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小規模多機能型居宅介護における

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1 概 要

(1)本稿の目的

超高齢社会1)である日本の介護需要は今も 増え続けている。いわゆる「団塊の世代」が後 期高齢者となる 2025 年には,介護人材が 37.7 万人不足すると推計されているが(厚生労働省 2015),介護人材の増加は需要の増加に追いつ かず,介護事業者の人材不足感は好転する兆し がない(介護労働安定センター 2017)。また,

日本の医療費,介護費はともに増加を続けてお り,医療や介護を持続可能な制度とするために は何をなすべきかという議論の中から,地域包 括ケアシステム構想が打ち出された。

地域包括ケアシステムは,地域における,医 療,介護,住民の連携を図り,国の「公助」の みに頼らず「自助・互助・共助」2)を組み合わ せることによって,必要な人に必要なケアを持 続的に提供できるようにしようするものである。

国や自治体によるさまざまな介護人材の確保 策も地域包括ケアシステム構築の枠組みの中で 議論されており,具体的な取組みの主体は国や 自治体ではなく医療や介護の事業者であること が強調されている。これからの時代,介護事業 の経営者は,就業希望者が少なく早期離職者が 多いと言われる事業環境の中で,人材確保に対 処しなくてはならない。

そこで本稿では,介護業界における経営者の

小規模多機能型居宅介護における

ワーク・エンゲイジメントを高める経営者の行動に関する考察 A study on management action to raise work-engagement of

nursing care staff in “Multifunctional Long-Term Care in a Small Group Home”

遠藤 恵子

ENDO, Keiko

超高齢社会である我が国にでは,2025 年に約 38 万人の介護人材が不足すると推計されている。

国政レベルで介護人材確保策が推進されているが,介護人材不足の受給ギャップは拡大している。

一方,国が推進する地域包括ケアシステム構想では,「自助・互助・共助・公助」の連携の重 要性が強調され,さまざまな課題を解決し具体的なサービスを実現し改善する主体は各事業者で あると位置づけられている。もはや介護は国のみよって提供されるものではない。

近年の認知症介護においては,居住型介護サービスであるグループホームが一定の役割を果た してきた。しかし,2025 年には認知症 700 万人時代が到来すると言われ,国がめざすのは認知 症であっても在宅で過ごすことができる社会である。そうした構想の下,小規模多機能居宅介護 は,認知症の人が在宅を基本としつつ「通い」「在宅」「泊まり」を組み合わせて利用できるサー ビスとして創設され,増加が期待されている。

そこで本稿では小規模多機能型居宅介護のひとつの成功事例として「あおいけあ」をとりあ げ,経営者の経営行動についてワーク・エンゲイジメントの概念を用いて考察する。

キーワード: ワーク・エンゲイジメント(work engagement),介護(nursing care),介護職(care  worker),介護職員(nursing care staff),小規模多機能型居宅介護(Multifunctional  Long-Term Care in a Small Group Home)

(2)

行動を,近年注目が高まっているワーク・エン ゲイジメントの概念を用いて考察する。ワー ク・エンゲイジメントは,従業員の職務に対す る肯定的な認知の状態をもたらす要因,肯定的 な認知の結果としての行動,さらに,従業員の 肯定的な認知の状態をもたらす経営行動などを 統合的に扱おうとするものであり,ワーク・エ ンゲイジメントが高い従業員は,仕事にやりが いや誇りを感じ,離職や転職の意思が低いこと も知られている。

本稿の目的は,ワーク・エンゲイジメントの 概念を用いて,人材が意欲的に仕事に取り組む ことができる環境をつくるための経営行動を,

地域包括ケアシステム構想の登場以降に制度化 された「地域密着型サービス」に着目し,考察 することにある。

(2)社会的背景

1)地域包括ケアシステムの誕生

1970(昭和 45)年に 7%超えた日本の高齢 化率は,1994(平成 6)年には 14%となり,

2007(平成 19)年には 21.5%,2016(平成 28)

年には 27.3%に達した。さらに,2065 年には 38.4%に達すると推計されている。日本の高齢 化率が 7%から 14%に増加するのに要した期間 は 24 年であり,フランスの 115 年,スウェー デンの 85 年,アメリカの 72 年などと比して短 く,その結果,我が国は世界に先駆けて超高齢 社会となった(内閣府 2017)。

急速に高齢化が進む中,2000 年に介護保険 制度がスタートした。これは,1963 年に制定 された高齢者福祉法に基づいて高齢者福祉が行 われてきた我が国にとって,税金を財源とする

「公助」のシステムとしての高齢者福祉サービ スから,介護保険料による「共助」の側面を持 つシステムへの大きな転換でもあった。

しかし,現状のままでは,医療保険制度と介 護保険制度というふたつの「共助」の仕組みを 長期的に維持することが困難であるという指摘 は多い。

そうした状況の下,国の政策に依存するので はなく,地域毎に,その地域のニーズに最適化 されたケアシステムを構築・維持しようとする

「地域包括ケアシステム」構想が生まれ,2025 年に向けて,その構築が急がれている(高齢者 介護研究会 2003)。

地域包括ケアシステムの構想では,「自助・

互助・共助・公助」という 4 つの「助」の連携 が強調され,地域における医療や介護を改革,

改善する「主体」は事業者であり,行政は,そ れを「支援する立場」であると位置づけられて いる(地域包括ケア研究会 2017)。我が国の高 齢者政策は,公的機関が「お世話をする社会福 祉」制度から,保険制度,地域,自分自身の力 を活用した「自立を支援する社会保障」へと舵 をきった。

