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麻薬特例法における不法収益の没収 ・追徴

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(1)

麻薬特例法における不法収益の没収 ・追徴

白 木

‑ はじめに

麻薬特例法 ( 「 国際的な協力の下に規制薬物に係 る不正行為を助長す る行為 等の防止を図 るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関す る法律 」) が 施行 されて 3 年余 りが経過 した。同法は薬物犯罪対策 として従来存在 しなか っ

た多 くの新 しい手法を導入 しているが,没収 ・追徴の強化拡大 もその一つであ る1 ) 。

薬物犯罪対策 としては,薬物それ自体の規制 ・剥奪 もさることなが ら,その 収益の剥奪 も重要 となる。薬物犯罪か ら生 じる多大な収益は,単に犯行の誘因 となるだけでな く,その一部が次の犯行の資金 として再投資されてゆ くという 実態があるか らである。そこで収益を剥奪 して経済的 ・資金的側面か ら対処す

ることが抑止策 として効果的となるが,既存の薬物四法 ( あへん法,覚せい剤 取締法,大麻取締法,麻薬及び向精神薬取締法)には,それぞれ定める規制薬 物の譲渡等の犯罪行為が行われた場合 に,規制薬物 自体の没収規定 はあ って も,その収益の没収 ・追徴については特段の規定 はな く,収益剥奪 としては刑

1 )麻薬特例法 の詳細 な解説 と して,古 田佑紀他 「 『国際的な協力の下 に規制薬物 に係 る不正行為を助長す る行為等 の防止を図 るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例 等 に関す る法律』及 び 『 麻薬及 び向精神薬取締法等の一部 を改正す る法律』の解説 ( ‑) 〜( 五 ) 」法曹時報44 巻 7 号 15 頁以下,44 巻 8 号45 頁以下,44 巻 9 号39 頁以下, 44

10 号27 貢以下,44 巻 11 号 105 頁以下 ( 1992) ,古 田佑紀他編 『 大 コ ンメ ンター ル Ⅰ薬物五法 〔 麻薬及 び向精神薬取締法 ・麻薬等特例法〕 』 ( 青林書 院,1994)等 がある。

〔 1 8 3 〕

(2)

1 8 4 46 2 ・3号

法総則規定 による没収 ・追徴 ( 刑法1 9 条,1 9 条の 2 )のみが可能であ った。 し か し刑法総 則規定 による没収 ・追徴 は,裁量的で あ るうえ, 「 物」を対象 とす るため,その収益が有体物 ( 金銭等)でなければ,没収 もその換刑処分 と して の追徴 も行えず, また,収益が別 の形 に転換 した場合等 について も,対価物件 ( 刑法19 条 1 項 4 号) に当る場合 を除 き,没収 ・追徴がで きない等,収益剥奪 方法 と して は不十分 で あ った

2) 。

なお, このよ うに,没収 は対象 が有体物で ある場合 にのみ可能であ り, また追徴 は没収の換刑処分 と して,本来的には没 収可能 であ った3 )ものが何 らかの事情 ( 例 えば費消) によ り後発 的 に没収不 可能 にな った場合 にのみ可能であるとい うことは,一般規定 た る刑法総則の没 収 ・追徴 に限 らず,特別法上 の没収 ・追徴 に関 して も同様であ った

4) 0

そ こで麻薬特例法 は , 「 薬物犯罪 によ る不法収益等 を剥奪す ることによ り, 規制薬物 に係 る不正行為が行われ る主要 な要因を除去す る」 ことを主眼の一つ として ( 1 条) ,薬物 四法 にお ける規制薬物 の輸 出入,譲受,譲渡,所持等 々 の犯罪を 「 薬物犯罪」 と し (2 条 2 項),薬物犯罪 の犯罪行為 によ り得 た財産

もしくは当該犯罪行為の報酬 と して得 た財産等 を「 不法収益」とし (2 条 3 項), さ らに,不法収益 の保有 または処分 に基づ き得 た財産 を 「 不法収益 に由来す る 財産」 と して (2条 4 項) , これ ら不法収益,不法収益 に由来す る財産等 につ

き必要的 ・裁量的な没収 ・追徴を定めている ( 1 4 条, 1 7 条) 。 またその際には, 没収が後発的不能 とな った場合 だけでな く,可能であ るが 「 相 当でない」場合

に も,追徴 を行 うことを認 めてい る ( 1 4 条, 1 7 条) 。 このよ うに して麻薬特例 法 は,有体物 に限 らない 「 収益 」 「 財産」を広 く対象 とす るとともに,没収か 2 )古田他 ・前掲注 1) 「 解説 ( ‑ ) 」7 5 頁以下,古田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻

薬特例法 〕 」5 5 頁参照。

3 )なお,本来的没収可能であるためには,有体物であることのほか,さらに,例えば

「 犯人以外の者に属 しない」( 刑法 19 条 2 項本文)等,各競走の定める所有関係の 要件も満たす必要がある。

4 )ただし,刑法および特別刑法上の各種の収賄罪における賄賂の必要的没収 ・追敬 ( 刺

法 197 条の 5 ,土地改良法 140 条 4 項,都市計画法 89 条 4 項等)は,没収対象 とな

る 「 賄賂」がそもそも概念上有体物に限らない一切の利益とされているため,対象

が非有体物で本来的没収不可能の場合にもなお追徴が認められることになる特殊な

場合である。

(3)

麻薬特例法 にお け る不 法収益 の没収 ・追徴 185 ら追徴への裁量的切替を認めいずれか容易な方法を選択で きるとい う没収 ・追 徴制度を規定 して,薬物犯罪のさまざまな場面 において生 じる収益の剥奪の徹 底を図 っているのである。

このよ うな麻薬特例法による不法収益等の没収 ・追徴につ き,まだ下級審の ものにとどまるが,すでにい くつかの判例が出されている。いずれ も,薬物事 犯 として最 も典型的な覚醒剤の有償譲渡の事案である。麻薬特例法によれば, 覚醒剤譲渡罪 ( 覚せい剤取締法 41 条の 2 )は 「 薬物犯罪」であ り ( 麻薬特例法 2 条 2項 5号) ,その得 た譲渡代金 は ( 現金であれ 口座‑の振込送金 による預 金債権であれ)「 薬物犯罪の犯罪行為 により得 た財産」 と して 「 不法収益」で あ り ( 同 3 項), この不法収益 は必要的没収 ・追徴の対象 となる ( 同 1 4 条 1 項, 1 7 条 1項)はずである

だが,それ らの判例を見 ると, このよ うな解釈を とら ない もの もある。覚醒剤有償譲渡の事案 において,第一審が覚醒剤譲渡罪の成 立を認めなが らもその譲渡代金の没収 ・追徴 については消極的に解 したのに対 し,控訴審が積極的に解す るとい うものが多 く見 られ るのである。麻薬特例法 の限界的場合で はな く,む しろその典型的場合 について,解釈の不統一を生 じ ているといえ る

そ こで以下では,そ うした判例を素材 としっっ,麻薬特例法の不法収益の没 収 ・追徴の意義 について,若干の考察を行 うことにす る5 )0

二 不法収益 と利得性

1 麻薬特例法の不法収益の必要的没収 ・追徴 については,まずその 「 不法収 益」の意味が問題 となる。法が 「 不法収益」 とす る 「 薬物犯罪の犯罪行為 に よ り得 た財産」 とは,薬物の有償譲渡の場合,対価たる代金の全体,いわば

5 )すでに判例を紹介検討 しているもの として,中井憲治 「 麻薬特例法 による必要的没 収 ・追徴の対象である 『 不法収益』の意義 ( 上)

(下)」研修

5 4 4 号 1 3 貢以下 ,5 4 5 号 1 3 貢以下 ( 1 9 9 3 ) ,芝原邦爾 「マネーロンダ リングの処罰 と不法収益の没収 ・追徴

法学教室

1 7 1 号 9 2 貢以下 ( 1 9 9 4 ) があ る。

l

(4)

