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一25− へンツェル原価計算論序説 平 林 喜 博

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(1)

203  

一25−  

へンツェル原価計算論序説   

平 林 喜 博  

Ⅰ問題の所在  

本稿の目的はへンツェルの原価計算論について−,特にそ・の特徴について,最  

(1)  

近彼が発展した1っの論文を素材にして考察しようとするものであるが,かか   る問題設定の根拠はいつにかからて一筆者のドイツ原価引算論史紅対する関心匿   かかわっている。すなわち,「、ドイツ原価計算はどのように生成し発展したか」  

というテーマが筆者の関心事なのである。   

ところで,われわれほ.,かかるテーマに取組む時,レ.コ.マ−レ∵/バッハの原   価計算論を中心にすることが貿明であることを察知している9つまり,シ.ユマ   ーレンバッハの原価計算論を基軸にして,この理論がドイツ原価計算論のどの   ような状況の下に生成し,どのよう紅修正・補完されつつ発展し,今日引継が   れているかを研究することが,すなわちドイツ原価計算論の歴史的研究である  

とヤ、う考え方である0   

しかし,かかる研究方法は,ドイツ原価計算の歴史研究を片面的なもの鱒す   る危険性を含んでいる。たしかに,シ.ユマ−レンバッハの理論を中心紅すると   いうことに異論はないし,またそれ庭.よって特殊ドイツ的原価計算思考を浮き   彫りにさせることもできる。しかし,−それ紅あまりに.も執着することほドイツ  

(1)Henzel,F.,y〃JJゑ〃・ざfβ乃7■βCゐ乃〝乃g,形ま才gβざ∂〝dβ㌢加邦ダ∠.ガ鳥〃5加協血相わ一滋gβ〝,ZfB NI.   

8,1967.  

なお、この論文に.ついての批評ないし論評としてつぎのような論稿がある。  

1..M細nel.W.,助乃紹dfβy〃JJ鳥〃5′g形㌢・βCゐ形〝乃g d〟′・Cゐ♂β符A〟5紺♂∠−.ざ gβざ∂乃♂β′f♂′ 

ダ≠.方如∫fβガ∂βブfγ∂g〆,gβγgffβ≠紺βγdβ乃?ZfB NI\.12,1967  2.HeckeI・,B.,Ⅴ〃7J如・5fβ〝γ♂Cカ〝〟〝g〝王墓■′gβぶ〃紹♂g′ね乃ダ∠.戒那加劇物■れ紬伽,′戯乃β  

紺扇≠β㌢・β 5ね緒川g乃αゐ弼β Zぴ de沼 gJβさd加の淵ge雅 A従.浄血=朋乙 わ・0ノ..か.ダ.  

肋〝gβJ,ZfB NI.12,1967.   

3.LoI℃b,アクアJ如∫fβ形γβCゐ〝〟〝g∽≠f gβざ∂〝dβ′・ね柁釣一頭那加寂滅≠r∂gβ〝,戯〝β紗β査−ねγβ  

5fβJJ〝〝g形αカ∽β,ZfB NI.3,1968 

(2)

204  

第41巻 第3号   

−26一  

原価計算の歩みを倭少化する。更にいえば,ドイツ原価計算をシ.ユマ、−・レ∵/バ   ッハの理論と等置し,いわゆるシ.ユマL−レンバッハ理論の系譜を過大評価し,シ   ユ.マー・レ∵/バッハ理論と対立抗争した諸理論の系譜を軽視することになりかね   ない。われわれほ.いま少し座棲を広げたいと思う。少なくともレユ.マーレンバ   ッ′ハ理論の批判対立者の理論を,あるいはいわゆるシ.ユ.マL−・レン㌧バッハ理論と   いう主流からほずれたいわばアウトサイダー的な原価計算思考を検討してみる  

必要があるのではないかと考える。   

では,具体的に如何なる論者の理論がこれに該当するのであるか0 これ紅つ   いてはつぎのような諸指標が参考になると思う。つまりり,1)原価計算払ほ   技師の領域に鳳するものが多々考えられる故,技術出身者または技術畑に瀾係   の深い論者の理論,2)ドイツ原価計算はいわゆる費用理論と密着して存在し   てし、る故,費用理論の研究者でもあること,3)ドイツ経営経済学の源流は一   般把∴/ぶマーレ∵/バッハ,ニックリッレ.ユ,シ㌧1ミットに・あるといわれている   故,ニックリッレ.ユおよぴシ㌧.ミットの流れに属する論者の理論,4)できれば   戦後においても活躍ないしは多大の影響を与えていること,この4点である○   

