ロシアにお け る経 済体制 移行 に よる社会 的損傷(小 崎)115
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ロシアにお け る経済 体制 移行 に よる社会 的損傷
一 治 安 と社 会 秩 序 の損 失 一
小 崎 晃 義
は じめ に
市 場 経 済 へ の急 激 な移 行 の過 程 に お い て 、 ロシ ア社 会 の 治 安 と社 会 秩 序 が 大 き く悪 化 した と い う事 実 は疑 う余 地 が な い 。 そ れ は 著 名 な ジ ャー ナ リス ト で あ るYu・ シ ェ コチ ヒ ン の 「国 中 は ギ ャ ン グ だ らけ で あ り、 権 力 は 腐 敗 し て い る。 以 前 は こ の よ う な こ とは 社 会 の 欠 陥 とみ な され て い た が 、 今 日で は
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子供 の いたず らほ どあ りふれ た こと にな った」 とい う言葉 に端的 に表れ て い る。
一 方、 この よ うな社会 の変化 を客観 的 に把握 す るこ とは困難で あ る。 なぜ な ら、数量 や金額 で計測 で き る経 済現 象 と違 い、治安 や秩序 の悪化 を示す 社 会現 象 の多 くは記録 され てない し、 また それ らの判 断 は多 分 に個 々の国民 の 主観 や道徳観 、倫理 観 に依 存す るか らで あ る。
しか し、近 代法 治 国家 にお いて、治安 と秩序 が どの程 度維 持 され て い るか を検 討す るため に、犯罪 の量 と質 をその指標 とす ることには十分 な説 明力が あ る。
この よう な観点 か ら、本稿 の 目的 は、犯罪 の数 や その特徴 を手が か りに し て、90年 代 の ロシ アにお け る急激 な経 済改 革 に伴 う、治 安 と秩序 とい う、
重 大 な社 会 的損失 の規 模 と深 刻 さを明 らか にす る ことで あ る。
本 論 は、 まず90年 代 の犯 罪 の増加 の背景 とそ の特 徴 を概 観 し、市 民生 活
を取 り巻 く、 治 安 の 悪 化 に つ い て 考 察 す る。 次 に 、 ロシ ア社 会 の最 も深 刻 な 社 会 秩 序 の損 失 と して 、組 織 犯 罪 、 いわ ゆ る マ フ ィア の 問題 と経 済 犯 罪 と し
て の官 僚 の不 正 と汚 職 の 問題 を取 り上 げ る。
1.90年 代 の 犯罪 増 加 とそ の 背 景
90年 の犯罪 の増加 に は さま ざ まな原 因 と背 景 が あ ると考 え られ る。 こ こ で は、 まず 内務省 の公式統 計 を利 用 して、そ の変 化 の様 子 を概観 し、犯 罪件 数 と経 済危機 に相 関が あ ることを示す。 そ して、公 式統計 上 の犯 罪率が実 態 と乖離 してお り、実 際 の潜 在犯 罪率 を どの程度 にみれ ば よいかを考察す る。
1.1犯 罪 増 加 の 要 因 と して の 経 済 危 機
表1は1990年 代 の ロ シ ア に お け る登 録 犯 罪 件 数 の 推 移 を示 して い る。 こ こか ら一 見 してわ か る こ とは 、 ソ ビエ ト崩 壊 後 の ロ シ ア社 会 で は ソ ビエ ト時 代 と比 較 して 、 明 らか に犯 罪 件 数 が 増 加 して い る こ と で あ る。 例 え ば1990 年 と2000年 を 比 較 す る と、 総 犯 罪 件 数 は1.6倍 も増 加 して い る。
さ らに、 この変 化 の推 移 を詳 細 にみ る と、 そ こ には2度 の大 きな増 加 の ピー クが あ る こ とが わ か る。
まず 、1度 目の ピー クは1991年 か ら1992年 に か け て で あ るQ1991年 は ソ 連 邦 解 体 の 直 前 で あ り、権 力 の空 白 に よ って、 国 民 の将 来 へ の不 安 が 最 高 潮
に達 した 時 期 で あ る。 ま た 、 同時 に、 経 済 にお い て も 、 日用 品 な どの 品不 足 が 最 悪 の 状 態 で あ った 。 こ の 年 に総 犯 罪 件i数は 前 年 比18.1%増 加 した 。 さ らに 続 く1992年 は 、 ロ シ ア の 市 場 経 済 化 が 本 格 的 に始 め られ た 年 で あ る 。 い わ ゆ る 「シ ョ ック療 法 」 に よ り価 格 が 大 幅 に 自 由化 され 、 そ の結 果 、 消 費 者 物 価 が1年 間 で26倍 も 上 昇 した 。1992年 の総 犯 罪 件 数 は過 去 最 大 の27%
の 増 加 を記 録 した 。
ロシアにおけ る経 済体制移 行 に よる社会 的損傷(小 崎)117
2度 目の ピー ク は1998年 か ら1999年 で あ る。1998年8月 に は金 融 危 機 が 起 き た 。 ロシ ア政 府 が 対 外 債 務 の 事 実 上 の デ フ ァル トを宣 言 し、 民 間 銀 行 の 多 くは営 業 を停 止 した 。 預 金 の保 護 制 度 が 不 十 分 なた め 、 国 民 は 多 くの個 人 資 産 を 失 った 。 ま た 、 ル ー ブ ル の為 替 レー トが 急 落 し、 それ に よ って輸 入 物 価 が 上 昇 した 。 そ れ は 食 料 や 日用 品 を輸 入 に頼 って い た 都 市 住 民 の生 活 を 直 撃 した 。
これ らの変 化 を犯 罪 の種 別 で み る と、 暴 行 と交 通 違 反 を の ぞ く全 項 目が2
表1犯 罪件 数の推 移
(単 位:千 件)
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 登録犯罪数 1839.5 2173.1 2760.7 2799.6 232.7 2755.7 2625.ユ 2397.3 2581.9 3001.7 2952.4
前年比(%) 18.1 27.0 1.4 一6 .0 4.7 一一4 .7 一8
,7 7.7 16.3 一1 .5
