孤独感に及ぼす居場所(「安心できる人」)の効果
−評定尺度による検討‑
著者 豊田 弘司
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 18
ページ 39‑43
発行年 2009‑03‑31
その他のタイトル The Effects of Ibasyo (the person who eases one's mind) on Loneliness ‑Examination by using rating scales‑
URL http://hdl.handle.net/10105/1019
孤独感に及ぼす居場所(「安心できる人」)の効果
一評定尺度による検討‑
lit"‑111 蝣wl.III弘Ill
(奈良教育大学心理学教室)
The Effects of Ibasyo (the person who eases one's mind) on Loneliness
‑Examination by using rating scales‑
Hiroshi TOYOTA
(Department of Psychology, Nara University of Education)
Abstract : The present study was carried out to examine the effects of Ibasyo (the person who eases your mind) on loneliness. Undergraduate students (77 males and 109 females) were asked to rate how they felt comfortable with each of eight alternative (e.g. myself, mother, friend, etc.). They were then asked to rate items from
Loneliness scales developed by Moroi (1991主Higher correlations were observed between the rating point of com‑
fortableness to the Lover or that to Friend and score of loneliness. Multiple regression analysis indicated that rating point of comfortableness to Lovers, that to Friend and Interaction of both of Lover and Friend predicted 23% of loneliness. These results were interpreted as showing that the feeling of comfortableness to Lovers, that to Friend and the interaction of the both feelings determined the levels of loneliness.
Key Words :居場所乃・asyo ,安心感Comfortableness,孤独感Loneliness
1.はじめに
青年期において友人との関わりは重要であり、学校 生活に適応することは、学校での友人との交流の質に 依存しているといえよう。しかし、学校の友人から孤 立したり、孤独感を感じる生徒も多く、これは青年期 における問題となっている。マスローの欲求階層構造 (Maslow, 1962)によれば、人間は安全や生理的欲求 が満たされないと、所属欲求や評価欲求が生じず、さ らにその上位の知識の欲求も発生しないといわれてい る。孤独感を感じている生徒は学校において所属欲求 が満たされていない可能性が高く(豊田, 2003)、その ためにより上位にある知識の欲求は生じない可能性が 高い。したがって、学習面での問題が生じる可能性は 高いといえよう。このように、学校適応に関しては孤 独感が単に生活面での適応だけでなく、学習面での適 応においても重要な役割をもっていると考えられる。
従来から、孤独感に関する研究は多いが、近年でも 数多くの研究が報告され(Toyota, 2008)、孤独感を規 定する要因についても多くの検討がなされている。例 えば、 Sletta, Valas, Skaalvik, & Sobstad (1996)は、
孤独感は仲間の受容(peer acceptance)が多いほど低 くなり、仲間の拒否(peerrejection)が多いほど高く なることが示されている(Rotenberg & Bartley, 1997)。
さらに、孤独感を不適応を代表する情動の指標として 用いる研究も多く(Deniz, Hamarta, & Ari, 2005;
DiTommaso, Brannen‑McNulty, Ross & Burgess, 2003;Uruk&Demir,2003) 、青年期の仲間同士の関 係も含んだ社会的関係が孤独感に関係していることが 指摘されている。
