自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制(一
)
その他のタイトル Repurchase and Resale by a Corporation of its Own Shares and Insider Trading
著者 上田 真二
雑誌名 關西大學法學論集
巻 55
号 2
ページ 311‑337
発行年 2005‑07‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/12209
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
は じ め に
一 は じ め に 二証券取引法におけるインサイダー取引規制と改正法の概要 三 自 己 株 式 の 取 得 と イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制
︵ 以 上
︑ 本 号
︶ 四自己株式の処分とインサイダー取引規制 五 お わ り に
( 1 )
従来︑商法は︑会社による自己株式の取得を一定の例外的場合を除いて禁止していた︒また︑取得した自己株式に ついては︑短期間に消却・処分することが義務づけられていた︒ところが︑平成一三年の改正商法は︑自己株式の取 得目的を撤廃し︑定時総会における決議や財源規制等の一定の要件の下で会社による自己株式の買受けを許容した︒
また︑取得した自己株式を自由に保有することが可能となり︑自己株式の消却および処分についても規定が整備され た︒さらに︑平成一五年の改正商法では︑定款授権に基づく取締役会決議による自己株式の買受けも可能となった︒
上 田
自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制
︵三
︱‑
︶
真
(‑︶
. .
しかし︑自己株式の取得および処分に関して︑後述するように︑インサイダー取引規制との関連でいくつか検討す べき問題がある︒本稿は︑自己株式の取得および処分に関して︑インサイダー取引規制と関わる場面において生じる いくつかの問題点について検討を行うことを目的とする︒以下では︑まず︑証券取引法におけるインサイダー取引規 制および自己株式規制の整備に伴って改正された証券取引法の内容を概観し︑その後︑自己株式の取得および自己株 式の処分のそれぞれの場合に︑インサイダー取引規制と関わる問題点について︑わが国の学説・判例およびアメリカ 証券取引法一六六条は︑会社関係者等が︑上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知って︑その重要事実が未
公表の間に︑当該会社の株券等の売買を行うことを禁止している︒会社関係者等は会社に対して一定の立場にあるこ とから︑その職務等により重要事実を知って行う株券等の売買が規制される︒ここで規制の対象とされている上場会 社等に係る業務等に関する重要事実については︑同条二項において︑決定に係る重要事実︵一号︶︑発生に係る重要
証 券 取 引 法 に お け る イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制 と 改 正 法 の 概 要
法等を素材に検討を行っていきたい︒ インサイダー取引規制の整備が行われてきた︒
関法
第 五 五 巻 二 号
︵ 三
︱ 二
︶ ところで︑自己株式の取得を認めることにはいくつかの弊害が指摘されてきた︒その︱つに︑インサイダー取引が
( 2 )
行われるおそれのあることが挙げられていた︒すなわち︑会社の内部情報を用いて会社の計算で自己株式の取得を行 う︑あるいは︑会社関係者等が会社による自己株式取得に関する情報を知って自己の計算で当該会社の株式の取得を
( 3 )
行うおそれがある︒こうした点に対応するため︑自己株式の取得等に関する前記商法の改正と併せて︑証券取引法の
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
自 己 株 式 の 取 得 と イ ン サ イ ダ ー 取 引 規 制
事実︵二号︶︑業績変動に係る重要事実︵三号︶︑その他の業務等に関する重要事実︵四号︶︑さらには︑上場会社等 の子会社に関する事実︵五号ー八号︶が規定されている︒
平成六年の改正商法において自己株式の取得が例外的に許容されることとなった結果︑同年の改正証券取引法にお いて︑自己株式の取得を行うことについて決定したことが重要事実として規定された︒そして︑平成一三年および一 五年の商法改正に際して行われた証券取引法の改正で︑﹁当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事 項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定︵公表がされたものに限る︒︶に係る事項を行わな いことを決定したこと﹂として︑同条項一号二に︑﹁商法第二百十条若しくは第二百十一条ノ三の規定又はこれらに 相当する外国の法令の規定﹂﹁による自己の株式の取得﹂が重要事実と規定され︑さらに︑同号ホに︑﹁商法第二百十 一条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による自己の株式の処分﹂が重要事実として規定された︒この結果︑
