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大学生における自閉傾向と精神的健康の関連
―居場所の心理機能を考慮して―
相談研修員(臨床心理学分野大学院生) 木 立 明 甫・長 根 昌 代・
大 川 佳 代 子・関 川 悠 子・今 莉 奈
相談員(臨床心理学分野講師) 松 田 侑 子
【キーワード】 自閉傾向,精神的健康,居場所,心理機能
Ⅰ 問題と目的
1. 自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)
2013年に,国際的に広く使用されている精神障害の診断マニュアルである「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神疾患の診断・統計マニュアル」(以下DSM)が,DSM-4からDSM-5(American Psychiatric Association,2013)
へと19年ぶりに全面改定され,自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder,以下ASD)
という概念が新たに登場した。
DSM-5のASDに該当するDSM-4の広汎性発達障害では,下位カテゴリーであった自閉性障害,アスペルガー症候群
(Asperger Syndrome,以下AS)が連続的ではなく,お互い鑑別すべきものとして位置づけられていた(清水,2014)。し かし,その後の臨床エビデンスの集積によってカテゴリー同士は重複するものであることが示されるようになった。これ を受けて,新たなDSMでは,自閉症とその周辺群を包含した広汎性発達障害の代わりに,ASDという概念を用いている。
DSM-5でのASDにおける根本的な変更は,自閉性障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害,小児期崩壊性
障害,レット障害という亜型分類を撤廃し,ASDという単一の診断基準にまとめたこと,第二にASDを定義する症状を 従来の①社会性の障害,②コミュニケーションの障害,③常同的・限定的な行動(Repetitive/Restricted Behavior,RRB)と いう3つから,①社会性コミュニケーションの障害,②RRBという2つにまとめられたことである(桑原ら,2014)。 ASDの基本的特徴は,日々の人と関わる場面で,支障をきたす障害であるといえるだろう。主要な診断的特徴は発達期の 間に明らかとなるが,治療的介入,代償,および現在受けている支援によって少なくともいくつかの状況ではその困難が 隠されている可能性もあり,障害の徴候もまた,自閉症状の重症度,発達段階,暦年齢によって大きく変化するため,ス ペクトラム(範囲・領域)という単語で表現されている。
以上のように,DSMの改訂も相俟って,ASD や,注意欠如・多動性障害や学習障害なども含まれる発達障害を巡る呼 称の統一は難しいため,先行研究が使用している呼称を基本的に踏襲して以降を記述する。
2. 大学生活における発達障害や ASD に関する問題とその支援
近年,少子化や入試の多様化によって,ASDあるいはその疑いのある大学生が増加している傾向にある。青年期・成人 期における発達障害は注目されており(杉山,2008;内山・江場,2004),2005 年に発達障害者支援法が施行され,大学 においても適切な教育上の配慮を行うことが明文化された。また,文部科学省(2012)は「障害のある学生の修学支援に 関する検討会報告(第一次まとめ)」を公開し,大学等の高等教育機関における障害のある学生への「合理的配慮(reasonable accommodation)」の考え方を示した。合理的配慮とは,障害学生が教育を受ける権利を保障するために,大学側が必要か つ適当な変更・調整を行うことである。
丹治・野呂(2014)は,発達障害者に実施されている支援方法を「個別面談」や「学内連携」「学外連携」「グループワ ーク」「セミナー・プログラム学習」「ピアサポート」「居場所の確保」と分類し,支援の多くは,カウンセラーが主体とな り,保健管理センターや学生相談室などのメンタルヘルス支援を担う部署を中心に行われていることを明らかにした。し かし,本人と大学関係者間の協議の上で,配慮内容が合理的配慮だと決定された支援事例は,全体の約30%であり,合理 的配慮の決定方法,およびその決定に関与するメンバー構成,学内の組織的な支援体制の整備は,今後の検討課題である だろう。
また,大学や高等専門学校における,発達障害の状態に応じた支援の例として,高林ら(2013)は,ASDの特性に近い 苦手さを持つ学生が少なからず潜在する可能性を考慮した上で,多くの学生が苦手に感じる領域に関して,授業環境や設 備面でのユニバーサル・デザイン化など,問題を生じさせないための予防的な支援を行っていくことが可能であることを
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指摘している。具体的には,教員や支援者の大きな負担とならない範囲での授業内容・方法の改善を挙げており,「人の話 が聞き取れない」「授業の進度についていけない」といった苦手さを抱える学生がいることを考慮した上で,講義内容をパ ワーポイントやスライドに示し,レジュメの形でも配布するなどの配慮が可能であるとしている。
