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自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制(二 ・完)

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(1)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制(二

・完)

その他のタイトル Repurchase and Resale by a Corporation of its Own Shares and Insider Trading (2)

著者 上田 真二

雑誌名 關西大學法學論集

55

6

ページ 1634‑1649

発行年 2006‑03‑15

URL http://hdl.handle.net/10112/12213

(2)

問題の所在 四自己株式の処分とインサイダー取引規制

二証券取引法におけるインサイダー取引規制と改正法の概要

三自己株式の取得とインサイダー取引規制︵以上︑五五巻二号︶

四自己株式の処分とインサイダー取引規制

1.自己株式の処分を行うことについての決定とインサイダー取引規制における重要事実 先にも触れたが︑平成一三年の商法改正により︑自己株式の処分に関する規定が整備され︑それに伴って︑﹁当該

上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決 定︵公表がされたものに限る︒︶に係る事項を行わないことを決定したこと﹂として︑証券取引法一六六条二項一号

田 自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制

ニ ・ 完 ︶

(3)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

投資者の投資判断に影響を及ぼす性質を有する必要がある︒

︱ ︱

‑ l l  

ホに︑﹁商法第二百十一条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による自己の株式の処分﹂がインサイダー取 引規制上の重要事実として規定された︒この結果︑例えば︑取締役などの会社関係者は︑当該会社が自己株式の処分 を行うことについての決定の事実をその職務等に関して知れば︑その事実が公表されない限り︑当該会社の株式を取 ところで︑平成一三年改正前の証券取引法においては︑同号の重要事実として︑自己株式の取得のみが規定されて

おり︑自己株式の処分については規定されていなかった︒その理由として学説においては︑平成一三年改正前の商法

( 4 8 )  

では︑自己株式の処分についての手続的な規定が存在していなかったためと説明されている︒

先に自己株式の取得を行うことについての決定がどのような理由でインサイダー取引規制上の重要事実とされるの か検討した︒そこで︑ここでは︑自己株式の処分を行うことについての決定がどのような理由でインサイダー取引規 制上の重要事実とされるのか検討していきたい︒なお︑学説においては︑自己株式の処分を行うことについての決定 が重要事実とされる理由について︑特に問題が提起されているわけではなく︑それが株価を変動させるものであると

( 4 9 )  

いう見解が示されている︒

証券取引法一六六条二項一号ないし三号に規定される重要事実は︑当該会社の有価証券の価格に影響を及ぼす可能 性があり︑従って︑投資者の投資判断に影響を及ぼすべき性質を有する事実であると解されることは︑先に述べた︒

そうであれば︑自己株式の処分を行うことについての決定も︑自己株式の取得を行うことについての決定と同様に︑ 引することは禁止される︒

(4)

問題の所在 自己株式の処分を行うことについての決定︵または行わないことの決定︶が重要事実となるには︑業務執行を決定 する機関が自己株式の処分を行うことについて決定︵または行わないことを決定︶したことが必要となる︒この場合︑

﹁業務執行を決定する機関﹂とは︑商法の文言に関わらず︑当該会社における意思決定の実状に照らして個別に判断

( 5 1 )  

されると解されている︒

( 5 2 )  

商法ニ︱一条によれば︑会社は別段の定めがある場合を除き︑取締役会で︑①処分する株式の種類と数︑②処分 する株式の価額と払込期日︑③特定の者に特に有利な価額で譲渡するときはその旨と譲渡する株式の種類︑数︑価

( 5 3 )  

額︑を決議することにより︑保有する自己株式を処分することができる︒この場合︑自己株式の処分についての決定 機関は︑商法上︑取締役会ということになるが︑インサイダー取引規制における﹁業務執行を決定する機関﹂は︑実 質的に判断されることから取締役会に限られない︒従って︑自己株式の処分についての決定がインサイダー取引規制

(1) 

