は じ め に
近年,大学が行うキャリア教育に対して注目が集まっている。しかし,
その内容については,私の目からすると大変心許ないものが多い。それ は,企業の人事や採用に関する正確な情報を入手できないことが,大きな 原因となっているものと考えられる。
確かに,企業が行う採用や人事については,さまざまな情報が入り乱れ ている。しかし,企業がその実態を積極的に明らかにすることはほとんど なく,出回っている多くの情報は,勘違いや憶測によるもので,信頼性に 欠けるものが多い。このように,就職活動を行う学生やキャリア教育のあ り方を考える大学と企業との情報の非対称性はきわめて大きい。このため,
大学側がその実状や問題点を適切に捉えることは至難の業となっている。
75 商学論纂(中央大学)第60巻第1・2号(2018年9月)
社会人として求められる能力と大学教育
宇 野 典 明
目 次 は じ め に
Ⅰ 社会人として求められるもの
Ⅱ 採用活動の実態
Ⅲ 学生が身に着けることが望ましい能力要素
Ⅳ 身に着ける方法 終 わ り に
たとえば,面接の際に面接者が意図的に意味のない質問をすることがあ るが,このことは,ほとんど知られていないであろう。1人当たりの面接 時間は20分と決まっているが,10分も経たないうちに採用できないことが 判明してしまった場合,面接者は,意味はないが,学生が答えやすい質問 をして,時間をかせぐことがある。たとえば,「卒論の内容について説明 してください」というような質問である。それを大学の教員や学生が聞く と,卒論は面接で聞かれるぐらいだから大事であると勘違いする。社会科 学系の学生の場合,すべての面接者が卒論を軽んじているとはいわない が,おそらく多くの面接者は,卒論についてはほとんど気にもしていな い1)。こうしたこともあって,就職活動を経験した先輩たちや一般的なキ ャリア教育,支援を行う人たちもポイントをはずしているおそれが高い。
また,本稿で述べるとおり,面接に携わる者の中で適切な面接が行える 者はきわめて少ない。このため,適切な面接ができない人たちの面接の実 態にかかる話が聞けたとしても,あまり意味のない場合が多い。また,採 用の経験がある採用コンサルタントであったとしても,適切な面接を行う ことができるとは限らない。さらに,企業には,理想とする従業員像があ り,それは,従業員の側からすると問題のあるものであったりする。この ため,企業側の大学生に対する要望をそのまま採り入れることが,学生た ちにとってよいのか否か,よくよく考える必要がある。
私は,かつて大手生命保険会社の人事課に在籍して,主として人事考 課,人事異動を7年間担当した。また,採用は,人事課を挙げての業務で あるため,人事課を離れてからの期間も含めて10年あまり携わった。採用
1) 日本経済団体連合会(2017)6ページ(選考にあたって特に重視した点),
株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所(2018)22ページ(企業が 採用基準で重視する項目と学生が面接等でアピールする項目)を見ても,卒 論は含まれてすらいない。
に加えて,人事考課,人事異動を担当するということは,自分で採用した 者についての責任を自分で取るということにほかならない。また,人事考 課,人事異動を行うためにも,社員の面接が欠かせないため,面接の技術 については相当磨く必要があった。このため,採用の実態や採用のあるべ き姿についてのさまざまな意見を聞いていると,採用のことをまったく知 らない者や人事異動や人事考課を知らず,採用しか知らない者には解らな いことが多く,的外れになることが多いように感じられる。
その後,現在の大学に転職してから10年以上キャリア教育にも携わって きた。その間,多くの学生の相談にものってきた。そのため,企業の立場 からではなく,あくまでも学生の立場から,大学におけるキャリア教育の あり方について模索を続けてきた。このように,人事全般について熟知し ていることと大学に来てからはあくまでも学生の立場に立って考えてきた ことが,私の特徴であると考えている。その意味では,私は,キャリア教育 の専門家ではないが,専門家にはない考え方をお示しできるのではないか と考えている。
このため,一般には生じがちな情報の非対称性を相当程度緩和し,学生 のキャリア教育のあり方を,学生の立場に立って考えることができると自 負している。本稿は,そうした視点から大学生のキャリア教育のあり方に ついて検討を行うものである。ここで対象と考えている学生は,基本的に 社会科学系の学部の学生であるが,他の学部の学生であっても,その学部 の専門的な知識等を活かさずに,社会科学系の学部の学生と同様の仕事を しようとする場合には適用されることに留意する必要がある。
Ⅰ 社会人として求められるもの
企業は,自社の従業員にさまざまな能力要素や人柄などの能力以外の要 素を求めている。こうした要素は,採用のときばかりでなく,仕事をして
いく上でも求められるものである。
1.能 力 要 素
まず,能力要素について検討する。企業は,コミュニケーション能力な どの能力要素を求めている。たとえば,日本経済団体連合会が2017年に会 員企業に対して行ったアンケートの結果を見よう。
図表1のように,企業が採用にあたって重視しているのは,能力面では,
コミュニケーション能力 主体性
チャレンジ精神 協調性
誠実性
などであることが判る。
実際の場面では,これらの能力要素については,企業によって,あるい は採用しようとしている職種によって異なるウェイト付けがなされている ことが多い。たとえば,営業職以外であれば,コミュニケーション能力を それほど重視しないことも考えられる。また,これらの能力要素以外の能 力要素を重視している企業も当然ある。面接者によって何を重視するかも 変わりうる。企業が重視しているこれらの能力要素のすべてを高い水準で 有しているような学生は,そう滅多にいるものではなく,これらの能力要 素のうち2つないし3つ有していれば,その面では大変優秀といえる。
このアンケートには,社会科学系に限らず,自然科学系,人文科学系の 学生も含まれている。社会科学系に限ったとすると,おそらくは,専門性,
学業成績は,さらに軽視されるものと考えられる。逆にいえば,少なくと も自然科学系の場合には,これらの要素が相当重視されることになる。
また,専門性,学業成績,語学力,留学経験については,このアンケー
図表1 選考にあたって特に重視した点(5つ選択)
(出所) 日本経済団体連合会(2017)「2017年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」
6ページ
100(%)
コミュニケーション能力 主体性 チャレンジ精神 協調性 誠実性 ストレス耐性 責任感 論理性 課題解決能力 リーダーシップ 専門性 信頼性 柔軟性 創造性 潜在的可能性
(ポテンシャル)
一般常識 語学力 履修履歴・学業成績 留学経験 その他