186 商 学 討 究 第 46 巻 第 2 ・3号

収入 それ 自体を指すのか,それ とも,そ こか ら仕入原価を控除 して残 る利得 部分,いわば差益 ない し純益 のみを指すのか, とい う問題であ る。

この問題が争 われた場合 として,東京高裁平成 5 年 5 月 26日判決 ( 判例 タ イムズ 840 号 242 貢)が あ る

覚醒剤約 3 グラムを代金 4 万 5 千 円で譲渡 し た事案 であ る。 原判決 ( 前橋地裁平成 4 年 1 2 月 28 日判決。 公刊物未登載) は, 被告人 に覚醒剤譲渡罪 ( 覚せ い剤取締法 41 条 の 2 第 1 項)の成立 を認 めたが, 譲渡代金 4 万 5 千 円 ( すで に費消) につ いて は,大略,「 麻薬特例法で必要 的没収 ・追徴の対象 とな る 『 薬物犯罪 の犯罪行為 によ り得た財産』 とは,営 利 目的を有す る譲渡行為 によって得 た対価 と しての金品をいい,また 『 薬物 犯罪の犯罪行為の報酬 として得 た財産』 とは,犯罪行為の対価報酬 として取 得 した金 品であ って犯罪行為 に必要 な実費等 を除 く利得性 のあ る ものを指 す」 と した うえで,営利 目的のない本件で は犯罪行為の覇滑Ht して得 た財産 か どうかが問題 とな るが利得性が明 らかでないため これに当 らない として, 必要的追徴を否定 した (さ らに, このよ うに犯罪行為 によ って得 た財産 に も 犯罪行為の報酬 と して得 た財産 に も当 らない本件譲渡代金 は,刑法総則 の没 収規定 にい う取得物件 ・報酬物件 に も当 らず,刑法 19 条 の 2 による裁量的追 徴 も許 されない と している)。

検察官が控訴 し,東京高裁 は これを容れて,「 麻薬特例法 2 条 2 項 5 号 は, 覚せい剤取締法 41 条の 2 の各罪を営利 目的の有無を問わずすべて薬物犯罪 と

し, また,麻薬特例法 2 条 3 項 は,右薬物犯罪の犯罪行為 によ り得 た財産を

不法収益 とす る旨規定 していてそ こには何 らの除外 もない こと, これ らの規

定及 び薬物犯罪 による不法収益等をは く奪す ることによ り薬物事犯 の主要 な

原因を除去す るとい う同法の趣 旨, 目的などにかんがみ ると,本件 のよ うな

覚せ い剤譲渡事犯 につ いては,営利 目的や利得性の有無を問わず,譲渡覚せ

い剤の対価 と して受領 した譲渡代金 は,すべて薬物犯罪 の犯罪行為 によ り得

た財産 とな り, したが って,同法 にい う不法収益 とな るもの と解す るのが相

当である」 とし,原判決を破棄 して 4 万 5 千 円につ き必要的追徴を認 めてい

る。

(5)

麻薬特例法 におけ る不法収益 の没収 ・追徴 187 同様 に利得性が問題 となった場合 として,福岡高裁平成 5 年 1 0 月 27 日判決 ( 公刊物未登載)がある。密売元か ら代金 1 万円で購入 した覚醒剤約 0 . 3 グ ラムを,同額の代金 1 万円で他 に譲渡 した事案である。原判決 ( 大分地裁 日 田支部平成 5 年 5 月 1 2 日判決。公刊物未登載)は,覚醒剤譲渡罪の成立を認 めなが ら,代金 1万 円の没収 ・追徴を しなか った ( 理 由は特に示 されていな い)

しか し福岡高裁 は右東京高裁判決 とはぼ同旨を述べて,代金 1万円に つ き必要的没収 ・追徴を言い渡 している。

また,後指の東京高裁平成 5 年 6 月 7 日判決 も, 「( 特例法の不法収益にお いて薬物の対価を没収,追徴す るにあた り)対価を獲得す るために支払 った 原価,費用を控除すべ きでないことは,その立法 目的に照 らし自明の理に属 する」 としている。

上の前橋地裁平成 4 年判決 は,営利 目的のない薬物譲渡の対価を 「 薬物犯 罪の報酬 として得た財産」 とす る等やや難解な点があるが,その趣 旨は要す るに,利益性がない対価 は不法収益 として必要的没収 ・追徴をすべきではな いとい うことであろう。理由は示 されていないものの,大分地裁平成 5 年判 決 も同様 と思われ る。 これに対 して,各高裁判決 は,「 麻薬特例法の趣 旨, 目的」を挙げて,必要的没収 ・追徴を正当としている。両者の間には,麻薬 特例法の不法収益没収 ・追徴の趣 旨の理解につ き基本的な相違がある。

2 現行法上,没収 は対象を剥奪す る財産刑であ り,追徴 はその換刑処分であ る

その点 は麻薬特例法における没収 ・追徴 も ( 上述のように没収か ら追徴 への裁量的切替を認めるとはいえ)変わ らない。だが,周知のように,特 に 没収の法的性格を巡 っては,刑罰一元説 6 ),保安処分一元説

7)

,対象の性 質 により,あるいは対人的関係 により,刑罰 ・保安処分 いずれ もあ りうると す る折衷説

8)

等,諸見解がある。

そのように立場が分かれるのは,没収には,犯人でない第三者か ら対象が

6 )出田孝一 『 大 コンメ ンタール刑法第 1 巻 』31 4 頁以下 [ 大塚仁他編] ( 青林書 院, 1 99 1 )等。

7) 小野清一郎 『 新訂刑法講義総論 』240 頁以下 ( 有斐閣 ,1 948 ) 等。

(6)

1 8 8 商 学 討 究 第 4 6 巻 第 2・3 号

剥 奪 され る第 三 者 没 収 の場 合 もあ る こ との ほか, 犯 人 か らの没 収 につ い て も, 対 象 に財 産 的価 値 が ほ とん どな く財 産 刑 と して は無 意 味 な場 合 が あ る ( 例 え ば殺 人 に用 い られ た ナ イ フを没 収 す る場合 ) ばか りで な く,刑 転 で あ るな らば罪 刑 均 衡 原 則 が 働 くはず の と ころ 9 ), 対 象 の財 産 的価 値 が 非 常 に 高 い ときに は当該 犯 行 に対 す る財産 刑 と して は不 均 衡 に重 くな る場 合 もあ る こ と等 ,刑 罰 と して は説 明 しに くい多 くの面 が あ るか らで あ る

第 三 者 没 収 は別 論 と して も

10)

,犯 人 か らの剥 奪 に限 って さえ, 没 収 に単 純 に刑 罰 と割

り切 る こ との で きな い部 分 が あ る こ とは否 定 で きな い

11,12)

8

)対象の性質により刑罰的場合 と保安処分的場合を分ける立場 として,伊達秋雄他 『 総 合判例研究叢書刑法 ( 2 0 ) 』 3 頁以下 ( 有斐閣 ,1 9 6 3 ) ,藤木英雄 『 注釈刑法 ( 1 ) 』 1 26 頁以下 [ 団藤重光編] ( 有斐閣 ,1 9 6 4 ) ,藤永幸治 『 注釈特別刑法第 1 巻 』5 9 1 頁以下 [ 伊藤発他編]( 立花書房 ,1 9 8 5 ) 等があ り,また,対人的関係 により分 け

る立場 として,谷 口正孝 『 没収及び追徴の研究 』6 0 頁以下 ( 司法研究報告書 8 輯 4 号 ,1 9 5 5 ) ,同 「 没収 に関す る諸 問題」法律 時報 2 7 巻 6 号 6 9 頁以下 ( 1 9 5 5 ) ,伊達 秋雄「 没収」日本刑法学会編『 刑法講座 1』2 0 7 頁以下 ( 有斐閣 ,1 9 6 3 ) 等がある。

9) もっとも,刑法 2 0 条 は,組成物件の場合を除 き, 「 拘留又 は科料のみに当たる罪に ついては,特別の規定がなければ,没収を科す ることがで きない」 としてお り,そ の限 りでは没収にも罪刑の均衡が要求 されているといえる。

1 0 ) もっとも,刑法総則の第三者没収 ( 1 9 条 2 項但書の事後の悪意取得者か らの没収) については悪意が要件 となってお り,また,そのような要件が明示 されてい ない特 別法上の第三者没収について も判例 ( 最高裁大法廷昭和 3 2 年 1 1 月 27 日刑集 1 1 巻 1 2 号 31 3 2 頁) は同様 に第三者 の悪意を要件 とす る限定解釈を しているので,その限度 で第三者の責任を要件 とした実質的な刑罰 として理解す ることは可能である。平野 龍一 『 矯正保護法 』2 2 貢 ( 有斐閣 ,1 9 6 3 ) ,出田 ・前掲注 6)31 4 頁以下等参照。

なお,第三者没収 につ き詳細は,拙稿 「 没収 ・追徴 と第三者保護を巡 る諸問題」林 幹人他編 『 現代社会における没収 ・追徴』( 信山社,近刊予定)を参照。

ll ) 没収 は沿革的に も起源 は単一ではな く,谷 口 ・前掲注 8) 「 研究 」1 7 頁以下、同 ・ 前掲注 8) 「 諸 問題 」7 0 頁以下 によれば,古代 の犯罪者 の一般財産剥奪制度,物 自 体を犯人 とみなす思想,不当利得剥奪を実質 とす る衡平の思想等が複合 して現代の 没収制度 に至 った ものである。

1 2 ) なお,没収が財産刑 として犯罪の軽重に必ず しも比例 ・均衡 しないとい う問題 につ き

,

「 物を剥奪す る没収独 自の性質によるもので当然」 とす る考え方 ( 谷 口 ・前掲 注 8) 「 研究 」6 2 貢)や,没収の刑罰 としての性質を,犯行の軽重 に比例 ・均衡 し た財産刑 とい う意味か らはやや離れて, 「 犯罪行為 に対す る否定的な評価を示す」

意味での制裁 とす る考え方 ( 平野 ・前掲注 1 0 )2 2 頁) もあるが,それだけでは,財

産的価値の低い対象の剥奪を正当化す ることはで きて も,財産的価値の非常に高い

場合の剥奪の根拠づけとしては十分ではないであろう。山口厚 「わが国における没

収 ・追徴制度の現状」 ジュ リス ト 1 0 1 9 号 1 5 貢注 ( 8)( 1 9 9 3 ) 参照.