2.自己株式の処分を行うことについての決定の意義 自己株式の処分は︑それが行われることによって︑会社に対価が入ることに加えて︑多くの場合︑当該会社の議決

0 ) ( 5  

権の数が増加し︑議決権の割合に変動をもたらす可能性が高いことから︑投資者の投資判断に影響を及ぼす性質を有 すると考えられるのではないか︒さらに︑形式的な理由として︑新株発行︵証券取引法一六六条二項一号イが規定す る﹁株式︵⁝⁝︶︑新株予約権及び新株予約権付社債の発行﹂︶が重要事実として規定されていることとのバランスか らも︑その経済的実体が類似する自己株式の処分がインサイダー取引規制上の重要事実と認められる必要がある︒

(5)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

判断される可能性が高いと考えられる︒

上の重要事実となるには︑取締役会の決議が行われた場合だけではないことになる︒では︑証券取引法一六六条二項 一号ホが規定する自己株式の処分を行うことについての決定をしたとは︑どのような内容を指すと考えられるのか︒

なお︑学説や判例において︑自己株式の処分を行うことについての決定の意義について︑特に取り扱われてはいない

( 5 4 )  

が︑本稿の三2

において検討した︑自己株式の取得を行うことについての決定の意義を参考に考えてみたい︒

自己株式の取得を行うことについての決定に関しては︑業務執行を実質的に決定する機関において︑自己株式を取 得すること自体だけでなく︑具体的に取得予定株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされ︑それが実行される ことについて一定の実現性︵確実性︶を有する場合を指すものと解することが妥当であるとの考えを示した︒

これを自己株式の処分に則していえば︑業務執行を実質的に決定する機関において︑自己株式を処分すること自体 だけでなく︑具体的に処分する株式の数︑価額について決定がなされ︑それが実行されることについて一定の実現性

︵確実性︶を有する場合を指すものと解することが妥当である︒この場合︑取締役会において︑商法ニ︱一条に基づ く自己株式の処分に関する決議がなされたことが重要事実に当たることは当然であるが︑その前段階として取締役会 に議案を提出することを当該会社の業務執行を実質的に決定する機関において決定された場合も重要事実に当たると

(2) 

(6)

問題の所在

先にも述べたように︑商法ニ︱一条により︑会社は別段の定めがある場合を除き︑取締役会の決議により︑保有す

る自己株式を処分することができる︒ただし︑自己株式の処分は︑その経済的実体が新株発行と類似することもあり︑

新株発行に関する規定が多く準用されている︒従って︑こうした手続によらずに︑自己株式を市場︵流通市場︶

( 5 5 )  

却することは認められないとされる︒

しかし︑だからといって︑自己株式の処分に証券取引法上のインサイダー取引規制の適用がないということにはな

らない︒すなわち︑証券取引法上のインサイダー取引規制は︑﹁売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂に適用さ

れ︑それは必ずしも流通市場での取引に限られない︒自己株式の処分が﹁売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂

に該当するとされれば︑インサイダー取引規制が適用される可能性がある︒また︑自己株式の処分については︑企業

( 5 6 )  

内容等の開示に関する留意事項についてニー三において︑証券取引法上の売出しに該当するとの解釈が示されており︑

売出株主は︑インサイダー取引規制の対象に含まれるとされるため

する内閣府令六条一項一

0

号参照︶︑こうした点でも︑会社による自己株式の処分にインサイダー取引規制が適用さ

れる可能性がある︒しかし他方で︑自己株式の処分について多くが準用されている新株発行については︑インサイ

( 5 7 )  

ダー取引規制の適用要件である﹁売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂に該当しないとの解釈が示されており︑

自己株式の処分にインサイダー取引規制が適用されるか否かが問題となる︒

(1) 

3.自己株式の処分とインサイダー取引規制の適用の可否

︵会社関係者等の特定有価証券等の取引規制に関

(7)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

見られる︒その理由については︑先に挙げた︑自己株式の処分が﹁売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂に該当 する可能性があること︑企業内容等の開示に関する留意事項について︱一ー三において︑証券取引法上の売出しに該当