2)介護事業の経営者に求められるもの

地域包括ケアシステムの構築が急がれる中,

介護事業所における介護人材の不足感は常態化 している。介護労働安定センターが毎年実施す る調査によれば,従業員が「多いに不足」「不 足」「やや不足」と解答した事業所の割合は,

2009 年時点の 46.8%から年々上昇し,2016 年 調査においては 62.6%となった(介護労働安定 センター 2017)。

介護人材の離職要因として指摘が多い賃金に ついては,個々の介護事業者の努力のみに解決 を委ねることはできず,マクロレベルでの対策 は不可欠である。一方,個々の事業所の経営者 にも,それぞれ異なる業態や経営環境にみあっ た経営努力が求められている。そこで本稿では,

人材不足といわれる環境下においても人材確保 に成功している介護事業所を事例としてとりあ げ,その経営者の経営行動について考察する。

3)小規模多機能型居宅介護への着目

事例分析にあたっては,小規模多機能型居宅 介護に着目する。

介護事業所の種類は多く,厚生労働省によ る介護サービス施設・事業所調査の 2016(平 成 28)年の結果を見ると,介護予防支援事業

(3)

所(地域包括支援センター)を含めて 37 種の 介護サービス施設・事業所がある(厚生労働省  2017)。その中で,小規模多機能型居宅介護は 地域密着型サービスのひとつであり,「小規模」

かつ「多機能」であることに特徴がある。デイ サービスは通所,グループホームや特別養護老 人ホームがそこに居住する利用者に対してサー ビスを提供するのに対し,小規模多機能型居宅 介護は「通い」の利用者数は 15 名以内3)と小 規模ながら,「在宅」,「通い」,「泊り」,そして

「看取り」も含めて,臨機応変にサービスを提 供することができる4)

たとえば,デイサービスはあくまでも通所し てきた利用者を介護する。法的な規制によって 在宅の人を介護することや宿泊を受け入れるこ とはできない。しかし,認知症の人は,その日 によって気持ちが変化し,自宅から出てこない というようなことも起こり得る。そういう場 合,小規模多機能型居宅介護であれば,急遽

「在宅」で介護サービスを提供することができ る。

本稿では,今後の増加が期待される小規模多 機能型居宅介護に着目し,中でも,良好な実績 をもつ事業所のひとつである神奈川県藤沢市所 在の「株式会社あおいけあ」(以下「あおいけ あ」とする)を事例としてとりあげる。

(3)分析対象

1)「あおいけあ」に着目する理由

「あおいけあ」は運営する 4 事業所のうち,3 事業所が小規模多機能型居宅介護である。認知 症介護において成果あげており,人材確保につ いても良い実績を持っている。加えて,設立か ら 15 年以上が経過しており経営者の行動が従 業員の行動に影響及ぼすに足る時間があったと 考えられることから,「あおいけあ」の経営行 動について分析する。

2)「あおいけあ」の認知症介護の特徴

「あおいけあ」は認知症ケアの独自のアプ ローチで注目されている。認知症の利用者を,

部屋の中で管理・監督することによって安全と 安心を確保するのではなく,「自立支援」を最 大の目的とし,できることはなんでも利用者自 身にやってもらう。管理やお世話をするのでは なく生活を支援するというスタンスで臨むケア が,認知症の人の QOL(Quality of Life)5) 維持または高め,生活動作の機能や気力の回復 にもつながっているという。

3)「あおいけあ」の人材確保の状況

経営者である加藤忠相氏は 2015 年 11 月に招 かれた一億総活躍国民会議でのヒアリングの際 に,「あおいけあ」の職員の離職率に関連し,

退職者数は少なく,人材採用時も募集をすると すぐに定員を上回る応募者があり,現時点では 人材の確保に困難があるとは考えていないこ と,利用者アンケートの結果では職員が活き活 きと働いていると見えるという結果を得ている ことを説明している。

離職者が少ない理由について「職員数が多い からではないか」と問われることがあるが実際 には法定通りの人数で運用しており,人員数,

給与ともに介護事業所における標準的な水準で あるとも述べている(分析資料 2,3,13)。

「あおいけあ」の従業員数は,2016 年 9 月 時点では,17 年度に新設した新しい事業所を 除く 3 つの事業所をあわせて 43 名,それまで の 1 年間に 1 名が退職したが 6 名を採用してい 6)

(4)分析方法

本稿では,「あおいけあ」の経営者の著書,

講演,「あおいけあ」の Web サイトによる開 示情報,公的機関が公開している介護事業者 データベース記載の情報,新聞・雑誌・テレビ で報道された情報を先行研究に基づいて分析を 行う。今回の分析に使用する資料および閲覧し た Web サイトの URL,アクセス日は,参考文 献とともに本稿末尾に記載する。

(4)

2 先行研究とリサーチクエスチョン

(1)ワーク・エンゲイジメント概念の意義 本稿における分析に関連する先行研究として

「ワーク・エンゲイメント」をとりあげる。ワー ク・エンゲイジメントは,従業員の認知の状態 とともに,その認知の要因やアウトカムとして の仕事の成果や従業員の職務遂行の状況を統合 的に扱おうとする概念である。また,仕事の環 境やマネジャーの行動をワーク・エンゲイジメ ントの規定要因としてとらえ,ワーク・エンゲ イジメントの状態やアウトカムとの関連性につ いての研究も行われている。

経営者にとっての人材確保は,単に人数が増 えれば良いというものではない。経験豊かで仕 事に意欲を持って取り組む人材を増やし,良好 な仕事の成果を得ることが,経営者がめざすと ころであろう。この観点から,就業に関する感 情や認知の状態のみならず,その規定要因や結 果(アウトカム)を統合的に扱おうとする枠組 みとして,ワーク・エンゲイジメントの考え方 が有効であると考える。