82.0 2018年4月 入社対象
2017年4月 入社対象
83.0 60.7
61.8 51.7 47.0 44.2 34.5 23.3 22.4 20.6 15.4 13.6 12.8 12.7 12.1 11.6 6.6 6.6 4.2
4.0 1.1 1.1 5.9 5.9 4.4
3.5 11.0
11.5 13.3 12.8 12.1 14.6
19.2 22.7
24.5 33.3
44.8 49.5
51.6
80 60
40 20
0
トの結果では,あまり重視されていない。自然科学系の学生が,その専門 を活かした就職をしようとする場合には,これらの要素は,相当重視され ると考えられるので,社会科学系の学生に限っていえば,これらの要素 は,ほとんど顧みられてもいないといってよい。
なぜ,こうしたことが起こるのか。成績はよいが,仕事のできない学生 を仕事ができるように育てることは,簡単なことではないが,仕事ができ る学生に仕事に必要な勉強をきちんとさせることは,やらせればできると 考えられている結果,こうしたことになっているのであろう。さらに,仕 事に必要な勉強をさせるという観点からは,基礎的な学力が求められるこ とになる。
2.能力面以外の要素
これに対して,能力面以外の要素も重視されている。たとえば,人柄,
自社への熱意,今後の可能性が重視され,性格適性検査の結果,基礎学 力,能力適性検査の結果がそれに続く(図表2)。
人柄は,人柄のよい学生が採用されやすいばかりでなく,社風に合うか といった基準にもつながる。自社への熱意は,採用担当者からすると,入 社後簡単に辞めたりしないような人材を求める観点から,重視されている ものと考えられる。今後の可能性は,いいかえれば,潜在能力ということ であろう。また,大学の成績はあまり重視されていない。このことは,大 学教育に対して,きわめて大きな問題を投げかけている。その一方で,入 学試験による選抜を行わない推薦入試のような入学者が増えてきており,
学生に対して基礎学力に問題を感じている企業があるものとも想定され る2)。パソコン経験・スキルについては,採用基準で重視する項目として
2) 企業は,エントリー・シートを提出させた段階などで,一定の偏差値を超 えた大学の学生だけを通す,いわゆる学歴フィルターと呼ばれる選抜を行っ
人柄 自社/その企業への熱意 今後の可能性 性格適性検査の結果 基礎学力 能力適性検査の結果 学部・学科/研究科 アルバイト経験 大学/大学院で身につけた専門性 大学/大学院での成績 大学/大学院名 大学入学以前の経験や活動 語学力 取得資格 所属クラブ・サークル 知識試験の結果 趣味・特技 インターシップ経験 所属ゼミ・研究所 履修履歴 ボランティア経験 パソコン経験・スキル 海外経験 OB・OG・紹介者とのつながり その他
図表2 企業が採用基準で重視する項目と学生が面接等でアピールする項目(複数回答) (出所) 株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所(2018)『就職白書2018─採用活動・就職活動編─』22ページ
100(%)【企業 N=1169】【学生 N=2295】 020406080100(%) 020406080 92.947.3 25.5 11.8 4.0 4.6 3.4 16.5 39.5 14.0 9.8 16.8 6.8 6.3 12.6 27.6 2.3 24.3 6.7 18.5 3.5 10.8 6.1 8.8 1.8 1.5
76.1 68
.8 38.9 35.8 31.9 21.0 20.1 18.5 15.7 14.7 13.3 12.1 9.5 8.9 8.2 5.4 5.2 5.0 4.4 4.0 4.0 3.9 1.5 2.6
挙げられることはないものの,実際上職務を遂行していく上では不可欠な ものである。
会社への熱意が見られる学生や,必修科目については,たとえ嫌いであ っても努力してよい成績を残した学生は,そう簡単には会社を辞めないと 判断されることが多いようである。しかし,仕事をするということは,人 間関係などのさまざまなストレスにさらされているのであり,たとえば,
会社への熱意が見られたからといって,簡単に会社を辞めないと判断する ことについては,明確に疑問が残る。私の疑問が当たっていれば,近い将 来こうした考え方は,淘汰されていくであろう。
3.社会人基礎力
経済産業省は,「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っ ていく上で必要な基礎的な能力」を社会人基礎力と名付け,社会全体によ る取組の必要性を強調した3)。社会人基礎力は,図表3にあるような能力 要素から構成されるとし,その普及,教育現場におけるその育成に力を入 れている。社会人基礎力は,前に踏み出す力,考え抜く力,チームで働く 力からなるもので,各々次の能力要素から構成されている。
後述するとおり,社会人基礎力を構成する能力要素には,従業員から見 ると必ずしも適切とはいえないものが含まれているものと私は考えてい る。
たり,SPIなど知的能力を測ることができる適性検査によって選抜を行った りすることが多いと考えられることも,こうした問題意識を反映しているも のと考えられる。
3) 社会人基礎力に関する研究会(2006)4ページ。
図表3 社会人基礎力の能力要素
前に踏み 出す力
主体性
物事に進んで取り組む力
例)指示を待つのではなく,自らやるべきことを見つけて積 極的に取り組む。
働きかけ 力
他人に働きかけ巻き込む力
例)「やろうじゃないか」と呼びかけ,目的に向かって周囲の 人々を動かしていく。
実行力
目的を設定し確実に行動する力
例)言われたことをやるだけでなく自ら目標を設定し,失敗 を恐れず行動に移し,粘り強く取り組む。
考え抜く 力
課題 発見力
現状を分析し目的や課題を明らかにする力
例)目標に向かって,自ら「ここに問題があり,解決が必要 だ」と提案する。
計画力
課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力 例)課題の解決に向けた複数のプロセスを明確にし,「その中 で最善のものは 何か」を検討し,それに向けた準備をする。
創造力
新しい価値を生み出す力
例)既存の発想にとらわれず,課題に対して新しい解決方法 を考える。
チームで 働く力
発信力
自分の意見をわかりやすく伝える力
例)自分の意見をわかりやすく整理した上で,相手に理解し てもらうように的確に伝える。
傾聴力
相手の意見を丁寧に聴く力
例)相手の話しやすい環境をつくり,適切なタイミングで質 問するなど相手の意見を引き出す。
柔軟性
意見の違いや立場の違いを理解する力
例)自分のルールややり方に固執するのではなく,相手の意 見や立場を尊重し理解する。
情況 把握力
自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
