ドイツにおける販売業者の検査義務(1)
鈴木 美弥子
はじめに
1.
検査義務に関する動向1.1. 検査義務に関する原則 1.2. 目視による検査 2.
義務の拡大2.1. 社会生活における期待の上昇 (以上、本号)
2.2. 欠陥の疑いの契機の存在 2.3. 販売業者の仲介機能 2.3. 販売業者の形態
おわりにはじめに
現代において、一人の者(事業者)が製品全体を製造することはほとんどなく、通常、完成 品製造者は個々の部品を他の製造者から調達する。また、消費者は直接的に完成品製造者から 製造物を入手することも、また稀であり、製品は、例えば、卸売業者、さらに、小売業者を通 じて最終購買者(消費者)のもとに届く。この製造・販売のプロセスには、様々な者(事業者)が 関与し、その態様に応じて、責任が規定されるといえる。
1990
年代に、ドイツ、日本において、過失ではなく、欠陥を責任要件とする製造物責任法が 施行され、製造・販売に関与する者の責任が規定された。製造物責任法では、製造業者は、製造物の製造または加工を通じて欠陥の創出に直接寄与し たことにより、当然に責任主体となる(製造物責任法
2
条3
項1
号、ドイツ製造物責任法4
条1
項1
文 ただし、ドイツでは、同法1
条2
項3
号で、事業者でないことが免責事由となる形を とる)。また、輸入業者も、欠陥ある製造物を市場に供給し、危険を持ち込んだとして、責任主 体に含まれる(製造物責任法2
条3
項1
号、ドイツ製造物責任法4
条2
項)。さらに、実際には 製造物の製造・加工または輸入に携わっていなくとも、氏名・称号等の表記によって製造業者 または輸入業者として表示を行っている者(表示製造者)も、その表示を通じ、消費者に製造物に対する信頼を与えていることから、責任主体として認められている(日本では、誤認ケースの 場合も含む 製造物責任法
2
条3
項2
号、ドイツ製造物責任法4
条1
項2
文)。販売業者につい ては、日本において、当該製造物の製造・加工・輸入・販売に係る形態その他の事情からみて 実質的な製造業者として認めることができる氏名等を表示した者(実質的製造者)に該当する場 合(製造物責任法2
条3
項3
号)、ドイツにおいて、製造物の製造者を特定できない場合には、供給者が製造者として責任主体となるとされている(ドイツ製造物責任法
4
条3
項)。1)本稿で検討の対象とする販売業者については、上記に該当しない限り、製造物責任法によっ て責任は負わないが、その場合には、民法の過失による不法行為責任・契約責任で賠償責任を 追及することできる (製造物責任法
6
条、ドイツ製造物責任法15
条2
項)。2)欠陥を責任要件とする製造物責任法に対し、民法による場合は、義務の違反から成る責任を 問うことになる。製造物責任法に拠る場合、責任の有無が比較的明確となるのに対し、民法に よる場合、過失・義務の判断においては、具体的な事情を考慮に入れた利益衡量がなされる。
販売業者の義務については、契約責任、不法行為責任に基づき販売業者の責任を追及する判 決において見ることができる3)。その義務については、販売行為に係わる義務と、販売する製 品の欠陥に対する義務に分けることができ、前者の義務については、すでに別稿で扱った4)。
本稿では、販売する製品の欠陥に対する義務、特に、販売する製品を検査する義務について、
議論の集積がみられるドイツの諸判決をとりあげ、検討していく。
1. 検査義務に関する動向 1.1. 検査義務に関する原則
製品の欠陥は、製造業者が直接その創出に関与したものであり、販売業者に、これに関し検 査を求めることは、一般には、販売業者の領域を超えるものと評価できる。製造の欠陥に対す る措置は、社会生活上、一般には、製造業者に対してのみ期待しうる。小売業者にも、卸売業 者にも、製品の欠陥を検査するために必要な教育も設備も通常はなく、これを検査することは、
不可能であり、期待できない。したがって、販売業者は、原則として、流通する商品を製造に よる欠陥まで検査する義務はないとされている5)。
このことは、ライヒ裁判所の時代以来、認められている。これに関するライヒ裁判所の 判決として以下のものがある。
[金属くず事件]
原告は被告から金属くずを購入し、被告は消費工場に金属くずの最終物からなるスクラップ の積荷を納入した。これについて、通常はクロムを含まないが、原告の主張によれば、供給さ れたスクラップには、
6.5
パーセントのクロムの含有量が認められ、クロムは精錬に適さず、平炉を傷つける。被告は適切な検査をせず、すなわち過失により、契約で前提とされた使用に適 した商品を供給せず、これにより消費工場に損害が生じたとして、原告は、その賠償を被告に 求めた。
[判旨]
控訴裁判所は、被告がクロムを含有しないことを保証したことを認定しなかった。したがっ て、クロムを含有し平炉での精錬に適さない金属くずの供給による損害賠償を、原告が(民法
276