( 5 9 )  

するとの解釈が示されおり︑売出株主にインサイダー取引規制が及ぶこと︑が指摘されている︒また︑自己株式の処

( 6 0 )  

一六六条との関係でも︑やはり有償の譲渡になるべきとの指摘もある︒さら には︑﹁そもそも︑情報が発生する前に開示することは不可能である︒開示制度がこのような限界に直面するときに︑

情報開示規制は︑当該情報を保有した者に取引を禁止するという行為規制へと質的に変化する︒このように内部者取 引規制は︑開示規制が潜在的に有する機能的限界をカバーする制度なのである︒そうであるなら︑会社が自己株式を 処分する場合においても︑開示規制の機能的限界は発生する以上︑内部者取引規制の射程はおよぶと解される﹂との

( 6 1 )  

指摘もなされている︒

アメリカ法においては︑自己株式の処分︵放出︶

一九三三年証券法

( S e c

u r i t

i e s

Ac

t  o

f  

1

9 3 3 )  

分は発行済みの証券の処分である見て︑

 

m

c o

n n

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t 1

0 n

 

は募集と解されており︑会社は︑証券の発行者

( i s s

u e r )

五条を中心とした募集規制に服することになる︒そして︑会社が重要な 情報を開示せずに株式を発行すると︑同法︱一条等に基づく民事責任を負うだけでなく︑主としてインサイダー取引

を規制する

S E

C

obI

五違反となることがある︒すなわち︑会社が︑証券の取引に関して

( 6 2 )  

w i

t h

) ︑重要な情報を開示しないことが詐欺的行為とされる場合がある︒

( 5 8 )  

学説においては︑自己株式の処分にインサイダー取引規制の適用の可能性があることを前提とする見解がいくつか

学説の状況

(8)

売出しに伴う情報開示を行う発行会社に︑さらにインサイダー取引規制が適用されるとすれば︑たしかに過剰な規

( 6 3 )  

制のように思われる︒また通常︑売出しは売出株主と発行会社が別の主体であるが︑会社による自己株式の処分の場 合︑発行会社である当該会社が売出しを行うということになり︑行為の主体が同じになる︒売出株主にインサイダー 取引規制が及ぶのは売出株主と発行会社が別の主体であることが前提とされているのであり︑売出しに伴う情報開示 を行う発行会社にインサイダー取引規制が適用されることを認めるべきではないと考えることもできる︒

他方︑形式的には︑自己株式の処分が︑企業内容等の開示に関する留意事項についてニー三において︑証券取引法

上の売出しに該当するとの解釈が示されており︑売出株主がインサイダー取引規制の対象に含まれるとされることか らすれば︑会社による自己株式の処分にもインサイダー取引規制が及ぶ可能性があると考えられる︒また︑

アメリカ

法において︑会社︵発行者︶が重要な情報を有してそれを開示せずに株式を発行することが規制される場合があるこ とを参考とすれば︑わが国の証券取引法におけるインサイダー取引規制の対象とすることも考えられてよいと思われ る︒実質的には︑商法が自己株式を保有することを認め︑自己株式の処分が投資者との関係で既発行証券の譲渡と構 成することが可能であることに鑑みれば︑﹁売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂のうちの﹁有償の譲渡﹂に該

当すると考えることもできる︒

もっとも︑インサイダー取引規制に服するとしても︑売出しに伴う情報開示を行っていることから︑インサイダー 取引規制における﹁公表﹂︵証券取引法一六六条四項︶が行われたと見ることができる場合がある︒また︑重要事実 を知る前に決定された売買等の計画の実行としての売買等をする場合など︑インサイダー取引規制における適用除外

(4) 

O )

(9)

