九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
地域住民の互助を創発する地域情報化に関する研究
佐藤, 忠文
http://hdl.handle.net/2324/1937185
出版情報:九州大学, 2018, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
地域住民の互助を創発する地域情報化に関する研究
A Study on the Formation and Development of Regional Information Technology to Create Mutual Assistance of Local Residents in Contemporary Japan.
佐藤 忠文 Tadafumi Sato
2018年6月
目 次
序章 はじめに
1. 研究の背景 ···
2. 研究の目的 ···
3. 論文の構成 ···
4. 先行研究 ···
5. 研究の位置付けと意義 ···
6. 用語の定義 ···
第1章 地域情報化の展開と互助
1. 本章の視点 ···
2. 地域情報化政策の変遷 ···
2.1. 情報化社会論の展開(1960年代) ···
2.2. ニューメディアの実験(1970年代) ···
2.3. 情報開発の成立と展開(1980年代) ···
2.4. インターネットの登場と通信インフラ整備(1990年代) ···
2.5. ICT利活用の推進とハードからソフトへの転換(2000年代) ···
2.6. シビックテックと情報資源への着目(2010年代前半) ···
3. 地域情報化とまちづくりの関係 ···
3.1. 地域コミュニケーションと地域主義 ···
3.2. 市民メディアと住民によるメディア活動 ···
3.3. 住民主体の情報化と地域プラットフォーム ···
3.4. まとめ ―地域情報化と互助― ···
4. 地域情報化の課題 ···
第2章 文化資源まちづくりにおける地域情報化の役割
―菊池文化資源総合調査研究とその発展過程への参与観察を通して―
1. 本章の視点 ···
2. 研究方法と対象 ···
3. 熊本県菊池市と文化資源まちづくりの展開 ···
3.1. 熊本県菊池市の概要 ···
3.2. 中間支援組織「菊池養生詩塾」···
3.3. 菊池文化資源総合調査研究 ···
4. 自治体文化政策の視点から見た菊池研究 ···
5 7 8 9 11 13
18 18 18 18 19 20 21 23 24 25 26 28 31 31
37 37 37 37 38 40 49
4.1. 自治体文化政策の基本モデル ···
4.2. 基本モデルに基づく分析 ···
5. 文化資源まちづくりの発展 ···
5.1. 菊池市域学連携事業 ···
5.2. 高校魅力化の支援 ···
5.3. 外部支援人材の活用及び移住定住支援 ···
5.4. 都市整備への住民参加の促進 ···
5.5 シビックテック ···
6. 文化資源まちづくりにおける互助のプロセス ···
6.1. 創造的な市民学習 ···
6.2. 市民団体による中間支援活動の展開 ···
6.3. 対話と交流の創出 ···
6.4. まとめ ―人材の顕在化とネットワーク化― ···
7. 小結 ―文化資源まちづくりにおける地域情報化の役割― ···
第3章 住民との対話と交流による地域プラットフォームの構築と評価
―「菊池まちづくり道場」の実践を通して―
1. 本章の視点 ···
2. 地域コミュニケーションと対話 ···
2.1. 非日常的な対話 ···
2.2. 日常的な対話 ···
3. 研究目的と方法 ···
4. 菊池まちづくり道場の成立と運営 ···
4.1. 菊池まちづくり道場の経緯 ···
4.2. 菊池まちづくり道場の運営 ···
5. 菊池まちづくり道場の影響 ···
6. 菊池まちづくり道場の評価 ···
6.1. 参加者アンケートによる評価 ···
6.2. 地域プラットフォームとしての道場の評価 ···
6.3. 地域プラットフォームの特徴 ···
6.4. 地域プラットフォームの課題 ···
7. 小結 ―ダイアログ・プラットフォームとその課題― ···
49 50 51 52 56 58 59 61 62 62 65 67 71 71
75 75 76 76 77 77 77 84 87 89 90 94 96 98 99
第4章 文化資源情報のアーカイブに関する考察
―地域デジタルアーカイブに着目して―
1. 本章の視点 ···
2. 地域デジタルアーカイブの展開 ···
2.1. 地域デジタルアーカイブの始まり ···
2.2. 地域デジタルアーカイブと地域情報化 ···
2.3. 地域デジタルアーカイブの普及 ···
2.4. 地域デジタルアーカイブの変遷 ···
3. 地域振興型のデジタルアーカイブの特徴と課題 ···
3.1. 石川県「石川新情報書府」 ···
3.2. 京都市「京都デジタルアーカイブ」 ···
3.3. 上田市「地域映像デジタルアーカイブ」 ···
3.4. 地域振興型の特徴 ···
3.5. 地域振興型の課題 ···
4. 住民参加型の地域デジタルアーカイブの特徴と課題 ···
4.1. 地域住民参加型デジタルアーカイブ ···
4.2. 公共図書館による地域資料サービスの拡充 ···
4.3. 住民参加型の特徴 ···
4.4. 住民参加型の課題 ···
5. 小結 ―地域デジタルアーカイブとコミュニケーション― ···
第5章 文化資源情報の再利用に関する考察
―オープンデータとオープンリソースに着目して―
1. 本章の視点 ···
2. 文化資源情報を再利用する取り組みの整理 ···
2.1. デジタルアーカイブのオープン(データ)化 ···
2.2. オープンデータの境界問題 ···
2.3. 石川県能美市「ウルトラアート」 ···
2.4. 文化資源コンテンツの再利用へ向けた視点 ···
3. オープンリソースの整理 ···
3.1. オープンリソース事例の抽出 ···
3.2. 文化資源コンテンツの公開状況 ···
3.3. オープンリソースの定義 ···
4. オープンリソースに対する事例分析 ···
