• 検索結果がありません。

一人称代名詞の使用実態 と使用意識について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "一人称代名詞の使用実態 と使用意識について"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

弘前大学教育学部紀要 第 9 0 号 :1‑8 ( 2 0 0 3 年 1 0 月)

Bu l l . Fa c . Ed u c . Hi r o s a k i Un i t , . 9 0:1‑ 8 ( Oc t . 2 0 0 3)

一人称代名詞の使用実態 と使用意識について

一 弘前市の成人男女の場合 ‑

Thes i t ua t i o na ndc o ns c i o us ne s sf o rus l ● ngt hef i r s tpe r s o na lpr o no un Fo c us l ● ngO na dul t si nHi r o s a ki

郡 千寿子 *

Ch i z u k oKOHRI *

【 論文要 旨】

青森県弘前市 においては , 「わ」 とい う‑人称代名詞が 「私」 に代替す る表現形 として使用 されている現 状がある。 日本語 の場合、‑人称代名詞 は、使用場面や相手 によって意識的にせ よ無意識的にせ よ選択 さ れて使用 されている

言語習得時期 を過 ぎ、言語使用 を自己判断によっている といえる成人男女 において、

と くに方言形である 「わ」 とい う一人称代名詞が, どの ように弘前 において使用 されているのかについて, その実態調査 をもとに考察検討 した ものである

近年,方言は言語 の文化的側面 を示 した もの として,重要視 され注 目されているが,実際の使用者 の意 識 は どの ような ものであろ うか。方言主流社 会 1 ・といわれている弘前 で,年代 による, また男女 に よる, 使用実態の差や使用意識の差が どの ように分布 しているのか を検討 し,今後の言語使用の在 り方 について, その方向性 を探 ってみたい。

キーワー ド:言語意識,一人称代名詞,津軽方言,共通語,わた し,わ

1

英語では,話 し相手が誰であれ,会話の場面が どうい う状況であれ, 自分を言い表す ことば,つ ま り一人称代名詞 は , Ⅰである

自分の母親が話 相手であって も, 自分の子 どもが話 し相手であっ て も,またそれが家族の団 らんで語 られる場合 も, 職場で上司を相手に議論す る場合であって も, 自 分の ことを称す ることばは ,Ⅰ 以外 にはあ り得 ない。

しか し, 日本語では,事情が全 く違 う

た とえ ば 自分の子 ども相手 には , 「私」 とい うこ とばで 話 しかけることがかえって不 自然 な場合が多 く,

「 お母 さん ( ママ)は,あなたの意見が ききたい わ。」 の ように 「 母親」 とい う立場 の呼称が,一 人称代名詞 として使 われることが一般的である

夫婦の間で さえ, 子 どもを介 しての会話の場合 は,

「お父 さん 」 「お母 さん」と呼び合 うことが行われ, これは事情 を知 らない人か ら見 ると,理論的には 不思議 な現象であるはず なのだが, 日本では全 く

問題視 されない 。 夫か ら見て妻 は 「 母親」ではあ り得 ないのに 「 ママ,ち ょっと !」 な どと平気で 妻 を呼ぶ夫が存在す ることが, 不 自然でない社会, それが 日本語社会の一面であろう

た とえばまた,年老いて 「 祖父」 とい う立場 に なった とす る。そ うい う場合は,時に, 自分のこ とを 「 お じいちゃん」 と自身で表現 した りもす る し, 自分の子供や妻か らも,「お じいちゃん」 と 呼ばれる場面が多 くなる

孫か らは確かに 「 お じ いちゃん」 とい う立場 であるが,子 どもにとって は 「 お父 さん」ではあって も 「 お じいちゃん」で はあ り得 ないはずである

つ ま り, 自分 というひとりに対 して,その呼称 が 「私」 で あ る と同時 に 「お母 さん」 で あ り,

「お ばあ ち ゃん」 になる とい う不思議 な現象が, 実際 には,会話で ご く普通 に見 られ るのであ る 。

つ まり本来は,他称であるはずの呼び方 「 お母 さ ん 」 「おばあちゃん」が, 自分 に対 して用い られ る場合があ り, 自分 をどう表現す るか, とい う問 題 は,非常 に複雑 になっている

