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(1)

介護等体験 の意義 と課題

「 神奈川大学方式 」 で取 り組んでみて

は じめ に

1998(平成10)年4月1日

,

「小 学校及 び中 学校 の教諭 の普通免許状授与 に係 る教育職員免 許法 の特例等 に関す る法律」 (介護等体験特例 演)が施行 された (1997年6月18日成立)。 こ れは,田中真紀子衆議 院議員の発議 か ら始 まっ た,9名 の議員 による議員立法 であ り, 田中議 員 は国会 で提案 理 由 を次 の よ うに説 明 してい

る。

「高齢化 ,少子化 の時代 に,将来 を見据 えた 教員の資質向上の一環 と して, また,長い 目で 見 て 日本人の心 にや さしさを起 らせ ることに繋 が る もの として,い じめの問題 な ど困難 な問題 を抱 える教 育 の現場 で , これか ら活躍 され る 方 々が,高齢者や障害者 に対す る介護等の体験 を自らの原体験 として持 ち, また,そ うした経 験 を現場 に活か してい くことによって,人の心 の痛みのわか る人づ くり,各人の価値観の相違 を認め られる心 を持 った人づ くりの実現 に資す ることを期待 してお ります

」1)

こうして成立 ・施行 された介護等体験特例法 によって,1998年度入学者 よ り,小学校 及び中 学校 の教諭の普通免許状 を取得 しようとす る者 は

,

「介護等体験」 を行 うことになった。

神奈川大学で は,1998年度 に短大生 と科 目等 履修生 を対象 に始 ま り,2007年度 まで10年 にわ たって実施 して きた。 この間,神奈川大学独 自 の方式 で取 り組 んで きた経緯があ り, また筆者 はその展 開 に中心 的 に関わ って きた こ とか ら,

入江 直子

ここで10年 間の成果 と課題 についてまとめてみ ることとした。

1.10年間の経緯

(1)スター ト時点 での現場の混乱

1998年度 は,法の施行が4月1日であったた ■ め,新年度 に入 ってか らの準備 になった。体験 の内容 は

,

「障害 者 ,高齢 者等 に対 す る介護 , 介助 , これ らの者 との交流等 の体験」 (介護等 体験特例法第 1条) と示 され,受 け入れ施設 と

しては,特殊教育諸学校 (2007年度か らは特別 支援学校) と社会福祉施設が定め られた。そ し て体験 の期 間は,文部事務次官通達で

「7

日間 を下 らない範 囲内」 で, 「社 会福祉施 設等5日 間,特殊教育諸学校2日間 とす る ことが望 ま し い」 とされた。 また大学が学生の体験希望 を取

りまとめ,社会福祉施設 については学生が希望 す る都道府県の社会福祉協議会,特殊教育諸学 校 については都道府県教育委員会 に申 し込 み, そ こが受 け入れ施設等 をさが して学生 の割 り振

りを し,その後 は大学が直接施設等 とや りと り を して実施す る とい う方式 になった。

したが って,受 け入 れ側 として社会福祉施設 と特殊教育諸学校 ,送 り出す側 として大学, 申 し込み を取 りまとめて割 り振 りをす る者 として 都道府県社会福祉協議 会 と都道府県教育委員会 が,それぞれ現場 となることになった。 しか し, 介護等体験特例法 は議員立法であ り,現場 の問 題か ら構想 された ものではなか ったため,それ ぞれの現場 に とっては 「上か ら降 って きた」問

(2)

題で

,

「趣 旨を理解す る」 よ りも

,

「何 とか対応 す る」 ことに精一杯 とい う状況であった。

神奈川大学では,法が施行 された1998年度の 入学者 として,その年か ら教職課程 を履修す る 科 目等履修生 と短大生 を対 象 に実施す る必要が あ ったため,年度が始 まってか ら開催 された県 社会福祉協議会 と県教育委員会の説明会 に参加 して,学生 の申 し込み をまとめて提 出 した。初 年度 は7名が実施 した。社 会福祉 施設 の方 は, 学生 の住所等 を配慮 して割 り振 られたので,県 内7ヶ所 ,場所 も期 間 もば らば らであった。特 殊教育諸学校 の方 は,近隣の学校 を4ヶ所割 り 当て られ,やは り7名 だったので,1ヶ所1‑