(7)

麻薬特例法 にお ける不法収益 の没収 ・追徴 1 8 9 そ こで現在で は,折衷説 の うち,対象の性質 によ り刑罰的場合 と保安処分 的場合 を分 けて理解す る見解が一般的 となっている

それ によれば,例えば 刑法総則の没収 の場合 ,1 9 条 1 項 1 項の組成物件,同 2 号 の供用物件,同 3 号の うちの生成物件の没収 は,物が再 び犯行 に関係 す る危険性を もつために それを剥奪す る対物的保安処分 的性質が強い ものであ り, これに対 して,同 3号の うちの取得物件および報酬物件,同 4号の対価物件 の没収 は,犯人 に 犯罪 による不正 な利得を保持 させないために財産的制裁 として剥奪す る刑罰 的性質が強い ものであ る, 等 とされ る。没収 には,「 対物 的保安処分」 と 「 財 産刑」の二つの性質があ ることになる。

なお,「 対物 的保安処分」 とい う観点 に対 して は,犯人か らの没収 を全 て 刑罰的性格 と して理解す る立場か らは,対象をそのまま存置 させておいたな らば犯人 ( あるいは犯人以外の何人か) によって再 び犯行 に用 い られ る危険 があるために これを剥奪す るとい うのであれば,刑罰 に も当然特別予防 ・一 般予防の要素が あ る以上,や は り刑罰 と して理解 すれば足 りるので はない か, との指摘が ある

13)。

他方,「 不正利得 の剥奪 による財産的制裁」 とい う 観点 につ いて は,その剥奪 になん ら保安 的意味 はない とす る見方 もあ る

14)

が,不正 な利得の保持を許せば犯人の再犯 や さ らには一般人の犯行 を誘発 し かねないのでそれを防止す るため とい う意味で は、やは り一種 の保安的性質

もあるといえな くもない ( 保安処分一元説が取得物件等 の没収の場合 を も保 安処分 とす るの はこのよ うな意味であろ う) 。その意味で はどち らも用語 の 違 いにす ぎない とされ ることもあ る。だが,後者の観点が 「 犯罪 は決 して引 き合わない」 とい う程度の一般的 ・抽象的な意味での抑止効果 を問題 とす る のに対 し,前者の観点 はと くに当該対象が再 び関係す る犯罪の抑止を考慮 し た ものであ り,両者 はや は り異 な るものである。

もっとも, このよ うな折衷説 によって も,没収が十分 に説 明 され るわけで はない。対物的保安処分的性質の没収 といわれ るもの も,実際 には必ず しも

1 3 ) 伊達 ・前掲注 8)2 0 8 貢,原 田園男 「 判例解説」法曹時報 4 2

1 2 号 2 4 4 頁 ( 1 9 9 0 ) 。

1 4 ) 植松正 「 没収」 日本刑法学会編 『 刑事法講座第 3 巻 』6 1 6 頁 ( 有斐閣 ,1 9 5 8 ) 0

(8)

190 46 2 ・3

対象が危険 とはいえず保安処分的意義 ・必要のない場合 も多 いのであ り

15)

, それのみで常に没収を基礎づけうるものではない。また,財産的価値が ほと んどない対象の場合は対物的保安処分の要請を もって剥奪を根拠づけること ができるとして も,財産的価値の非常に高い対象の剥奪 は,現実に犯人の被

る財産的不利益が極めて大 きい以上,刑罰ではな く保安処分であるとす るだ けではこれをただちに正当化す ることはで きないであろう

16)。

その意味で, 没収には対物保安処分的性質 もあるといって も,それは刑罰的性質の没収 と 全 く別個に独立に没収を正当化す るというものではな く,犯行 に対す る財産 刑 としてのみ見れば不均衡 に重いと思われ る場合 にその不合理性を緩和 して 妥当性を確保す るもの として ( 換言すれば,当該対象の剥奪につ き,刑罰 と してのみではまだ根拠不十分である場合 にそれを補強す るものとして),捕 完的な意味を もつ ものなのである。保安処分的必要がある場合にはそれを考 慮 した うえで,没収はやはり実質的に犯行 と均衡 した ものでなければな らな

いのである

17)0

なお,以上のよ うな刑罰か保安処分か とい う没収の法的性質を巡 る議論 は,実際には,没収が裁量的である場合に,没収言渡の相当性の判断に意味 を もつ ことになる

裁量的没収の相当性 は,上のような意味で,犯行に対す る財産刑 としての程度 と,保安処分 としての必要性 とを考慮 して決定される

1 5 ) 谷 口 ・前掲注 8) 「 研究 」6 1 頁,伊達 ・前掲注 8)2 0 8 貢 は,対物保安処分的性質の 没収 とされ るものについて,物がそれ 自体で再犯の危険を もつ場合 は偽造文書等 ご く限 られた場合 にす ぎず,む しろ多 くの場合 は,例 えば殺人 に使用 したナイフのよ うに,そのまま残 しておいて も犯人が ( あるいは何人かが)再 び犯行 に用いるとは 必ず しもいえない ものであ るし, また,か りに危険性を認め るとして も,そのよ う な物 は入手が容易であ るか ら剥奪 してみて も犯罪 防止 には役 立 たない, と批判す る。なお,伊達他 ・前掲注 8) 「 叢書 」1 0 頁以下参照。

1 6 ) 藤木 ・前掲注 8)1 2 7 貢以下参照。

1 7 ) これ に対 して,没収を保安処分的場合 と財産刑的場合 に分 けた うえで,後者の場合 は犯行 と対象の価値 との均衡 を問題 とすべ きであ り,犯行 に対す る財産刑 として均 衡す るか ぎりで剥奪が許 され るが,前者の場合 には再犯の危険性 と対象の価値 との 均衡 を問題 とすべ きであ り,危険性 に均衡す るか ぎり剥奪が許 され るとす るもの と して,林美月子 「 没収 ・追徴 と均衡原則」神奈川法学 3 0 巻 1 号 1 7 3 頁以下 ( 1 9 9 5 )

がある。

(9)

麻薬特例 法 にお け る不 法収益 の没 収 ・追徴 19 1 ことになろ う

18)。

他方,特別法の没収規定 には必要的没収を定めるものが 多 く,その場合には没収言渡の相当性 という問題 は生 じない。だが,特別法 が必要的没収等の形で剥奪を強化す るのはそれぞれ独 自の目的 ・必要 による

ものであ りそれに沿 って解釈運用 しなければな らないとはいえ,没収 はやは り実質的根拠を もつ ものでなければな らない

ら,その没収が財産刑的性質 あるいは保安処分的必要を考慮 して もなお合理的といい難い場合は,立法政策 としての合理性の問題が生 じ 1 9 ),限定解釈すべき場合 も出て くることになる。

3 それでは,麻薬特例法の不法収益の没収は,いかなる性質の剥奪なのであ ろうか。先に紹介 した各地裁判決 は,利得のない薬物譲渡において,その譲 渡代金の必要的没収 ・追徴を否定 した。麻薬特例法 は 「 薬物犯罪による不法 収益等を剥奪す ることによ り,規制薬物 に係 る不正行為が行われ る主要な原 因を除去す る 」 ことを目的 とす るものである (1条)が, これ ら各地裁判決 は,そ こにい う 「 不正行為が行われる主要な原因」をいわば 「 薬物犯罪の高 利得の誘引力」 と解 し,純利益のみを剥奪すれば目的は達せ られ るとして, 不法収益 とは純利益を指す と限定解釈 した ものか もしれない 2

0) .

