北陸 地質研究 所報告 HG IReport No .5Augu st,1996 p.311‑325
金沢市 に分布する大桑累層中の微生物被膜
北戸丈晴 *・田崎和江 *
Microbial matsattheOmmaFormation inKanazawa,Japan
Takeharu Kitado*andKazueTazaki*
(1996年2月29日受理) (Received 29,Feb.,1996)
Abstract
TheOmmaFormation disbibutedaroundKanazawacityismainly composedofsandstone depositedatshallowseaintheearlyPleistocene.Recentyears,theOmrnaFormadonhasbeencut forlanddevelopment.M crobialmatsareformedaroundtheplacewhereFe‑MnriChunderground waterflowsfrom theOmrrnFormation.MicrobialrTntSaremainlycomposedofmicroorganismswi th
sediments.TheOmmaFormationinwhichmicrobialmatsarefom edcontainsmallamountsofclay m
ineralSwithEhl16‑143mV,showingareductiveenvironment.TheXRDpattemsofmicrobial matsshowedmainlybroadbackgroundwithsomeweakpeaks,sugges血gthepresenceofquartz, poorlycrystallizedferrichydroxidesandlargeamountsoforgar血 matter.SEM observationrevealed thatmicrobial matswere composed oflargeamountsoffilamentousgreen algae.Chemical compositionsofFe,Si,PandCaweredetectedbyEDX.XRFresultsshowedthatmostofsediments intheOmmaForm ationcontainhigh Fe,whereasmicrobialmatsedimentsshowedrelativelylowFe content.UndergroundwaterchemistrykomtheOmmaFormationshowedhigh Fe,Ca,MgandMn ionsinthecomparisonwith thesedimental chemistry.Inmicrobialmatsedimentstheironhas dissolvedfrommi crobialmatsediments.MicrobialmatseasilyformedunderoxidizedconditioninFe
‑richundergroundwaterwithmicroorganisms.
はじめに
温泉水,鉱山排水, 河川水な どにバ イオマ ッ ト(microbial mats)と呼ばれ るマ ッ ト状の堆積物が 見 られ,微生物お よびその付着物が集合 して被膜 を作 っている.先 カンブ リア紀の縞状鉄鉱床や ス ト
ロマ トライ トな どもその一つであるといわれている.現生の ものでは, アイスラン ド(Tazakietal.,
* 金沢大学理学部 地球学教皇
1994;田晩 1995),北米 イエ ロー ス トー ン (Mannetal.,1991,1992),長野県平場温泉 (田崎他, 1996)な どの地熱地帯 に も見 られ るほか, 旧松尾鉱 山 (Wakaoetal.,1991), 旧中電鉱 山 (Tazakiet al.,1994)な どの鉱 山地域 に も見 られ る. それ らは, 黄 色, オ レン ジ色 を呈 し, 固化 した ものは し ば しば縞状堆積物 をつ くってい る.
一方,大桑累層は石川県金沢市に広 く分布す る浅海性 の砂 岩層 であ る.近年の土地 開発 によ り大桑 累層が切 り崩 され, そこか ら流出す る湧水の周辺 にはおびただ しい量 の赤褐色のバ イオマ ッ トが形成 している. ゴルフ場,産業廃棄物処理場,採土場, 金沢大学建 設地周 辺 な どがその例 であ る. また, 大桑累層においてその ような土地開発 のない 自然の状態 であった として も,層間か ら水が湧 き出ると ころにバ イオマ ッ トが形成 しているところが多い. しか し,大桑 累層 の上位お よび下位 に位置す る卯 辰山累層,高窪累層には全 くバ イオマ ッ トの存在が確認 されていない. この よ うに,大桑 累層 は他の 層 とは異な り,バ イオマ ッ トが容易にで きる要 因があ ると考 え られ る.加藤 (1995)は,大桑 累層か らの湧水 はFe,Mnイオンを多 く含み,溶存態 で安定 であ る と報告 してい るが,大桑 累層の中で もバ イオマ ッ トが形成 され る部分 とされない部分 とがあ り,大桑 累層が海 成層である とい う理 由だけでは な く,他 に重要 な要 因があ る と思われ る.本研究では,バ イオマ ッ ト形成の要 因につ いて解 明す るこ とを目的 とし,段丘堆積物 と大桑累層か ら成 る金沢市中二又町 での露頭 を中心 にバ イオマ ッ トの分布 を明 らかに し,砂岩層の特徴 水質,粘 土鉱物,お よび室 内実験か ら, その形成の メカニ ズム を考察 した. なお,大桑累層が分布 している金沢市中二又町周辺 においては, 山本 (1995), 小沢 (1996) が徽 化石の産 出か ら古環境 の推定 を行 っている.