2名が実施 している。

このス ター ト時点で現場が混乱 し,特 に大学 に とって問題 となったこととして,以下の点 を あげることがで きる。

① 「体験」の とらえ方のズ レ

「介護等体験」 は,前述 した ように,前年 の 6月の議員立法 によって突然実施す ることにな った ものなので,それぞれの 「現場」 にとって は

,

「上か ら降 って きた」 問題 であ り,何 とか 対応 しなければな らない こととして扱 われるこ ととなった。そのため,受 け入れる側 の施設 と しては,今 までの経験 の中で近 い もの と して, 社会福祉施設で は 「福祉実習」,特殊教 育諸学 校では 「教育実習」が参考 にされた。 したが っ て,施設か らは 「実習生」 として受 け入れ られ る とい う実情であった。

一方,送 り出す側の大学 としては,そ もそ も 教員養成課程 の中に 「介護」 に関す る学習 は位 置づ け られてお らず,特 に教育学部ではな く教 職課程 である神奈川大学では,障害児教育 に関 す る科 目 も設定 され てい ない状 況 で

,

「介護」

に関す る学習 を前提 とした 「実習生」 として学 生 を送 り出す ことは不可能 な状況であ った。 し たが って,あ くまで 「体験」 として位置づ ける 以外 にはないのである。

この 「実習」か 「体験」か とい う問題 は,読

論す る場 もな く実際 に始 まって しまい,現在 に 至 るまで, まともに議論 されていない と思 われ る。 申 し込み を取 りまとめて割 り振 りをす る社 会福祉協議会や教育委員会 も,事務的な処理 を す るだけで, この間題 の調整 は一切行 っていな い。「実習生」 として学生 を受 け入れた施設が, 期待 とは違 う学生の 「実態」か ら,不満 を感 じ

なが らも考 えを変 えざるを得 な くなった とい う のが実情である。 (しか し,現在で も 「実習生」

と言 われ る し, そ のニ ュア ンス は消 えてい な い。) この間,そ うい う学生 をお願 いす る立場 の大学 は,で きる限 り 「事前指導」 に取 り組み なが ら,学生の 「不始末」 (「実習生」 としての 不十分 さだけで な く,基本 的な社会性 の欠如 も 含 めて)の 「始末」 のため に,施設 に謝罪 を繰 り返 し,何 とか学生 の免許取得 を保障 して きた のである。

② 大学 に期待 される 「事前指導」

前述 したように,そ もそ も教員養成課程 には,

「実習」 の前提 となる 「介護」 に関す る学習 は 位置づ いてい ない し

,

「介護等体験」 の免許取 得 要件へ の導入 にあた っては

,

「体験」 を実施 した という 「証明書」が必要 になっただけであ る。 したが って,個人で実施す ることもで きる が,大学が学生の体験希望 を取 りまとめて依頼 す る窓口 となることが想定 された。大学の教職 課程 に とっては,学生の申 し込み を取 りまとめ る事務作業 と,学生 を送 り出す に当たっての最 小 限の 「事前指導」 が,必要 なこととして加 わ

った とい うことである。

「事前指 導」 は,授 業外 で実施す るため,介 護等体験 を実施す る学生が共通す る時 間帯 を設 定す るのが難 しく,複数行 うな どの必要があ っ た。それ を2‑3回にわたって実施す るのであ るか ら,か な り具体 的 な時 間 を要 した。 また, 内容 について も,教職課程 の教員が専 門 とす る こととは限 らず,戸惑 う状況で, ビデオを視聴 した り

,

「体験」 に行 く施設 の職員の話 を闘い た りとい う工夫 を した。 (ここで も 「実習」 と

(3)

い う言葉が使 われ,学生の現状 を理解 されてい るか不安であった。)

この ようなことが,神 奈川大学 としては 「で きる限 りの事前指導」 であ ったが

,

学生 の現

状」 と 「施設等が期待す る学生像」 のギ ャップ か ら,大学 の 「事前指導」 に対 しての不満が , マス コ ミ等で も語 られた。その中には,基本 的 な社会性 の欠如‑ 遅刻す る,挨拶や返事がで きない等一一 の問題 もあ るが

