【研究報告】
本学の 4 年制学士教育課程における助産師基礎教育
-助産学実習の現状と課題-
Education of Midwifery in TOHTO College of Health Sciences -The current status and Issues in a midwifery practicum- 藤田 佳代子 1) 岩﨑 和代 1) 森谷 美智子 2) 稲荷 陽子 3)
Kayoko FUJITA Kazuyo IWASAKI Michiko MORIYA Yoko INARI
1)東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科
2)東京都立荏原看護専門学校非常勤講師
3)西武文理大学看護学部看護学科
要 旨
統合カリキュラムでの H26 年度助産学実習について分娩指標をもとに現状と課題を明らかにした . 学生 9 名全員が 10 例の分娩介助を実施した . 産婦の平均年齢 32.2 ± 5.0 歳,平均分娩週数 39.0 ± 1.1 週で経産婦が 62.2% であった . 出生体 重は平均 3091.2 ± 400.6g,出生後 1 分 Apgar Score 平均 8.4 ± 0.8 点であった . 分娩様式は自然分娩 78.9%,吸引分娩 21.1%,誘発・促進分娩や無痛分娩が 68.9% であった . 母体合併症は 4 割以上,分娩時出血量 500ml 以上の異常出血事例 も 40%を占めた . 分娩経過が早く医療介入の多い事例を受け持つ現状があった . 学びの充実と卒後の技術習得に繋げるた め,教授方法の工夫や医師からの講義等充実を図る必要がある . また,実習期間,実習内容に関する検討,講義と実習に 1 年間のブランクがある現行カリキュラムについての改善は大きな課題である .
キーワード:統合カリキュラム,助産師基礎教育,分娩介助実習,分娩指標
Ⅰ.序文
本学は 4 年制教育課程で 10 名程度を定員とする助産 師課程を設けている.3 期生(H26 年度卒業)までは,
看護三職能の免許を同時に取得するための統合カリキュ ラムの中で助産師教育が実施されている.統合カリキュ ラムとは,従来の看護基礎教育 3 年間にさらに 1 年間 の助産師教育を積み上げるという考え方ではなく,3 年 6か月以上の教育期間で助産師教育と看護師教育を統合 して行うものである
1).多くの助産師養成校が 1 年間で 行ってきた教育を看護三職能のすべてを4 年間で教育す るためカリキュラムは過密である.
助産師教育並びに保健師教育における基礎教育は H23 年度のカリキュラム改正に伴い,修業年限が「6 か 月以上」から「1 年以上」に延長された.このため,実 質的には統合カリキュラムによる教育課程は将来的にな くす方向にある.しかし,現在我が国の助産師教育は,
本学のような 4 年制教育課程が最も多くを占めているの
が現状である.
助産師教育課程は,4 年制教育課程の他,専門職大 学院,大学院,大学専攻科,専門学校等,多様である.
助産師に求められる責務は,産科医師と協働し,自立・
自律して正常分娩を担うことが出来る実践能力,高齢化 や合併症増加等に伴うハイリスク妊娠・分娩への対応能 力,妊婦や家族の出産に対するニーズの多様化に応える 柔軟性など非常に大きくなっている.その社会的要請に こたえるべく,助産師教育に関する検討では質の保障に 向けた議論が盛んである.
また,H22 年に行われた厚生労働省第 6 回看護教育 の内容と方法に関する検討会の助産師教育ワーキンググ ループの報告では「助産師教育は,看護者としての基本 的な能力を教育した後に位置づけられる.」としている
2). しかし,本学では助産学の講義全般は 3 年前期に看護 の教育と並行して行われている.さらに,本学のように 4 年制教育課程で助産師を養成する場合,看護師免許 を持たないまま助産学実習に入ることとなる.過密なカ リキュラムにより限られた時間の中で行う助産学実習は,
保健師助産師看護師学校養成所指定規則による 10 例
程度の分娩介助数を達成するということに重点を置かざ
るを得ない.学生の分娩介助場面では,母子の生命を 守るための医療安全の確保と高度な助産診断能力や専 門技術が求められており,助産学実習において困難かつ 重要な課題のひとつである.
本学は平成 27 年度で助産師課程 4 期生の卒業を迎 える.本研究では先に述べた助産師教育の背景の中で 行われている本学の助産学実習(9 単位)について,分 娩指標を基にその現状と課題を明らかにすることを目的 とした.