例えば︑取締役などの会社関係者は︑自己株式の取得を行うことについての決定の事実を知って︑その事実が公表さ れない限り︑当該会社の株式を取引することは禁止される︒
1
.自已株式の取得を行うことについての決定とインサイダー取引規制における重要事実 問題の所在 証券取引法一六六条二項一号ないし三号は︑同条一項に規定されている﹁上場会社等に係る業務等に関する重要事 実﹂の内容を具体的に規定している︒これらの事実は︑当該会社の有価証券の価格に影響を及ぼす可能性があり︑
︵ 三
一 三
︶
第 五 五 巻 二 号
︵ 三
︱ 四
︶
( 4 )
従って︑投資者の投資判断に影響を及ぼすべき性質を有する事実であるとされる︒ところで︑効率的な資本市場の下 では︑企業の市場価値はその資本構成とは無関係であるとの立場から︑自己株式の取得が株式の価値に影響を与えな
( 5 )
いとの考え方が見られる︒そこで︑以下では︑自己株式の取得を行うことについての決定がどのような理由でインサ 平成六年の証券取引法改正において︑自己株式の取得を行うことについての決定が重要事実と規定された理由につ
いては︑﹁自己株式取得の決定が会社の財産に関するものであって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものであ り︑また︑既に現行法上︑新株等の発行︑資本の減少︑利益の配当等の決定が重要事実として明記されていることを 勘案すると︑この決定は内部者取引規制上の重要事実として考えることが適当であり︑今般の商法改正案に対応し︑
法令によりこれを重要事実として規定すべきである﹂と説明されている︒
学説の状況3
学説においては︑自己株式を買付ける計画があることは︑その株式の需要増加を示す情報であり︑インサイダー取
( 6 )
引の関係で自己株式取得が重要事実とされるのは︑市場情報としての意味が大きいとする見解がみられる︒
しかし︑他の会社が株式を買い付ける場合には︑現行の証券取引法のもとでは︑その計画は重要事実とはされてお
( 7 )
らず︑なぜ︑発行会社による買受けのみが規制の対象となるのか明確ではないとの見解が示されている︒さらに︑こ の見解によれば︑現行の商法のもとでは︑買い受けされた株式は︑取締役会の判断で︑後日︑消却されることもあれ ば︑代用株式に使われることもあり︑さらに︑会社は自己株式を保有し続けることもできることから︑このような目
②証券取引審議会公正取引特別部会報告 イダー取引規制上の重要事実とされるのか検討してみたい︒ 関法
四
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
五
的を定めない自己株式の買受けを行うことを決定した事実が︑どれほど投資家に影響を与えるかが問題であるとする︒
4 先にも述べたように︑証券取引法一六六条二項一号ないし三号は︑同条一項に規定されている﹁上場会社等に係る
業務等に関する重要事実﹂の内容を具体的に規定している︒これらの事実は︑当該会社の有価証券の価格に影響を及 ぼす可能性があり︑従って︑投資者の投資判断に影響を及ぼすべき性質を有する事実である︒そうであるならば︑自 己株式の取得を行うことについての決定も投資者の投資判断に影響を及ぼす性質が認められる必要がある︒
自己株式の取得は︑株式の需給に関わるという側面︑会社の財産に関わるという側面を有するが︑前者に関しては︑
他の会社が株式を買い付ける場合には︑現行の証券取引法のもとでは︑その計画は重要事実とはされていないことと の対比︑後者に関しては︑企業金融の立場から企業価値への影響は見られないとの指摘が見られる︒ただ︑前者に関 して︑他の会社が株式を買い付ける場合は投資者の投資判断に影響を及ぼすといえそうであるが︑会社関係者等がそ の地位ゆえにそうした事実を知るとは考えられず︑そもそも現行証券取引法が規制の対象となる事実を上場会社等の 業務等に関する重要事実としており︑そのような事実を規制の対象には含められないことからやむを得ないものとい える︒しかし︑株式の需給に関わる側面から︑会社が自己株式の取得を行うことは︑発行済株式数の減少を伴い︑し かも︑株主の持株比率に影響を及ぼすという点で︑投資者の投資判断に影響を及ぼす性質が認められるといえないだ ろうか︒また︑少なくとも既存の株主にとっては︑自ら保有する当該会社の株式を売却するかどうかという投資判断 を迫られる機会でもあるという点で︑投資者の投資判断に影響を及ぼす性質を有するように思われる︒
検寸
1 11 1 c r.
︵ 三
一 五
︶
②証券取引審議会公正取引特別部会報告 合に限られない︒
自己株式の取得を行うことについての決定が重要事実となるには︑業務執行を決定する機関が自己株式の買受けを する機関﹂とは︑商法の文言に関わらず︑当該会社における意思決定の実状に照らして個別に判断されると解されて
( 9 )
いる
そこで︑商法ニ︱
0
︒条によれば︑会社は︑株主総会の決議を要件として︑自己株式の買受けを行うことができる︒
この場合︑自己株式の買受けについての決定機関は︑商法上︑株主総会ということになるが︑インサイダー取引規制 における﹁業務執行を決定する機関﹂は︑実質的に判断されることから株主総会に限られない︒従って︑自己株式の 取得を行うことについての決定がインサイダー取引規制における重要事実となるには︑株主総会の決議が行われた場 また︑商法ニ︱一条ノ三による定款授権に基づく取締役会決議による自己株式の買受けの場合についても︑重要事
実となるのは︑取締役会の決議が行われた場合に限られない︒
