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第2章    声におけるノンバーバル要素の形成要因

第 1 章では、ノンバーバル要素を持つ声が大きな役割を担っていることについて論じて きたが、ここでは声におけるノンバーバル要素がいかに形成され、さらにその声がどのよ うな役割を持つかを探究する。 

 

第1節  声におけるノンバーバル要素の役割

Hall(1959,pp.113-114)は、声におけるノンバーバルの役割について次のように指摘し ている。 

「言語学者が、その実態をつきとめるために、より専門的な方法で音を記録して分析す ると、おなじみの母音、子音といったものの他に、ストレス(強勢)、ピッチ、イントネー ションなどの非公式的な定数の群が浮かび上がる。このようにして、一連の新しい個の姿 が現れる。」 

ノンバーバル要素とはバーバル以外の要素のことを指し、声はノンバーバルの部類に分 類されているが、バーバルとノンバーバルの両要素を持ち備えている。 

Premack(2003,p.102)は、「バーバルとは、音声と意味という 2 つの情報の流れにおけ る対応関係であり、音声の単位は意味の単位に対応づけられる必要がある。」と指摘してい る。すなわち、ノンバーバル要素はバーバルの意味に対応し、的確にバーバルの意図を相 手に伝える役割を果たす。これは、Premack(2003,pp.118-119)が、「単語モデルの誤り」

で示している例に当てはめて説明することができる。そこでは、「ファイアー」という単語 が例示されている。すなわち、「ファイアー」火、火事などの意味を持つ単語は、火のない ところでも発せられる。これはすべての単語に言え、単語はそれが示すものやできごとが あるときにだけ発せられるわけではない。「ファイアー(火)」という単語は、「ファイアー

(火)を調理に使う」、「寒い日にファイアー(火)がほしい!」など複合的な意味を持ち、

ノンバーバル要素を備え持つ声が叫ぶことによって、「ファイアー(火事だ!)」となる。

この例から明らかになることは、同じバーバルがノンバーバル要素によって多様な意味合 いを生じさせる機能を果たしているということである。危険や恐怖、驚きなどを表す声は、

激しい喜怒哀楽の感情に比例して大きな抑揚になり、平坦な抑揚からは冷たさや物悲しさ や寂しさなどを感じさせる。同じ「怒り」という感情を相手に伝える場合においても、突 発的に爆発するような大きな声で怒鳴り上げるという場合もあれば、はらわたが煮えくり 返るような深い怒りを感じさせる、低いトーンで震える声で表される場合もある。同じ怒 りの表現にしても、声からその怒りの加減を感じ取ることが出来る。声は、バーバルが確 立した後もさらに進化し、バーバルの意味に高コンテクストな内面的想いを伝達すること を可能にした。時にはバーバルの意味と逆の想いを抱いていることがある。そうした想い も声から感じ取ることが出来る。仮に何かを頼まれた際に、「わかりました」と了解の言葉 を発しても、内面では「嫌だ」と思っている場合には、「わかりました」の声に内面の感情 にある否定が表されている。声は感情を表す重要な役割を担っており、声をかけることで

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相手に癒しを与えることも出来、声によって相手を傷つけることもある。声は意思伝達す るために人間の持ち備えたコミュニケーション・ツールといえる。この声に内包されるノ ンバーバルによる特別なコンテクストの付与は、単純に声帯が振動して発する音によるも のではなく、個々人が生きてきた背景や生き様を表すサインに基づくものである。それぞ れの生きてきた背景によって声に抑揚が自然につき、その環境によって様々なアクセント の違いが生まれる。方言に示されるようなその地方特有の背景、気温や天候、治安までが、

各エリアの独特なイントネーションとして声に反映されるのである。そうして生きてきた 背景が反映される声は、人格や、内面的な想い、他者の目から見えない精神的部分を伝達 してきた。声は発するだけでなく、相手の気持ちを感じ取る、受け取り側の物指しとして の役目も担っている。しかし、このようにノンバーバル要素を併せ持つ声がコミュニケー ションに重要な役割を果たしていることに対する認識は一般的に薄い。人間は生まれた瞬 間から産声を上げ、育つ過程においても誰から教えられるわけでもなく、無意識のうちに 声を発しており、日常必然的な存在である言葉を使う上でもノンバーバル要素がなくては 成立しないことを意識せずにいる。あまりに近い存在であり、日常生活における声の重要 性に対する認識は一般的には浸透していない状況である。 