いま,これらの諸点を考慮紅入れながらドイツにおける原価計算論者をみる   と,へ・ンツェル,レーマン,ルソメル等が考えられる。しかして,本小文では   まずヘンツェルをとりあげるわけである。したがって,この意味匡おいて,わ   れわれの分析視角ほ徹底して学説史的である。次節においてへソツェルの原価   計算論を端的にあるいは如実紅示していると考えられる1つの主張を狙上にの   ばらせるが,それはあくまでも素材であり,その考え方それ自体に・ついての正   否を論議しようとするものでほない。むしろ,へンツェルをしでかかる計算思   考を生みださせる根拠は奈辺紅あるかを究め,そこからヘンプェル原価計算論   の特徴を明らか紅することが,本小文の目的なのである0まず,へンツェルの   最近の考え方を紹述すること紅.しょう。  

ⅠⅠヘンツェル原価計算論の1つの姿  

さて,さき紅1言したよう紅ヘンツェルは最近1っの論文を発表している0   

(3)

ー 27 −  

へンツェル原価計算論序説  

205  

それはいわゆる修正全部原価計算を主張しているものであり,彼に・よって「固   定費貢献額を伴なった全部原価計算(Vollkostenrechnung mit gesonderten   Fixkostenbeitr鞄en)」と名付けられているものである。その計算方法の特色   ほ原価を変動費と固定費とに区分し,しかも固定費を支出を伴なうものと支出    を伴なわないものとに区別して引算するところにある。そして,この計算方法    の最大の意義ほ,かかる計算によって伝統的全部原価計算と同じ結果が得られ    ること,固定費を支出の有無に関連づけて計算しているので,価格政策はもと    より当該市場状況や競争状態へ・の適応にさいして的確な資料を提供することが    できること,更に企業にとってほ大切である流動性が常に考慮できるこ阜,こ    れであるとへンツェルほ論じている。   

ところで,かかるへ・ンツェルの主張は既に1962年に㌧見出すことができる○つ    まり,彼は「原価計算領域における新しい傾向(NeuereTendenzenaufdem  

(2)   

Gebiete der Kostenrechnung)」と題する論文払おいて,上記のような主張を    しでいるのである。したがって,へンツェルの主張が根強いものであることを    われわれほ承知しておく必要があると思うdただ,若干の相違点をあげれば,  

1962年の論文では,「固定費貢献額を伴なった全部原価計算」を選択的補償額    を伴なった全部原価計静(Vollkostenrechnung wahlweise mit DecklユngS−   

beitI奄en)」と名付けていること,および月次計算に違いがあることである○   

しかし,底流にみられるヘソツェルの問題意識は不変である。それは,固定費    問題を,不況という状況の下で,しかも固定費の配賦計穿が限界をもっている    という特殊事情の下で,いかに.取扱い処理するかということであり,これが両    論文の基調をなしているのである0   

いま,これをいま少し敷術しながらヘンツェルの主張を魂てみよう0まず,   

へソツェルほ原価計算における固定費計算の問題は,固定費の比例費化が一・般    に.可能であるか否かにかかっているのであるが,・最近の一般の論調ほ否定的で  

(2)Henzel,F..,〟g〝βγβ乃形dβ〝Zβ〝α捉/■d¢∽Gg∂gβねdgγ 助5fβ乃γβCゐ〝〟乃g,ZfhF    Heft,7,1962い官本匡章稿「直接原価計界の1っの変型」『企業会計』Vol小17Noい1,  

1965,参照。   

(4)

206  

第41巻 籍3号   

−2β・−  

(8)  

ある。はたしてそうであろうか,とヘンツェルは疑問を出すのである。つい   で,実務界でほ不況に見舞われており,この固定費計昇の問題が価格政策の一   環として論議を起しているのであるが,それにどう応えるのか,というこ.とを  

(4)  

へンツェルは問題にし,現段階において考えられる伝統的全部原価計算と直接●  

原価計算による方法を再検討するのである。しかし,ヘンツェルはこれらの方   法には批判的ないし否定的である。   

たとえ.ば,へ・ンツェルの直接原価計算批判に.よれば,この計算方法は1)固   定費が計算に入らないので個々の製品どとの固定費額が不明である。2)その   上,各製品の総原価もわからない。/8)しかトて各製品から得られる利益幅 

(Gewinnspanne)もわからない。4)更に,,半製品・製品の棚卸価額も不明   ヽ である。5)そして変動費・固定費の区分がはたして可能であるのか,そこに   は多くの自由裁量が入るのでほないか,また時間,経費がかかるのではない   か。6)最後紅,「限界利益(Deckung)」という概念にも問題がある。つまり,  

(5) この「限界利益」が何を具体的に表わすものか判然としない。したがって:,そ  

の利用可能性からみれば,直接原価計算は,①二三の生産物を大量生産してい   る経営で利用されうる。④多種類の生産物を生産して:おり,数多くの原価要素   や常に.生産計画が変わる経営では困難である。⑨典型的な注文生産では不可能  

く8)  

である。   

さて,以上がヘンプェルの直接原価計算批判の主内容であるが,いま,こ.れ  

(7)  

を余論に.なるかとも思うが数値例を用いて具体的に述ぺて:みよう。第1表は   A−E5製品の価格,変動費,限界利益、を示したものである。この資料に.よれ   ば,第4欄では製品Eが210−DMで1位であり,ついでA,C,BDとなる。  

(3)Henzel,F.,yOllkostenrcchnung mi igesondeYIte71FixkostenbeiiY・dgen,ZfB1967,   

SS..487−486.  