では︑証券取引法一六六条二項一号二が規定する︑自己株式の取得を行うことについての決定をしたとは︑どのよ うな内容を指すと考えられるのか︒以下では︑判例および学説︑
自己株式の取得を行うことについての決定には︑①取締役会等の実質的な業務執行機関により自己株式取得のた 行うことについて決定したこと
(1)
問題の所在 関法
第 五 五 巻 二 号
︵または行わないことを決定したこと︶が必要となる︒この場合︑﹁業務執行を決定
2.自己株式の取得を行うことについての決定の意義
アメリカ法の状況等を参考に検討してみたい︒
六
︵ 三
一 六
︶
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
七
めの議案を株主総会へ提出することが決定された場合︑あるいは︑それに向けて具体的な検討をするよう決定された 場合︑②株主総会における自己株式取得の決議について︑既に株主総会へ提出する議案が公表されている場合で あって︑これが株主総会で否決され︑あるいは︑修正の上可決されたときには︑その決議の内容が公表されない場合︑
( 1 0 )
③総会決議に基づいて具体的な自己株式の取得予定日︑取得予定数量︑取得方法が決定された場合が重要事実に該
( 1 1 )
当し︑このような場合には会社関係者等による当該株式の取得等が禁止されるとする︒
3 自己株式の取得を行うことについての決定が問題とされた判例は見当たらない︒しかし︑証券取引法一六六条二項
一号イにいう﹁株式の発行を行うことについての決定﹂の意義が問題とされた︑日本織物加工株式事件の最高裁平成
︱一
年六
月一
0
日第一小法廷判決︵刑集五三巻五号四一五頁︶が参考になると思われる︒本件は︑上場会社との間で
M
&
Aの交渉に関して秘密保持契約を締結している会社の監査役兼代理人が︑その契約
の履行に関して︑上場会社等の業務等に関する重要事実である︑新株発行を行うとの決定を知って︑インサイダー取 引を行ったとされた事案である︒最高裁判所は︑まず︑証券取引法一六六条二項一号にいう﹁業務執行を決定する機 関﹂の意義について︑﹁証券取引法一六六条二項一号にいう﹁業務執行を決定する機関﹂は︑商法所定の決定権限の ある機関には限られず︑実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足り ると解される﹂と述べたうえで︑﹁株式の発行を行うことについての決定﹂について︑以下のような判断を示した︒
すなわち︑﹁証券取引法一六六条二項一号にいう﹁株式の発行﹂を行うことについての﹁決定﹂をしたとは︑右のよ うな機関において︑株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをい
判例の状況
︵三
一七
︶
している点で参考になる︒
第 五 五 巻 二 号
︵三
一八
︶
うものであり︑右決定をしたというためには右機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが︑当 該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解するのが相当である︒けだし︑そのような 決定の事実は︑それのみで投資者の投資判断に影響を及ぼし得るものであり︑その事実を知ってする会社関係者らの 当該事実の公表前における有価証券の売買等を規制することは︑証券市場の公正性︑健全性に対する一般投資家の信 頼を確保するという法の目的に資するものであるとともに︑規制範囲の明確化の見地から株式の発行を行うことにつ いての決定それ自体を重要事実として明示した法の趣旨にも沿うものであるからである﹂とし︑本件を東京高裁に差
( 1 2 )
し戻すとの判断を示した︒
最高裁は︑証券取引法一六六条二項一号にいう﹁株式の発行﹂を行うことについての﹁決定﹂をしたというために は︑当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないとしており︑決定にかかる事項が確実に
( 1 3 )
実行されるであろうとの予測が必要であるとする原判決の立場と異なり︑確実性を考慮する必要はないとの解釈を示
学説の状況
学説においては︑平成六年の証券取引法改正が行われた当時の見解として︑取締役会等の業務執行を実質的に決定
( 1 4 )
する機関による株主総会への自己株式取得のための議案提出決定を重要事実として捉える見解がある︒この見解によ れば︑株主総会によって授権がなされるということは︑会社が︑その後約一年以内にその授権の範囲内で自己株式の 取得に乗り出すということを社会に対し公表することであって︑相場に影響を与えることは確実であることを理由と する︒しかし︑こうした見解に対しては︑取締役会等の実質的な業務執行機関により自己株式取得のための議案を株
関法
八
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
アメリカにおいて︑
インサイダー取引は︑主として一九三四年証券取引所法
( S e c u r i t i e s E x c h a n g e c A t o f
1 9 3 4 ,
⑥ ア メ リ カ 法 の 状 況
する必要性はかなり薄れたのではないかとされる︒
その他の見解として︑株主総会決議があった段階を重要事実と捉え︑さらに︑取締役会等が株主総会に議案を提出 することを決定し︑あるいはそれに向けて具体的な検討をするよう決定したことについても重要事実と見なければな