*弘前大学教育学部国語国文科教室

De pa r t me nto fJ a pa ne s eLa ngua gea ndLi t e r a t ur e , Fa c ul t yo fEduc a t i o n, Hi r o s a kiUni ve r s i t y

(2)

2

この ように,一人称代名詞 は,意識的あるいは 無意識的に私たちがその場 その場の状況 に合 わせ て,選択 して使用 している とい うことになるであ ろ う

以上,簡単 に述べて きた ように,人称代名詞の 問題は, 日本語 を考 えるうえに非常 に大 きな課題 のひ とつである。 こうした 日本語の特色のひとつ である,人称代名詞の在 り方 について,本稿 にお いては,方言使用 を検討する一つの視点 として用 いてみたい。

2

『日本類語大辞典 』

z

lの 「わた くし ( 私 ) 」 の 項 を参考 として, どうい う表現形が一人称代名詞

として存在す るか,列記 してみる。

わ し ご じ ん

吾 己 余 僕 生 膿 我 吾人 自我

L :か だいこう

自身 自分 自家 下 名 拙 者 余輩 及 公 T J ヤー, )

廻公 自己 阿陽 私人 み ( 身) まろ ( 磨) わがみ じまへ (自前) わなみ わが はい ( 我 輩 ・吾輩) わが とう ( 我等) はな さん ( 鼻様) おのがれ ( 己) おのれ ( 己) み ど も ( 身共) わ らは ( 妾) われ わぬ けぬ わけ お り うれ わた し わちき みづか ら それが し こなた なにが し

【 古】わ わご あれ あが あぬ おの や つが り やつがれ あたひえ

【 俗】おれ わ し うら お ら こち あちき お い ら わ ち き て ま い (手 前 ) こちや このほう こちら こちと ( 此方 人) はなぼ う ( 鼻坊 ) わたい あた い あた し おんどら

【 方】お ん ど も ( 九 州 ) わぬ ( 東 国古 語 ) おん ら ( 大和 )

今は使われな くなっている一人称代名詞 も多い が,いかに 「 私」を代表 とする一人称代名詞の類語 が多 く存在 しているかを確認することができよう

ここで は, 「 古語」 に分類 されている 「わ」 に 焦点 を絞 って,考 えてみたい と思 う

この 「わ」

とい う表現が,古語 に由来す ることはよ く知 られ ている。 しか し,語源 とい うことはさてお き,実 際 に,青森県弘前市 においては,かな り自然 な自 己表現形 として現在 も使用 され続 けている一人称 代名詞であ り,その使用分布 について考 えてみた い と思 うのであ る 。 現代 日本方言大辞典

3

′か

千寿 子

ら,津軽方言の中の 「 一人称代名詞 (自称代名詞 ) 」

を紹介 してお く。

ワ [ w a]【 吾】俺,私。男女 とも

オラ [ora] 【 俺】俺,私。劣勢。主に男性。

オ レ [ore] 【 俺】俺,私。劣勢 。 主 に男性。

ワシ [ w asi] 【 債】私。 つよ り上 品。主 に 男性が使用。劣勢。

ワレ [ w are] 【 吾 】私。大正 の ころ年配の 男性が よ く使 っていた 。 なかには終戦の こ ろ まで使 っていた人 もある。 りよ りは上品 だった 。

テメ ア [t em e] 【 手前】 自分 を謙遜 した言 い方。やや品位 に欠けるが,悪い言葉で はない

戦前か ら使用の続 く語形で,現 在は勤めに出ている男性 な どが使 う

劣 勢。

ワダシ [ w adasi] 戦後,女性 を中心 に使 われ る よ うにな った上 品で丁寧 な言 い 方。普通, 目上 に対 して用 いる。

津軽方言 とい う分類 において も , 「わ」 以外 の 語が用い られているが,男女 とも,一般的に使 わ れる頻度の高い方言 としては,やは り 「わ」の存 在が大 きい といえよう。そ こで, 「わ」の使用実 態 について考 えてみたい。近年は,マスメディア の影響や教育制度の充実によって,地方 において も方言使用 よ り,共通語の浸透が大 きい といわれ る。年齢や教育環境 による相違があると思われる が,弘前 とい う地域 に限定 して,その言語現状 に ついて考 えてお きたい。