,

「将来 の教 員」

としての過度 の期待 に学生が応 え られない よう な場合 もあると思われた。

(2)神奈Hl大学方式の模索 と定着

以上の ような 「現場」 の混乱 を伴 って発足 し た 「介護等体験」 であったが,1998・1999年度 は,対象が短大生 と科 目履修生で10名以内であ ったため,個別 に対応す る形で実施す ることが で きた。 しか し,2000年度 には,1998年度入学 の3年生100名余 りが対象 にな り,2)実施 してみ て,改めて問題 と感 じることが浮上 した。また, 神奈川大学では,1999年度入学者 までは3年生 以上 を対象 に していたが,2000年度入学者か ら は2年生以上 を村象 にす るこ とにな り,2001年 度 は移行期で,2学年分 の学生数が予想 される ことか ら,問題 は よ り一層深刻 に感 じられる事 態であった。

問題 の一つ は,社会福祉施設の体験先があ ま りにば らば らで,学生の状況がつかめない とい うこ とであ った。特殊教育諸学校 については, 近隣の学校 (この年度,横浜 キャンパスの場合 は2校,湘南 ひらつかキャンパ スの場合 は1校) に希望 した人数が割 り当て られた。 しか し,社 会福祉施設 については,大部分が神奈川県社会 福祉 協議 会 に申 し込 んで割 り振 って もらった が,学生の住所等 を考慮 して割 り振 られるので, 実施施設 も実施期 間 もほ とん どば らば らで,大 学が施設 と必 要 な連絡 を とるだけで も大変 で, 学生の実施状況 を把撞す ることなど不可能であ った

もう一つ は

,

「体験」 と 「実習」 とい うとら

介護等体験 の意義 と課題

え方 のズ レか ら くる こ とで あ ろ うと思 われ る が,社会福祉施設の入所施設 (例 えば,老人ホ ームな ど) に 「 験」 に行 って

,

「実習」 と し て 「オムツ換 え」等 をさせ られることがあった。

現在 の学生 は,高齢者 を介護 した経験 はほ とん どな く, また学習 も何 もしていないので,ただ びっ くりして, イヤな経験 と して残 って しまっ た場合 も多 く,せ っか くの 「体験」が 「良い体 験」 にな りに くい状況であった。

この ような問題 を感 じたので,何 とか特殊教 育諸学校 の場合の ように,なるべ く大学の近 く のい くつかの施設で まとめて体験 を実施で きな い ものか と,施設 に も打診 しなが ら,県の社会 福祉協議 会 に相談 したが ,実現 は難 しか った。

そ こで,社会福祉協議会 を通 さないで,大学が 直接依 頼 す る方法 で受 け入 れ て もらえる どう か,直接施設 に打診 した。 ち ょうど介護保険制 度が始 ま り,デイ ・サ ー ビス を中心 に した高齢 者の在宅介護支援施設が地域 に増 えてい くとこ ろだったので,その情幸鋸こ接 して,大学近隣の 数 ヶ所 の 「地域 ケ アプラザ」 (横 浜市 のデ イ ・ サー ビス施設 の呼称) に呼びかけを した。その

うちの3ヶ所 か ら受諾 の回答 が もらえたので, 2001年度か ら,その3ヶ所 の 「地域ケアプラザ」

に学生の介護等体験 をまとめてお願 いす ること になった。

この 「神奈川大学方式」 と自称 している方法 によって,前述 した二つの問題 を解決す ること がで きた。す なわち,一つは,主 に3つの施設 で まとめて実施で きる ようになったので,施設 との連絡,施設での事前 オ リエ ンテー シ ョンな どがスムーズ にで きるようになる とともに,学 生の実施状況 について も,必要 に応 じて施設 に 出向 くなどして,把捉す ることが可能 になった。