しかし,佐藤・徳永(2006)では,発達障害は特徴が非常に多様であること,外から見えにくいことなどから,周囲の 理解が得られにくく,在籍していると見込まれる数に比べ,相談に訪れる数が少ないことを示唆している。また,一見症 状の目立たない学生は,児童思春期から成人期で対人関係上の問題や不適応を経験する人が多いとされている(杉山,2008)。 これらを踏まえると,大学内で組織的な支援体制の構築や,教育上の配慮がなされることで,現実的に軽減される負担や 問題がある一方で,やはり日常生活での困難・悩みを経験しやすいことは想像に難くないだろう。
3. ASD における精神的健康
小田ら(2011)は,発達障害傾向の困り感と精神的健康との関連を指摘し,対人関係における困り感は精神的健康度と 結びつきやすいとした。特にASDの困り感質問紙の項目からは,集団へ入れないことや集団の中での周囲との違いという ことが大きな問題であるとされている。そのため,ASDのおもな症状の一つである「他者との交流がうまくできない」こ とは,精神的健康に結びつきやすい事が示唆される。
さらに,DSM-5では,ASDをもつ青年および成人は,障害の程度が軽い人であっても,社会的に初心で脆弱であり,実 務的な要求を援助なしで行うことは困難であり,不安や抑うつを呈しやすいとしている。人前でその困難さを隠すために,
代償的な戦略や対処法を用いていることを多くの成人が報告しているが,社会的に受け入れられるように表面を取り繕う ことのストレスや尽力に苦しんでいるという。また,内山・江陽(2004)によれば,思春期においては,自分の異質性へ の気づき,自己評価の低下によって抑うつ感が高まることが示されている。
以上を踏まえると,ASDをもつ青年および成人にとって,不安なく自分がありのままでいられることや,日々のストレ スを解消できること,疲れを癒し,気持ちを落ち着かせること等は大切であろう。また,対人関係に困難を抱えがちな発 達障害者については,就労以前に,人と関わろうという意欲,社会へと参加しようとする意欲を高めるための安心できる 居場所の必要性が指摘されている(柴田ら,2011;日高ら,2013)。このように,ASD 者の中には,社会的コミュニケー ションの問題によって,二次的に精神的健康を低下させてしまう者も多く,それを予防・緩和する1つの方法として,自 分なりの時間・空間・場所,いわゆる「居場所」を持つことが有用と考えられる。
4. 青年期における居場所に関する心理学的研究
杉本・庄司(2006)によると,これまでの「居場所」研究は,大きく2つの流れで行われてきているとされる。一つ目 は,実際にいる場所を対象とした研究,もう一つは,「ここは自分の居場所である」と自己認知した場所を扱っている研究 である。しかし,前者は,物理的にそこにいたとしても,「いたくない」と感じる主観を無視する可能性を含んでおり,心 理学においては,後者の観点に立った研究が広く行われている(原田・滝脇,2014;光元・岡本,2010;中藤,2013;佐 藤ら,2013;高橋・米川,2008)。
そもそも,居場所は,特に中学校における不登校や学校適応の問題に関連して議論されるようになった概念であり(石 本,2010),不登校の主要なきっかけが友人関係であること(粕谷・河村,2002;酒井ら,2002)や,友人関係が学校適応 に強い影響を与えること(粕谷,2013)を踏まえ,対人関係から捉える居場所が重視されてきたといえよう。しかし,家 族や友人といった対人関係を通じた居場所感による,自己肯定意識や学校適応への影響を検討した研究(石本,2010)で は,中学生と大学生において居場所が持つ効果は異なっていることが示されている。特に,大学生においては,友人や家 族に対する居場所感が学校適応にはほとんど影響しなかった。これは,中学・高校の学校適応とはやはり様相が異なって おり,また,友人や家族との関係の取り方にも変化が生じることが背景として考えられよう。
このように対人関係における居場所についてクローズアップされてきた一方で,1人でいる中で居場所を感じることに ついては,ひきこもりにつながるといった理由などから否定的な考えが示されてきた(若山,2001)。しかし,1人でいる ことについて,例えば対人恐怖心性が高い場合には,「休息・解放」などの自己調整の時間として過ごしている側面もあり
(海野・三浦,2010),一概に有害なものとして捉えることもできない。「居場所」の心理機能を構成する因子の中に,「行 動の自由」「他者からの自由」も含まれていること(杉本・庄司,2006)は,これを裏付けているともいえよう。従って,
精神的健康に及ぼす「居場所」の効果について考える際には,「他者の存在」を想定した居場所だけではなく,「自分ひと りで過ごす居場所」についても検討することが特に必要である。これはASD者のように,対人関係を苦手とする傾向を持 つ学生にとっては不可欠な視点であるといえよう。
18 5. 本研究の目的
上述の議論を整理し,本研究における目的を以下に述べる。
これまで,自閉傾向は,精神的健康に負の影響をもたらすことが示されてきた。そうした中で,先行研究では,大学に おける発達障害の学生に対する支援の鍵の1つとして,自分なりの居場所を持つことが挙げられてきている。従来,青年 期では対人関係を中心とした居場所が重視されてきたが,自閉傾向の高い学生においては逆にストレスになる可能性もあ り,むしろ個人の特性に適した居場所を持つことこそが重要であると考えられる。
そこで本研究の目的は,自閉傾向と個人の居場所の持ち様やその有無が精神的健康とどのように関連するのかを検討す ることとした。つまり,仮説として,自閉傾向が高くとも,自分の居場所と思える状況があり,そこで満たされる心理機 能の様相によって,精神的健康は異なってくると考えられる。これらを明らかにすることで,どのような居場所の持ち方 が自閉傾向の高い者にとって,精神的健康に有意義であるのかを把握することを目指す。
