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修士学位課題研究

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修士学位課題研究 

題  名 

育児休業中における学習意欲の規定要因に  関する研究 

頁    1〜28  指導教員 

西村孝史  准教授 

2019年 1 月 10 日提出  首都大学東京大学院 

社会科学研究科(博士前期課程)経営学専攻 

学修番号 17877248 

氏 名

ふ り が な

  林

はやし

  美紀

(2)

目次 

第1章  はじめに ... 3 

第 2 章  先行研究 ... 4 

第 3 章  事前調査 ... 6 

第 4 章  仮説の設定 ... 8 

第 5 章  調査内容 ... 10 

第 6 章  調査結果と分析 ... 12 

6-1 育児休業中の就業継続と学習意欲の概念 ... 12 

6-2 学習意欲の規定要因 ... 17 

第 7 章  考察 ... 18 

参考文献 ... 25 

(3)

第1章  はじめに

本研究の目的は、育児休業利用者が復職するにあたり、育児休業中にスキルアップや資格取 得に励む人とそうでない人の違いは何か,その状況要因および心理的プロセスを明らかにする ことである。日本の女性の年齢別労働率は、結婚や出産、育児により労働市場から退出し、育 児後の労働市場再参入により M 字カーブを描いている(池田, 2010)。また、日本では育児期に 就労継続する女性の比率は少なく、2004 年に厚生労働省が行った調査では、第 1 子出産後に就 労継続する女性は 23%であった(小坂・柏木,2007)。このような育児期の就労の中断は、他の先 進諸国ではほとんど見られなくなってきている(内閣府,  2002)。その一方で 1990 年代の終わ りからは、 「働く夫と専業主婦」という組み合わせの世帯よりも、共働き世代のほうが多くなり、

以後その差は開いていく(浜屋・中原, 2017)。松浦(2015)では、第一子出産を機に役7割が 退職し、その後子育てがひと段落してからの再就職を望む女性が多く、小学生以上の子供を持 つ 30〜40 歳代の女性の 9 割以上が働くことを希望しているが、実際に働いている人は 5 割前 後にとどまっており、理想と現実に大きな開きがあるとされている。さらに、一度非正規にな ることで、その後の就業も安定せず、第二子の出産をあきらめる女性が多いことが問題となっ ている(久保, 2015)。 

しかしながら、M 字カーブが緩やかではあるが解消されており、第 1 子出産後も就業継続す るケースが増えている。阿部(2005)では、女性が就業継続する背景として、勤続年数が長い女 性は同一企業に就業することによって、将来的に高い所得を得る可能性があることを挙げ、企 業にとってもこのように定着した女性が退職するデメリットが大きいとしている。また、2016 年に「女性活躍推進法」が施行され、政府が「一億総活躍プラン」を推進する中で、働きなが ら子育てすることがより増加すると考えられる(大石, 2017)。企業の女性登用の流れが、働く 女性に裁量性を与え、労働時間を自身でコントロールできるようになりつつあるとし、仕事や 働く時間の裁量性が出産退職を抑制する効果がある事を示している(高見, 2012)。その一方で、

就業継続した女性が子供を持つことが仕事での評価の低下につながる職場も存在していること や、多忙な母親の仕事も育児も中途半端という思いも明らかにしている(久保, 2015)。 

女性のキャリア形成や仕事と家庭の両立ついての研究は、両立支援制度、上司支援、組織文

化との関連を分析するものであったが、さらに女性を積極的に登用する文化や、日々の職場で

のオープンなコミュニケーション、上司の内省支援等、より女性を仕事に巻き込むマネジメン

トや支援が、女性のキャリア展望を促すとされる(荒木他, 2017)。坂爪(2017)では、短時間

勤務制度の利用におけるキャリア停滞に対し、短時間勤務制度利用前と変わらない仕事タイプ

の継続がリスクを低減させるとした。 

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しかし、上司、同僚、あるいは企業の人事制度といった企業側の要因や家庭での支援体制な どに関する研究が蓄積されている一方,就業継続に向けた資格取得に励む人とそうではない人 の違いに関して個人の心理的プロセスについて探索的に検討された研究は管見の限り見当たら ず 、 本 研 究 は こ の 点 に 注 目 す る 。 特 に 日 本 に お い て ほ と ん ど 研 究 蓄 積 の な い 埋 め 込 み

(embeddedness;  Mitchell,  Holtom,  Lee,  Sablynski  and  Erez,  2001,  Lee,  Mitchell,  Sablynski, Burton, and Holtom, 2004)に関する研究はなく、育児休業中の女性は、仕事の埋 め込みと仕事外の埋め込みを研究するうえでの極端事例(Yin, 1996)であり、サンプルとして 最適である。なぜなら、育児休業中の女性は、一定期間職場を休むという点で仕事での埋め込 みを維持しつつも、子供の誕生という家族構成の変更により仕事外での埋め込みについて変更 が生じ、両者の関係性の中で就業継続の可否を考えなければならないからである。 