Ⅱ.実習および指導体制
助産学実習は年間約 300 件から 2700 件の分娩件数 がある 3 か所の病院を確保し 2 か所以上の施設をロー テーションしながら 9 週間で分娩介助実習を行った.実 習は原則として日中の時間とした.
Ⅲ.方法
1.調査期間および方法
4 年次 9 名の学生が H26 年 8 月から 10 月まで 9 週 間にわたる助産学実習において経験した分娩介助事例を 対象とした.情報は学生が提出した分娩報告を用いた.
調査内容は分娩施設,産婦の年齢,初・経産別,分 娩週数,妊産婦合併症の有無,非妊時 BMI,分娩様式,
分娩所要時間,誘発・促進分娩状況,無痛分娩の有無,
急遂分娩の適応理由,会陰切開・裂傷の程度,児の出 生時体重,Apgar Score( 以下AP)1 分後・5 分後,分 娩時出血量,児娩出から胎盤娩出までの時間,受け持 ち開始から児娩出までの時間である.分析は各調査項 目の記述統計を算出した.連続変数は平均値を算出し,
一元配置分散分析にて実習施設間での差を検定し比較 した.統計学的有意水準は 5%未満とした.
2.分娩取り扱い対象の選定基準
分娩介助対象となる受け持ちの選定については,全 国助産師教育協議会(以下,全助協)が示す指針案に 基づき,本校では原則として以下の基準に従った.
・ 妊娠期間は原則として正期産(妊娠 37 週 0 日から 妊娠 41 週 6 日まで)
・分娩様式は経腟分娩,単胎分娩,頭位分娩
・受け持ち開始時期は分娩第 1 期
・ 受け持ち対象から除外する事例として,血液を介す る感染症に罹患している事例,
・ 合併症や分娩経過中に異常が予測される事例,学生 が分娩介助するのが不適当と思われる社会的条件 を有する事例
3.実習内容
助産学実習における分娩介助実習では,分娩開始か ら分娩終了後 2 時間までの産婦ケアおよび分娩介助を 1 人の学生が指導者(教員,指導助産師)の指導のもと 実習する.実習中の分娩介助数については,保健師助 産師看護師学校養成所指定規則により「助産師又は医 師の監督の下,学生 1 人につき10 例程度行わせる」と いう前提による.急遂分娩への移行があった場合,帝 王切開は分娩介助数に含まないが,吸引分娩,鉗子分 娩は分娩介助数に含む.
4.実習受け持ち事例への同意手続き
受け持ち産婦の同意手続きは,受け持ち選定基準に 合った産婦に病棟管理者,指導助産師または教員が実 習受け持ち承諾に関して文書を用い口頭で説明し,署 名をいただき同意を得た.
5.本研究の倫理的配慮
本研究は本学の倫理審査委員会にて承認を得て実施 した(承認番号 H2616).調査対象となった産婦の個人 情報,分娩介助をした学生,実習施設が特定されるこ とや不利益を生じないよう,データはローデータ入力後 に個人情報との連結を不可能にした.また,文章表現 上で個人や施設が特定されないよう注意した.学生の記 録物から得たデータの使用については,学生に利用目的 を説明し口頭による承諾を得,成績評価終了後にデータ を受けとった.実習施設に対しては,研究目的,匿名性 の厳守について文書にて説明し署名をいただき同意を得 た.
IV. 結果
3 期生 9 名が助産師課程の学生として助産学実習を
経験した.総数 90 件の分娩介助を経験し,全ての学
生が 10 例の分娩介助を終えたのは 8 週間と 2 日であっ
た.受け持ち時点ですべての対象に受け持ち同意書を
得た.
研 究 報 告 表 1.母体年齢・母体合併症・初経産の別の状況-施設別
体 併
の
その他 年
分
1.受け持ち産婦の特性
産婦の年齢は平均 32.2 ± 5.0 歳(最小 21 歳,最大 44 歳),年齢階級別では「30 から 34 歳」が 41.1% と最 も多く,次いで「35 から 39 歳」が 24.4%,「25 から 29 歳」が 21.1%,「40 歳以上」が 7.8%,「20 から 24 歳」
が 5.6% であった.初経産の別では,初産婦 37.8%,1 経産婦 45.6%,2 経産婦 11.1%,3 経産婦 5.6% であった.