4.1. 熊本県立装飾古墳館による装飾文様の公開 ···
103 103 103 104 105 106 106 106 108 111 112 114 117 118 119 123 125 128
135 135 135 137 139 141 143 143 149 153 154 154
4.2. ゆるキャラ「くまモン」デザインの公開 ···
4.3. 自治体文化政策モデルによる考察 ···
5. 小結 ―交流の視点から見た課題― ···
第6章 住民の互助を創発する地域情報化の方法
1. 本章の視点 ···
2. 地域情報化の再考 ···
2.1. スペース・メディアの再評価 ···
2.2. アーカイブと再利用を促すコミュニケーションの検討 ···
2.3. 住民が語る知恵や経験の利用に対する政策的位置付け ···
3. 住民との対話を資源に互助を創発する地域情報化の方法 ···
終章 結論
1. 本章の視点 ···
2. 総括 ···
2.1. 地域情報化の展開と互助 ···
2.2. 文化資源まちづくりにおける地域情報化の役割 ···
2.3. 住民との対話と交流による地域プラットフォームの構築と評価 ···
2.4. 文化資源情報のアーカイブに関する考察 ···
2.5. 文化資源情報の再利用に関する考察 ···
2.6. 住民の互助を創発する地域情報化の方法 ···
3. 多元的な地域情報化の実現 ···
4. 今後の展望 ···
4.1. スペース・メディアにおける地域コミュニケーション方法の調査と分析 ···
4.2. 聴き手の個人的資質におもねらない対話体験の醸成 ···
4.3. 再利用と交流を促すライセンス形態及び通知の仕組み作り ···
4.4. 住民との対話を資源に互助を創発する地域情報化の方法の実践と評価 ··
謝辞 ···
158 159 161
165 165 165 167 168 169
174 174 174 174 175 175 176 176 177 179 179 179 180 180
182
序章 はじめに
1. 研究の背景
1.1. 地域の疲弊と情報化
地域の疲弊が叫ばれて久しい。シャッターの閉まった商店街はますます閑散としている。
集落には空き家が目立ち、耕作放棄された田畑が増え、学校の統廃合により廃校舎すら日 常的な景色になった。人口の流出、減少は続き、消滅が取り沙汰される地域も多い。
敢えて述べるまでもなく、このような状況は単一の要因から発生したわけではない。い くつもの要因が複雑に絡み合い生まれてきたものである。中でも核家族化等によるライフ スタイルの個別化と多様化、自動車保有率の向上等による生活空間の都市化と広域化が進 展し、さらには社会の情報化が、そのような暮らしを支えるテクノロジーを提供してきた ことの影響は大きいと考えられる。特に、情報通信技術の普及とそれを用いた新たな地域 メディアの登場は、地域コミュニケーションの変化を促進し、インターネットの登場やス マートフォン等ICTツールの爆発的な普及によって、地域の暮らしの有り様を一変させて しまった。
しかし、そのような状況の中にあって各地域は、住民による互助の機能を再生し、内発 的で持続的な発展を目指すまちづくりの諸活動に、ますます取り組むようになっている。
そして、情報化の側面から互助の問題に取り組んで来たものの一つが、地域情報化である。
1.2. 地域情報化政策の停滞と再考の必要性
地域における情報化の進展は、1960年代に遡ることが出来る。当時論じられた情報化社 会論は、一種の未来学として文明論を広く展開し、高度経済成長以後の日本社会のあり方 を決定付けていった。その結果、情報通信ネットワークが新たなインフラとしての地位を 獲得し、同時にその地域間格差の是正が課題となった。そして、各地で新たな地域開発政 策としての地域情報化政策が展開されるようになる。
我が国の情報化社会論は、脱工業化社会論に先駆けたものであり、当然これらの地域情 報化政策は、地域における情報産業の育成を目的の一つとしていた。しかし同時に、コミ ュニティの再生を目的に掲げ、従来のムラ社会が持ち得ていた互助の機能に代替するもの を、社会の情報化に対応した形で現代へと構築する試みが進められて来た。中でも行政と 住民、または住民間でのコミュニケーションを支援する地域メディアの導入が進んだ。こ れらの地域メディアは、1990年代のインターネットの登場を経て「電子市民会議室」や「地
域SNS」へと発展、地域情報化の旗手として全国の自治体に導入が進められて行くことに
なる。
これらの地域メディアは、前述したように個別化、多様化、都市化、広域化を果たし、
さらには情報化が進む地域にとって、従来の方法では困難となった地域内のコミュニケー ションを補完し、また地域外との積極的な交流を作り出した意味で一定の評価が可能であ る。しかしその後、自治体により次々と導入された地域メディアの多くが終了を余儀なく され、他方グローバルに展開する情報サービスが国内に流入、その役割を代替するように なった結果、今ではその効果が疑問視されつつある。
加えて、この過程で「住民主体の地域情報化」への注目が高まるようになる。これは、
住民自身が主体的に行動することで進められた地域情報化活動のことを意味する。1980年 代のパソコン通信による「草の根BBS」やケーブルテレビにおける「住民ディレクター運 動」、生涯学習を支援する「インターネット市民塾」、さらには「地域SNS」の展開におい て、住民自身の活躍が重要な役割を果たした。これらの活動は 2000 年代に入り、そこに 互助を生み出す構造が明らかにされ、新たな地域情報化の方向性として理論化が進められ ていった。
しかしながら、これらの活動もその後は停滞する状況に至っている。このような事態か らは、かつて理論的に想定された情報化社会が一定の達成を見る現代において、従来の視 点を再考し、理論的にも実践的にも、地域再生に対する地域情報化のアプローチを再検討 して行く必要があると考えられる。
1.3. 文化資源まちづくりと互助
前述したように、地域再生を目指すまちづくりの諸活動はさらなる広がりを見せている。
その中でも新たな地域資源を発見、発掘し、その資源活用により地域の再生を目指す取り 組みが進んでいる。
ここまで、暗黙の内に述べてきた地域とは、相対的な概念と言える。中心に対する周辺、