第2章  先行研究 

先行研究では、育児と仕事の両立をする女性に対して、主に就業継続や役割葛藤、スピルオ ーバーが取り扱われてきた。小坂・柏木(2007)では、子を持つ母親の就業継続と退職の理由を調 査しており、その意思決定要因として、「家庭優先」「やりがいのある仕事」「自立志向」「夫や夫の 親からの就労反対「夫の家事育児のサポート」「自分の親や周囲からの育児サポート」の 6 つの要 因が大きく影響していることを示した。「やりがいのある仕事」という認識が、就業継続へ強く 影響する一方で、「夫や夫の親からの就労反対」が退職に繋がるとしており、就業継続への要因 は自立志向など、本人の意志なのに対し、家族の要因が女性のライフコースを左右することを 明らかにしている。 

育児休業からの復職が「夫や夫の親からの就労反対」でできない可能性がある一方で、育児の 経験が復帰後の仕事の能力開発に影響をもたらすとされる脇坂(2008)もあり、この研究を踏ま えると、復職予定の女性が職場に戻れないことは企業にとって大きな損失である。脇坂(2008)

では、育児そのものがもたらす能力開発について研究され、育児という経験が仕事に役立つこ とを示した。育児は「忍耐」をとおして深いコミュニケーションの能力を磨き、 「気づき」を通 して、的確で迅速な対応をできる能力を形成するとし、「能力を高める良い機会である」「社外 での人的ネットワークを拡大する良い機会である」「社外の価値観や考え方に触れる良い機会 である」 「仕事での時間管理を上手に行う能力が高まる」 「仕事を効率的に進める能力が高まる」

「仕事を新しい観点からみることができる」という6つの効果を述べている。さらに、浜屋・

中原(2017)では、育児は男女共に主にリーダーシップ能力の開発に好影響をもたらすとし、

「業務能力向上」 「他部門理解促進」 「部門間調整能力向上」 「視野拡大」 「自己理解促進」 「タフ

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ネス向上」の点を挙げている。菊池・寺田(2016)では、事務職の女性に限定した調査を通して、

育児期女性の仕事スキル習得のプロセスを体系化している。育児がもたらす就業上の困難(子 の突発的な体調不良など)が、他者と積極的にかかわる必要性の実感となり、他者との相互作用 による学習が、業務遂行上のプライオリティー付けや既存スキルの深化、感情コントロールと いったヒューマンスキルの向上に正の影響をもたらし、それらが自信となり就労継続に結び付 くとしている。 

また、育児休業からの復職にあたって、龍野他(2012)では、第一子の育児休業中の母親が求 める感情面と情報面でのサポートについて指摘をしており、感情面では「理解」「承認」「発散」「共 有」「共感」の 5 つの要素が重要とし、さらに情報面では「手引き」「生きた情報」が求められてい るとした。具体的には、職場や地域の先輩ママとの交流が第一子出産時休暇から復職にあたり 必要だとしており、コーポレートレベルにおいて交流の促進の必要性を述べている。 

さらに、育児と仕事を両立することで女性は役割葛藤をするという点について、金井(2010) では、結婚や出産・育児をきっかけたしたキャリア・トランジションがワーク・ファミリー・

コンフリクトに及ぼす要因を検討している。その結果、夫婦間の役割調整や家庭役割低減対処、

家庭役割充実対処、仕事役割低減対処の要因が葛藤を緩和し、精神上のリスクを低減すること で育児と仕事の両立に好影響をもたらすとしている。 

育児と家庭のコンフリクトは復職後にも発生する。庄田他(2013)では、復職後に直面する育 児と仕事の両立による役割葛藤やストレスについて、職場の対人関係を円滑にする工夫が育児 と仕事の両立に相互作用をもたらすと示している。両立を選択した母親が家庭と職場の 2 つの 環境に対して、家庭では夫との情報共有と役割分担、職場では他者への働きかけをすることで、

自らが積極的に居やすい環境にすることが重要であると指摘している。夫との役割分担という 点から岩崎(2007)は、共働き夫婦、夫と妻それぞれのスピルオーバーを調査し、家庭役割と仕 事役割の多重役割をストレッサーとして捉えた時、ネガティブ・スピルオーバーの根底は長時 間労働にあり、夫は長時間労働と仕事役割での大きな責任が、妻は育児を自分だけに任せにさ れているという思いがネガティブ・スピルオーバー生むとしている。 

