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第2章 バックドライバビリティの基礎

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Academic year: 2022

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第2章 バックドライバビリティの基礎

2.1 緒言

前章において,これからのロボット用アクチュエータとしては,従来の工場で使用さ れる産業用ロボットだけでなく,近年あらわれてきたヒューマノイドロボットなどのパ ートナーロボットのように人間と共存するロボットに使用される,また産業用ロボット においても外部からの力に反応するコンプライアンス制御のもとで使用される,という 機会が多くなることから,その必要な性能として,従来より求められてきた高精度,高 速,高出力という性能のみならず,人間に対して安全であること,突然の外部からの衝 撃や外部からの力に対しても柔らかく反応し人間に危害を与えることのないのみならず,

自らの機構をも保護するという性能が必要性であることを示した.そしてその性能を実 現する機構的な解決策のひとつの方法として,アクチュエータが高いバックドライバビ リティを有することを提案した.そして,本研究の目的として高バックドライバビリテ ィを有するロボット用アクチュエータを実現する,とした.

本章では,この高バックドライバビリティを有するロボット用アクチュエータを実現 するにあたって,まず,バックドライバビリティとは何かという概念の検討を行う.バ ックドライバビリティという概念については従来より「出力節に適当な力を加えたとき に, その節が可動し, かつそれが入力節側に伝わる性質」といった定性的な説明は存在 していたが,本研究のようにバックドライバビリティの向上を目指す場合には,その向 上のレベルを知る必要性がでてくるので,定量的な定義が必要となってくる.したがっ て本章では,まず,バックドライバビリティの概念の解析を行う.すなわち,アクチュエ ータを構成するモータと減速機を含めた機構系のモデルについて検討し,そのなかに含 まれる「バックドライバビリティ」という性質を導き出し,その概念の定量的定義につ いて新たに提案する.そして,この定義に基づいて,高バックドライバビリティの実現 の指針を示す.その中で,実際のバックドライバビリティの値の計測にあたって,静的 バックドライバビリティおよび動的バックドライバビリティの概念についても新たに提 案を行う.

(2)

2.2 バックドライバビリティの概念と定義

2.2.1 バックドライバビリティの概念の検討

まず, バックドライバビリティとは何かということについて検討する.

バックドライバビリティという用語の意味についてであるが, 日本機械学会の機械工学 事典 36) によると,

バックドライバビリティ:

「アクチュエータや動力伝達機構において, 出力節に適当な力を加えたときに, その節が可動し, かつそれが入力節側に伝わる性質.ダイレクトドライブ モータや低減速比の平歯車を用いた駆動系などにこのような性質がみられる.」

と記されている.

性質という概念は説明されているが, 定量的な定義はない.

そこで, 本研究では, バックドライバビリティの概念としては,

バックドライバビリティ:

「アクチュエータや動力伝達機構において, 出力節に適当な力を加えたときに, その節が可動し, かつそれが入力節側に伝わる伝わり易さ.」

と考える.より伝わり易い場合に, バックドライバビリティが良くなった, あるいは, 向上した, とする.

2.2.2 バックドライバビリティの定量的定義の検討

それでは, バックドライバビリティを定量的に定義できるようにするために,バック ドライバビリティの概念の理解をもう少し深めるところから始める.

まず, ロボット用アクチュエータを構成するモータと減速機,および負荷との構造は, Fig.2.1 のように示される.

(3)

Motor Gear

Load

Motor Gear

Load

X Z

X Z

Fig.2.1 Configuration of motor, gear and load

ここに, 各部に加わる力を加えてみると Fig.2.2 のようになる.

これは, 入力側から通常に運転動作させる場合の概念図である.

Motor inertia

Gear inertia

Load inertia

Viscous friction Coulomb’s friction

Viscous friction Coulomb’s friction

Motor inertia

Gear inertia

Load inertia

Viscous friction Coulomb’s friction

Viscous friction Coulomb’s friction

X Z

X Z

Fig.2.2 Configuration of motor, gear and load with force

(4)

さて, それでは, このような系において, 衝撃トルクのような外力トルクが働く場合に, その衝撃トルクを軽減するため, モータにインピーダンス制御を与えた場合の概念を検

討する. 37)38 ) わかり易いために直線運動を各部がするとした場合の概念図は, Fig.2.3

のようになる.