3

弘前在住 の20歳代〜70歳代 の男女 それぞれ約 50 名ずつ を対 象 に ア ンケー ト調査 を実 施 した

調 査項 目の最 初 に以 下 の一 人称 代名詞 を示 し,

「一番津軽弁 らしい と思 うもの を一つ選択」 して も らった ところ,約 80%が 「わ」 を選択 した。

次いで多かったのが 「 お ら」である。方言形 「わ」

の定着度の高 さを示 していると思 われるが,実際 の使用 について,調査 した結果 を以下 に報告 しな が ら検討考察 してい きたい と思 う。

わ お ら おれ わ し

(3)

‑人称代名詞の使用実態と使用意識について 具体的場面 を設定 し,そ うした場合 に, 自分の

ことを何 と表現 す るか,つ ま り‑ 人称代 名詞 の

「わ」の使用 について調査 した結果 をまとめた も のが 【 図 1 】 【 図 2 】である。場面設定は,公 的 場面 と私的場面に大 きく分け, また話す対象 ( 相 辛)について も考慮 した場面設定 とした。

( 公的場面)

( ∋集団の中で 目上の人と話す とき

( 例 えば,授業中先生にあて られたとき等)

②集団の中で対等の人 と話す とき

( 例 えば,授業中生徒 同士で討論す るとき等)

③公的な場面で 自分 をよく見せ ようとす るとき ( 例 えば,面接 を受けるとき等)

④親 しくない人と直接対時 しないとき

( 例 えば,初対面の人に電話 をかけるとき等)

⑤公共の施設中で家族 と話す とき

( 例 えば, レス トランで家族 と食事 をしている とき等)

( 私的な場面)

① プライベー トで 目上の人 と話す とき ( 例 えば,街で先生 に出会 ったとき等) ( 参プライベー トで対等の者 と話す とき

( 例 えば,友達 と遊んでいるとき等)

③親 しい人 と直接対峠 しない とき ( 例 えば,友達 と電話で話す とき等)

④私的な場所で家族 と話す とき

( 例 えば,家で家族 と過 ご しているとき等) ( 9ひとりごと

( 例 えば,心のなか, 日記等)

4

【図 1 】 【図 2 】 は,男性 と女性 それぞ れの

「わ」の使用状況 について,年代別 にまとめてみ たグラフである。方言 と共通語 とい う対立関係で 考 える場合,少 な くとも,公的場面では,方言形 がほとん ど使用 されないというのが一般的な予想 であろう。 しか し,この調査 を通 して確認で きた ことは,か な りの割合 で方言形であ る 「わ」が, 実際には,公的場面において も使用 されていると い う事実であった。

【 図1 ‑ 1 】は男性 の公的場面の使用率, 【 図1 ‑ 2】

は男性の私的場面の使用率である。

【 図2‑ 1 】は女性 の公的場面の使用率, 【 図2‑ 2】

は女性 の私的場面の使用率である。

(単 位 % ) (単 位 % ) (単 位 % ) ( 単 位 % )

「 わ 」の使用率

2

! … 皿

了 ヾ● \: . L . ヾ :

L

. L . t '■ : . L . 吋. 1 . L : t t '

( 年代)

【 図 1 ‑ 1 】 男性 ( 公的)

♂㌔軒脚 1 ㌔

( 年代)

【 図 1 ‑ 2】 男性 ( 私的)

㍉ ∴ ‑ ∴

̲ . Ll ・ 竿. 了 . : L . I :■ 了 ( 、 了 . L ' ' l

( 年代)

【 図 2‑ 1 】 女性 ( 公的)

了ニ ヾ ̀ へ : L ヾ ■ 了 二・ . ・ t t t 1 ‑ A . L . t ヾ ′ ‑ L ヾ ■ 、

( 年代)

【 図 2‑ 2】 女性 ( 私的)