地質概要
本研究地域の地質は,その表層の堆積物 が約100mの砂 岩,泥 岩, 硬 岩互層か らな り,下位 層か ら 高窪 累層,大桑累層,卯辰 山累層,高位砂磯層 で構成 されてい る (細 野他,1988).
大桑累層は第四紀の前期 更新世 (165‑80万年 )の浅 海性 の均 質 な細 〜中粒 の砂岩堆積物 であ り, 上部 は黄褐 色,下部 は青灰色で固結度が悪 い. また,下部 には保 存の良 い貝化石 を多 く含 む.大桑累 層の模 式地 は金沢市大桑町 であ り,手取川以北,羽咋以南の丘 陵綾部 に分布 してお り,金沢市街地で は医王 山累層か ら高窪累層 までを不整合 に覆 う (細野他,1988;細野,1993).
大桑 累層の下位 の高窪累層は,最上部 は軽石凝灰岩か らな り, その下層は主に砂質泥岩か らなる.
数枚 の連続性の よい軽石凝灰岩 と細粒砂岩 をは さみ,一部 に磯 を含む. 高窪累層の模 式地 は富山県福 光町高窪 であ り,模式地か ら西方の金沢市東部地域 にか けて広 く分布 す る.時代 は上部 中新 〜下部鮮 新世 と考 え られ その最大層厚は200mであ る (細野他, 1988:細野,1993).
大桑 累層の上位の卯辰山累層は,中粒 ・粗粒 の砂岩 を中心 とし,数枚 の粘土層 と磯 層 をはさみ,層 相 は場所 に よって変化す る.堆積環境 は,大部分 が 内湾性 の浅 海 であ り,堆積 の初期 と後期 には,一 部 に淡水域 が存在 した と考 えられてい る.卯辰 山累層の模 式地 は石 川県金沢市東部の卯炭 山であ り, 手取川以北,羽咋以南の丘陵部 に分布 してい る (細野他, 1988;細野,1993).
試料 と実験方法 1.試料
実験 に用 いた大桑累層堆積物 試料 は,段 丘堆積物 (No.1‑ 4)と大桑 累層 (No.5‑25)か ら成 る金沢市中二又町の採 土場 の露頭か ら採取 した. この露頭 で,各層の植 生,土色,粒度の差異か ら25 試料 を採取 し, その うちNo.1‑ 4は,段丘堆積 物 であ る.No.5‑25の大桑 累層は,3枚 の粘土層
と海成層 であ るこ とを示す2枚 の貝化石密集層, さ らに3枚 (No.犯 21,25)のバ イオマ ッ ト層 を 含む (Fig.1). その赤褐色 のバ イオマ ッ トをFig.2に示 した.バ イオマ ッ トは顕微鏡観察試料 とし てプ ラスチ ック管瓶 に採取 した.卯辰山累層堆積物試料 は,金沢市東部 の卯炭 山周辺の2カ所の泥岩 層 と段丘磯層の合 わせ て3カ所 か ら採取 した.この地域 では,更新世 中期 の卯 辰 山累層が広 く分布 し, 磯岩層 ・砂岩層 ・泥岩層か らなる層相変化の著 しい地層であ る. また湧水は, 原子吸光分析 を行 うた めに,卯辰 山累層,大桑累層, その下位 に当た る高窪累層か らそれぞれ採取 した.試料採取時のpH はそれぞれ,7.1,7.1,6.8であった.