X Z

X Z

Motor Gear

m Load K

Dm Dg

F

m

F

g

Mg

Mm

M

l

Motor Gear

m Load K

Dm Dg

F

m

F

g

Mg

Mm

M

l

K

m

D

m

F

m

M

m

Mg

D

g

F

g

: mass of motor

: coefficient of viscous friction in motor control : coefficient of spring in motor control

: friction force in motor : mass of reduction gear

: coefficient of viscous friction in reduction gear : friction force in gear

K

m

D

m

F

m

M

m

Mg

D

g

F

g

: mass of motor

: coefficient of viscous friction in motor control : coefficient of spring in motor control

: friction force in motor : mass of reduction gear

: coefficient of viscous friction in reduction gear : friction force in gear

Fig.2.3 Impedance control with motor, gear and load

この図から, 適切なインピーダンス制御を実現するためには, モータ内の摩擦力, お よび減速機部の各要素の影響が極力少ないことが望まれることがわかる.

この図を, より実際に近づけるために回転系の図で表すようにしてみると, Fig.2.4 のようになる.

(5)

Km Dm

J

m

Dg

J

g

J

l

F

m

F

g

Motor Gear

Km Dm

J

m

Dg

J

g

J

l

F

m

F

g

Motor Gear

X Z

X Z

K

m

D

m

F

m

J

m

Jg

D

g

F

g

: Inertia of motor

: coefficient of viscous friction in motor control : coefficient of spring in motor control

: friction force in motor : Inertia of reduction gear

: coefficient of viscous friction in reduction gear : friction force in reduction gear

Jl : Inertia of load

K

m

D

m

F

m

J

m

Jg

D

g

F

g

: Inertia of motor

: coefficient of viscous friction in motor control : coefficient of spring in motor control

: friction force in motor : Inertia of reduction gear

: coefficient of viscous friction in reduction gear : friction force in reduction gear

Jl : Inertia of load

Fig.2.4 Impedance control with motor, gear and load

(6)

この図において,外部駆動トルクを とすると,トルク方程式は、

T

out 次のようになる.

(

m

& D

m

θ & + K

m

θ + F

m

+ (

g

& D

g

θ & + F

g

= T

out ( 2.1 ) 必要な係数がソフトウェアで制御可能な理想的なインピーダンス制御を行うためには,

( 2.2 )

J & D θ & + K θ + F = T

が, 実現できればよいのであるから,

( 2.3 )

( J & D & + F ) = 0

となることが望ましいことになる. これは, 減速機が回転の減速比は持つが, 慣性抵 抗, 粘性抵抗, 摩擦抵抗のない理想減速機となることを意味する.

バックドライバビリティの理想の状態は, この状態であるが, 実際は, 減速機が存在す る限り, この減速機の発生する抵抗は存在する.

そこで, 外部駆動トルクを加えた場合にこの減速機の発生する抵抗を,

バックドライブ抵抗 : ( 2.4 )

( J & D & + F ) J

J θ & + ) θ & + )

θ & +

θ

θ &

+ θ

θ &

out m

m m

m

+

g g

g

g g

g

と定義することにする.

これにより, バックドラバビリティが良くなること, すなわち

「バックドライバビリティの向上は, バックドライブ抵抗を低減することを意味する」

とする.具体的には,

→ 0 J

g 慣性抵抗の低減:

→ 0 D

g 粘性抵抗の低減:

→ 0 F

g クーロン摩擦抵抗の低減:

のように,それぞれの係数をできるだけ0に近づける努力を行えば, 良いことになる.

(7)

2.3 バックドライバビリティの定量的評価

2.3.1 静的バックドライバビリティ

バックドライバビリティを定量的に計測するということは、具体的には,前節で定義 したバックドライブ抵抗: を計測することになる.しかしながらこ の値はアクチュエータの回転速度、回転加速度によって変化してくるので,実際の評価 には困難が生じてくる.そこで本研究では,静的バックドライバビリティ、動的バック ドライバビリティという考え方を導入し,それぞれの計測を行い,評価に結びつけると いう方法を提案する.