また,これに先立ち,居場所においてどのような主観的経験をしているのかを捉える「居場所」の心理機能に着目し,
自分にとって重要な居場所の特徴に関して探索的な検討を行うことも本研究の目的とする。
6. 本研究における居場所の定義
居場所研究における課題の1つとして挙げられているのは,「居場所」の定義である。前述のように,「居場所」研究に おいては,「ここは居場所である」と自己認知した場所を対象としていることが多い。それ故に,「居場所」が表す内容の 曖昧さや多様性が増し,「居場所」概念による教育臨床や心理臨床への貢献が妨げられているという指摘もある(石本,2010)。
「居場所」研究が行われている各領域における,「居場所」についての定義も重複する部分はあるものの,一貫していない
(表1)。
表1 居場所の定義
教育学 教育心理学 教育臨床学 心理臨床学
「自己回復の場,自己安定 の場」(住田・南,2003)
「快感情を伴う場所,時間,
人間関係等」(石本,2010)
「いつも生活している中で 特にいたいと感じる場所」
(杉本・庄司,2006)
「自分の気持ちを素直に表 現してもそれが否定されな いところ,自分の役割が実 感できるために自己肯定感 が取り戻せるところ」(廣 木,2005)
「自分自身がいることが受 け入れられていると感じる こと」(廣井,2000)
「自分がそこにいてもいい 場であり,自分らしくいら れる場であり,自分があり のままにそこにいてもいい と認知し得る感覚」(中原,
2002)
例えば,教育学の領域では,文部省が1992年に不登校に関する報告書(文部省初等中等教育局,1992)を出し,学校が
「こころの居場所」の役割を果たす必要性を提唱して以降,心理的な意味をもった居場所という言葉が広く用いられるよ うになった。つまり,当初は避難場所という意味で使われていた「居場所」が,「自己回復の場,自己安定の場」という意 味での使用が多くなり(住田・南,2003),現在では一般的に「快感情を伴う場所,時間,人間関係等」を指して用いられ ているといえる(石本,2010)。
次に,教育心理学では,杉本・庄司(2006)が,「居場所」の心理機能の構造とその発達的変化を捉えるため,心理的側 面を探っていくことを目的とするため,限定的に捉えることを避けた定義を示している。そこでは,「居場所」であると自 己認識している場所であること,日常生活の具体的な場所であること,精神状態を限定しないことを考慮し,「いつも生活 している中で特にいたいと感じる場所」とされている。
他方,教育臨床学では,居場所は,「自分の気持ちを素直に表現してもそれが否定されないところ,自分の役割が実感で きるために自己肯定感が取り戻せるところ」(廣木,2005)であるとされている。
最後に,心理臨床学においては,ありのままで受け入れられることを中核とした定義が散見される。廣井(2000)では,
「自分自身がいることが受け入れられていると感じること」と定義され,中原(2002)は,「自分がそこにいてもいい場で あり,自分らしくいられる場であり,自分がありのままにそこにいてもいいと認知し得る感覚」としている。
本研究では,杉本・庄司(2006)の「居場所」の心理機能に焦点をあて,居場所の特徴を把握することを目指している。
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従って,杉本・庄司(2006)に基づきながら上述の各定義を参考にし,居場所を「心が満たされたり,心地いいと感じた りし,それが長く続けばいいと思うあなたにとって大切な状況」であると定義した。これには以下4つの点が考慮されて いる。第一に,場所に特定せず,居場所の機能を果たす「時」「出来事」「関係」などを含むことを考慮し,それらを表す 具体的な「状況」として想起できること,第二に,ポジティブな感情をもたらすという点において,単なる快適さだけで はなく充実感の要素をも含むこと,第三にそこが自分にとって有意義であると認識されていること,最後に,杉本・庄司
(2006)の尺度を使用するため,「居場所」の心理機能として挙げられている下位尺度の得点に偏りがないよう下位尺度の 内容(自分はそこのメンバーである,自分だけの時間が持てる等)との重複を回避すること,である。
Ⅱ 方法
1. 調査対象者
東北地方にある国立大学1校に在籍する大学生計87名(2年生:男子30名,女子44名,不明1名,3年生:男子3名,
女子5名,4年生:男子1名,女子3名,平均年齢=19.3歳,SD=2.0)を対象とした。
2. 調査項目 1)フェイスシート
性別,年齢,学年の記入を求めた。
2)居場所に関する項目
「居場所」だと感じる状況についての有無,「有」と答えた場合にはその具体的状況,自分1人あるいは他者といるか,
その「居場所」を経験する頻度(1ヶ月において経験する回数,1週間において経験する回数,1日において経験する回数 のいずれかを記入)を尋ねた。「居場所」の心理機能に関する先行研究では,1つの居場所を想定して検討されていること を踏まえ(杉本・庄司,2006),2つ以上「居場所」が挙げられた場合には,その中で「最も心が満たされる,心地いいと 感じる」居場所を選択してもらった。
3)「居場所」の心理機能に関する尺度