(4)DeI・Selbe,a.a..0.,SS.486−487.  

(5)Derselbe,a.a。0.,S.492.Derselbe,Neuere Tendenzen auf dem Gebiete   

dβ7・励ぶ≠β乃γβCゐ〝〝〝g,ZfIIF1962,SS.351−353.  

(6)Henzel,F.,y〃JJ如ざ≠♂紹rgCゐ形鋸ガg,乃≠■上が由如偏頗形動ガ毎ざfβ〝∂♂紗∂gβ〝ZfB1967,   

S.492.  

(7)Derselbe,.a.a.0.,SS.487−492.   

(5)

へンツェル原価計算論序説  

ー29 −  

207  

しかし,第5欄の価格との割合数値をみると順榔は変る。更に変動費との割合   をみればまた順位は変っている。かくて,もしこのような資料を販売指導者が   与えられたとすれば,いったいどの数値を根拠にしてト判断,処理をすべきか販   売指導者は迷うに違いない。   

ところで,第2表をみて魂よう。この資料からわれわれはつぎのことを知   る。つまり単位当り利益ではE,BD,A,Cの順位であるが,価格との割合   からみれば,BD,E,A,Cである。そして,第1・2表より獲得される利   益に.よる順位と得られた限界利益の順位とほ全く異なることが判明する。しか  

も,その上に個々の製品の収益性を判断するために・取引高を考慮すると,第   3・4表から明らかなように,5製品の順位ほそれぞれの条件によって区々で   ある。   

たとえば,製品Eはたしかに68−DMの最高単位当り利益をあげていること  

第1表  

2  

0 0 0 2 8 7  

5 4 1 4 6 2   2    2 1   

0 0 0 0 0 0  

0 2 8 3 5 5  

1  

4  

0 0 0 0 0 3  

5 5 0 8 2 1  

1     1  

0 0 0 0 0 0 0 2 8 3 5 5   1  

200   48.75   151.25   107.75   43.50   21.7   価   格(DM)  

変  動  費(DM)  

限 界 利 益(DM)  

固  定  費(DM)  

利   益   利益と価格と割合(%)  

(6)

208  

第41巻 第3号  

一部トー  

第 3 表  

尊 位 当 り 原価   限 界 利 益    期間一原価  

変動費  固定費  絵   合 計  単位当り   変動費  固定費  

605,000    720,000   1,100,000    320,000    420,000  

5  

2  

1 0 0 0 0   5 8 0 ▲‖O 1  

1    1    2  

195,000  431,000   180,000  270,000   550,000  880,000   80,000 120,000   80,000  2鋸,000  

5   6 0 0 0 2 5 5 3 5 8  

1     1     1  

5  

7  

7 0 0 0 2  

0 3 8 3 4  

1   1  

48..75   20   50   20   40  

ト085,0001,985・000  

弟 4 表  

原   価   利   益  

生産・価 格 取引高   販売患 (単位)(DM)   

4,000  200  800,000   9,000 100  900,000   11,000 1如 1,650,000  

4,000 100  400,000  

2,000  250  500,000  

競 総額  

156.5  626,000   50  

450,000  

130  1,430,000  

50   200,000  

182   364,000  

署官 合計  

43い5 174,000  21い8  

50  450,000  50  

20  220,000 13.3   50  200,000  50  

68  136,000  27…2  

合計l30,000    4,250,000l   3,070・呵 1,1釦,000  

紅なっているが,最低の期間利益である。それに.対・して,製品Cは単位当り利   益は20−DMで最低であるが,期間限界利益では最高である。更に.,製品Bは   単位当り限界利益は最低であるが,期間利益は最高である。かくみると,5製   品についての判断は,単位当り限界利益,期間限界利益,単位当り利益,期間   利益のいずれを選ぶか紅よって異なる。いいかえれば,直接原価計算が決して   1つの的確な判断資料を提供していないことを示している。そして,重要なこ   とほ,最終的紅利益性というものが判断基準に.なるとすれば,以上のような場  

J 合は直接原価計算は欺揃であり,凝わしい決定紅なり易し†のではないかという  

ことになる。   

そこで,ヘンツェルは「固定費貢献額を伴なった全部原価討琴」を提案する   

(7)