(Jgθ&&+Dgθ&+Fg)

まず,静的バックドライバビリティについて説明する.

本研究では, 人間と共存するロボットが安全で柔らかく反応するという必要性を述べて いる.ロボットが人間と触れて動作するときの柔らかさとはアクチュエータが回転を開 始するときの柔らかさである.また,ロボットが転倒することも考えられ,その際の衝 撃吸収にもバックドライバビリティの効果を期待している.実際の転倒時の衝撃吸収時 における出力軸の回転数は, 10 ~ 20 rpm前後と比較的低い値である.アクチュエータ が回転を開始する,または低い回転数であるという場合には, 慣性抵抗, 粘性抵抗は, クーロン摩擦抵抗に比較して小さいと考えられる.

したがって,このような場合を考慮し,バックドライブ抵抗のうち,まずクーロン摩擦 抵抗 を計測, 評価することとした. そして,これを,「静的バックドライバビリ ティ」と呼ぶこととした.

Fg

すなわち, 本研究では, バックドライバビリティを定量的に評価する目的で,

静的バックドライバビリティ値:

「減速機を外部から回転を開始させるために必要な値とし, 0に近い非常に ゆっくりとした回転数で回転させた場合に計測される回転トルクの値」

とした. 値が少ないほうが, 静的バックドライバビリティとしては有利となる.

(8)

2.3.2 動的バックドライバビリティ

次に、動的バックドライバビリティについて説明する.

アクチュエータが回転を開始するときのバックドライバビリティの値の必要性は前節で 述べたが,さらに,減速機を外部からある回転数で回転させている場合の抵抗,すなわ ち,動的な状態でのバックドライブ抵抗についても検討を行う必要性がある.その計測 と検討の必要性は,ロボットの関節が転倒などにより急激な衝撃力を受ける場合,その 衝撃力を緩和するためには回転開始が早いだけでなく減速機が外力により急速に回転数 を上げていく必要があり,その動的な状態を知ることが大変重要となるためである. す なわち,外部から回転力を受ける場合に動的にもできるだけ抵抗が少ないことが重要で,

これにより減速機や関節機構の破壊を軽減することにつながることになる.すなわち,

減速機が外力トルクにより出来るだけ少ない力で回転を始めることも重要であるが,そ の後も出来るだけ少ない力で回転数が急速に上昇していくことも大変重要である.

特にパートナーロボットの場合,腕部の関節は転倒衝撃を受ける役割を持つことが多い が,衝撃力により回転数が急速に上昇する性能を持つ必要性が高い.

この計測は,具体的には,回転を開始した負荷トルクから少しずつ負荷を上げていき,

そのそれぞれにおける減速機の回転数を計測していく.そして,負荷と回転数の関係を 求めていく.バックドライブ抵抗の要素としては,慣性抵抗,粘性抵抗,クーロン摩擦抵 抗があるが,回転数の計測としては定速回転時の回転数を計測するため,この計測では 主に粘性抵抗とクーロン摩擦抵抗の影響によるバックドライブ抵抗を計測することにな る.そして,これを,「動的バックドライバビリティ」と呼ぶこととした.

すなわち, 本研究では, バックドライバビリティを定量的に評価する目的で,

動的バックドライバビリティ値:

「減速機を外部から回転させ,その回転数を少しづつ上昇させていった場合に 計測される必要回転トルクの値」

を加えた. 値が少ないほうが, 動的バックドライバビリティとしては有利となる.

(9)

2.3.3 モータと減速機のバックドライバビリティ

バックドライブ抵抗は,減速機で生じる抵抗として前節では説明した.しかしながら,

アクチュエータの機械モデルで示されるように,モータにも抵抗値は存在する.この扱 いについては今回は次のように考える.

モータの機械的なクーロン摩擦抵抗および粘性抵抗はロータのベアリングに生じる 抵抗が主である.また,ロータとステータの間には磁気的な抵抗も存在する.しかしなが ら,これらの値は通常は減速機の機械構造から生じる抵抗に比較して大変低い値である と考える.したがって,本研究では,モータから生じる抵抗については除外することと する.