「居場所」の心理機能測定尺度(杉本・庄司,2006)は,「居場所」がもつ心理的意味・機能を多面的にとらえ測定する ために作成されたものである。本研究では,居場所に関する項目で回答した状況のうち,1つしか回答しなかった場合に はその状況を,複数回答した場合には「最も心が満たされる,心地いいと感じる」状況として選んだ居場所についての回 答を求めた。そのため,「居場所」だと感じる状況を無とした回答者は,この尺度には回答していない。この尺度は,“自 分を本当に理解してくれる人がいる”などの7項目からなる「被受容感」(α=.86),“満足する”など10項目からなる「精 神的安定」(α=.87),“自分の好きなことができる”など6項目からなる「行動の自由」(α=.77),“自分のことについてよ く考える”など4項目からなる「思考・内省」(α=.72),“何かに夢中になれる”など5項目からなる「自己肯定感」(α=.75),
“他人のペースにあわせなくてもいい”など3項目からなる「他者からの自由」(α=.70)の6下位尺度35項目で構成され ている。高橋・米川(2008)によると,「居場所」を意識するのは,ネガティブな気持ちのときであるとされている。つま り,「居場所」には,ネガティブな気持ちからの回復機能があると考えられるが,本尺度にはそのような回復機能の要素は 含まれていない。そこで,今回は,より多角的に機能を明らかにできるよう,杉本・庄司(2006)の35項目に,“癒され る”など4項目からなる「癒し」および,“気力がみなぎる”など4項目からなる「前向き」を筆者で作成し,8下位尺度 計43項目の構成とし,「ぜんぜんあてはまらない」から「とてもあてはまる」の4件法で回答を求めた。
4)自閉傾向に関する尺度
自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J)は,正常知能成人を対象とした50項目の自記式質問紙であり,一般人にも存 在する自閉性を把握するとともに,高機能の広汎性発達障害のスクリーニングを目的としたものである。本研究では,栗 田ら(2004)が,アスペルガー障害者(AS)群と対照群の自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J)得点を比較し,得点と 診断の有無に有意な関連のある16項目を抽出して作成した短縮版(AQ-J-16)を用いた。「確かに違う」から「確かにそう だ」の4件法で回答を求め,各項目で自閉傾向とされる側の2段階いずれかに回答すると1点が与えられる。カットオフ・
ポイントは,栗田ら(2004)が適当であるとした12点を用いた。
5)精神的健康に関する尺度
日本版GHQ精神健康調査票12項目版(GHQ-12)(中川・大坊,2013)を用いた。回答は4件法で求め,採点方法は,
各項目で精神的に健康とされる側に回答すると0点,不健康とされる側に回答すると3点が与えられる。つまり,得点が 高い方ほど精神的健康度が低いことを意味する。また,本研究の教示ではここ1ヶ月間についての状態に関する回答を求 めた。
20 3. 調査手続き
大学における講義の後半,当該講義担当教員の許可のもと,受講生に回答を依頼した。回答は任意であり,回答の有無 によって不利益は生じないこと,回答を途中で中止しても良いこと,回答内容は統計的処理にのみ用い研究以外の目的に は使用しないことを,フェイスシートおよび口頭での教示の際に説明し,調査協力の合意を得た。調査用紙を配布した後,
調査者はその場に待機して調査用紙の回収を行った。
4. 分析方法
統計解析ソフトウェアSPSS Statistics Version 22を使用した。ただし,χ2検定に関する分析では,フリーソフトjs-STAR2012 を用いている。
Ⅲ 結果
1. 「居場所」の心理機能測定尺度の各下位尺度に関する信頼性分析
本分析ではサンプルサイズが小さいために,杉本・庄司(2006)の6因子構造を使用することとし,本研究で新たに設 けた「癒し」と「前向き」を含めた8下位尺度に関する信頼性分析を行った。その結果,α係数はそれぞれ,「被受容感」
が.92,「精神的安定」が.81,「行動の自由」が.75,「他者からの自由」が.71,「思考・内省」が.75,「自己肯定感」が.75,
「癒し」が.57,「前向き」が.86 であった。「自己肯定感」および「癒し感」に関しては,尺度の信頼性を高めるため,そ れぞれ1項目ずつ(“何かに夢中になれる”および“いやなことを忘れられる”)を削除した後のα係数となっている。「癒 し」においては,値が低かったが,本研究ではより多角的に機能を捉えるという点を重視し,そのまま分析で用いること とした。
2. 基礎統計
「居場所」の心理機能測定尺度の各下位尺度,精神的健康,自閉傾向に関して,それぞれの平均点および標準偏差を表 2に示す。今回の調査では,自閉傾向について,栗田ら(2004)が適当としたカットオフ値12を超えたものは2名であっ た。
表2 記述統計量
平均値 標準偏差
被受容感 22.31 5.44
精神的安定 34.75 3.97
行動の自由 19.50 3.31
思考・内省 11.27 2.75
自己肯定感 12.49 2.25
他者からの自由 8.35 2.26
癒し 9.88 1.57
前向き 12.13 2.64
21.64 5.06 6.87 2.54 居
場 所 の 心 理 機 能
精神的健康 自閉傾向
また,「居場所」だと感じる状況の有無について尋ねた結果,居場所があると答えたのは 74 名,ないと答えたのは 12 名,無回答は1名であった。また,居場所があると答えた人のうち,「居場所」だと感じる状況の記述において,3つの状 況を挙げたのは11名,2つを挙げたのは31名,1つを挙げたのは23名であり,記述しなかった人は9名であった。