( 1 6 )
らないとする見解がある︒その理由として︑①証券取引法一六六条六項四号の二の適用除外規定が株主総会決議の あったことが重要事実に当たることを前提としていると読まざるをえないこと︑②﹁今後約一年以内に︑
で︑自己株式の買付けがなされる可能性が生じた﹂ことは︑その段階で確定的な事実となることを挙げる︒
さらに︑平成一三年の証券取引法改正以降の見解として︑会社が自己株式を消却するかどうかはわからず︵こうい う状態が長期間統く︶︑消却されずに代用株式に使われることもあり得ることから︑このような状態で︑自己株式の
( 1 7 )
買受けをするという決定が発行会社にとって重要な情報であるのかとの疑問を呈する見解が見られる︒この見解によ
れば︑少なくとも議案を株主総会に提出することを決定したというその決定事実は︑現行法のもとで︑規制の対象と いと解されていることとの対比を挙げる︒
九
主総会へ提出することが決定された場合︑あるいは︑それに向けて具体的な検討をするよう決定された場合まで重要
( 1 5 )
事実と認める必要があるか疑問だとする見解がある︒その理由として︑①自己株式取得のための株主総会決議は執 行決定機関に対する授権の性格を有し︑総会決議があったからといって自己株式取得が必ず行われることにはならな いこと︑②授権資本増加のための定款変更議案の総会提出を取締役会等が決定しても︑それが重要事実を構成しな
︵ 三 一 九
︶
一定
の枠
内
第 五 五 巻 二 号
︵ 三
二
O )
0 1
条伺項およびそれに基づいて制定された
SEC
規則
一 O b
I五によって規制されてき
た︒
規則
︱ o b
五の規定には︑日本法とは異なり︑重要事実が個別に列挙されていない︒しかし︑取引を行った者 I
( 1 8 )
が有していた未公表の内部情報が重要であったことが要件とされている︒
この重要性
( m a t
e r i a
l i t y
) の判断基準については︑判例により︑以下のような判断が示されている︒すなわち︑
( 1 9 )
TSC
I n d u
s t r i
e s 事件において︑連邦最高裁は﹁省略された事実は︑合理的な投資者がいかに投票するかを判断する
際に重要だと考えるであろう実質的可能性
u b ( s
s t a n
t i a l
l i k e
l i h o
o d )
がある場合に重要である﹂とし︑言い換えれば︑
﹁省略された事実を開示することが︑合理的な投資者によって︑利用可能な情報の総体
( t o t
m a l
ix
f o
i a t i o n ) n f o r m
( 2 0 )
を大きく変えるものとして捉えられる実質的可能性がなければならない﹂と判断した︒ただし︑この判断は︑委任状
勧誘に関する規則︱四
a
九において示された重要性の判断基準であった︒これが規則︱I
o b
I五にも適用されるか
( 2 1 )
どうかについては︑
B a
s i
c I n
c 事件において︑連邦最高裁判所は
TS CI n
s t d u
r i e s
事件判決で示された︑規則︱四
a̲
九における重要性の判断基準が規則︱
o b
ー五においても適用されることを明らかにした︒重要性に関するこうした 判断基準については︑コモン・ローの不法行為とも通じる︑合理的な投資者という概念を組み入れていることから︑
( 2 2 )
客観的であると評価する見解がある一方で︑株券等の取引を計画している者や規制当局にとって不明瞭な基準である
( 2 3 )
とする見解も見られる︒
とこ
ろで
︑ TS CI n
d u s t
e s r i
事件判決の基準は︑情報が現実の出来事を反映している場合には直接的に適用しやす いが︑偶発的または推測的な出来事の場合にはより具体的な基準が適している︒そこで︑
B a
s i
c I
n c
事件判決
( B a s
i c
n I
c 事件は合併交渉に関する会社の情報開示が規則︱
o b
五に違反するかどうかが問題とされた事案であった︶I
以下では取引所法という︶
関法
10
, v
ま ︑自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制(‑)
(5)
検
討
( 2 4 )
より具体的に︑
T e x a s G u l f S u l p h u
r
事件において第二巡回区控訴裁判所が述べた基準を引用し︑重要性は﹁その事項が起こることによって想定される蓋然性および会社の事業全体においてその事項の想定される規模のバランスに基 づいて﹂判断されるとした︒こうした判断基準は︑蓋然性・規模基準
( t h e p r o b a b i l i t y ¥ m a g n i t u d e t e s t )
蓋然性・規模基準は︑規則︱
obI 五のインサイダー取引が問題となったケースにおいても受け入れられている︒
( 2 5 )
例え
ば︑
S m i t
h
事件判決において︑被告によるインサイダー取引において基礎とされた将来の売上げおよび収入の見通しといった︑いわゆるソフト・インフォメーションの重要性を判断する際にも︑この基準は適当なアプローチであ
るとされた︒
と呼
ばれ
る︒
先にも述べたように︑証券取引法一六六条二項一号ないし三号は︑同条一項に規定されている﹁上場会社等に係る 業務等に関する重要事実﹂の内容を具体的に規定しており︑これらの事実は︑投資者の投資判断に影響を及ぼすべき 性質の事実とされている︒そうであるならば︑同条項一号の決定事実について︑投資者の投資判断に影響を及ぼすぺ