また もう一つ は,デ イ ・サー ビス施設 にお願 い す ることがで きた ことで,学生 は比較 的要介護 度 の低 い高齢者 との 「交流」 を中心 に した 「介 護等体験」 をす ることがで きるようにな り,逮 り出す側 と しては, (学生 のため には)安心 し て送 り出す ことがで きるようになった とい うこ

(4)

とである。

「神 奈川大学方式」 は,具体 的 には以下 の よ うに運営 されている。

施設 によって受 け入 れ条件が違 うが,受 け入 れ 日数 は,5日または7日となってい る。 (社 会福祉施設 だけで7日間の体験 を行 うことも可 能 になっている。)条件 は,例 えば,A施設 は, 水 ‑火曜 日の1週 間の中の5日間 または7日間 で, 1週 間に 2人受 け入れ る。 B施設 は,月〜

金曜 日の5日間か,月〜 日曜 日の7日間で,1 週 間に3人受 け入れる。 C施設では,曜 日を固 定 して5週か7週続 け,1年 に50人受け入れる, な どである。それ らの条件 を学生 に示 し,年度 始 め に,大学が先着順 で 申 し込 み を受 け付 け,

まとめて施設 に申 し込 む ところか ら始 まる。そ の後 は,施設で適宜 (1ケ月 1回 ぐらい)事前 オ リエ ンテーシ ョンを しなが ら,実施 して もら っている。

なお,体験費用 は,神奈川県社会福祉 協議会 を通 して実施す る と,1日2000円 (社会福祉協 議 会の事務手数料500円 を含 む)であ るが,神 奈川大学では,施設 に直接支払 う1日1500円だ け学生か ら 「預 り金」 として徴収 している。 こ れは 「預 り金」 なので,何 らかの理 由で実施 し なか った場合 (辞退 も含 む),原則 と して学生 に返金 される。そ して,実施 した実数 に基づい て,年度末 にまとめて施設 に支払 われ る。社会 福祉協議会 を通す と 「申込金」 なので,実施で きな くて も返金 されず,実施の確認 な ど3者が 関係す るので複雑 で, この 「神奈川大学方式

は,事務職員か らも喜 ばれている。

こう して神奈川大学 として独 自に模索 した, 社会福祉施設 における介護等体験 の方式 は,施 設 にも継続 して受 け入れて もらえてお り,学生 に とって も,大学 に とって も,何 とか 「介護等 体験」 を 「よ り意味ある もの」 として運営で き

る方式であると考 えられる。

(3)体験者増に対応 した展開

「資格社会」 といわれ, また不景気 で就職難

といわれる と, と りあ えず教員免許 を取得 して お こうと教職課程 の履修者が増 える。それによ って,2年生以上 を対象 に して きた 「介護等体 験」 の希望者が,2001・2002年度 は150名前後 で あ った のが,2003年 度 には200名 を超 し, 2004年度 には300名近 くになる ことが予想 され

た。

そこで,お願 いす る施設 を増 やす ことが必要 になったが,介護保 険の展 開に ともなって新 し く増 える 「地域 ケアプラザ」 もあ り,2004年度, 2006年度,2007年度 とそれぞれ 1ヶ所ずつ,新

たにお願 いす ることがで きるようになった。特 殊教育諸学校 の方 は,前年度 に実施希望者数 を 県教育委員会 に申 し込 む と,それ に対応す る学 校数 を割 り振 って くれるが,やは り2004年度 に

1校,2007年度 に2校増 えている。

以上 の ように,社会福祉施設での介護等体験 は,当初か らの3施設 には継続 してお願 いす る ことがで き, また,必要 に応 じて新 たにお願い す るようになった3施設 を加 えて,2007年度 に は6施設 にお願 い している。こうした実績か ら,

「神 奈川大学方式」 は, まだ まだ解決すべ き課 題 はあ る ものの

,

「介護等体験」 の方法 と して それな りに定着 し,体験者数の変化 に も対応 で きる とい う点 で評価 で きる もので あ る と考 え る。

2.