中央に対する地方、都会に対する田舎、これらのうち後者を意味するものが本論の扱う「地 域」である。このように捉えた場合、例えば一般的な経営資源(ヒト・モノ・カネ)が、
対となる中心側に集中して行く中で、簡単には移転できない地域固有の資源に着目するこ とにより、持続的な地域の再生が可能となる。
その中でも地域固有の資源の一つとして注目されてきたものに「文化資源」がある。文 化資源は、「ある時代の社会と文化を知るための手がかりとなる貴重な資料の総体であり、
これを私たちは文化資料体と呼びます。文化資料体には、博物館や資料庫に収めきれない 建物や都市の景観、あるいは伝統的な芸能や祭礼など、有形無形のものが含まれます。」(文 化資源学会, 2002)と定義される。
文化資源は、従来の文化財概念を相対化する目的で誕生した資源概念であり、文化財で は包含できないような地域の文化的な資源全般を意味する。このような視点の転換が図ら れたことで、従来では見過ごされてきた新たな地域資源に気付くことが可能となり、その 資源の活用を通したまちづくり活動が各地で展開されるようになったと言える。
この文化資源の活用にあたっては、特に住民の互助をいかに発揮するかが重要となる。
と言うのも、新たな資源としての文化資源は、文化財とは異なり公的な保護の対象となら ない場合が多く、住民の互助による保護や活用が必要とされているからである。そこで本 研究では、この文化資源まちづくりと互助の関係から出発し、帰納的に地域情報化のあり 方及び方法について考察を行う。
2. 研究の目的
本研究の目的は、互助の観点から地域情報化を再考し、地域情報化のあり方及び方法に ついて検討することにある。
その上で、互助というのは当然に何らかの目的があり、その目的は一定の社会問題を対 象(例えば、「高齢者介護」のための互助、等)としたものと考えられる。そこで本研究で はその対象を、「文化資源」及びそれを活用したまちづくり活動(文化資源まちづくり)と する。文化資源まちづくりを対象とするのは、それが現に住民による互助を必要としてい る領域であることに加え、近年情報としての文化資源(文化資源情報)の利活用を進める 地域情報化の新たな展開が各地に広がっており、本研究の目的の達成に対して適切と考え られるからである。
その上で、地域情報化が、地域文化と密接な関係を持っているという視点は重要である。
大石は、「下位文化の生成の場であった『周辺』としての地域社会の構成員は,社会的かつ 心理的に動員されることはありながらも(中略)メディアを通じて入手する情報を独自の 文化的情報装置を用いて解読する余地を残してきたのである。」(大石,1996)とした。こ れは、「文化=コミュニケーションモデル」という送り手が発したメッセージは、一律に受 け取られるのではなく、文化的な差異によって多様に解釈されるという主張に依拠したも のである。大石の言う文化的情報装置とは、言葉やコード、コンテクストといったものを 意味し、物理的情報装置(ニューメディアやマルチメディアなど)でやり取りされる情報 を解釈するための装置である。つまり、この指摘に依拠すれば、我々は地域の文化的な営 みを通して、情報通信機器を利用してやり取りする情報を解釈し、利用しているのであり、
その方法を再考するのであれば、前提となる地域の文化的事象から出発すべきであること が示唆される。
3. 論文の構成
本研究は、本編6章と序章及び終章からなる。
序 章 はじめに
第1章 地域情報化の展開と互助
第2章 文化資源まちづくりにおける地域情報化の役割
―菊池文化資源総合調査研究とその発展過程への参与観察を通して―
第3章 住民との対話と交流による地域プラットフォームの構築と評価 ―「菊池まちづくり道場」の実践を通して―
第4章 文化資源情報のアーカイブに関する考察
―地域デジタルアーカイブに着目して―
第5章 文化資源情報の再利用に関する考察
―オープンデータとオープンリソースに着目して―
第6章 住民の互助を創発する地域情報化の方法 終 章 結論
本研究では、1 章で研究の起点を明らかにした上で、まちづくりの現場から帰納的に地 域情報化を再考する。そのため、文化資源まちづくりに対する考察である2章及び3章で 得た知見を、現況の地域情報化の展開である4章及び5章の考察により位置づけることで、
6章において地域情報化を再考し、住民の互助を創発する地域情報化の方法を検討した。
図1 本研究の構成
4. 先行研究
4.1. 地域情報化に関する研究
地域情報化は、これまで大きく二つに大別されて来た。一つは、電子自治体に代表され る地方自治体の行政機能の情報化、また一つは、住民同士や住民と行政間における地域コ ミュニケーションを対象とした情報化である。本研究が対象とする地域情報化は、この内 の後者である。
これまで地域コミュニケーションは、マスメディア研究から派生した地域メディア研究 の文脈で扱われてきた。その中で地域コミュニケーションは、地域メディアを定義付ける 過程で論じられ、地域コミュニケーションを「地域メディアを媒介とするコミュニケーシ ョン」(1)と定義し、地域メディアは「一定の地域社会をカバレッジするコミュニケーショ ン・メディア」(2)と定義されてきた。そして、特にニューメディアへの注目が集まる中で(3)、 CATV(4)をはじめ各地域メディア単位での研究が進められてきた。
その一方で、個別の地域メディアの特殊性から離れ、包括的な視点で地域コミュニケー ションを扱う研究が進められてきた。初期には、地域コミュニケーションを情報装置の面 から捉え、地域コミュニティの崩壊との関連を考察したもの(5)や、地域メディアの広がり を生態系として捉えメディア・エコロジーとして検討したもの(6)、地域コミュニケーショ ンの歴史的な発展過程を思想面から明らかにしたもの(7)などがある。