記述された状況について,調査者6名で検討した結果,6つのカテゴリーに整理された。“恋人と一緒に過ごしていると き”など,恋人と過ごしている状況を<恋人>,“1人で散歩したりお茶しているとき”など,1人で好きなことをしてい る状況を<1人で好きなことをしている時>,“ゼミ室で勉強しているとき”など,大学で何かをしている状況を<大学関 係>,“友達と会って遊ぶとき”など,友達といるが条件となる状況を<友達>,“家で家族と話をしているとき”など,
家族といることを条件としている状況を<家族>,“家でのんびりしているとき”など,くつろいでいる状況を<くつろぎ
>として,それぞれ命名した。
21 3. 相関分析
「居場所」の心理機能と自閉傾向と精神的健康の相互関係を表3に示す。自閉傾向は,被受容感の間に負の有意な相関 が見られた。精神的健康は,精神的安定,自己肯定感,前向き,自閉傾向との間に有意な相関が見られた。
表3 各変数に関する相関分析
4. 「居場所」の心理機能によるクラスター分析
重要な「居場所」における心理機能の特徴から個人差を捉えるため,「居場所」の心理機能測定尺度の下位尺度得点をz 得点化しクラスター分析(Ward法)を行った。その結果,人数に比較的偏りの少なかった3群(クラスター1:25名,ク ラスター2:14名,クラスター3:31名)でのクラスターのまとまりが適当であると判断した(図1)。
図1 「居場所」の心理機能に関するクラスター分析の結果
5. クラスターごとによる「居場所」の心理機能・自閉傾向の特徴
クラスターごとに「居場所」の心理機能に違いがあるかどうかを検討するために,8 下位尺度を従属変数とする一要因 分散分析を実施した。その結果,8変数すべてで有意差が見出された。多重比較(Tukey, p<.05)では,全体的にクラスタ
被受容感 .17 -.22 -.32** .41** -.43** -.02 .47** -.26* -.17 精神的安定 .58** .32** .42** .47** .66** .46** -.07 -.28*
行動の自由 .63** .18 .74** .55** .20 .03 -.09
思考・内省 .04 .68** .46** .10 .01 -.08
自己肯定感 -.10 .29* .86** -.20 -.38**
他者からの自由 .52** -.05 .11 .05
癒し .32** -.07 -.12
前向き -.18 -.37**
自閉傾向 .40**
精神的安定 行動の自由 思考・内省 自己肯定感 他者からの 自由
*p<.05,**p<.01
癒し 前向き 自閉傾向 精神的健康
-2.00 -1.50 -1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00 1.50
クラスター1 クラスター2 クラスター3
被受容感 精神的安定 行動の自由 思考・内省 自己肯定感 他者からの自由 癒し
前向き
22
ー1が他2群に比して低く,クラスター3とクラスター2の間では,「被受容感」「思考・内省」「自己肯定感」「他者からの 自由」「前向き」において有意な差が認められた(表4)。以上の特徴を踏まえ,クラスター1は居場所機能が全体的に低い
「居場所機能低群」,クラスター2 は居場所機能の中でも特に「被受容感」の低さが際だつため「被受容感低群」,クラス ター3は居場所機能がバランス良く高い「居場所機能高群」と命名した。
また,3群に関して,自閉傾向の差があるか否かについて明らかにするため,一要因分散分析を行ったが有意な差は認 められなかった。
表4 3群における「居場所」の心理機能に関する一要因分散分析の結果
6. 各群による居場所の種類の相違
各群で想定された居場所の種類に違いがあるかどうかを検討するために,居場所の種類(8)×クラスター(3)の χ²検 定を行った。その結果,有意な偏りが認められた(χ²(12)= 41.29, p<.01)。更なる下位検定を行ったところ,居場所機能 低群は,「くつろぎ」を想定していることが少なかった。また,被受容感低群では「1 人で好きなことをしている時」「く つろぎ」が多く,「家族」が少なかった。更に,居場所機能高群では,「1人で好きなことをしている時」が少なく「家族」
が多かった(表5)。
表5 3群における居場所の内容に関するχ2検定の結果
7. 各群における居場所想定人数の相違
さらに,各群によって,居場所を考える時に,その居場所が一人でいる場合を想定したのか,他者と共にいる場合を想 定したのかをより明確にするために,クラスター(3)×居場所想定人数(2)の χ²検定を行った。その結果,人数の偏り が認められた(χ²(2)=28.27, p<.01)。残差分析の結果,居場所機能低群と居場所機能高群は他者といる状況を居場所と
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差
被受容感 22.85 2.43 13.36 5.34 25.61 2.15 78.14** 3>1>2
精神的安定 31.15 2.78 35.36 3.27 37.27 2.82 32.87** 2, 3>1
行動の自由 16.04 1.99 22.29 2.43 20.92 2.05 54.99** 2, 3>1
思考・内省 9.42 1.92 13.57 2.14 11.70 2.67 15.52** 2>3>1