母体合併症については,合併症なしが 55.6%で最も多く,
次いで妊娠貧血が 37.8%,妊娠高血圧症候群が 2.2%,
その他の合併症が 4.4% であった.非妊時 BMI は,平 均 21.0 ± 3.1(最小 14.4,最大 30.9)であった.
2.学生が介助した分娩の状況
平均分娩週数は 39.0 ±1.1 週(最小 36 週,最大 41 週)であった.分娩様式は自然分娩が 78.9%,吸引分 娩が 21.1% であった.急遂分娩適応理由は,胎児心拍 異常 57.9%,無痛分娩での分娩第 2 期短縮目的 26.3%,
母体異常 5.3%,適応理由不明が 10.5% であった.
分娩所要時間については,平均 490.0 ± 351.9分(最小
表 2.分娩様式・急遂分娩・分娩促進・会陰切開の状況-施設別
76 分,最大 2350 分)であった.事例を受け持った時 点から児娩出に至るまでの受け持ち時間については,平 均 355.7± 343.5 分 (最小 28 分,最大 2040 分)であった.
児娩出から胎盤娩出までの時間は,平均 6.8 ± 4.2 分(最 小 1.0 分,最大 30.0 分)であった.
出生児の出生体重は,平均 3091.2 ± 400.6g(最小 2032.0g,最大 4585.0g)であった.出生後 1 分の AP は平均 8.4 ± 0.8 点(最小 4 点,最大 9 点),出生後 5 分のAP は平均 9.2±0.5 点 (最小 8 点,最大 10 点)であっ た.90 件のうち1件は AP4 点のため分娩直後より蘇生 処置が行われたが,その後経過良好であった.
分娩時の出血量をみると,平均 528.0 ± 315.2g(最小
75.0 g,最大 2046.0g)であった.分娩時出血の正常
範囲内とされる 500ml 以下の割合は 60.0%,500ml 以
上の異常出血(弛緩出血含む)の割合は 40.0% であっ
た.会陰切開・会陰裂傷については,会陰切開なしが
15.6%,会陰切開ありが 38.9%,会陰裂傷 1 度 15.6%,
会陰裂傷 2 度 22.2%,会陰切開と裂傷 7.8% であった.
陣痛促進や無痛分娩については,自然分娩が 31.1%,
促進分娩 23.3%,誘発分娩 20.0 %,無痛分娩 25.6 % であった.
表 3.母の年齢・分娩週数・分娩所要時間の施設間比較
SD
SD
SD
SD
3.施設別分娩状況
産婦の年齢,分娩週数,非妊時 BMI,分娩様式,
児の出生時体重,AP1 分後・5 分後には施設間での有 意差は見られなかった.分娩所要時間,分娩時出血量,
受け持ちから児娩出までの時間,児娩出から胎盤娩出 までの時間は,F 検定の結果,実習施設間で有意差が 見られた.
表 4.児出生体重・AP・受け持ちから胎児娩出までの時間の施設間比較
SD
SD
SD
SD
ns ns ns
V.考察
1.学生が介助した産婦の特徴
介助した産婦の年齢は平均 32.2 ± 5.0 歳(最小 21 歳,最大 44 歳),年齢階級別では「30 から 34 歳」が 41.1% と最も多かったが,次いで「35 から 39 歳」が 24.4% で「40 歳以上」の 7.8% と合わせると高齢出産の 占める割合は 32.2%であった.また,妊娠貧血を含む 母体合併症は 4 割以上を占めた.この傾向は,我が国 の出産年齢の上昇,ハイリスク分娩の増加と同様であり,
また,3つの施設間の有意差も見られず,助産学実習で 受け持った対象は一般的な産婦であったと言える.しか し,高齢出産や母体合併症は分娩におけるハイリスク因 子であり,異常への移行予見性や,移行時の早急な対 応が求められる可能性が高い.「正常分娩(ローリスク 分娩)を指導者の下で 10 件介助できる」という実習目 標を達成することは,これらのハイリスク因子のある産婦の 分娩介助をしていくことが前提になっているとも言える.