(2)ワーク・エンゲイジメントの定義 エンゲイジメントという概念は,90 年代以 後にビジネス分野で広がり,その後,学術分野 での研究がなされるようになった。「従業員エ ンゲイジメント」という言葉は,コンサルティ ング会社であるギャラップ社によって 1990 年 代に初めて使われたと言われている(バッキン ガム,コフマン 2000 | 1999:シャウフェリ,

バッカー 2014 | 2010)。

ギャラップ社の研究者であるHarterら(2002)

は「従業員エンゲイジメントという用語は,従 業員の仕事に対する熱意は言うまでもなく,仕 事との関わり合いや仕事に対する満足も表して いる」としている。

学術分野においては,Kahn(1990)が仕事 にエンゲイジしている人は,仕事の役割と同一 化し,仕事に多大な労力を注ぐとした。

ワ ー ク・ エ ン ゲ イ ジ メ ン ト を, バ ー ン ア ウトの逆転概念としてとらえる立場もある。

Maslach ら(2001)のように,ワーク・エンゲ イジメントをバーンアウトと一元的な尺度の上 でとらえる立場がその典型であるが,Schaufeli ら(2002)は,ワーク・エンゲイジメントを「ポ ジティブで,達成感に満ちた仕事に関連のある

表 1 ワーク・エンゲイジメントの定義

ギャラップ社による カーンによる シャウフェリらによる 島津による

従業員エンゲイジメント 従業員の仕事に対する熱 意は言うまでもなく,仕 事との関わり合いや満足 感をも表している。

エンゲイジメント 組織成員の自己を彼らの 仕事上の役割に結びつけ,

そ の 力 を 利 用 す る こ と。

すなわち,エンゲイジし ている人は,身体的,認 知的,感情的,精神的に 自分の役割と関わってい る。

ワーク・エンゲイジメント ポジティブで,達成感に 満ちた,仕事に関連のあ る 心 の 状 態 で あ る 活 力,

熱意,没頭をその特徴と する。エンゲイジメント は,特定の対象,出来事,

個人,行動などに向けら れた一時的な状態ではな く,仕事に向けられた持 続的かつ全般的な感情と 認知である。

ワーク・エンゲイジメント 仕事に関して肯定的で充 実した感情および態度 ワーク・エンゲイジメン トの高い人は,仕事に誇 り( や り が い ) を 感 じ,

熱心に取り組み,仕事か ら活力を得て活き活きと している状態にある。

(Harter et al., 2002) (Kahn, 1990) (Schaufeli et al., 2002:

Schaufeli & Bakker, 2004)(島津,2009)

出所:表内に記載の文献をもとに筆者作成。

(5)

心の状態である活力,熱意,没頭をその特徴と する」と定義し,バーンアウトと「負の相関を 持つ別の概念」として捉えた。

また島津によれば,ワーク・エンゲイジメン トとは「仕事に誇りややりがいを感じている

(熱意/ Dedication)」,「仕事に熱心に取り組ん でいる(没頭/ Absorption)」,「仕事から活力 を得て活き活きしている(活力/ Vigor)」が そろった状態である(島津 2016)。

このように,ワーク・エンゲイジメントは新 しい概念であり,その定義は,ビジネス界や学 術分野において,完全にひとつにまとめる合 意が形成されたとは言えないが,我が国でも 2000 年代後半から論文が発表されている7)

ワーク・エンゲイジメントは,その用語とし ても,「engagement」「employee engagement」

「work engagement」などが使われている。本 稿では,これらを総称するものとして「ワー ク・エンゲイジメント」を用いる。

(3) ワーク・エンゲイジメントが高い従業員 の状態とアウトカム

従業員のワーク・エンゲイジメントの状態を 測定する尺度としては,1998 年にギャラップ 社が発表した「Q12」(Harter et al., 2006)と,

シャウフェリらが 2003 年に発表した「UWES

(ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)」

(Schaufeli  et  al.,  2002:Schaufeli  &  Bakker,  2003)がよく知られており8),これらの尺度を 用いて,ワーク・エンゲイジメントに関する多 くの先行研究が行われている。

本稿では,直接的に従業員のワーク・エンゲ イジメントの状態を測定することは行わない が,ワーク・エンゲイジメントが高い,あるい は低い従業員に関する先行研究によって明らか にされている,ワーク・エンゲイジメントのア ウトカム,規定要因,これらをもたらす経営行 動を視点に分析を行う。

ワーク・エンゲイジメントのアウトカム として,ワーク・エンゲイジメントが高い

従業員は,心理的苦痛や身体愁訴が少なく

(Demerouti et al., 2001:シャウフェリ,バッ カー 2014 | 2010),職務満足感や組織へのコ ミットメントが高く,離職・転職の意思が低 いことが知られている(シャウフェリ,バッ カー 2014 | 2010:ハルベスレーベン 2014 | 2010)。また,仕事の自律性や同僚のサポート

(De Lange et al., 2008),仕事へのプライド,

職業的技能,自主性が促進される(Hakanen  et al., 2008)。ワーク・エンゲイジメントが高 いほど,自己啓発学習への動機づけや創造性 が高く,役割行動や役割外行動を積極的に行 う(Sonnentag  2003:Bakker  et  al.,  2004:

Schaufeli, Taris et al., 2006)。

島津(2014)は「活動水準」と「仕事への態 度・認知」の 2 軸によって,ワーク・エンゲイ ジメントとワーカホリズム,職務満足感などと の違いを整理している(図 1)。

ワーク・エンゲイジメントが高い従業員は,

仕事への態度や認知が肯定的であるだけでな く,活動水準も高い。これに対しワーカホリズ ムは,活動水準は高いが,「強迫的に」働く傾 向を持つ点において,「楽しんで」働く傾向を 持つワーク・エンゲイジメントとは異なる。