条、278条により)請求できるのは、供給の際に被告あるいは従業員に過失がある場合であ る。なるほど、原則として、販売者は認識している使用目的に対する商品の有用性を検査する 必要はない。しかし、取引慣行による場合と同様に、事件の特別の事情により、そのような検 査義務が生ずる。被告について、控訴裁判官が認めたように、当時多くのクロムを含有する金 属くずが取引されていることを認識していたはずであったにもかかわらず、製鉄所に供給され る金属くずを、供給過剰時の膨大な納入品から集められる在庫から取り出すことから、検査義 務が存した。この認定の正当性は、被告が当時一般的にクロムの含有の検査をその事業におい て命じていたことからすでに明らかである。被告は、例えば、この特別な場合に、送り状によ り被告が認識できる金属くずの原産地からすれば、検査が不要であることの説明に努めなかっ た。この状況の下、控訴裁判官が、被告がクロム含有の検査をしなかった金属くずの供給によ り、契約上の義務に違反したことを認めたことに法的過誤はない。これに対し、金属くずが工 場で検査されぬまま精錬されたことにより、被告が責任を負う必要はないとの反論は正当化さ れない。なぜなら、金属くずが工場で検査されぬまま精錬されたことが事実としても、これに より、被告は自身の検査義務から解放されないからである。6)金属くず事件では、販売者には、原則として商品に対する検査義務はないが、検査を実施す る取引慣行が存在する場合、あるいは、特別の事情からその実施を導き出せる場合(金属くず 事件では、当時クロムを多く含有する金属くずが市場に出ており、それを認識していたはずで あったにもかかわらず漫然と供給していたことから、後者の場合に該当するとされた)には例 外的に検査義務が認められるとする。
この検査義務に関する動向は、以下に見るように、現在の連邦通常裁判所、および、それに 従う下級裁判所の判決に引き継がれている。
販売業者に、原則として検査義務がないことについては、特に、設計上の欠陥に対する検査 義務について言及される。このことを述べるものとして、以下の判決がある。
[おりたたみ自転車事件]
第一原告は、自転車販売業者から、折りたたみ式自転車を購入した。それは、自転車販売業 者が第二被告(以下、被告とする)である二輪車の卸商から仕入れたものであった。自転車は、
フランスの企業である以前の第一被告の下で製造されたものであり、第一被告は、それを被告 に供給して、被告は自転車に商標「P」を付けた。購入後、第一原告が急勾配の通りをペダル に立って登って行ったところ、足を乗せていたシャフトが折れ、第一原告は転倒し、重傷を負 った。原告は民法
823
条により、健康保険者は保険令1542
条により、被告に(以前の第一被告 との連帯債務者として)損害賠償を請求した。[判旨]
(被告が、自転車に商標「P」を付けたことにより、
「製造物責任の意味における製造者と同様に」見なされ、責任法上、そのような者として扱われることは法的過誤があり、被告に特別 な危険防除義務は生じない旨を述べ、以下のように続ける。)
被告は、販売業者として活動していた限り、大規模で名声のある事業者から供給された自転 車がその設計から十分な安全性を呈していることを信頼することができた。判例によれば、販 売業者に、自己が販売した商品について、その性質に危険のないことを検査する義務があると されるのは、すでに製品の使用の際の損害ケースを販売業者が認識しているといった特別な根 拠から、それを行う契機が存在する場合、あるいは、事件の事情から検査が明らかに考えられ る場合に限ってである。いわゆる自動車、機械等の引渡検査は、場合によっては、販売の連鎖 の最後の販売業者が行わなければならない。しかし、この義務は、本質的には、製造上の欠陥 に限定される。商品について設計上の欠陥、しかも、それどころか本件のように隠れた設計上 の欠陥について検査する、あるいは、それに関して照会する義務はなおさら存しない。一般に、
販売業者には、これに関する検査義務は原則として存しない。7)
[タイヤカバー事件]
原告は、トラクターのために
W
社から前日に購入したタイヤカバーの組立て・取付けの際に、右足に重傷を負った。組立ての際、タイヤカバーのロードが壊れていた。原告は、被告に対し、
オランダのタイヤ製造者の販売会社であるとしたうえ、損害賠償請求をした。
[判旨]
原告は本件事故では、民法
823
条以下によってのみ損害賠償を請求しうる。その際、いわゆ る製造物責任の観点から被告について損害賠償責任が考えられるのは、被告がタイヤカバーの 製造者であるか、少なくとも、製造者の代わりに、あるいは、それに加え、タイヤカバーによ り生じた損害に対し責任を負う限りである。被告が製造者でないことに争いはない。被告は、むしろ独自の法人格を持つ販売会社である。
いわゆる準製造者の問題に関する従来の判例によれば、製品の製造または分配に関与して活 動する者への民法
823
条1
項による損害賠償の直接的請求は、活動する者が各々負う社会生活 上の義務の違反を前提することから出発する。したがって、販売業者が負う販売特有の危険防除義務には、設計上の欠陥に基づく製品のコ ントロールは属さないことから、販売業者は製品損害に対して通常は賠償義務を負わない。販 売業者に製造上の欠陥についての商品のコントロール義務があるのは、例えば、製品の使用の 際の損害ケースがすでに知られていた、あるいは、さもなくば事件に関係する事情が販売業者 による検査を必要とさせることから、それに対する特別な契機が存在する場合である8)。 また、上記のおりたたみ自転車事件の判決でも述べられているように、設計上の欠陥に対す るものよりは、例外の幅が大きいといえるが、製造上の欠陥に対しても、原則として、販売業 者の検査義務が認められていない9)。これを示すものとして、以下の
2
判決がある。[コンデンサー容器事件]
蒸気洗浄装置を有する原告の会社が、加熱設備の改造に際して被告からコンデンサーを購入 し、取り付けた。その
3
ヵ月後コンデンサーの容器が壊れ、鋳鉄製カバーの破片が飛び出した。噴出した蒸気と熱湯により、機械のすべり弁の操作をしていた原告は重症を負った。内壁の強 度が平均6~6.5ミリのカバーが、フラン軸のわたりの近くの破裂個所では
1.9