初経産の別では,初産婦 37.8%,1 経産婦 45.6%,2 経産婦 11.1%,3 経産婦 5.6% であり,経産婦が 62.3%
であった.特に 66 件の分娩介助をした施設では経産婦 は 71.2% であった.
また,陣痛誘発,陣痛促進,無痛分娩等が全体で 68.9% であり,同施設だけをみると 74.2% であった.本 学の助産学実習は日中のみの実習であるため,受け持ち 選定する際出来るだけ実習時間内に分娩に至ると予測さ れる事例を選択することとなる.その結果として経産婦,
誘発・促進分娩等が多くなっていると考えられる.本校 の実習カリキュラム編成から,9 週間という期間で 10 例 の分娩介助数を目標にしていること,また,実習施設に よる分娩件数の違いにより,例えば 1 週間に 1 例程度 とコンスタントに分娩介助が出来ることは不可能であり,
急速に分娩進行する事例を受け持たざるをえない現状 がある.受け持ってから児娩出にいたるまでの所要時間 が短く,学生は短時間のうちにその産婦の状態を把握し,
助産診断を立て,早い経過の中での変化をとらえて助産 ケアを実施し安全に分娩介助することが要求される.こ れは非常に難易度が高く,大変な緊張の中で多くの知 識と技術と対応力を必要とする.実習期間と実習環境,
目標とする分娩介助数から,本学の助産学実習の分娩 介助対象が特徴づけられているとも言える.
2.施設間の比較
分娩所要時間,受け持ちから児娩出までの時間,児
研 究 報 告
娩出から胎盤娩出までの時間,そして分娩時出血量は,
施設間に有意差がみられた.90 件中 66 件の分娩介助 が出来た施設では,分娩所要時間,受け持ちから児娩 出までの時間,児娩出から胎盤娩出までの時間の 3 項 目すべてが最も短かった.この施設では,促進・誘発分 娩が 40.8%,無痛分娩が 33.3% に至る.また,71.2%
は経産婦であった.分娩時出血量が有意に多い理由と して,誘発,促進,無痛分娩が多く,分娩経過が早い ことがその主因と考える.分娩の集約化が進む産科医 療の中で,それぞれの病院では地域の多くの分娩を安 全に,そして様々な妊婦や家族のニードに対応しながら 機能し,さらに助産学実習を受け入れている.それぞれ の実習施設の特徴をふまえ,施設間調整,学生のロー テーションの方法等を検討していく必要がある.
3.教育内容の検討
1)分娩介助に伴う看護・助産技術
助産師は正常な経過の分娩介助を自律して行うこと が要求される.分娩介助実習では,正常に経過する産 婦の分娩介助においても,導尿,内診,そして一連の 分娩介助技術と,その技術が未熟であれば多くの負担 を直接的に産婦にかける可能性のある技術が大変多い.
また,内診などの技術では,指導助産師や教員が見本 を示すことの出来ない技術であり,実習での経験で感覚 的に学習せざるを得ないものもある.さらに,3 年次の 母性看護学実習では,昨今の分娩事情から,たとえ助 産専攻課程の学生であっても分娩見学ができていない 学生が存在する.4 年制助産師教育課程においてこれ らの教育背景を持ち,看護師免許を持たないままでの 分娩介助実習は,学生にとって難易度が高く,指導助 産師,指導教員から臨床の場で多くの細やかな指導が 必要である.
分娩介助技術の習得について,堀内らは「分娩介助 技術は 10 例目でも達成は困難である」
3)と報告しており,
佐藤らは「技術の習得には繰り返しの積み重ねが重要で ある」
4)と述べ,分娩介助実習項目の習得には量的経験 が必要である.基礎教育の中の 10 例の経験での達成 度には限界があるが,本学の学生の技術的レディネスを 踏まえ安全に十分配慮しながら可能な限り10 例を目指 し,量的経験を丁寧に積み重ねることは,卒後の助産 実践能力習得につなげるためにも意義あることと考える.