LJ ・J か rT3 Lr・ l L □ g lr E ) 、urTf r・3.,9 か ■□ ELJ E] 一 i j i Ll 山 Ln ② ③ ④ ⑤ L □ ■ ■ E )

(4)

那 男女 ともに,公的場面 より私的場面での使用率 が圧倒的に高いことが指摘で きる。 これはある意 味で予想 し得 る結果であるともいえるが,意外 に も公的場 面での使用率がそれほど低 くないことは 注 目に値す る調査結果であると思われる。

津軽地域 の方言形 ともいえる , 「わ」の使用 に

ついては,予想 では,私 的な言語の範境 にあ り, 公的には使用 されに くいことばであると一般 に考 えられが ちである。 しか し,実際にはかな りの広 範囲にわたって,公的な場面において も使用 され ている人称代名詞であ り,共通語の 「 私」の代用 としての位置づけがあ らためて確認で きると思わ れる。

グラフを参照 しなが ら,少 し詳 しく検討 してみ よう。①③④ では 「わ」の使用率が男女 ともに低 い。 「目上 の人 」 「親 しくない人」 を相手 に した 場合 は,使わないことばであ り, また 「自分 をよ く見せ ようとする」場合 にも.方言形 「わ」の使 用 は控 えられるという結果になった。

( 釧 こついては,男女 ともにかな り 「わ」の使用 が積極的になされている様子が見 られ,た とえ公 的な場面であって も,相手が 「 対等」であった り,

「 家族」であった りす る場合 は遠慮 な く方言形の

「 わ」が使われていると考 えて よい と思われる。

「わ」 の使用 に関 して,公的場面 と私的場面 と いう点か らみれば,場面設定 よりも,話相手 との 関係性の方が, 影響力が大 きい とい うことであ り, 公の場所であって も,相手 との関係が親密であっ た り,気遣い しな くてよい場合は,共通語でな く, 方言形の 「わ」が選択 されているということにな

るであろ う。

しか し, ここで 【図1 ‑ 1 】 に注 目 して見 る と, 男性 のなかで も世代 による相違が顕著に現れてい る項 目があって興味深い。それは① の 「 集団の中 で 目上の人 と話す時」 に 「わ」 を使用す る割合が 世代ではっ きり差が出たことである。

男性 5 0 歳代 と 7 0 歳代 は使用率が 0で , 「目上の 人」には 「わ」は使用 しない とい う意識であるが, 反 して 4 0 歳代 で は 31 % もの人が 「わ」 を使用す る とい う結果 を示 している。 また 2 0 歳代 も 1 3 % , 3 0 歳代 も 8 % の割合 で使用が見 られるのである。

これは,尊敬表現の とらえ方に もつ なが る意識 で はないだろ うか。老年齢層 では , 「目上 の人」

は 「 尊敬すべ き相手」 という意識であ り,方言形 である 「わ」でな く,おそ らく共通語形 を使用 し た方が よい と考 えている人が圧倒的であるのに対

千寿子

して,中年齢層 あるいは若年齢層では , 「目上の

人」で も 「わ」 を使用 してよい と考 える人が存在 しているということを示 している。

つ ま り, 目上の人であって も , 「わ」が通用す

ると考 えているとい うことは,尊敬表現 として も

「わ」が許容 されると考 えている人が存在すると い うことである。 これは重要な注 目点であ り,方 言形であって も,尊敬表現の一種 として認める意 識が一部の人たちの間に存在するとい うことであ ろ う。次項の 「わ」の使い分けに も関連すること であるが,方言形である 「わ」 を失礼 な表現でな く,親 しみ を込めた表現 として,プラス指向で と らえる年代が若年齢層や中年齢層 に存在す ること を示唆 しているもの と考 えられるのではないだろ うか。

男女差でみると, 【 図1 ‑ 1 】 【 図1 ‑ 2 】の分布か ら, 男性の使用がかな り多いことが知 られる。女性の 方が 「わ」の使用 に関 しては少 ない。 しか し,男 性 と比較すると少 ないなが らも,女性の使用が全 く見 られないわけではない点は, 【 図 2 ‑ 2 】に も明 確 に示 されているのである。