あるいは,

1 8 )藤木 ・前掲注 8)155 頁参照。 ただ し,財産刑 としての程度 と保安処分 と しての必 要性だけでな く,主刑 の程度 も考慮すべ きであるとす る。 これ と同 旨と して,原 田

・前掲注1 3 )244 頁以下がある。なお,裁量的没収 の相 当性 は,判例上,無免許運 転 における自動車の没収の事例が多 いが,そ こで は,対象であ る自動車の価値が高 くかつ被告人の再犯の危険が小 さい といえ る場合 には没収を否定 し, 自動車の価値 が さほどでな くかつ被告人の再犯の危険が大 きいといえる場合 には没収を肯定す る

とい うよ うに,やはり財産刑 としての程度 と保安上の必要 の程度 (さら浸主刑 の程 度)を考慮 して,没収の是非が判断 されているといえ る。福岡高判昭和50 年1 0 月 2

日月報 7 巻 9・10 号 8 47 頁,福 岡高判昭和55 年 11 月 1 9 日判時997 号 1 68 頁等参照。 ま た,最決平成 2 年 6 月28 日刑集44

4 号396 真 は,財産的価値の非常 に高 い船舶等 ( 高 出力の船外機や レーダー等を装備 した密漁用のいわゆ る 「 特攻船 」 ) につ き, 船舶等の 「 転用可能性及 び価格等を考慮 して も相当である」 と して,対象の財産的 価値が高 くとも保安上の必要が大 きい場合 には没収を認 めて い る。 その解説 と し て,原 田 ・前掲注1 3 ) 参腰。

1 9 )藤木 ・前掲注 8)155 貢。

20 )中井 ・前掲注 5)「( 上 ) 」22 頁 は, これ らの地裁判決 には 「 『 営利 目的のない譲渡事

犯 にあ っては,当該不正取 引によ り現実 に被告人が得 た利得 に限定 して必要的な没

収 ・追徴の対象 とすれば足 りる』 といった,ある種の感覚が先行 していたので はな

いか」 としている。

(10)

19 2 46 2 ・3

利得 のあ る譲渡 な らば代金全額を不法収益 として剥奪す るの も相 当か もしれ ないが,利得 のない譲渡で は犯人 の原資相当分 しかない代金 を剥奪す るの は 罪刑不均衡 にな る, との考慮があ ったのか もしれない。 しか しいずれ に して も, それ は麻薬特例法 の必要 的没収の性質 を単 な る刑罰 的性質 の没収 と解 し, しか も,その趣 旨と して しば しば挙 げ られ る 「 犯人 に犯罪による不正な 利得を保持 させない こと」の意味を,極 めて狭 く捉 え るものであ る。た しか に,不法収益等,すなわち 「 薬物犯罪の犯罪行為 によ り得 た財産」等 を,刺 法総則 の没収規定の取得物件等 に準 じて理解す るな らば,前述の現在一般的 である立場 に従 えば, この没収 は刑罰 的性質 の没収 とす ること も考 え られ な くはな い

21)。

だが, その場合 で も, その趣 旨で あ る 「犯 人 に犯罪 によ る不 正な利得 を保持 させ な い こと」 とは,決 して,純然 た る 「不 当利得 」 の剥 奪 の意 味 で はな い。従 来 の取得 物 件 につ いて も, その物 の取得 につ き費 用 を支 出 して いた場合 に, それ に よ って没 収対 象 それ 自体 が 限定 さ れ る とい うことはなか った 2

2) 。

も しも単 な る不 当利得 の剥 奪 が 問題 なの で あれ ば,犯行 に よ り実 質 的 に利得 が あ った場 合 にのみ没収 をすべ き こ と とな り, また,没収 はその限度 で の み認 め られ, それ を超 え て犯 人 の 財 産状 態 を犯行 前 よ り も悪化 させ る ことは許 され ない こ とにな ろ う。 ど が,財 産 「刑」 で あ る以上 は,財産 状 態 の悪 化 も当然 含 み うる もの なの で あ る

2 1 )実際にそのように理解する立場 もある。麻薬特例法の没収の場合も,財産自体には それが再犯と関係する危険性はないので,その没収は保安処分的性質ではなく,狗 罪による利得を剥奪することを目的とした刑罰的性質の没収である,とするのであ

る。林 ・前掲注 1 7 )1 7 7 貢参照。

22 ) 取得費用がなければ全部没収すべき物が,取得費用があったことにより一部没収に 転化 したり,それが不可分物の場合に没収不能として追徴に転化する,ということ

はなかったのである

また,没収が後発的不能により追徴に転化 した場合にも,没収対象物の取得に要

した費用を追徴価額の算定に際して控除すべきでないことは,学説 ・判例上一般に

認められている。藤木 ・前掲注 8)1 60 頁,出田 ・前掲注 6)36 2 頁,広島高判昭

和 27 年 4 月 11 日高刑集 5

4 号5 85 頁,最決昭和 35 年 3 月 31 日刑集 1 4

4 号508 頁

等参照。

(11)

麻薬特例法 にお ける不法収益 の没収 ・追徴 1 9 3 た しかに,没収がまさに 「 不当利得剥奪」 として 「 純利益」に限定 される べ き場合 もある。刑法 ・特別刑法において規定 されている賄賂の必要的没収 の場合がその典型であるが,それは,没収対象である賄賂それ自体が概念上

「 利益」のみを指す ものである以上, これを超えた剥奪はそ もそ も許 されな いか らである2 3 )。

そ して,上述のように,麻薬特例法が収益剥奪の徹底を図 った趣 旨は,薬 物犯罪か ら生 じる多大な収益が,単 に犯行の誘因 となるだけでな く,その一 部が次の犯行の資金 として再投資 されてゆ くという実態があるため,経済的

・資金的側面か ら犯罪対策を強化す るためである。 立案関係者 によれば , 「 薬 物犯罪か ら生 じる不法収益の循環を断ち切 ると同時にこれをは く奪すること

によって薬物犯罪組織を壊滅 させ」 ることである2

4) 。

そこでは,単 に財産 刑 として利得剥奪を強化す るのみではな く,む しろ不法収益が次の犯行の原 資 として再投資されて薬物犯罪が累行 ・蔓延す ることの防止が意図されてい るのである。 このことは,不法収益等隠匿罪 (9条)等を新設 した ことにも 窺える。た しかに財産 ・収益 は一般的には再犯 に関係す る危険性のあるもの

ではないが,薬物犯罪に関 しては,その実態に鑑みて,まさに保安処分 とし ての剥奪が必要 と考え られたのである。麻薬特例法の収益剥奪は,没収 につ き従来認め られていた刑罰的性質 と保安処分的性質の双方を強 く有す るもの と理解すべ きであろう

25) 。

そ うだ とすれば,前掲の判例の事案のような薬物譲渡の場合に,譲渡代金 か ら仕入原価を控除 した残 りの純益だけ,あるいは利得の含 まれた代金だけ を不法収益 に当るとして没収 ・追徴することや,譲渡代金 と仕入原価が等価 の場合 に不法収益が発生 しなかった もの として これを没収 ・追徴 しない こと

23)山口厚 「 賄賂の没収 ・追徴」松尾浩也他編 『内藤謙先生古稀祝賀 ・刑事法学の現代 的状況 』2 0 4 頁 ( 有斐閣 ,1 9 9 4 ) 参照。

2 4 ) 古 田勉 .前掲注 1 )

「解説 (

‑ ) 」2 6 真,古 田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻薬特 例法 〕 」 7 責参照。

25 )丸 山雅夫 「 財産的制裁 としての没収 ・追徴 ( 二 ・完 ) 」南山法学17

2

74 頁以下

( 1993) 参照。

(12)

194 商 学 討 究 第46巻 第 2 ・3 号

は,正当で はない。純利益が全 くない として も,得 られた譲渡代金が再 び次 の譲渡のための新 たな薬物の買付 け原資 に用い られ る可能性が ある以上,そ の全額 につ き剥奪す る必要が あ る

26) 。

それ は財産刑 と してだ け見 れば均衡 を失す るか もしれないが,特例法の不法収益剥奪 は刑罰 的性質 と保安処分的 性質の双方 に基づ くものであ り,保安処分的必要 も考慮すれば合理的 といえ

るのであ る。

三 不法収益に由来する財産

1 麻薬特例法 によ り没収 ・追徴すべ き収益 につ いて は,次 に,「 不法収益 に 由来す る財産」の意義が問題 とな る

既述のよ うに, これが没収 ・追徴 の対 象 とされたのは,収益が別 の形 に転換 した場合等 について も,その剥奪 を可 能 にす るためである。例えば,薬物 の譲渡代金が現金で取得 され,その現金 で別 の物が購入 された場合 はその物が, またその現金が銀行 口座 に預金 され た り他 に貸付 け られた りした場合 にはその債権 ( 及 び利息)が,それぞれ不 法 収益 に由来 す る財産 にな る とされ る

㌘ ) 。

この よ うに して,不法収 益 が 転 々と形 を変えた場合 に も,価値的 ・数量的な特定性 ・同一性が あ り追跡可 能な限 り,剥奪す るもの としているのである。