職務満足感は,仕事「について」,あるいは 仕事「に対する」感情や認知をさしている。一 方,ワーク・エンゲイジメントは仕事を「し ている時」の感情や認知をさしている(島津  2014)。

(4)ワーク・エンゲイジメントをもたらすもの 1)ワーク・エンゲイジメントの規定要因

ワーク・エンゲイジメントの規定要因とし ては,仕事の資源と個人の資源が関与するこ とが知られている。仕事の資源とは,①仕事 の要求度やこれに起因する身体的,精神的な負 担を軽減し,②仕事上の目標達成を促進し,③ 個人の成長や発達を促進する機能を有する物 理的,社会的,組織的な仕事の側面であると される(Schaufeli & Bakker, 2004:Bakker & 

(6)

Demerouti, 2007)。また,個人の資源は,「自 分をとりまく環境を上手にコントロールでき る能力やレジリエンスと関連した肯定的な自 己評価」(Hobfoll et al., 2003)であり,島津ら

(2012)は,仕事の資源と個人の資源を図 2 の ように整理している。

2) ワーク・エンゲイジメントを高めるマネジャー の行動

では,これらの規定要因を理解したうえで,

経営者はどのような行動によって,ワーク・エン ゲイジメントを高めることができるのだろうか。

バッキンガムらは 8 万人のマネジャーに対す るインタビューを分析することにより,マネ

ジャーによる 4 つの行動,すなわち「①才能で 人を選ぶ。―経験や知識,意志の強さでは選ば ない。」「②成果を適切に定義する。―適切な手 順を定義するのではない。」「③部下の強みを活 かすことに専念する。―弱点に注目するのでは ない。」「④部下の強みに適した場所を探り当て る。―単に梯子を上に継ぎ足す(昇進させる)

のではない。」が従業員のエンゲイジメントに 影響を及ぼすことを指摘している(バッキンガ ム,コフマン 2000 | 1999)。

(5)リサーチクエスチョン

経営者にとっては,職員が仕事や組織に対し 図 1 ワーク・エンゲイジメントに関連する概念

出所:島津(2014)p.35。

活動水準(+)

島津(2009)産業ストレス研究,16,131-138. を改訂 ワーカホリズム

バーンアウト

エンゲイジメントワーク・

職務満足感

活動水準(−)

態度・認知仕事への

(不快)

態度・認知仕事への

(快)

図 2 ワーク・エンゲイジメントをもたらす資源

出所:島津(2014)p.45。

エンゲイジメントワーク・

仕事の資源 上司・同僚のサポート

仕事の裁量権

パフォーマンスのフィード バック

コーチング 課題の多様性 トレーニングの機会

自己効力感 組織での自尊心

楽観性 個人の資源

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て肯定的な認知の状態にあるだけでなく,職員 の仕事に対する取り組み方や成果が良好である こともまた重要である。

以上みてきたように,ワーク・エンゲイジメ ントの概念は,その両面の関係を検討し働きか けていくための枠組みとして有効であると考え る。

そこで本稿では,分析対象とする「あおいけ あ」について,「経営者の行動は従業員のワー ク・エンゲイジメントを高める行動となってい るか」をリサーチクエスチョンとして事例分析 を行う。

3 事例紹介

(1)「あおいけあ」の概要

経営者である加藤忠相氏は,1974 年生まれ。

東北福祉大学社会教育学科を卒業し,横浜市の 特別養護老人ホームに就職したが,食事,入浴,

排泄などの介助を始めとするケアの時間割が決 められていたことや,決められたケア以外の事 をしなくてよいという上司の言葉など,「介護 の現実にショックを受けた」ことから 3 年後に 退職し,2001 年(平成 13 年),25 歳のときに 株式会社あおいけあを設立した(分析資料 1,

10)。

「あおいけあ」は認知症対応型共同生活介護

「グループホーム結」,小規模多機能型居宅介護

「おたがいさん」と,そのサテライトとして「い どばた」,「おとなりさん」を運営している。以 前は「いどばた」を通所介護(デイサービス)

として運営していたが,2013 年に小規模多機 能型居宅介護に転換。さらに 2017 年には「お となりさん」を増設。1 棟のグループホームと,

3 棟の小規模多機能型居宅介護施設を,同じ敷 地内で運営している。

(2)「あおいけあ」の理念

1)ミッション ―存在理由・存在目的―

本節では,「あおいけあ」がどのような考え 方に基づいて事業を行っているのかを,加藤氏

の著書,講演,インタビュー記事を資料として,

ミッション,ビジョン,バリューの観点でみて いく。

加藤氏の講演資料の最終ページに「What  is  the  purpose  of  medical  and  nursing  care. 

Quality of life Quality of death.」とあり,「あ おいけあ」の介護の目的は利用者の QOL と QOD9)を高めることにあると述べている(分 析資料 4)。

また,加藤氏は繰り返し,介護の本来の目的 について介護保険法第二条に言及して説明して いる。介護保険法第二条 2 項は「前項の保険給 付は,要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資 するよう行われるとともに,医療との連携に十 分配慮して行われなければならない。」と定め ており,同 4 項では「第一項の保険給付の内容 及び水準は,被保険者が要介護状態となった場 合においても,可能な限り,その居宅におい て,その有する能力に応じ自立した日常生活を 営むことができるように配慮されなければなら ない。」と定めている(下線は分析資料 3,4 に よる)。