2.実験方法
採取 した堆積物 は,試料の乾燥重量100gに対 して蒸留水100mlを加 えてよ く撹挿 し,その水のpH, Eh(酸化還 元電位)の測定 を行 った. さらに採取 した堆積物 と水はプ ラスチ ック管瓶 に入れ,室温 に静置 し,定期 的にpH,Ehを測定 した.水中の微生物が付着 したマイ クログ リッ ドは透過型電子顕 微鏡 で観察 を行 った.堆積物 はガ ラス板 に,バ イオマ ッ トは無反射板 (Si単結 晶)に塗布 し,室温 風乾後にX線粉 末 回折 を行 った.X線粉末回折装置 (理 学電機社製 mnt1200)は,Cukα線,加速 電圧40kV,電 流30mAの条件 で鉱物の同定 を行 った. さらに堆積物 につ いては,全署試料 と2〃m 以下の粘土分試料 とに分 けて分析 を行 った.粘土分試料 は, 未処理,エチレン グリコー ル処理,加熱 処理 (660℃)を行 い粘 土鉱物 を同定 し, スメクタイ ト(14Å), イライ ト(10Å), カオ リン鉱物 (7
A)のそれ ぞれ の反射 強度 (cps)か ら含有量 を求め た.バ イオマ ッ トは,蒸留 水で懸濁 させ た後 ス ライ ドグラスの上に乗せ, カバー グラスをが ナて微分干渉光 学顕徴税 (ニ コン社 製x2HPD型)で 観察 を行 った. また,先輪の試料 台の上 に固定 し,室温乾燥 させ た試料 を炭素蒸着 した後,滝壷型電 子顕微税 (日本亀子製 JSM ‑5200LV)とそれに取 り付け られたエネル ギー分散分析装置 (Philips 社製PV‑9800STD型) を用 いて,加速電圧15kVの条件 でバ イオマ ッ トの微細 形態 とその元素分 析 を行 った.
大桑累層 と卯 辰 山累層の堆積 物 の全署化学組成 を調べ るために,それ ぞれ3試料 ずつ蛍光 Ⅹ線分 析 を行 なった. 試料は, 乾燥後乳鉢 で粉末に し, 四ホウ酸 リチ ウム とまぜ あわせ て蛍光 Ⅹ線分析用 試料 とした. この分析 には,理学電機製System3270を用 いた.湧水については,採取後1N‑HCl を加 えて,微生物 の影響 をな くし,かつ金属 イオンのプ ラ スチ ック管瓶への付 着 を防 ぐため にpHl 前後に保持 した. その後,0.45JLm孔径の メンブ ランフ ィル ター を用いてアスピレー ター で吸引 し, その櫨液 を原子吸光分析 器 (日立Z‑6100)で分析 した.
結 果 1.堆積物 の pH,Ehお よび粘土鉱物組成
金沢市小 二叉町 の採 土場において作成 した柱状図 (Fig.1)をもとに して,採取 した25試料 につ い てpH,Ehを測定 した (Fig.3).pHについては,段丘堆積物試料 であるNo.1‑4が5.4‑6.Oと値 い値 を示 し 大桑 累層堆棟物 は,No.5‑16において6.8前後の値 を示 してい るのに対 して,No.17
‑25は5.2か ら8.6と弱酸性か ら謂アル カ リ性 の幅広 い範囲 を推移 している.バ イオマ ッ トの形成が 見 られたNo.20,21,25のそれ ぞれのpHは,7.5,6.8,8.6であ った.Ehは,No.1‑4が300mV 前後の値 を示 し,No.5‑15にかけ て200‑250mVの間で推移 してい るが,No.16にお いて急激 に 上昇す る.No.16よ りEhは,減少 を始め,No.21で120mVと低 い値 を示 した後,No.25で116mV と貴低値 を示 した. また,バ イオマ ッ トの形成が見 られ る層 はそれぞれ,143,120,116mVと非常 に低 い値 であった.採 取 した堆積物 と河川水 を入れ たプ ラスチ ック管瓶 のpH,Ehを測定 した結果,
6月12日か ら8月31日までは,pH7‑ 8,Eh0‑300mVを示 した.実験 日数 を経 るに従 ってpH の変化 はみ られないが,Ehはプ ラスの方向‑推移 した (Fig.9).
大桑累層堆積物の25試料 につ いて,仝岩試料及び2〟m以下 の粘土分試料の Ⅹ線粉末 回折分析 を行 なった.全岩試料の構成鉱物 は主に石英 と長石類 であ り,少量の粘 土鉱物 (スメクタイ ト,イライ ト, カオ リン鉱物)も含 まれてい るが,鉄鉱物 の存在 は認め られ ない.2J∠m以下の粘土分 試料 について は,未処理,エチ レング リコー ル処現 加 熱処理 (660℃)を行 な うこ とに よって粘 土鉱物 の同定 を 行 なった. その結果,全試料 ともにス メ クタイ ト(14Å), イライ ト(10Å), カオ リン鉱物 (7Å)が 含 まれていた. さらにその反射強度 (cps)か ら含有量 を求め た結果,バ イオマ ッ トが形成 していた No.20,21,25は, ともに粘土鉱物の含有量が少 ない とい う特徴 が あ った (Fig.4).この3試料 中 のカオ リン鉱物の含有量は全試料で大 きな差がないのに対 して, スメ クタイ ト, イライ トの含有量に ついては他 の試料 よりも相対的に少ない傾 向にある.