(2)  自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

規定︵証券取引法一六六条六項八号参照︶に該当する場合もあると考えられる︒

問題の所在

一般的に市場売却が繰り返され

先にも述べたように︑会社は別段の定めがある場合を除き︑取締役会の決議により︑保有する自己株式を処分する ことができるようになった︒しかし︑それは︑処分する株式の種類︑数︑価額︑払込期日について取締役会で決議す ることが必要であり︑新株発行の手続に関する規定が多く準用されている︒この手続によらずに︑自己株式を市場

( 6 4 )  

で売却することは認められないとされるが︑その理由はどのように説明されるのであろうか︒なお︑平

成一三年の商法改正前は︑自己株式の市場での売却は必ずしも禁止されていなかったが︑これは︑会社が大量の自己 株式を処分することが想定されていなかったこと︑原則として取得した自己株式を相当の時期に処分すべきこととさ

( 6 5 )  

れていたため処分方法について制限をかけることが適当でないと考えられていたと説明されている︒

(1) 

立法担当者による説明および会社法制の現代化に関する要綱試案等 立法担当者の説明によれば︑自己株式を市場取引により売却することを認めない理由については︑﹁一般的に自己 株式の市場売却を認めるときは︑インサイダー取引や相場操縦が行われる危険性が高いことから︑その有効な防止手

( 6 6 )  

段と併せて市場売却の可否を検討する必要がある﹂とされる︒具体的には︑﹁どういう場合に市場売却を認めるかと いう仕切りがきちんとできるかどうか難しく︑結局仕切りがきちんとできなければ︑

る可能性がある︑そうすると︑今度はインサイダー取引とか相場操縦が行われる危険性が︑自己株式取得を禁止して 4

.自己株式の市場売却を認めない理由

(10)

随時の売却を認めることの正当化は難しいとも指摘する︒ として示されたが︑衆議院における審議の中で削除された︒その理由については︑やはりインサイダー取引や相場操

( 6 9 )  

縦を助長するおそれがあることとされている︒

学説等の状況

学説においては︑市場価格があれば市場で買い受けることができることとの平仄という観点からだけいえば︑売却

( 7 0 )  

がなぜできないのかは説明が難しい︒インサイダー取引の危険の問題は証券取引法の規制の問題であろうとする見解 がある︒この見解はさらに︑平成一三年の商法改正で自己株式の保有を認めるに際して︑自己株式の処分は新株発行 と本質を同じくするという立場に踏み切って法規定を整備した以上は︑理論的には新株発行手続によらない市場での

なお︑平成一七年の会社法の制定に際して︑ されているところである﹂とされている︒ いたときに比べ︑格段に高まるということで︑そういう場合の有効な防止手段も併せて︑この市場売却の可否を検討

( 6 7 )  

する必要があるということで︑今後の検討課題とされたもの﹂と説明されている︒

また︑会社法制の現代化に関する要綱試案第四部第一︱

5

では︑﹁市場価格のある株式に係る自己株式について︑新 株発行類似の手続を経ずに︑自己株式を市場取引により売却することの可否については︑なお検討する﹂とされ︑そ の補足説明では︑﹁インサイダー取引に利用される可能性があることから︑不公正な取引を防ぐために更に検討が必 要であるという指摘や︑新株発行と自己株式の処分とで手続に差異を設けるには合理的な理由がなければならず︑自 己株式の処分に関する規定を変更する場合には新株発行と合わせて慎重な検討をすることが必要であるという指摘も

( 6 8 )  

一七九条として︑市場において行う取引による自己株式の売却が法案

(11)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

アメリカ法においては︑先にも触れたとおり︑自己株式の処分は募集と捉えられ︑

規制が及んでいる︒この場合︑同法五条により︑適用除外とされていない︑限り募集する証券を

SEC

に登録するこ

とが要求され︑登録を行わずに証券の募集を行うことは禁止される︒具体的には︑発行者

( i s s u e r )

規則およびフォームで定められている情報を記載した登録届出書

( r e g i s t r a t i o n s t a t e m e n t )

SEC に提出すること

( 7 2 )  

