九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
たばこ乾燥葉の保存過程における糖質成分の変化お よび反応機構
永井, 敦
https://doi.org/10.15017/1398437
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名: 永 井 敦
論文題名: たばこ乾燥葉の保存過程における糖質成分の変化および反応機構 区 分: 甲
論 文 内 容 の 要 旨
たばこ乾燥葉中の糖質は、たばこ製品の味・香りに関係する重要な成分である。たばこ乾燥葉中の糖 組成は、品種・栽培法・葉たばこの乾燥法などによって大きく異なることが、たばこ製造の長い歴史の 中で経験的に知られている。乾燥葉中の糖質は、葉たばこ乾燥後の熟成保存工程にも経時変化すること が報告されており、また、種々のたばこ製造プロセスを経て製品となってからもしばしば変化を起こす。
糖質の経時変化は、スクロースに代表されるような、化学反応性の乏しい非還元性糖でも生じることが 近年明らかになっている。たばこ乾燥葉の糖組成の変化およびその反応機構を解明することは、たばこ 製品の品質管理技術発展のための重要な知見となる。本論文は、たばこ乾燥葉中のスクロースの経時変 化に焦点を当て、この変化機構について検討した結果について論じたものである。
本論文第2章では、たばこ乾燥葉から酵素溶液を調製し、スクロースとの反応性を解析した。調製し た酵素溶液はスクロースを加水分解した。本反応はpH依存性、温度依存性を示し(至適pH5.0, 至適温 度50°C)、また、酵素反応速度論が適用できることが示唆された。続いて、本系を用いて各乾燥葉が有 する酵素活性を定量した。検討の結果、乾燥葉保存中のスクロース減少率は、酵素溶液にて定量した酵 素活性と高い相関が認められた。本章における検討結果から、乾燥葉保存中に生じるスクロースの減少 は、乾燥葉が有する酵素活性に由来することが強く示唆された。
第3章では、乾燥葉中のオリゴ糖組成と、その経時変化について検討した結果を述べた。本章ではま
ず、LC-ESI-MS/MSを用いたオリゴ糖分析法について述べた。本分析法は乾燥葉中のマルトオリゴ糖と
フルクトオリゴ糖を、それぞれ重合度別に区別して検出、定量することを可能にした。本法を用いてた ばこ乾燥葉中のオリゴ糖組成を分析した結果、上述のオリゴ糖がいくつかの乾燥葉に含まれることが明 らかとなった。一方、過去知見において、タバコ植物はフルクトオリゴ糖を含有しないとされており、
本論文においても葉たばこの凍結乾燥サンプルからフルクトオリゴ糖は検出されなかった。フルクトオ リゴ糖は一部のたばこ乾燥葉にのみ含まれることが明らかになった。フルクトオリゴ糖の乾燥葉保存中 の変動性を確認した結果、温和な環境下で経時的に増加することが判明した。
第4章では、たばこ乾燥葉中で活性を示すスクロース加水分解酵素の性質について調べた。乾燥葉中 で活性を示すインベルターゼを精製した結果、分子量分布が大きく異なる活性画分が3つあり、内2つ の画分は葉たばこから調製した酵素液中には見られなかった。種々の検討の結果、3つの画分はいずれ も酸性インベルターゼに由来し、また、他の化合物等と一種の凝集構造をとっていることが推測された。
精製したスクロース加水分解活性画分はいずれも糖転移能を有し、第3章で論じた乾燥葉保存中のフル クトオリゴ糖の増加現象に寄与している可能性が示唆された。
第5章では、スクロース代謝以外に関与する種々の糖質関連酵素について、品種(乾燥法)ごとの乾 燥葉中の残存する酵素活性を調査した。結果として、α-アミラーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダ ーゼの活性が乾燥葉に存在することが明らかとなった。これらの酵素活性量を定量し、原料種ごとに比 較したところ、原料種によって活性量が異なることが明らかになった。酵素によって活性が残存しやす い原料種と、残存しにくい原料種があることが同時に明らかとなった。