「わ」 は必ず しも私的場面における自己表現で な く,特 に高年齢層にとっては,公的場面におい て も,使用率の高い‑人称代名詞であると位置づ け られるであろう。比較的男性の使用が多 く見 ら れ るなかで ,7 0 歳代 の女性が 「わ」 をか な りの 割合で使用 しているとい う事実 も,方言使用の実 態 と意識 を考 えるうえで,興味深い結果であると いえる

5

年代別に比較 した場合 において も,重要なこと が指摘で きる。男性 は比較的,全体的に使用が高 いのでわか りに くいのであるが,女性の私的場面 についての 【 図2‑ 2 】 に注 目してみたい。 グラフ が U 型 になってい る。つ ま り ,40 歳代 ,50 歳代 女性 は , 「わ」 の使用 に消極 的 な様子であ るが, 2 0 歳代 ,3 0 歳代女性 は ,6 0 歳女性 と同様 にか な

りの割合で 「わ」 を使用 していることが確認で き るのである。

高年齢層の方 々は,おそ らくは地域の方言社会 の生活が 日常的であ り,幼い頃か らの惰性で使用 している,自然体での使用であるのか もしれない。

方言使用 を矯正 しに くい世代 であるとい う背景か ら,使用率が高 くなっているとも考え られる c

Lか し,若年齢層 は,本来,方言使用か らは,

(5)

‑人称代名詞の使用実態 と使用意識について 遠い存在であると考 えられている。すでにあま り

に教育環境や社会環境,テ レビか らの共通語の氾 濫の影響化にある私達は,知 らず知 らずに方言が 話せない世代 として認識 されているのである。 し か し,そ う した予想 に反 して ,20 歳代 ,30 歳代 の女性が 「わ」 を使用 しているとい う事実は,級 女 らが積極的に意識 して,方言形 を選択使用 して いることを示 していると思われる。

40 歳代 ,50 歳代 とい う世代 は,方言 は良 くな い もの とい う認識があるせいか,私的場面におい て もその使用 を控 えているようだ。 しか し,若年 層 は,方言の もつプラス面,例 えば親密度や仲 間 意識が高 まるとい う方言の特性 をすでに意識 し, 積極的に自分たちの生活に取 り入れているのでは ないだろうか。

70 歳代 の女性 の使用率 の高 さは,生活環境 に 起因す るものであろう。つ ま り,毎 日の生活にお いて気遣 い しな くてはな らない場面が少 ない こ と,家族や親 しい人 との交流がほ どん どであ り, 共通語 を使わな くてはならない とい う意識が少 な いせいであると思われる。

他方 ,20 歳代 ,30 歳代 の女性が 「わ」 を使用 す る背景 は ,70 歳代 の人 た ち と同様 ではないで あろう。社会に出る機会は高年齢層 より多 く, ま た共通語 を学んで きた世代である。その若年齢層 の人たちが 「わ」 を使 うのは, 自然発生的である とい うよ り, 自らが選択 して使用 しているのであ ろう。 ここに,世代 による, また男女による,方 言に対す るひとつの意識が明確 によみ とれると思 われるのである。

6

基本的には,一人称代名詞の 「わ」の使用 につ いては,状況や相手によって使い分け られている 場合が多い。 これは人称代名詞に限 らず,意識的 にせ よ無意識的にせ よ,私達は普通,話す場合は, その場面や話相手によって,影響 を受けることの 方が 自然であるか らだ。そこで,次に,なぜ使い 分けるのかについて質問 し,い くつかの選択肢か ら応 えて もらった結果について, まとめた ものが

【 図 3】 〜 【 図 1 4 】である。男女別 にまた年代別 に,その使用意識の一端が,グラフか らよみ とれ ると思 う。

「わ」 を使 い分 ける理 由 として,各年代 ( 70 歳代除 く)で圧倒的に多かったのが C の 「 失礼 な 態度 を とらないため」 であった。「わ」 を使用す

ると失礼 にあたる, と考える人が多いことを示 し ている。逆の立場で考 えれば,話 し相手が 自分 に 対 して 「わ」 を使用す ると失礼 に感 じるというこ とにつなが るのであろうか。それ とも, 自分 は気 に しな くて も, もしかすると相手が失礼 に思 うと いけないか ら, とい う気遣いか らであろ うか。