により︑登録することになる︒登録届出書は︑

SEC に提出された後︑二

0

日で効力が発生し︑その時点で発行者は

たしかに自己株式の市場売却が認められれば︑インサイダー取引が行われる危険性は高くなるが︑これが自己株式 の市場買受けの場合と対比して︑その危険性において︑いかなる違いがあるのかについて明確な理由は示されていな

( 7 3 )  

いように思われる︒自己株式の市場買受けの場合には見られない市場売却に特有の弊害というものが考えられるので

(5) 

登録証券を公募することができる︵同法八条い項︶︒

であると指摘する︒

S E C  

一九三三年証券法における募集

また︑平成一三年の商法改正は︑不徹底なところもあるが︑自己株式の買受けと消却をできるだけパラレルに︑自 己株式の売却と新株発行をできるだけパラレルにという理念でできていて︑だから︑売却だけ︑すでに一度発行され

( 7 1 ) .  

たものだから︑順次売ってよいということにはならないとする見解がある︒この見解によれば︑経済的にも︑自己株 式の売却によって新たな資金が入るので︑新株発行の際のディスクロージャー規制と整合的な規制を設けるべき問題

(12)

新株発行の手続に準じて自己株式を処分する規制を設けたから︑それ以外の方法を認めないというのは︑形式的な

( 7 4 )  

理由であるが︑アメリカ法における規制のように︑ひとつの方法であろう︒新株発行規制が多く準用される理由につ

( 7 5 )  

いては︑既存株主との利害調整および自己株式の処分価額の適正性を確保する必要性があるためと説明される︒しか し︑市場での売却であっても︑処分価額の適正性を確保することはできるし︑市場での売却を認めることが既存株主 との利害調整を図れないということにはならないように思われる︒さらに︑市場での売却では株主に対し不公平な取 扱いがされることを防止することも期待できる︒新株発行手続に準じた自己株式の処分と市場取引による売却では︑

会社にとっての負担が大きく変わってくるように思われるが︑少なくとも後者の方法に対しては︑インサイダー取引 規制を及ぼすことにすれば足りるように思われる︒

本稿では︑自己株式の取得および処分に関して︑インサイダー取引規制と関わる場面において生じるいくつかの問 題について︑わが国の学説・判例およびアメリカ法等を素材に検討を行ってきた︒具体的に︑自己株式の取得とイン サイダー取引規制が関わる場面においては︑自己株式の取得を行うことについての決定がインサイダー取引規制上の 重要事実とされる理由︑自己株式の取得を行うことについての決定の意義︑会社に重要事実が存在する場合の自己株 式の取得の可否︑インサイダー取引規制の適用回避を意識した自己株式の取得︑について検討を行った︒さらに︑自 己株式の処分とインサイダー取引規制が関わる場面においては︑自己株式の処分を行うことについての決定がインサ イダー取引規制上の重要事実とされる理由︑自己株式の処分を行うことについての決定の意義︑自己株式の処分とイ

(13)

( 4 8 )  

( 4 9 )

 

( 5 0 )

 

( 5 1 )  

( 5 2 )

 

( 5 3 )

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶  

いては別の機会に検討を行いたいと思う︒

五 七

︵ 一

六 四

五 ︶

ンサイダー取引規制の適用の可否︑自己株式の市場売却を認めない理由︑について検討を行った︒

自己株式の規制が抜本的に改められた背景の一っとして︑株式市場の活性化や企業再編の促進といった事情があっ たことを考えると︑インサイダー取引規制の適用を過度に問題にし︑自己株式の取得や処分が困難になることは望ま しいことではないのかもしれない︒しかし︑会社にまさる内部者はいないのであり︑インサイダー取引規制との関係 を考えることは極めて重要なことであると思われ︑その中で生じる問題を︱つずつ解決していく作業は必要であろう︒

