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慢性カドミウム中毒の実験的研究

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188 金沢大学十全医学会雑誌 第76巻 第1号 188−193 (1968)

慢性カドミウム中毒の実験的研究

一特にラッチにおけるCdの体内蓄積について一

〔皿〕Cd 5,10,25 ppmを含む飲料水を与えた実験

金沢大学医学部衛生学講座(主任 石崎有信教授)

    田   辺    釧

     (昭和42年10月3日受付)

 本研究の実験〔1〕で,50ppmの濃度でCdを飲 料水に溶かして与えたとき,ラッチの各臓器にかなり の量の蓄積をみることを報告した.

 このような蓄積がどの程度め濃度ならば起るかを明 らかにすることは,Cdの慢性中毒を考える上に重要 なζとがらと思われるので5,10,25ppmの3段階 のCd水をラッチに与えて体内の蓄積状況を観察 し,実験〔1〕におけると同じく,一定;期間Cdを投 与して後,投与をやめて,ある間隔をおいてラッチを 殺し,臓器内のCdの投与中止後の消長をも,観察す

る実験を行なった.

実 験 方 法 1.実験動物及び実験時期

 市販の生後1ヵ月の雑種ラッチを購入し,約2週間 オリエンタルの繁殖用轡型飼料NMFで飼育後,130g 前後のものを使用した.ラッチは,雌雄別々のかごに 各々2匹ずつ入れて飼育した.

 Cd水の投与開始は,昭和38年11月6日からであ る.雌雄各7匹計14匹を1群として,4群にわけ投与 した.投与後,1カ月,2カ月,4カ月後にそれぞれ の群につき,雌雄2匹ずつ殺し,4カ月でCd投与を 中止し,その後5カ月たった昭和39年8,月3日に,雌 雄各1匹ずつを殺して観察した.

∬.飼料及びCd投与法

 飼料は実験〔工〕と同じものを使った.

 塩化CdをCd量にして,5,10,25 ppmの割合 で水に溶かし,給水瓶に入れて与えた.対照群にはも ちろん水道水のみを与えた,

皿.体重測定

g鋤

200

100

図1a体重曲線(対照群)

0 60 120 180, 220日

図1b 体重曲線(Cd.5ppm投与群)

0 60 120 180 220日

 Experimelltal Study of Chronic Cadmium Po量soning Especially About the Accumu・

lation in the Bodies of Rats No.2An Experi血ent of Giving Some Drinking Water including 5,10,25 ppm Cd. Sen Tanabe, Department of Hygiene(Di−ector:Prof.

A.Ishizaki), School of Medicine, Kanazawa University.

(2)

図1c 体重曲線(Cd.10 ppm投与i群)

 090 4

300

200 0

図1d

60 120 180 220日

(Cd.25 ppm投与群)

100

 図1,a,b,c,dは,それぞれ対照,5ppm,10 ppm,25 ppm投与群の体重曲線である.

 5ppm.10 ppm投与i群では,発育が順調で,対照 群と何らの差も認めなかった,

 25ppm投与群では,2カ月目の体重は全体とし て,対照群その他に比較して,低値を示すものがみら れ,一部には一カ月目の体重よりは低下を示している ものがある.しかし,3ヵ月目の体重は,すべて2カ 月目より高くなっている.

皿.骨のCa及びPについて

 Ca及びPの定量は,最後に殺したもののみについ て行なったが,図2に示すように,4つの条件の間に 特別の差が認められない.

皿.Cdの体内貯溜について

 Cdの臓器中の貯溜は,肝臓及び腎臓についてのみ みた,その値:は表1a,b,c,d,図3a,b,cに示した.

対照群ではもちろん蓄積といえるほどのCdは認めら れない,ことに肝臓の分析値に現われた量は,分析誤 差の範囲に近いものである.しかしながら,4カ月目 の腎臓の分析値に現われたg当り0.3γは,無視し得 る値ではない,餌の中に自然に含まれているCd,あ るいは周囲にCdを使っているための汚染かとも考え

られる.

 5ppmを与えた群では,肝臓中のCd量は対照の 値の10倍に近いものであるが,月をへてもほとんど変 らない.故にCdが特に蓄積する傾向があるものとは 認められない.一方投与中止後5ヵ月たった値とほと んど変らなかった.