これらの研究は、育児休業からの復職という文脈から捉えた研究であるが、育児休業からの

復職を離職行動の一種と捉えることもできる。なぜなら様々な要因により復職が出来ずに離職

する、もしくは転職することがあり得るからである。つまり、育児休業からの復職が家族や親

族の反対、家庭での役割(葛藤)の影響、あるいは職場や地域のママ達の交流の影響によるの

であれば、埋め込み(embeddedness)という視点で本研究を位置付けることができる。埋め込

みとは、「個人が存在する網の ようなもの」「社会的文脈に埋め込まれた個人」であ る。

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Mitchell,et  al(2001)は、埋め込みの構成概念を「つながり(link)」、「適合(fit)」、「犠牲

(sacrifice)」の 3 つで構成している。 「つながり」とは、他者や組織とのつながりの程度を示 し、 「適合」は、本人が組織やコミュニティに馴染んでいると感じる程度を示す。また、 「犠牲」

は、組織やコミュニティを去る時に支払うであろう心理的・物理的なコストを指す。Mitchell,et  al(2001)は、埋め込まれている対象を本人が勤めている組織(=企業)と地元のコミュニティ の2つに分け、前者を仕事上の埋め込み(on the job embeddedness)と呼び、後者を仕事外の 埋め込み(off the job embeddedeness)と呼んで2つに分けている。Mitchell,et al(2001)で は、食料雑貨店と病院のサンプルから埋め込みの概念について尺度開発を行い、埋め込みが自 発的な離職の予測変数となるほか、仕事の満足度、組織コミットメント、次の仕事に就ける可 能性(job alternatives)、求職行動(job search behavior)を説明できることを明らかにし ている。さらに、Mitchell,et al(2001)の研究を発展させた Lee, et al(2004)では、仕事上の 埋め込みと仕事外の埋め込みについてそれぞれ異なる仮説を展開している。仕事外の埋め込み は、自発的な離職と欠勤行動を有意に予測することを明らかにする一方で、仕事での埋め込み は、これらの変数に影響を与えなかった。また、仕事での埋め込みは、組織市民行動と仕事の 成果を高めるが、仕事外の埋め込みは、組織市民行動と仕事の成果に影響を与えなかった。さ らに仕事の埋め込みは、組織市民行動、仕事の成果、欠勤行動が自発的な離職に与える効果を 調整し、仕事外の埋め込みは、組織市民行動が自発的離職に与える影響を調整することが明ら かにしている。 

  このように、働く母親の育児と仕事の両立や、就労継続、学習経験としての育児そのものが 仕事にもたらす影響、役割葛藤に関しては様々な指摘がある中で、仕事上の埋め込みと仕事外 の埋め込みが育児休業中のスキルアップ・学習意欲に与える影響を検討した研究は少ない。的 場(2014)では、在職中に出産した女性の 8 割以上が育児休業の取得をしており、 「育児休業中も 復帰に備えてスキルアップに努めるべき」に肯定的な回答をした人は約 6 割に及ぶ。他方で先 行研究で指摘されるように、育児休業中の女性を取り囲む様々な環境要因によりスキルアップ が「べき論」として実態を伴っていないことが窺える。育児休業中の積極的な学習行動は、女 性の育児休業からの復職を支援すると予想されることから、本研究では育児休業中のスキルア ップに対する個人の意欲がどのようなプロセスによってなされるのかを埋め込み理論を中心に 検討する。 

第 3 章  事前調査 

  本研究では、育児休業中に復職に向けて準備をする女性と準備しない女性では何が異なるの

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か、仕事での埋め込み、仕事外での埋め込みからどのような心理状態になるのか、そのことが スキルップや学習意欲に与える影響について検討する。ただし、先行研究でも触れたように育 児休業中の学習意欲のプロセスについては、ほとんど研究がなされていない。そこで仮説を導 出するために事前調査として、5 月 23 日〜5 月 31 日にかけて育児休業取得経験のある正社員 女性 12 名にインタビューを実施した(平均インタビュー時間:41 分)。事前調査の実施にあ たり、対象者の選択にあたっては、育児休業の取得経験があり、育児休業の取得前後もフルタ イム就業している正社員女性を対象とした。対象者の平均年齢は 36.5 歳、平均勤続年数は 13.9 年、子供の人数の平均は 1.16 人、第一子出産時の平均年齢は 32 歳であった(表 1) 。 

事前調査の結果、育児休業中に資格の取得やスキルアップを実践した経験があると答えた女 性は 4 名/12 名であり、母数は少ないものの、3 割の女性は学習意欲があったことを示してい る。なかには、育児休業取得前の職務経験を活かし、国家資格の取得や専門医へのスキルアッ プを果たし復職をした例もみられた。その一方で 8 名は、学習意欲に関する言及がなかった。