ミリの強度しか なかった。コンデンサーの製造者は被告の子会社のT社であり、被告の人的責任社員であるエ ンジニアGは同時にT社の社員で幹部である。T社は鋳造カバーをF鋳造所から購入した。[判旨]
他の者が製造した機器の販売業を営む企業が、売却する目的物について危険をもたらす欠陥 を伴っていないのかその時々に検査しなかった場合に過失非難を受けるのかは自明ではない。
製造者により製造された部品が危険のない性質であることを検査することは、第一には製造者 の問題である。製造の結果他の者に危険をもたらしうる部品を製造所から出してはならないこ とに対して十分な注意によるコントロールを通じて配慮しない場合には、通常は過失が認めら れる。他人の製造物を販売するにすぎない者は、特別な根拠によりそのような検査の契機が存 在する、あるいは、事件の事情により少なくとも検査が考えられる場合に限り、販売の前にそ の部品が欠陥なき性質であることを検査しないことを理由に、契約によらない過失の非難を通 常受けうる。
完成部品としてコンデンサーの容器はF鋳造所により供給されたが、もっとも、この場合、
いずれにしても、容器が検査されないままにはしてはならないという義務がT社について存す る。なるほど、T社には、鋳造所としてF社がその特別な事業の経験および設備により行わね ばならない検査を繰り返す、あるいは繰り返させる義務があるとは直ちには考えられない。T 社はコンデンサーの容器を使用したコンデンサーの製造者であるので、製造者の義務を負う。
製造者として、T社は、欠陥なき性質を確信し得ない構成部品を使用してはならず、検査の必 要性は、T社により製造されたコンデンサーがその製造の後コンデンサーの容器とともに、そ
の規格の適合性と使用上の安全が検査されねばならないことによってすでに存在する。10)
[股関節プロテーゼⅢ事件]
原告は、移植された股関節プロテーゼの破損に関する損害賠償を請求した。第一被告は、プ ロテーゼを販売できる状態で包装したものを入手し、販売業者がプロテーゼに自己の名前を付 けて販売した。
[判旨]
原告の申立てによれば、損害の原因は、原料の物的欠陥、すなわち、使用した原料と構造の もろさであった。この欠陥は、
1970
年以来知られた鍛冶の方式で製造することで、少なくとも、鋳造の方式を維持しても変成と熱処理の方式により、技術的に回避可能であった。しかし、実 際に行われたコントロールは不十分であった。また、その点、被告は科学技術水準を遵守しな かった。
この場合、被告が製造物責任における製造者と見なしうるか疑わしい。製品を製造し、流通 に置く者が製造者であることは問題がない。独自のコントロール義務は原則として販売業者特 有の危険防除義務に属さないため、純粋な販売業者が原則として設計上の欠陥と製造上の欠陥 についての製造物責任を負わないことについて、同様に一致が存在する。本件は、いずれの分 類にも属さない。従来の判例を考慮するなら、以下のように確定できる。販売業者が、販売し た商品について危険な性質がないことを検査する義務があるのは、販売業者が例えば損害事例 を知っていたなど、特別な根拠から、その契機が存在する、あるいは、個々の事例の事情によ り検査が考えられる場合のみである。そして、その場合でさえ、この検査義務は、主に製造上 の欠陥に及ぶ。設計上の欠陥についての商品の検査義務、あるいは、それについての照会義務 はなおさら存在しない。11)
設計上の欠陥、製造上の欠陥に対する販売業者の検査義務に関する判決を見たが、製品の欠 陥を検査する義務は、本来的に製品を製造する者が負うものとされている。したがって、販売 業者は、原則として製品の欠陥に対する検査義務を負わず、検査義務があるとされる場合であ っても、それは、その契機が存在する、あるいは、事件における特別の事情から例外的に認め られているにすぎない。
1.2. 目視による検査
原則として、販売業者には、欠陥に対する検査義務がないとされるが、以下の判決でみられ るように、目視の検査は、費用がかからず、販売業者に期待可能である。また、いずれにして も、商品の輸送、貯蔵、詰め替え、あるいは、包装の際に目に入る欠陥に注意すべきである12)。 したがって、目視による検査で認識可能な欠陥が存在する製品について、販売業者が製品の使
用者への供給を差し止めず、それにより損害の発生を阻止できなかった場合は、販売業者の義 務の違反があったとされる13)。しかし、これに関しても、さらに例外が認められている。
[魚切り身事件]
区裁判所は、食品必需品法
17
条1
項の過失による違反に基づき、当事者に同法53
条1
項、52
条1
項9
号により300
マルクの科料を認め、これに対し、当事者が抗告をなした。区裁判所は以下の事実を認定した。当事者は、部長で、H社の魚部門を担当していた。証人
Z
はそこで約3
㎏のタラの切り身を購入し、自宅で「魚の悪臭がした」。3枚の切り身が灰色か ら緑に変色していた。次の日に、証人のB
博士が魚を調べ、3枚の切り身が、灰色から灰緑色 を呈し、表面は緑に光り、さらに、魚肉は柔らかく、表面は粘ったかゆ状で、筋節はなくなっ ていた。また、区裁判所は、証人W
が購入した魚は、H社が流通させた何トンものタラの切り 身のうち、唯一、腐敗したものである可能性があるとした。[判旨]
区裁判所が、当該魚の切り身の販売について、食品必需品法
17
条1
項の客観的違反がみられ るとしたことは妥当である。切り身は、営業上流通に置かれる食品として、飲食に適さないも のであった。しかしながら、当事者が過失で行為したか、また、その範囲については、法的には読み取る ことはできない。