だが,そのよ うな不法収益 に由来す る財産 には,薬物の譲渡代金で次の譲 渡のために買 い入れた薬物 も含 まれ るのであろ うか。 この点が問題 とな った 場合 と して,大 阪高裁平成 6 年 5 月 6 日判決 ( 判例 タイムズ 85 9 号 289 頁) が あ る。被告人が,営利 の 目的で, 3名の者 に覚醒剤 を,それぞれ約0.5グ ラムを代金 80 00 円,約 0 .1 35 グラムを代金 3 00 0 円,約 0 .3 グラムを代金 5 0 0 0 円で有償譲渡 し, また,営利 の 目的で覚せ い剤約 2.6 グラムを所持 していた

2 6 ) 立案関係者 もこのよ うに考えている。古 田他 ・前掲注 1) 「 解説 ( ‑ ) 」7 8 頁参照。

なお,古 田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻薬特例法 〕 」5 8 頁参照。

27 ) 古 田他 ・前掲注 1) 「 解説 ( ‑ ) 」7 8 頁,古 田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻薬特

例法 〕 」5 8 頁参照。

(13)

麻薬特例法 における不法収益 の没収 ・追徴 195 事案である。原判決 ( 京都地裁舞鶴支部平成 5 年 9 月 7 日判決。公刊物未登 戟) は,被告人 につ き,覚せ い剤取締法 41 条の 2 第 2 項営利 目的覚醒剤譲渡 罪 および所持罪 の成立を認めたが, 3 件 の譲渡行為の代金 として受領 した現 金合計 1 6000 円につ いて は,「 本件 の ごと く覚せ い剤 の買入れ と一部 の密売 が累行 された場合 にあ っては,初回の譲渡代金 ( 不法収益)を もって次回の 覚せ い剤 を買 い入れた場合等 には,同党せい剤及 びその譲渡代金が 『( 初 回 の)不法収益 に由来す る財産』 と認 め られ ることもあ り,結局,‑‑‑被告人 が所持 して いた覚せ い剤 ・ ‑・ ・ は 『( 従前 の)不法収益 に由来す る財産』で あ ると認 め られ る余地がないわ けで はな く,判示の とお り同覚せい剤 を没収 し た上,重ねて従前 の譲渡代金相 当価額を追徴す ることが二重処罰の疑 い もあ

り, この点 につ いての明確 な立証 も困難である」 と して,麻薬特例法 による 没収 ・追徴 を しなか った。

これに対 して大阪高裁 は,所持 にかか る覚醒剤 の没収の他 に,前の譲渡代 金 1 6000 円につ き追徴 を言 い渡 した。 その理 由 と して,①麻薬特例法の没収

・追徴 は,既存の薬物 四法 による規制を前提 とした うえで,それによって は 剥奪で きない財産 を没収 ・追徴対象 と して取 り込むための補充的性格を以て 制定 された ものであ り,覚醒剤 は,それが不法収益である譲渡代金で購入 さ れた ものであって も覚醒剤譲受罪ない し所持罪 にかか る物件 と して覚醒剤取 締法 によ り没収 され るのであ るか らこれを麻薬特例法 にい う 「 不法収益 に由 来す る財産」 とみ る余地 はない こと,また,②所持 にかか る覚醒剤の没収 は 覚醒剤譲受罪ない し所持罪 を理 由とす る処罰であ り, また譲渡代金相 当額の 追徴 は覚醒剤譲渡罪の不法収益であることを理 由 とす る処罰であ り,同一の 犯罪 につ き二重 に処罰す るもので もない こと, さ らに,③原判決のよ うな解 釈 も文理解釈 として は一応可能であるものの,それによれば,覚せい剤譲受 罪 を犯 した場合 の取得 した覚せ い剤 も不法収益 に当 ることにな って しま う

し, また, 「 覚せ い剤 の買 い入れ と密売を重ねてそのつ ど譲渡代金を取得 し

た場合 は,薬物犯罪か ら生 じる不法収益 を的確 に剥奪す るとい う麻薬特例法

の趣 旨, 目的に照 らし,当然 それ らの代金の全 てを不法収益 と して剥奪す る

(14)

19 6

46

2 ・3

必要があるというべ きところ,原判決‑‑の見解 によると,代金の使途等に 関す る立証の問題 もあって,代金の全てを没収 または追徴す ることがで き ず,せいぜい最終の譲渡代金を没収または追徴す ることができるにとどまる

ことにな りかねない」 こと,を挙げている。

2 このように,大阪高裁平成 6 年判決 は,前の覚醒剤譲渡代金で新たに覚醒 剤を買い入れた場合,それは前の不法収益に由来す る財産ではないとす る。

また,その覚醒剤を譲渡 して取得 した代金 も,前の不法収益に由来す る財産 ではな く,別個の新たな不法収益の発生であるとする。そ してそれ ら代金の 全てを剥奪すべきとす る。本判決 も,譲渡代金は利得性がな くとも不法収益 となるとす るであろうか ら,す ると,一定の資金のみを用いて利得のない薬 物譲渡を繰 り返 した場合,例えば1 0 万円を元手 として,買入れ と代金1 0 万円 での販売を1 0 回行 ったという場合,実質は1 0 万円を循環 させた限度での薬物 犯罪の累行 にす ぎな くとも,不法収益 として 1 00 万 円を必要的没収 ・追徴す べ きこととなる。 これは必ず しも妥当 とはいえないのではないか。

判 旨は,前の譲渡代金でさらに覚醒剤を買い入れた場合が不法収益に由来 する財産に当 らない理 由として,既存の薬物四法に対す る特例法の補充的性 格を挙 げる。それ は立案関係者の見解で もあ り,支持す る立場 もある

28) 0

だが,薬物四法の没収の及ばなかった収益剥奪を図ることが麻薬特例法の趣 旨であるとはいえ,同法 もあ らゆる収益の完全な

奪を可能に しなければな らないものでないであろうし,包括的な規定である特例法 は,薬物没収に関 してはむ しろ薬物四法 と一般法 ・特別法の関係に立っ と理解す ることもまさ に文理上 は不可能ではない。また,判 旨は,前の不法収益の使途の立証の問 題 によ り最終の代金の剥奪 しかで きない ことにな りかねない ことを挙 げる ( 個 々の収益の使途の認定は現実には困難であり,す ると 「 疑わ しさは被告 人の利益に」の原則により当該収益はそのつ ど薬物 に転換 された と認定せざ るをえな くなる, との趣 旨であろう) 。だが,そのような実務的な不都合を,

2 8 ) 古田他 ・前掲注 1)

「解説 (

‑ ) 」8 4 頁注 ( 五) ,中井 ・前掲注 5) 「( 下 ) 」1 9 頁以下

参照。

(15)

麻薬特例法における不法収益の没収 ・追徴 197

膨大な価額の追徴 とい う被告人の不利益 に転嫁すべ きで もない。

た とえ実際には稀であ るにせ よ, もしも現実 に特定の資金のみが循環 され て薬物 の買入 れ と密売が累行 されて い るといい うる場合 2 9 )には,保安的必 要 として は,その特定の資金を剥奪すれば足 りる。それによ り,以後 の買入 れ ・密売 は断たれ ることになるか らであ る。譲渡が累行 された といって も, 各譲渡代金の合計額を剥奪す ることはおそ らく財産刑 としては均衡 を失す る

ものであ り,一方,それを合理化す るよ うな対象全体 についての保安処分的 剥奪の必要 もない とすれば,その剥奪 は合理性を欠 くもの といわ ざるをえな い。 しか し他面 において,不法収益等の剥奪が保安処分的性質のみによるも ので もない以上,その特定 の資金 のみの剥 奪 で十分 とす る ことも適切 でな い。その特定 の資金 の額 を上 回 りかっ譲渡代金合計額を下回 る範囲で,累行 された譲渡 に対す る財産刑 と して均衡 を有す る限度での利益剥奪が正 当であ るよ うに思われ る

3 もっとも,そのよ うな剥奪範囲を不法収益等の概念の定義 ・解釈 によ って 行 うの はさまざまな困難 を伴 うであろ う

大 阪高裁 の判 旨 も指摘す るよ う

に,本来剥奪すべ き別の不法収益 までが立証上の問題等 によ り剥奪で きな く なる事態 も起 こりうる。 また,特例法 1 4 条 1 項の没収 ( そ してそれに代わ る 1 7 条 1 項の追徴)を,必要 的なそれか ら裁量的なそれへ と改正す るよ うな こ とも適当で はない。裁量 的没収 は,当該対象 につ き没収をす るか しないかの 点で裁判官 に裁量性 を与え るものであ り必ず しも程度判断に親 しむ もので は ない し,剥奪 を一切行わない ことまで も認 め るべ きではないか らである。