へソツェル原価計算論序説  

− ∂∫ −   209  

(8)  

のである。この計静方法は,正しい企業処理のために.ほ製品の利益性の認識が   必要であるが,それには固定費の原価計算への算入が枢要である,としている  

ところに.その本質をみることができる。すなわち,既に.1言したように.,ヘン   ツェルは原価を変動費と固定費とに分け,更に周定費ほ支出を伴なうものと支   出を伴なわないものとに区分するのである。しかし,その前に,直接原価負担   者へ賦課計算される材料費を除いて,他の原価・−これを企業維持原価(Un−  

ternehmenserhaItungskosten)とへンツ3=.ルは名付けてし、る1−は,まず原   価部門ごとに把捜されてこいる。そして個々の原価部門紅膚接賦課しえない原価   一時に販売費,一般管理費−−はこれを月当り正常労働時間で配賦していの   である。   

いま,結論のみを述べると, ̄第5表は伝統的全部原価計算(個別)である。  

それに対して,へンツェルは第6表のような資料から欝7表にみるような修正   全部原価計算,つまり彼のいう「固定痩貢献額を伴なった全部原価計算」を提  

第 5 表   注文品 A  

材料費   製造賃金  

旋盤 1時間   

研摩  2時間  @3.80    金具 喜時間 @3・−  

合計 3i時間  

製造間接費(製造賃金の200%)  

製造原価   57.80   一般管理・販売間接費(製造原価の25%)・…り・…………・…・14・40  

総原価   72.20  

11.一  

得られうる価格 83.20   利益  

(8)I)erselbe,a.a.0.,SS.493−498.   

(8)

第41巻 第3号  

210   ー・β2−  

第 6 表  

ⅠⅤ   ‡ Ⅴ   

認諾i  

1時間労働当り固定費   支出を支出を伴   伴なう わない固 小計   固定費 定費  

1時間労働当り変動費   部  門  

(月)i賃金 その他 小計  

9.−  

19.50   24   14.60  

7..−  

10.−−−  

2.−  2.−  4.−  

10 −  5− 15.−  

10.− 10.− 20.−  

5.−  5..− 10.−  

2.−  2.−  4.−  

3.−  3.−  6∩一  

一5〇一6〇一一  

5 4 4 4 3 4   

一・帥  

2 1 0 0  

.− 一50 20 8〇一  

3 3 3 3 3 4  

鍛   治   旋   盤  

フライス盤   研 

金   具   組   立  

第 7 表  

伴なう  

変動費 孟島   票畠差わな 合計  

材料費  

20.−   20‖一  

旋 盤 1時間  

4..50   10・−   5.一  

19.50   研 摩  2時間   9,20  

10、.−   10。−−−  

29.20   金 具 lも時間   1.50  

1.−   1.−  

3.50   箪金時間  

35 20   21.−   16.−−−  

72.20   利 益(1時間 2..−)3一色×2.−  

材料費の20%利益として計上  

ヽ  

る   の   で   あ   る  

︑.=Y  

て  

○  

示するのである。しかノも,ここでは割愛したが月次計算も示し  

(9)   

そして,ヘンツェルはこの計算方法の長所をつぎのように列挙している。  

(1)声.しい原価価格に結びついた綿密な原価計算を行なうために,あるいは   市場における所与の価格の下で,製品または注文品の販売紅よる利益算定のた   めに.,この計算方法がよい。  

(2)伝統的な個別原価計算が配賦率と結びついて犯している間違を回避して  

いる。  

(9)Derselbe,a。a。0.,S.501.   

(9)

へンツェル原価計算論序説  

一∂3・− 

211   

(3)支出のない原価と長・短期的支出のある原価との区分に.よって,当該局   瘍状況や競争に適応するための価格政策や流動性計算に.必要な基礎を提供す  

る。  

(4)企業者に.操業度をいつも示し,彼に不完全操業度の危険と非補償固定費   の損失を示す。  

(5)企業維持原価の概念と価格によるその補償でもって経営維持が前面に.出  

るようになる。  

(6)経営計算の精密化に役立つ。   

ところで,ヘンツェルのこのような考.え.方に.ついては種々の反論が予想され   る。たとえば,生産計画のためには全部原価計算が必要であるというへンツェ   ルの見解にほ,むしろ逆に全部原価計算:の助けによっては何ら生産計画の有用   な分析ができないという反琴が当然考えられる○また,へ・ンツェルのいう修正   全部原価計算では価格政策に.も適用できるということであるが,これについて   も異議が出るであろう。更にいえば,へ・ンツェルの修正全部原価計算紅ほ何ら   の意義をも認められない,という批判もあらわれるにらがいないo tでかし,わ   れわれは,先に.も述べたように.,ヘンツェルの直接原価計算批判の反批判をす  