これら地域コミュニケーション研究の個別研究と包括研究の展開は、インターネットの 普及に前後して、情報環境が大きく転換する中でも継続していく。個別研究としては、パ ソコン通信(8)や自治体電子掲示板、また地域SNS等の可能性を論じる研究(9)などが、積極 的に展開された。それらはその後ソーシャルメディアを対象に、シティプロモーション等 の領域へと派生している。包括研究としては、地域経営の視点から地域を情報アーキテク チャと捉え、地域メディアに蓄えられた情報が集合知として地域再生に寄与する可能性を 論じたもの(10)や、地域メディアそのものから離れ、経営学の視点を取り入れることで、地 域住民の主体的な活動を地域コミュニケーションの視点から解き明かそうとしたもの(11) などがある。特に後者は、「地域プラットフォーム論」として理論化され、地域活性化の方 法論として広く伝播した。しかし、地域経済の起爆剤といった過度な期待が集まったこと から、プラットフォーム論による地域活性化は「地域交流活性化」であり、「地域経済活性 化」とは区別されている(12)。
これらの研究の展開をまとめると、地域コミュニケーションの機能や役割を解き明かそ うとする基礎的な研究から、情報技術によって新たな地域コミュニケーションの形成を試 みる実践研究があり、さらに最近では、地域コミュニケーションの視点を理論的枠組みに 組み込み、地域再生の要因を分析する研究へと変遷している。このような展開は、当初マ ス・コミュニケーション研究から派生した地域コミュニケーション研究にとって、すでに
与えられたものであった地域コミュニケーションの手段が、地域情報化によって、徐々に 地域側でコントロール可能なものへと変化していったからと言える。そのため、地域コミ ュニケーション研究は、個別具体的な情報技術を前提とするものが多い。しかし、情報技 術が日常レベルまで浸透した現在にあって、その使用は前提に過ぎず、また特殊な技術の 利用は、高コスト化を招き実現性を妨げる。つまり、情報技術に左右されない方法論が俟 たれている。
4.2. 地域デジタルアーカイブに関する研究
文化資源情報は、これまで地域情報化の文脈においては、デジタルアーカイブを中心に 議論が進められて来た。そこで本研究では、デジタルアーカイブの中でも、地方自治体等 が参画することで始まった「地域デジタルアーカイブ」の取り組みを対象とする。初期の 地域デジタルアーカイブに関する研究は、国内におけるデジタルアーカイブの推進母体で あったデジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)による各種の実践と調査の蓄積がある
(13)(14)。また、JDAAの取り組みから、デジタルアーカイブと地域振興の関係を論じたもの
がある(15)。
各地域デジタルアーカイブの実践者から数多くの実践報告がなされている(16)(17)(18)(19)(20)。 これらの報告の中で、地域デジタルアーカイブの主な課題とされたものが権利処理と人材 育成である。これらはデジタルアーカイブ一般に当てはまる課題だが、地域デジタルアー カイブの権利処理をJDAAが示した構築行程ごとに論じたもの(21)や、地方大学におけるデ ジタルアーキビスト育成の実践と研究がある(22)。また、地域デジタルアーカイブの連携に 関するもの(23)や、地域資料向けのデジタルアーカイブシステムの開発に関するもの
(24)(25)(26)が多い。他方、デジタルアーカイブの受容に関する研究の中で地方の関心の高さを
明らかにしたもの(27)や、地域映像アーカイブを対象にその持続性を問題視するものがある
(28)。そして、初期の地域振興を目的とした地域デジタルアーカイブに対して、住民参加を 重視するデジタルアーカイブに関する調査研究がある(29)(30)(31)。
地域デジタルアーカイブは、地方自治体が直接的に設置したものが多いが、その際図書 館との関連は重要である。公共図書館におけるデジタルアーカイブの運用状況の調査(32)(33) や、公共図書館における地域資料サービスとデジタルアーカイブの関係をまとめたもの
(34)(35)、公共図書館による実践報告などがある(36)(37)。
以上のように、地域デジタルアーカイブに関する研究蓄積は様々あるが、個別の実践報 告やデジタルアーカイブ一般に通ずる課題を扱うものが多く、地域デジタルアーカイブに 共通する特徴や課題を論じたものは少ない。
4.3. 文化資源情報に関する政策研究
さらに近年、地域デジタルアーカイブを含む、蓄積された地域固有の情報を資源として
公開、活用しようという政策論が活発化している。従来それらは「文化情報資源」や「文 化・知的情報資源」という名称1を用いて、主に図書館情報学の視点から諸外国との比較を 通した政策論が展開されてきた(38)(39)。これらの政策論では、デジタル化技術を用いて作成 した新たな資料を、欧米の政府や MLA2が積極的に活用しようと対策を講じているのに関 わらず、国内では十分な議論が行なわれていないことを危惧するものであった。
これらの政策論は、2010年代に入りナショナル・アーカイブの構築を掲げながら、改め て活発化することになる。2012年から活動する「文化情報資源政策研究会」は、2年間に わたる研究会の議論を踏まえ、文化情報資源をめぐる状況として、アーカイブ関連施設に おける人員・予算・専門性の不足、新たな形態の資料の保存の必要性、孤児著作物の問題 などを指摘した(40)。さらに「文化資源戦略会議」からは、「アーカイブ立国宣言」が宣言 され、そこでは孤児作品対策の必要性等に加え、「オープンデータ化」が提言された(41)。 最近のこのような議論の活発化は、“Europeana”3に代表される欧米における巨大なデ ジタルアーカイブの成立を受けてのものである。その中で、文化資源情報に関する政策論 はより精緻で広範なものへと発展するに至り、本研究が対象とするような地域政策がその 範疇に含まれるようになる(42)(43)。しかし一方、以上のような政策論の展開が、図書館情報 学の視点に偏り過ぎているとして経済学をはじめとした他の視点での検討の必要性が論じ られている(44)。
以上をまとめると、これらの政策論は主に図書館情報学の視点から欧米との国際比較を 通して国家戦略の必要性を訴えるものや、ナショナル・アーカイブといったメタ・アーカ イブの構築へ向けた制度設計に関するものが多い。その一方で、地域政策の視点からの検 討は十分ではなく、今後さらなる議論の展開の中で、地域政策の検討へ向けた知見の必要 性が高まるものと考えられる。
5. 研究の位置付けと意義