例)チームで仕事をするとき,自分がどのような役割を果た すべきかを理解する。
規律性
社会のルールや人との約束を守る力
例)状況に応じて,社会のルールに則って自らの発言や行動 を適切に律する。
ストレス コントロ ール力
ストレスの発生源に対応する力
例)ストレスを感じることがあっても,成長の機会だとポジ ティブに捉えて肩の力を抜いて対応する。
(出所) 社会人基礎力に関する研究会(2006)「中間とりまとめ」14ページ
Ⅱ 採用活動の実態
学生のキャリア開発に関連して,就職活動を支援し,長期的に求められ る能力要素を伸ばすという観点から考えると,面接をはじめとした採用活 動の実態を考慮する必要がある。
各企業が,実際にどのように採用活動を行っているのかについては,も っともベールに包まれているといってよい。一般的な社外の者が想像をし ようとしても,情報の非対称性が大きいため勘違いをすることが多い。こ うしたことは,アンケート調査などを行っても,どこまで判るのか疑問の 残るところである。
そこで,本稿では,採用担当者に対するインタビュー,学生からの情 報,面接のためのマニュアル本などをもとに,私なりに整理したものをお 目にかけよう。
1.採用活動の流れ
企業の採用活動は,一般的に次のような流れになっていることが多い。
① インターンシップ
② 企業説明会,セミナー
③ エントリー・シートによる選抜
④ 適性検査による選抜
⑤ 筆記試験による選抜
⑥ 面接による選抜
企業によっては,必ずしもこれらのすべてを行うわけではない。こと に,筆記試験を実施している企業の数は,必ずしも多くないと考えられ る。エントリー・シート,適性検査,筆記試験による選抜は,面接による 選抜の対象とできる人数に限界があることから,面接が可能な人数まで減
らすために行っているものである。エントリー・シートなどの段階で特定 の大学以外は落とすといういわゆる学歴フィルターがかけられることがあ る。適性検査にはさまざまなものがあるが,もっともよく使われているの は,
SPI
と呼ばれるものである。SPI
は,株式会社リクルートキャリアが 開発した適性検査で,現在ではSPI 3というバージョンになっている。「知
的能力」と「性格」を測る4)もので,2016年度の実績では,11, 900社が採
用し,189. 2万人が受験した
5)という。2.面 接
これらの選抜の手段の中でもっとも重視されているのが面接である。面 接には,個人面接以外にも集団面接がある。また,面接に類似したものと して,グループ・ディスカッションがある。
面接は,会社によって異なるが,複数回行われる。その間選抜が行わ れ,最終面接に至ることになる。これらを担当する面接者は,必ずしも人 事や採用担当とは限らず,まったく違う職務の社員も応援で担当している ことが多い。この中には,入社数年目の社員が入っていたりもする。実際 には,最終面接に至るまでのうちの1回を人事や採用担当が行うことが多 いものと想定される。
面接を行うにあたっては,重要な前提がある。それは,他人から見える ものがその人の能力や欠点であり,他人から見えないものは,能力や欠点 としては認められないことである。このため,いくらよいものを持ってい ても,他人から見えないようでは能力として評価されないし,欠点があっ
4) 株式会社リクルートキャリア・ウェブサイト(https://www.recruitcareer.
co.jp/service/spi3/,2018/03/15アクセス)。
5) 株式会社リクルート・ウェブサイト(https://www.spi.recruit.co.jp,2018/ 03/15アクセス)。
てもそれを他人に見せないようにできるのであれば,欠点とはみなされな いことになる。
なお,自分の能力をあたかも他人が見るように客観的に見ることは,き わめて難しい。その理由としては,自分の持つある能力や欠点に気がつい ていたとしても,それが他人からどのように見えるかが判らないことが挙 げられる。このため,一般によく求められる自己分析によって自分自身の 能力を知ることは,きわめて難しいといえる。
面接においては,面接者の陥りやすいさまざまなバイアスがあるが,私 は,その中でもっとも影響を与えているのは,対面影響力や人柄によるハ ロー効果であると考えている。ここで,対面影響力とは,相手と対面した ときに,相手によい影響やよい印象を与える力をいう。即時的決定は,対 面影響力や人柄によるハロー効果が現れるということであるし,確証バイ アスも履歴などに対するハロー効果でしかない。その意味では,有効な面 接というのは,いかにさまざまなハロー効果を排除できるかにかかってい るといっても過言ではない。こうしたハロー効果を排除できないと,さま ざまな能力要素などを適切に評価することが難しくなり,実質的に対面影 響力や人柄などで被面接者を評価することになりかねない。
3.面接の種類
採用の場面で行われうる面接は,次のように3つの視点から分類するこ とができる6)。
6) 面接の種類については,さまざまな分類がある。たとえば,個人面接につ いて,藤田忠(1982)119‑127ページは,注意深く準備された質問を,応募 者の人物を理解しサイズアップするのに,もっとも効果的な順序でたずねて ゆく標準面接と全く任意的な自由な雰囲気の中で,その場面にふさわしいと 思われる談話を任意にする任意的な面接に分けている。この標準面接と任意 的な面接は,私が使った構造化面接と非構造化面接に近い。しかし,藤田の
⑴ 構造化の程度による分類
面接の構造化とは,すべての被面接者について,事前に定められた体系 的なルールに基づいて観察と評価を行うこと7)をいう。具体的には,質問 事項,内容,順番,評価レベルの内容などを具体的に定めることをいう。
① 構造化面接
面接が,構造化されているものを構造化面接(structured interview)と呼 ぶ。構造化面接は,適切に構造化されていれば,面接者による評価のばら つきが生じにくい。
② 非構造化面接
非構造化面接(unstructured interview)は,面接者がその場の状況に合わ せて内容を臨機応変に決めていく面接である8)。評価基準が適切に定めら れていない場合には,面接者ごとに評価基準が異なり,面接者による評価 のばらつきが生ずるおそれがある。
③ 半構造化面接
半構造化面接(semi-structured interview)は,構造化面接に比べると規定 が少なく,面接者にある程度裁量が認められるものを指す9)。非構造化面 接ほどではないにせよ,面接者による評価のばらつきは生じやすい。
なお,対面影響力や人柄などによるハロー効果を排除できるか否かにつ いては,面接の構造化の程度は,関わらないものと考えられる。このよう なハロー効果は,被面接者を観察し,評価する段階で発生するため,行動,
標準面接よりも私の構造化面接の方が概念として広いと考えられるので,こ こでは,構造化面接,非構造化面接の分類を用いた。