犯 罪 率(件/10万 人) 1242.6 1474.3 1856.5 1883.1 1774.5 1$58.1 1774.0 1625.3 1755.1 2046.2 2028.3 殺人 と殺人未遂 15.6 16.2 23.0 29.2 32.3 31.7 29.4 29.3 29.6 31.1 31.8 前年比(%) 3.8 42.0 27.0 10.E 一i .9 一7 .3 一 〇 .3 1.0 5.1 2.3 暴行 と暴行未遂 15.0 14.1 13.7 14.4 14.0 12.5 10.9 9.3 9.0 $.3 7.9 前年比(%) 一6 .0
・5.1 一2 .8
一10 .7 一一一12 .$ 一14 .7 一一3 .2 ・一4 .8
略奪83.3 102.1 164.9 184.4 148.5 140.6 X21.4 112.1 122.4 139.0 132.4
前年比(%) 22.6 61.5 11.$ 一19 .5 一5 .3
一13
.7
一7 .7 9.2 13.6 一4 .7
強盗 16.5 18.5 34.4 40.2 37.9 37.7 34.5 34.3 38.5 41.1 39.4 前年比(%) 12.1 64.3 32.2 一5 .7 一a .5 一8 .2 1' 12.2 6.8 一4 .1
窃盗
913.1 1242.7 1650.9 1579.6 1314.8 1367.9 1207.5 1054.0 1143.4 1413.8 1310.1 前年比(%) 35.1 32.8 一4 .3
一16 .84.0 一11 .7 一一12 .7 8.5 23.6 一7 .3 麻薬関連の犯罪 16.3 19.3
・53.2 74.8 79.9 96.8
・ …190.1 21.4 243.6
前年比(%) 18.4 54.4 7$.5 40.6 6.8 21.2 91.9 2.3 13.8 12.6 不良行為 107.4 106.9 120.9 158.4 190.6 1sz.o 181.3 129.5 131.3 128.7 125.1
前年比(%) 一 〇 ,5 13.1 31.0 20.3 0.2 一5 .1 一28 ,6 1.2 一1 .8 一2 .8
交通違反 96.3 95.6 90.1 51.2 51.2 50.0 47.7 48.0 52.4 53.7 52.7 前年比(%) 一 〇 ,7 一5 .8 一43 .2 a.o 一一2 .3 一4
,6 0.6 9.2 2.5 一1 .9
出 典:Pocc噛cK曲cTaTHcTHqecK曲e>Kero期HK2001,p.273
度 の ピー ク の形 成 に大 き く寄 与 して い る。 特 に 、 強 盗 、 略 奪 、 窃 盗 な どの い わ ゆ る 「もの 盗 り」 の増 加 が 著 しい。
以 上 の こ とか ら、 市 民 の 日常 生 活 を取 り巻 く、 治 安 の悪 化 の 主 た る要 因 は 、 エ リツ ィン政権 の政 策 に よ って 引 き起 こ され た 経 済 危 機 で あ る と考 え られ る。
また 、 殺 人 と殺 人 未 遂 の増 加 に っ い て も、 同 様 の 推 移 が 見 られ 、1992年 の増 加 が 特 に 著 しい。 この 背 景 に っ い て は 、 明 らか で は な い が 、 いわ ゆ る
「注 文 殺 人 」 の 増 加 が 背 後 に あ る と思 わ れ る。 これ は 後 に触 れ る組 織 犯 罪 の 増 加 と関 連 が あ る。
1.2潜 在 犯 罪 率 の 実 態
犯 罪 の 公 式 統 計 は ロ シ ア 内 務 省 に よ って登 録 され た も の で 、そ れ は お そ ら くロ シ ア全 体 の 犯 罪 の 氷 山 の0角 にす ぎ な い で あ ろ う こ とは 容 易 に想 像 で き る。 で は 、 これ らの数 字 は 、 犯 罪 の実 態 を どの 程 度 表 して い る と考 えれ ば よ い ので あ ろ うか 。
こ の疑 問 を解 く一 つ の ヒ ン トは 、他 国 の 同種 の 統 計 と の比 較 で あ ろ う。 第 2次 世 界 大 戦 後 、 犯 罪 率 の増 加 は 世 界 的 な傾 向 で あ った 。 西 欧 先 進 国 に お け
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る犯 罪 件 数 は 、 人 口10万 人 あ た り約 ・千 件(2000年)で あ る。 ま た 米
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国 で は 同様 の 指 標 が 約4600件 で あ る。 これ らを ロ シ ア の 犯 罪 件 数 と比 べ る と、 ロ シ アで は 西 欧 諸 国 の2〜3分 の1、 米 国 の2分 の1程 度 の犯 罪 の頻 度 しか な い こ と に な る。 この こ とか ら、実 感 と して 、 ロ シ ア の 犯 罪 統 計 は 明 ら か に 実 態 を 過 小 評 価 して る と考 え ざ るを え な い 。
ロ シ ア の 潜 在 犯 罪 率 、 す なわ ち実 際 の 犯 罪 件 数 の規 模 を推 測 す る に あ た り 興 味 深 い調 査 が あ る。 それ は ロ シ ア最 悪 の 犯 罪 都 市 サ ンク ト ・ペ テ ル ブ ル グ 市 と米 国最 悪 の 犯 罪 都 市 ニ ュー ヨー ク市 を 対 象 に行 わ れ た 「大 都 市 に お け る
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住 民 と警 察 」 と い う比 較 調 査 で あ る。 そ の 結 果 に よれ ば 、 サ ンク ト ・ペ テ ル ブル グ市 民 の 平 均4人 に1人 が な ん らか の 犯 罪 の被 害 に あ って い る が 、 そ の
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く ラ
う ち の70%以 上 の市 民 は 警 察(民 警)に 通 報 を しな か った 。 ま た 、 ロ シ ア 科 学 ア カ デ ミー 「法 と 国家 研 究 所 」 の 調 査 で も 、 ロ シ ア で は 毎 年1千 万 件 の 犯 罪 が行 わ れ て い るが 、 しか し、公 式 に登 録 され る の は そ れ らの4件 に1件
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にす ぎ ない と報告 され てい る。