本研究は、地域情報化を再考し地域再生へ向けた新たなあり方及び方法を検討するもの である。そのため、文化資源まちづくりの現場から出発し、その発展と互助に関する考察 から帰納的に検討を進める。
その上で、学術的な観点から本研究の第一の意義は、地域情報化研究として一般的な情 報化とは直接関係ないケースから、帰納的にその再考を進めた点にある。特に近年の地域 情報化研究は、何らか情報技術の利用が見られる事例を抽出し、その分析から地域情報化 の機能や成功要因を分析してきた。しかしそれでは、情報技術という前提に縛られ、その 視点を十分に相対化できないと考えられる。本研究では、まちづくりの現場への参与観察 から帰納的に考察を進めることで、今後の地域情報化のあり方への新たな視点を導き、さ らに具体的な方策について提案することが可能となった。
第二に、地域デジタルアーカイブ研究として、事例分析に基づき文化資源情報のアーカ
イブと再利用の特徴と課題を明らかにした点にある。文献調査を中心に整理を行い、さら に近年の事例についてヒアリング調査等を重ねることで、地域振興型と住民参加型の特徴 と課題を明らかにし、その比較分析から、収集とコミュニケーションを促進する住民参加 方法の充実が必要であることを明らかにした。
そして第三に、文化資源情報に関する政策研究では、オープンリソースという新たな政 策区分を明らかにし、地域の情報資源利用がオープンデータを中心に論じられる中で、住 民との交流(コミュニケーション)という新たな視点を示した点にある。その上で、現状 の政策研究が国家レベルの議論に占められている中で、本研究は今後の地域政策の検討に 重要な視点を与えるものである。
図2 本研究の位置付け
地域情報化研究
(地域コミュニケーション及び地域メ ディアの情報化に関する研究)
地域の文化資源情報に関 する政策研究 地域デジタルアーカイブ
に関する研究
本研究
6. 用語の定義
以下に、本研究で扱う用語を定義する。
6.1. 互助
互助とは、一般に「互いに助け合うこと」(日本国語大辞典より)を意味する。しかし、
地域における互助を考えた場合、様々な意味合いが含まれる。そこで本研究では、それら を二つの区分で理解する。その一つは、共同体が持つ機能としての「相互扶助」である。
地域 SNS をめぐる政策を論じた原(2012)は、日本におけるコミュニティ概念を整理 した。原は、1960 年代末の国民生活審議会によるコミュニティに関する議論、また 1970 年代初頭から始まる旧自治省によるコミュニティ政策を手掛かりに、コミュニティが、旧 来の「共同体」の代わりに新たにつくり出されるべき地域集団を表す概念として導入され たことを指摘する。文化人類学者の小田は、共同体が市民社会の成立の過程で失われたも のとして「発見」されたことを指摘し、共同体を「消滅しつつある人格的な親密さや相互 扶助を伴う道徳的・情緒的紐帯といった全面的な凝集体」(小田,2004)とした。原は、
小田の指摘を踏まえて、新たに「創造」される必要があるとされたコミュニティが、近年
「再生」されるべきものとして捉えなおされ、そこに地域SNSを巡る政策が関与している ことを明らかにした。
地域コミュニケーションをめぐる理念と政策を整理した大石(1992)は、このコミュニ ティの形成にあたって相対立する二つの立場があったことを指摘する。一つは、行政主導 型のコミュニティ形成を図る「地域計画型コミュニティ」である。そこでは、コミュニテ ィは行政機関が立案する地域計画の一部と見なされた。また一つが、コミュニティを地域 計画の立案等に住民が参加したり、異議を唱えたりする場として捉える「参加型コミュニ ティ」の立場である。これは、その後各種の領域で進展することになる「住民参加」、そし て「市民協働」へと繋がる立場と言えよう。
本研究では、地域における互助の区分を、これらコミュニティを巡る議論の展開を踏ま え、旧来の共同体が持つとされた「相互扶助」を狭義の互助、その再構築の結果として進 展した「住民参加」、「市民協働」を広義の互助と区分する。その上で、本研究で述べる互 助は広義の互助を意味するものとする。
表1 互助の範囲
互助
狭義の互助 共同体における相互扶助
広義の互助 市民社会における住民参加、市民協働 ※本研究における互助
6.2. 創発
創発とは、一般に「要素間の局所的な相互作用が全体に影響を与え、その全体が個々の 要素に影響を与えることによって、新たな秩序が形成される現象。」(日本国語大辞典)で ある。それに対して、地域情報化の文脈における創発とは、2000年代半ばに地域プラット フォーム論が展開する中で登場した用語である。そこで創発は、「協働が参加する力の総和 を超えた新しい価値を生む」現象(國領,2006)と定義される。
國領は、経営学の観点から創発を定義し、地域プラットフォーム上において「さまざま な主体の交流が起こり,その中からまったく新しいビジネスが芽吹いて育つといった現象 を誘発させることができればプラットフォームづくりは成功したものと判断できる.それ こそが,プラットフォームの生み出す価値ということが出来る.」(國領,2006)とした。
つまり、ここでの創発とは、地域プラットフォームによって形作られる新たな価値を意味 する。本研究では、國領による定義に基づき、3 章で論じる地域プラットフォームによっ て新たな互助や活動が次々と生み出され、まちづくりが発展する様を創発現象と扱う。
6.3. 文化資源情報
情報としての文化資源を、本研究では単に文化資源情報と定義する。類似したものとし て、「文化情報資源」、「デジタル文化資源」といった名称があるが、これらは、その前提と してデジタル化技術の利用がある。しかし本研究では、住民の語りの中の知恵や経験とい った知識レベルの情報を含む形で、文化資源情報という名称を用いる。
註
1 これらの名称は、幾度か変遷を起こしており、今後も違った名称が同義で用いられる可 能性が高い。
2 美術館、図書館、博物館や文書館等(Museum, Library, Archive)の略称である。
3 https://www.europeana.eu/portal/en
参考文献(先行研究以外)
大石裕『地域情報化 理論と政策』世界思想社,1992年.
大石裕「『情報化と地域社会』をめぐる諸概念」『情報化と地域社会』福村出版,1996 年,
9-43ページ.