7) Motowidlo, S. J., Carter, G. W., Dunnette, M. D., Tippins, N., Werner, S., Burnett, J. R., & Vaughan, M. J. (1992), p. 571;竹田知子(2004)339ページ を参照のこと。
8) 村上宣寛・村上千恵子(2008)59ページ。
9) 村上宣寛・村上千恵子(2008)59ページ。
状況など,何を面接の対象とするのか,能力要素やコンピテンシーなど,
何を評価するのかによって,生じたり,生じなかったりするからである。
⑵ 面接で質問の対象となる行動,状況などによる分類
面接は,何について聞くかによっても,次のように分類できる。
① 行動面接
行動面接とは,被面接者の過去の行動を問うものである。過去の行動に ついて,5W1Hで詳細に聞き,正確に把握すれば,対面影響力や人柄な どによるハロー効果は,生じにくい。
② 状況面接
状況面接とは,面接者が定めた架空の状況に対して,どのように行動す るのかを問うものである。行動面接と同様に,5W1Hで詳細に聞き,正 確に把握すれば,対面影響力や人柄などによるハロー効果は,生じにくい と考えられる。
③ その他の面接
その他としては,志望動機,入社後の希望職務,過去の経験を問うもの などがある。評価基準が曖昧にならざるをえないこと,個人的な考え方,
好みが反映するおそれがあることから,対面影響力や人柄などによるハロ ー効果が生じやすい。
⑶ 評価の対象となる能力要素などによる分類
面接は,評価の対象となるものによって,次の3つに分類することがで きる。
① コンピテンシー
コンピテンシーとは,成果を生み出す行動特性をいう10)。被面接者のコ ンピテンシーを評価するということは,個々の能力要素を見るのではな
10) 川上真史・齋藤亮三(2006)5ページ参照のこと。
く,能力要素が組み合わされた総体としてのコンピテンシーを見るため,
対面影響力や人柄などによるハロー効果は,生じにくい。
② 能力要素
コミュニケーション能力,主体性など,被面接者の能力要素を評価する ものである。対面影響力や人柄などによるハロー効果については,どのよ うにある能力要素の程度を見るかによって変わってくる。具体的には,
⑵の行動面接,状況面接,その他の面接でのハロー効果の効き方に左右 される。
③ その他
これは,たとえば,人柄を見る,自社の社風に合うかどうか見るなどで ある。対面影響力や人柄などによるハロー効果は生じやすいと考えられ る。
実際の面接は,上記のような面接の種類を組み合わせて行われる。
4.コンピテンシー面接とその評価
実際の面接にはさまざまなものがあるが,その中で,私が注目している のは,コンピテンシー面接である。
⑴ コンピテンシー面接とは
被面接者が成果を生み出す行動特性を持っているか11)を評価するため のものである。具体的には,次のステップ1からステップ6までを行う12)。 ① ステップ1:取組課題,テーマの設定
応募者が過去1〜2年取り組んだ事柄(勉学,クラブ,サークル活動,
ボランティア,アルバイト,単独で行っている趣味など)の中で,成果 が出た事柄を特定し,面接全体の大枠となるテーマを設定する。
11) 川上真史・齋藤亮三(2006)5ページ。
12) 川上真史・齋藤亮三(2006)55‑57ページ。
② ステップ2:第1プロセスの特定
ステップ1で特定したテーマに取り組んだ際に,最終的な成果に至 るまでのプロセスの中で最初に行ったことを尋ねる。
③ ステップ3:第1場面の特定
ステップ2で特定したプロセスをさらに具体的,個別的な行動事例 にブレークダウンして思い出してもらうために,具体的な場面を思 い出してもらう。
④ ステップ4:第1場面での行動事例の列挙,確認
ステップ3で設定した場面の中で,具体的に「どのような計画を立 て,行動をして,その結果がどうなったか」を時系列に沿ってひと つひとつ丁寧に確認する。
⑤ ステップ5:第1場面での工夫点,困難を乗り越えた点の確認 ステップ4で第1場面における行動事例をほぼ聞き取れたと感じた ら,最後に締めくくりを兼ねて,「特に工夫した点」「苦労した点」
などについて,あらためて尋ねる。
⑥ ステップ6
第2以降の場面についてステップ3〜5を繰り返す
このように被面接者の行動が収集できたら,次にその行動をもとに評価 を行う。具体的には,被面接者の行った行動を,次のコンピテンシーのレ ベルに当てはめて判断する。レベルは,1から5まである13)。
レベル1 部分的・断片的行動
何らかの行動を起こし,成果は出ているが,何の主体性も見 られず,バラバラの場当たり的な行動しか確認できない場合
(受動行動)
13) 川上真史・齋藤亮三(2006)105‑120ページ。
レベル2 やるべきことをやるべきときにやった行動
定められた業務手順を意識化して,能動的に行動している が,この状況ならだれでも普通はこのようにするのが当然だ と考えられる行動(通常行動)
レベル3 明確な意図や判断に基づく行動,明確な理由のもと選択した 行動
本人の判断で複数の選択肢の中から最適な方法を選択してと った行動(能動行動)
レベル4 独自の効果的工夫を加えた行動,独創的行動,状況を変化さ せよう,打破しようという行動
レベル3に加えて,条件や状況に働きかけ変革する行動(創 造行動)
レベル5 まったく新たな,周囲にとっても意味ある状況を作り出す行動 これまでの状況をひっくり返し,なにもしなくても成果がな びいてくるような行動(パラダイム転換行動)
レベル2が「当たり前の行動」であり,仕事をしていく上では,レベル
2が最低水準となる。いいかえれば,レベル2が採用の最低基準となる。
そして,レベル3は人材資源論の考え方からすれば,十分に優秀とみなさ れる14)。しかし,人材投資論の考え方からすると,レベル3の行動しか発 揮できない人材,すなわち,今ある状況に安住してしまう人材は困る15)
とされる。このように,レベル3とレベル4の間には,大きな溝がある。
それは,レベル3は,与えられた状況の中で自分なりの工夫を加える16)
ものであるのに対して,レベル4,5は,与えられた前提条件を変化させ
14) 川上真史・齋藤亮三(2004)132ページ。
15) 川上真史・齋藤亮三(2004)134ページ。
16) 川上真史・齋藤亮三(2004)132ページ。
る17)ものであることが原因になっている。このため,レベル4,
5は,
「生 意気だ」「余計なことをする」と考えられ,往々にして「出る杭」として叩 かれてきた18)。私は,このことが日本の企業の業績がふるわないことの大 きな原因の1つであると考えている。逆に,AI
の技術のさらなる発展がも たらす変化に加えて,想定外の変化19)も激しいと考えられるこれからの時 代を生きぬいていくためには,レベル4以上が求められると考えられる。コンピテンシー面接では,過去の行動に関して問うが,その問い方につ いては,構造化されている。これに対して,コンピテンシー面接の簡易型 である