 これに反し腎臓中のCd量は,月をへるとともにわ

陣止 図2 骨の℃a及びPの分析値:

       (生骨1g当りのmg)

    ♂♀

0 60 120 180 220日

 実験開始時に各群のラッチを,感度2gの計器で体 重測定を行ない;一一ぞめ後だいたい一1カ月1回の間隔で.

行なった.

IV.化学的分析方法

 臓器中のCd 1)及び骨のCa 2), P 3)の分析は実験 一〔1〕に記載したと同じ方法によった.一一 一一

70

P

/・・

25ppm投与 10ppm投与 5ppm投与  水

1.体重曲線

実 験 結 果 110

一甲一輔→・Ca

130 150

(3)

190

表1 肝臓及び腎臓における蓄積量の変化

a.対 照 群 ーヵ月後2カ月後4カ月後 4カ月中止後

Rat番号 3ε♀♀均1234平 ε8g︐♀均5678平

10 ・ε9 8

11 ♀ 12 ♀

平均 13 3

14 ♀

平均

肝重:量9

13.4 10.1 9.8 7.8 10.3 16.2 12.6 10.1 10.9 12.5

16.6 15.3 9.1 7.7 12.2

13.9 9.8

・11.9

肝Cd総量9

0.7 0.9 0.6 0.5 0.7

0.95 0.25 0.35 0.35

0.48,

3噌1FO4ームー﹂唱101﹂ーム

1.15 0.85・

1.00

肝Cd・・/g1 0.052 0.089 0.061 0.064 0.067 0.059 0.012 0.035 0.032 0.035 0.076 0.072 0.055 0.180 0.096 0.083 0.087 0.085

腎重量9

1.9 2.6

L7

1.4 1.9

2.8 2.2 1.4 1.8 2.1

3.2 3.1 2.2 1.3 2.5

2.7 2.3 2.5

腎Cd総量9

0。2 0.5 Q.3 0.2 0.3

0.25 0 0 0 0.063 0.7 0.5 0.2 0.8 0.6

Pb 

3

8QUΩUOハUO

腎Cd.γ/9 0.11 0.73 0.15 Q.14 0.28 0.09

0 0 0 0.023 0.22 0.16 0.09 0.63 0.28 0.31 0.36 0.34

b.Cd.5ppm投与群

ーカ月後2カ月後4カ月後 4カ月⁝中止後

Rat番号 15 ♂ 16 ♂ 17 ♀ 18 ♀

平均

19 ♂ 20 ♂ 21 ♀ 22 ♀

平均 23 3

24 ♂ 25 ♀ 26 ♀ 平均

27 ♂ 28 ♀ 平均

肝重量9

7.5 10.4 13.2 11.5 10.7

14.2 12.3 13.5 11.6 12.9

14.6 15,3 11.7 10.2 13.0

13.0 11.2 12.1

肝Cd総量9

6.1 7.1 3.6 2.2 4.8

2.2 7.0 2.4 2.8 3.6

Qy47置FOOVQVF◎34PO

8.4 4.4 6.4

肝Cd.7/9

0.81 0,68 0.27 0.19 0.49 0.15 0.57 0.17 0.24 0.28

7.FOームn64ρ0000U44

︵UOOOO

0.65 0.39 0.52

1腎重量9

1.3 1.3 2.0 1.8 1.6

2.6 2.0 2.0 2.0 2.2

7・ハbームハOQり9UgU2圏−凸2鞘

2.3 1.8 2.1

腎Cd総量g

1.0 1.5 1.3 1.1 1.2

2.6 3.6 2.3 1.9 2.6

5.1 3.6 2.7 3.2 3.7 7.8 3.7 5。75

腎C(Lγ/9 0.77 1.15 0.65 0.61 0.80 0.99 1.76 1.13 0.97 1.21

1.87 1.38 1.30 2.①1

1.64 3.5 2.1 2.8

(4)