自己肯定感 11.65 1.23 10.93 2.97 13.80 1.82 14.77** 3>1, 2
他者からの自由 6.35 1.23 11.29 1.44 8.61 1.56 55.74** 2>3>1
癒し 8.65 1.13 10.50 1.65 10.58 1.30 17.42** 2, 3>1
前向き 11.00 1.47 10.29 3.36 13.94 1.84 21.38** 3>1, 2
多重比較
*p<.05, **p<.01
クラスター3
クラスター1 クラスター2 F
居場所内容 観測度数 観測度数 観測度数
内容なし 5 1.33 1 -0.66 3 -0.76
恋人 2 1.15 0 -0.86 1 -0.42
1人で好きなことをし
ている時 2 -0.12 4 3.08 ** 0 -2.32 * くつろぎ 1 -2.16 * 8 4.57 ** 3 -1.54
大学関係 6 1.14 0 -1.85 + 6 0.37
友達 6 0.18 1 -1.49 9 1.01
家族 4 -0.81 0 -2.12 * 11 2.46 * +p<.10 *p<.05 **p<.01
クラスター
居場所機能低群 被受容感低群 居場所機能高群
残差 残差 残差
23
して想定することが有意に多く,被受容感低群は一人でいることを想定する人が有意に多かった(表6)。
表6 3群における居場所想定人数に関するχ2検定の結果
8. 各群における居場所の経験頻度の差
各群において,その居場所を1ヶ月間にどの程度経験しているかの違いを見るため,各クラスターを独立変数,居場所 の頻度を従属変数とした一要因分散分析を行った。経験頻度は,1週間における経験回数を回答した場合には4倍し,1 日における経験回数を回答した場合は28倍して,便宜的に1ヶ月あたりの経験頻度を算出した。その結果(表7),群に よって,居場所を経験する頻度に有意な差が見られ,被受容感低群が居場所機能低群と居場所機能高群よりも経験する頻 度は高かった(F(2,52)=4.59,p<.05)。
表7 3群における居場所の経験頻度
9. 「居場所」の心理機能と自閉傾向による精神的健康の違いに関する検討
続けて,「居場所」の持ち様と自閉傾向が精神的健康にどのように関連しているのかを明らかにするため,二要因分散分 析を行った(表8)。その際,居場所の有無についても併せて検討するため,「居場所」の心理機能に関する3群に加えて,
居場所を持たない「居場所なし群」も分析することとした。自閉傾向は平均値によって,自閉傾向低群と自閉症高群の 2 群に分けた。
分析の結果,まず,交互作用は有意でなかった。自閉傾向においては主効果が認められ,自閉傾向低群よりも自閉傾向 高群の方が,GHQ得点が高い,つまり精神的な健康度が低いことが明らかとなった。また,居場所の心理的機能に関する 主効果が有意であり,多重比較の結果,居場所機能低群と居場所機能高群の間で有意差が認められた。
表8 精神的健康に関する二要因分散分析の結果
居場所人数 居場所機能低群 被受容感低群 居場所機能高群 1人 2(-2.15 )* 11(5.30)** 4(-2.25)* 他者 19(2.15 )* 2(-5.30)** 26(2.25)*
*p<.05 **p<.01 ( )内は調整済み残差 クラスター
平均 標準偏差
居場所機能低群 9.87 6.94
被受容感低群 44.00 54.23
居場所機能高群 21.34 25.68 F値
多重比較
*p<.05
4.59*
被受容感低群>機能低群, 機能高群
自閉傾向 低群 高群 低群 高群 低群 高群 低群 高群
n 13 12 7 7 15 16 4 8
M 14.38 17.58 14.00 18.14 10.87 14.75 12.00 15.75 11.22** 2.89* .04
SD 3.20 4.38 5.60 6.44 3.81 4.75 2.94 5.57 低群<高群 機能低群>機能高群
*p <.05, **p <.01
自閉傾向 F値
居場所群間差 F値
交互作用 F値 居場所機能高群 居場所なし群
居場所機能低群 被受容感低群
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Ⅳ 考察
本研究の目的は,第一に,居場所においてどのような主観的経験をしているのかを捉える「居場所」の心理機能に着目 し,個人が重視する居場所の特徴を把握すること,第二に,自閉傾向と個人の居場所の持ち様や有無が精神的健康とどの ように関連するのかを明らかにし,特にどのような居場所の持ち方が自閉傾向の高い者にとって,精神的健康に有意義で あるのかを検討することであった。
1. 「居場所」の心理機能による類型化とその特徴
本研究の分析により,「居場所」の持つ心理機能から3タイプが見出された。
まず,居場所機能低群は,他2群に比して「居場所」の心理機能が全体的に低いことが明らかとなった。この群が想定 する居場所の特徴としては,他者を想定しており,「くつろぎ」の状況が少ないことが挙げられた。全体的に,「居場所機 能低群」は,家族といるよりも相手への気遣いも必要とされるだろう状況を想定しており,居場所において「行動の自由」
や「他者からの自由」を感じていない点が他2群と区別される特徴である。この群にとっては,単純に心地よさや充足感 を持つだけではなく,ある種の制約を含むような状況が居場所となっている,あるいは「自由」であることは居場所とし てそれほど重視されていないと推察される。また居場所に対して,各種の心理機能をあまり見出していない点について,