( 2 6 )
き性質を有するといえるためには︑その決定内容に一定の規模︑具体性︑実現可能性︵確実性︶が認められることが
( 2 7 )
必要であると考える︒すなわち︑いわゆる軽微基準が定められているように︑その決定事実が当該会社にとって軽微 なものであれば投資者の投資判断に影響を及ぼすとは考えにくい︒また︑抽象的な段階の事実や不確実な事実であれ ば︑これも投資者の投資判断に影響を及ぼすものとはいえない︒これらの点は︑アメリカ法が内部情報の重要性を判 断するにあたって︑採用していたアプローチを参考にできる︒なお︑日本織物加工事件の最高裁判決の判断によれば︑
﹁株式の発行﹂が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないこととなり︑これが自己株式の取得について
︵三
ニ︱
)
いな
いこ
とか
ら︑
一定の規模を問題にすることはできないものの︑
一定の具体性︑実現可能性︵確実性︶が認められ
となりはしないか疑問である︒
第五五巻二号
︵ 三
二 二
︶ の決定の場合にも当てはまるとすれば︑﹁自己株式の取得﹂が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない ことになる︒確かに︑最高裁判決が示すように︑規制範囲の明確性は︑わが国のインサイダー取引規制において重要 なことではあるが︑投資者の投資判断に影響を及ぼさない段階の決定事実まで規制対象に含めることは︑過剰な規制 従って︑同号二に規定される自己株式の取得を行うことについての決定の事実については︑軽微基準が定められて
る必要がある︒すなわち︑業務執行を実質的に決定する機関において︑自己株式を取得すること自体だけでなく︑具 体的に取得予定株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされ︑それが実行されることについて一定の実現可能性
︵確実性︶を有する場合を指すものと解することが妥当である︒
そこで︑商法ニ︱
0
条に基づく自己株式の取得の場合について︑先に触れた証券取引審議会公正取引特別部会報告を参考に︑①取締役会等の実質的な業務執行機関により自己株式取得のための議案を株主総会へ提出することが決 定された場合︑あるいは︑それに向けて具体的な検討をするよう決定された場合︑②株主総会における自己株式取 得の決議について︑既に株主総会へ提出する議案が公表されている場合であって︑これが株主総会で否決され︑ある いは︑修正の上可決されたときには︑その決議の内容が公表されない場合︑③総会決議に基づいて具体的な自己株 式の取得予定日︑取得予定数量︑取得方法が決定された場合に分けてそれぞれ検討する︒
まず︑少なくとも︑②および③の場合については︑具体性︑実現可能性の点から判断して︑重要事実となると考え られる︒すなわち︑②および③の場合では︑具体的な取得予定株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされ︑②
関法
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
一定
の具
一定の具体性があると考
の場合についてはその時点で今後一年以内に自己株式の取得が行われる可能性が生じたことは確定し︑③の場合につ いては︑より自己株式の取得が行われる可能性が高いからである︒さらに︑証券取引法一六六条六項四号の二が︑
﹁定時総会決議等に基づいて﹂︵会社が︶買付けをする場合をインサイダー取引規制の適用除外にしているというこ とは︑定時総会決議に基づいて具体的に行われる自己株式の取得の決定を重要事実と考えていると解釈することがで き︑だからこそ︑その事実を公表しなくてもインサイダー取引規制の適用はないとしていると考えられる︒なお︑そ もそも株主総会の決議があったことも重要事実になると考えられる︒なぜなら︑②の場合と同様︑具体的な取得予定 株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされ︑その時点で今後一年以内に自己株式の取得が行われる可能性が生
一定の具体性︑実現可能性が認められ︑さらに︑証券取引法一六六条六項四号の 二が﹁商法第二百十条第一項の規定による定時総会の決議⁝⁝について第一項に規定する公表⁝⁝がされた後﹂とあ ることから︑株主総会の決議があったことを重要事実と考えていると解釈できるからである︒次に︑①の場合につい ては︑前者の取締役会等の実質的な業務執行機関により自己株式取得のための議案を株主総会へ提出することが決定 された場合については︑取得予定株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされており︑
えられ︑株主総会の決議が残されているものの︑会社によっては︑そのまま可決される可能性が高ければ︑
体性が認められると考えられる場合が多いのではないか︒しかし︑後者のそれに向けて具体的な検討をするよう決定 された場合については︑取得予定株数︑取得総額︑取得方法について検討する段階であれば︑具体性は認めがたいと 考えられ︑その後の手続についても︑段階を経なければならないことを考えれば︑実現可能性も下がると思われる︒
従って︑この後者の場合については︑重要事実と考えることは難しいのではないかと考える︒ じたことは確定していることから︑