このことは的場(2014)が指摘する約 6 割が「育児休業中も復帰に備えてスキルアップに努める べき」という割合の半分であり、実態としてスキルアップをすべきだと考えていても、スキル アップを行動に移すことができる人は半数であると言える。 

さらに、事前調査で共通して目立った概念として、復職に対する「不安」である。また、不 安と共に多かったのが、「葛藤」であった。これは育児休業中に学習することで子育てに対す る葛藤や、復帰後に子育てをしながらの時間短縮勤務になることによる職場への葛藤によるも のだと考えられる。金井(2006)は、正社員女性は、男性正社員やパートタイマーよりもワー ク・ファミリー・コンフリクトを多く経験するとしている。本研究では、こうした育児休業中 の学習意欲の規定要因を明らかにし、育児休業取得中の学習意欲が復職時のスムーズな移行に つながることを検討したい。 

表 1  事前調査対象者の属性 

(8)

第4章  仮説の設定

本研究のリサーチクエスチョンは、「育児休業中の学習意欲の発生プロセスはどのようなも のか。また、学習意欲の差はなぜ生じるのか」である。先行研究および事前調査を踏まえて、

仮説を設定する。以下にそれぞれの仮説を導出するに至った印象的な語りを示す。 

  まず、金井(2010)では、女性は男性よりも育児の葛藤に直面することが述べられており、下 に記述した語りから復職に対する不安を抱いている。人が不安に対処する際に用いる対策は、

認知的方略と呼ばれるが、その中でも、防衛的悲観主義というものがある。防衛的悲観主義と は、「重要な課題に対して、過去に同様の課題で成功しているにもかかわらず、強い不安を感 じるが、その不安を統制して適切に課題に対処することを助ける認知的方略」である(Norem,  2001)。荒木(2008)によると、防衛的悲観主義は、不安を感じつつもそれをもとに努力が動機 づけられ、望ましい結果につながるとされる。育児休業に伴う復職は、(本人の意向を確認し たうえで)原則として休業前の部署に戻すことから防衛的悲観主義が働き、学習意欲が芽生え ると予想される。 

仮説 1: 育児休業中の復職に対するネガティブな感情が学習意欲に正の影響を与える 

営業職だったのですが、時間も不規則で第一子出産後、このまま復帰できるのかなと不安 だった。復帰後は同じ現場と決まっていたので、少しでも専門性を付けるためにもシステ ム系の知見を付けました。システムエンジニアに近い知見を付ければある程度は残業や繁 忙になる時期も読めるし、子供のことも調整できるのかなと思って。(事前調査対象者 3) 

Mitchell,et al(2001)が提唱する埋め込み概念の構成要素のうち、 「犠牲(sacrifice)」は、

組織やコミュニティを去る時に支払うであろう心理的・物理的なコストを指す。心理的コスト

は功利的コミットメントに近いものであるが、物理的なコストは、文字通り金銭に関わるもの

である。育児休業中は、企業からの給与は原則として無給であるが、その代わり雇用保険から

育児休業給付金が支給される。休業から 180 日は、賃金月額の 67%が支給されるが、180 日を

超えると、支給額は賃金月額の 50%となる。浜屋・中原(2017)は、専業主婦ではなく共稼ぎ

世代が増えていることを指摘しており、女性の収入は、家計にとって重要な収入源である。し

たがって、給与が支給される仕事(企業)への埋め込みが、学習意欲に正の影響を与えること

が予想されることから仮説 2-1 を導出する。 

(9)

仮説 2-1 : 育児休業中の就労継続への覚悟(生計面)が学習意欲に正の影響を与える 

やっぱり子供ができると、(子供が)やりたいってことはやらせてあげたいなっていうのが 正直なところで。習い事だったり、学校だったり、自分も親にはやらせてもらっていたの で(事前調査対象者 1) 

仮説 2-2 : 育児休業中の就労継続への覚悟(キャリア観)が学習意欲に正の影響を与 える 

第一子出産後、時短を経験して、仕事に対しては質を上げるためにも、 (第二子の)産後勉 強して資格を取ってとりあえず付加価値は付けたかな。やっぱり何があるか分からないし、

いつでもキャリアに戻れるように、今の会社じゃなくても市場価値だけはそれなりに保と うと思いまして。(事前調査対象者 1) 

小坂・柏木(2007)も「夫の家事育児のサポート」「自分の親や周囲からの育児サポート」が継続 就業に必要な要因であると挙げている。また、Lee, et al(2004)の研究によると仕事外での埋 め込みは、自発的な離職と欠勤行動を有意に予測するということや、事前調査対象者 4 のよう な語りから仮説 3-1 を設定する。 