これ らの調査結 果 か ら推測す る と、お そ らくロシアの実際 の犯罪率 は公式 統 計 の2倍 か ら4倍 、す なわ ち米 国を越 え さ らに西欧先 進 国以上 と考 え るの が妥 当で あ ろ う。
1.3住 民 の 民 警 へ の 不 信
ロ シ ア は 長 年 に わ た って 潜 在 犯 罪 率 が 非 常 に高 い 国 と 考 え られ て い た 。 そ の実 態 は 、 ソ連 時 代 は ほ とん ど公 表 され なか った が 、 ゴル バ チ ョフ の ペ レス トロ イ カ政 策 の 一 環 と して実 施 され た グ ラー ス ノ ス チ(情 報 公 開)に よ って 、 徐 々 に 明 らか に さ れ る よ う に な った 。
それ に もか か らわ ず 、 現 在 で も公 式 統 計 上 の 犯 罪 率 が 低 い の に は 、 次 の よ
ラ
う な要 因 が あ る。
① 民 警 が 犯 罪 が起 き た こ とを 知 らな い。
② 民 警 が 犯 罪 が起 き た こ とを 知 って い る が 、 意 図 的 に登 録 しな い。
③ 民 警 が 犯 罪 が起 き た こ とを 知 って い る が 、 法 律 的 な誤 解 あ る い は低 い 能 力 の た め 犯 罪 と思 わ な い。
中 で も 、前 述 の サ ンク ト ・ペ テ ル ブ ル グ と ニ ュー ヨー クの 合 同調 査 か らも わ か る よ う に 、 第1の 要 因 が も っ と も大 き い と思 わ れ る。 っ ま り、 ロシ ア 市 民 は 、 犯 罪 に 直 面 して も警 察(民 警)に 届 け な い こ とが 多 い と い う こ と で あ る。 そ の 理 由 は 民 警 へ の信 頼 感 の 欠 如 で あ る。
そ れ を 示 す 例 と して 、1993年 と1996年 に ロ シ ア 全 土 の3000人 を対 象 に し て行 わ れ た ア ンケ ー ト調 査 に よ る と 、「民 警 の 仕 事 が 悪 くな った 」 と 答 え た 人 は93年 は43%、96年 は30%に 達 して い る。 ま た 、 犯 罪 に 直面 した に も か
かわ らず 、 民 警 に 届 け な った 人 で 「民警 を信 頼 で き な い」 と答 え た 人 は 、93
C9)
年 に は41%、96年 は48%を 占め て い る。
また 、② と③ の 要 因 の 背 景 には 、 警 官 や 取 調 官 の 能 力 の低 下 が あ る。 す な わ ち、 犯 罪 の 増 加 と そ の 凶 悪 化 に と も な って 、 民 警 の 仕 事 と危 険 度 が 増 え 、 退]職者 が あ と を絶 た な い 。 必 然 的 に人 手 不 足 の 上 、経験 の浅 い警 官 が 増 え 、 通 報 が あ って も適 切 な判 断 と処 置 が で き ない ケ ー スが 増 え て い る。 ち なみ に 、 1995年 か ら2000年 にか け て 、 在 職 期 間 が20年 以 上 の 民 警 の 調 査 官 の 割 合 は
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3分 の1に な り、 全職 員 の60%が 在 職3年 以 下 で あ る とい う。
1.4犯 罪 増 加 の 背 景 と特 徴
この よ う な ロ シ ア に お け る犯 罪 の増 加 を もた ら した原 因 は なん で あ ろ うか 。 も ち ろ ん 、 これ はた だ特 定 の1つ の要 素 だ け が 原 因 で あ る とは 考 え られ ない 。 ロ シ ア 科 学 ア カ デ ミー 社 会 経 済 研 究 所 のR・ ル イ フ キ ナ 博 士 は90年 代 の 犯
くユ1)
罪 増 加 の 背 景 と して5つ の 要 因 を挙 げ て い る。
① 価 値 観(倫 理 観)の 真 空 化 一 ソ連 の 解 体 と共 産 党 中 央 委 員 会 の 指 導 的 役 割 の 欠如 。
② 経 済 の 自由 化 一 物 価 の 開放 、私 有 化 な ど。
③ ソ ビエ ト時 代 の犯 罪 組 織 の継 承 と拡 大 。
④ ソ ビエ ト国 家 に代 わ る ロ シ ア 国 家 の脆 弱 性 。
⑤ 潜在 的 な犯 罪 予備 軍 を形 成 す る 、生 活 困難 か っ 無 防備 な社 会 層 ・グル ー プ の発 生 。
しか も 、 これ らの 要 因 が90年 代 の 初 め に 同 時 に 影 響 力 を 強 め 、 お 互 い に 関 連 し、 増 幅 し合 い な が らロ シ ア社 会 の 犯 罪 化 を急 速 に進 め た と い うわ け で あ る。
しか し、前 述 した 経 済 危 機 と犯 罪 増 加 に 明 らか な相 関 が あ る こ とか ら、 こ れ らの5つ の 要 素 の う ち で も第2の 要 素 、 す なわ ち経 済 の 自由化 が も っ と も
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大 き な原 因 で あ る と考 え られ る。
さ らに、 ロ シ ア の 犯 罪 増 加 の背 景 と して3つ の特 徴 を 指 摘 して お きた い。
第1の 特 徴 は麻 薬 と アル コー ル の影 響 で あ る。
表1に 見 られ る よ う に 、 ロ シ ア で は 、麻 薬 に 関 連 した 犯 罪 は90年 代 を 通 して一 環 して増 加 し続 け て お り、 治 安 と秩 序 を悪 化 させ る大 き な要 因 と な っ て い る こ と は 間違 い ない 。'しか し、 一 般 の イ メ ー ジ に反 して 、犯 罪 の要 因 と して は 、飲 酒 の 方 が 影 響 が 大 き い。 ロ シ ア科 学 ア カデ ミー サ ン ク ト ・ペ テ ル ブル グ支 部 社 会 学 研 究 所 のYa・ ギ リンス キ ー 博 士 は 、 「今 日、 ロ シ ア で は 人 口 の10%が 麻 薬 を 常 習 して い る。 しか し、 犯 罪 との 関 連 性 で い え ば 、麻 薬 よ りもむ しろ飲 酒 の方 が影 響 が大 き い 。 大 多 数 の犯 罪 は 飲 酒 状 態 で 行 わ れ て い る 。 特 に 、 殺 人 や 暴 行 の70%が ア ル コー ル の 影 響 下 で 行 わ れ て い る。 麻
{12?