︵三
二 三
︶
第 五 五 巻 二 号
次に︑商法ニ︱一条ノ三については︑①株主総会における定款授権の決議︑②取締役会における決議︑③代表 取締役等による個別具体的な取得の決定という場合に分けて検討してみる︒
まず︑①の場合は︑﹁取締役会決議により自己株式を買い受ける﹂との内容の定款授権の決議が行われると考えら
( 2 8 )
︵
2 9 )
れるが︑こうした内容では具体性に欠けることから︑重要事実と考えることは困難であると考える︒次に︑②の場合 は︑具体的な取得予定株数︑取得総額︑取得方法について決定がなされると考えられ︑従って一定の具体性を持ち︑
一定期間の間に自己株式の取得が行われる実現可能性も高いと考えられることから重要事実になると考えられる︒ま た︑証券取引法一六六条六項四号の二の規定が︑﹁商法第二百十一条ノ三第一項に規定する取締役会の決議⁝⁝につ いて第一項に規定する公表:
. . . . がされた後﹂と規定していることは︑この決定の事実を重要事実と捉えていることが 前提とされていると読める︒最後に︑③の場合も重要事実と考えることができる︒この場合は︑より具体的な取得の 内容が決定されているはずであり︑自己株式の取得が行われる可能性は相当に高い︒また︑先にも述べた︑証券取引 法一六六条六項四号の二の規定は︑この段階における個別具体的な取得の決定を重要事実と捉えているからこそイン サイダー取引規制の適用を除外していると考えざるをえない︒
問題の所在
三 ︵
二四
︶ 証券取引法一六六条六項四号の二によれば︑商法ニ︱
0
条一項の規定による定時総会の決議もしくは商法ニ︱一条ノ三第一項の規定による取締役会の決議については︑それらが公表されれば︑それらの決議に基づいて行われる会社 3.会社に重要事実が存在する場合の自己株式取得の可否
関法
︱四
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
③ ア メ リ カ 法 の 状 況
( 2 )
一 五
︵ 取
による自己株式の取得については︑インサイダー取引規制の適用は除外するとされている︒この場合︑会社は個別具 体的な自己株式の取得を行うことについての重要事実を公表しなくても︑自己株式の取得を行うことができる︒それ では︑自己株式の取得を行うことについての決定以外の重要事実が存在する場合︑会社は︑その事実を公表しない限 り︑自己株式の取得︵市場での買付け︶が禁止されることになると考えざるをえないのであろうか︒
学説の状況 学説においては︑このような場合︑必ずしも会社による自己株式の取得が禁止されることにはならないのではない かとの見瞬が示されてい知︒会社による自己株式の取得は︑取締役や従業員らが︑誰の名であるにせよ︑会社の計算 で当該会社の株式を取得することであり︑取締役や従業員らが重要事実を﹁その者の職務に関し知ったとき﹂︑売買 が禁止される︒従って︑他の部門に重要事実が発生していても︑現実に買付けを決定する者が︑重要事実を知らずに 買付けを行うことは︑証券市場の公正性・健全性を害し︑投資者の証券市場に対する信頼を損なうことにならないか ら︑このような場合には︑インサイダー取引として禁止する必要はないのではないかとされる
o
ただし︑買付けの指 示を出す取締役は︑他の重要事実を知っている場合が多く︑実務上︑チャイニーズ・ウォールは効かないのではない
( 3 3 )
かとの指摘がなされている︒
アメリカ法においては︑日本法のように規制の対象者が列挙されているわけではなく︑規則︱
obI
五は何人に対
( 3 4 )
しても適用される︒従って︑会社自身も規制の対象に含まれる︒この場合︑未公表の重要事実を有して株券等の取引 を行う者には︑その事実を開示して取引を行うか︑または︑取引を断念しなければならない義務︵開示または
︵ 三
二 五
︶
第 五 五 巻 二 号
( 3 5 )
引︶断念の義務
d ( u t y t o d i s c l o s e o
r a b s t a i n ) )
が課
され
る︒
ところで︑インサイダー取引を規則︱
ob
ー五で規制する場合に︑インサイダー取引を行った者は︑未公表の重要
事実を保有していたことで足りるのか︑そうした情報を保有しているだけでなく利用したことまで必要とされるかに
( 3 6 )
つき︑判例の解釈は分かれていた︒この点に関して︑
SEC
は二
000
年︑保有基準を採る規則一O
b
五I
一を
制定
( 3 7 )
一定の解決を図った︒
規則
︱
ob
五
I
一は︑その前注において︑本規定は︑取引所法一0
条⑯項および規則︱b o
I
五の下でもたらされるインサイダー取引のケースにおいて︑重要な未公表の情報﹁に基づいた﹂取引を構成する購入または売却がどのよ うな場合に生ずるか定義するとし︑具体的には︑同条田項において︑﹁に基づいた﹂の定義が規定されている︒すな わち︑同項は︑本条い項に規定する積極的抗弁に該当する場合を除き︑発行者の有価証券の購入または売却は︑購入 または売却を行う者が購入または売却を行う際に重要な未公表の情報を知っていた場合︑当該有価証券または発行者
に関する重要な未公表の情報﹁に基づいて﹂行われたものであるとする︒なお︑規則︱
ob
五I
一 は
︑
券取引所法および規則一
O b
'
五の下で形成されてきた判例法を変更するものではないとされている︒ 一九三四年証ここで︑重要な未公表の情報を知って有価証券の取引を行えば︑それは︑規則︱