ることが目的ではない。また,ヘンツェルが新しく提唱した計算方法それ自体   をここで吟味し,そ・の正否を論議しようとして几、るものでもない0 したがっ   て,これらの検討は他日を期し本小文では省略したい。しかし,ただ1つの点   は後述の関係からも重要であるので指摘しておきたいと思う0   

それは,ヘンソニルの新しい計算方法が伝統的全部原価計算と一激した結果   が得られうるのか,という問題である。たしかに・,へ・ンツェルの例示に・よれ   ば,既にみたよう紅同じ結果が得られている○ しかし,それは偶然ではないか  

という疑念があるのである。メソネルは正にこの点をつき,へ・ンツ.ェルの計算   方法に他作為があると批判している。すなわち大要つぎのように・論じるのであ  

(10)  

る。  

(10)M5nnel,W.,a.a.0。,SS。761−764一.   

(10)

第41巻 第3号  

212   

ーー こ招 −  

まず,ヘンツェルは研究すべき企業について,既に.示した第6表のような原   価構成を示しているが,これに第Ⅱ欄に.ある労働時間をかけると第8表のよう  

な月次原価が各部門ごとに.算出される。へンツェルは個別原価計算の叙述のさ   い,製造間接費はたとえば賃金の200%としているので,間接費全体としてほ,  

226,800−DMが製造間接費に,165,200−DMが一・般管理販売間接費に配分さ   れなけれほならないことは容易に.算出できる。   

ところで,−・般管理・販売間接費はヘンツェ.ルによって示されている配賦基   準一正常労働時間−で配賦すると,第8表右側に示されたような数値となる。  

第 8 表  

1労働時間当りの−・  

般管理・販売間接費   部   門l賃  金l間接費 一 合  封  

…・・−−・−→ 9,720.−  

…・・・・→48,600.−  

=▲→29,160.・−  

→19,440.−  

………→48,600.−  

−・・・一斗 9,720.−  

165,200.−  

合   計Jl13,40仇−J392,000.−I505,400.−  

製造間接費(資金の200%)l226,800.・−  

一卜般管理・販売間接費l165,200.−  

第 9 表  

個 別 原 価 計 算  

へ・ソツ.ェルに.よる全部原価計算  

1.材料費    1./材料費  

2.変動製造廉価(1時間)  

賃 金  3.50   その他 1.−  

10.−・  

2・製造賃金(1時間)  

3・50  

3.製造間接費(3.50×200%)  7.−  

4.50  

4.、製造廉価  

3.按分された固定費(1時間)  

支出を伴なう 10.−  

支出を伴わない 5.− 15.−  

5.一・般管理・販売間接費  

(20.50×25%)  

5.13   6,総原価  

4.給原価   29.50   

(11)

へンツ,エル原価計労論序説  

一35・−ニ   213  

これをへンツェルに.よって個々の部門へ配賦された間接費と比較すると,金具   部門に.おいで矛盾した数値が魂られる。ここにへ・ンツェルの計算方法の1つの   欠陥がみられるとメソネルは論じる。   

その上,次のような矛盾も見出される。たとえば,いま,10−DMの材料費   で,旋盤部門のみが使用されて,1つの注文品が製造されていると仮定しよ  

う。算6表に示された数値から計算された第9表は,伝統的個別原価計算とへ   ンツェルの計算方法との相異を示している。みられるように,へ・ンツェルの例   示紅おいて,伝統的個別原価部穿と彼の計算方法との結果が一致するのは全く   の偶然であることが判明する。  

ⅠⅠⅠヘンツェル原価計算論の特徴  

さて,われわれほ,ヘンツ,エル原価計算論の内容を端的に/示す1つの姿を示   したが,それに.あまりに.も手まをかけたようである。それはあくまでも素材で   あって,これを手掛りに.してヘンツェル原価計算論の特徴を考察レようとする   のが本小文の中心課題なのである。そこで,このような観点から前節に・おいて   みたヘンツェルの原価計算思考を省察すると,つぎの5点を特徴として指摘す   ることができると思う。   

1 へンツェルの問題意識は不況下に.おける固定費問題であること。   

2 原価計算とは価格計算であり,それは企業が収益性を選択原理とする限   り,第一義的に.考えなければならないこと。   

3 固定費ないし間接費の配賦計算に.はやや悲観的であるが, 

適してのいわゆる直接費化傾向の可能性を信じているこキ0   

4 固定費問題に対する楽観性が感じ与れるとと。つまり固定費を支出の有   無に.関連づけての魂考え.ていること0   

5 考察方法は個別的現実的具体的であること0   

しかし,かかる特徴がヘンツェル原価計算論として,一・般性をどこまでもっ   ているか考えてみなければならない。そこで,余論になるかもしれないが,い   ったいヘソツ.ェルが過去に.おいて何を問題に・し,何を解決してきたのか,を省   