薬 常 習 者 に よ る も の は0.8%以 下 で あ る」 と指 摘 して い る。
第2の 特 徴 は 、 重 大 犯 罪 の低 年 齢 化 で あ る。 表2に 見 られ る よ う に 、 統 計 で は 、 未 成 年 者 の 犯 罪 件 数 は全 体 の傾 向 と比 較 して 大 き な増 加 を 示 して い な
表2実 行 犯の カテ ゴ リー別犯罪 件数
(単 位:千 件)
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 未成年またはその参加 162.7 173.4 199.3 223.7 221.6 209.8 202.9 182.8 189.3 208.3 195.4
前年比(%) 6.6 14.9 12.2 一 〇 ,9 一5 .3 一3
.3 一9
.9 3.6 10.0 一6 ,2
以前に犯罪を犯 した者 257.9 274.3 320.3 346.7 343.9 459.6 494.0 565.4 604.6 692.1 651.5
前年比(%) 6.4 i. 8.2 /' 33.6 7.5 14.5 6.9 14.5 一5 .9
グ ル ー プ
..214.0 278.2 355.5 349.3 349.5 345.5 359.9 374.3 450.9 419.0 前年比(%) 13.5 30.0 27.8 一1 。7 a.1 一1 .1 4.2 4.Q 20.5 一7 .1
内組織化されたグループ 3.5 5.1 8.0 13.6 18.6 23.8 26.4 28.5 28.7 32.9 36.0 前年比(%) 45.7 56.9 70.0 36㌔8 28.0 10.9 s.a 0.7 14.6 9.4 ア ル コー ル飲 酒 状 態 の 者 334.7 356.2 438.5 518.9 600.1 650.3 637.a 508.9 485.2 ,・. 442.7
前年比(%) 6.4 23.1 18.3 15.6 8.4 一2 .0‑20.1 一4 .7 a.6 一9 .3
出 典:POCCHHCKHHcTaTHcTHqecKH銘e)Kero朋KK2001,p.274
い。 しか し、 殺 人 な ど、未 成 年 者 の 犯 罪 が 凶悪 化 して い る傾 向 が 指 摘 され て い る。
さ らに、 「ロ シ ア全 土 で100万 人 以 上 に達 す る とい わ れ る ホ ー ム レス 児 童 」
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(マ トビエ ン コ社 会 保 障 担 当副 首 相)の 問題 の解 決 が 急 務 で あ る。 そ れ は 、 犯 罪 組 織 が 法 的 責 任 能 力 の な い 少年 を麻 薬 取 引 に利 用 し、 少 女 は 犯 罪 組織 に よ る欧 米 市 場 向 け児 童 ポ ル ノの 標 的 に な って い るか らで あ る。 そ して 、 これ
らの 子 供 た ち は 、将 来 の 「本 物 の」 犯 罪 者 の予 備 軍 と な って い る。
第3の 特 徴 は 「注 文 殺 人(3aKa3Hoey6H耽TBo)」 の 増 加 で あ る。 これ は 、 第 三 者 が 報 酬 を得 て殺 人 を行 う こと で あ る。
ロシ ア の 人 口10万 人 当 りの 殺 人 事 件 数 は 、1990年 が10.5件 で あ った の に 対 して 、1993年 に急 激 に 増 加 し、90年 代 を 通 じて 約20件 を 記 録 して い る。
これ は 、 西 欧 先 進 国 にお け る 同様 の 指 標 は4件 を越 さ な い こ とか らす る と 明 らか に 多 い。 こ の 背 景 に は いわ ゆ る 「注 文 殺 人 」 の増 加 が あ る と考 え られ て い る。
これ まで 述 べ た 犯 罪 の背 景 と特 徴 は 、様 々 な個 別 の犯 罪 行 為 を生 み 、 治 安 を 悪 化 させ 、 通 常 の 市 民 生 活 を脅 か して い る。 しか し、 そ れ 以 上 に ロ シ ア社 会 を 根底 か ら蝕 む 犯 罪 が 存 在 す る。 そ れ は、 組 織 犯 罪 、 いわ ゆ る 「マ フ ィア」
の 問 題 で あ り、 最 大 の 経 済 犯 罪 と して の 官僚 の腐 敗 と汚 職 の 問題 で あ る。
2.深 刻 化 す る組 織 犯 罪 一 マ フ ィア の興 隆
90年 代 の ロ シ ア の犯 罪 の 大 き な特 徴 は 、 新 しい タ イ プ の組 織 犯 罪 一 い わ ゆ る 「マ フ ィア」 の広 が りと経 済 へ の 浸透 に あ る。 さ らに 、 ロ シ ア の組 織 犯 罪 は 、 ロ シ ア の 国 内 問 題 の枠 を超 え て 、世 界 的 な問 題 と な りっ っ あ る。
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2.1ソ ビエ ト時 代 の犯 罪 組 織
前 述 の ル イ ム キ ナ が 指 摘 して い る よ う に 、90年 代 の 犯 罪 の 増 加 の 最 初 の き っか け は 、 ソ ビエ ト時 代 の 犯 罪 組 織 の継 承 と そ の 活 動 の活 発 化 で あ った 。
ソ ビ エ ト時 代 の 典 型 的 な 犯 罪 組 織 は 「ボ ル ・ヴ ・ザ コ ー ネ(BOPB 3aKOHe:掟 を 守 る盗 賊)」 と呼 ば れ る犯 罪 者 の ネ ッ トワ ー クで あ った 。 彼 らは 、 そ の 名 の 通 り、厳 格 な独 自の掟 を遵 守 す る こ と を 誇 り と して お り、 そ の頂 点 に 立 っ 「ボ ル 」 と呼 ば れ る大 ボ ス た ち は 、 「一 流 の 軍 人 や 科 学 者 や 国 家 指 導 者 た ち と 同 じで 、 や っ らに は大 変 な威 厳 が あ る」 と警 察 が 認 め る ほ ど
{ユ4}
統 率 力 を 有 して いた 。
これ らの犯 罪 組 織 は 、 一 方 で は売 春 や 賭 博 な ど犯 罪 行 為 を支 配 しなが ら、
一 方 で は、 ソ ビエ ト政 権 の地 方 官 僚 や 企 業 経 営 者 と癒 着 し、 資 材 や 人 員 の非 合 法 な調 達 に よ って 、 整 合 性 に欠 け る ソ ビエ ト型 計 画 経 済 シ ス テ ム の 潤 滑 油 と して の 役 割 を も果 た して い た 。 しか し、 そ れ らの 活 動 は いわ ゆ る地 下 経 済 の 領 域 で 行 わ れ た の で あ って 、 一 般 市 民 の 目に触 れ る こ と は ほ とん どなか っ た 。