区裁判所は、部長として注意深く義務を履行すれば、当事者は、腐敗した魚を認識でき、よ り分け捨てなければならなかったと非難するが、この叙述では、当事者の過失を承認したとは いえない。異議申立てがなされた判決は、いかに当事者が注意義務を果たすべきかについての 確定がなく、それがなされねばならない。
購入者が臭いに襲われた異議申立てがなされた魚の切り身の状態は、他の認定がなくとも、
販売者を、その注意義務の違反について非難するのに通常は十分である。販売者が、さらに調 べることなく、直ちに、不快な態様で腐敗が進行した商品を販売したときは、販売者が注意義 務を果たしていなかったことは、一般的な生活経験に該当する。このように目につくことをも って、販売者は、遅くとも販売の際に腐敗に気づき、商品を流通から取り除くことができる。
健康の保護と消費者の思い違いの防止のため、食品販売業者の注意義務には、最高度の要件が 定立される。特に容易に腐敗する商品については、これに魚が属するが、販売者が、商品が販 売の際になお要件を充足するか誠実に配慮しなければならない。
しかしながら、それに対し、個々の事件の特殊性は考慮せざるえない。この場合、そのよう な特殊性が存在する。区裁判所は、異議申立てがなされた魚について、何トンもの販売量のう ちの唯一腐敗したものが問題となったことはありうるとした。そのような大量の販売は、遵守
すべき注意義務の態様に関し、上述の通常のケースと直ちに比較することはできない。責任の ある販売者は、魚の貯蔵、輸送、販売のため、事情により、補助者を引き入れ、おそらく監視 機能とコントロール機能を委ねねばならない。この場合、義務違反は、人的および物的コント ロール行為の懈怠においても、十分注意がはらわれなかった補助者の選択、指導、コントロー ルにもある。特に、いかに販売員が、指示され監視されるか、販売員に自己責任の検査の任務 を委ねることに責任があるのか、商品の早い腐敗性を考慮して監視のためにいかなる指示が与 えられるかは重要である。
この点で義務違反が認められるという一般的な経験は、ここでありうるとされていたような、
ロスの量が極端に低い場合には成立しない。14)
切り身について、一見して腐敗が明らかで、それにもかかわらず、これを除去しなかった場 合には、販売業者の義務の違反が認められるとする。そして、このような目視による検査につ いて、販売業者が関与する輸送、貯蔵、詰め替え等で考えられるとするものの、しかし、商品 が大量に販売される場合には、補助者の使用の責任も問題となり、欠陥があるものがごく少量 の場合には、義務違反による責任は問えないとする。このような視点は、以下のマーマレード 事件でも見られる。
[マーマレード事件]
原告は、瓶入りマーマレードを購入しようとし、瓶を手に取った時、これが高い圧力により 爆発した。その結果、原告の手のひらのアキレス腱が切断され、右手が不自由になり、これに 関する損害賠償請求がなされた。
[判旨]
原告によれば、その破裂が負傷をもたらした瓶が、冬の寒い天候により凍結したことをもっ て、被告が原告に対して負う社会保安義務の違反があり、さらに、被告は、トラックの到着の 際にパレットを降さざるえないことを考慮しければならなかったとする。
この事実の申立ては、主張された被告の義務違反を根拠づけない。事故は
1978
年11
月18
日12
時40
分頃に起きた。気象庁の案内によれば、17
日から18
日14
時まで、問題の地域では、寒い天候ではなかった。温度は、17日朝から
18
日14
時まで、0.5度と10
度の間を変動した。瓶の中身の凍結と、それを前提とする、触れた際の瓶の破裂は、排除することはできない。
控訴の申立ては、瓶の破裂の原因を根拠づける事実の申立てを含まなかった。輸送中に生活 経験上明白で多様な破裂の可能性が存在するという一般的な指摘は、損害賠償義務を根拠づけ る社会保安義務の違反には十分ではない。原告の主張が認められるのは、被告に対し過失と無 関係な危険責任により請求しうる場合のみであるが、本件では妥当しない。
いずれの対象物も不注意な取扱いの際には危険でありうることは正しい。しかしながら、被
告を義務づける社会保安義務は、社会生活上必要な注意が示すものより広範に及ばない。した がって、あらゆる損害の可能性の防止は求めることはできない。
個々の瓶をすべて検査することを被告に求めることは、要求された注意の過度の緊張である だけではなく、被告が営むセルフサービスの販売形態を不可能とする15)。
搬入、陳列といった、販売に至るまでの販売業者の行為に伴う目視の検査といっても、様々 な原因に基づく、様々な観点が存在し、それを大量の商品について、セルフサービスの販売形 態のもと行うことは、販売業者に期待できないのである。
このほか、販売業者の検査義務について、ドイツ商法
377
条との関係が問題とされる。同条 は、売買が当事者双方にとり商行為であるときは、買主は通常の営業活動上なしうる限り、売 主から商品の引渡しを受けた後遅滞なく検査し、瑕疵が認められた時は、遅滞なく売主に対し て通知をしなければならず(1 項)、買主がこの通知を怠った場合は、検査に際し知ることがで きなかった瑕疵でない限り、その商品を承認したものとみなされる(2 項)。これは、商品が契 約に適ったものとみなすことであり、具体的には、民法437
条の権利(追完、解除、代金減額、損害賠償)、民法
320
条の同時履行の抗弁権、民法478
条2
項の費用の償還、欠陥についての錯 誤による民法119
条2
項の取消権などが排除される。また、検査後に瑕疵を発見した場合には、遅滞なく、通知をしなければならならず、通知を怠る場合は、この瑕疵についても、商品を承 認したものとみなす(3項)とする16)。商法
377