そ こで,実際的な方法 と しては,不法収益等の解釈 によってではな く ,1 4 条 1項の規定を若干修正 し,不法収益 ・不法収益 に由来す る財産 に関 して, 必要的ではあ って も一部没収 を可能 にす るとい うことが適切で はないか と思 われ る

すで に特例法 1 4 条 1 項但書 は,不法収益 ・不法収益 に由来す る財産 と,そ

2 9 ) 例えば,その資金 ( 買入れ資金兼売上金)が,他の財産とは明確に区別され,専用

の金庫や預金口座を用いて保管 ・出納されているような場合である。

(16)

198 商 学 討 究 第 46巻 第 2 ・3号

れ以外の財産 とが混和 した財産 を対象 に,不法収益等隠匿罪が犯 された場合 に関 して,本来な らばその全体が必要的没収の対象であるところ,裁量 によ りその一部の必要的没収 に とどめ ることを認 めてい る。それは, この場合, 没収対象財産の中には犯人が正業 によ って得 たの もの も含 まれている場合が あるので,全部没収す ることが 「 苛酷 に過 ぎる」事案 もあ りうるためである とい う

30)。

この 「 苛酷 に過 ぎる」 ことを理 由とす る一部没収 ( 及 び一部追徴)杏,不 法収益 ・不法収益 に由来す る財産 その ものに関す る剥奪 について も可能 とす べ きと思われ るのである。本来剥奪すべ きで はない犯人の一般財産部分 にま で広汎 に利益剥奪が及ぶ ことを防止す る必要性 は,同 じだか らである。

四 不法収益と帰属

1 麻薬特例法 において没収 ・追徴 の対象 とな る不法収益 は,薬物犯罪の犯罪 行為 によって得 た財産である。上述 のよ うに,収益概念 それ 自体 は利得性を 要件 とす るもので はないが,没収 ・追徴が可能 とな るためには,犯人が 「 得

た」財産であ ること,すなわち帰属関係が必要であ る。

この点が問題 とな った場合 として,東京高裁平成 5 年 6 月 7 日判決 ( 判例 時報 1 483 号 1 42 貢)が ある。知人 Aか ら覚醒斉岨0 グラムの入手方 を依頼 され た被告人が,売人 Bと連絡 を とり,覚醒剤 1 0 グラムを,代金 は 9 万 円,支払 は売却先か ら代金 を受取次第行 うとの後払 いの約定で B か ら受 け取 り, これ を A に交付 して同人か ら代金 9 万 円を受 け取 り,そ して この代金 9 万 円を B に交付 した, とい う事案である。原判決 ( 前橋地裁高崎支部平成 5年 2 月 10

日判決。公刊物未登載) は,被告人 につ き覚醒剤譲渡罪 の成立 は認 めたが,

30 ) 古 田他 ・前掲注 1) 「 解説 ( ‑) 」80 頁以下,古 田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻 薬特例法

」6 0 貢参照。ただ し,その 「 一部」の範囲の判断 につ き,不法収益 ・不 法収益 に由来す る財産の額 ・数量 に比例す る範囲では必ず没収すべ きもの とされて

いる。

(17)

麻薬特例法 にお け る不 法収益 の没収 ・追徴 199 被告人が A か ら受け取 った 9 万円については,「 社会的事実 としてみ ると, 本件譲渡代金の 9 万円は, B が A か ら被告人を介 して受領 した ものと評価す ることがで き,右 9 万円の不法収益 は最終的に B に帰属 したものと認め られ る」 として,麻薬特例法による没収 ・追徴を しなか った。 これに対 し,東京 高裁は,原判決が本件を 「 被告人を使者 ・仲介者 とした B・A 間の取引 ( 譲 痩)」 と評価 した うえで譲渡代金 9 万円が最終的に B に帰属 した と判断 して いることに対 し, A と B は直接にも間接 にも接触 していないこと等の具体的 事情を挙げて,本件 は 「 被告人を介 した B ・A 間」の取引ではな く,被告人 を取引当事者 とした 「 被告人 ・A 間」の取引であ り,「 被告人 ・B 間」の取

3 1 )本件判 旨が弁護人の主張に答えて扱 った論点 は,本文 に掲 げた もののはか,次の も のがある。

1 に, 弁護人が, 刑法総則 の没収規定の取得物件, 麻薬特例法 の不法収益 とも,

「 犯罪行為 によ り得た」 とは対象を得 ることが構成要件 となっている場合 に限 るも のであ り,覚醒剤譲渡罪 は譲渡の有償性を要件 と しないか らその代金 は不法収益 に 当 らないとした ことに対 し,判 旨は,まず刑法総則の取得物件 の場合,犯罪行為 と 物の取得の間に因果関係を要す る趣 旨であって必ず しも物の取得 自体が犯罪行為で ある場合 に限 られず,それは特例法の不法収益 について も同 じであ り,覚醒剤有償 譲渡の場合,覚醒剤譲渡 と対価交付 は反対給付の関係 にあ り対価の取得 は譲渡行為 の直接の結果であるか ら 「 犯罪行為 によ り得 た財産」 となる, とした。

第 2に,弁護人が,規制薬物 の転 々譲渡の場合 に各段階の譲渡者か ら対価全額を それぞれ没収 ・追徴で きるとすれば,その総額 は当該薬物の数十倍 にな ることもあ り,そのよ うな国家の不当利得 は特例法の趣 旨に反す る, とした ことに対 し,判 旨 は,薬物の転 々譲渡の場合,譲渡の回数 に応 じて不法収益が各関与者 に発生 してお り,没収 ・追徴 の金額 の合計が,薬物の価額 と各不法収益の合計額を上回 ることは あ りえず,国家の不 当利得 とい う事態 は生 じない, とした。

第 1の問題 に関 していえば,刑法総則の取得物件 については,財産犯の艦物等, 得 ることが構成要件要素であ る場合のほか,賭博で得 た金品等,得 ることが構成要 件要素で はない場合 も認 め られているのであ り ( 出田 ・前掲注 6)33 3 頁,藤木 ・ 前掲注 8) 1 42 頁等参照) ,すなわちそれ は因果関係を指す ものであ って,ただその 因果関係 は,別 に対価物件が規定 されていることとの関係上,直接取得 された場合 に限 られ るとい うにす ぎない ことにな る ( 山口 ・前掲注 1 2 )1 5 頁注 (9) 参照) 。 特例法 の不法収益 の場合 も,不法収益 に由来す る財産が別 に規定 されていることか ら,同様 に解 してよいであろ う。判 旨が 「 譲渡行為の直接の結果」であるか らよい としているのは妥当 と思われ る。

2 の問題 に関 して言えば,弁護人の主張 は,判例が いわゆる 「 段階的追徴」に

つ き一般 に否定的な態度を とっていることとの整合性を意図 した もの といえ る。段

階的追徴 は関税法等 において判例上 しば しば問題 とな った ものであ り,密輸入貨物

が知情者間を転 々譲渡 された場合,各譲受人 に取得罪が成立 し,最終取得者か ら当該

(18)

200 商 学 討 究 第 46 巻 第 2 i3 号

引 とは別 個 の もの で あ って , 被 告 人 , B 両 名 につ きそ れ ぞ れ別 個 の不 法 収 益 が 発 生 ・帰 属 した もの と して ,被 告 人 か らの追 徴 を認 め た 。 な お , 判 旨 は,

「収 益 」 と は 「利 益 」 で はな く原 価 等 の控 除 をす べ きで な い こ と等 , 弁 護 人 の主 張 に答 え て他 に さ ま ざ ま な点 につ いて判 示 して い る

31)。

2 薬 物 は さ ま ざ まな過 程 を経 て最 終 譲 受 人 の手 に至 る もの で あ り, そ の 間 の 譲 受 ・譲 渡 に は さ らに第 三 者 が介 在 す る こ とが 少 な くな い。 そ の場 令 , そ の 介 在 者 が どの よ うな刑 責 を負 うの かが 問題 とな る。 例 え ば , 甲か ら乙 へ と至 る薬 物 譲 渡 に Ⅹが 介 在 し, 甲か ら乙‑ の薬 物 引渡 し, 乙か ら甲へ の代 金 支 払 を媒 介 した とい う場 合 , Ⅹ は独 立 の取 引 当事 者 で あ って 甲 Ⅹ, Ⅹ乙‑ と 2 回

貨物が没収可能であるが,その前 までの各取得者 について,当該貨物が譲渡 によ り 没収不可能 にな った としてその価額 をそれぞれ追徴で きるか とい う問題である。判 例 は,最終取得者か ら没収がなされれば他の取得者か ら追徴す ることは許 されず, あ るいは,没収がで きないときは各取得者 に追徴 を言 い渡す と して も,その うちの 一人か ら相 当価額の追徴が執行 されれば他の取得者か らさ らに追徴す ることは許 さ れ ない, と して い る ( 最判 昭和 35