STAR
面接は,さらに質問が絞られている。具体的には,「あなた がこれまでの仕事でもっとも苦労した経験を教えてください」といった質 問を皮切りに,当時の状況(Situation),その時抱えていた課題(Task),ど のような行動(Action)をとったか,どのような成果(Result)が出たのか,順に掘り下げて聞く20)。実際の質問例も示されている。たとえば,状況
(Situation)であれば,次のようになっている21)。
どのような組織のなかで,どのようなチーム体制でしたか そのなかであなたはどんな役割でしたか
17) 川上真史・齋藤亮三(2004)132ページ。
18) 川上真史・齋藤亮三(2004)132ページ参照のこと。
19) AIの技術がもたらす変化以外の想定外変化については,髙橋俊介(2012)
14‑26ページ参照のこと。なお,髙橋俊介(2012)26‑29ページは,専門性の 細分化進化が進むとしているが,いわゆる社会科学系の学部の学生が社会に 出てするような仕事については,現在の専門家といわれるような人たちより もさらに専門性を高めていかないと,労働の生産性も向上させられないし,
世界的な競争にも劣後することになると私は考えている。ただ,そうしたこ とが企業の中でうまく進むか否かについては,否定的に考えている。
20) HRreviewウェブ・サイト「Googleも採用!採用ミスマッチを防ぐ「構造 化面接法」を実践するための3つの重要ポイント」。
21) HRreviewウェブ・サイト「Googleも採用!採用ミスマッチを防ぐ「構造 化面接法」を実践するための3つの重要ポイント」。
どのような責任と権限を持っていましたか
このように,
STAR
面接は,基本的な考え方は,コンピテンシー面接と 変わらず,質問を簡易にしたものといえる。このため,本稿ではコンピテ ンシー面接に含めて考えることとする。⑵ コンピテンシー面接の評価 ① ハロー効果の排除
過去の行動を問い,その行動を総体として把握し,コンピテンシーを 評価するものであるため,対面影響力や人柄などのハロー効果は,生じ にくい。
② 面接者によるばらつきの排除
構造化されているため,面接者によるばらつきは,相対的に少ない。
こうした結果,面接の信頼性および妥当性が高まる22)と考えられる。
③ その他の問題点
しかし,次のような問題点も有している。
過去の行動に基づいた評価であるため,将来の行動を表していると は必ずしもいえないこと。
定型的な質問では,必ずしも被面接者の評価すべき過去の行動をす べて聞き出すことができるとは限らないこと。
早期に退職してしまう学生を見つけ出すのは必ずしもできないこと。
コンピテンシー面接のやり方を身に着けるには,相当の時間とお金 が必要であり,その上十分な経験を積む必要がある。このため,ど この企業でも採用できるというわけではないこと。
実際に,私は,ゼミ生の就職相談に乗っていた際に,こうした定型的な 質問では表れてこない,いいかえれば,コンピテンシー面接などでは見つ
22) 竹田知子(2004)340ページ。
けることの難しい,被面接者の評価すべき行動を見いだしたことがある。
アルバイト先で,周囲のアルバイトも巻き込んで,その店の問題点を解決 したというもので,レベル3に当たると考えられた。そうした行動がコン ピテンシー面接や
STAR
面接で見いだせないのは,本人にとって,大して 苦労した経験ではない,面接で売り込むべき経験ではないと認識されてい たりすることによる。ゼミ生の就職相談であれば,私とそのゼミ生の時間 の許す限り話を聞くことができること,定型的な質問で見つからなかった としても,さらにさまざまな非定型的な質問をすることが可能であること から,評価すべき行動を見つけることができる。つまり,コンピテンシー 面接には,面接を構造化してしまったために生ずる,いわば構造的な問題 が存在するということである。5.一般的な面接とその評価
⑴ 一般的な面接
本稿で一般的な面接と呼んでいるのは,文字通り一般的に行われている 面接で23),その多くは,自社の経験や採用コンサルタントの助言に基づき,
評価すべき能力要素などを定め,面接の内容は,面接者に任せるものか ら,若干構造化されたものまである。このため,非構造化面接または半構 造化面接であり,能力要素や人柄などさまざまなものが評価の対象とな る。また,行動面接,状況面接が含まれることもある。
23) コンピテンシー面接と一般的な面接で,世の中で行われている面接のすべ てをカバーできるわけではないが,相当の割合を占めると想定される。これ らの面接法以外に考えられるのは,コンピテンシー面接以外の構造化面接で あるが,あったとしてもごく一部であろう。また,圧迫面接は,一部で行わ れているが,実際上一般的な面接の要件を満たしているものと考えられる。
このため,コンピテンシー面接と一般的な面接について議論を展開すれば,
おおむね間違いがないと考えられる。
⑵ 一般的な面接の評価 ① ハロー効果の排除
一般的な面接の場合,評価の対象は,能力要素や人柄などであり,行動 面接・状況面接で対面影響力や人柄などによるハロー効果を排除するため の適切な方策が講じられた場合を除いて,対面影響力や人柄などによるハ ロー効果は,排除することが難しいものと考えられる。
この極端な例としては,ごく短時間でも相手を観察していれば,採否が 判断できるなどと豪語する経験豊富な面接者が往々にしていることが挙げ られる。これなど,まさに対面影響力だけで人物の評価を行うわけであ り,対面影響力のハロー効果を100%肯定しているといってよい。また,
私は,就職が簡単に決まることをゼミ生としての採用基準とはしていない ので,私のゼミ生でも,たくさんの内定を得て,どうやって断ろうかと悩 む学生から,なかなか内定の取れない学生までいる。しかし,内定をたく さんとる学生が人事経験者の私の目から見て必ず仕事ができるというわけ ではなく,内定を取れない学生が仕事のできが悪いというわけでもない。
こうしたことも,以上のような実態の間接的な証明となろう。
② 面接者によるばらつきの排除
一般的な面接の場合には,構造化がなされていることは考えにくく,面 接者による評価のばらつきが生ずる可能性が高い。
被面接者からすれば,多くの人に好かれる対面影響力や人柄を持ってい ればよいが,一部の人にしか好かれない対面影響力や人柄を持っている と,その人をよいと思ってくれる面接者に会えるまで,なかなか内定が出 ないということにもなりかねない。
③ 評価できる能力要素
一般的な面接においては,一応,問題分析力,判断力,主体性,口頭表 現力,要点把握力などを見ることができる。しかし,これらの能力要素の
評価に当たっては,対面影響力や人柄などのハロー効果が働いてしまうこ とに留意する必要がある。
④ その他の問題点
一般的な面接では,早期に退職してしまう学生を見つけ出すことに有効 とはいえない。
6.面接による選抜の有効性と問題点への対応