条による、商品を引渡しの直後に調査する検査義 務は、販売業者が売主に対して負うものであり、販売業者の購入者に対する義務ではない。ま た、この義務の違反により、販売業者がその売主に対し請求ができなくなるのみであり、販売 業者からの購入者が損害賠償など何か請求することはできない17)。また、商法377
条による検 査で判明するか否かを問わず、製品の危険に関する具体的な疑念があれば、検査など必要な措 置をとるべきである18)。しかし、表面的な検査の際に認識可能な瑕疵に注意する義務、さらに、売買法の義務に適合するよう、組織的な措置をとったのであれば、この範囲において、商品の 検査が、販売業者にとって期待可能であり、社会生活上の義務となる19)。
2. 義務の拡大
1.1
で見たように、原則として、販売業者には、検査義務は認められないとされる。販売の態 様や、製造者との関係性も多様である。このような、ケースごとの特別な事情が加わった際に は、検査義務の範囲も変動する。例えば、購入者自らがいずれにしても製品に関して措置をと ることを認める契機が根拠づけられる場合には、販売業者の検査義務は完全に否定されうる20)。 それとは逆に、特別の事情により、広範な検査義務、製品監視義務を販売業者は負うことがあ り、販売業者は、究極の場合には、当該商品の販売を中止する義務を負う21)。本項では、販売業者の検査義務を中心として、販売業者の義務の拡張がみられるケースを類型に分け検討する。
2.1. 社会生活における期待の上昇
社会生活において、販売業者が特定の点について検査することを例外的に期待される場合に は、販売業者は検査を実施しなければならない。検査についての期待は、その製品ごとの平均 的な購入者によるものが基準となる。販売業者によるコントロールが普通であるとの観念が存 在するならば、それは検査の理由となりうる。購入者が販売業者に専門知識を期待する場合、
それが販売業者の専門性に基づくものであれ、販売業者が特別の専門知識を強調するためであ れ、当てはまる22)。
社会生活において販売業者について検査に関する期待が上昇することは、新車の販売に見ら れる23)。これに関する判決を挙げ、そこにあらわれる販売業者の検査義務をみたい。
[スクーター事件]
原告は、被告からスクーターを購入し、被告はスクーターを原告の自宅に運んだ。翌日、原 告は、その妻を後部座席に乗せ走行した。原告が横道から時速
10
キロで約4
センチ高い連邦道 路を走行しようとしたところ、スクーターとともに転倒し、原告の妻は、転倒の際、左足を複 雑骨折した。原告は、ハンドルがスクーターとしっかり結合しておらず、スクーターは安全な 状態で供給されなかったとして、被告に事故に対して責任があると主張した。[判旨]
(約款による請求は検討する必要はなく、原告は、積極的契約侵害に拠ることだけで損害賠償
請求を根拠づけることがきるとする。)控訴裁判所は、スクーターの販売業者に、製造所から使用できる状態で供給された機械につ いて、それがきちんと組み立てられ、したがって、絶対的に安全かについて細部まで検査する 義務があるのか検討し、これを否定した。理由として、控訴裁判所は、そのような義務は、販 売業者が、すぐに使用できる状態で供給された機械を細部まで検査しなければならない義務を 意味し、それは、使用の安全性にとって特に重要な機械の細部を分解する場合に限って可能と なるからであると述べた。
販売業者が、商法
377
条により、そのような検査義務を持つのか、それはどの範囲かについ ての議論は不要である。なぜなら、そのような義務の違反は、納入業者に対する瑕疵担保責任 の喪失にのみに至り、買主に対する損害賠償義務には至らない。販売業者のいずれの義務も排 除されるわけではなく、少なくとも、表面的な検査の際に認識可能な瑕疵に注意する義務は排 除されない。上告が当然強調したように、輸送の間に、部品が緩み、曲がって駄目になる可能 性は存在する。しかし、原告は、主張したハンドルの固定の瑕疵が、そのような検査の際に、被告に認識可能なはずであったことと、その理由について、何も提示していない。買主は、ま た、契約約款により通常の枠内で試乗の請求ができた。当事者の一致した申立てによれば、試 乗は実施され、瑕疵は明らかにされなかった。
原動機付き車両の販売業者が、その信頼性を疑う契機のない自動車製造者から購入したなら ば、その顧客に対して過失がなかったといえる。なぜなら、販売業者は、表面的な検分と通常 の枠内での試乗に限定され、その際、車両の、この場合、操縦設備に安全性がないことを認め なかったからである24)。
判決では、引渡しの際に、目視の検査と試乗により安全性を確認する義務が認められている。
これらを通じて安全性の問題が明らかにならなければ、負荷検査、測定検査といった、さらな る検査は期待されない。25)
また、ここで要求される目視の検査について、機械の細部まで分解するような検査でないこ とは明らかであるが、それはどの程度のものが要求されるのであろうか。これに関して以下の 判決を検討する。
[フォード車事件]
原告は、7月
25
日に、被告であるフォード販売業者から書面による売買契約で新車を購入 した。被告は、9
月28
日に、自動車マイスターにより、原告用の自動車に引渡検査を行わせた。被告は、
10
月1
日に、原告の希望により、その自動車を隣の自動車販売店E
に持って行き、さ び防止処理を受けさせ、10
月2
日に原告に持っていった。装備の取付けのため、E
のところで、自動車は整備用架台に乗せられ、タイヤが外された。被告の従業員
T
との試乗の後、原告は代 金を支払った。原告は、10月7