o b
'
五における重要な未公表の情報に基づいて取引を行ったことになる︒しかし︑こうした規制の方法では︑そのような情報を知る前に︑有価証券 の取引に関する契約を締結していた場合や有価証券の取引の計画がある場合でも︑取引を行う時点で重要な未公表の
情報を知っていれば︑そうした取引は行えないこととなる︒そこで︑規則︱
ob
五I
一には︑積極的抗弁が定められている︒具体的には︑規則︱
ob
五I
一い項①︵において︑当該情報を知る前に︑購入または売却を行う者が①当し ︑
関法
一 六
︵ 三
二 六
︶
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
取得は禁止される︒
④ 検 討
一 七
該有価証券を購入または売却する拘束力のある契約
( b i n d i n g c o n t r a c t )
を締結していたこと︑②当該有価証券を自 己の計算で購入または売却する指示を他の者に行っていたこと︑または︑③当該有価証券を取引することについて 書面の計画を採用していたこと︑を立証した場合には︑その購入または売却は重要な未公表の情報﹁に基づく﹂もの
( 3 8 )
ではないとされている︒
( 3 9 )
規則
︱
o b
五
I
一団①は︑自然人および自然人以外の者にも適用があるとされるが︑自己株式の取得に関連して︑
厄
以下のような
SEC の解果が示されている︒すなわち︑自己株式の取得計画を実行している発行者は︑取得する自己 株式の数量︑価格︑日付を詳細に特定する必要はなく︑むしろ︑発行者は︑重要な未公表の情報を知らないときに︑
数量︑価格︑日付を導く書面の方式
w r ( a
i t t e
n f o
r m u l
a ) を使った書面による計画を採用することができる︒または︑
その書面による計画は︑発行者がその後の当該有価証券の購入または売却に影響力を行使するものでなければ︑重要
( 4 1 )
情報を知らない他の者に対して︑数量︑価格︑日付を決定するあらゆる裁量を与えるものであってもよいとする︒
会社自身がインサイダー取引規制の対象とされていないということは︑会社が自由に証券取引を行うことができる ということではなく︑現実には会社の取締役や従業員が取引を行うことから︑証券取引法上はそれらの者の行為を規 制するとの立場に立っているものと考えられる︒従って︑会社による自己株式の取得とは当該会社の取締役や従業員 が会社の計算で行う取引を指し︑インサイダー取引規制との関係では︑これらの者の行為が規制の対象となる︒すな わち︑これらの者が重要事実を﹁その者の職務に関し知ったとき﹂には︑その事実が公表されない限り︑自己株式の
︵ 三
二 七
︶
第 五 五 巻 二 号
一定の適用除外規定を設けることを検討すべきではない
︵ 三
二 八
︶ この場合︑取締役から自己株式の買付けの代理権を与えられた担当者︵従業員等︶が重要事実を知らなくても︑指 示を出した取締役が重要事実を知っていれば︑担当者による買付けはインサイダー取引に当たるのだろうか︒取締役 からの指示の内容やタイミングにもよるが︑買付担当者が重要事実を知らなければ一律にインサイダー取引規制の適 用がないとすることには問題があるように思われる︒取締役からの買付けの指示の内容やタイミングによっては︑重 要事実を知らない担当者による買付けといえども︑取締役が買付けを行ったと同視できる場合もあると考えられ︑こ のような場合には︑インサイダー取引規制の適用はありうるのではないかと考える︒なお︑会社内の重要情報が買付 担当部門に流れないような措置を講ずることが︑インサイダー取引規制との関係で重要であることはいうまでもない︒
他方︑今の例で︑以前から自己株式の取得の計画があって︑その計画が実行される直前に重要事実が発生したよう な場合にまで︑インサイダー取引規制を及ぼすことは過剰な規制であると思われる︒現行法を前提にすると︑こうし た場合にもインサイダー取引規制が及ぶと考えざるをえないが︑証券取引法一六六条六項八号および会社関係者等の 特定有価証券等の取引規制に関する内閣府令六条一項一号の規定︑さらには︑先に採り上げたアメリカ法における規
則 ︱
o b
五
I
一が規定する積極的抗弁の内容を参考とした︑
( 4 2 )
かと思われる︒すなわち︑重要事実が発生する以前から︑取得日や取得数量など具体的な自己株式の取得に関する計 画が存在するといった場合には︑確かに自己株式の取得の段階で重要事実を知っていることになるが︑計画に従った ものである限り︑こうした取引が証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼を害するとまではいえないように 思われ︑従って︑インサイダー取引規制の適用が除外されてもよいと思われる︒
最後に︑立法論として︑インサイダー取引規制において﹁会社﹂を規制対象として含めるとすると︑会社による自
関法
一 八
自己
株式
の取
得・
処分
とイ
ンサ
イダ
ー取
引規
制(
‑)
回避できるというメリットがありそうである︒
信託制度を利用した自己株式の取得
己株式の取得は相当困難なものになると考えられる︒すなわち︑会社には自己株式の取得以外にもインサイダー取引 規制上の重要事実が存在していることが通常であると考えられ︑
実が未公表の間は︑自己株式の取得は行えないことになる︒
一 九