このように,企業における面接は,個々の企業としてみると,必ずしも 有効なものとはいえず,企業が求める能力は一応明確であるが,採用の実 態を踏まえると,ほとんどの場合,こうした企業が求める能力を適切に評 価した選考はできていないのが現実であることが判る。しかし,その中で ある程度有効なものが,コンピテンシー面接と
STAR
面接である。こうした面接の限界を打破するために,企業は,さまざまな工夫をして いる。志望動機の明確な学生,自社に対する熱意の高い学生や必修科目な どの成績のよい学生を採用するというのも,こうした工夫の1つといえ る。
SPI
などの適性検査の結果を反映させたりするのも同様である。しか し,こうした動きは,前述のとおり,一過性のものに終わるのではないか と考えられる。Ⅲ 学生が身に着けることが望ましい能力要素
こうしたことを前提にして,以下,学生が大学時代に身に着けることが 望ましい能力要素について考えていきたい。
1.企業が重視する能力要素
企業が重視している能力要素は,日本経済団体連合会とリクルートキャ リア就職みらい研究所のアンケート調査で重視されているものを,社会人
基礎力で示された能力要素,コンピテンシー面接におけるコンピテンシー などで補完すると,次のようになる。
コミュニケーション能力,発信力,傾聴力 主体性
チャレンジ精神 協調性
誠実性 ストレス耐性 責任感 論理性
課題解決力,課題発見力,計画力 コンピテンシー
人柄
リーダーシップ パソコンを使う力
以上の中には,定義が曖昧なものや学生の立場からそのまま受け入れる ことができないものがあるため,検討を行う。
⑴ コミュニケーション能力
日本経済団体連合会のアンケートでもっとも重視されているとされたコ ミュニケーション能力という概念は,大変曖昧なものである。コミュニケ ーションは,いうまでもなく,何らかの情報を発信したり,受け取ったり することで成立する。発信する手段も,口頭,文章(文章表現力)とある し,口頭で発信するとしても,1対1,1対少数で発信する場合(口頭表 現力)と1対多数で発信する場合(発表力)では大きく異なる。受け取る にあたっては,その内容をきちんと理解できなければならない(要点把握 力,読解力)。また,相手を説得すること(説得力)も重要であるし,相手
の気持ちを理解して適切な対応を行うことができること(感受性)も重要 である。社会人基礎力を構成する,自分の意見をわかりやすく伝える力で ある発信力も,同様に解りにくい。
また,社会人基礎力には傾聴力という能力要素が含まれているが,その 意味は,相手の意見を丁寧に聴く力とされ,例として,「相手の話しやす い環境をつくり,適切なタイミングで質問するなど相手の意見を引き出 す」が挙げられている。しかし,この例に挙げられているのは,相手の気 持ちを読み,その気持ちにそった対応ができるということであり,能力要 素としては感受性が該当する。感受性のうちの一部だけ採り上げるのは,
残された部分を必要でないとするものであり,問題がある。本来,傾聴と いう言葉は,「耳を傾けてきくこと。熱心にきくこと。」という意味であり
(広辞苑第7版),その意味でも傾聴力という表現は適切とはいえない。
その一方で,企業でさまざまなハラスメントが起こっていることなどを 考えると,企業が採用にあたって感受性を重視しているとは思いがたい。
実際に,前述の日本経済団体連合会やリクルートキャリア就職みらい研究 所のアンケートでは,対象となる項目にすら載っていない。しかし,営業 が顧客の気持ちを読んで,それにそった対応をすることは,大きな意味が ある。また,ハラスメントのない働きやすい職場を作るという観点からも きわめて意味がある。こうしたことから,学生に求める能力要素に加える 必要があろう。
なお,一般的な業務を行っていくにあたっては,最低限のコミュニケー ション能力,なかでも口頭表現力,読解力や計算能力が不可欠である。こ のため,企業は,大学入学試験の偏差値によって面接を行うか否かを決め たり,
SPI
等の適性検査を実施したりしているものと考えられる。このように,コミュニケーション能力は,口頭表現力,発表力,文章表現 力,要点把握力,読解力,感受性,説得力から構成されており,これらの能
力要素は,学生たちが身に着けるべきものであると考えることができる。
⑵ 主 体 性
日本経済団体連合会のアンケートで次に重視されているのが,主体性で ある。一般的な辞書に載っているような意味での主体性は,「主体的であ ること。また,そういう態度や性格であること。」(広辞苑第7版)とされ,
主体的は,「ある活動や思考などをなす時,その主体となって働きかける さま。他のものによって導かれるのでなく,自己の純粋な立場において行 うさま。」(広辞苑第7版)である。しかし,日本経済団体連合会の会員企 業の60%強もがこうした意味での主体性を求めていることはありえない。
少なくとも,多くの企業は,従業員の多くが,どちらかといえば主体性の ない者,いいかえれば,よく上司のいうことを聞く者であってほしいと思 っているというのが,私の実感である。逆にいえば,一般的な辞書に載っ ているような意味での主体性を持つ者は,ごく一部でよいと考えているの ではないか。
このことを裏付けるのが,社会人基礎力に含まれる,一般的な意味とは 異なった意味を持つ主体性の存在である。社会人基礎力では,主体性を
「物事に進んで取り組む力」とし,例として,「指示を待つのではなく,自 らやるべきことを見つけて積極的に取り組む」ことを挙げている24)。 では,こうした中で,なぜ社会人基礎力が定めるような主体性の意味が 求められるようになってきたのであろうか。それは,「学生の多くは,自 分の志向に合ったもの,経験したことがあるものに対しては自発的かつ積 極的に取り組む。しかし先行き不透明な状況で,経験したことのないよう な課題に出会ったとき,もしくは何が課題かも不確かな場合に,「自律的 に立ち向かう」という姿勢については足りないのではないか。」25)という
24) 社会人基礎力に関する研究会(2006)14ページ。
25) 東山高久(2013)40ページ。
問題意識から出てきているものと考えられる。
いいかえれば,「学生の多くを占める「指示されれば動くが,自分から は動けない層」をどうするか」26)ということに帰着する。
こうした問題意識に対応するために,「物事に進んで取り組む力」が必 要であるとし,社会人基礎力ではこれを主体性と名付けたのであろう。確 かに,こうした能力は,必要なものであり,主体性といえないこともない。
しかし,これを主体性と名付けるということは,一般的な意味の主体性を 求めないことを意味することになり,きわめて問題であると考えられる。
こうしたことを踏まえると,日本経済団体連合会のアンケートでも,主 体性を「物事に進んで取り組む力」という意味で答えた企業が相当数含ま れているのではないかと想定される。この考え方が正しければ,企業は,
よくいうことを聞き,他人とのコミュニケーションに長けて,前向きに仕 事をする者を求めており,本来の意味での主体性のある者は,必ずしも重 視していないことが判る。