また,今回の調査でハイリスク因子のある産婦を対象 とし,分娩進行の経過が早い産婦の分娩介助を多く実 習していること,受け持ち選定時に分娩進行中の更なる
合併症や異常が予測される事例を除外しても急遂分娩 への移行や分娩時出血多量等,その経過が正常を逸脱 する事例は多い現状であった.大滝らは,助産学実習 における助産実践能力の習得に関する研究の中で, 「刻々 と変化する産婦や胎児を前に,「予測」や「援助」を限 られた時間の中で変化する対象に合わせて実施すること は経験の少ない学生にとって習得が困難であることが推 測される. (中略)習得が早いといえる「判断」力が基礎 となり,「予測」と「援助」項目の習得につながること考 えられ,基礎教育での「判断」力習得への教育の必要 性が示唆された」
5)と述べている.正常分娩に関する多く の講義,演習を基盤とし,正常逸脱の判断,異常への 知識やケアに関する学習を充実させること,さらにシミュ レーション教育等「予測」や「援助」に繋がるための教 授方法を検討していく必要がある.
2)分娩への医療の介入
陣痛誘発,促進等のない自然経過の分娩は 3 割にと どまり,医療介入を必要とした分娩が多くを占めていた.
吸引分娩が 21.1%,500ml 以上の異常出血(弛緩出血 含む)の割合は 40.0% あった.
ある施設では学生が介助した分娩のうち 33.3% が無 痛分娩であり,昨今の産科医療の中で徐々に多くなって いる分娩形態のひとつである.その進行の特徴は,自 然分娩や誘発・促進分娩とは異なる経過をたどることが 少なくない.更に,吸引分娩等さらなる医療処置が必要 になる場合も多く,本調査でも吸引分娩の適応理由とし て,無痛分娩による分娩第 2 期短縮目的が 26.3% であっ た.
今後産婦や家族の分娩に対するニードの多様化の中 で,無痛分娩に対するニードはますます高まっていくこと が予測される.現在無痛分娩に対応する施設はまだ一 部であり,助産学実習の中で無痛分娩の介助が出来る ことはこれからの産科医療を担う学生にとって有意義な 経験になる.より安全に学びの多い実習にしていくため,
多くの医療処置が必要な無痛分娩についての事前学習 の充実は必須である.
その一方で,自然な経過の分娩の介助が全体で 31.1%であり,正常な経過の分娩介助を自律して行うこ とが要求される助産師の教育として危惧すべき状況であ ることを再認識した結果であった.助産師教育のコア内 容におけるミニマム・リクワイアメンツとして「自然な経腟 分娩介助には,産婦自身の産む力を引き出すことが必要 である」
6)とあり,リラックス法,疲労を最小限にする援助,
さらに産婦自身の身体機能が実感でき娩出力を発揮で
きるよう継続的支援を行うことが必要とされる.自然な 分娩現象は昼夜を問わず,日中だけの実習時間では介 助出来る機会は限られている.夜間帯にも助産学実習 をしている教育機関では,全体の分娩介助数の 45% が 17 時以降翌朝 9 時までの時間帯であった報告
7)もある.
夜間実習を実現するには実習受け入れ施設,指導者の 存在など多くの課題があるが,自然な経過の分娩介助 数を増加させるためにはその必要性が示唆される.
4.助産師としてのアイデンティティの形成
限られた期間の中で分娩介助数 10 例を達成していく ためには,助産学実習に対する覚悟,実習期間内の体 調管理,精神的コントロールが欠かせない.実習中に教 員がそれらに配慮することはもちろんのこと,助産学の 学内教育の内容として,知識,技術の充実とともにこれ らの心理的レディネスを助産専攻決定の時点から育成し ていくことは,実習課題達成のために欠かせないものと 考える.
また,助産師に求められる実践能力において専門的 自律能力が明確化されたことを踏まえ,卒業時到達目標 と達成度には「助産師としてのアイデンティティの形成」
があげられ,到達度はレベルⅠ(少しの助言で自立して 実施できる)である
8).