1980年 代 後 半 、 ゴル バ チ ョフ の ペ レス トロ イ カ政 策 を き っか け と して 、 ソ ビエ ト体 制 の権 力 が 瓦 解 し始 め る と、 これ らの 古 い タ イ プ の 犯 罪 組 織 の構 造 に も混 乱 が 始 ま った 。 さ ま ざ ま な 自由化 に よ って生 まれ た 新 しい利 権 を 求 め て 、 裏 切 りや 抗 争 が 頻 発 し、80年 代 後 半 か ら90年 代 の 初 頭 に か け て の ロ シ ア で の 犯 罪 の 増 加 を もた ら した 。 同時 に グ ラ ー ス ノス チ(情 報 公 開)の 浸 透 に よ って 、 か つ て一 般 に は知 られ て い なか った 「ボ ル ・ヴ ・ザ コー ネ 」 と
い う犯 罪 界 の 専 門 用 語 を 、 子供 で さえ 口に す る よ う に な った。
この よ う な古 い タイ プ の犯 罪 組 織 の 衰 退 と 同時 に 、 ソ ビェ ト崩 壊 直 前 の社 会 ・経 済 の混 乱 に乗 じて 、 レケ ッ ト(p3KeT)と 呼 ば れ る犯 罪 者 が 現 れ る よ う に な った 。 彼 らは 、街 頭 の いた る と ころ に 出現 した 闇 市 場 を舞 台 と して 、 ゆす りや た か りを行 って い た が 、徐 々 に よ り強 大 で 凶 悪 な犯 罪 組 織 に吸 収 ・
統 合 され て い った 。 それ らの犯 罪 者 グル ー プ は 一 般 に 総 称 して 「マ フ ィア 」
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と呼 ばれ る よ う に な った 。
2.2ポ ス ト ・ソ ビエ ト時 代 の犯 罪 組 織
91年 か ら93年 に か け て 、 ロシ ア で は 権 力 の 空 白 に乗 じて 、 マ フ ィア の活 動 が 活 発 化 した 。 これ は 表2に 見 られ る よ う に、 内務 省 の公 式 統 計 に も、 組 、 織 化 され た 犯 罪 グル ー プ に よ る犯 罪 件 数 と して 如 実 に 表 れ て い る 。 特 に93 年 は 、 前 年 比70%と い う空 前 の伸 び を記 録 した 。
ロ シ ア にお け る マ フ ィア の犯 罪 の特 徴 と しは 、 武 器 や 麻 薬 の 密 売 、 買 収 、 賭 博 な どの 活 動 と と も に、 かれ らが 「合 法 的 」 な経 済 活 動 と深 く関 わ って い
る こ とで あ る。
そ の代 表 的 な例 が 「ク リ..̲̲シャ(KPbll11a)」 で あ る。 ク リー シ ャ とは い わ ゆ る 「上 納 金 」、 「み か じめ 料 」 を意 味 す る隠 語 で 、 ビジ ネ ス の 安 全 を 保 障す る見 返 り に支 払 わ れ る金 の こ とで あ る。 治 安 の 悪 化 に よ っ て、 ロ シ ア の小 企 業 の大 半 は 、 ク リー シ ャを 支 払 わ ざ る を 得 な い 状 態 に お か れ た 。1991年 か ら94年 に か け て 、4万1千 の 企 業 、 半 数 の 銀 行 、8割 以 上 の合 弁 企 業 が 犯 罪 組 織 と関係 を持 って い た 。 そ して合 法 的 ビジネ ス か ら得 られ る所 得 の う ち 、
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20%が ク リ ー シ ャ と し て 支 払 わ れ た 。
ま た 、 ロ シ ア 「ア ン チ ・マ フ ィ ア 基 金 」 のE・ ム ィ ス ロ フ ス キ ー 総 裁 は
(17)
「現 在 、95%の ビジ ネ ス が 犯 罪 的 な管 理 の下 に あ る。」 と指 摘 して い る。
ロ シ ア 内務 省 の デ ー タ に よ る と、2001年 現 在 で 登 録 され て い る 犯 罪 組 織 は7千300グ ル ー プ を数 え 、 約10万 人 が所 属 して い る。 ま た 、275グ ル ー プ が 国 際 的 な連 携 を 持 って お り、170グ ル ー プが 国 際 的 組 織 で あ る。150の グ ル ー プが ロ シ ア国 内 を縄 張 り に応 じて 分 割 して お り、 経 済 や 政 治 の 分 野 で権
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力 と 張 り合 っ て い る 。
ロシ アにおけ る経 済体制移 行 によ る社会 的損傷(小 崎)125
2.3国 際 化 す る ロシ ア の 犯 罪 組 織
今 や 、 ロシ ア の犯 罪 組 織 は 「ロ シ ア ン ・マ フ ィア」 と して世 界 的 は 問 題 と な って い る。
米 国 の ジ ャー ナ リス ト、R・ フ リー ドマ ンは 「い まや 北 ア メ リ カだ け で 30に の ぼ る ロ シ ア の 犯 罪 シ ン ジ ケ ー トが 少 な くと も17の 都 市 で 暗 躍 して お り、 と りわ け ニ ュー ヨー ク 、 マ イ ア ミ、 サ ン フ ラ ンシ ス コ、 ロサ ンゼ ル ス 、 デ ンバ ー で の活 動 が 顕 著 で あ る。 彼 らは北 ア メ リ カの金 融 市 場 に侵 入 し、手 の込 ん だ株 式 詐 欺 を くわ だ て 、 ニ ュー ヨー ク銀 行 を通 じて数 十 億 ドル も の不 正 資 金 を洗 浄 した 。 さ らに 、 か れ らの活 動 範 囲 は マ レー シ ア か らイ ギ リス に
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まで お よ び 、 い まや50ヶ 国 以 上 に広 が って い る」 と指 摘 して い る。
世 界 を舞 台 に した ロ シ ア の 犯 罪 組 織 の活 動 の特 徴 は 、麻 薬 、 武 器 の 密 売 や 買収 とい った 古典 的 な犯 罪 を行 うだ け で な く、世 界 を縦 横 に結 ん で 、 マ ネ ー ・
ロ ン ダ リ ン グ とネ ッ トワ ー ク犯 罪 と い う新 しい 犯 罪 を 得 意 と して い る こ とで あ る。
マ ネ ー ・ロ ン ダ リング
マ ネ ー ・ロ ン ダ リ ン グ 防 止 活 動 の 主 要 な 役 割 を担 っ て い るOECD傘 下 の
「金 融 活 動 タス ク フ ォー ス(FATF)」 は 、2000年6月 に 年 次 報 告 書 を 公 表 し、 ロ シ ア が マ ネ ー ・ロ ン ダ リ ン グ 防 止 制 度 に重 大 な欠 陥 が あ る15の 国 ・ 地 域 の う ち の 一 つ で あ る と指 摘 した 。
ロ シ ア の マ ネ ー ・ロ ン ダ リン グ は 、麻 薬 売 買 な ど犯 罪 で得 た 資 金 の ほ か 、 政 府 高 官 へ の賄 賂 、 国 際 通 貨 基 金(IMF)な ど国 際 金 融 機 関 に よ る融 資 の横 領 な ど、 あ らゆ る現 金 が 対 象 に な って い る。 内務 省 の 推 計 で は 、 過 去10年 間 の 資 金 流 出 は 国家 予 算 の5倍 に 当 た る2500億 ドル に 上 り、 そ の 大 半 は洗 浄 され た 「汚 い金 」 だ と見 られ る。 ま た 、 先 進7力 国蔵 相 会 議(G7)の 試