だが,学生の立場で考えると,時代が厳しくなり,想定外の変化が生ず るようになってくると,一般的な意味での主体性は,次第に大きな意味を 持ってくるようになるであろう。また,一般的な意味の主体性を持ってい ないと,企業の中で生き抜くのにも劣後してしまうおそれもある。また,
その一方で,「物事に進んで取り組む力」も当然求められ続けるであろう から,学生としては,これら2つの意味での主体性を身に着けることが必 要となろう。
⑶ 協 調 性
我が国では協調性が必要であるということがよくいわれる。確かに協調 性は重要な能力要素である。しかし,私見によれば,我が国の企業は,協
26) 東山高久(2013)40ページ。
調性を重視しすぎ,個々人の主体性を抑え込みすぎてきたように思われ る。そのことが,変化の激しい時代を生き抜く力を企業から奪ってしまっ た面は,否定できないように思われる。また,高等学校までの教育の中で も,明示的なだけではなく,黙示的にも協調性の重要性は教えられてきた ので,私は,これ以上協調性の重要性を訴える必要はないと考えている。
それよりは,協調性と主体性のバランスをどのように取るのかということ を教えることの方が大事であろう。
⑷ 課題解決力,課題発見力,計画力
日本経済団体連合会のアンケートでは,課題解決能力とされ,社会人基 礎力では,課題発見力とされている。つまり,日本経済団体連合会は,課 題は与えられたか,自分で見つけたかは問わず,それを解決することを求 めている。これに対して,社会人基礎力では,課題を見つけ出すことにウ ェイトがかけられ,解決することは必ずしも重視されず,その一方で,計 画力(課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力)が求められてい ることからは,解決のための計画さえ立てればよいかのようである。
しかし,私は,仕事をしていく上では,課題を解決するだけでも,課題 を発見し,解決の方策を計画するだけでも十分ではなく,問題点を発見 し,それを自ら解決しなければ意味がないと考える。課題も単に発見でき ればよいということではなく,現状を分析し,問題点を見つけ,その問題 点を合理的に解決する方策を複数考え,その中でもっとも絶対的なメリッ トの大きいものを選択し,実行に移す必要がある。つまり,問題分析力,
判断力,計画力,実行力の4つが必要とされるのである。こうした意味か ら,課題解決能力,課題発見力と表現するよりも,問題分析力,判断力と 表現した方がよりよいと考えられる。
仕事には必ず何らかの問題がある。これを主体的に発見して解決するこ とが組織としてはきわめて大事なことである。また,コンピテンシー面接
が示唆するように,仕事ができる者は,こうしたことができる者である可 能性が高い。その意味でも注目しておく必要がある。また,直感的に分析 したり,判断したりするのではなく,合理的に分析し,判断する習慣を身 に着ける必要もある。また,仕事を離れても,ものごとを合理的に考える ということは,大変重要である。その意味でも,問題分析力と判断力は,
重視しなければならない。
⑸ 柔軟性,創造力
また,これらのアンケートで見ると重視されていないが,大事な能力要 素もある。その中で私が注目するのが,柔軟性と創造力である。これら は,普段仕事をしていく上でも重要であるが,これからの変化の激しい時 代を生き抜くためには,従来からのやり方にとらわれない方策を考える際 には,柔軟性は不可欠であると考えられる。また,これまでにないような 革新的な応えを考え出すには,創造力が不可欠である。このアンケート は,あくまでも日本経済団体連合会の会員会社に対するものであり,いわ ゆるベンチャー企業や中堅・中小企業は含まれていないために,こうした 結果になったとも考えられる。
確かに,社会人基礎力には,柔軟性が含まれている。しかし,柔軟性に ついては,「意見の違いや立場の違いを理解する力」とし,例として,「自 分のルールややり方に固執するのではなく,相手の意見や立場を尊重し理 解する」ことが挙げられている。もちろん,こうした柔軟性は必要である ことはいうまでもない。しかし,現在の企業の置かれた状況や今後の変化 を考えると,もっと幅広い意味での柔軟性と創造力が求められていると考 えられる。具体的には,過去にとらわれずに将来を切り開いていくことの できることが大事であろう。というよりも,労働者としては,柔軟性と創 造力がないとこれからの世の中を生き抜いていけないのではないか。
また,柔軟性や創造力と同時に,物事を前向きに捉えるということも同
様に大事であろう。しかし,企業は,こうしたことは想定していないの で,そういう意味ではアンケート調査結果には反映されていない。
学生の立場で考えると,大学を卒業してから40年余り働くのであり,現 在生きている我々では考えもつかないような労働環境の変化が起こるので あろう。そうしたときに,これまで使ってきた技術がまったく使えなくな るとか,勤めている企業が破綻するとか,さまざまな変化が想定される。
こうした変化を先読みして,変化に柔軟に対応していくためには,柔軟性 と創造力が必要になると考えるのは,当然のことであろう。
⑹ パソコンを使う力
パ ソ コ ン に つ い て は, 社 会 科 学 系 の 学 生 で あ っ て も,
Windows
27),Word
,Excel
,PowerPoint
程度は,一通り使えることが求められる。しかし,実際にはほとんどの学生が,まったくといってよいほど使えないの が現状である。パソコンを使えることは,就職に当たってはあまり求めら れていないが,実際に仕事をしていく上で大変重要であることから,パソ コンを使えることは大変意味があると考えられる。
⑺ コンピテンシー
コンピテンシー面接でいうコンピテンシー,つまり,成果を生み出す行 動特性は,もちろん,就職の際の面接で売り込むのに重要であるが,実際 に仕事をする場合には,コンピテンシーを持っていることは,仕事ができ ることにほかならない。そうした意味でも,日常から,前述の問題分析,
判断,計画,実行ができるようにしておくことが重要である。
⑻ 対面影響力と人柄
対面影響力や人柄は,対人折衝をするような業務であれば,大変意味を 持っている。また,ハロー効果は,面接者だけではなく,さまざまなビジ
27) 朝日新聞デジタル「就活は大学1年生から始まっている!?─4年後視点 のパソコン選びとは!?─」。
ネスの場面で働くことがある。このため,学生にとって対面影響力や人柄 を磨くことには大きな意味があるといえる。もちろん,ハロー効果がはが れてしまったときに,中身がないと思われないように,他のさまざまな能 力も向上させるよう努めなければならないことは,いうまでもない。
⑼ 自分で学ぶ力