1 0 月 1 1日刑集 1 4 巻 1 2 号 1 545 頁,広 島高判 昭和 35 年 1 0 月 25 日高刑集 1 3 巻 7 号 59 2 貢,東京高判昭和36 年 2 月 1 4 日高刑集 1 4 巻 2 号 6 3 頁,最判昭和38

1 2 月 4日刑集 1 7

1 2 号 2 41 5 貢。 もっとも, このよ うに解す るこ

とには,中間の取得者 に犯罪貨物 の譲渡 による不正な利益 を保持 させ ることにな り 不当である, との批判 も強い。それを考慮 してか,最判昭和36

1 2 月 1 4 日刑集15 巻 11 号 1 845 頁 は, 中間取得者 につ き,価額追徴 は許 されない ものの,取得 した代金 は刑法19

1 項 3 号取得物件の対価物件 ( 4 号)であるか ら,没収 あるいは追徴が 可能で あると している) 。同 じ趣 旨はアル コール専売法 の反則 アル コールが転 々譲 渡 された場合 も認め られている ( 最判昭和39

1 2 月 23 日刑集1 8

1 0 号969 頁) 0

このよ うな判例 は,没収すべ きもの として追求 され る客体が犯罪貨物や反則物品 それ 自体であって,それが没収で きれば 目的は達せ られ, また没収で きないときで も,その物品のみの相当価額が剥奪で きれば 目的は達せ られ る し,追徴が没収の換 刑処分であ る以上 は本来物 品が有 していた以上の価額 を国が取得す るべ きで はな い, との考慮 によっているもの と思われ る。

しか しなが ら,不法収益 の没収 ・追徴が問題 となる本件では,没収すべ き客体 と して追求 されているのは特定の覚醒剤で はな く,それが転 々流通す る各段階でそれ ぞれ発生す る対価 としての収益の方である。上述のよ うに,各段階で譲渡人 に取得 された代金 は,た とえ利得がな くとも次 の薬物買 い入れの原資 とされ ることのない よ う剥奪せねばな らない。それ らの各収益 は本来 いずれ も剥奪 され るべ きものだ っ たのであ り,すべて没収 ・追徴 されて も国が本来剥奪すべ きだ った以上の ものが剥 奪 され ることにはな らない。判 旨はこの点で も正当であろ う。

なお,本件 についての詳細 な評釈 と して,香川達夫 ・判例評論432 号71 貢 ( 判例

時報1 51 2 号257 頁 ,1995 )がある

(19)

麻薬特例 法 にお け る不法収益 の没 収 ・追徴 20 1 譲渡があ ったとし X に譲受罪 と譲渡罪を認めるのか,それ とも,譲渡 は甲か

ら乙への 1回で, Ⅹはいずれかの側 と共犯関係 にあるもの とし,甲の譲渡罪 の,あるいは乙の譲受罪の共犯の限度で責任を負 うのか, もしそ うな らその 場合共同正犯 なのか暫助犯なのか, といった問題である。 これは事実認定 と 共犯論が関係す る問題であ り, この小論で扱 いきれ るものではないので検討

は他 日を期 さなければな らない

32)

ただ,麻薬特例法が制定 され譲渡罪 の不法収益 の没収が導入 された こと で, この罪責判断問題が複雑化 した ことだけ指摘 してお くことにす る。すな わち,右の東京高裁判決のように, Ⅹを独立の当事者 として甲Ⅹ,Ⅹ乙の間 で 2 回の譲渡があった もの とす るな らば, Ⅹ,乙はそれぞれの譲渡罪の代金 を不法収益 として没収 ・追徴 され ることになるが, 甲か ら乙への 1回の譲渡 があった とす るとき, Ⅹを乙の譲受罪の共犯 とす るな らば,乙はもとよ り Ⅹ に も不法収益 はな く,他方, Ⅹを甲の譲渡罪の共犯 とす るな らば, 1回の譲 渡の代金が甲 ・Ⅹ側 に取得 されたことにな り,甲とⅩか らその限度で没収 ・ 追徴がなされ るとい うことにな る

33) 。

なお, この最後者の, Ⅹと甲を譲渡

3 2 ) 古 田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻薬及 び向精神薬取締法 〕 」3 7 8 貢以下 によれば, 介在者が譲受罪 と譲渡罪 の各単独正犯が認 め られた事例 で は

,

「 介在者 において, 代金の取決めを始めその折衝を介在者が行 った こと,代金 も立て替えて支払 い,あ るいは未払代金の危険負担を負 っていた こと,転売利益 を 目論んでいた こと,譲渡 し人,譲受人 とも介在者 を取 引当事者 として意識 し行動 していた ことなどが,独立 当事者 として認定す るための判断要素 として判示 されているが,最 も重要な要素 は 譲渡 し人 に対す る代金支払の責任 の有無 と譲受人 に対す る麻薬の引渡 しの責任の有 無であろ う。介在者が,譲渡 し人 に対 し代金支払 いの責任 を負 い,譲受 け人 に対 し 麻薬を引渡す責任を負 っていると認め られ るときは,独立 当事者 として,単独正犯 が成立す るとい うべ きであろ う」 とされる。東京高裁判決が事案を 2個の取 引 とし たのはこうした基準 に沿 った もの といえよ う。 また,介在者 に一方の側の譲渡罪 あ るいは譲受罪 における共犯関係が問題 とな る場合 について は, 「 譲渡 し人又 は譲受 け人 との交渉を担当 し,取引量,単価,代金決済方法,取 引 日時の決定を行 い,莱 際に覚せい剤の授受,代金の決済を行 った ことなどを適示 して,それぞれ譲受 け, 譲渡 しの共 同正犯 を認 めた もの」な どがあ り

,

「 介在者が,譲渡 し行為又 は譲受 け 行為を担当 した場合 は,それが単 に機械的,メ ッセ ンジャー ・ボーイ的な行動 と認 め られ る特別の事情があるときは格別,そ うでない場合 は,共同正犯の成立を認 め ることがで きよ う」 とされ る。

3 3 ) 中井 ・前掲注 5)「 ( 下 ) 」1 3 頁以下参照。

(20)

202 商 学 討 究 第 46巻 第 2 ・3号

罪についての共犯 とみる場合, Ⅹか らどの程度の剥奪がなされるべ きかは, 共同正犯か封助犯か とい う譲渡罪 についての罪責判断 とは必ず しも一致せ ず,取得 された譲渡代金が内部関係 において具体的に分配帰属 された額 に よって決 まることになるであろう。しか しいずれに して も, 認定如何 により,

Ⅹについての収益剥奪の有無 ・程度が全 く異なることになるのである

犯行 の個数 ・態様の認定によりこのように収益剥奪のあ り方 に相違が出て くるの は不法収益の規定上やむをえないところであるが,訴追側の立証の便宜等の 事情 により剥奪が被告人の不利益に左右 され ることのないよう,判断はより 慎重 に行われなければな らないであろう

3 ( 1) なお,ある者が譲渡罪につ き他の者 と共犯関係 にあると判断された場 合,その追徴 について も問題が生 じる

不法収益が帰属 しなか った共犯者 に つ き,当該収益が費消等 により没収不能 となった場合に,その者か らの追徴 が許 されるか とい う問題である。

名古屋高裁金沢支部平成 6 年 6 月 21 E ]判決 ( 判例時報 1510 号 158 貢)は, 被告人が, A , B と共謀の うえ, Cに対 し覚醒剤約 10 グラムを代金 7 万円で 譲渡 し,代金 7 万円は譲受人 C か ら共犯者 A の口座に振 り込 まれたが,その 後 この 7万円は何者かによって引き出され現存が確認できない, という事案 である。原判決 ( 金沢地裁平成 6 年 2 月 2 4 日判決。公刊物未登載)は,覚醒 剤譲渡罪の成立を認めたが,譲渡代金 7 万円については特例法 1 7 条 1 項によ る追徴を しなか った。しか し名古屋高裁 は ,「( 不法収益の剥奪を 目的 とした) 麻薬特例法の制定の経緯,趣 旨及び右 『 犯人』には条文上何 ら制限がないこ

とにかんがみると,同法による没収,追徴の規定をおいた目的は,特定の個 人に帰属ない し保留 された利益相当分のみを剥奪す るとか利益の最終帰属者 のみか ら剥奪す るとい う限定的なものではな く,不法利益等 と認定 され るも のである限 り,その全額を同法にい う 『 犯人』か ら追徴すべ きもの としてい

ると解 される。 したが って,薬物犯罪の犯罪行為に及んだ者が不法収益等の

所有権を取得 し,または現にその利得を得たか否かにかかわ らず,その者が

共同正犯,教唆犯等の共犯であって も, これ ら共犯を含む犯人全員か らの追

(21)