学生にとっての意味

(1)学生指導の展開

‑ 授業 「介護等体験指導」の新設‑

「神奈川大学方式」 は, システム と してはそ れ な りに展 開す るようになったが,それ を体験 す る学生 に とって 「よ り意味 のある」 もの とし て運営す るため には,体験 の事前指導 と事後指 導の充実 によって,学生が 自分 の体験 を意味づ けることによる学 びをつ くり出す ことが重要 に なる。そ してそのため には,事前指導で 自分の 体験 をあ る程度想像す るこ とも必 要であ るが, 体験後 に体験 について語 るな ど

,

「体験 をふ り 返 る」機会 を持つ ことが大切である。

(5)

しか し前述 した ように,当初か らしば らくの 間は,事前指 導 は授 業外 で実施せ ざるを得ず , 学生が共通す る時間を設定す ること自体 も難 し い中,5月か らの実施 に向けて,4月中に一部 (昼 間部) と二部 (夜 間部) でそれぞれ2回ず つ全員 を集めて一斉指導 として実施す る とい う のがや っ とであ り,事後指導 としては,学生 に 感想 を提 出 させ るだ け とい うのが実情 で あ っ た。 したが って,い ままで経験 を したことのな い場所 に赴 く学生 に,最小 限の知識 と社会的マ ナー を伝 える こと しかで きず

,

「学生が 自分の 体験 を意味づ けることによる学 び」 をつ くり出 す ため に,「体験 をふ り返 る」機会 を持 てる よ うにす ることなどは,程遠い ことであった。 ま た,体験者数が増 えるに したが って,学生 の把 握 は困難 を極 め る よ うにな り,後期 にな る と

「申 し出 もしないで」辞退す る学生 も出現 して, この ままでは施設 にお願 い しに くくなる状況で あった。

そ こで,「介護等体験」 の事前指導 と事後指 導 を授業 にす ることと し,体験者数が300人 を 超 えることが予想 された2005年度 に 「介護等体 験指導」 とい う授業科 目を新設 した。 3)しか し,

これはそれ までの授業負担 にプラス される もの であるので,教員 に も学生 に もなるべ く負担が 大 きくな らない ように とい う点 を配慮 して考 え

られた。

具体 的 には,以下 の ように運営 されてい る。

授業 は半期 1単位である。横浜キャンパスでは, 一部 と二部でそれぞれ 1コマずつ前期 と後期 に 開講 される。湘南 ひ らつかキ ャンパスで も前期

と後期 に1コマずつ開講 される。社会福祉施設 での体験

(

「神奈川大学方式」 で体験 す る学生 がほ とん どであるが,個人で依頼す る学生 も少 数 いる) を5月〜 9月 に実施す る者 は前期 に, 10月‑ 2月に実施す る者 は後期 に履修 す る。 こ の授業 を履修 しなければ,体験 は実施で きない ことになっている。授業 は隔週,半期 で8回行 われ,原則 として欠席 は認め られない。

授業では, ビデオ視聴や施設 ・学校 の教職員

介護等体験の意義 と課題

の方か らの講義 な どによって体験 の イメージを つか む とともに,体験終了者が 「体験 を語 る」

ことによって,語 る者 は 「自分 の体験 をふ り返 る」,聴 く者 は 「体験 を共有 す る」 とい うこ と をめ ざ している。 しか し, コマ数 と体験者数 と の関係 で,100人 を超 える授 業 になる こ ともあ り,やは り一方的 に伝達す るだけになって しま うことも現状である。そ こで横 浜 キ ャンパスで は,2007年度 には何 とか 1クラス70人以下 に し たい と考 え,教員 の負担増 によって,前期 ・後 期 それぞれ3コマずつ開講す る試み をした。

以上 の ように

,

「神奈 川大学方式」 の展 開 と あわせ て,「介護等体験指導」 の授業 に取 り組 んで きているが,解決 しなければな らない問題 はつ ぎつ ぎと起 こる。 しか し,それ までの授業 負担 に加 えての 「介護等体験指導」であるため, 現在 の取 り組みの状況 は,教職課程 としては限 界である と思わざるを得 ない。