居場所機能低群の人たちは,対人関係のなかに所属感を感じているものの,それを居場所と感じることと,それが直接的 に自分の心理状態にどう影響しているのかという関係性への認識が低いことが要因として考えられる。居場所の経験頻度 が少なかったことから,居場所という認識自体が薄く,自己の内界との調節機能として自覚されていないのかもしれない。
次に,被受容感低群は,3 群の比較で「被受容感」が最も低く,「思考・内省」「他者からの自由」が最も高かった。ま た,想定する居場所の特徴としては,「くつろぎ」や「1人で好きなことをしている時」に居場所を見出しており,1人で いる状況が挙げられた。加えて,居場所を感じる頻度が最も多かったが,これは1人を想定していることから,こまめに 体験しやすい居場所であったものと推察される。被受容感低群の人たちにとっての居場所とは,誰にも邪魔されることな く,思うがまま1人の世界に耽ることを可能としてくれる働きがあるといえる。本研究では,3群における自閉傾向の違 いは見出されなかったが,相関分析の結果から,自閉傾向が高いと居場所に対する「被受容感」の機能が低いことが示さ れており,自閉傾向が高い者にとって,この被受容感低群は親和性の高い一群であるといえるかもしれない。
続けて,居場所機能高群は,3群の比較で全般的に高く,特に「被受容感」「自己肯定感」「前向き」が他2群に比して 高かった。また,居場所には「1人で好きなことをしている時」が少なく,「家族」を多く挙げており,自らの居場所を他 者との関係性において想定していることがわかる。杉本・庄司(2006)によると,「家族のいる居場所」は,全体的に各心 理機能が高いことが示され,より安定した「居場所」と見なされていることから,本研究の結果はこれに符合するものと 考えられる。つまり,居場所機能高群は,家族を「居場所」とできるような,比較的家族関係が良好な人々であり,そこ での温かで情の深い繋がりを自らの精神的安定の拠り所とし,高い自己肯定感や前向きな思考が醸成されているものと推 察される。加えて,居場所機能低群と居場所機能高群は他者を想定する点で類似しているが,想定した居場所の違いが,
両者を明確に区別したものと考えられる。
原田・滝脇(2014)では,居場所概念を整理し,他者との関係に基づき自己の存在や自分らしさを確認できる社会的居 場所と,1 人でいることで傷つきや疲れを癒し,自己を安定させる個人的居場所に区分している。これらの居場所の保持 の仕方から,両者の特徴の高い「居場所充足群」,社会的居場所の低い「社会的居場所不足群」,個人的居場所の低い「個 人的居場所不足群」の3群に分かれることが示されているが,本研究における3群はその特徴から,居場所充足群は居場 所機能高群,社会的居場所不足群は被受容感低群,個人的居場所不足群は居場所機能低群に類似していると推察される。
2. 居場所の持ち様・自閉傾向と精神的健康の関連
本研究では,自閉傾向が高くとも,自分の居場所と思える状況があり,そこで満たされる心理機能の様相によって,精 神的健康の高さが異なってくると予想した。つまり,精神的健康における自閉傾向高低と居場所群の交互作用が有意にな ると考えた。
精神的健康に関する二要因分散分析の結果,居場所群の主効果が統計的に有意であった。つまり,居場所に多様な心理 機能を見いだす「居場所機能高群」の方が,居場所に多くの機能が見られない「居場所機能低群」よりも精神的な健康度 は高いことが明らかとなった。中村(2008)は,「居場所」の心理機能が抑うつ傾向に及ぼす影響を検討し,「精神的安定」
に該当する内容の因子(中村(2008)では「自然体」と「高揚感」)の得点が高い人は抑うつ感が低くなることを示した。
つまり,居場所において精神的安定の機能が高い場合,精神的な健康度も高いと考えられる。また,本研究で設定した「癒 し」と「前向き」は,居場所におけるネガティブな気持ちからの回復機能を捉えたものであり,これらの得点が高いこと
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は精神的な健康の維持・向上に寄与した可能性がある。さらに,中村(2008)によれば,「自己肯定感」,「思考・内省」,
「精神的安定」の項目の一部である「自然体」はアイデンティティの確立に関連するとされる。すなわち,「自己肯定感」,
「思考・内省」,「自然体」の得点が高い人は,それらの得点の低い人と比べ心理的により安定しているといえ,長期的な 視点での精神的な健康度は高いと考えることができる。以上を踏まえると,想定した「居場所」の心理機能が満遍なく高 い方が,個人の精神的健康には総じてよい効果が得られるといえよう。また,「居場所機能低群」は,全体的にくつろぎの 状況を居場所として挙げることが少なく,「癒し」機能は他2群において低いことが明らかとなっている。これは,ストレ スに対する緩衝効果を持つような時間・場所を日常的に確保していない可能性を示唆しており,精神的健康の維持を難し くしている要因として考えられる。
また,二要因分散分析の結果では有意な交互作用が認められなかった。仮説では,居場所の持ち様によっては,自閉傾 向が高くても精神的健康は維持されると考えたが,支持されなかった。つまり,自閉傾向が高ければ居場所の有無や持ち 様は精神的健康に影響しないという結果が明らかになったといえる。相関分析の結果を見ても,自閉傾向と関連する「居 場所」の心理機能(被受容感)と,精神的健康と関連する「居場所」の心理機能(「精神的安定」,「自己肯定感」,「前向き」) は,重なっておらず,基本的には,「居場所」の心理機能を中心として3者の関係を捉えることは難しいといえるだろう。