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第1章 地域情報化の展開と互助
1. 本章の視点
本章では、最初に研究の背景として地域情報化政策の展開について述べる。次に、地域 情報化とまちづくりの関係について論じる。最後にその課題を考察し、以降の章に対する 起点を明らかにする。
2. 地域情報化政策の変遷
地域情報化政策は、戦後の新たな社会体制が目指された1960年代に始まり、凡そ10年 間隔で新たな展開を見せて来た。それは 1980 年代に「情報開発」としてある意味完成を 見たが、その後は参加・協働を重視する方向にシフトし、現在に至っている。ここでは、
本研究の背景として地域情報化政策の展開過程を概観する。
2.1. 情報化社会論の展開(1960年代)
地域情報化政策の始まりは 1960 年代に遡る。当時、未来学を提唱した林雄二郎、文明 論を説いた梅棹忠夫らは一つの未来論として、日本社会の来るべき姿を情報化社会に求め た。それは従来からの開発主義的な地域政策、産業政策と結びつき、その後、地域情報化 政策に結実されて行くことになる。大石(1992)は、第一次から四次までの全国総合開発 政策の変遷と情報化の関係を明らかにし、地域情報化政策の始まりを第二次全国総合計画
(新全国総合開発計画, 1969年策定)の頃としている。大石によると当時主張されていた
「産業構造の転換」というキーワードは、脱産業社会論、知識社会論、そして情報化社会 論に対応したものであった。そして、第四次へと向かうにつれ、情報通信ネットワークの 整備と地域開発が結び付きを強め、地域情報化政策の重要性が高まっていったとする。
2.2. ニューメディアの実験(1970年代)
この地域情報化政策は、1980年代に入り、各省庁の情報化構想として矢継ぎ早に全国各 地へ展開されるが、その雛形となったものの一つが、郵政省(当時)による「多摩 CCIS 実験」(1976年〜1980年)である。多摩CCIS実験は、昭和46年に郵政省がCATVの多 目的利用に関する将来動向等の調査検討を目的に設置したCCIS調査会の提言1に基づいて スタートしている。昭和48年度から開発実験が始まり、翌年度には番組制作に着手、昭和 51 年から多摩ニュータウンでモニター世帯に対して、サービス提供を始めた(郵政省, 1978)。
多摩 CCIS 実験が提供したサービスは、有料テレビサービスから、リクエスト静止画サ
ービス、メモ・コピーサービスなど幅広い。このようなサービスはいわゆる「ニューメデ ィア」として扱われ、1950年代に国内に導入されたケーブルテレビを代表としながら、既 存メディアに対抗するメディアとして注目を集めていった。加えて、多摩 CCIS 実験に対 する被験者の評価は高く、参加した市役所や警察署、保健所等の関係機関からの評価も高 いものだった。また、実験期間中数千人の視察見学者が多摩の実験センターを訪れ、その 社会的デモンストレーション効果は大きかったとされる。しかしその一方で、技術実験的 な要素が強く、採算性の面から実用化は進まなかった(川島, 2008)。その他、多摩CCIS 実験に対して通産省が実施した東生駒Hi-OVIS(1978年〜1983年)がある。これは東生 駒の156世帯を対象として行われた実証実験で、テレビ再送信や、リクエストビデオ、オ ンラインニュースサービスなどが提供されている(川島, 2008)。
2.3. 情報開発の成立と展開(1980年代)
これらの実験を経て、1980年代から各省庁は、競うかのように地域情報化政策を展開す るようになる。テレトピア構想(郵政省)、ニューメディア・コミュニティ構想(通産省)
等が展開されたが、その中で盛んに用いられたキーワードが前述の「ニューメディア」で あった。ニューメディアとは、「情報の収集・作成、処理・加工、伝送、利用の過程のどれ かで革新的技術を導入したメディア」(ニューメディア開発協会, 1986)とされる。具体的 には、放送の領域では、音声多重放送、文字多重放送、静止画放送、ファクシミリ放送、
高品位(高精度)テレビジョン放送、衛生放送、CATV が挙げられ、通信の領域では、フ ァクシミリ通信、キャプテンシステム、INS(高度情報通信システム)、通信衛星などが挙 げられる(田村, 1999)。ただ、この中には従来からの技術が含まれ、何が革新的なのかに ついては明らかにされることはなかった。
このニューメディアは、「地方の時代」という言葉に代表される1960年代頃から主張さ れた地域主義的な考え方と結びつき、80年代以降の地域情報化政策を主導して行くことに なる。特に、既に1950年代半ばに国内で事業が開始されていたCATVは、アメリカにお ける「有線都市構想」を背景に、各政策の中心的な情報システムとして組み込まれるケー スが多かった。この CATV において、1960 年代からスタートするのが自主放送である。
自主放送は、各CATVにおいて独自の番組を制作・放送するもので、郡上八幡テレビを皮 切りに、地域に根付いた放送の実現として各地に広がって行くことになる。このような中、
1972年に「有線テレビジョン放送法」が成立、「放送」としての側面が強化される一方で、
「通信」から切り離されて行く。CATV では、技術的には既に双方向通信が可能となって いた。そして有線都市構想に触発される形で、そのインフラを利用して多目的利用の可能 性を模索したものが、前述した多摩CCIS実験であった。
表1 80年代の地域情報化政策
テレトピア構想
ニューメディア・コミュニティ構想 グリーントピア構想
イテリジェント・シティ構想 情報化未来都市構想
民活法特定施設整備構想 頭脳立地構想
ハイビジョン・シティ構想 ハイビジョン・コミュニティ構想 テレコムタウン構想
地域ソフトウェア供給力開発事業 メロウ・ソサエティ構想
1983年 1983年 1985年 1986年 1986年 1986年 1988年 1988年 1989年 1989年 1989年 1989年
旧郵政省 旧通産省 農水省 旧建設省 旧通産省 五省共管 旧通産省 旧郵政省 旧通産省 旧郵政省
旧通産省+旧労働省 旧通産省
出典:田畑(2005)より筆者作成
情報開発が展開される中で、積極的に進められたのが地域側からの「情報発信」であっ た。国土庁計画・調整局(当時)は、ニューメディアによる地域情報化政策を整理し、基 本的戦略の一つとして「インフォメーション・アイデンティティ型」をまとめた(国土庁 計画・調整局, 1986)。このインフォメーション・アイデンティティ型は、情報発信により 地域イメージをアピールすることで、地域アイデンティティを高め、それにより地域の産 業、文化が刺激され、地域が活性化すると説明された。