(12)

214  

第41巻 第3号   

−・β6−  

察して.おきたいと思う。周知のように.,へ・ンツェルは1930年代に花々しく活躍  

(11) を開始した人である。80年代に.5冊の著書を公刊していることからもその1端  

をうかがい知ることができる。いま,その中より若干の著書を瞥見して−みたい0    まず,へンツェルが世人の注目をあびるように.なったのは1981年の著書『企   業に.おける尚接費の把捉とその計算』の公刊に・よっでである。彼がそこで問題   に.したのほ,その序文軋明らかなように.,「本書ほ.企業の経費ないし間接費の   問題を率直に論じ,そ・の把握および配賦に.ついて普遍妥当的原則を明らか紅す  

(12)  

ること」であった。つまり,企業にとってほ非常に大きな問題,しかも解決の   困難な問題である間接費を真正面から取り上げ論究しようとしたのが本書であ   る。   

へγツェルほ.こ.のた吟に.まず全体経済の循環としての企業の位置を考え,、そ   こに.みられる企業の働きを考えつつ,理論的な原理および諸概念を明確紅する  

(1S)  

のである。ついで,企業を調達,在庫,形成,生産,内部運輸,販売,管理と   いう7つの基本的職能に分け,それぞれ各職能においての原価の把捉およびそ  

(14)  

の計算を論述している。そのさい,間接費の配賦方法とその配賦基準という2   つの問題を特別にヘンツェルは研究し,その結果として,彼は各基本職能全て   に妥当する12の配賦方法を示し,更粧各基漆職能ごとに・まとめられた配賦基準  

(15)  

値の提示をもしているのである。しかもその上に,へ・ンツェ.ルはこれら配賦基   準に.もとづく原価の配賦の適性について−検討するため,間違った配賦基準選択  

㈹ へ・ソツェ.ルほ1930年代につぎのような著書を公刊している。  

1・だ川=′呵 ご′′ごくJl t・′・′‥血ご〃∵ くJ〝(hj∫lJ血∫/川 川(Jり【 止・用ぃ血潮吋,  

BeI■1iI】1931.  

ダ   

2.MaYIktanal.yse und Budgeiierung,Berlin・Wien1933.   

3.Zbsie7Wnal.yse,Ruhl・Baden1937.Kosien und Leistung,3・Aufl・Ider Kost−  

enanalyse,Stuttgart1957.   

4.KostenY・eChnung dergewerbliche WiY・tSCha.fi,Stuttgart1939.   

5.Kosienrechnung,1。Aufl.,Essen1939I2●Aufl●,1950,4・Aufl・,1964・  

㈹lHenzel,F.,助:/おざ〝〝g〟紹d VβンγβCゐ乃〟〝gdβγ■Gβ∽β方形鳥〃∫才β花∠乃dβ′■助fβ′一    花βゐ桝〝〝g,Sい12  

仏3)Derselbe,a.a.0.,S.13ff.  

u4)Der$elbe,a..a.0.,S.67ff.  

㈹ DeI・selbe,a.a.0.,S.135ff.   

(13)

へyツ.ェル原価計算論序説  

215    −β7−  

(16) の効果を論究しつつ,配賦基準値の本質について究明するのである。かくし  

て,あの有名なテーゼ,間接費ほ何らかの配賦基準を選定して配賦すると,製   品原価の内容ほ.究極的に全て直接費となり,間接費ほ.皆無になるという「間接。  

費の直接費化」を主張するのである。なお,本書において,ヘンツェルのとっ   た分析手法は徹底して具体的データーを用いるという方法,いいかえれば実証   的方法をとっていることに.格別の注意をほらう必要がある。   

ところで,間接費の問題ほ周定費の問題でもある。特に1930年代後半の慢性   的不況に.おいては,間接費の固定費化現象がますます顕著になったことほ疑い   えない。へンツェルはここ把.間接費を広く原価と操業度との関連から考察する   という研究を開始するのである。もちろん,前記著書においても,彼は操業度  との関連における考察をして1、ないわけではない。しかし,ヘンツ,主.ルの第2   の主著ともいうぺき『原価分析』において,その研究は頂点に達するのであ   る。彼は本書に.おいて間接費というものを念頭紅おきつつ,企業の原価構造,  

原価と操業度との関係等々を実証的に明らかにし,最後には原価の作用要因の   分析およぴその適用にまで言及したのである。かくして,彼が明らか紅した諸  

(17)  

点は,いわゆる伝統的費用理論がいう4原価範疇への疑問,伝統的費用法則の   

(ユ8)      (19) 否定,操業度の本質についての疑念,原価の作用要因としての人間の処理的要  

(20)  