さらに,本研究では「居場所なし群」は,居場所がある3群と比較しても精神的健康にも有意差は見られなかった。杉 本(2010)では居場所のある人の方が,居場所のない人よりも精神的な健康は低いことが示されているが,本研究では同 様の結果が得られなかった。その理由として,「居場所がない」群には「居場所が必要なのに」ない人と,「居場所を具体 的に意識した事が」ない人が含まれていた可能性が考えられる。高橋・米川(2008)の予備調査では,実際に自分の居場 所について考えたことないと答えた人が15人中4人いることが示されており,居場所について意識した事のない者がいく らか存在すると考えられ,「居場所」について想起することが難しかった人が含まれる可能性はある。また,自分にとって の居場所はあるが,本研究での定義に該当はしないと判断し,居場所がないと回答した人も含まれていたかもしれない。
一般的に,居場所がない状態はアイデンティティの確立度の低いことを反映していると考えられている(高橋・米川,2008)。
従って,アイデンティティの確立が発達課題となる大学生にとって居場所のない状態についてはより詳細に検討する必要 があるだろう。
最後に,相関分析及び二要因分散分析の結果から,自閉傾向低群よりも自閉傾向高群の方が,精神的な健康度が低いこ とが示された。これは,自閉傾向と精神上の健康が負の関連を持つという先行の知見(高林ら,2013;井上ら,2013;伊 勢・十一,2014)とも一致しており,自閉傾向の高い人たちへの援助の必要性が改めて確認されたといえよう。
今回は統計的に有意な交互作用は認められなかったものの,得られたデータの数値では,「居場所機能高群」における自 閉傾向高群は,「居場所機能低群」および「被受容感低群」の自閉傾向低群と同程度の精神的健康を示している。このこと は,自閉傾向が高くても,居場所の心理的機能を全般的に高く評価している方が心理的に安定しやすいことを表している。
このようにバランスのとれた安定した居場所は,自閉傾向が高い学生にとっても,有効な資源となりうるかもしれない。
3. 今後の課題
本研究より残された課題として,以下に4点示す。
第一に,サンプルサイズの問題である。本調査では東北地方にある国立大学1校に在籍する大学生計87名を対象として いることから,サンプルの質が偏っている可能性もあり,幅広い大学生のサンプルを用いることで,より一般的な結果を 得ることが必要となる。
第二に,居場所機能低群についての更なる吟味である。居場所機能低群では,他者想定の居場所を持つということは分 かっているが,その居場所の持ち様についてはまだ不透明な点を含んでいる。居場所機能高群は同じ他者想定であるが,
その内容についてはばらつきが少なく,家族を想定しているものが多かったのに対して,居場所機能低群での他者想定に ついては,様々な状況・内容を含んでいることが予想される。また,居場所が自分にどう影響を与えているかに関する認 識についても疑問を残す。居場所機能低群の他者想定の内容を明らかにすることで,居場所機能高群と低群の居場所の持 ち様についての違いを見ることが可能となり,本研究の目的でもあった居場所感の特徴をより詳細に理解することに繋が るのではないだろうか。
第三に,居場所がないと回答した者についての検討である。高橋・米川(2008)によると,居場所を必要としていない 者はいない(15名中0名)。このことから,基本的に「居場所」希求は高いものと推測される。しかし,本研究では居場 所について明確に必要とする気持ちを持っているか否か,居場所がないと回答した理由等は詳細に聞くことができておら ず,その実態を把握し切れていないと考えられる。今後は居場所がないとする人を対象とし,量だけではなく,面接調査 を通じて質の面からアプローチすることも必要である。
最後に,尺度に関する課題である。まず,自閉症スペクトラム指数に関する尺度には,パーソナリティ傾向や対人恐怖
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症等の病理的傾向が影響している可能性が指摘されている(若林ら,2004)。従って,本研究で測定した自閉傾向はこうし たパーソナリティ特性も反映したものであることが推察される。これを示唆する結果として,栗田ら(2004)ではアスペ ルガー障害群に対する対照群として設けられた一般的な理系の男子学生(72名)の平均値は5.7であったが,本調査では 6.87であったことには注目すべきであろう。先行研究において自閉傾向は女性よりも男性の方が高いことがわかっており
(Baron-Cohen et al,2001),女性が含まれている本研究では,本来なら5.7をむしろ下回る程度の平均値であるほうが自 然なはずであった。しかし結果はそれに反しており,本研究における自閉傾向が様々な要因を内包していることは否めな い。また,精神的健康について,本研究では1ヶ月間の短期的な状態変化を測定したが,例えば原田・滝脇(2014)では 居場所の保持タイプによって自己肯定意識に違いが出ており,自己の在り方など,より長期的な視点に立った心理的安定 に着目することも有効であるかもしれない。
以上4点が本研究から考えられる今後の課題である。
謝辞
本研究の調査に快くご協力下さいました,先生方,学生の皆様に厚くお礼申し上げます。
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