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算 で は 、 ロ シア で 洗 浄 され る金 は 年 間200億 ドル に達 す る と い う。
2001年6月OECDの 財 務 相 会 議 は 、 ロ シ ア を 特 に 対 策 に 消 極 的 な 国 と し
て 、9月 末 まで に 法 制 度 の 改 善 が な い場 合 、対 抗 措 置 を取 る こ とで 合 意 し、
民 間 銀 行 に不 審 な取 引 の報 告 を 求 め る こ とで 一 致 した 。
これ を 受 け て 、2001年 ジ ェ ノバ ・サ ミ ッ トを 間 近 に控 え た プ ー チ ン政 権 は 、 「資 金 洗 浄 対 策 法 案 」 を 成 立 させ た 。 同法 案 は 、 ロ シ ア 国 内 の銀 行 な ど 金 融 機 関 に対 して 、60万 ル ー ブ ル 以 上 の 取 引 を 報 告 す る よ う義 務 づ け る ほ か 、 幽 霊 会 社 の銀 行 口座 開 設 や 架 空 名i義防 止 の措 置 を盛 り込 ん で い る。
rG8の フ ル メ ンバ ー 」 やWTOの 早 期 加 盟 を 目指 す プー チ ン大 統 領 と し ては 、 ロシ ア と して も対 策 に取 り組 ん で い る と こ ろ を世 界 に示 した 。 しか し、
ニ ュー ヨー ク銀 行 の マ ネ ー ・ロ ンダ リ ング疑 惑 か ら見 て もわ か る よ う に、 ロ シ ア経 済 の透 明性 が 確 保 され な い か ぎ り、 官 僚 と犯 罪 組 織 が 巧 妙 に結 託 した
この 問 題 の根 本 的 な解 決 に は ほ ど遠 い と い え る。
ネ ッ トワ ー ク犯 罪
ロ シ ア ン ・マ フ ィア の犯 罪 の も う1つ の際 立 った 特 徴 は 、 高 度 な 暗 号 技 術 や コ ン ピ ュー タ技 術 を駆 使 した 犯 罪 を行 って い る こ とで あ る。 そ の よ う な高 度 な知 識 と技 術 を 背 景 に 、規 律 の 乱 れ た ロシ ア 軍 か ら核 物 質 や 生 物 兵 器 な ど を入 手 し、商 品 と して テ ロ リス ト集 団や テ ロ支 援 国家 に売 却 す る可 能 性 が あ る とい わ れ て い る。
現 在 米 国 で は 、 ロ シ ア の 犯 罪 組 織 が 、 電 子 商 取 引 や イ ン ター ネ ッ ト ・バ ン キ ン グ に侵 入 す る例 が 増 加 して お り、 こ の こ とが 、経 済 上 の大 き な脅 威 と な
り始 め て い る。
米 国FBIは 、 こ う した マ フ ィア グ ル ー プ は 、 米 国 や そ の 他 の 西 側 先 進 国 の コ ン ピ ュー タ に侵 入 して 、 不 法 に利 益 を上 げ て い る と指 摘 し、 「近 い将 来 、
この 分 野 の犯 罪 は爆 発 的 に増 え るだ ろ う。 こ う した 犯 罪 は 、文 字 通 りわ れ わ れ に と って は 全 く新 しい も のだ 。 そ して これ らの 影 響 が 、 どの程 度 に な る の
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か 誰 に も分 か ら ない 」 と警 告 して い る。
この よ う な高 度 な技 術 を駆 使 す る ロシ ア ン ・マ フ ィアの ハ ッカー 組 織 は 、
ロシアにお け る経 済体制 移行 に よ る社会 的損 傷(小 崎)127
旧KGBの ス パ イ に よ って運 営 され て い る と いわ れ て い る。 彼 らは 、20代 の 才能 が あ るが仕 事 に恵 まれ な いハ ッカー を雇 い入 れ て い る。 こ う した 若 いハ ッ
カー た ち は 、 モ ス ク ワ 、 サ ン ク ト ・ペ テ ル ブル グ な どの犯 罪 組 織 が イ ン ター ネ ッ ト上 に掲 載 した コ ン ピ ュー タ ・プ ロ グ ラマ ー の 募 集 広 告 を見 てや って 来
る。
こ の よ う に して ロシ ア ン ・マ フ ィア に雇 わ れ た ハ ッカ ー た ち は 、 電 子 商 取 引 会 社 の コ ン ピ ュー タ に侵 入 し、 ク レジ ッ トカ ー ドや 銀 行 口座 の 番 号 を盗 み 出す 。 また 、 そ う した マ フ ィア の う ち い くっ か が 、 金 を支 払 わ なけ れ ば 、 盗 ん だ デ ー タ を ば らま くと企 業 を 恐 喝 す る の で あ る。
ロ シ ア の街 角 の商 店 で は,ロ シ ア製 のハ ッキ ン グ ソ フ トや 、 ツー ル 、Web サ イ トに 侵 入 す る 方 法 を 載 せ た 雑 誌 が 販 売 さ れ て い る 。 ま た 、 ロ シ ア の
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Webサ イ トは 、多 くのハ ッキ ン グ ・ツ ー ル を提 供 して い る。
ロ シ ア 国 内 の法 律 で は 、 コ ン ピ ュー タ シ ス テ ム に侵 入 す る こ と は違 法 で あ る。 違 反 した 場 合 、10年 以 下 の 懲 役 に加 え罰 金 が 科 せ られ る。 ま た 、 ロ シ ア政 府 は 、特 別 テ ク ノ ロ ジー 犯 罪 捜 査 部 門 を設 立 した 。 しか し、 提 訴 され た ケ ー ス は ほ と ん ど な い。
3.巨 大 な経 済 犯 罪 一 官 僚 の不 正 と腐 敗
ロ シ ア の社 会 ・経 済 の も っ と も深 刻 な病 理 は 、 官 僚 の 不 正 と腐 敗 で あ る。
『経 済 と生 活(2001年No.37)』 紙 は 、 「法 の 盗 人 」 と い う タ イ トル で 最 新 の 官 僚 腐 敗 の状 況 を特 集 して い る(以 下 、 特 に こ とわ りの ない 時 は 、 こ の 記 事
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の デ ー タ を使 用 した)。 そ れ に よ る と 、 官 僚 全 体 の70%が 不 正 を 関 わ って い る。 また 、 そ の 内訳 は高 級 幹 部 が53%、 中 堅 幹 部 が28%、 一 般 職 員 が19%
で あ り、 上 層 部 に い くほ ど腐 敗 が 激 しい。
表3は 「過 去3年 間 に あ なた は賄 賂 を支 払 い ま した か」 と い う質 問 に対 す
表3最 近3年 間であ なたは賄賂 を支払 い ま したか?