高バックドライバビリティを有するアクチュエータの実現にあたって,バックドライ ブ抵抗の低減については減速機に集中して行う.

モータに関しては,本研究の目的にも述べたように,アクチュエータ全体としての高 バックドライバビリティ化を目指すために高出力化を目標とする.すなわち,基本的に,

高バックドライバビリティの実現には減速機の検討が重要であるが,バックドライバビ リティは減速比ができるだけ低いほうが高いことがわかっているため低減速比を目指す ことになる.このとき,必要な高出力を実現するためには, 減速機の減速比を低くした 分だけモータそのものの出力をサイズを維持したまま向上させる必要が生じる.したが って,高バックドライバビリティを持つロボットアクチュエータの実現には,「高出力 モータ」と「バックドライバビリティの高い減速機」の双方の実現が不可欠となる.

これより,本研究では,高バックドライバビリティを有するアクチュエータ全体とし ての実現のため,モータについては高出力化,減速機についてはバックドライブ抵抗の 低減を目標として進めていくこととする.

(10)

2.4 結言

本章では, 高バックドライバビリティを有するロボット用アクチュエータを実現する にあたって,まず,バックドライバビリティとは何かという概念の検討を行った.

従来、バックドライバビリティという言葉は存在していたが,定性的な定義のみであっ た.本研究のようにバックドライバビリティの向上を目指す場合には,その向上のレベ ルを知る必要性がでてくるので,定量的な定義が必要となってくる.したがって本章で は,まず,バックドライバビリティの概念の解析を行った.すなわち,アクチュエータを 構成するモータと減速機を含めた機構系のモデルについて検討し,そのモデルより外部 から力が加えられた場合のトルク方程式を検討した.そして,そのなかに含まれる「バ ックドライバビリティ」という性質を導き出し,その概念の定量的定義について新たに 提案を行った.

すなわち,バックドライバビリティの概念としては, バックドライバビリティ:

「アクチュエータや動力伝達機構において, 出力節に適当な力を加えたときに, その節が可動し, かつそれが入力節側に伝わる伝わり易さ.」

と考え,より伝わり易い場合に, バックドライバビリティが良くなった, あるいは, 向 上した, とした.

次に,外部から力がアクチュエータに加えられた場合のトルク方程式からバックドライ バビリティの定量的概念の検討を行い,

)

( J

g

θ && + D

g

θ & + F

g

バックドライブ抵抗 :

を定義した.

次に,バックドライバビリティを定量的に計測するということについて、具体的には,

定義したバックドライブ抵抗: を計測することになるが,この値は アクチュエータの回転速度、回転加速度によって変化してくるので,実際の評価には困 難が生じてくる.そこで本研究では,静的バックドライバビリティ、動的バックドライ バビリティという考え方を導入し,それぞれの計測を行い,評価に結びつけるという方 法を提案した.

(Jgθ&&+Dgθ&+Fg)

(11)

すなわち,

静的バックドライバビリティ値:

「減速機を外部から回転を開始させるために必要な値とし, 0に近い非常に ゆっくりとした回転数で回転させた場合に計測される回転トルクの値」

動的バックドライバビリティ値:

「減速機を外部から回転させ,その回転数を少しづつ上昇させていった場合に 計測される必要回転トルクの値」

の2つの計測に関わる定義を提案した.

後章において、減速機を試作し,比較評価を行うが,その際にこれらのバックドライバ ビリティ値を計測することにより評価を行う.

モータに関してであるが,アクチュエータの機械モデルで示されるように,モータに も抵抗値は存在する.この扱いについては今回は次のように考えることを示した.

すなわち,モータの機械的なクーロン摩擦抵抗および粘性抵抗はロータのベアリング に生じる抵抗が主である.また,ロータとステータの間には磁気的な抵抗も存在する.し かしながら,これらの値は通常は減速機の機械構造から生じる抵抗に比較して大変低い 値であると考える.したがって,本研究では,モータから生じる抵抗については除外す ることとした.

本研究では,高バックドライバビリティを有するアクチュエータ全体としての実現の ため,モータについては高出力化,減速機についてはバックドライブ抵抗の低減を目標 として進めていくこととする.

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