声の存在意義に関する研究も余り盛んにはされていないが、川田の研究を挙げることが できる。川田(1998,pp.57-79)は、 声を自然と文化の接点として捉え、三つのレベルで 表している。第一点は、所与としての自然と文化という観点において、声は生物として人 間が備えた発声器官を通じて発するものであり、第二点は、声を含むコミュニケーション において音響としての声が表すものに自然と文化が考えられること、第三点は、特に歌と いう領域で顕著に見られる自然と文化に関わるものである、ということである。歌はいろ いろな意味で音声コミュニケーションの一つの極致であり、様式性と即興性、意識される ものとされないものといった両極が接し合って成立している。つまり、文化内的約束に基 づく声のコミュニケーションに近づくほど、発声器官の働かせ方は文化の条件づけを強く 受けていることを指摘している。このように声が多くのコンテクストのもとで成立してい ることが論じられている一方で、一般的にはその存在を軽視しているのが現状である。日々 の生活において、朝目覚め、「おはよう」という言葉から始まり、「おやすみなさい」とベ ッドに入るまでの間、どれほど多くの声を発しているかについて内省すれば、そのことは 明らかになると考える。不登校やひきこもりというある種の現代病ともいえる声を発する 事を拒否する人たちでさえ、実際は必ず生活空間において、どんな人であっても声を出し ている。これは人間の中に遺伝子的事項として書き込まれている特質といえる。例えば、

くしゃみやあくび、ため息と同時に、我々は日々声を出して生活している。あまり関係の なさそうな泣き声や笑い声も感情を表す声である。さらに、ノンバーバル要素から、感情 が抑揚から感じられ、相手との距離感や意思決定に必要な間があり、想いを伝えるスキル を具備する声は、コミュニケーション機能を高め、高コンテクストな状態を築くことがで きると考える。 

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第2節  声におけるノンバーバル要素を形成する内的要因

1  先天的要因による声の形成(骨格)

第 1 節で述べたように複雑なコンテクストを受け手に伝達することができる声はどのよ うに形成されるのか。本節では先天的要因による声の形成を検討する。

最初に形成される声は、先天的要因、骨格や遺伝による要素に基づいて作られる。親子 や兄弟の声が似ていることは、既に一般的に認識されているが、叔父や叔母、従兄弟など 親戚の声が似ていることもめずらしいことではない。声の要素は遺伝的要因を持っている。   

親子や兄弟の声が似ているのは、骨格が似ていることが原因である。骨格が似ていると いうことは、すなわち、声を響かせる横隔膜の大きさや形が似ていると考えると、それは 類似する楽器ということになる。また顔が似ていることに関連して、口の中の共鳴腔が似 ていることから、それは類似した声(音)を作る大きな要因といえる。現在の洋画の吹き 替えにおける配役においても、演じている外国の役者と、その声を吹き込む日本の声優の 体格や顔が似ていることが多いことにも表されている。 

医学博士米山(2002,p.21)は、体格と声が比例するとし、顔が似ていれば、共鳴腔の形 が近いことを指摘している。共鳴腔の形を似せさせるとは、顔の表情を真似ればできると いうことである。さらに、米山は、親子の声が似ているのは、遺伝的に骨格が似ていると いうことに加え、共に過ごす時間が長いため、成長の過程において無意識に模倣すること によって、さらに類似した共通の共鳴腔の形をつくっている可能性があると指摘している

(2002,p.64)。 

この先天的要因のみの状態で発せられる声は、元来どこにも負担がなく、癖のついてい ない自然体の声であるが、成長と共に環境から受ける影響によって変化すると言える。 

声楽家である亀渕(2006,pp.21-22)は、癖のない状態の声を次のように述べている。 

「できるだけ無心になり静かにしてから発声するときの声や瞑想状態に近い時の声だが、

無感情・無感動の声ではなく、喜びや怒りや悲しみや楽しみを表現していない声で、でき るだけ静まった状態の声をゼロの声という。」 

ここでは癖のない声を「自然体の声」と呼ぶことにする。その定義は、乳児が最初に言 葉を話すときの発声を指す。新生児は大抵 8 ヶ月になれば、一人座りできるようになる。