日に、高速道路上の上で、110キロのスピードで多数の自動車 に追突した。原告が5
名の者と自動車を一般道で運転したとき、自動車がスピンし、追越車線 に行き、中央分離帯に衝突した。事故後の認定によれば、右後輪のチューブのないフォード車のタイヤから空気が完全に抜け ていた。原告は、車輪内側のリムに
8
センチの外側への湾曲(へこみ)があり、それによって右 車線へ曲がる際に空気が抜け、自動車に負荷がかり、タイヤビートが外れたことが事故の原因 であると主張した。リムのへこみは、すでに、自動車の引渡しの前に存在し、装備の取付けの 際にE
の見習が認めていた。[判旨]
契約約款自体には、引渡検査と、そこから導き出される請求権は記されていない。それに対 し、被告により提出されたフォード社のコントロールと検査サービスの分冊では、引渡検査は 費用がかからず、供給するフォードの販売業者の作業場で通常は実施すべきと指示している。
これにより、社会で安全な瑕疵のない自動車を譲渡してもらうことへの信頼が強化されること
になる。そのような特別の検査は、原告から、購入した自動車に該当する検査を広範に引受け ることになる。被告がこの契約義務の注意深い履行の際に免責されることは、新車販売につい ての契約約款からは、何も触れられていないため、読み取ることはできない。すでに、この理 由から、普通契約約款に含まれる免責条項は、指定商人(一手販売業者)により同様に費用をか けず実施される
1000
キロ検査、それどころか、特別巻にあるさらなる検査に拡張されないのと 同様に、引渡検査に拡張されない。引渡検査は、フォードの販売業者により外的注意をもって 実施されることを購入者が信頼できなかった場合は、購入者についても意味がなかった。した がって、自動車販売の指定商人が、この義務の過失による違反に基づく請求権から免責される ことは決して明らかではない。これが意図される場合、このことは、明確な誤解のない規定に より原告に表明されねばならなかった。26)引渡検査は、外的注意をもって実施されるべきであり、また、少なくとも明文の免責規定が ない限り、このような検査をなす義務の違反による請求権から免れないとする。目視の検査と はいえ、それは決して簡単な形式的なものではなく、いわば徹底的な、システマティックな目 視コントロールが要求され、いかなる部分に注目して行うかは、特定の製造業者のいかなるタ イプの自動車かなど、個々のケースによる27)。
このほか、販売会社が道路交通規則の一般運行許可の主体として認められている場合、これ は検査義務に対しいかなる意味を有するであろうか。
OLG Oldenburg, Urt. v. 19. 2. 1975 2 U 140/74
被告は、外国の自動車製造者の独立した販売会社である。原告は、被告の指定商人から自動 車を購入し、それにより、原告と第二原告は事故に遭い、重傷を負い、被告に損害賠償を請求 した。
[判旨]
たとえ被告が一般運行許可の保持者で過去も現在もあったとしても、被告には、ドイツに向 けて販売された
X
自動車を、工場側が隠れた技術的欠陥と瑕疵がなく供給したか完全に検査す る義務はなかった。付与された一般運行許可は、自動車の性質が法的要件を充たしている、す なわち、法で規定されている技術的装置、例えば、ブレーキ、ライト、警報装置が使用できる という事実上の推定のみを根拠づけ、社会生活上安全な構造と装置の承認ではない。一般運行 許可を持つ会社は、会社に与えられた信頼に基づき、一般運行許可で示されている性質が自動 車に実際備わっていること、すなわち、法的要件に合致していることの保証を引き受ける。し たがって、一般運行許可の保持者は、販売した自動車が製造に条件付けられた瑕疵がないこと の保証を課されるわけではない。被告が、例えば、パリの工場の完成部品を購入し、自己の工 場で組み立て、それゆえ、製造者に妥当することは、原告は主張していない。28)販売業者が一般運行許可を有していたとしても、それをもって、自動車を隠れた技術的欠陥・
瑕疵まで検査する義務を認めることにはならず、製造に起因する瑕疵がないことまで保証する わけではないのである。
また、製造技術とコントロール技術は絶え間なく進歩するが、いずれにしても、追加任務を 行わなくてよい販売業者に、製品コントロールのためだけに高価な測定技術に投資することを ほとんど期待できないことは決定的であり、商品が複雑であるほど、そして、品目が多いほど、
いっそう期待できない。販売業者にこれらを求めることは、事実上、販売業者を製造業者のよ うに扱い、そのような二重の機能を負わせることは、著しい国民経済上の不利益といえる29)。 最終購入者は、契約上引き受けられた検査もまた行われることを信頼する。販売業者が、検 査義務を、購入者に対してではなく、自己の供給者に対して、卸売業者あるいは製造者に対し て、受け入れているならば、いずれにせよ、販売業者は、社会生活上の義務により責任を負う30)。
(以下、次号に続く)
注
1) ドイツ製造物責任法について、Hans Claudius Taschner/ Edwin Frietsch, Produkthaftungsgesetz und EG-Produkthaftungsrechtlinie: Kommentar 2. Auflage, 1990; Friedrich Graf von Westphalen, Produkthaftungshandbuch Band 2 2. Auflage, 1999; Walter Rolland, Produkthaftungsrecht, 1990; Hans Josef Kullmann ProdHaftG Kommentar 5. Auflage, 2006. 日本の製造物責任法について、経済企画庁国民生活局消 費行政第一課編『逐条解説 製造物責任法』(商事法務研究会 1994年)、通商産業省産業政策局消費経済課 編『製造物責任法の解説』(通商産業調査会 1994年)、升田純『詳解製造物責任法』(商事法務研究会 1994 年)