加藤氏が考える介護の本質は,介護度の軽減 と悪化の防止を図り可能なかぎり自立した日常 生活ができるよう支援することにある。このこ とを,実際の介護行動にあてはめて考えると き,1963 年施行の「老人福祉法」時代の介護 は「療養上の世話」だったが,2000 年に「介 護保険法」が施行されたことによって,介護の 役割は「自立支援」に変化したのだと述べてい る(分析資料 4)。

2)ビジョン ―未来の姿―

「あおいけあ」のホームページには,「理念」

として以下の 3 つの事柄が掲載されている。

「あおいけあ」が実現しようとするのは,利 用者との良好な人間関係を構築し,自立を支援 し,さらには地域作りの一端を担うことであ る。そのために,認知症の利用者を「認知症を 患った困った人」ととらえるのではなく,「認 知症になったことで,理解や表現や適切な行動

(8)

ができずに困っている人」ととらえ,困ってい る人が困らないように寄り添う介護を実践しよ うとしている。

3)バリュー ―行動指針―

「あおけあ」のミッションは「自立支援」と しての介護を提供することにある。

そのミッションを果たすために,加藤氏は

「トップゴールは『よりよい人間関係の構築』」

であると言う。職員が目の前にいる利用者にあ りがとうと言ってもらうことよりも,「あなた に会えてよかった」と感じ,ありがとうと心か ら言えることが重要であると述べている(分析 資料 1,8)。

加藤氏が「人間関係・信頼関係を築く」介護 を実践するために職員に求める行動を,著書や 講演の内容から以下の 3 点にまとめることがで きる。

①  利用者の「記憶」ではなく「感情」に働 きかける

②  利用者のアイデンティティとストレング スを発見して,その発揮を促す

③  自立支援にマニュアルはなく,自分で考 える

認知症の症状には,認知症の原因そのものに よって生じる記憶障害,見当識障害,理解・判 断力の障害などの中核症状がある。また,中核 症状にその場の環境や心理状態,素質などの要 因が重って生じるうつ状態,徘徊,興奮や暴力,

不潔行為などの周辺症状がある。周辺症状は,

認知症の人が,なんらかの環境・状況にみまわ れたことによって生じると考えられる。

徘徊予防のために鍵をかけたエリアで過ごさ せる,暴力行為が自傷行為につながる可能性が あるので拘束する。この方法は周辺症状に対処 しているのであり,なぜ徘徊するのか,といっ た周辺症状が生じる理由に目を向けていない。

周辺症状は,認知症の人が何かに「困っている」

結果であり,その人が困っていることの背景に ある中核症状に対して適切に対処することに よって軽減することができる。そのために,認 知症の人と良好な関係を築き,信頼を得て,認 知症の人にとって心地よい場を生み出すことが 重要である。これが加藤氏が考える介護の基本 姿勢である。

4)「あおいけあ」の「理念」

ここまで,「あおいけあ」のミッション,ビ ジョン,バリューをみてきた。

ミッション=存在理由・存在目的は介護を要 する人の自立支援であり,これを通して QOL と QOD を実現することにある。また,ビジョ ン=未来の姿は,地域づくり,よりよい人間関 係の構築,そして介護を要する人を「困ってい る」ととらえ「困らない」状態にすること。バ リュー=行動指針は,①利用者の「記憶」では なく「感情」に働きかけ,②利用者のアイデン ティティとストレングスを発見して,その発揮

■あなたがしているその行動が【自立の支援と地域作り】になっているかを考える  ○今していることを地域でやるのが地域デザイナーたる介護職のしごと!

  外に出よう!

  (例:庭で花を植えるのはレク 公園でやればボランティア)

■トップゴールは【よりよい人間関係の構築】である  ○「危ないから」「でなければならない」は絶対にタブー!

  やれない理由を探さない

  (例:入浴が目的ではなくお風呂を使った信頼関係の構築)

■認知症で困っている人が困らないように寄り添えばステキなお年寄り!

 ○「困ったね」は困らせた結果。

  その人の強み(ストレングス)から「だれもが活躍できる地域づくり」を!

出所:「あおいけあ」公式ホームページ

(9)

を促し,③自立支援はマニュアルによるのでは なく,自分で考えて実行することである。

本稿では,これらの「あおいけあ」のミッ ション・ビジョン・バリューの総体を「理念」

と呼ぶこととする。

(3)理念の実践

1)「記憶」ではなく「感情」に働きかける 本節では,「あおいけあ」において「理念」

がどのように実践されているのかについて,加 藤氏の著書,講演,NHK によるテレビ番組等

(分析資料 1,2,5,6,8,12,15,16)で公 知のものとなっている 3 例の介護事例にそって 検討する。

「あおいけあ」では,認知症の徘徊や興奮な どの周辺症状に働きかけることをしない。認知 症であるかぎり,程度の差こそあれ中核症状が みられることは避けられない。中核症状である 記憶障害,見当識障害,実行機能障害(判断力 の障害)を持つ人は,何かしら周囲とわかりあ えず「困っている」状態になる。「困っている」

のだがどう対処すればよいのかわからないた め,徘徊,暴言,せん妄,陰鬱などの周辺症状 が出現する。だとすれば,徘徊を防ぐために鍵 をかけた部屋で保護するのではなく,認知症の 人が「困らない」ようにすれば,徘徊そのもの が起こらない。

では,どうすれば「困らない」状態にできる のか。「よい感情」が増えることによって「困っ ている状態」になりにくくなり,周辺症状が出 現しにくくなる。そのため,「あおいけあ」の 職員のアプローチは,徘徊を押さえ込むのでは なく,徘徊したいと思わない状況を生み出そう とする。その人にとって居心地のよい状態をつ くり,信頼関係を築き,意思疎通も可能にする。