その状態の姿勢は、背中がまっすぐ平らで横になったときの背中の状態と同じに近い。し かし、臓器は緊張していない状態で自然に体内に位置している。当然、立ち方もそれに順 ずる。この状態を自然体とし、役者や声楽家はこの状態で自分が立てるようになるための 訓練をしている人が多い。本来生まれた時はその状態でいるはずなのだが、時間と共に変 化し、生活環境に応じた癖となって自然体は次第に変化してしまうのである。 

遺伝ではなく、環境から作られる影響が大きいということは、意識的に声を操り、ノン バーバル要素を変えればいいのである。そのためには、まず自分がどう想っているのか、

自分は相手にどのように想いを伝えたいのかを明確に示すことが第一歩なのである。声の ノンバーバル要素は生きていく上でとても大きな役割を果たしているといえる。 

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生まれ持った素材、すなわち、内的要因における声が、環境によって影響を受け、変化 するということである。次に後天的に作られる声の要因について考える。 

   

2  後天的要因(呼吸・姿勢・性格)

声が、先天的要因として骨格や共鳴腔が遺伝することにより、身内の声が類似している ことが明らかとなった。これに加え、家族や周囲が及ぼす影響が反映され、声の癖が後天 的要因によって作られていく過程もある。 

Premack(2003,p.241)は、子どもは自分の声とアクセントで発音された単語を聞き、同 時にその発音に対する内容を把握し、こうした経験の繰り返しによって、文字とその中の 個々の発音との対応関係を理解すると指摘している。 

吉田(2001,p.105)は、独特の声の癖が形成される要因は、家族の関係性に基礎を求め ることができるからだと指摘している。共に過ごす時間が長いため、幼い頃から見ている 親の姿勢や呼吸の癖、声の出し方や話し方も無意識に真似するようになって身につくもの で、呼吸や姿勢、抑揚、息の送り出し方といった微妙なものも浸透することを指摘してい る。 

そうであれば、後天的要因として形成されたものを変えれば、声を変化させることは可 能であると考えられる。 

亀渕(2006,pp.21-22)は、「ゼロの声を原点にしながら、自分の声を意識し、高い声、

低い声、大きな声、小さな声、いい声、悪い声とさまざまな声を使い分けできるようにな れば、それだけで人間関係は広がっていく。」ことを指摘している。 

声を変化させることで、人間関係に影響を与えることが可能であることを指摘するもの である。姿勢もまた、育った環境によって変化するとされる。そしてその姿勢が影響を及 ぼすことも明らかである。姿勢を変えることによって、声が劇的に変化することは、ボイ ストレーニングを受けた経験のある者であれば自ずと理解できる。亀渕が指摘するように、

ボイストレーニングでは自然体の声を基準にして多彩な音色を出すための発声を練磨する。

性格についても本来持って生まれた素質も存在するが、やはり姿勢同様、環境によって変 化していくものであり、声の形成に特に発声の仕方に大きく係っている。例えば、活発な 人の声はいつでもハキハキと元気に明瞭に発せられ、おとなしい控えめな人の声はボソボ ソした声から、決して人を押しのけて前に出ようとしないことが声から感じられる。この ように環境によって影響を受ける声は、家族構成によって作り出されることが大きい。大 人数の家族構成の家で育てば自然に声は大きく、早口になり、両親が静かなおっとりした 家庭で一人っ子に育てば、自ずとゆったりとした声になり、慌しさを感じさせない。 

亀渕(2006,p.19)は、「昔から『良い人悪い人の人相はある一定の歳になると顔に現れ る』といわれているが、歳をとるに連れ、『人相は顔よりも声にこそ明確に現れる』」こと を指摘している。声が、骨格によって類似することは、先天的要因で述べたが、体格や人 格、さらにアイデンティティも声の形成に関連すると考えられる。 

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3  複合的要因(家族構成・職業・役割)

後天的要因でも触れたように、身分や地位を象徴する声というものは確かに存在する。

それは一概に後天的要因だけではなく、内的要因の自然体の声から後天的要因が加わり、

複合的となって、その人格のイメージが成立すると考えられる。環境によって、息の深さ、

声の大きさやスピード、高低、抑揚など、さまざまな要素が影響し、声を形成していく。

さらに、家族構成によって、職業によって、担っている役割によって、声の発声法が変化 し、そうした複合的な要素が、万人が納得するパーソナリティに合う声を形成している。