保育園が見つかりにくい地域に住んでいたので、思い切って実家の近くに引っ越しました。

そうしたら保育園もすぐには入れて、母も相当支援してくれて。少し時間もできたのでこ の際、(業務に必要でもある)英語を勉強しようと(事前調査対象者 4) 

仮説 3-1 : 育児休業中の家族の支援が、学習時間や心理的余裕の獲得となり学習意欲 に正の影響を与える 

Lee, et al(2004)の研究によると、仕事での埋め込みは、離職意思や欠勤行動に影響を与え

ないとされるが、龍野他(2012)では、感情面および情報面でのサポートから職場の先輩ママが

復職には必要だとされている。実際に企業でも社内に点在している先輩ママをつなぐネットワ

ーキング活動や会社のサポート(例えば、cyberagent の macalon パッケージなど

1

)が継続就業

(10)

に影響を与えるとされていることから、日本では仕事の埋め込みが継続就業に向けた学習意欲 を高めると予想し、仮説 3-2 を設定する。 

仮説 3-2 : 育児休業中の職場・同僚の支援や理解が、学習時間や心理的余裕の獲得と なり学習意欲に正の影響を与える 

恵まれていると思います。制度で在宅も使えるのですが、(上司は)直行直帰の推進をして くれたり、時短でも会議体の内容はきちんと共有してくれるので、他の同僚とのコミュニ ケーションにも困りません(事前調査対象者 11) 

      図 1 本研究の分析モデル 

第 5 章  調査内容

本研究では、定性的調査であるインタビュー調査を実施するデータ分析は、木下(2003)の M-

GTA に倣い、伊勢坊・中原(2016)や大島(2013)を参考とし、インタビューをまとめる。調査

は、平成 30 年 6 月から 12 月にかけて実施した。調査は倫理的配慮および目的の説明に同意の

もと、半構造化インタビューを実施した。 

(11)

インタビュー調査対象者は 14 名、対象者の選出にあたっては、事前調査と同じく育児休業を 取得経験があり、育児休業の取得前後もフルタイム就業している正社員女性を対象とした。ま た、事前調査では筆者と身近な人物を対象としたが、所属業界や業種に偏りが出ることを避け るため、本調査に関しては新たに 12 名の女性にインタビューを実施した。重複者の 2 名に関 しては、再度インタビューを実施した。インタビュー時間の平均は 54 分である。調査対象者の 平均年齢は 35.9 歳、平均勤続年数は 13.4 年、第一子出産時の平均年齢は 29.9 歳、子供の人数 の平均は 1.35 人であった。また、所属する企業の業界は製造業、運輸業、教育関連、医療系と 幅広い業界から選出をした。職種についても営業や事務、秘書や研究開発とし、所属する業界 や職種でバイアスがないように配慮した。調査対象者の属性は表 2 のとおりである。 

調査対象者は 14 名であるが、第一子の出産と第二子以降の出産での違いが語りから明らか になっていることから、出産ごとに分けたことにより、調査対象の事例は 20 である。インタビ ューに関しては、まず自身の経歴から現在にいたるまでを自由に話し、事前に仮説とした育児 休業中の学習経験の有無、育児休業取得前後の環境と意識の変化を中心にインタビューを実施 した。インタビューでは、エピソードを含め日常をより具体的に聞くことを重視した。また、

インタビューを分析するにあたり、本人からの承諾の元、録音データを文字に起こした上で、

インタビュー中に筆者がメモをした内容と合わせて分析対象とした。 

本研究では,学習意欲の有無を判断するために育児休業中に資格取得をした否かというもの を用いる。表1の通り,公的資格から社内資格まで種類も難易度もバラつきがあるが,本研究 の目的は,復職に向けた意欲が生じる人とそうではない人の違いについてその状況的要因なら びに心理的プロセスを扱うことである。そのため資格取得の種類や難易度の違いで細かく分類 するよりも資格取得の有無という2値変数で事例を分類し、両者の違いを浮き彫りにする。 

表 2  調査対象者の属性 

(12)

第 6 章  調査結果と分析

6-1  育児休業中の就業継続と学習意欲の概念 

本項では、以下の育児休業中の就業継続への意識と学習意欲について概念の提示をする。語 りによって生成された概念は 12 あり、それを 3 カテゴリーにまとめた。概念を「」で示し、以 下、カテゴリー単位で説明する(表 3)。 

表 3  インタビュー結果 

(1) カテゴリー1不安 

該当する概念は、 「1.復職への不安」「2.育児と仕事の両立」である。出産、育児、復職後の

両立に関しての不安について、以下のような語りが見られた。 

(13)