K 氏は,長く宮城県で長女と暮らしていた が,長男と同居するために藤沢市に転居してき た男性である。このため,生活環境が変化し近 隣に知人も少ないが,もともとあまり人付き合 いが好きではないという。介護職員にもつらく

あたることが多く,介護職員が話しかけても,

乱暴な言葉で応じ,威嚇的な大声を出すことも ある。

そういう K 氏に対し,職員は「おちついて」

といった言葉をかけておちつかせようとするの ではなく,K 氏の威嚇的な態度を半ば無視し,

繰り返し,お茶を飲もう,お風呂に入ろう,歌 をうたおうと話しかけ,誘いかけ続ける。そう した働きかけによって人間関係を築き,K 氏 が安心して穏やかに過ごせる環境を作ろうとす る。

アルツハイマー病では小脳の記憶を留める機 能を持つ「海馬」に萎縮が現れて短期記憶が困 難になることが多い。一方,機能が失われやす い海馬を補完するために扁桃体の機能が高まる ことが知られている。扁桃体は「快・不快」「好 き・嫌い」をつかさどっている。認知症になる と喜怒哀楽が激しくなると言われるのはこのた めだと考えられている。

そこで加藤氏は,名前や顔を「記憶」しても らおうとするのではなく,利用者が「楽しい」

「嬉しい」「安心できる」といった「よい感情」

を持てる環境を作り出すことを重視し,介護職 員に「感情に働きかける」行動を求めている。

2) 利用者のアイデンティティとストレングス の発揮を促す

「あおいけあ」では,認知症の人ができるこ と,やりたいことを見いだすために,アイデン ティとストレングスに目を向ける。短期記憶は 失われていても,その人が人生の中で培ってき たアイデンティは失われておらず,また,長年 行ってきた動作の記憶は手続記憶として残って いるという。昼食の配膳や庭木の剪定もできる 人が行う。農業をしていた人が畑をつくる,大 工だった人が棚をつくる,「できること」はな んでもやってもらうことで,その人が活躍でき る場をつくろうとする。

T 氏は,認知症を発症してから 2 年ほど経っ て,住み慣れた場所から長男夫婦の元へ引っ越 してきた女性である。当初は外出せず,「あお

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いけあ」への「通い」も,おだやかな口調では あるがはっきりと拒否をしていた。

「よい感情」を生み出すために,当初は同じ 職員が繰り返し T 氏の自宅をたずね,通所に 誘った。しかし,ようやく「あおいけあ」にやっ てきても,持ち慣れた黒いバッグを肩からかけ たまま外さない。「あおいけあ」が,すっかり 安心できる場所にはなりきっていないらしいと 推察できる。

後日,加藤氏は出張先から「あおいけあ」に ホヤを送った。ホヤを調理したり,食べたりし た経験がない人が多く,みなが戸惑う中,三陸 出身の T 氏にとってホヤは馴染み深い食材で あり,難なく調理して食事の準備に加わった。

その途中,T 氏はバッグを肩から外し,調理に 専念した。

三陸出身であるというアイデンティティ,長 年の暮らしの中で「手続記憶」として身につい ているホヤの調理法というストレングス。認知 症になっても消えることがないアイデンティ ティとストレングスを発見し,発揮を促すこと で,認知症の人が自信を持って活動することが でき,自分以外の人の役に立つことができる機 会も生まれる。

「あおいけあ」の介護の目的は自立支援であ り,認知症の悪化をできるだけ防ぎ,可能な限 り自分でできること,他人のためにできること を増やし,自立度をあげることが目指されてい る。

3)自立支援にマニュアルはなく自分で考える

「あおいけあ」にはマニュアルがない。加藤 氏は,マニュアルで「自立支援」はできないと 述べている。入浴の時間,食事の時間といった 時間割もない。リーダー,職員,パート職員,

全員に,自分で考えて行動することを求めてい る。

それぞれの利用者の人となり,認知症の状 態,毎日の気持ちや体調などによって,「いま」

必要とされる介護は変化する。しかし,マニュ アルに沿った介護は,利用者の過ごし方を施設

側のルールや事情に合わせてもうらことにな る。

加藤氏は,介護が必要な人は千差万別であ り,職員の側が,それぞれの利用者に合わせて 行動しなければ「自立支援」にはつながらない と言う。

S 氏は,もとは表具師として仕事をしていた が,認知症を発症し要介護 1 のときに「あおい けあ」を利用しはじめた男性である。

S 氏は 2015 年の 9 月にすい臓癌と診断され た。「あおいけあ」では,できる限りいままで 通りの生活を続けるという S 氏とご家族の希 望に添って,自立支援を続けることにした。16 年 4 月頃にはさらに病状が進み,食事もほとん ど喉を通らない状況になっていた。そういう時 期のある日,S 氏はご家族の都合で「通い」で はなく「泊まり」のサービスを受ける予定に なっていた。しかしその日は,S 氏はかたくな に「泊まり」を拒否した。職員がいろいろな話 をしながら「泊まり」を勧める中,S 氏が,温 泉に泊まりに行くなら泊まってもいいと言い出 した。S 氏が指定した宿は,ご家族と出かけた 思い出の場所であり,職員がご家族に相談する と,ご家族も同意とのことだった。

すでに歩行もおぼつかない末期癌の患者に介 護職員がひとり付き添って温泉に一泊するとい うのは,患者,家族,職員それぞれにとってリ スクが大きく,一般的には行動の選択肢にすら ならないのではないだろうか。しかしこの日,

責任者である加藤氏が出張中という状況の下,

担当の介護職員は,ご家族と相談うえ,ふたり で温泉に行くことにした。

S 氏は温泉から帰宅して 5 日後に他界された が,S 氏が繰り返し口にしていた,「周りの人 がいて,俺がいるんだから俺ができることは何 でもする。」「俺は,死ぬまで自分の足で歩くん だ。」という願いは,ご家族からも,職員から も尊重されていた。