2) ドイツにおいて、Taschner/ Frietsch, a.a.O., §15 Rn. 55 ff.; Westphalen, a.a.O. [Fn. 1], §82 Rz. 12 ff.;
Rolland, a.a.O., TeilⅠ§15 Rn. 71 f.; Kullmann, a.a.O., TeilⅠ§15 Rn. 11 ff. 日本において、通商産業省編前出 173頁以下、経済企画庁編前出126頁以下、升田前出1098頁以下。
3) 販売業者の責任根拠については、拙稿「ドイツにおける製品に対する販売業者の責任根拠について」東京外 国語大学論集第77号209頁以下(2008年)において、詳しく検討したので、そちらを参照されたい。
4) 前者の義務については、拙稿「ドイツにおける製品に対する販売業者の義務(1),(2・完)」東京外国語大学論 集第79号201頁以下(2009年)、第83号185頁以下(2011年)で扱った。
5) Joachim Schmidt-Salzer, Die Bedeutung der Entsorgung- und der Schwimmerschalter-Entscheidung des Bundesgerichtshof für das Produkthaftungsrecht, BB 1979, 1, 4 f.; Hans Josef Kullmann, Die neuere höchstrichterliche Rechtsprechung zur deliktischen Warenherstellerhaftung, WM 1981, 1322, 1325; Gert Brüggemeier, Produzentenhaftung nach §823 Abs. 1 BGB, WM 1982, 1294, 1307 f.; ders., Subjektive Zurechnungsprobleme bei deliktischen Produzenten Haftung , Jura 1983, 133, 134 f.; Horst Kossman, Der Handel im System der Produkthaftpflicht, NJW 1984, 1664, 1664; Soergel, Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch Schuldrecht Ⅰ/2, 11. Auflage, 1986, §433 Rz. 173 f.; Joachim Schmidt-Salzer, Produkthaftung Band Ⅲ/1: Deliktrecht 1. Teil 2. Auflage, 1990, Rz. 4.385 f.; Rolland, a.a.O., TeilⅡ§15 S.356; Friedrich Graf von Westphalen, Produkthaftungshandbuch Band 1 2. Auflage, 1997 §26 Rz. 20 ff.; Palandt, Bürgerliches Gesetzbuch 54. Auflage, 1994, §433 Rn. 18; ders., Bürgerliches Gesetzbuch 71. Auflage, 2012, §433 Rn. 33,
§280 Rn. 19 f.
6) RGZ 125, 76, 77 f.
7) BGH NJW 1980, 1219, 1219.
8) OLG Celle VersR 1981, 464, 464.
9) OLG Celle VersR 1981, 464, 464.
10) BGH VersR 1960, 855, 856.
11) OLG Hamburg VersR 1984 793, 794.
12) 販売業者には、通常は、以下の措置について責任がないとされる。
・使用目的とされるものにとっての製品の有用性に関する検査の実施
・設計資料への取組み
・非破壊検査、破壊検査の実施
・機能検査、耐久検査の実施
・状況に応じて必要な使用可能性と信頼性の主張と評価の確認
・化学製品の構造、技術的製品の詳細
・製造者が添付した使用説明書、警告の指示等について十分に完全で明確であるかという観点での検査
・機械が必要な防止措置を備え、自動車が社会生活上安全で、作業道具が使用上安全かについての検査
・自動車、技術的機器が、承認された技術規程に従っているかについての検査 Schmidt-Salzer, a.a.O. [Fn. 5] Band Ⅲ/1, Rz. 4.394.
13) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 20 f.; ders., Jura a.a.O.[Fn. 5] 134 f.; Schmidt-Salzer, a.a.O. [Fn. 5] Band Ⅲ /1, Rz. 4.385, 386.
14) OLG Düsseldorf, Urt. v. 23. 7. 1980, Joachim Schmidt-Salzer, Entscheidungssammlung Produkthaftung Band
Ⅳ, 1982, Ⅳ.24 S.265 f.