上述の研究結果から、孤独感は他者との社会的関係 によって規定される可能性が高いことは確かである。で は、他者の中で誰との関係が最も孤独感を低減するこ とになるのであろうか。それは、個人にとって最も信 頼できる人、もしくは安心できる人と考えるのが最も 自然である。 「安心できる人」と適応との関連性を検 討した著者たちの研究(豊田・岡村, 2001, 2002;岡 村・豊田, 2002, 2003, 2004)では、 「安心できる人」
が、個人の適応を規定する重要な要因であることを指 摘してきた。そこでは、加藤(1977)が用いた方法と 同じく、 「一緒にいて安心できる人」が自分ひとりで あると回答した者(自分群)、母親、父親、兄弟、及
び祖父母等の家族と回答した者(家族群)、及び友人 もしくは恋人と回答した者(友人・恋人群)を比較し た。その結果、信頼感尺度(天月, 1995)及び自己一 他者関係尺度(金子, 1995)によって測定された対人 関係の認識、自意識尺度(菅原, 1984)及びエゴグラ ム(杉田, 1990)によって測定された自分自身の捉え 方において自分群と他の2群の違いが明らかにされた のである。また、孤独感に関しては、豊田・大賀・岡 柿(2007)やToyota (2008)が、自分群、母親群(「安 心できる人」を母親と回答した者)及び友人群(「安 心できる人」を友人と回答した者)における孤独感の 比較を行っている。その結果、自分群は、母親群や友 人群よりも孤独感の高かったのである。これは、安心 できる人が、自分以外にいることが、孤独感を抑制す ることを示している。このように、 「安心できる人」
は、孤独感を規定する重要な要因であるが、最近は、
「安心できる人」を「居場所」の中心的な要素として とらえられている。 「居場所」とは「自分が安心して いられる場所」のことである。岡村・加藤・八巻(1995) によれば、 「居場所」は物理的な場所を意味するだけ でなく、その場所において人と人との関係を築くこと ができた上で生まれる心のよりどころという意味を含 む概念である。したがって、 「居場所」は、 「安心でき る人」の存在があってはじめて意味をもつといえる。
文部省中学校課(1992)は、青年期の生徒は、他者な どとの相互作用により̀̀今、ここにいる自分''を確認 し、そこから存在感を実感することができると考えて いる。それ故、 「居場所」は対人関係の適応において 重要であり、居場所の存在かトの発達を促すといえる。
本研究でも、上述した諸研究と同じように、孤独感 と「安心できる人」との関係を検討する。ただし、先 の研究(豊田ら, 2007;Toyota, 2008)では,最も
「安心できる人」として、 「自分」を選択した自分群 が、 「母親」 「友人」を選択した者(母親群、友人群)
よりも孤独感が大きいことを示した。ただし、これら の研究では、参加者による最も「安心できる人」の選 択反応によって群分けをし、それぞれの群間の孤独感 を比較してきた。しかし、この方法であれば、個々の 参加者の中で、自分、母親、友人などの対象に対して どの程度の安心感をもち、それらが孤独感へ影響する 程度については明らかにできない。また、ある対象 (例えば、母親)に対する安心感と別の対象(例えば、
友人)に対する安心感の類似性や、それらの孤独感に 対する加算的効果は検討できない。
そこで、本研究の目的は、 「安心できる人」の選択 肢ごとに安心できる程度を評定をさせ、誰に対する安 心の程度(各選択肢に対する安心できる程度に関する 評定値)が最も孤独感を予測できるかを検討すること である。
2.方 法 2. 1.調査対象
調査対象は、関西地区のN国立大学とT私立大学の学 生186名(男子77名、女子109名)であり、平均年齢は 20歳0か月(18歳6か月〜24歳3か月)であった。
2. 2.調査内容
2. 2. 1. 「安心できる程度」の評定
「あなたは,以下の場合どの程度安心できますか?」
という質問に対し、 「自分一人でいる時」 「母親と一緒 にいる時」 「友人と一緒にいる時」 「恋人と一緒にいる 時」 「祖父母と一緒にいる時」 「父親と一緒にいる時」
「兄弟と一緒にいる時」の7つの場合について, 「ほ とんど安心できない(1)」から「非常に安心できる
(6)」までの6段階評定をさせるものである。なお、
被調査者には該当する人物がいない場合であっても想 像してどの程度安心できるかを評定するように求めた。
したがって、必ずしも該当する人物がいて、その人に 対する安心できる程度を回答しているわけではない。あ えてこのような回答をさせたのは、該当する人物を失っ ていた場合に、被調査者に不快な感情を喚起させ、授 業に対する意欲を低下させることがないようにという 配慮からである。この調査用紙は、 B5判であり、上記 の質問と評定尺度が印刷されていた。
2. 2. 2.改訂版UCLA孤独感尺度日本語版 孤独感を測定するために、先行研究(豊田・大賀・