社会に出ると,自分の仕事を憶える,関連する資格を取るなど,すぐに 勉強することを求められる。大学までの勉強というのは,誰かに教えても らうことが当然の前提になっている。しかし,社会に出ると,資格取得の 予備校に通って勉強を教えてもらうことは可能であるが,実際の仕事に必 要な知識などは,自分で学ぶしかないものがほとんどである。また,少な くとも,人事異動があった都度,転職をした都度,自分の身に着けている 技術が最新のものでなくなりそうな場合などには,勉強が必要になる。こ れらの場合も,誰も教えてくれないことが多い。このため,自分で学ぶ力 が不可欠になる。自分で学ばずに,部下や同僚,上司に教えてもらおうと すると,彼らの仕事の邪魔にしかならず,組織全体の効率を落とす。こう した働き方をする者は,仕事のできない者とみなされる。そうした意味か ら,自分で学ぶ力をつけておくことが必要になる。よい仕事をしようと思 ったら,このことは必須である。
⑽ その他の能力要素
その他の能力要素として,英語などの外国語力が挙げられる。また,社 会科学系の学部で学んだことの中にもビジネスで直接的に役立つものもあ る。一部の企業では,法律や会計をまじめに勉強した学生を採用し,それ らの分野の専門家として養成しようというところがある。さらに,弁護士 や公認会計士がほしいのであれば,そうした資格を有する者の中から仕事 のできる者を採用しているところもある。しかし,多くの企業は,まった く勉強していなかった者でも勉強させれば何とかなると依然として考えて
いる。こうした考えが,我が国のサービス産業における労働生産性の低さ の1つの原因になっているのではないかと,私は考えている。このため,
ビジネスに役立つ勉強をすることは,大変大事である。
2.学生が身に着けるべき能力要素
こうしたことを総合すると,具体的には,次のような能力要素とコンピ テンシーを身に着けることが望ましいものと考えられる。
図表4 学生が身に着けるべき能力要素
能力要素 備 考
考える力
問題分析力 判断力 計画力
主体性 一般的な意味と「物事に進んで取り組む力」の両方
コミュニケー ション能力
口頭表現力 発表力 文章表現力 要点把握力 読解力 感受性 説得力 対面影響力
働くための力 協調性 柔軟性 創造力 実行力
その他の力
外国語力 パソコンを使う力 自分で学ぶ力
Ⅳ 身に着ける方法
こうした能力要素を学生が身に着けることができるようにするには,ど のようにしたらよいのであろうか。それは,大学教育による方法と学生が 個人で努力する方法があるが,本稿では大学教育によるものに絞る。
1.考 え る 力
ここで,考える力というのは,仕事上の問題点を見つけ,その解決策を 考えられることをいう。これを能力要素でいうと,問題分析力,判断力,
計画力,実行力になる。コンピテンシー面接でいうコンピテンシーに含ま れる重要な要素である。こうした能力を身に着けるには,学生たちが身の 回りのことに注意を払い,問題点を見つけ出し,解決策を考え,実行する ことが望ましい。ゼミやアルバイトでも同様である。ゼミなどでも,教員 は,ついつい学生にやるべきことを示してしまいがちであるが,指示され たことを学生がやったところで,たとえばコンピテンシー面接では,まっ たく評価されない。自分自身で考えてやることに意味があるのである。そ のためには,ゼミでも,上手に問題点に気づかせ,解決させるように持っ ていくことが大事である。
また,試験やレポートで,意見を書くような問題を出し,教員が教えた ことをそのまま書くようなものは評価できないと教える必要がある。その 意味でも,記憶したことをそのまま書かせるような問題は,ほとんど意味 がない。
2.コミュニケーション能力
口頭表現力,発表力は,ゼミなどでグループ・ディスカッションをす る,発表をするなどで身に着けることができる。この際,対面影響力の強
化を意識しながらさせるとよい。ことに,大人数の前で発表する経験を積 ませることが大事である。
要点把握力については,高校や予備校での教育に大きな問題があると考 えられる。それは,高校や予備校での授業では,生徒が書き取るべきこと を,教員がそのまますべて黒板に書くことが多い。この方が憶えるべきこ とを合理的に書き取ることができるため,受験勉強をするということだけ を考えると,合理的な方法といえる。しかし,何が大事なことか,憶える べきことは何かなどを考えなくてよくなり,ノートを取る力が大きく落ち てしまったと考えられる。
ノートをとる力は,まさに要点把握力そのものであり,我々教員がちょ っとした工夫をするだけで改善できる。それは,きわめて簡単なことで,
授業では,基本的に板書をしないこと,
PowerPoint
やレジュメを示す場 合でも,大事なことは書き込まないことに尽きる。なお,ノートの取り方というと,彼らは,試験勉強のためのいかにも整 理されて書かれたノートのことを考える可能性が高いが,ここでいうノー トは,単に大事なことのメモを取るということである。このことをよく教 える必要がある。
文章表現力については,レポートや卒業論文で指導する必要がある。ま た,学生とメールのやり取りをすることも多いと考えられるが,その場合 には,きちんと最低限一般的なパソコンのメールに求められる要件を充た すようにさせなければならない。
また,最近の学生には,リーディング・スキルの劣る者が増えていると いわれている28)が,もし,そうした学生が一定程度いるようであれば,
リメディアル教育を行う必要があろう。
28) 日本経済新聞「AI時代,読む力を養え」2017年12月4日朝刊。
3.働くための力
協調性などを教えることができるのは,ゼミなどの少人数教育の場であ ろう。また,実行力については,前述の考える力とセットで学生に取り組 ませることがよいだろう。
4.その他の力
パソコンを使えるようにすることも重要な課題である。パソコンの技能 にかかわる科目だけではなく,他の教員も何らかの形で,学生がパソコン を使うように仕向けることが必要ではないか。
発表力との関係もあるが,
PowerPoint
を使った発表をさせることも重 要であろう。本来は,PowerPoint
だけが発表の手段ではないのであるが,現在のビジネスでは,異常なまでに
PowerPoint
が重視されているように 思われる。そうした意味では,学生にPowerPoint
の向き不向きを考えさ せることも重要であろう。また,自分で学ぶ力を付けるのは,一般的な大学教育の中では難しい が,逆接的にいえば,出席を取らないというのもよい方法かもしれない。
自分で試験前にきちんと勉強するというのであれば,自分で学ぶ力が身に 着くかもしれない。
終 わ り に
キャリア教育というと従来からの大学教育と相容れないという印象を持 つ方も多いかもしれない。しかし,ここで説明したとおり,今行われてい る大学での教育を進化させればよいと私は考えている。進化の方向も,従 来からの大学教育の延長に位置づけられる。たとえば,きちんとノートを 取れるようになる,自分の主体的な考えを持つなどである。これらは,大 学にくる前に学んでおくべきことともいえるが,そうではなくなってしま