1. 復職への不安 

  復職への不安は,育児休業に入ることで情報のキャッチアップが出来なくなることへの不安 やスキルの陳腐化,職場での居場所がなくなることに関する語りが見られた。 

    転職後、やっと仕事もひと通り回せるようになっていた矢先の妊娠だったので、でも年 齢的な問題もあるし、 (中略)もしかしたら出産のブランクで私のポジションがなくなる のかとか、復帰したら浦島太郎になっちゃうんじゃないかと不安しかなかった 

(対象者 14)   

2.育児と仕事の両立 

ここでは、育児休業を取得することで、休暇前のポジションがなくなるのではないかという 思いや、ブランクと感じることが大きな不安となっていること、特に第一子出産後に復帰に対 する不安が語りとして見られた。 

特に 1 人目の時は、何もかも不慣れで夜通し泣かれると休暇中でも眠れないし、この勢 いで復帰なんてできないし、復帰直前までそんなことばかり考えていました。結果どう にかなったのですが、赤ちゃんと 24 時間一緒にいるとやっぱりかわいいし離れるのも なぁという思いと、でも仕事も、という思いで精神的に相当なものでした。 (対象者 19) 

(2) カテゴリー2 就業継続への覚悟 

該当する概念は「3.育児と仕事を見据えての転職」 「4.生計面での覚悟」 「5.昇進昇格の遅れ」

「6.キャリア観の変化」である。育児休業前後の転職の判断やキャリア観含め、就業継続への 意識と学習意欲の変化について出産と育児休業を通してどのように意識の変化があったのかを 4 つの概念群としてまとめた。 

3. 育児と仕事を見据えての転職 

 ここでは、新卒で入社もしくは従事した環境が、今後自身が子供を持ちたいと考えた時に、両

立ができない、もしくは両立しているロールモデルが存在しないことで、キャリアチェンジを

含む転職を決心するという語りが見られた。 

(14)

手に職をつけて、子供ができて安定して両立できるかなと思って歯科医になったけど、思 っいてたよりも安定してないし激務で(中略)どうしたらお金と子供と仕事の両立ができ るか考えたときに、先輩が矯正医の専門医から認定医になってどうにか両立していて、だ から私もと。(対象者 8) 

4.生計面での覚悟 

  親として子供が望むことは叶えてやりたいという思いや、以下の様により具体的な理由によ って、教育費(生計)に対する覚悟を語る例が見られた。 

うちは旦那が(出身が)モロッコなんです。ある時、前の保育園で(子供が)いじめられてし まって。そのころ住んでいた場所では、外国人も少なかったですし。そんな経験から引越 しをして、小学校からはインターナショナルスクールに入れることを決めました。そうし たら日本の私立なんか比にならない学費で。(対象者 5) 

5.昇進昇格の遅れ 

育児休業と、その後の時短勤務により、評価が下がるもしくは昇進昇格に遅れが生じること が語られた。また、それにより同期と比べた際に昇給の遅れが生じた結果、モチベーションに も負の影響を与えている。 

あくまでも私のいる会社だと、同期に比べて最低4期は昇進昇格が遅れる。だからお給与 も同期で同じ仕事でも悲しくなるほど差が出ちゃって。休むだけでも4期だし、そのあと の時短と合わせたらもう絶望的になるときがある(対象者1) 

6.キャリア観の変化 

  キャリア観の変化は本調査にて非常に多く語られた内容の 1 つである。子を持つことで様々 な意識変化があるが、乳幼児を育てながら、自身の長期的なキャリアについて見つめなおすこ とで発生するキャリア観の変化である。復職後の両立に向け、これまでの自身の働き方につい て振り返り、子育てとの両立が果たしてできるのか自問自答する様子が語られている。 

漠然としているかもしれませんが、お休みを頂いている間、意外と会社からの連絡が少な

いことで、私がいなくても会社がまわることを実感しましたし、会社に捧げている時間の

(15)

長さも感じてしまって、キャリアばかり追い求めなくても、(育休は)やりたいことで専門 性を付けたいと考えるようになったきっかけかもしれません。(対象者 9) 

2. カテゴリー3 周囲の環境 

該当する概念は「7.配偶者の支援」 「8.実家の支援」 「9.職場(上司の支援や理解)」 「10.職場

(子育中の同僚の有無)」 「11.育休中も会社と連絡していた」 「12.後任の有無」の 6 つで構成さ れている。 

7.配偶者の支援 

周囲のサポートの中で一番身近なのが配偶者である。育児休業中は乳幼児と長い時間過ごす ことが多いが、配偶者が育児に協力的なことで、学習意欲が生じたり、復職後の子育てと仕事 の両立に関する現状が語られている。 