学生は分娩介助実習において,技術の獲得だけでな く学内では得られない様々な経験を重ねる.その一つ が,受け持った産婦との関わりである.牛之濱によれば,
『分娩介助の対象者として同意を得た産婦は「学生の勉 強のためなら」と善意から同意した者が多い一方「実習 施設だから仕方なく」同意したものもある.また,受け 持ち中には漠然とした不安を持っていた. (中略)しかし,
学生の実習態度や分娩後の評価では 97%が良かったと 答え,学生の誠実な態度でそばに寄り添い懸命にケアを 行う態度が高く評価され,最後には立派な助産師になっ てほしいといった「学生へのエール」となっていった』と 報告している
9).本学の助産学実習においても,分娩後 に産婦と行う分娩想起の場面では,産婦から「そばにい てくれてとても励まされた」「陣痛で一番つらかった時に 一緒に呼吸法をしたり声をかけてくれて心強かった」な どの言葉を多く聞くことが出来た.分娩介助者として助 産の対象から直接これらの言葉を聞けることは,学習の 強い動機付けとなり助産師としてのアイデンティティ形成 の一助となる.産婦が学生による分娩介助に同意して出 産に満足するためには,母子の安全確保を最優先するこ と,さらに指導助産師や教員と産婦との関わり,信頼関
係の構築が重要であり,それが学生の学びに深く関与す ることを改めて確認した.
もう一つの大切な経験は,臨床助産師から指導を受 けることである.介助し始めの頃,しっかり手を添えて 介助技術の指導を受けることから,10 例近くなると安全 に十分配慮しすぐ対応できるよう準備しながらも,でき るだけ見守りとし,学生の判断力と手技の上達や達成感 を高められるようにして学生の隣に寄り添う.分娩介助 終了後には,分娩介助到達度評価表に添って毎回丁寧 に時間をかけ振り返りをする.これらの場面で学生は単 に技術の習得にとどまらず,臨床助産師としての熱意や 助産に対する強い思いを感じ,助産師の役割や要求され る人間性を意識化する.自己の助産師像をイメージし,
助産師としてのアイデンティティを育成していく上で大変 重要な場面となる.このような学習環境を今後も保ち,
さらに充実,発展させていくために,実習施設と大学の 信頼関係をより高め継続していくことが必要である.
5.実習期間と実習内容について
1)実習期間
保健師助産師看護師法において,「分娩取扱いの実習 については,分娩の自然な経過を理解するため,助産師 または医師の監督の下に,学生 1 人につき正常産を 10 回程度取り扱うことを目安とする」と規定されている.助 産師教育機関が増加している一方で分娩施設の集約化 や少産化の影響により,多くの助産師教育機関でこの 規定の遵守は大きな課題である.実習期間と分娩介助 数に関する全助教の調査によると,75 大学中で実習日 数が 30 日から 60 日未満は 71.9%,この間の分娩介助 数 8 件以上が 75 校中 10 校(13.3%)
10)という現状だが,
本調査における助産学実習では,9 週間の実習期間(実 習日数 43 日)で全員が 10 例の分娩介助をすることが出 来ている.しかし,本実習で 9 名全員が 10 例の分娩介 助を終えたのは 8 週間と 2 日目であった.分娩介助数は 実習期間と学生数に影響される.本学の助産学実習は 前期に位置し,実習直後から後期講義があり実習を延 長することは不可能である.定員である 10 名がそれぞ れ 10 例の分娩介助数を達成する実習時間としては非常 に厳しい現状であることも事実である.実習施設の開拓,
実習時間(夜間実習)の検討は今後の課題である.
2)実習内容について
本学では実習期間の制約から分娩介助実習に重点を
おいた内容としているが,助産師基礎教育としてはそれ
だけでなく「妊娠・分娩・産褥期を継続的に受け持ち学
研 究 報 告
習する継続実習」がある.この実習は周産期を線でつな
ぐ重要な学習のひとつに位置づけられるが,講義時間 や実習期間の制約などから 2 割以上の大学では実施さ れていず,看護系大学における周産期実習の不十分さが 指摘されており
11),本学でも実施することができていな い.妊娠期・産褥期の学習は,1 人の女性の周産期に 継続的に関わり,信頼関係を築きながら心身のダイナミッ クな変化を理解しつつ,技術,態度を成長させていく上 で意義深い.これらの学習課題を現在の 9 週間の実習 にどのように盛り込んでいくか,これも大きな課題である.
6.助産学のカリキュラム編成について
本学のカリキュラム編成では,3 年次前期の助産学の 講義を看護の講義と並行しながら半期で終え,その 1 年後,4 年次前期 7 月の看護統合実習に引き続き,すぐ 助産学実習 9 週間が始まる.助産学実習への準備期間 は皆無に等しい.分娩介助実習が始まるまでに何らかの 事前学習の確保をすること,さらに,講義−演習−実習 というスムーズな学習の流れを確保していくことは,母子 および学生の安全と実習での学びの充実のため大変大き な課題であると考える.