会社による自己株式の取得について︑前述のように考えることができても︑実際上は︑インサイダー取引規制に抵 触することを懸念して︑信託制度を利用した自己株式の取得や事前公表型の自己株式の取得という方法が採られてい る︒以下では︑これらの方法を利用した自己株式の取得に関する問題点について検討してみたい︒
まず︑信託制度を利用した自己株式の取得とはどのようなものなのか︑その仕組みを見ておきたい︒自己株式の買 付けを行おうとする会社は︑自己を委託者兼受益者として金銭の信託を行う︒信託の目的は︑自己株式の買付けであ り︑受託者は︑信託された金銭をもって受託者の裁量で当該会社株式を証券会社への委託売買方式により市場から買 い付ける︒買付けに伴う証券会社との資金決済︑株券の受渡しは︑すべて受託者が行い︑買い付けた株式を委託者に
( 4 3 )
交付する仕組みである︒
この信託制度を利用した自己株式の取得では︑当該会社の株式の買受けを受託者が行うことから︑会社に重要事実
が発生していても︑その事実を公表することなく︑株式の買受けを行うことができ︑インサイダー取引規制の適用を
4
インサイダー取引規制の適用回避を意識した自己株式の取得
︵ 三
二 九
︶
一定の適用除外規定を設けない限りは︑それらの事
②事前公表型の自己株式の取得
第 五 五 巻 二 号 しかし︑この方法による場合︑受託者が株式の買受けごとに︑取締役会の指図を受けることが許されるかどうか問 題となる︒学説においては︑買受けごとに︑取締役会の指図を受けるのであれば︑インサイダー取引規制の潜脱であ
( 4 4 )
ると見られてもやむを得ないとして︑このようなことは許されないとする見解が示されている︒たしかに︑買受けご とに取締役会が受託者に指図を与えるのであれば︑それは会社自らが買受けを行っていることと変わりはなく︑会社 に重要事実が存在する場合には︑インサイダー取引規制の適用が考えられる︒
まず︑事前公表型の自己株式の取得とはどのようなものなのか︑その仕組みを見ておきたい︒事前公表型の自己株 式の取得とは︑持合い解消等で株主からの売却が予定されている場合等に︑買付日の前日にあらかじめ具体的な買付
内容を公表したうえで︑オークション市場または
T o
S T
N e
T ‑
2 において︑投資家や証券会社からの他の注文ととも に︑株主の売付注文と買付会社の買付注文を執行するものである︒こうした方法は︑東京証券取引所において行われ ている︒事前に具体的な買付内容を公表したうえで行うのは︑売り方である株主が自己株式取得の情報を入手してい
( 4 5 )
るため︑当該情報の公表によって自己株式取得に係るインサイダー取引規制の問題を回避するためであるとされる︒
これら二つの事前公表型の方法のうち︑
T o
S T
N e
T ‑
2 を利用した自己株式の取得が多いとされることから︑以下では︑
この方法による自己株式の取得について詳しく見ていく︒
T o
T S
N e
T ‑
2 とは︑東京証券取引所における立会時間外で行われる売買で﹁終値取引﹂ともいわれる︒具体的には︑
通常のオークション市場で決まった最終値段で︑立会時間外に売り注文と買い注文を集めて取引を成立させるもので ある︒自己株式の取得は︑午前八時四五分の前日最終値段を利用した取引で行われる︒
関法ニO
︵ 三
三
0 )
自己株式の取得・処分とインサイダー取引規制︵一︶
がありそうである︒
平成一三年の商法改正において自己株式の取得が認められた背景には︑持合い株式の解消売りの受け皿としての利 用や大株主や提携先が株式を放出するときに会社による自己株式の取得を認めて敵対的買収を防止するための利用が
( 4 6 )
考えられていた面もあることから︑持合い株を保有する株主や大株主があらかじめ会社に対し当該会社の株式の売却 を打診し︑会社がこれに応じることは十分考えられることである︒ただし︑この場合︑株主は︑会社による自己株式 の取得という情報を知って︑株式を売却することになり︑この株主による株式の売却が︑インサイダー取引に当たる ことになりかねない︒従って︑こうした方法を認めることには︑インサイダー取引規制の適用を回避できるメリット しかし︑この方法による場合でも︑会社に自己株式の取得以外の重要事実が存在する場合は︑その重要事実を公表
( 4 7 )
しない限り︑会社による自己株式の取得は︑インサイダー取引規制の適用が考えられる︒
( 1
) 平成六年の改正前商法においては︑①株式の消却のためにする取得︑②合併または他の会社の営業全部の譲受けによる 取得︑③会社の権利の実行にあたりその目的を達するため必要なとき︑④株式買取請求に応じるとき︑に例外的に認めら れていた︒平成六年および平成九年の改正商法︑さらには同年の株式消却特例法の制定により︑⑤取締役・使用人に譲 渡・交付するための取得︑⑥株式の利益消却のための買受け︑⑦株式譲渡制限会社で譲渡請求があった場合に会社が買受 人となる場合︑⑧株式譲渡制限会社で株主が死亡した場合に会社と相続人との合意に基づく買受け︑の場合が新たに追加 され た︒
( 2
) 自己株式の取得に伴う弊害としては︑他に︑株主に出資を払い戻したのと実質的に同様の結果を生じ会社の財産的基礎を 危うくすること、会社が株価操作を行って株主•投資家の利益を害すること、一部の株主から株式を買い取ることによって 株主平等の原則に違反すること︑間接的に経営者の会社支配に利用されること等が指摘されていた︒鈴木竹雄"竹内昭夫
﹃会社法[第三版
] j
一七八頁︵有斐閣ヽ一九九四年︶参照
o
なぉヽ平成二云年ぉよび二狂ヰの自己株式に関する改正商法
︵三
三一
︶