「わ」 は,集 団や地域 においてだけ許 される, また理解 されることばであるか ら,相手 と自分 と の距離が明確でない場合には,失礼 に感 じること が懸念 されると思 っている人が多い とい うことか

もしれない。

a の 「その場 にふ さわ しいため」 と考 えている 人 も比較的多かった。状況判断を しているとい う ことである。使 って もいい場合,使ってはいけな い場合 を自己判断 しているとい うことであるが, 場面だけでな く,お互いの距離関係,親密度 とい った,関係性 まで考慮 して判断 しているもの と思 われる 。

「 仕事上,相手が思いっきり津軽弁で話 して き た ら, こっち と して も思 い っ き り使 う ( 50 歳 自 営業) 」 とい う意見 に代表 されるように,方言は, 仲間意識や親密度を深める作用があることが示 さ れているのである。

70 歳代の方にgの 「 使 い分 けは しない」 とい う 人が多かったのは,地域 にとけ込んで 自然体で生 活 しているという環境か らの影響が大 きいのでは ないだろうか。つ ま り,社会的な役割意識にとら われない人が多い とい うことであ り, これは もち ろん年齢 との関係が大 きい。仕事か ら離れた人 も 多いであろうし,家族の中,親 しい人たちばか り の中で生活で きる環境 にあれば,共通語の必要性 は自然 と低 くなるであろう。「わ」が地域語であ るとい うことす ら意識せずに生活 してい られるの であ り,使い分け という意識 も低 くなって当然 で ある。

【 図 3】 〜 【 図 1 4 】は,年代別 と男女別の グ

ラフであ り,それぞれの人の生活環境 (どんな仕

事 についているか, どんな言語環境 にあるか) と

い う背景は考慮 していないため,あ くまで,ひと

つの傾向を示 しているにす ぎない。 しか し,ここ

で も,中高年齢層 よ り 20 歳代 の意見が多様 であ

ることは確 認で きる と思 われ る 。30 歳代 ,40 歳

代 ,50 歳代 ,60 歳代 とい う中高年齢層 において

は,ある程度 まとまった意識 をもっている傾向に

あることがブラフか らよみ とれる。 しか し,興味

深 いのは,男女 とも ,70 歳代 の グ ラフが他 の年

(6)

郡 千寿子

なぜ状況 ・相手 によって 「わ」 を使 い分 けるの か。

a :その場 にふ さわ しい ため b :親 しみ をもたせ るため

C :相 手 に失礼 な態度 をと らない ため d :敬 意 を払 うため

e :相 手 を見下 してい るため f :その他

g :使 い分 けは しない

40 代男性

50 代男性

20 代女性

50 代女性

(7)

60 代男性

7 0 代男性

一人称代名詞の使用実態 と使用意識 について

[ 図 1 2]

■ □ J J E3 ‑J □

齢層 と極端 に相違 してい るこ と,20 歳代 の意見 のまとまりを欠いた様相である。

方言意識の側面 として,若年齢層 においては, 中高年齢 層 に見 られ るような画一的 な見解 で な く,多様な言語認識が存在 していることを予想 さ せ るであろ う。一般的に中高年齢層では,方言使 用に消極的な傾向があったが,若い世代 においで は,方言意識は統一的なものでな く,徐 々に多様 な広が りへ と変化 しているのではないか と考えら れるのである。

あ わ りに

弘前でかな り浸透 し,また継続 して使用 され続 けている,一人称代名詞の 「 わ」 について,その 使用実態の分布 と使用意識について考えて きた。

現代社会では,共通語の普及が著 しく,方言調 査が次第に困難にな りつつある。その一方で,文 化的遺産のひとつ としての方言の価値が再認識 さ れ,新 たな世代,特 に若年層の間で 「 新方言」 4 '

と呼ばれる,かつての方言形 とは違 った型の新 し い方言の出現が報告 されは じめて もいる。

第1 9 期 国語審議会 中間報告 の 「 方言の豊か な 表現形式は残 されるべ きであ り,文化のシンボル であるか らその保存方法 を検討 してゆ く。」 とい う提言が, どの程度意識 されているかは明 らかで はないが,少な くとも,ここ弘前 においては,一 人称代名詞 「 わ」が,独 自の文化圏を形成 しつつ,

十::f j+ . +1 . 相M M・i;i ; +: ; :::yLP 1

60 代女性

, W ,, :.