なお︑自己株式の規制とインサイダー取引規制が関わる問題は︑本稿で採り上げたものだけに限られない︒例えば︑

現行法では︑規模に関わらず︑自己株式の取得および処分を行うことについて決定がなされれば︑重要事実を構成す

( 7 6 )  

一定規模以下の軽微な自己株式の取得および処分にもインサイダー 取引規制が適用されることの妥当性について検討する必要があると思われる︒また︑自己株式の取得および処分とイ ンサイダー取引規制が関わる場面以外にも︑例えば︑自己株式の消却を行うことについての決定がインサイダー取引 規制上の重要事実とされる場合があるか否かといった問題なども検討する必要があると思われる︒こうした問題につ

証券取引法研究会編・前掲注

( 7 ) 七 二 頁

︹ 川 口 恭

弘 報

告 ︺

証券取引法研究会編•前掲注

(7)

七二頁〔川口恭弘報告〕。また、岸田•前掲注

(4)

二七一ーニ七二頁参照。

ただし︑議決権制限株式︵特に完全無議決権株式︶の場合は︑当てはまらないことになる︒

横畠•前掲注

(4)

五二頁(商事法務、一九八九年)、近藤ほか•前掲注

(9)

二五一頁。

端株・単元未満株を有する者による買増や新株予約権の行使などで︑会社が自己株式を処分する場合がある︒

株式譲渡制限会社では︑これらの事項は株主総会の特別決議で決定する︵商法ニ︱一条二項︶︒

ることになるが︑重要事実の性質を踏まえれば︑

(14)

( 5 4 )

拙稿﹁自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制(‑)﹂関西大学法学論集五五巻二号六頁以下︵二

0

0

( 5 5 )

原田晃治﹁株式制度の見直しに係る平成一三年改正商法の解説﹂民事月報五六巻︱一号四八頁︵二

0 0

務からは︑主として単元未満株式の買取請求により取得した自己株式を市場取引により売却することを望む声があるという︒

( 5 6 )

自己株式の処分が証券取引法上の募集にあたるか売出しにあたるかについて︑学説では︑自己株式は︑既発行証券と見る ことができるが︑一方で商法上︑自己株式の処分は新株発行と同様の規制を義務づけられていることから︑自己株式を新規 発行証券と同視するという考え方もあり得るとし︑募集と扱う可能性が出てきたとの見解︵証券取引法研究会編・前掲注

( 7

) 四七頁以下︹川口恭弘報告︺︶︑商法ニ︱一条で準用されている規制を見ると︑商法自体は︑自己株式の処分はあくまで すでに発行されている株式の譲渡と捉えている︑証券取引法でも︑募集としてそれなりの開示を要求する必要性があるなら 募集と解するべき︑そうでなければ︑そのまま売出しとすればよいとの見解︵証券取引法研究会編・前掲注

( 7

) 四八頁︹伊

藤靖史発言︺︶がある︒他方で︑①新株発行の場合との整合性︑②有価証券届出書二号様式で売出しの場合︑手取金の使途 の開示が要求されていない︑③アメリカ法が自己株式の売却は募集と捉えていること︑④日本の募集・売出し概念は︑発行 者が自己株式を大量に売却することを想定していないことを理由に︑募集と解すべきとする見解︵証券取引法研究会編・前

掲注

( 7

五五頁︹黒沼悦郎発言︺︶も見られる︒ただし︑企業内容等の開不に関する留意事項についてニー三において売出 ) しとされたことを踏まえて︑現行証券取引法一六六条が︑自己株式の処分を新株発行と見る旨の改正はされていないので︑

解釈論として自己株式の処分はやはり発行済みの証券の処分であるとの見解(証券取引法研究会•前掲注

(33) 〔前田雅弘報

募集とは︑証券取引法二条三項によれば︑﹁多数の者を相手方として﹂﹁新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧 誘﹂であり︑売出しとは︑証券取引法二条四項によれば︑﹁既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申 込みの勧誘のうち︑均一の条件で︑多数の者を相手方として行う場合﹂と定義されている︒募集は新規発行証券︑売出しは 既発行証券を対象としている点に違いがある︒なお︑募集は発行会社によって資金調達が行われる場合︑売出しは通常発行 会社以外の者によって資金調達が行われる場合を対象としている︒