さて、このような中央省庁主導の開発主義的な地域情報化は、情報通信作業への注目を 高め、その意味で地域産業の転換と振興に一定寄与した面はある。一方で、情報通信機器 が非常に高価だったことから、財政支援措置を求めて各地でプロジェクトが乱立する状態 を招き、目的の形骸化、手段の目的化を促した。また、その後の技術革新の影響から整備 したハードウェアが意味を成さなくなるなど、十分な成果を上げたとは言い難い。大石
(1992)は、これらを総称して「情報開発」と評している。
2.4. インターネットの登場と通信インフラ整備(1990年代)
1990年代半ばから、国内でインターネットの普及が進むと、各地域の情報環境は大きく 変化して行くことになる。インターネットは、サービス料金の低価格化と安価なハードウ ェア及びソフトウェアが登場したことから、爆発的に普及するに至った。
このような中、1990年代の地域情報化政策は、インターネットへの期待感から、高速通 信を実現する通信インフラ整備に関するものが多い。田畑(2005)は、この時期の代表的 な地域情報化政策をまとめ、1980年代における情報開発と同様に通信インフラ整備におい
て、各省庁による政策の乱立が起きていたことを指摘している。さらに田畑はこの時期に、
国や自治体、第3セクターだけでなく、特に電力系通信会社等の大企業が積極的に地域情 報化に関与し始めたとする。
また、インターネットの普及は、情報発信手段としてのホームページに対する関心を高 め、地方自治体は独自のホームページを制作、公開を進めるようになる。平成11年版通信 白書(現・情報通信白書)は、特集としてインターネットを取り上げ、平成10年度末時点 での地方自治体のホームページ開設率が61.5%であり、直近2年で急増して来たことを報 告している。また、新たな行政参加・情報交換として、12.5%の地方自治体がホームペー ジに電子掲示板を設置しており、さらに幾つかの先進自治体では、それらを一歩進めた電 子市民会議室を設置していることを報告している。これらは新たな地域コミュニケーショ ン手法として、その後全国に展開するようになる。
図1 ホームページ開設率の推移
出典:平成11年版通信白書より転載
2.5. ICT利活用の推進とハードからソフトへの転換(2000年代)
2000 年代に入ると、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT 基本法)」や
「e-Japan 戦略」「e-Japan 重点計画」「e-Japan2002 プログラム」、さらには「u-Japan 政策」などが続々と策定され、これらに対応した政策が展開されるようになる。IT基本法 では、デジタルデバイドの解消が強調されており、平成13年版情報通信白書では、デジタ ル・オポチュニティの確保がIT政策の最も大きな柱であるとして、地域間格差の現状が報 告されている。2000年代には、1990年代に引き続き通信インフラ整備を進める政策の他、
整備した情報通信基盤を利用し、「IT を活用した個性あるまちづくりの推進」を図る「地
域情報化モデル事業(e まちづくり交付金)」などが展開されることになる。田畑(2005)
によると、約100自治体が選定されたこの事業は、過去の地域情報化政策によって得られ た教訓の上に立ったものであり、ハードから「ソフト中心」、「利活用中心」であった。
図2 地域別インターネット利用比率
出典:平成13年版通信白書より転載
1990年代後半から始まった電子市民会議室の取り組みは、その後全国の地方自治体へと 広がりを見せていった。上述した地域情報化モデル事業の中で、その設置に取り組んだ自 治体もある。しかし、平成 17 年総務省「ICT を活用した地域社会への住民参画のあり方 に関する研究会」では、733 の地方自治体が電子市民会議室を設置したが、活発に議論さ れている団体は僅か4団体に過ぎず、ほとんどが失敗していたことが報告されている(庄 司, 2007)。その反省を踏まえ、新たに取り組まれたのが「地域SNS」である。地域SNS を初めて導入したのは、熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」である。「ごろっとやっちろ」
は、八代市職員(当時)の小林隆夫氏が独力で開発したソフトウェアをベースに構築され、
その後に行われた総務省の実証実験のモデルとして、地域SNSの嚆矢となった。この地域 SNSは、その後400カ所以上の地方自治体に設置されることになる。地域SNSの設置は、
住民が主体的に取り組んだ活動に加え、自治体主導で設置されたものがある。例えば、平 成19年度〜20年度に実施された「地域ICT利活用モデル構築事業」においては、東京都 三鷹市「みたか地域SNS(ポキネット)」や熊本県天草市「天草webの駅」をはじめ、複数 の地域SNSを含んだ事業がモデル事業として選定された。
2000 年代の地域情報化政策について報告した高田(2012)は、この時期の政策が全国 一律の基盤整備から、各地域の課題解決に対してICT利活用を推進し、さらにモデル化す ることが基本的な方向性だったとする。この方向性は、その後も踏襲されたが、同時に地 方自治体が主体となることへの限界(ニーズ把握が不十分、システム開発へ偏重しがち、
人材不足等)が徐々に指摘されるようになった。その中で、後述する住民主体の情報化活 動に対する注目が高まったほか「地域情報化アドバイザー制度」といった人材支援事業が
開始される。
2.6. シビックテックと情報資源への着目(2010年代前半)
前述した地域SNSは、2010年には全国で500ヶ所を越えて整備された。しかし、その 後「facebook」等国外のSNS サービスが流入する中で減少を続け、2016年3月には195 事例まで減少したことが報告されている(庄司,2016)。また、富山県から広がった「イ ンターネット市民塾」、熊本県から広がった「住民ディレクター活動(市民ディレクター活 動)」など、地域住民が積極的に関与する中で全国各地へと展開した地域情報化プロジェク トは停滞するようになる。勿論その中には、現在まで継続しているものが存在するが、2000 年代に開始された地域情報化プロジェクトが往時の勢いを失った感は否めない。
その一方で、このような住民が情報技術を用いて地域課題を解決する方法は、2000年代 後半から、アメリカを中心とした取り組みが国内に紹介され「シビックテック(Civic Tech)」 という名称で注目を集めるようになる。