そしてその声は、その人の生き様によっても変化し、声のノンバーバル要素から人柄をも 表しているといえる。 

米山(2002,p.64)は、いつも朗らかな人の声は、当然朗らかなイントネーションであり、

いつも怒ってばかりいる人の声は、いくら優しいバーバルを用いて話しても怒った声にし か伝わらないと指摘している。 

もともと朗らかな人だから、朗らかな声なのか、朗らかに振舞っているうちに、後天的 に朗らかな声になったのか、それに対する明確な答えは不明であるが、両方とも有り得る と考えられる。このことを見事に反映した実務が行われているのが、役者のキャスティン グである。すなわち、通常、役者の置かれている生活環境を表すかのように、メディアで は常にリアルタイムでその商品が打ち出すイメージにぴったりの背景を持つ役者がキャス ティングされている。例えばオムツのコマーシャルであれば、母親になりたての女優が選 ばれることが多い。商品名をいう数秒のナレーションの声でさえ、母親になりたての声優 が選ばれるほどリアリティさが明確に打ち出される。だからこそ、商品のコマーシャルは、

常にタイムリーな「その時の人」が選ばれる。癒し系の商品であれば、癒しを感じさせる コンテクストを持つ声優の声、勝利を打ち出すにはオリンピックで優勝するなど、その時 の人が選ばれる。ここでも、声はその人の感情を出すだけでなく、その時のその人の生き ている背景を現すことが証明されている。それが、ノンバーバル要素が醸し出す本質部分 である。バーバルが何を言おうと、ノンバーバル要素はバーバル以上に強く本質を打ち出 す。性格や、育った環境、今置かれている立場、内面的な想いなどのタイムリーな本質が、

ノンバーバルの声に現れる。声の持つノンバーバル要素が、実体験に伴う経験を自然に表 現し、相手とのコンテクストの共有を高めているといえる。 

             

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第3節  声におけるノンバーバル要素を形成する外的要因

内的要因が基盤となり、さらに外的要因や複合的な要因によって声に変化が生じ、外的 要因、すなわち、環境、行動パターン、役割によって声が構築されるということは、声に は、その人の生き様が現れると考えることができる。 

米山は、多くの声に係る領域の専門家の診療に従事すると同時に研究を行い、治療だけ でなく、声のコンサルティングにも多く携わってきた経験に基づき、生きてきた環境はそ の人の声に如実に反映すると指摘している(米山 1997,p.180)。つまり、親子や兄弟の声が 似ていることも、それは遺伝によるものだけではなく、同じ環境の中で同じ物を食べ、似 たような骨格から発声される声が似てくるということである。また、声は後天的に作られ るものであり、それは、一番接する時間の多い人間からの影響を受ける。ほとんどの場合 は母親の影響力が大きく、声のアクセントやイントネーションについて、子どもは母親に 似ていることが多いことも指摘している(米山,1997,p.58)。 

しかし後天的に形成された方が影響力が大きいということは、声はいつでも意識により 変化させることができるということではないだろうか。当然一緒に居る時間が長ければ、

アクセントや抑揚の付け方も類似してくるが、遺伝に関係なく本人の意思で変えることが できるといえる。このような外的要因による声の形成を示す例として、次のような指摘を 挙げることができる。 

  内田(2003,p.30)によれば、自宅の近辺に電車が走っている、兄弟姉妹が多い、周囲が うるさいなどの環境で育った人は、自然と普段の話声が大きくなり、アクセントも激しい。

読書好きな両親に育てられ、家ではいつも家族で読書といった環境で育った人は、前者と は逆にアクセントは弱く、声自体が弱く、小さい。環境が作り出すそれぞれの声は長い時 間を経て、その人その人の声を確立していくのだという。そしてそれは、イントネーショ ンにも大きく影響する。 

東北から出てきた人がイントネーションを直しても、標準語の発声とは異なる場合が多 いのは、寒冷地であるため、口を大きく開けない話し方が習慣化していることによること が指摘されている。しかしそうした話し方が、親や親戚など生まれた時から傍で見てきて いる周囲の話し方に強く影響を受けて育ったことが原因である場合には、意識的に修正す ることは可能である。 

関西地方の人も同じように考えられる。関西の場合はアクセントだけでなく、通常小学 校で習う無声音と鼻濁音を日常使わないことに大きな原因があると思われる。そのため、

毎日のようにメディアで標準語の発音を耳にしているが、アクセントを修正しても有声音 しか発声しないためにすぐに関西地方出身だとわかる。親も教師も無声音と鼻濁音を使わ ない環境では、アクセントを修正しても標準語の発音とはならない。このことは、日本人 が大人になってから英語に取り組んでもRとLの発音を区別できないのと似ている。亀渕