15) OLG Nürnberg ZfS 1983, 161, 161.
16) Münchener Kommentar zum Handelsgesetzbuch Band 6 Viertes Buch. Handelsgeschäfte Zweiter Abschnitt.
Handelskauf Dritter Abchnitt. Kommissionsgeschäft §§ 373-406, CISG 2004, § 377.
17) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 21; ders., Jura a.a.O.[Fn. 5] 134 f.; Schmidt-Salzer, a.a.O. [Fn. 5] Band Ⅲ/1,
Rz. 4.386 また、後出2.1のスクーター事件の判旨もこれに関し触れている。
18) Westphalen, Jura a.a.O.[Fn. 5], 134; Soergel, a.a.O., §433 Rz. 173.
19) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 21.
20) そのような例として、例えば、以下のOLG Zweibrücken NJW 1987, 2684がある。
原告は、健康保険組合であり、被保険者のRは、Xのマークが付いた自転車で転倒し、重傷を負った。クラ
ンクの破損部分の溶接が不十分だったため、自転車のクランクの右ペダルが折れ、Rの事故に至った。この クランクはX社が被告から購入したが、被告は、破損したクランクをユーゴスラビアのT社から輸入した。
判決は以下のように述べる。
特別の注意義務と検査義務の承認は、購入者である自転車の製造者であるX社により、いずれにしても、製 品コントロールが行われることを被告が前提としてよいことから、否定される。そのようなコントロールは、
X社が実行する。証人によれば、X社は品質コントロールの独自の部門を使用でき、一定のシステムにより 供給部品に統計的評価に基づきコントロールを受けさせている。このような事情から、被告によるこれを超 えるコントロールの契機はないとして、被告の検査義務を認めなかった。
21) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 21; ders., Jura a.a.O.[Fn. 5] 134 f.; Schmidt-Salzer, a.a.O. [Fn. 5] Band Ⅲ/1, Rz. 4.386.
22) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 21.
23) これに対して、中古車の販売においては、判例によれば、購入者には、一般的な調査義務は存しない。検査 義務が生ずるのは、売買の目的物に瑕疵があることの疑いが生ずる一定の根拠が存在する場合である。
一般的な調査義務は、中古車販売業者にも存しないため、中古車販売業者に、販売する自動車が調査も検査 も受けていないことを、自ら進んで示すことを要求することはできない。また、購入者の事故損害に関する 質問により、さらなる調査義務は生じない。たしかに、この質問がなされたことで、中古車販売業者がこの 質問に回答する義務は認められるが、自動車を検査し、素人の購入者に報告する義務は、専門家である販売 業者が瑕疵の具体的徴候を購入者より目にしやすいこと、さらに、購入者が取得の危険を不相当に見ている
ことの衡量において法的正当化がみられる。
調査義務の発生の十分明白な根拠は、中古車販売業者が、個々の事件の諸事情により、瑕疵への具体的疑念 に根拠があるとする場合に存する。中古車販売業者が、瑕疵や過去の事故を知っているならば、その場合に 介入する調査義務の結果、(故意の沈黙の非難の責任を免れるには)これを購入者に伝えなければならない。
いずれにしても、購入者の質問に対して、販売業者は知っていることはすべて明らかにしなければならない。
これに対し、この表明義務が生じないのは、中古自動車の瑕疵・欠陥が些細なもので、合理的に考えて、さ らに、中古自動車という特別の事情を考慮して、購入の決定に影響しない場合である。そのような報告の必 要のない些細な傷として考慮されるのは、乗用車では、さらなる結果が生じないが、修理に数百マルクかか るとしても、全く些細な外部の塗装の傷のみであり、外部の金属板の傷は入らない。BGH NJW 1977, 1055 ff.;
BGH NJW 1979, 1886 ff.; BGH NJW 1981, 928 ff.; BGH NJW-RR 1987, 436 f.; Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §4 Rz.
30 ff.
24) BGH VersR1956, 259, 259 f.
25) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 24; ; Soergel, a.a.O., §433 Rz. 176.
26) BGH NJW 1969, 1708, 1710.
27) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], §26 Rz. 24; Soergel, a.a.O., §433 Rz. 176.
28) Joachim Schmidt-Salzer, Entscheidungssammlung Produkthaftung BandⅡ, 1979, Ⅱ.39 S. 364 ff.
29) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], § 26 Rz. 24.
こうした見解に反対するものも存在する。これによれば、販売業者に専門知識を、特に複雑な商品について
期待できないという事情のみでは、販売業者が責任を免れる根拠にはならず、コントロール技術は、すでに 製造の際に使用されているが、卸売業者の任務としても見なされねばならないとする。そして、連邦通常裁 判所の判決とは異なり、例えば、自動車の購入の際には、自動車の試乗と自動車の検分だけでは不十分であ り、あらゆる複雑な技術的設備について、装置による技術水準にしたがった品質コントロールが行われるべ きであると主張する。Kurt Kuchinke , Die Risiken der Beweisführungsklagen gegen den Produzenten, Festschrift für FRANZ LAUFKE zum 70. Geburstag S. 121 f., 1971.
30) Westphalen, a.a.O.[Fn. 5], § 26 Rz. 27.
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升田純『詳解製造物責任法』(商事法務研究会 1994年)