募集または売出しに該当すれば︑原則として︑有価証券届出書による情報開示が要求される︒ただし︑売出しについては︑

すでに開示が行われている場合︵証券取引法四条一項一号︶︑売出価額の総額が一億円未満の場合︵証券取引法四条一項三

(15)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

号︶については︑有価証券届出書による届出が免除される︒この場合でも︑有価証券通知書の提出︵証券取引法四条五項︶

および目論見書の作成・交付は義務付けられる(証券取引法ニ―一条一項•一五条二項)。なお、勧誘の対象者が五

0

名未満

であれば︑そもそも売出しには該当しない︵証券取引法施行令一条の八︶︒他方︑募集については︑発行価額の総額が一億 円未満の場合については︑有価証券届出書による届出が免除される︒この場合でも︑売出しの場合と同様︑有価証券通知書 の提出および目論見書の作成・交付は義務付けられる︒なお︑募集については︑勧誘の対象者が五

0

名未満であっても︑公

開株式の場合には届出は免除されない︒情報開示については︑募集または売出しで︑届出の免除が認められる場合に違いが あるが︑目論見書の作成・交付は義務付けられるという点で︑大きな違いは見られない︒

企業内容等の開示に関する留意事項についてニー三においては︑﹁既に発行された有価証券の売付け﹂という点を捉えて︑

売出しと構成したものと考えることができる︒たしかに︑売出しは﹁既に発行された有価証券の売付け﹂を対象としている が︑既発行証券という形式的な側面をそれほど重視する必要があるのであろうか︒商法上︑自己株式の処分は新株発行に類 似するものと考えられていること︑投資者にとっては自己株式の処分が﹁発行会社による資金調達﹂であるという実質的な 側面の方が重要なのではないかと思われることから︑自己株式の処分を募集と解する余地があるように考えられる︒

(57)

横畠•前掲注

(4)

四五頁では、有価証券の発行およびこれに対応する原始取得は、「売買等」に当たらないと解する。そ

して︑このように解しても︑有価証券の発行の場面における株主および投資者の保護等については︑商法による規制のほか 証券取引法上の企業内容の開示の諸規定によりディスクロージャーが義務付けられていることなどから︑問題はないものと

考えられるとされる︒

(58)

神田11

武井•前掲注

(45)

10 八頁︹武井一浩︺︑前田雅弘﹁会社法の大改正と証券規制への影響﹂証券取引法研究会記録

三号(二

00

四年)、芳賀•前掲注

(32)

一四五ー一四六頁。

(59)

ただし、神田

11

武井•前掲注

(45)

10 八頁︹武井一浩︺においては︑インサイダー規制に服するとなると︑公開会社が金 庫株を処分することは著しく困難となること︑売出規制による情報開示を行った金庫株処分についてインサイダー規制の対 象とすることは︑少なくとも過剰な規制であること︑を理由に︑立法論として︑金庫株処分は一律に証券取引法の﹁売買そ の他の有償の譲渡若しくは譲受け﹂には該当しないことを法文上明確にすべきとされる︒そして︑将来もし金庫株の市場処 分が解禁された場合に︑インサイダー規制を課せば足りるように思われるとされる︒

(16)

この見解においては︑立法論として︑商法のように自己株式処分を新株発行とパラレルに規制するということに十分な理 由があると思うとされる︒

(61) 芳賀•前掲注 (32)

―四五ー一四六頁。

( 6 2 )

 

S e e , h  T om as e  L e  H az en ,  T r e a t i s

e   o

n T he   La w  o f   S e c u

r i t i e s   R e g u l a t i o n ,   § 12 .1 9  ( 5 t h . e  d  2 0 0 5 ) L ,   os s  a nd   Se li gm an ,  s up ra   no te 1   8   a t   9 5 0 , 9 5   8 .   La ng v e oo rt n   a d  G u l a t i ,   Th e  M ud dl ed   Du ty   to   D i s c l o s e n  U de r  R ul e  l O b

5 ,   57 a  V nd . 