(単 位:%) ビジネスマ ン
公 務 員仕事 に就 く
63 40
子供 を学 校 に入れ る
58 50
大学 に入 る
85 73
入院す る
82 75
徴兵 に召還 され る
goo 70
刑事 責任 を追求 され る・取調 べ を受け てい る
100 100
住居 を受け取 る
58 59
居住許可を受け取 る
67 53
土地 取得 ・建 築許 可を受 け取 る
77 55
会社 登記 ・事 業許 可 ・延長許 可 を受 け取 る
88 46
国 ・地方 自治体か ら仕事 の発注 を受け る
69 57
民間企業 か ら仕事 の発注 を受 け る
70 45
税金 を支払 う・税務 申告 をす る
70 44
通 関 を受 け る
97 42
運転免 許書 を得 る・自家用車 を登録す る・車検 を受 け る
81 66
交通違 反 で交 通警察 にっ か まる
100 87
出 典:∂KOHOMHKaH>KH3Hb,No372001r
るア ンケ ー ト調 査 の 結 果 で あ る。 これ に よ る と、 現 在 、 ロ シア で 生 活 す るた め に は 、 官 僚 が 関 与 す るほ と ん どす べ て の 状 況 にお い て 、 何 らか の賄 賂 の支 払 い を 求 め られ て い る(あ る い は 求 め て い る)。 こ の こ と は 、 個hの 国 民 に 経 済 的 な負 担 を 強 い る と と もに 、 ロ シ ア社 会 全 体 の モ ラル の 低 下 を も た ら し、
ひ い て は 自 らが 犯 罪 を行 わ ざ る を得 な い こ と(よ い 犯 罪)を 容 認 す る風 潮 を 生 み 出 して い る。
3.1国 民 経 済 へ の 影 響
ロシ ア社 会 に蔓 延 して い る官 僚 の 不 正 と腐 敗 は 、 モ ラ ル の 荒 廃 だ け で は な
ロシアにお け る経 済体制 移行 に よる社会 的損傷(小 崎)129
く、 国 民経 済 自体 に多 大 な損 害 を与 え て い る。
ロシ ア の 個 々 の 民 間 企 業 は 、 通 常70以 上 の 官 庁 の 管 理 下 に あ り、 そ れ ぞ れ の 役 所 が 企 業 の 死 活 を 握 る権 限 を有 して い る。 そ してそ れ らの担 当 部 署 の 役 人 た ち が賄 賂 を 要 求 す る の で あ る。 こ の よ う な状 況 で は経 営 者 は 法 律 に違 反 しな い で ビ ジネ ス を行 う こ とは 不 可能 で あ る。
ロ シ ア の 民 間 団体 で あ る 「21世 紀 の テ ク ノ ロ ジー 」 の 調 査 に よ る と、 ロ シ ア の 小 企 業 全 体 で 月 間5千 万 ドル 、 年 間60億 ドル が 官 僚 へ の 賄 賂 と して 支払 われ て い る。 この 中 には犯 罪 組 織 へ の 「ク リー シ ャ」 は含 まれ て い な い。
大 企 業 を 含 め た 全 体 の賄 賂 の 総 額 は100億 ドル か ら200億 ドル に達 す る。 そ の結 果 、 毎 年 の賄 賂 と して 企 業 に よ って 支 払 わ れ る金 額 はGDPの3%に 相 当 す る。 これ らの資 金 は 本 来 、 企 業 の 投 資 に 当 て られ るべ き も の で あ る。 こ の こ とか ら、 ロ シ ア経 済 の復 興 の た め に は 、 官 僚 の 不 正 を制 限 す る方 策 が 急 務 で あ る こ とが わ か る。
この よ う な直 接 的 な金 銭 の 受 け 渡 し以 外 に も、 さ ま ざ ま形 態 の官 僚 の不 正 が あ る。 そ れ らを多 い も の か ら列 挙 す る と、
・ 違 法 な ロ ビー活 動
・ 監 督 下 に あ る企 業 へ の 経 営 参 加
・ 監 督 下 に あ る企 業 へ の 予 算 流 用
・ 国 有 企 業 の 民営 化 の 際 の 、 職 権 を利 用 した そ の 所 有 権 と取 得 、 また は 大 多 数 の 株 式 の 取 得
な どが挙 げ られ る。
この よ う に不 正 は 国家=機関 の あ らゆ る分 野 に蔓 延 して い る。 も っと も深 く 不 正 に関 与 して い る の は、 民 営 化 、 予 算 の 配 分 、融 資 、銀 行 業 務 、 企 業 登 記 、 許 可 ・割 り当 て 、貿 易 、 基 金 の配 分 、 土 地 改 革 に 関 連 した 国家 機 関 や 部 署 で あ る。 ま た 、 多 くの 不 正 は 国家 調 達 や 購 入 に関 して行 わ れ て い る。 国 家 の予 算 の執 行 額 の う ち30%が 失 わ れ て い る と推 定 され て い る。
3.2低 い 不 正 の 摘 発 率 と犯 罪 組 織 との 癒 着
ロ シ ア 内 務 省 の デ ー タ に よ る と、2000年 に 汚 職 を 追 及 され 、 裁 判 に か け られ た 官 僚 の 所 属 は 、 省 、 委 員 会 の 職 員 ま た は 構 成 員 一41%、 司 法 機 関 の 職 員 一一一一26.5%、 金 融 ・財 政 関連 組 織 の 職 員 一11.7%、 監 督 官 庁 の 職 員 一 8.9%、 税 管 職 員 一3.2%、 政 府 の 代 表 機 関 へ の派 遣 員 一 〇.8%、 そ の他 一
(24)
7.8%の よ う な構 成 で あ った 。
問 題 は 、 これ らの不 正 が 発 覚 して も処 罰 され ない こ とで あ る。 あ る推 定 に よ る と官 僚 の 贈 収 賄 の90%は 何 らの 各 め も受 け ず 放 置 さ れ て い る。2000年 に 登 録 さ れ た 犯 罪250万 件 の 内 、 汚職 事 件 と して 分 類 され た の は5千 件 にす ぎ ない 。 さ らに刑 罰 の 対 象 と な った の は そ の う ち の4分 の1か ら5分 の1で 、 約22件 に1件 にす ぎ な い 。 こ の よ う な現 状 で は 、 不 正 を働 い て も誰 もそ れ
を 隠 そ う とす ら しな い 。 さ らに 、連 邦 保 安 局 の デ ー タ に よれ ば 、 収 賄 事 件 に っ い て は26件 に1件 が 登 録 さ れ るだ け で あ り、 裁 判 に い た るの は さ らに そ
(25)
の2分 の1で あ る。
重 要 な こ と は 、 この よ う な不 正 と腐 敗 が 一 過 性 の 事 件 で は な く、 ロ シ ア の 社 会 に シス テ ム と して 定 着 して い る こ と で あ る。
さ らに 、 こ の よ う な 「ギ ャ ング官 僚 」(S・ ハ ンデ ル マ ン)は 多 くの場 合 、 犯 罪 組 織 と手 を 組 ん で い る こ とが 問 題 の根 を 深 く して い る。 ロシ ア の犯 罪 組 織 で す ら しば しば 自 らの 「ビ ジ ネ ス 」 で 得 た 利 益 の50%を パ ー トナ ー で あ