c.Cd,10 ppm投与群

Rat番号 肝重量9   29 ♂  11.6.ユ   30 11.4   31 ♀  8.1

.月.  32  ♀  8.7

  平均   10.0

2カ月後4カ月後 4カ月中止後

33 δ

34 335 ♀ 36 ♀ 平均 37 ε

38 6

39 ♀ 40 ♀

平均 41 ε 42 ♀ 総量

14.9 12.5 8.7 11.9 12.0 11.2 15.4 9.1 8.5 11.1

11.9 12.0 12.0

肝Cd総量9

4.9 4.6 12.2 7.4 7.3

10.7 19.4 5.2 3.3 9.7

9.6 13.2 8.8 4.7 9.1

16。2 8.6 12.4

肝Cd・・/・1 0.42 0.40 1.51 0.85 0.80 0.72 1.55 0.60 0.28 0.79 0.85 0.86 0.96 0.54 0.80 1.4 0.72 1.06

腎重量9

2.1 1.8 1.5 1.9 1.8

2.6 2.4 1.4 1.9 2.1

2.2 2.6 1.6 1.5 2.0

2.9 2.1 2.5

腎Cd総量9

1.4 1.1 2.7 2.0 1.8

3.4 5.3 4.0 2.0 3.7

4.2 6.7 4.6 3.0 4.6

10.5 6.0 8,25

腎Cd.γ/9 0.67 0.61 1.77 1.05 1.03

1.32 2.25 2.80 工07

1.86

1.93 2.58 2.90 1.98 2.35

  57・8232nδ

d.Cd、25 ppm投与群

ーカ月後2カ月後4カ月後 4カ月中止後

Rat番号

δδ♀♀均

剛力45妬平 δ3♀♀均

47J狛50平

51 6

52 δ 53 ♀ 54 ♀ 平均

55 δ 56 ♀ 平均

肝重量g

8.4 10.0 10.5 9.7 9.7

8.8 13.3 9.9 9.0 10.3 11.5 10.3 9.7 9.2 10.2

18.2 13.3 15.8

肝Cd総量9

12.0 21.3 20.0 16.2 17.4

16.4 25.3 25.5 26.8 23.5 34.5 37.6 21.0 24.0 29。3 29.6 24.8 27.2

肝Cd 7/9

1.4 2.1 1.9 1.7

1.8

Qソ9ハ004112002

3.0 3.7 2.2 2.6 2.9

1.6 1.9 1.75

腎重:量9

1.5 1.7 1.7 1.8 1.7

1、7 2.2 1.9 1.6 1.9

2.8 2.2 1.8 1.7 2.1

92噌1

0023

腎Cd総量9

0ρ034轟ーム22鰯4りOQU

6.0 7.0 6.7 6.5 6.6

11.2 10.8 9.2 9.4 10.2 18.3 18.0 18.2

腎Cdγ/9

1.3 1.5 2.5 1.9 1.8

3.6 3.3 3.6 4.2 3.7

︵UQゾー凸7944鯵b一り4

4.7 8.3 6.5

(5)

192

図3 肝臓及び腎臓における蓄積量の変化     a,Cd 5 ppm投与群

ぬ5

4

3

2

1

  0 9 略

。膚θ自 2 9●

ド撃

880馳

口●

100 200

図3 b・Cd 10 ppm投与群

300日

ずかずつではあるが,上昇の傾向がみられる.しかも 投与中止後5カ月たった例の腎臓中の値が,投与4カ 月後の値よりも,はるかに上昇している.ようするに 5ppmの濃度においてもCdは,腎臓に蓄積する傾 向を示すものと考えられる.

 10ppm投与群の臓器蓄積量に,かなりばらつきが あるが,大体5ppmの場合の2倍に近いものと思わ れる.この場合も肝臓中の値は全経過中ほとんど変り はなく,腎臓ではしだいに上昇し,投与中止後も上昇 する傾向がみられる.

 25ppm投与群の蓄溜:量は,投与:量の割合にくらべ て,前2群よりも大きい.しかも肝臓中の蓄積量は,

投与中はしだいに上昇し,投与中止後は低下するもの のようである.腎臓中の蓄積量は,投与中止後も上昇 するものとみなしてよい.

r/9 5

4

3

2

00 08O

   O●O●nロ︐

O口 0口

0

o

0●

㎏9

8 7

6

5

4

3

2

1

080●

100 2go

図3 c.Cd 25 ppm投与群

O

恥●●

ド竺中止

O O口口60●O

o

o

●画

3㏄日

100 200 300日

 体重曲線からみて,10ppm以下では特別の所見は なかったが,25ppm投与では,実験〔1〕に報告した 50ppmの場合と同じく2〜3カ月目頃に,発育抑制

がみられている.