2.水の化学分析
大桑,卯辰山 高窪累層の三累層か らの湧水の化学組成,特 にFe,Mn,Ca,Mgにつ いて原子吸光 分析 を行 なった結果 をTablelに示す.大桑 累層の湧水 中には, この 4元素 とも高い割合 で含有 して いる.特 にFeの含有量については,大桑累層が卯 辰 山累層 の約10倍 も高 く,卯 辰山累層,商窪累層 ではFe,Mnはほ とん ど検 出されなか った.大桑累層中のCa,Mgも,卯辰山,高窪両累層 と比べ, 非常に高い濃度で含 まれていることが分かった. なお,pHは水の採取時に現地で測定 したものである.
3.バ イオマ ッ トの微細形態及び化学組成
堆積物試料No.20,21,25に形成 していたバ イオマ ッ トを微分 干渉光学顕微鏡 で観察す る と,鞘 の径が0.1‑0.5〟mの繊推状 の緑藻 と, その表面 に付 着 した球 粒状 の物質が 多 く見 られ (Fig.5‑
A), しば しば珪藻類 も観察 された.緑藻 は綱 目の ように絡 ま りあい, その表面 には球粒状や薄膜状 の物質が付着 している. これ らをクロスニ コル で観察 す る と (Fig.5‑B),緑 藻に付 着 した物質 が 鈍い光 を呈す るこ とよ り,低結 晶性の物質 であ るこ とが示 唆 され る.一方,無反射板 に塗布 したX
線粉末 回折分析の結果は, ブロー ドなバ ックグラウン ドを示 し,主 と して有機物 と低結晶性の水酸化 鉄鉱物,少量の石英であることを示 した (Fig.6).
また,Fig.5‑Cに示 した ミクロンサ イズの微細粒子が集合 してい るの も確認 され,エネルギー分 散分析結果 を考 えあわせ ると,FeまたはMnの濃集物 であ る. さ らに,バ イオマ ッ トを走査型電子 顕微鏡 で観察す ると,Fig.7に示す ように緑藻の コロニー がみ られ る.鞘 の径 が約1FLmで,長 さは 約100JJmに達す る緑藻は, 中空の管状 であ り,絡 ま りあって層 を形成 してお り,表面 には微細粒子 を付着 させ ている.拡大 して観察す る と(Fig.8), その微細粒子 は粒状 または薄膜状 を里 し,細胞の 一つ一つに多量に付着 していた.その付着物 をエネル ギー分散分・折 で元素分析 を行 った結果,Feお
よびSiを主成分 とし,少量のP,Caを含んでい ることが確 認 され た.
4.大桑 ・卯辰 山両異層の堆積物の蛍光X線分析
大桑,卯炭 山両累層か らの湧水の庶子吸光分析結果 よ り,大桑累層か らの湧水 中には,Fe,Mn,Ca,
Mgの含有量が多いことが確認 された. その ことによ り,大桑累層,卯 炭 山累層の堆積物の化学組成 を知 るために, それぞれ3試料 について,主要10元素 (Si,Ti,Al,Fe,Mn,Mg,Na,Ca,K,P)を常光
Ⅹ線分析 で分析 した.貴 も主要 な元素 であ るSiを比べ る と,大桑累層 は卯辰 山累層 に比べ約4%多 く含 まれ,Alにつ いては逆 に卯辰山累層の方が約6%多い.バ イオマ ッ トの主成分 であ るFeについ
ては,平均約2.3%大桑 累層に 多 く含 まれてい る.一 方,バ イオマ ッ トの形成が確認 され た地層(No.
25)においては, 同 じ大桑累層 の試料No.5,14と比べ る と,Fe,Mnの含有量が少 ない.大桑累層 には,卯辰 山累層 の2倍以上のMn,Mg,Naが含 まれていた (TabJe2).
5.堆積物 を用いたバ イオマ ッ トの生成実験
金沢大学の調整 池か ら採取 した堆積物 と河川水 を,プ ラスチ ック管瓶 中に入れて静置 したマ イクロ グリッ ドには,3‑ 5日後には,バ イオマ ッ トの付着がみ られ,梓状のバ クテ リアが観察 された. そ の細胞表面 には,薄 膜や微細粒子状 のMn‑Fe生体鉱物が生成 していた.その透過 型電 子顕微鏡観 察結果 をFig.9‑A,Bに示 した.棒状のバ クテ リアの周辺には,フ イルム状 の物質や グラニュラー な微細粒子が見 られ る. これ らは独立に存在す るのではな く,両者は混合 し, または漸移 している.
