996)「大学法人理事会の役員構成とその構造変化」、

『広島大学 大学教育研究センター 大学論集』第25集(1995 年度)、 pp.303-320、1996年。

吉岡民雄・原田一郎・浅野清彦・吉川隆博「私立大学の管理運 営・経営に関する研究」、『東海大学紀要』第21994、 pp.1- 26、1995年。

付記:本研究の一部は、平成26年度文教協会研究助成(研究代 表者:宮嶋恒二)を受けて行われたものである。

内部の有効性には私立大学のガバナンス要因が 影響することが明らかになった。アンケート調 査の分析では、「学長のリーダーシップ」項目が、

組織内部の運営・実行力、組織の有効性に統計 的にプラスの有意を示した。しかし、統計的手 法の限界性から学長のリーダーシップを発揮す る仕組みや風土が具体的にどのようなものなの かは明らかにされていないと指摘した。そこで、

インタビュー調査から学長のリーダーシップを 発揮する仕組みとして、学長裁量の予算措置や 学長を中心とした政策策定・執行の組織や会議・ 委員会を設けるなどの方策が取られていること が明らかになった。また、「大学・学部間の調 整組織」は、組織内部の運営・実行力や組織の 有効性に統計的な有意性はみられなかった。そ の原因として、組織間を調整する組織は存在す るが、求められている制度的機能(役割)の違 いや調整組織の実行力が機能しているか否かが 明らかにされていないことが考えられると指摘 した。この点についてインタビュー調査では、

大学と学部を調整機能の有無というよりは、学 長がいかに積極的に学部長・学科長そのほかの 教職員の意見・意向を聞くかなど、学長のリー ダーシップのあり方に焦点があたっていた。し かし、学長のリーダーシップの発揮には個人的 資質が大きく影響すると感じられていることも 指摘されていた。

 今後の課題としては、現在まで実施している インタビュー調査に加えて、大学を運営してい る学長へのインタビュー調査を実施し、これま での研究をさらに深化させていきたいと考えて いる。

謝辞

 本論掲載にあたり、ご指導頂いた中田喜文先 生ならびに査読頂いた先生および編集委員の先 生方に厚く御礼申し上げます。

参考文献

伊多波良雄・山﨑その・宮嶋恒二「『大学経営効率化』に関する アンケート調査結果」、『Doshisha University Center for the Study of the Creative Economy Discussion Paper Series』 No. 2013-02、

pp.1-54、2013年。

(17)

図 2 アンケート調査回答大学のエリア・都市別割合

参照

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