シビックテックの取り組みは、新たな行政運営の方法論として注目され、2009年オバマ 大統領が「Transparency and Open Government」と題する覚え書きに署名したことを契 機に「オープンガバメント」の方法論として発展して行くことになる。特に、非営利組織 である「Code for America(以下、CfA)」の取り組み2は、各地域に大きな影響を及ぼして いく。
日本では、CfAに倣い2013年「Code for Japan(以下、CfJ)」が設立された。CfJは、
大きく二つの事業を持つ。一つはブリゲート支援事業、もう一つがフェローシップ事業で ある。ブリゲートとはいわゆる「支部」のことで、各地のシビックテックコミュニティを サポートしネットワーク化することが目的である。フェローシップは、自治体に対するフ ェローの派遣事業である。CfJ は、個別の取り組みとしてスタートしていた国内のシビッ クテックコミュニティを結び付け、社会運動しての機運を作り出している。
そのシビックテックにおいて主要な手段として用いられているのが「オープンデータ」
である。1990年代以降のネットワークやデバイスの高度化は、デジタルデータの飛躍的な 増加をもたらして来た。これは2010年頃より「ビッグデータ」として語られようになり、
データ活用による社会改革、改善への注目が高まるようになる。その流れの中から、行政 等が持つ情報を公開し、社会課題の解決を目指すオープンデータの取り組みが始まった。
オープンデータとは、「行政などが保有するデータを、機械判読可能な形式で、二次利用 が可能な利用ルールで公開すること」である。オープンガバメントの流れ3を受け、各国で 関心が高まりつつある。国内においては、2012年に「電子行政オープンデータ戦略」が内 閣官房IT 戦略本部により策定され取り組みが本格化した。2013年に策定された「世界最 先端IT国家創造宣言」において、オープンデータは重要な戦略の柱と位置付けられた。
実は、国内で最初にオープンデータに取り組んだのは地域側である。国内におけるオー
プンデータの最も早い事例は、福井県鯖江市である。鯖江市では、行政がデータを公開し、
それを受けて技術者がアプリケーションを開発する、という連携関係の構築に成功した。
オープンデータは、鯖江市を先進例としながら、アプリケーションによる社会課題の解決 に注目する社会起業家や市民活動家と、技術者コミュニティによって推進されて行くこと になる。そこでは、行政等が保有する情報に基づき、その利活用方法を協力して考えると いう視点での新たな参加協働のスタイルが生まれている。一方で、情報技術の有無に関わ らず住民が参加するための新たな協働のスタイルが広がっている。それが、技術者コミュ ニティの中で行われていた「アイデアソン」や「ハッカソン」といった開発イベントであ る。そこでは、専門的な技術者に加え、技術の有無に関わらず、地域住民が参加し、技術 者と共にアプリケーション開発が進められて行く。この取り組みは、CfJ のブリゲートを 中心に各地で展開されている。
さらに、このオープンデータに関して現在、デジタルアーカイブのオープンデータ化(5 章で詳述)が進んでいる。中でも地域側では、1990年代中頃から地域デジタルアーカイブ が生まれ(4章で詳述)、情報資源として資料の再利用へ期待が高まっている。
さて、2000年代の住民主体による地域情報化プロジェクトに対して、上述したシビック テックの活動は、住民が情報技術を用いて地域の課題解決に携わるという意味では同じ構 造を持っている。異なるのは、情報資源への着目であり、それによりオープンデータ政策 やデジタルアーカイブ政策の一部として、現況の地域情報化は展開しつつあると言える。
3. 地域情報化とまちづくりの関係
以上の政策展開からは、2000年代以降、地域情報化がハードからソフト事業へと転換し、
全国一律の基盤整備から、住民による地域の課題解決、いわゆる“まちづくり”が重視さ れるようになったと言える。
地域情報化における住民によるまちづくりは、特に 2000 年代半ばから「住民主体の情 報化」として官主導の地域情報化とは区別して論じられるようになる。その中で新たに地 域情報化は、「情報技術で知的にエンパワーされた住民等が,地域においてアクティビズム を発揮し,プラットフォームの設計やイメージの実体化などによって,共働型社会を形成 するプロセス」(丸田,2006)と定義された。ここで情報技術とは、主にインターネット の登場以降に普及を始めた情報通信技術(ICT)のことを意味4する。確かに地域情報化の 展開の中で、全国各地で住民の主体的な活躍が見られるようになったのは 2000 年代に入 ってからと言える。しかしではそれ以前に、地域情報化とまちづくりに関係は無かったの か興味がもたれる。地域情報化の源流まで遡り確認したい。
3.1. 地域コミュニケーションと地域主義
大石(1992)によると、地域情報化の源流には地域コミュニケーションを巡る議論があ る。それは、先に触れたアメリカにおける有線都市構想に端を発し、1960年代後半に市民 権を獲得した「地域主義」と呼ばれる地域の自立的、内発的発展を目指す理念と合流する。
そして、当初の情報化社会論が持っていた社会全般の改革を目指す視点から、地域におけ るコミュニティの構築へと視点を移し、1970年代以降の状況が形作られていった。
この「コミュニティ」という用語は、戦後の経済発展の中で地域住民の関係性が希薄に なり始め、新たな地域社会の構築が必要となる中で形作られた概念である。そこには、二 つの立場がある。地域開発の基本的単位として、行政が立案する地域計画の一部としての
「地域計画型コミュニティ」と、地域計画の立案等への住民参加を求め、その内発的発展 を促すべきだとする「参加型コミュニティ」という二つの立場である。この内、後者の影 響を受けたものとして、社会学者の藤竹暁から「市民的情報ネットワーク」が提起されて いる。
藤竹(1973)は、市民のコミュニケーション行動を情報装置という視点から捉え、それ を「個体情報装置」から「全国マスコミ情報装置」と5 つに分類し、それらを「コミュニ ティ・レベル」から「全国レベル」まで4つの領域に区分した。なお、ここでの情報装置 とは、メディアという意味とほぼ同義で扱われている。
表2 情報装置と市民生活のレベル
出典:藤竹(1973)より筆者作成
藤竹は、市民が利用できる情報装置がマスコミ情報装置まで拡大していく中で、情報受 信能力は向上したが発信能力が減退したと主張した。その主要因をコミュニティの崩壊へ 求め、コミュニティはマスコミ情報装置から流れてくる一般情報を市民の情報へ翻訳する 機能があると捉えた。その上で藤竹は、現代市民にふさわしいコミュニティづくりを実現 する新たな「市民的情報ネットワーク」の創造が必要5であると説いた。