この薄膜状の物質 はMnを主成分 とし,粒状の物質 はFeを主成分 とす る.
考 察 1.バ イオマッ トの形成要因
金沢市中二 又町 の採土場の露頭 において,大桑 累層中に形成す るバ イオマ ッ トの形成要因が明 ら かになった.大桑 累層 に見 られ るバ イオマ ッ トの形成過程 には,低 いEh,地下水 中の高い Mn‑Fe 含有量,粘土分 が少 ないな どの要 因が関与 してい る.Ehの値 は低 く還 元的で,金属 イオンが溶出 し やすい性質 を示 してい る.加藤 (1995)は,大桑累層の問隊中のFe,Mnイオンは溶宥恕で安定であ ると報告 してい る. さらにバ イオマ ッ トの形成す る層は粘土含有量が少 ないこ とか ら,粘土の眉間へ の陽イオンの保持 力 も弱 く, その層の間隙水 中にはFeイオ ンの溶脱が起 こ りやす くな る.その こと は,バ イオマ ッ トの形成す る層にはFeの含有量が少ない とい う蛍光 Ⅹ 線分析結果や,層間か ら流出 す る湧水中にはFeイオンが多 く含 まれていることを示 した原子吸光分析結果 とよ く‑致 している.
大桑累層にはバ イオマ ッ トや緑藻が繁殖 しやすい場が形成 されている.電気的に陰性である微生物の 細胞壁には,水 中の可溶性 の陽イオンが容易 に結合,蓄積, 固定す る性質があ り,微生物 は陽イオン の核形成の場 を与 えた後,鉱物 を細胞壁 の内外 に成長 させ る (田崎,1995).鉱 山排水 中の珪藻が水 中の Mn,Feな どの イオンを取 り込み,殻の表面に吸着 (Mannetal.,1992;PiresandTazald1993) した り,酸性鉱 山排 水 中の鉄酸化細菌 (Tfe77OOXidans)が鉄の酸化エネルギー を用いて二酸化炭素 の固定 ・菌体合 成 を行 い増殖 し,鉄酸化バ イオマ ッ トを形成す る (Wakao,1996).
大桑累層におけ る微生物の関与 を培養実験 に よ り確認 した.大桑累層堆積物 と河川水 を入れたプラ スチ ック管瓶の pH,Eh測定 の結果 をHem andLind (1983)の MムーFeの相平衡 図にプロッ トした (Fig.10).6月12日か ら7月17日までの値 を黒丸 で,8月31日の値 を白い四角 で示 した.pH7‑8, Eh0‑300mVの Mn2十とFe(OH)3の混合す る相 に集中す る.実験 日数 を経 るに従 ってpHは変化 し ないが,Ehは よ りプ ラスの方 向に推移 した. この こ とは,水 中に含 まれ るFe2十とMn 2+イオンを土 壌 中のバ クテ リアが取 り込みFe(OH)3を生成 し,徐 々にMn2+をも4価 に酸化 しつつあ るこ とを示 し ている. また透 過型電子顕微鏡 に よるマ イクログ リッ ドの観察では, グラニュラー な微細粒子や球状 粒子がFe(OH)3に, フ レー ク状 の薄膜が Mb0‑ の前駆物質 に相 当す ると考 え られ る. この こ とに 加 え,大桑累層か らの湧水 中では,Fe,Mnイオンは溶存態 で安 定 であるとい うこ とか ら,微生物が 物質の代謝や光合成 な どを行 い,湧水 中のFe2十,Mn2+イオ ンの酸化 に関与 してい る と思 われ る. こ のように湧水中に多量のFe,Mnイオンを含む大桑累層におけ るバ クテ リアに よるFe,Mnの濃集が 示 された.従 って, 大桑累層 におけ るバ イオマ ッ トの形成の メカニズムは次の ように考 えられ る.堆
稗物中のFeイオンが還元的な状態から湧水として流れ出る際に,酸化的な状態 となり,かつ,光合成を行 なう緑藻が加わることにより,さらに酸化が促進されて酸化物 をつくり,バイオマットを形成する.