る職 務 権 限 を持 っ 官 僚 の 買 収 に 当 て て い る。
民 間 企 業 の 経 営 者 は 、 一 方 で 犯 罪 組 織 の 暴 力 に怯 え 、 一 方 で 腐 敗 官 僚 の搾 取 に 耐 え なけ れ ば な らな い。 この よ う な状 況 で は 、 小 企 業 の 健 全 な育 成 と発 展 に は 到 底 お よ ば な い し、 ロ シ ア の技 術 革 新 の 鍵 と な る外 国 資 本 も直 接 投 資
を躊 躇 す るで あ ろ う。
現 在 で も、 契 約 と所 有 権 の保 証 、 自 由 な市 場 経 済 に見 合 った 法 律 、安 全 で 公 正 な労 働 環 境 の 整 備 な どの 多 くの課 題 が残 され た ま ま に な って い る。 また 、
ロシ アにお け る経済体制 移行 によ る社 会的 損傷(小 崎)131
ロ シ ア社 会 の ジ レンマ は 「よ い 犯 罪 」 と 「悪 い犯 罪 」 が 複 雑 に 絡 み 合 って い る こ とで あ る。 多 くの ロ シ ア 人 、 と くに起 業 家 た ち は法 律 を犯 さず に ビジ ネ ス を 行 う こ と は 困 難 で あ る。
お わ り に 一 プー チ ン政 権 の課 題
ロ シ ア は0国 全 体 が 腐 敗 した 官 僚 とマ フ ィア の闇 市 場 に覆 わ れ るか ど うか の瀬 戸 際 にあ る 。
ソ ビエ ト時 代 も 汚職 や 闇 経 済 で 病 ん で い た こ と も事 実 で あ り、 ボ ル ・ヴ ・ ザ コー ネ に代 表 され る犯 罪 組 織 が あ った こ と も現 在 で は よ く知 られ て い る。
しか し、 それ らの犯 罪 は ソ ビエ ト連 邦 と い う一 定 の秩 序 の枠 組 み の 中 に押 さ え込 まれ て い た こ と も事 実 で あ る。 ポ ス ト ・ソ ビェ ト社 会 は 、新 しい秩 序 の 枠 組 を 準 備 す る こ と な しに 、 自由 な市 場 経 済 と い う西 側 の し くみ を 教 科 書 的 に導 入 した 。 そ の結 果 爆 発 的 と も い え る犯 罪 の 増 加 を も た ら した 。 そ して そ の影 響 は ロ シ ア の 国境 を易 々 と越 え て世 界 に広 が った 。 世 界 は よ うや くロ シ ア か ら濫 れ 出す 麻 薬 ・ 武 器 ・ マ ネ ー ・ロ ン ダ リ ン グ② ネ ッ トワ ー クの 危 険 に 警 鐘 を 鳴 ら し始 め た 。
プー チ ン大 統 領 は2000年 の就 任 当 時 、 犯 罪 と汚 職 の 一 掃 を華 々 し く宣 言 した。 しか し現 実 に は、 状 況 は少 しも好転 して い ない。 そ の よ う な事態 を プー チ ン大 統 領 は 抑 圧 的 な方 法 に よ って押 さえ 込 も う と して い る。
そ の 方 法 の ひ と っ が2000年3月 か ら実 施 され た 内 務 省 改 革 で あ る。 多 く の 内 務 省 幹 部 が 配 置 転 換 あ る い は 退 職 を 強 い られ た 。 これ は 、 「犯 罪 者 と 民 警 の癒 着 は 、長 い期 間 にわ た って 配 置 転 換 が 行 わ れ なか った部 署 に 多 い」 と い う経 験 則 か らす る と 当然 の 措 置 で あ ろ う。 例 え ば 、 本 省 の 監 査 を 受 け た モ ス ク ワ総 局 の 局 長 で あ るユ フマ ン将 軍 は 、 調 査 結 果 を検 察 庁 に送 られ る か 、
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も しくは 自身 が依願退 職 をす るか の選択 を迫 られ た。
しか し、 新 内相 の ポ リス ・グ リズ ロ フ は 、 実 業 家 出身 の政 治 家 で 、 法 の執 行 に携 わ った経 験 は な い。 た だ 、大 統 領 と同 じサ ン ク ト ・ペ テ ル ブル グ 出身 で 、 プー チ ンへ の忠 誠 心 は 厚 い と見 られ て い る。 そ の他 の幹 部 の 入れ 替 え も 、 同 様 の大 統 領 へ の忠 誠 心 を基 準 に選 ば れ た との 見 方 が 強 い。
この よ う な状 況 か ら、 キ ー ル 大 学 教 授 の マ ー ク ・ガ レオ ッテ ィの よ う に 、 こ の 内 務 省 改 革 は組 織 犯 罪 や 汚 職 の0掃 を 目的 と した も の で は な く、 内務 省 を は じめ 「政 権 の 中枢 を担 う省 庁 を腹 心 で 固 め て 、 自分 の支 配 下 に 置 き 、批
(27)
判 分 子 や 政 敵 を 攻 撃 す る こ と狙 った も の」 との 見 方 も あ る。
いず れ に して も、2002年 初 頭 の現 在 、 プー チ ン政 権 は 国 民 の 支 持 も 高 く、
議 会 で も与 党 が 多 数 派 を 占め て い る。 経 済 も成 長 軌 道 に乗 りっ つ あ り、 犯 罪 の 一 掃 に取 り組 む 絶 好 の そ して 最 後 の機 会 で あ る。 しか し、 も し、 そ れ が で き な けれ ば 、 ロ シ ア は 強 大 な犯 罪 組 織 と汚 職 まみ れ の 政 府 高 官 とが 結 託 した
「犯 罪 超 大 国」 へ の道 を 進 む こ と に な る。 しか も 、 そ の影 響 は ロ シ ア 国 内 に 留 ま らず 、 全 世 界 へ 波 及 す る の で あ る。
【参 考 文 献 お よ び 注 】
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2001』 新 潮 社
・ コ ッ ツD .M.、 ウ ィ ア 、F.角 田 安 正 訳 『上 か ら の 革 命 』 新 評 論 、2000年
・ ハ ン デ ル マ ンS .、 柴 田 裕 之 訳 『マ フ ィ ア と 官 僚 』 白 水 社 、1996年
・ フ リ ー ド マ ンR .、 中 島 由 華 訳 『 レ ッ ド ・ マ フ ィ ア 』 毎 日 新 聞 社 、2001年
・ 寺 谷 弘 壬 『 ロ シ ア ン ・ マ フ ィ ア 』 文 芸 春 秋
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注
(1)本 稿 は創 価 大学 『外 国語学 科紀 要 』第9号 、1999年 の拙 稿 「ロシ アにお け る経済 体制 以降 に よ る社 会的損 傷 人 命 の損 失」 の続 編 と して執筆 され た。