(2006,p.20)もイントネーションについて、以下のように指摘している。 

「大阪で育てば大阪弁のイントネーションやテンポが身につき、声もそれに影響され

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る。」  

このような育つ環境による要因に加え、声が個々の生きてきた背景や生き様を表すサイ ンとしての役割を担った理由の1つとして心理学の役割理論に大きく関連していると思わ れる。このことについて、原(2007)は、次のように指摘している1

「役割理論とは、義務と役割という言葉があるように社会生活において気が付くとよく この言葉に当てはまる状況に身をおき、例えば親としての役割、夫としての役割、妻とし ての役割、部下としての役割、上司としての役割と自分を限定させて、義務と役割に縛り、

夫として自分はこうすべきだ、妻として私はこうすべきだと、ある規則にそって自分をあ てはめ、その役割で自分を縛っていくというものである。知らず知らずのうちに環境の中 での自分の役割“こうあるべきだ”という姿に自分の身をおき、その規則どおりに生きる のである。“こうあるべきだ”という心理の裏側にあるものは、“こうではいけない”とい う心理で、すなわち、本来の自分ではなく、役割を演じることによって自分の何かを証明 しようとして意味している。」 

確かに声は、ただ単純に声帯を振動させているだけでなく、その人の役割を大きく反映 している。例えば、多くの鮮魚店や青果店の人の声が、仮声帯の上に力を入れた、いわゆ る「ダミ声」をしているのは、当初は商店街で買い物する人たちに届くように、大きな声 を長時間発することにより、そうしたダミ声になったのかもしれない。そしてその声が定 着し、後の後継者たちは無意識のうちにそのダミ声を模倣していたとも考えられる。警察 官の声は、強く張ったイメージが強いが、違反者や犯罪者と頻繁に接しているうちに、強 く張った声が形成された可能性が高い。それ以前に警察学校では大きな声で号令をかける 練習を毎日行っていることも影響を与えていると考えられる。またそれとは対照的に、ほ とんどの落語家は柔らかい多彩な声を使っている。姿勢も常に胸を張っている警察官とは 違い、演じる役によって変化させ、姿勢と声が連動している。抑揚も同時に変化している。 

職業と声の抑揚の付け方、そしてその声と職業柄の姿勢は既に定着した型が確立してい るようである。それは、役割理論の見解においても明確にできそうである。教師の声、看 護師の声、客室乗務員の声、政治家の声、それぞれの分野においてイメージできる声が存 在する。そして、その枠組みに自分の声を組み合わせ、オリジナリティのある職業による 声を成立するのである。 

亀渕(2006,p.51)は、職業による声について以下のように指摘している。 

「電車の車掌さんの独特な節回しは、耳に心地よいとはいえませんが、漫才が真似する ぐらい会社によって特徴があり、あの独特な節回しは代々引き継がれてきたに違いありま せん。もう少し普通にしゃべればいいのにと感じている人も多いと思いますが、普通の声 で平凡にアナウンスしていたのでは気がつかない人が多いはずです。あの独特な節回しと イントネーションで言うから、車内アナウンスと認識され、聞きそびれてうっかり乗り遅 れる乗客が少ないのです。鮮魚店の呼び込みも、車内アナウンスも、耳障りな悪い声を逆 手にとって活用している例といえるでしょう。」 

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職業柄の特徴が類似しているのは、過去の経験から作られ、それが伝授されてきたから ではないだろうか。米山(1997,p.204)に基づいて、望ましい声を要約すると、図表 2-3-1 のとおりである。 

 

牧師、僧侶の声 

強い声を長時間続けることに堪えられる声帯と体力が必要。

荘重な威厳のあるやや暗い音色もほしい。あまり軽薄でかん高い声 では権威も説得力もなくなる。 

学校の先生の声 

一般的にいえることは、声の使用時間が長く、強い声が要求される ので、それに耐えられる条件を備えていること。例えば、声帯の粘 膜の強さは、声を出してみてすぐ痛めてしまうようではダメ。もち ろん、学校の種類によって声の使い方は違う。幼稚園、小学校では、