2.バイオマ ッ トと環境地質学
バイオマ ッ トの形成は大桑累層においてのみ観察 され, その上位 お よび下位の卯辰 山 高窪両累層 には確認 されていない.我 々が行 った環境調査 の結果,前述 した よ うな ゴルフ場,産 業廃棄 物処理 場,採土場 など金沢市内20数 カ所でバ イオマ ッ トが認め られた. そのバ イオマ ッ トの分布 を地質図に プ ロッ トしてみ ると,大桑累層の分布 とよ く一致 してお り,大桑 累層か らの湧水 の影響が強いことが 顕著である.
産業廃棄物処理場や ゴルフ場の周囲には, おびただ しい量のバ イオマ ッ トが形成す る他 その周囲 一面が茶 色に染 ま り,景観上問題がある. また,金沢市において融雪装置に用い られている大桑累層 か らの地下水が道路上 に放 出されるこ とによって,地下水 中に含 まれ るFeイオ ンが還元的な状態か
ら急激に酸化的な状態にな り,道路の表面 を茶色に染め る.
大桑累層の ようにFeや M山 こ富んだバ イオマ ッ トの形成 は, この地層において環境地質 を考 える 必要性 を示唆 している他 重金属に汚染 された地層の浄化 を考 える上 で有効 な手段の一つ であ ると考 える.
ま と め 本研究において以下の結論が導かれた.
1.大桑 累層のバイオマ ッ トが形成す る堆積物 はEhが低 く還元的で あ り, かつ粘土鉱物 の含有慶が 少 ない.
2.大桑累層のバイオマ ッ トが形成す る堆積物 中のFe,Mn,Mg,Caイオンの含有量は少 ない.
3.大桑累層か らの湧水 中には,他の卯辰 山,高窪両累層 に比べ て,Fe,Mn,Mg,Caイオンの含有 量が 多い.
4.大桑累層に形成す るバ イオマ ッ トには緑藻の コロニーが見 られ, それ らの表面には粒状 または薄 膜状 の低結晶性水酸化鉄鉱物 を生成 している.堆積物 と河川水 をプ ラスチ ック管瓶 に入れた培養 実験 は,3‑5日後 には梓状 のバ クテ リアが粒状,薄膜状 のFe,Mn物質 をつ くる こ とを示 し た .
5.pH‑Eh相平衡図は,Fe‑Mnの酸化 に微生物が関与 してい るこ とを示 している.
6.Fe,Mnなどを多 く含む大桑累層の開発に は,環境地質 を十分 に考慮す る必要が あ る.
謝 辞
湧水 の化学分析 では,金沢大学理学部化学教室の本浄高治教授 と研 究室の皆様 にお世話になった.
この論文 は,北戸丈晴の金沢大学理学部地学教室の卒業論文 の一部 を まとめ た ものであ る. この論文 の作成 に当たっては,著者の所属す る地球環境学務座 の皆様 にお世話 になった.感謝 申 し上げ る.
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ミナの入る砂岩
456
iL
0‑40cmの 粘土岩を含む)
;ll,・革木カ!生皐
の入る砂岩 17
凹凸が出来る かい砂岩
2'.cmの灰色粘土層 叩:I.・̲;:・.'・.:lJ津̲ 多
I生える砂岩 く生える砂岩 (湿っている)
竜ナの入る砂岩
黄色砂岩 黄褐色砂岩
(水分を多く含み が生える)
茶褐色砂岩 19 灰色粘土層
ZO
黄褐色砂岩
わ らかい)
砂若く湿って固い)
5cmの練岩
L'..A;I'.lI・.I/.・
ラミナの入る 10cmの粘土
21
23
少岩 (水分, 見化石を含む) 入る砂岩 (固い) 凡例
匡詞 横着 JL 粘土 監ヨ 砂岩 巨頭 化石
白 色 砂 岩 い て い る )
多 く含 み
草木IL・.‑の 生 え る 砂I.1 岩
砂岩
10cmの見化石密集層
バイオマット
青灰色砂岩
Fig.1 金沢市小二又町の採土場 における植生,土色 ,粒 度の差異 か ら作成 した柱状 図.試料No.
1‑ 4は段丘堆積物,試料No.5‑25は大 桑 累層堆積 物.バ イオマ ッ トの形成は,試料No. 20,21,25にみ られ る.
Columnarsectionof也eOmmaFormationmadeaccordingto仇edifferencesofplants,color andgrainsizeofsedimentsatKofutamata‑cho,Kanazawa.
SamplesNo.1‑4wereriverte汀aCedeposits,samplesNo.5‑25weresedimentsof也e OmmaFormation.MicrobialmatswereformedatsamplesNo.20,21,25.