岡村, 2007 ;Toyota, 2008)と同じく、改訂版UCLA 孤独感尺度日本語版を用いた。この尺度は、諸井 (1991)によって開発されたものであり、 20項目から なっていた。具体的な項目例は、以下のようなもので ある。 「私は自分の周囲の人たちと調子よくいってい る。」 「私は、人とのつきあいがない。」 「私には、頼り にできる人がだれもいない。」 「私は、ひとりばっちで はない。」 「私は,親しい仲間達のなかで欠くことので きない存在である。」。そして、それぞれの項目に対し て、 「けっして感じない(1)」 「どちらかといえば感 じない(2)」 「どちらかといえば感じる(3)」 「たび たび感じる(4)」の4段階評定をするものである。こ の尺度もB5判の用紙に印刷され、上部に氏名と年齢を 記載する箇所が設けられていた。
2. 2. 3.調査手続
著者の授業中に集団調査を実施した。授業内容とし て青年期の適応について説明を行う際に、実際に孤独 感尺度を用いて自分の孤独感を測定するという演習と して実施した。調査終了後、被調査者自身が孤独感尺 度の採点を行い、その後、著者が解説した。また、孤 独感を測定した授業から、 1週間経過した翌週の授業
において「安心できる程度」の評定尺度を実施した。
同じく授業中に青年期の精神的健康という授業内容を
孤独感に及ぼす居場所(「安心できる人」)の効果
Tablel 各選択肢に対する安心度評定値、孤独感得点及び相関係数(r)
説明する際に、被調査者自身が上記選択肢の該当する 人物に安心できる程度を評定させた。この調査が終了
した後、これまでの「安心できる人」と適応との関連 性について著者が解説した。
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3. 1.安心度評定、孤独感得点及び相関係数(r) Table lには、各選択肢に対する安心度評定値、孤独 感尺度得点及びこれらの得点間の相関係数(r)が示さ れている。そして、 .30以上の比較的高いrは太字で表示 されている。右上欄には男子、左下欄には女子の結果 が示されているが、相関係数の大きさには性差はない。
Tablelで明らかになったことは、孤独感得点の相関 が強いのは、恋人及び友人に対する安心度評定値であ る。自分に対する安心度評定値には無相関に近いもの であった。
3. 2.孤独感に関する重回帰分析
上述したように、恋人に対する安心度評定及び友人 に対する安心度評定と孤独感得点との相関が高かった ので、恋人に対する安心度評定値と友人に対する安心 度評定値、及び両者の交互作用を説明変数、孤独感得 点を目的変数とする重回帰分析を行った。その結果が、
Table 2に示されている。恋人に対する安心度評定値と 友人に対するそれとのrは、男女込みにすると.34 (男 子が.41、女子が.30)であり、この重回帰式に組み込む には関係性の強いことが懸念された。しかし、恋人と
Table 2 孤独感を目的変数とする重回帰分析 説明変数 β t値 友人 ‑.22 ‑3.17 恋人 ‑.31 ‑4.52 交互作用 .13 2.01 決定係数 . 23
F値 18.39**
*♪<.05, ♪<.01
友人の質的違いを検討するために、あえて交互作用項 を入れることにした。 Table2に示している通り、こ の重回帰分析の結果、この式によって孤独感得点の 23%を説明できることが明らかになった。
3. 3.恋人と友人の交互作用に関する分散分析 上述した重回帰分析において、交互作用の標準化偏 回帰係数が.13と小さいながらも有意であった。この交 互作用が孤独感に及ぼす効果を明確にするために、友 人に対して安心できる程度の3水準(高、中、低)、
恋人に対して安心できる程度の2水準(高、低)の組 合せによる6群を設けて,孤独感に関する分散分析を 行った。本来ならば、恋人についても3群を設定すべ きであるが、 3群を設定すると群ごとの人数に偏りが 大きくなるので、 2群にすることとした。友人に対す る安心水準が高群は友人に対する安心度評定値が6点 の者、中群は5点の者、低群は4点以下の者を割り当 てた。また、恋人に対する安心水準の高群は6‑5点 の者、低群は4点以下の者になった。 Table中にSDが
Table3 友人と恋人に対する安心度水準の 組合せによる群ごとの安心度評定値と孤独感得点
群 安心度評定値 孤独感 友人恋人 〝 友人 恋人 得点
局
高 30 〟 6.00 6.00 31.83
SD 7. 24
低 16 〟 6.00 4.69 29.00
SD 79 4. 29
中
高 56 〟 5.00 5.38 32.70
SD . 49 6. 84
低 36 〟 5.00 3.22 38.33
SD ‑ 1.07 10. ll 低
高 24 〟 4.00 5.46 34.46 SD .51 7.07 低 25 〟 3. 3.52 41.36 SD .25 .82 8.39 記載されていない群は全員が同じ評定値であることを 意味している。
Table3には、上記の6群における安心度評定値及び 平均孤独感得点が示されている。孤独感得点に関して 3 (友人に対する安心水準) × 2 (恋人に対する安心 水準)の分散分析を行った結果、友人の主効果(F