7 0 代女性

■ □ 田 ■ ロ ■ □ ' D E ) ̲ 田 ' □

保 持の方 向性 にある こ とが確 認で きた と思 われ る。

た とえば,私的場面だけでな く公的場面での使 用 もみ とめ られ るこ と, また40 歳代50 歳代 の女 性 には使用率が低 いが,その中年齢層 を挟 んで, 20 歳代30 歳代 とい う若年齢層や60 歳代70 歳代 と い う老年齢層には, 反対 に使用率が高いことなど, 注 目すべ きい くつかの使用実態 を明 らかにで きた

と思われる。

方言使用 に消極的であると考 え られがちな若年 齢層において,かえって積極的に方言形 「わ」が 使用 されているという実態は,一人称代名詞 「わ」

の方言特性が,ある程度認識 されて受け入れ られ ている証で もあるだろう。親密度や仲 間意識 を深 化 させ る作用 をもつ ことを,中年齢層 よ りも若年 齢層の方が,敏感によみ とっていることがその背 景 にあるのではないだろ うか。

この‑人称代名詞 「わ」は,弘前 にのみ見 られ る方言形ではない。 『日本方言大辞典 j 5) によれ ば,八丈島や鳥取,島根の各地 に存在することが 確認で き,青森独 自の方言形でないことは明 らか である。 しか し,現時点において,‑人称代名詞

「わ」が以前の方言調査 時 と同様 に,弘前以外 の

地域で も存続 しているか どうかは,今後の研究調

査 を得 たねばな らない。弘前の ように,過去の方

言 としてではな く,現在 も生 きて活用 されている

一人称代名詞 としての存在であるか どうか,につ

(8)

いては今後の課題 としてお きたい。

‑人称代名詞 とい うひとつの視点か らの研究で あるが,言語実態 と言語意識が,地域 によって ど の ように同様で,またどのように違っているのか, あるいは,そ うした地域性が どういう原因による

ものなのか,言語推移の背景 にまで言及で きるよ う,今後 も調査 を続 けて,比較検討 を してゆ きた い と考えている。

千寿 子

参考文献

1 ) 佐藤和之 ・米田正人 Fどうなる 日本のこ とばJ 大修館書店,P3 6,1 99 9 年

2 ) r 日本類語大辞典J講談社,p1 7 3 3,1 9 7 5 年 3 ) r 現代 日本語方言大辞典 第六巻」明治書

院 ,p5 50 4,1 9 93 年

4) 「 地域方言 と社会方言 」 「日本語学』第1 8 巻第1 3 号,1 9 9 9 年1 1月

5) r 日本方言大辞典 下巻』小学館 ,P2562 , 1 9 89 年

( 2 00 3. 7. 31 受理)

参照

関連したドキュメント

※ 硬化時 間につ いては 使用材 料によ って異 なるの で使用 材料の 特性を 十分熟 知する こと

 食品事業では、「収益認識に関する会計基準」等の適用に伴い、代理人として行われる取引について売上高を純

性別・子供の有無別の年代別週当たり勤務時間

最も偏相関が高い要因は年齢である。生活の 中で健康を大切とする意識は、 3 0 歳代までは強 くないが、 40 歳代になると強まり始め、

ㅡ故障の内容によりまして、弊社の都合により「一部代替部品を使わ

PAD)の罹患者は60歳では人口の7.0%に,80歳では 23.2%にのぼるとされている 1) .本邦では間欠性跛行

日本全国のウツタインデータをみると、20 歳 以下の不慮の死亡は、1 歳~3 歳までの乳幼児並 びに、15 歳~17

利用している暖房機器について今冬の使用開始月と使用終了月(見込) 、今冬の使用日 数(見込)