因の重視,であった。しかも,ここでも留意すべきは彼の研究方法についでで   ある。彼は終始一貫して個別的,現実的,経験的方法をとっているのである。   

ところで,以上2っの著苗は原価計算論全体からみれば,各論紅属する研究  

成果である。しかして各論に・終始している限りにおいて,へンツェルの原価計琴  

思考の全貌はみきわめがたい。ところが,へンツェルが1989年に.『原価計算』  

なる著書を公刊するに至り,ここにわれわれは,彼の原価計算に.対する考え方   をはっきり理解することができるようになるのである。  

u6)Derselbe,a。a.0.,S.245ff 

u7)Henzel,F.,Kos(e7L L(1td Lcistt〃tg,SS37−38.  

u8)Derselbe,a.a.0.,S.24   ug)Derselbe,a.a.0.,S。180ff  伽)DeI・Selbe,a.a.0.,152′ff.   

(14)

算41巻 第3号  

216    ー3β−  

へンツェルがその著書『原価計算』に‥おいて論究したものは多々あるが,こ   こでほとりわけ2っの顕著な論点を指摘してこおきたい。1っは,原価計算とは   価格計算であると考えていることである。すなわち,彼ほ原価計算の意義とし   て−8つあげているのであるが,その欝1に原価(計算)は価格算定のための基   礎を提供する,第2に原価(計算)ほ所与の価格の判断のための尺度である,  

(21)  

と述べ,価格計算ないし価格政策における原価計算の機能を重要視しているの   である。いま1っ,本書に∴ねける彼の功績は.,種々の計算方法について,そ・の  

(22)  

前提を明確にしまたその利用領域の限界を明示していることである。そして看   過できないのは,本書においてこも彼の研究方法が実証的であることである。   

さて,本論に.戻って,以上のような省察からつぎのような諸点にヘンツェル  

(23) の研究成果あるいはその特徴が参ると筆者ほ考え・る0   

第1は,へソツェルの問題意識が実に企業に.しめる固定費の増大という現象   にかかわっていることである。いいかえれば,絶対的にも相対的に.も増大する   固定費をして一生じる企業の弾力性喪失をいかに解決するか,とりわけ,企業の収   益性維持はいかにして可能であるか,これが彼の理論の底流であるといえる。  

もらろん,かかる問題の理解はひとりへ・ンツェルの魂ではない。1980年以降の   ドイツ匿おける全ての論者が等しく問題としていたことである。しかし,へン   ツェルの特色は,かかる問題紅理論的紅接近するというよりも,むしろ具体的   な事実分析から説き,したがって極わめて具体的な解決策を提唱したことに.あ   る。   

第2は,上記のような問題を費用理論の研究をふまえながら価格政策の問題  

Ql)Henzel,F.,Die Kosienrechnung,4.Auf1.,SS。13−14.  

設2)Derselbe,a.a小0.,S.164ff.  

朗なお,参考のためにペリンガーがあげているへ・ソツェルの研究成果に.ついて列挙して    おきたい。ペリソガ−・に・よれば,へンツ.ェルの成果とは,職能的考察方法,間接費の配    戚方法,経営能力への適応形態,総費用の中心作用値としての操業度の脱落,根本的な    計静誤謬の摘発,経済の基本概念に.ついての新しい理解,固定費の処理可能性,直接原価    の作用可能性,経営経済的研究の職能的観点からの再構成等であるという。(BellhgeI ,   

B.,Gegenwaris.f〆agen der Unternehmung,Wiesbaden1961.VozWOrt.)宮本匡    章稿「経常費用理論上のへyツェルに.ついて」『経済研究』第22号参照。   

(15)

へ・ンツェル原価計算論序説  

217   

ー39−  

としているところにある。そしてそのことが原価計算論においては,原価計算が   価格計算であるという論理に潜びついていくのである0つまり,ヘンツ・モルに 

あってほ,固定費といえども何らかの意味で変動費化しうるものであり,したが   ってその回収も製品を通して実現可能であるという固定費問題に対する楽観思   想がみられるのである。いいかえれば,固定費回収あるいほ広く原価回収は製   品価格との髄係であり,原価計算がそれに寄与するという考え方なのである。  

端的に云えば,製品原価の計算であるが,当該製品を通していかはどの原価が   回収できるか,そ・の回収能力をみるものとしての計算,これがへ・ンツェルの思  

考する原価計算∴である9   

第8は,\へンツェルの分析手法についてである。彼は終始一貴実証主義的で   ある。具体的展開を常にこころざし,したがって,その掟案はまことに具体   的である。   

以上8点極めて粗雑ないい方であるがこれをヘンツェル原価計算論の特徴で   あると考えると,さき虹指摘したへ・ソツェルの1論文からうかがわれる特徴と   非常に類似した点が多い。これを恐れずに滞るならば,へ・ンツェル理論の特徴   はこの3点に.あるといえるし,また素材として提供したへンツェルの新しい計   算方法は,彼のいままでの研究経歴から当然に生誕する計算思考であるといえ 