L .  

Re v.   1 6 3 9 ,   6 1 57

1

66 4 ( 2 0 0 4 ) .  

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4

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四 E

8

S E

C

OI

五などに基づく会社の責任が問題と なった事案として︑

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D i g i t a l   E q u i p .   C o r p . , 2  8

F .  

  3

d  1 19 4  ( D

.   M as s.   1 9 6 6 ) .  

( 6 3 )

自己株式の処分が売出しに該当するとしても︑それは情報開示規制の局面においてそのように取り扱われるということで あって︑インサイダー取引規制の局面では︑自己株式の処分を売出しと捉えるべきではなく︑会社を通常の売出株主と同様 に考えるべきではない考えることもできる︒

( 6 4 )

原田・前掲注

( 5 5 )

( 6 5 )

原田晃治

1 1

泰田啓太

I I 郡谷大輔﹁自己株式の取得規制等に見直しに係る改正商法の解説︹上︺﹂商事法務一六

0

七号一八

o o

(66)

原田II泰田II

郡谷•前掲注 (65)

一九頁。

( 6 7 )

原田晃治

1 1

中西敏和﹁金庫株解禁等改正商法をめぐる諸問題︹上︺﹂商事法務一六一八号一三ー一四頁︵二

0

0

( 6 8 )

具体的には︑市場において行う取引により自己株式の売却をする旨を定款で定めることができるとする内容で︑定款で定 めておけば︑一定の自己株式は市場で売却できるという法案であった︒

( 6 9 )

相澤哲﹁一問一答新・会社法﹂七頁︵商事法務︑二

0

0五年︶︒日本経済新聞二

0

0五年五月ニ︱日付朝刊参照︒

(70)

山下友信「株式の譲渡制限•自己株式・種類株式等」ジュリスト―二六七号四八頁(二

00 四年)。

( 7 1 )

証券取引法研究会編・前掲注(7)三四頁︹黒沼悦郎発言︺︒

( 7 2 )

具体的には︑それが私募にあたる場合や少額にあたる場合には︑同法五条による登録の適用除外取引にあたることになる︒

すなわち︑前者は︑同法四条

( 2

) 号に定める﹁公募を伴わない発行者による取引﹂である︒特に︑少額にあたる場合は︑同

法三条

( b

) 項に定める﹁規則およびレギュレーションにより﹂﹁金額が小さいこと︑もしくは︑公募が限定的な性格である

( 6 0 )

 

(17)

自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵ニ・完︶

I, 

︵ 一

六 四

九 ︶

一定の金額を超えない募集を適用除外とする権限を

S E

C に

与 え

︑ ことを理由として﹂︑登録が不要と判断した場合には︑

現在は五

0

0 万ドルとされている︒

(73)

山下•前掲注

(70)

四八頁参照。

( 7 4 )

もちろん︑自己株式の処分はその経済的実体が新株発行と類似するので︑新株発行規制の多くを準用することに特に問題

があるとは思わない︒

(75) 原田"泰田

II郡谷•前掲注

(65)

一八頁参照。

( 7 6 )

特に自己株式の処分については︑新株発行︵証券取引法一六六条二項一号イが規定する﹁株式⁝⁝の発行﹂︶の場合には︑

軽微基準が定められていることとのバランスを考えれば︑一定規模以下の自己株式の処分は︑重要事実に当たらないとする ことも考えられてよいかもしれない︒

[訂正]拙稿﹁自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵関西大学法学論集第五五第二号五頁にある﹁発行済株式数﹂は︑

﹁議決権の数﹂の誤りです︒お詫びして訂正いたします︒

参照

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