ガヤガヤした騒音の中でしゃべるので大きな声が必要。 

タクシー運転手・

電車・バスの 車掌の声 

明るい音色、明確な発語、人当たりのいいソフトな音色。話し方 が悪いのか、声が悪いのか、一部のタクシーでは不愉快な思いをす ることがある。声はなるべく明るくしてほしいもの。 

アナウンサーの声 

語音の明確さ、放送内容に応じた音色、テンポ、強さ、高さを変 えられるかどうか。ラジオの場合は美しい声からその人の人柄や容 姿までが美しく想像されるし、逆にガラガラ声で乱暴な話し方から はその放送内容まで不潔な感じになり、聞こうとする意欲を失う。 

電話交換手・受付 嬢・エレベーター ガールの声 

明瞭度があること。高さは、高すぎると耳障り。落ち着いて、明る く、ソフトな音色が好ましい。

  銀行員・

保険の外交員の声 

明るい音色、落ち着いた中程度のテンポ、中程度の強さ、あまり高 くないピッチ、高飛車でないこと、不自然なイントネーションと遅 すぎるテンポで、いんぎん無礼にならないこと。 

証券会社・商品取 引の営業マンの声 

活気あるテンポ、やや高く、やや強めの声。 

 

出典:米山文明(1997)『声がよくなる本』主婦と生活社 p.204 を基に作成        図表 2-3-1. 職業別・声の適正条件、望ましい声 

 

こうして求められる形のある職業の声は、次の世代へと受け継がれ、その職ならではと いえる声の抑揚をつけ、伝承している。父親や母親らしいという声も、自分の父親や母親 から自然に受け継いでいる声なのだろう。その声には職業同様、各家庭に特徴があり、そ うした声がまた、新しい家族に受け継がれていくのである。

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第4節  小括

 

第 2 章では、ノンバーバル要素としての声を形成する要因について、第 3 節により論じ た。ノンバーバル要素としての声の役割では、声が、人間にとってバーバルが存在する以 前にどのような働きをもっていたか、そしてその働きにおいて、人間と動物との相違点を 踏まえ、本能的に持ち合わせた極少数の音色でしかなかった声、すなわち、ノンバーバル 要素が担っていた役割の重要性について記述した。さらに、ノンバーバルのみの要素のか ら、バーバルも同時に伝えられるように成立するまでにどのような過程を経て構築され、

コミュニケーションにどのように声が影響してきたか、さらに意思伝達に必要な人間の持 ち備えたコミュニケーション・ツールとしての役割について論じた。声におけるノンバー バル要素を形成する内的要因では、なぜ親子や兄弟の声が似ているのか親しい友人とテン ポが似ているのかを、それぞれの専門分野の専門家による文献に基づき、遺伝・骨格・呼 吸・姿勢・性格から考察した。ノンバーバル要素として、アクセント、イントネーション が感情伝達に大きな役割をし、またノンバーバル要素が、遺伝以上に、環境から作られる 影響が大きいことから、意識的に声を操ることで、アクセントやイントネーションを変え、

更なるコミュニケーションの輪を広げる可能性が顕在することを論じた。そして、声にお けるノンバーバル要素の影響力が第一印象に特に重大な影響力があることを述べた。 

また、声におけるノンバーバル要素を形成する外的要因として、環境・行動パターン・

役割について論じた。生きてきた環境がその人の声に如実に反映するという研究者による 文献から、幼児期の成長過程における声が構築される環境の重大さ、周囲の人や生活する 環境によって作られる声から、相手に自然に伝わる事柄について論じた。声が個々の生き てきた背景や生き様を表すサインとしての役割を担った理由である役割理論について、心 理学領域からの文献によりそのつながりについて述べた。義務と役割を持つ社会生活の中 で、自然に作られた本来の声ではない本質的要因をそれぞれの分野の見解からまとめた。

通常、バーバルの要素のみに注目される声が、実は複合的なノンバーバル要素を有してい ることについて、先天的要因、後天的要因、内的要素、外的要素の諸側面から検討した結 果、やはり、声は、その人の生き様を現し、声におけるノンバーバル要素から、その人の 職業柄や家族構成など、生活における特質が感じられることは間違いないようである。 

                 

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第 2 章  脚注

1原(2007)の指摘は、http://www.counselingservice.jp/lecture/lec24.html 

(2007 年 2 月 1 日現在)に基づく。

参照

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