(配偶者とは)意見が合致しているんだと思います。私が働きたいということと。3 人目の 復帰の時にもうサポートできることがないと言われたんです。気が付いたら、家事も(子供 の)見送りも、全部旦那がやっていたんですよね。それに気が付いてからは私も(家事を)や るようにしています。(対象者 3) 

8.実家の支援 

子育てにおいて、実母を一番頼りにしていると語った対象者は多く、また復帰後を見据えて 実家の近くへの転居や、同居を検討する語りがあった。資格取得の有無と、実家との距離を見 たクロス表が表 4 である。実家が近距離の対象者で資格取得をした者は 57.1%で、実家が遠い 対象者で(42.9%)より上回っている。 

はじめは会社の近くに住んでたけど、実家の母が通いやすいように、住む場所も変えたり

工夫をした。職場も家も実家も全部同じ路線。 (母は)子育てで一番頼りにしているし、安

心できるから(対象者 10) 

(16)

表 4  実家との距離と資格取得の有無との関係性 

  資格取得あり  資格取得なし  合計 

実家が近距離・ 

もしくは同居 

4 人(57.1%)  3 人(42.9%)  7 人(100%) 

実家が遠い  3 人(42.9%)  4 人(57.1%)  7 人(100%) 

9.職場(上司の支援や理解) 

ここでは、育児休業中の業務での会社からの連絡ではなく、上司からの内省支援を含むサポ ートや理解を示している。また、以下の語りにも見られるように上司からの支援が組織へのコ ミットメントを深め、専門性の向上を見据えた学習意欲に影響をもたらしていると考えられる。  

議員としても、秘書の私が子供を育てながら仕事をしていることは試みなんだと思います。

日本の働く母親がどれだけ大変なのかを理解したいと言ってもらっていて。なので、家で できることは家でやらせてもらったり(中略)もちろんそんなこと言っていられないほど 激務の時期もあるのですが、根底で理解が得られていると違いますよね。(対象者 14) 

10.職場(子育中の同僚の有無) 

子育てと仕事を両立している同僚の有無は、復職後の不安の軽減をもたしている。それによ り、復職に対して、焦燥感を抱くよりも前向きに育児休業期間を過ごすことが可能になり、そ の心理的余裕が学習意欲に影響を与える。 

いらっしゃいますよ。ランチをしながらいろいろと相談したり。どちらかというと仕事の 話です。同僚ママ同士では意外と子供のことは話さないかもしれません。何よりも感謝は、

制度的なもの、時短とか、在宅とか。その先輩がいることで回りがもう理解しているので、

(制度を)利用しやすいし、後ろめたくない。(対象者 7) 

11.育休中も会社と連絡していた 

  前出の、9.職場(上司の支援や理解)とは異なり、このカテゴリーは、業務上での連絡であ

る。育児休業前に引継ぎができず、乳幼児の世話をしながらも自宅で業務しているに等しい状

況である。 

(17)

    会社から電話があるというか、ほぼ毎日のようでした。子供が熱を出しても眠ったら仕事 するみたいな。会社がちょうど大きくなる時だったから仕方ないのですが。(対象者 13) 

12.後任の有無 

  前出の 11.育休中も会社と連絡していた、の背景に後任人事がないことが語られている。以 下の語りのように、後任人事はおらず育児休業中は他の同僚が兼務をする形では、引継ぎが遂 行できず、頻繁に連絡がある様子が語られている。 

後任の方は特にいなく、他のメンバーが私の業務を兼務する形で。担当する(品質管理の)

商品が異なるのでもう少し引継ぎはしたかったのですが、結局何かあると電話で話して、

パソコンを開いてと、そんな過ごし方でした。(対象者 16) 

6-2  資格取得の要因 

  表 2 で資格取得をした対象者 no.1 から no.10 にのみ該当するカテゴリと、資格取得をして いない no.11 から no.20 だけに共通するカテゴリを確認し、資格取得要因を探る。 

1. 資格取得をした人のみに該当する項目 

資格取得をした対象者の共通点は、「3.育児と仕事を見据えての転職」および「6.キャリア観 の変化」であった。 

先輩たちは独身だったし、結婚されている方が本当に少なくて、子供産んで、小さい子抱 えてやるって無理だろうなと薄々気付いちゃった感じで。(中略)ちょうど 29 歳の時にキ ャリアを考えたとき転職しました。(対象者 4) 

    学校を卒業してからは実は看護師だったんです。今思うと夜勤のある看護師はできないし、

子供は 30 歳前に欲しかったので、保健師としてキャリアチェンジできたのはよかった。

(対象者 10) 