‑13.21, p <.OOl) 、恋人の主効果(F (usi) ‑7.08, p <.001) 及び両者の交互作用(F (2,i8i)‑6.32, p <.01)が有意であっ た。この交互作用について単純主効果検定を行ったと
ころ、友人高群において恋人に対する安心水準による 単純主効果は有意でなかったが(F ‑1.81恋人 高‑低)、友人中群(F a,18i) ‑7.17, p<.Ol)及び友人低群 (F am) ‑10.74,p<.01)において恋人に対する安心水 準の単純主効果が有意であり、恋人に対する安心度高 群が低群よりも孤独感得点が低かった(恋人高<低)。
また、恋人高群において友人の安定水準の単純主効 果は有意でなかったが(F ‑.80 高‑中‑低)、
恋人低群においてはその単純主効果が有意であり (F am) ‑18.73, p<.001)、 Ryan法による多重比較の結 果、友人に対する安心度高群が中群(t(181) ‑4.04, p<.OOl)及び低群(t (181) ‑5.00,p<.001)よりも孤独 感得点が低く、後2群間には有意差U‑1.51)はなかっ た(友人高<中‑低)。
4.考 察
4. 1. 「友人」及び「恋人」に対する安心の効果 本研究の目的は、誰に対する安心が最も孤独感を予 測できるかを検討することであった。相関係数や重回 帰分析の結果、友人及び恋人に対する安心が、最も孤 独感を予測できることが明らかになった。この結果は、
従来の研究(加藤, 1977;豊田・岡村, 2001, 2002;
岡村・豊田, 2002, 2003, 2004;Toyota, 2008;豊
田・大賀・岡村, 2007)とは異なる結果である。これ らの研究では最も安心できる人を選択して、その選択 に基づき群分けをし、群間の孤独感等の適応の指標(従 属変数)の比較をするものであった。この方法であれ ば、最も安心できる人はわかるが、次に安心できる人 及びその安心度と従属変数の関係は検討できなかった。
本研究では、新たに各選択肢に対する安心度を評定す る方法を用いて検討し、その結果として友人及び恋人 に対する安心度が孤独感を予測することが示されたの である。ただし、従来の研究においても友人を選択し た者の孤独感は低かったので、この点については従来 の研究と一致している。また、恋人に関しては、従来 は恋人を選択する者が少なかったので分析の対象とな
らなかったが、本研究では被調査者全員に評定させる ことにより、分析の対象となった。たとえ、現在恋人 に該当する人物がいない場合であっても、恋人に対す る安心の程度が高くなると孤独感を低減することがで きることを示したのは、興味深いことであった。
4. 2. 「友人」と「恋人」に対する安心の交互作用 重回帰分析において、交互作用項が孤独感を予測で きる可能性を示唆し、友人と恋人に対する安心度の水 準による群分けから分散分析の検討を行った。その結 果、友人に対する安心水準の高群では恋人に対する安 心水準の高群‑低群、友人に対する安心水準の中群及 び低群では恋人に対する安心水準の高群<低群という 関係が示された。したがって、友人及び恋人いずれか
に対して高い安心感を持っていれば、孤独感は低くな るが、いずれか一方に低い安心感しかない者は,他の 一方に対する安心感によって孤独感が規定されること が明らかになったのである。
4. 3.本研究の方法論と今後の課題
本研究では、従来の研究とは異なり、評定尺度を用 いて、誰に対する安心感が孤独感を予測できるかを検 討した。この方法であれば、複数の人物に対する安心 が孤独感等の従属変数に及ぼす影響を検討することが ができる。また、本研究で「友人」と「恋人」による 交互作用が検出できたように、複数の人物に対する安 心の交互作用を新たに兄いだせる可能性がある。さら
に、評定尺度を用いることによって、孤独感等の従属 変数の連続量との相関係数を算出できるので、関連性
を発見しやすい。
したがって、今後の課題としては、従来の研究 (Toyota, 2008;豊田ら, 2007)において兄いだされ てきた自分群、母親群及び友人群の比較を評定尺度を 用いて再検討する必要がある。すなわち、自分一人の 場合に安心できる程度、母親と一緒にいる時に安心で
きる程度及び友人と一緒にいる時に安心できる程度を 評定してもらい、その評定値と孤独感等の従属変数と
孤独感に及ぼす居場所(「安心できる人」)の効果
の関係を検討するのである。もし、従来の研究におい て指摘されているように、孤独感等の適応の程度が、
安心できるのが、自分ひとりなのか、自分以外の誰か なのかによって規定されるならば、以下のように予想 できる。すなわち、自分ひとりの時に安心できる程度 と適応の指標の間には正の相関、母親もしくは友人と 一緒にいる時の安心できる程度と適応の指標間には負 の相関が兄いだせるであろう。この予想を検討するの が今後の課題である。
(付記)本研究のデータ分析に関しては、奈良教育大 学総合教育課程生涯教育臨床専修の大堀はるかさんに 協力を得た。記して、感謝の意を表します。
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