 ラッチの発育に対する悪:影響などの点からみて,

Cdが動物に短い期間で有害に作用する濃度は,飲料 水に溶かして与えた場合,25ppmが大体の限界と思

われる.

 臓器中の蓄積もDeckerら4)の述べているように 25ppm以上では,著しく現われるものらしい・

 10ppm以下では,蓄積傾向は著しく小さい.こと に肝臓中の量は上昇傾向が認められない.しかしなが ら腎臓にはごくわずかずつのCd}が与えられたときで も蓄積されるもののようである.本実験の対照群にお いても,しだいに腎臓中のCdが増加したことからも うかがわれる.

 5ppm投与群においても,肝臓中の量は低い値に て一定していたが,腎臓中の量はしだいに上昇し,投 与中止後も他の臓器に含まれていたものが,移動して 腎臓に集まったものらしく,その量は上昇している.

 この腎臓における蓄積がCdによる慢性中毒として 症状を現わす原因となるか否かは,別の問題として考 えねばならないが,今までの文献5)6)7)によれば,Cd を経口的に投与した場合の有毒作用を現わす限度は,

5ppm程度であると考えてよいように思われる.

 Anwarら6)により犬を使った4年間の実験では,

5PPm投与でも腎臓に変化が現われているという報 告があり,またDecker 4)によるとラッチに5ppm を投与した場合に長期間では肝臓及び腎臓に蓄積す

(6)

ると述べている.

Schoreder 5)もマウスを使い5ppm Cd水投与す ると18カ月で死亡率が高くなったと述べている.

       結     論

 ラッチに5,10,25ppmの3段階にCdを飲料水

に溶かして与えた.

 1)10ppm以下では,発育に悪影響は現わさない が,25ppmでは発育を抑制した.

 2)25ppm投与では,明らかに体内に蓄積傾向を 示したが,10ppm以下では腎臓には…蓄積するが,肝 臓中の値は低値のまま一定値で経過する.

 3)Cdが比較的短期間に有毒作用を現わす限界は 25ppm程度と考えられ,長;期間に有害作用を及ぼす 限界は,5ppm程度と推定された.

      文     献

1)Cllolack,」.&1). M. Hubbad 3 1ndust,

and Engineer. Chem.,16,333, Analy. Ed.,

(1944).  2)石崎有信・坂元倫子・相 静江3 栄養と食糧,17,251(1964).  3)Allen, R.

J.L.= Biochem. J.,34,858(1940).

4)1)ecker, L. E., Byerrum, R. U.,:Decker,

C.F., Hoppert, C. A.&1・angham, R. F.=

Arch. Indust. Health,18,228(1958).   5)

Sehroeder, H..A., W. H. Vinton&Balassa,

J.」.: J.Nutr.,80,39(1963),

6)Anwar, R. A., Langha皿, R。 F.ダC. A.

Hoppert, B. V. Alfredson,&R. V. Byrrum:

Arch. Enviromental Health,3,456(1961).

7)Schroeder, H. A., W. H. Vinton.&

Balassa, J.」. : J. Nutr.,80,48 (1963).

       Abstract

   Cd(5,10,25 ppm)dissolved in three di壬ferent qualltities圭n drlnking water,

WaS glven tO ratS・

   1) Under 10 ppm, bad influence did not appear on their growth, but ill case of 25 ppm, their growth was controlled.

   2)When 25 ppm was given, accumlation in the body could be observed clear・

1y.      .

   But under 10−ppm, it was presumed that it accumulated in the kidney, while its va垣e in the liver■emained fixed,:Keeping low.

   3) The limit that Cd. gave a poisonoロs operation in a short period was about 25ppm.

   But it was estimated that the limit that Cd. gave a poisonous operation in二a long period was about 5 ppm.

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