(2

)体験 を通 して学 べ ること

「介護等体験」 は,免許取得 に必要 な 「単位」

と して位 置づ け られてい るわけで はないので, 実施 に関わる業務 は,教員 に とっては,負担 の 増加 とい うことになる。その点 は,仕事 のあ り 方 として,解決 しなければな らない課題であ る が,学生が教職課程修了 に当た って書 く文章 の 中で,介護等体験 をとて も 「意味 のある」貴重 な体験 と してあ げ る こ とが多 いの は事 実 で あ り,介護等体験 の意義 は大 きい と考 え られ る。

体験後の学生の感想文 には,以下の ようなこと が書かれている。4)

① 陣がい者 や高齢者 に対 す る気特や イメージ の変化

「盲学校へ行 って‑ 日日か ら思 った こ とは何 よ りも子 どもたちが本 当に明る くて楽 しそ うだ ったことで した。盲学校へ行 くのは今 回が初 め てだったので,行 くまではやは りどこかお とな しい生徒 が多いのではないか な と思 ってい ま し た。 しか し授業風景 を見 させ て もらった り,千

(6)

どもたち と実際 に話 を した りしてみて,予想 し ていた もの とは全 く違 っていた ことがわか りま した。子 どもたちは とて も楽 しそ うで,運動会 のために毎 日練習 して きたのだ と, とて も張 り 切 って頑張 っていて,そんな姿 を見 てい る と目 が見 えない ことな ど何 も差 などない ように思 え て しまいま した。」

「私 は介護体験 の初 日が近づ いて きた時,非 常 に不安 な気拝 で正直 『や りた くない』 とい う 考 えが強か った。‑‑・四 日目,五 日目になる と, 利用者 さんに喜 んで もらお うとい う気持が何 よ

りも先 に立 ち,利用者 さん と話す ことや一緒 に 動 くことを率先 して行 うようになっていた。体 験前 の 自分 の考 えが信 じられない くらい この気 拝の変化 に驚いた。」

② 「コ ミュニケー シ ョン」の大切 さへの気 づ き

「介護体験 を通 して,人 と関わること

,

『コ ミ

ュニケーシ ョン』の大切 さをつ くづ くと感 じま した。会話 の中で, 自分が どう対応 してい った らいいのか よく考 えさせ られ ま した。 ジェスチ ャー を多 く取 り入れた り,相手の 目を見 て うな づいている と,利用者 さんたちは喜 んで話 を し て下 さい ま した。 この方法 は どの場面で も通 じ る と思い ます。 自分 は どち らか と言 うと話 し手 の方 なので,聞 き上手ではないのですが,話 を 聞 く姿勢 を少 しで も変 える と相手の反応 もだい ぶ違 うので これか らの生活の中で注意 してい き たい と思い ます。」

(丑 感謝 される喜び と自分の有用感

「私が介護等体験 を通 して最 も強 く感 じた こ ととしてい えるのが, この数 日で今 まで言 われ たことがない数の 『あ りが とう』 とい う言葉 を 言 っていただいたことである。普段 の何気 ない 行動 も利用者 さんか らすれば非常 に困難である か らこそ, 自然 とあ りが とうとい う言葉が出る のだ と思 った。 この ことか ら,感謝 され ること の喜 び と感謝す ることの重要性 を同時 に学ぶ こ

とがで きた。実際 にこの体験以降,公共の場で 高齢者 に声 をかけ られるようになった り, 自然 と公共マナーを意識す るようになった りとい う 心境 の変化が現 れた。介護等体験 は私 にとって 非常 に貴重 な体験で,人間 として大 き く成長す ることがで きた と感 じている。」

以上の ような感想がかな り多 いが,そ こか ら, 学生が体験 し学 んでいることを考 えてみ る。 ま ず体験前 は,未知の ことに対す る不安 と緊張で かな り重 たい気持で, なぜ教員 になるのに福祉 の体験 を しなければな らないのか納得 で きない まま出かける。 しか し,盲学校 の運動会では 自 分 たち と同 じようなことがで きる生徒 たちに驚 き,その明るさに巻 き込 まれて一緒 に楽 しむ経 験 を した り,養護学校 では 自分 の 日常 の 「こと ば」 が通 じない状況の中で,子 どもの方か らの 動 きで 「通 じた」 と感 じる経験 をす る。 また, 高齢者 のデイ ・サー ビスで は, どう話 しかけた