麻薬特例法における不法収益の没収 ・追徴

203

徴を定めた趣 旨であると解す るのが相当である」 として,被告人か らの追徴 を言い渡 した。

また,共謀の うえ覚醒剤を譲渡 し,その代金 5 万 円は共犯者 に渡 し,報酬 と して手数料 5 千円を受 け取 った被告人 につ き,原判決がその 5 千円の範囲 で追徴 とす るとしたのに対 し,右高裁判決 と同旨を述べて 5 万 円につ き追徴 を言 い渡 した事例 として,高松高裁平成 6 年 1 月 31 日判決 ( 公刊物未登載)

もある

( 2) 追徴 は没収の換刑処分であ り,刑罰その ものではない。だが,没収不 能 となった場合 にその価額を犯人の一般財産か ら剥奪す る点で,没収 よ りも 刑罰 ( 財産刑)的性格が強い もの とされ るのが一般である。

だが,追徴の性格 に関 して も,やはり見解の相違がある

没収の換刑処分 としての性質を重視す る立場 と,刑罰的性格を重視す る立場 とがあ り,その 相違 は,没収不能 となった場合 に追徴を科せ られ る 「 犯人」の範囲につ き, 没収対象の所有者だ った者 に限 られ るとす るか,他の全ての共犯者 も含 まれ

るとす るか, とい う問題 に現れ る。

上の名古屋高裁判決のよ うな,追徴を科せ られ る犯人 には没収対象の所有 者だ った者のみな らず全ての共犯者が含 まれ るとす る立場 は,従来の追徴規 定 について も判例が古 くか ら採 っていた ものであった。多 く問題 とな ったの は関税法の追徴 につ いてであるが,判例 は しば しば, 「 ( 関税法の没収 ・追徴

の趣 旨は)単 に犯人の手 に不正の利益を留めず これを剥奪せん とす るに過 ぎ ないのではな く,む しろ,国家が関税法規 に違反 して輸入 した貨物又 はこれ に代わ るべ き価格が犯人の手 に存在す ることを禁止 し, もって,密輸入の取 締を厳 に励行せん とす るに出でたるもの と解すべ く,共犯者 ある場合 におい て, この趣 旨を貫徹 しようとす るには追徴すべ き価格 につ き共同連帯の責荏

において納付せ しむべ きものを解す るを相当 とす る

」 34)

等 として,刑罰的性

34 ) 大判昭和 1 0 年 4 月 8 日刑集1 4 巻391 頁,最判昭和 3 3 年 3 月 1 3 日刑集 1 2 巻 5 27 貢等参

照。さらにこの趣旨は,関税艦物犯などにも広げられ

,

「 当該犯罪に関与 した全て

の犯人を含む」とまでされた。最大決昭和 39 年 7 月 1 日刑集 1 8 巻269 貢等参照。

(22)

20 4

46

巻 第

2 ・3

格を理 由に 3 5 ),密輸貨物等の所有者で はな くなん ら利得 を得ていない共犯 者 にも追徴 の言渡を認 めてきたのである。ただ し,共犯者の各人に全額の追 徴を言 い渡す ものの,執行の段階では,共犯者 中の一人がその全部 または一 部を納付 したときは,その部分 については他の共犯者か らさ らに追徴す るこ

とはで きない ともしてい る3 6 )。共犯者 らは一種の不真正連帯債務 の関係 に あることになる。

だが これに対 しては,没収の換刑処分 としての性格を重視す る立場か ら, 没収な らば対象の所有者でない共犯者 はほとん ど財産的苦痛を受 けないのに 没収不能 とい う偶然の事情 によって突然財産的不利益を被 る結果 となるのは 没収の場合 と比べて著 しい不均衡 となるので追徴 は所有者だ った犯人 に限 る べ きである, との批判が されている訂

) 。

また,学説 では,た とえ関税法の 追徴規定 に関 してはその刑罰的性格を考慮 して共犯者全員か らの追徴を認め うるとして も, これを刑法上の追徴規定 も含めた他の追徴一般 まで及ぼすべ きでないとす る立場が有力であ り3 8 ),判例 も,収賄罪 における賄賂の追徴 等に関 しては,各 自の分配額 に応 じて行 うべ きもの としている3

9) 。

なお,多 く問題 となった関税法に関 しては,昭和43 年の改正 によ り必要的 没収の対象を輸入禁止制品のみ とす る,取得犯以外の関税艦物犯 についての

35 )最大判昭和39 年 7 月 1 日刑集 1 8 巻 29 0 頁 は,よ り端的 に,「関税法違反 の犯罪 に関与 した犯人 のすべて に追徴を科す ることは,犯罪 に対す る制裁 と,その抑圧 の手段 と しての刑罰 的性格 を有す る追徴 の本 旨に適合す るもの と認むべ きであ るか ら,犯罪 貨物 の所有者 また は占有者で ない犯人 に も追徴 を科 しうること」 は合憲で あるとし てい る。

36 )最決 昭和31 年 8 月 30 日刑集 1 0 巻 8

1 283 頁,最判 昭和3 3 年 4 月 1 5 日刑集 1 2 巻91 6 頁 等。 なお,大判 昭和 3

2 月 3 日刑集 7

67 頁 は,その理 由を, 「国家‑没収二代 ルヘキ追徴二依 り没収 セラルヘキ貨物 ノ価額以上 ヲ利得 スヘ カラサル コ ト勿論ナル ガ故ニ」としている

37 )最大 決 昭和 38

5 月 22 日刑集 17 巻 457 頁 および最 大決 昭和 39

7 月 1 日刑 集 1 8 巻 290 頁 の奥野健一裁判官 の少数意見 ,最大決 昭和45

1 0 月 21 日刑集24

1 4 80 頁 の 田 中二郎,色川幸太郎,大 隅健一郎裁判官の反対意見参照。

38 )藤木 ・前掲注 8)1 61 頁,出田 ・前掲注 6)363 頁等。

39 )大判 昭和 9 年 7 月 1 6 日刑集 1 3 巻97 2 頁,東京高判 昭和62 年 2 月 1 0 日判 時1 243

1 43

頁等。

(23)

麻薬特例法 にお け る不法収益の没収 ・追徴 205 追徴を禁止す る,船舶または航空機の没収 に代わる追徴を禁止す る等の措置 が とられた結果,現在では,苛酷な結果 となる場合 はほとんど生 じず,問題

は実質的に解決されたものとされている

40)。

だが,解釈論上 は,追徴を科せ られる犯人の範囲の問題 は以前 として存在 しているのである。

( 3 ) 上述のように,名古屋高裁判決,高松高裁判決 は,不法収益の所有 ・ 帰属の如何を問わず,犯人全員か ら追徴すべ きであるとしたOその一人が全 部または一部を納付 した場合の他の者の納付義務 については判示がないが, やはり従来の判例同様一種の不真正連帯債務関係 とす るのであろう

41)。

だが,それは正当とは思われない。そのような処分 に対 しては上掲の批判 のような問題性がある。また,麻薬特例法の追徴 は,単なる刑罰的処分 と理 解すべ きで もないであろう

上述のように,特例法 は,収益を価値的 ・数量 的な特定性 ・同一性があるか ぎり没収可能 とし,また,没収可能な場合にも 追徴‑の裁量的切替を認める等,収益剥奪 という点を重視す るため、すでに 没収 と追徴の相違 は希薄になっている

そ して,そのように してまで収益剥 奪を図 るのは,単 に財産刑 としての性質を強化するためでな く,む しろ,犯 人に保有 される収益が薬物犯罪のさらなる累行に利用 される危険があるため にこれを剥奪する対物保安処分的性質が強いものなのである。麻薬特例法に おいて収益剥奪手段 として没収 ・追徴が もはや接近 している以上,追徴につ いて も,保安処分的性質 も強い剥奪 として,収益が現に帰属 し保有 されてい た者か らこれを行えば足 りるとい うべ きであ り,また,そ うでない者か ら行 うのは不合理なのである。不法収益の剥奪 は,それが現実に帰属 ・分配 され た者か ら行えばよ く,取得 された収益が没収不能 となった場合の追徴 も,個 別 に行えば足 りるであろう

40 ) 鬼塚賢太郎 「 判例解説 」 『 最高裁判所判例解説刑事篇昭和 45 年度 』357 貢 ( 法曹会, 1971) ,岩井宜子 「 没収 ・追徴」西原春夫他編 『 判例刑法研究 1』30 2 頁以 下 ( 育 斐閣 ,1 980 ) 等参照。

4 1 )立案担当者 はそのような立場である。古 田他 ・前掲注 1) 「 解説( ‑) 」90 頁。なお,

古田他編 ・前掲注 1) 「 薬物五法 〔 麻薬特例法 〕 」68 貢参照。

参照

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