VI.結語
分娩介助実習では時間や状況の制約から,受け持ち 対象として経産婦,誘発・促進分娩,無痛分娩が多く,
自然に経過する分娩の経験は 3 割程度にとどまり,分 娩経過の早い事例を受け持たざるをえない現状であっ た.分娩介助実習だけでは技術の習得に限界はあるが,
実習中の学びの充実と卒後のさらなる技術習得に繋げら れるよう,正常,正常逸脱の判断,異常に関するシミュレー ション教育等の教授方法の工夫,また,医師からの講 義等を検討し充実を図る必要がある.
また,自然に経過する分娩介助数を増やすためには,
夜間実習等の検討が示唆された.
9 週間の助産学実習中,学生は心身の自己管理・コン トロールが欠かせず,助産専攻決定の時点から心理的 レディネスを育成していくことが必要である.分娩介助 実習での産婦との関わりや臨床助産師からの分娩介助 の指導は,助産師としてのアイデンティティを育成する重 要な場面となっている.学生が心身とも安定して実習で きること,また,母子と学生の安全のために,教員は産 婦や指導助産師,実習施設との信頼関係構築が必要で ある.
H26 年度の助産学実習で 9 名全員が 10 例の分娩介 助を終えたのは 8 週間と 2 日目であった.今後,定員 10 名が 10 例の分娩介助数を達成するためには,実習 施設の開拓,実習時間等の検討が示唆された.また,
助産師基礎教育としての継続事例のための実習時間の 確保は行えておらず,実習期間とともに実習内容の検討 が課題である.さらに,カリキュラム構成上,助産学講 義と実習に 1 年間のブランクがあり,スムーズな学習が できるためのカリキュラム改善は大きな課題である.
謝辞
本研究を遂行するにあたり,助産学実習にご理解,
ご協力いただきました産婦の皆様,実習施設院長およ び臨床指導者の皆様に感謝申しあげます.
文献
1) 日本看護協会監修:助産師の教育.助産師業務要覧 新版.東京;日本看護協会出版会;2006
2) 助 産 師 教 育 ワ ー キ ン グ・ グ ル ー プ 報 告 http://
www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000teyj.
html.2015.10.24
3) 堀内寛子,服部律子,谷口通英:本学学生の分娩介助 技術習得のプロセスとそれに応じた臨床指導のありよ う.岐阜県立看護大学紀要.7(2):9-17,2007 4) 佐藤喜根子,佐藤祥子,佐藤理恵:助産学生の卒業時
の学習到達度調査−学生と臨床助産師の評価−.東北 大学医短部紀要.12(1):11-20,2003
5) 大滝千文,遠藤俊子,竹明美,小林康江,斎藤益子ら:
助産学実習における助産実践能力の習得に関する研 究.母性衛生.53(2):337-348,2012
6) 厚 生 労 働 省 第 6 回 看 護 教 育 の た め の 内 容 と 方 法 に 関 す る 検 討 会 議 http://www.mhlw.go.jp/stf/
shingi/2r9852000000teyj.html.2015.10.24
7) 牛之濱久代,中島通子,大平肇子,日比千恵,石川康 代:学生の分娩介助の同意にかかわる現状と産婦の想 い.母性衛生.55(1):190-197,2014
8) 岩﨑和代,松永佳子,中北充子,藤本薫,深澤洋子他:
本学における助産師教育の現状と課題− 4 年制大学移 行後,2 年間の周産期実習の現状から.東邦大学医学 部看護学科紀要.21:34-43,2007
9) 福井トシ子編:助産師業務便覧 基礎編.東京:日本 看護協会出版会;260-269,2014
10) 看護学教育の在り方に関する検討会:看護実践能力育 成の充実に向けた大学卒業時の到達目標−助産師教育 について−.看護学教育の在り方に関する検討会報告 資料,2004
11) 江幡芳枝,黒田緑,小田切房子:大学・短期大学・専 門学校における助産師教育の実態と分娩介助・継続事 例実習指針.助産雑誌.61(3):226-232,2007
受理日:2016 年 1 月 5 日