小規模多機能型居宅介護は,通所介護や訪問 介護が日常的な利用形態だが,利用者の希望が

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あれば短期の「泊まり」を受け入れることが法 的に認められている。また,利用者が癌などの 病気のために在宅療養を選択している場合に は,その「看取り」も受け入れることができる。

利用者からみると,自分の体調や家族の仕事の 状況などが変化しても,見慣れた場所で,見慣 れた介護職員からサービスを受けることができ る。

これを介護職者の側から見ると,利用者の健 康状態や要望されるサービスの幅が広く,その 場で対応を考えなくてはならない突発事項も多 い。そのような環境の中で,職員に「自分で考 える」ことを求める加藤氏は,対応に苦慮する 難しい状況について,職員が自ら考え,行動し た S 氏のケースを成功事例であると考えている。

4)「自分で考える」ことを可能にする環境 加藤氏は職員に,自分で考えることを求め る。介護職は専門職である。加藤氏は,タイム テーブルに従ってマニュアル通りの介護をする ことが職務だとしたら,それは,規格化された 業務であって,専門性を求められる仕事とは言 えないと考える(分析資料 2)。

しかし自ら考えて行動するということは,利 用者に関する現状認識の正しさや,対処の正し さに対する責任を,行動する職員一人ひとりが 持つことになる。利用者やその家族にとって は,職員は適切な判断ができるのか,また安全 は確保されるのかという不安が生じる可能性が あり,職員にとっては大きな責任を問われるか もしれないという怖さがあっても不思議ではな い。

「あおいけあ」の職員は,「自分で考える」こ とのリスクにどのように対処するのだろうか。

加藤氏は「介護の現場でリスクを下げるという ことは,まず利用者さん本人やそのご家族と信 頼関係を作ること。実はこれが一番のリスク回 避なんです」(分析資料 1)と述べている。つ まり,万が一の不測の事態が生じたときに,利 用者や家族がその事実を受け入れようと考えて くれるだけの信頼を構築すること。信頼される

行動を積み重ねることが「あおいけあ」の行動 指針のひとつとなっている。

「あおいけあ」にはマニュアルはないが,「最 低限のルール」はある。基本的なルールは「自 分がされてイヤなことはしない」こと(分析資 料 1,11)。

そして日々の仕事の中で何をなすべきかを決 めるときには,「あおいけあ」の理念に込めら れている三段階にあてはめて考えることを求め ている。①療養上のお世話になっていないか

(例えばお茶を自分で淹れられる人にお茶を淹 れてあげる,など,誰かのお世話になることを 促進していないか),②自立支援になっている か(自分でできることは自分でやってもらう姿 勢で考えているか),③地域との関わりにつな がっているか(出来ればボランティアなどにつ なげたい)。①はやってはいけないこと,②が 標準的な介護,③はさらによりよい介護として 求めたいことである(分析資料 1)。

加藤氏は「もし,自分たちで考えて判断に余 る,ちょっとわからないって事があったら,『加 藤に聞いたらいいって言うだろうな』と思った らやっちゃって構わない。」と言うことによっ て,自分の言動が指針であることとともに,職 員の自己判断による行動を経営者としてあらか じめ信頼し,承認していることを示している

(分析資料 2)。

5) デイサービスから小規模多機能型居宅介護 への転換

もうひとつ,「あおいけあ」がデイサービス の事業所を小規模多機能型居宅介護に転換した ことも,それ自体が理念の実践につながってい る。

加藤氏によれば,デイサービスの施設として 開設した「いどばた」という事業所の運営は数 年で行き詰まったと述べている。デイサービス は,法的な規制によって在宅の人を介護するこ とや宿泊を受け入れることはできない。利用者 の家族の事情などで宿泊が必要なときには,他 の施設を利用せざるを得ない。そこで,「通所」

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「訪問」「泊まり」などのサービスを臨機応変に 提供できる小規模体機能型居宅介護への転換を 行った。1 年後,「いどばた」の利用者 17 名の うち 5 名の利用者の介護度が改善したという

(分析資料 1,5)。

利用者が望む QOL を実現するためには,利 用者と深く関わり,理解をしなくてはならな い。そのために,ある程度長い時間をかけ,家 族との信頼関係を構築し,一人ひとりの利用者 についてより多くの情報の把握することが必要 となる。小規模多機能型居宅介護への転換は,

利用者のより多くの生活シーンに触れ,その人 の考え方,感じ方に接する機会を増やし,「よ りよい人間関係の構築」という理念を実現しや すい環境づくりにつながっている。

4 事例分析

(1) 「あおいけあ」の職員の行動とワーク・ 

エンゲイジメント

1)ワーク・エンゲイジメントが高い人の特徴 先行研究につて述べたとおり,ワーク・エン ゲイジメントしている人の特徴として,活力,

熱意,没頭,仕事への満足感などが挙げられる。

活力は疲弊の対極として捉えることができ,エ ネルギッシュであることを意味している。熱意 はシニシズムの対極として捉えることができ,

仕事に深く関わり,仕事に対して意義や誇り,

挑戦の気持ち感じていることを意味する。没頭 は自分の仕事に集中し,夢中になり,時間が あっという間に過ぎるような状態を意味する。

そのほか,ワーク・エンゲイジメントのアウ トカムとして,ワーク・エンゲイジメントが高 い従業員は職務満足度が高く,離職・転職の意 思が低いこと,仕事の自律性や仕事への誇り,