る。いな,この計算思考は彼がいままでの研究から得たところのもの全てを結   集したものであるとさえいえ.る。そして−,それが故に.へンツェルがこの新しい   計算方法の思考を繰返し主張することもわれわれには理解できるのである。彼   紅とって−は,まことに確信に.魂ちた提案なのである。しかし,批判の余地ほな   いのか,節をあらためて考え結びとしたい。  

ⅠⅤ 結び −若干の批判と、残された課題−  

さて,ヘソツェルのかかる考え方全てが是認できるものでほ.ない。ヘンツェ   ルの理論に.も限界のあることは承知しておかなければならない。   

たとえば,ヘソツェルの分析方法についでである。彼の方法ほさき紅みたよ   うに.具体的な実際上の数値を用い,そこから−・般規則性を導き出そうとしてい   

(16)

第41巻 第3号  

−4クー   218  

る。しかし,その具体的,実際的デー・ターそのものは複雑多様な要因からはじ   き出された数値の集頃である。したがって,そのデータ・一時どれだけ理論それ   自体を説明し批判する能力があるかは疑問としなければならない。また,実際   的数値例を用いているように思えるが,はたして事実そ・うであるのか疑念のあ   ることは,ヘンツェルの計算結果についての検討からも明らかである。数値例   を用いての説明がかならずしも現実的,具体的でないことに注意しなければ   ならない。それ故に,具体的な提案もヨク検討吟味しなければ実用化ほ難し   い。  

更に.,へンツェルの問題意識およびその解決策はそれなりに/理解できる。し   かしながらほたして固定費問題は価格計算ないし価格政策との関連でのみ解決   できるであろうか,そこに何か理論的不備があるように・思える。たしかにその   楽観思想に・は,今日固定費問題がいたずらに悲観し嘆くだけでは解決しないと   いう意味で,好感がもてる。しかし,それが価格政策を通してのみではもほや   解決が不可能に近いことはこれまた今日自明とされている0そもそも固定費問   題をかかえている原価計算を価格計算であるとするところに,ヘソツェル原価   計算論の限界がうかび上るにちがいない。   

しかしそれにしてLも、,、へンツェルがかかる考えを強調する理由は何か。それ   はへンツェルがその師F・シュミットにならない,資本維持を念頭に.おいてい   ることにあると推察できる。ヘンツェル原価計静論が資本維持の理論紅強くさ   さえられていることは,上鮨で示した論文で一月瞭然である。けだし,異常な   までに.全部原価計算せ主張する理由ほここにあるといえる。そしてその正当性   は彼の実態分析からくる確信にもとづいているのである。   

さて,以上ヘンツェル原価計算論の特徴を指摘したが,もちろん十分ではな   い。まさに出発点であり序説である♂今後,他の視角からも考察しなければな   らない。たとえば,へンツェルが何故アウトサイダー的に.なったのかも1つの   問題である。したがって,へ・ンツェル原価計算論をドイツ原価計算論の流れに   おいて,どう位置づけるかが重要な課題である。そしてそれに.関連してへンツ   ェルの理論をヨリ深くはり下げ,彼の思考がどこに由来するのか,たんに彼の   

(17)

219   へソツェル原価計算論序説  

−4ユ ー  

(24)  

特異な経歴が招来させているのか,あるいは1言したようにシ.ユ.ミットに.影響   を受けているのか,更には他の論者よりの影響ほどうか等,考え.てみなければ   ならない。ヘンツェルが理論的支柱をシ.ユ.ミットに求めていることは十分察知   できる。しかし,そ・の考察方法,展開の仕方等についてはおそらく彼の経歴か  

ら来ている把ちがいない。ともあれ一層の究明が必要である。  

錮 へソツ.‡.ルの略歴を紹介しておきたい。   

彼は1891年2月7日生れであり,本年77才である。彼は若干実務に.従事したあと,   

マンハイム商科大学で経営経済学を,続いでフランクフルト大学でシュミットに.師事し,   

教授資格を得ている。1934年フランクフルト大学の助教授。戦後ほ,フランクフルト大    学,ライブチッヒ大学,ボン大学,マンハイム大学等で教増に立っている。  

なお,この間,彼は独立の企業コンサルタントとして活躍し,実務界との交渉が多    い。1952年匡.は61才で経営監査士に.もなっ七いる。   

1961年,彼の70才を記念してペリンガ−・編の記念論文集『企業の現在的諸問題』が    贈られている。   

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