らよいか分か らない状態か ら,少 しずつ話 しか け られ る ようにな り

,

「あ りが とう」 と言 って もらった りす る。 こうした 「うれ しい」経験 を した り, 自分の存在価値 を実感で きた りす る中 で,気拝が軽 くな り, ようや くまわ りに目が向 くようになって,少 し積極 的にな り, 自分 に自 信が もてるようになるようである。

そ して,多 くの学生が感想文の最後で,今 ま で知 らなか った 「世界」 を経験 した こと, 自分 の 「コ ミュニケーシ ョンカ」 の欠如 と大切 さを 学ぶ ことがで き, こう した体験 は教職課程履修 者 だけでな く,すべ ての学生が した らいい と思 えることな どを述べ ている。 この ような経験 の 実態 を考 える と,学生がいかに同年代 の均 質 な 世界 しか経験 していないか,その ような育 ちの 中で,想像力 とコ ミュニケーシ ョンカがいか に 欠如 してい るか とい うこ とが分 か る とともに,

「介護等体験」 の意義 の大 きさを確認 す るこ と がで きる。5)

(7)

3.

今後の課題

以上 の ように

,

「介護等体 験」 その もの は単 位化 されてい ないため,その運営 に関わる指導 等 はそれ までの授業負担 にプラス され る もので あ るが,学生 に とっては, とて も貴重 な体験 に なってい る。 そ して,その貴重 な体験 を 「よ り 意味 のあ る」経験 にす る には

,

「体験 をふ り返

る」 活動 を充 実 させ る必 要 が あ るが ,現 状 の

「介護等体験 指導」 の授 業 の体制 の 中で は限界 である ように思 える。 したが って,現状 か らの 改善 を望 む とすれば,教職課程全体 の 中での位 置づ け と他 の授業 との関連 で改善の検討 をす る 必 要があ るが,2009年度 入学者か らの教職課程 の改訂 で科 目が増 えるこ とになってい る状況 で は,か な り困難 な課題である。

また,教職課程履修者 ,あ るいは全体 的 な大 学生の現状か ら生 じてい る問題 もある。それは,

「年 々」 と言 っていい ほ ど,社 会性 とコ ミュニ ケ ー シ ョンカ が低 下 して い る とい うこ とで あ る。 それ によって,体験先で トラブル を起 こ し て しまう事例 が増 えて きて,今 まで2年生以上 で実施 して きた 「介護等体験」 を,3年生以上 に変更す る こ とを検討せ ざるを得 な くなって き ている。学生 に とって 「初 めての」世界 であ る こ とが多いので, なるべ く早 く体験 して,その 体験 を教育 について学ぶ際 に活か してほ しい と 願 って,2年 生 か ら実 施 して きたが ,社 会 に

「ご迷惑 をか けて も」 とい うわけ にはいか な く なったのである。

こうして考 える と,始 まってか ら10年 にわた って取 り組 んで きた 「介護等体験」 の これか ら の改善の展望 は,あ ま り明 る くはないが,学生 が経験 す る さまざまな 「気づ き」 は,他 でつ く り出す こ とはで きない こ とであるので,何 とか 少 しずつで も改善 に取 り組みつつ運営 してい き たい と考 える。

介護等体験の意義 と課題

<

注 >

1)現代教師養成研究会編 『教師をめざす人の介 護等体験ハ ン ドブ ック 改訂版』 (大修館書 店,2003年)「は じめに」か ら引用。本書 は,

「介護等体験指導」でテキス トとして使用 し ている。

2)体験者数の推移は,<表1>を参照。

3)2005年度以降の 「介護等体験指導」の履修者 数は,<表2>を参照。

4)学生の感想 は

,

『神奈川大学教職課程通信』

第20号 (2003年3月25日)及 び2007年度

「介護等体験指導」履修者の感想 か ら引用 し た。

5)入江直子 「教員養成における 『体験学習』の 必要性一一 『介護等体験』実施 の経験か ら」

『神奈川大学教職課程通信』第 19号 (2002年 3月25日)。

(8)