自己啓発学習への動機づけ,創造性などが高い ことが知られている。

「あおいけあ」の離職率が低いことは前述し たとおりであるが,加藤氏の著書や「あおいけ あ」職員によるブログの情報をもとに,職員の ワーク・エンゲイジメントの状態を検討する。

2)「あおいけあ」の職員の介護行動

①  K 職員の事例:末期癌の利用者に対する  介護行動

K 職員は先にあげた S 氏の事例において,す い臓がん末期の S 氏とともに自らの判断で温 泉への宿泊に出かけた職員である。

K 職員は,末期になっても自宅で普段どおり の生活を続けたいという,かねてからの S 氏 の意思を尊重し,これを支える介護をしたいと 考えていた。

S 氏の温泉への外出を決めた際,社長である 加藤氏は出張中だった。K 職員は,S 氏の余命 が短いと感じながらもご家族と相談をして,S 氏本人とその家族の要望を優先し温泉行きを決 めている。

K 職員から加藤氏にあてた報告のメールで は,利用者とともに温泉に出かけてよいかとい う許可を求めているのではなく「行ってきま す」と結論を報告している。また,この一泊旅 行について,どのようなリスクがあると考えて いるかを示しており,そのリスクを承知ではあ るが,「行ってきます」と決断している。

K 職員は,加藤氏の著書(分析資料 1)に掲 載されているインタビューの中で,最後まで自 宅に居たいという高齢者は多いが,それでも 8 割は病院死であるというインタビュアーの投げ かけに対して「でもね,うちはここ半年で 4 人 看取っている。みんなギリギリまで通ってきま すよ。」「小規模多機能じゃなかったら支えきれ ていなかったんじゃないかな? すい臓癌が見 つかって痛みが出ている最中に奥さんが亡く なって。その時点でどこか施設か病院に入って そこで看取りだったんじゃないかな。それを爺 ちゃんが望むならそれがいいんだけど,そう じゃないのにあっちの世界に行っちゃうのは,

あたしは我慢できない。だからあたしは,爺 ちゃん婆ちゃんの希望をかなえられるように,

精一杯頑張る。」と答えている。

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② Sa 職員の事例:「看取り」をめぐる介護行動

「おあいけあ」の facebook のページ(分析 資料 9)には職員が書き込みをしている。その 書き込みのうち,Sa 職員が利用者の「看取り」

の経験について書き込んだ内容が,加藤氏の著 書(分析資料 1)に引用されている。

「職場でお看取りをした。

それはそれはみごとな最期。96 歳のおば あちゃん大往生。

亡くなる 3 日前,夜勤だった私は,朝ま で添い寝をさせてもらった。」

「 夜中の 2 時半。ウトウトしていると,私 の手をぎゅっと握り,ほとんど聞き取れ ないような小さな声で,いつも私たちに 投げ掛けてくれていた言葉が。

『オネエチャン,,,ダイジョウブ,,,?』

この「ダイジョウブ?」には沢山の意味 があるんですが,この時のダイジョウ ブ?は,私の事を心配してくれているダ イジョウブ。」

「 朝が来て,娘さんが来られた。その日か らお母さんに付き添う事を聞く。中略…

時間がない事を感じた私は,1 度家に帰 り仮眠し,夕方からおばあちゃんに付き 添わせて頂くことにした。おばあちゃん の写真をまとめながら,娘さんとその方 の思い出話や,今までゆっくりお話出来 なかった娘さんの話を三時間くらいする。

その間,意識が混濁するおばあちゃんも,

話の途中で微笑んでいて,すごく穏やか な時間が流れていた。」

この経験を,Sa 職員はご家族から感謝の言 葉をかけられたこと,しかし,自分たちスタッ フは「全ておばあちゃんに教えてもらった」と 感じており,そういうことに携わることができ る毎日なので,「自然と笑顔になれる」と書い ている。

③  Si 職員の事例:「あおいけあ」と他の介護 施設での体験

Si 職員は,中学生の頃から,授業が終わる と母親の勤務先である「あおいけあ」に「帰っ てきて」過ごしていた。「あおいけあ」への就 職は,母親にも相談せず,自分で決めた。

Si 職員は,中学生の時に,職場体験で地元 の特別養護老人ホームに出向いた。施設のドア には鍵がかかっており,利用者たちがドアをド ンドンと叩くのを見て,外に出たいのだなと感 じた。体験した入浴介助は「流れ作業」だった と言う。車いすに乗った利用者が風呂の前に並 んでおり,順番に入浴介助が行われる。Si 職 員はドライヤーをかける仕事を任され,順番に やってくる利用者の髪を乾かした経験につい て,「私はずっとドライヤーをかけてる。あ〜,

介護ってこういう仕事なのかな〜って思いまし た。その時のことを考えると,ここはやっぱり 違います。」と述べている。

Si 職員は,かつて体験したような仕事の仕 方の職場で苦しんでいる介護職員が居るとす れば,違うやり方の職場もあるということを知 らせたいとも述べている。「私は『あおいけあ』

だから介護の仕事が出来ているけど,多分他の 施設だったら出来ないと思っています。」

「私,ここで『仕事してる』って感覚がない んですよね。なんか,これでお給料もらってい いのかな,って思う時もあります。もちろん,

いろいろ嫌なことだってあるし,スタッフ間で もじいちゃんばあちゃんに対してでも,『なん だよ』って思うこともあります。でも,それは どこの職場でもあると思うし,そうは言っても ここでは素顔でいられます。私は,家でも仕事 でも,殆ど変わらないです。だから,ここに いてもストレスがない。それも大事なことか な,って思います。」

3) 「あおいけあ」の職員のワーク・エンゲイ ジメント

「あおいけあ」の職員は,みな自律的であり,

仕事に深く関わっている。

参照

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