表 1.介護等体験者数

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

【社会福祉 施設 】

菅 田地域 ケ アプラザ 69 58 73 75 98 57 47 篠原地域 ケ アプラザ 63 69 81 67 63 60 48 神 之木地域 ケアプ ラザ 3 10 14 29 39 38 31

樽 町地域 ケ アプラザ 77 85 55 63

片倉 三枚 地域 ケアプラザ 48 40

沢渡三 ッ沢地域 ケアプラザ 32

反 町地域 ケ アプラザ 2

社会福 祉協議会 (神奈 川) 7 1 71 12 7

社会福祉協議会 (その他) 2 4 5 1 3 1

【特殊教育諸学校 】

横 浜市立盲学校 1 17 43 22 58 38 50 51 45 上菅 田養護 学校 21 61 31 55 38 36 22 26

横 浜市立高等養護学校 35 51 30 20

横 浜市立 ろ う学校 36

保土 ヶ谷養護学校 14

平塚養護学校 20 4 26 32 18 21 23

小 田原養護 学校 5 16 12 ll

聖坂 養護学校 1 28 30 29 0 10 12 6 2 2

津久井養護学校 1

日野養護学校 2

み ど り養護 学校 1

鶴見養護学校 2

体験者総数 146 213 280 326 267 262

1998年 と1999年は短大生 と科 目等履修生のみ実施。

表2.「介護等体験指導」履修者数

2005 2006 2007 横 浜 キ ャンパ ス 220 190 222 湘南 ひ らつ かキ ャンパ ス 115 91 63

(9)

介護等体験 の意義 と課題

<「介護等体験指導」 の シラバ ス >

授 業 科 目 介護等体験指導

GuidanceforPracticeofCarework

担 当 者 教授教授 入江大西 勝也直子 教授 古屋 喜美代

単 位 1

授業 内容

義務教 育 に従事 す る教員 の資質の向上 を図 る観 点か ら

,

「中学校 の教諭 の普通免許 の授与 を受 け よ う とす る者 に,障害 者 ,高齢 者等 に対 す る介護 ,介助 , これ らの者 との交 流等 の体験 を行 わせ る

とい う趣 旨の 「介護等体験」(7日間一 原則 と して,盲 ・聾 ・養護学校2日間,社 会福 祉施設5日間) の事前 ・事後指導 を行 う。

授業計画

1. オ リエ ンテー シ ョンー 介護等体験 の意義

2.盲 ・聾 ・養護学校 と障害児教育 について 3.高齢 者福 祉 と社 会福祉施設 について

4.介護等体験 に取 り組 む留意点 と心構 え (1)一 社 会福祉施設 5.介護等体験 に取 り組 む留意点 と心構 え (2)‑ 盲 ・聾 ・養護学校 6.介護等体験 で学 んだ こと一 体験 のふ り返 り (1)

7.介護等体験 で学 んだ こと一 体験 のふ り返 り (2) 8.まとめ

授業運営

半期 で8回授業 を行 う。授 業 で は,映像教材 や施設 の職員 の方 の講義 ,体験 終 了者 の体験 報告 な どに よって,現場 の理解 を深 め る。 なお,本 講義 を履 修 しなけれ ば介護等体験 を行 うこ とが で きな い。社 会福祉 施設 にお け る介護等体験 を4月〜 9月 に行 う者 は前期 に,10月〜 3月 に体験 を行 う者 は後期 に必ず履修 す るこ と。

評価方法

出席 (原則 と して欠席 は認 め ない) と体験 レポー トに よる。

使用書

現代教 師養成研 究会編 『教 師 をめ ざす人の介護等体験ハ ン ドブ ック』 [大修館 書店 ]

表 1.介護等体験者数 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 【 社会福祉 施設 】 菅 田地域 ケ アプラザ 6 9 5 8 7 3 7 5 9 8 5 7 4 7 篠原地域 ケ アプラザ 6 3 6 9 81 6 7 6 3 6 0 4 8 神 之木地域 ケアプ ラザ 3 1 0 1 4 2 9 3 9 3 8 3 1 樽 町地域 ケ アプラザ 7 7 8 5 5 5 6 3 片倉

参照

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