上記のように、ライフイベントとして将来子供を持つことを鑑みたときに、今の仕事が子育

てと両立できるのかを自問自答し、早期にキャリアチェンジを図り転職をしている共通点が見

られた。この場合はその多くが専門性の高い職種、もしくは将来的にそれが実現可能な職種へ

(18)

の転職となることが共通点である。さらに、仮説として設定したが就業継続への覚悟(生計面) に関しては、子の教育費に該当されるとしていたが、これは育児休業と時短勤務での収入の減 少が大きく関わっていることも明らかとなった。

2. 資格取得をしていない人のみに該当する項目 

資格取得が見られなかった対象者に該当する概念は、「11.育休中も会社と連絡していた」、

「12.後任の有無」である。 

    第 1 子の(育休の)時は、後任の人がいなく、お客様のシステム構成や保守に関しての問い 合わせが多かった。あっという間に復帰という感じ。ただ、お客様に迷惑がかかるのも嫌 だし仕方ないとも思った。そのころは、主人も単身赴任だったからというのもあって、(会 社とのやり取りに対して)疑問にも思っていなかった。(対象者 11) 

資格取得をしていなかった人のみに該当するカテゴリは、育児休業中の会社との連絡と後任 人事がいないことである。特に育休時に後任の人事がないことで、業務の引継ぎがなされてい ない点である。このことから、上司や関連部門からの問い合わせが多く、育児をしながら自宅 で業務を遂行するような育児休業を過ごすことになる。これは、先行研究とは異なる知見であ り、これまで会社側の研究を個人の側面から捉え直した場合、興味深い知見である。 

  育児休業中の従業員へ対する企業からのコミュニケーションにはバラつきがあり、社内報や 人事関連の書類のみ郵送されてくるという語りも見られた。 

(育児休業中に)社内報は送られてきました。あとは、マイナンバー関連のやり取りくらい でした。復帰後に聞いた話ですが、上司は積極的にやり取りをするようにと(会社から)言わ れていたようですが、そういわれても(上司も)困りますよね。(対象者 3) 

    私の会社ではないのですが、社内の Web 教育を育休や介護休暇中に公開してくれる会社も あると聞いたことがあります。内容にもよるけど、いいきっかけにはなりそう(対象者 4) 

第 7 章  考察 

本章では、調査結果からどのような要因が学習意欲に強く影響しているのか、仮説を検討す

る。 

(19)

  まず、仮説 1(育児休業中の復職に対するネガティブな感情が学習意欲に正の影響を与える)

は、資格取得をしている人としていない人の違いから、不安だけが条件ではなく、それが早期 にキャリアプランを見据えている場合に行われていることが窺えた。つまり、不安は必要条件 だけれども、その不安に何かのタイミングで考えているか否かの違いであり、キャリア論にお ける Schein の段階説(Schein,  1971)に近い。年齢を加味したうえで結婚や出産というライフ サイクルのイベントと仕事を両立していくことを立ち止まって考えたときに学習意欲が起こる ものと推察される。 

仮説 2-1(育児休業中の就労継続への覚悟(生計面)が学習意欲に正の影響を与える)は、

Mitchell,et al(2001)の埋め込み概念の構成要素のうち、 「犠牲(sacrifice)」が機能している と思われる。子供が生まれることで出費が増える一方で、会社で働くことのできる時間が限ら れていることから、時間単価にして高い仕事(≒専門性の高い仕事に就く)か、キャリア観を 変化させて現状の時間の範囲内でできることに折り合いを付けていく(仮説 2-2 : 育児休業中 の就労継続への覚悟(キャリア観)が学習意欲に正の影響を与える)ことになる。その意味で は、能動的な学習意欲ではあるものの、必要に迫られたうえでの学習意欲であると考えられる。 

仮説 3-1(育児休業中の家庭の支援が、学習時間や心理的余裕の獲得となり学習意欲に正の 影響を与える)は、事前インタビューからは実家の支援により学習時間ができるという語り(事 前調査対象者 4)が聞かれたが、インタビューでは実家の支援に預けることと、学習意欲の間の 心理的な要素は確認できなかった。実家に子供を預けて面倒をみてもらい時間的な余裕が出来 ても、日々の育児や家事に追われ、体力的に学習意欲まで生じないケースもある可能性がある のかもしれない。 

仮説 3-2(育児休業中の職場・同僚の支援や理解が、学習時間や心理的余裕の獲得となり学 習意欲に正の影響を与える)は、Lee, et al(2004)の研究とは異なる結果となった。育児休業 中 で も 業 務 の 連 絡 で 会 社 と 連 絡 を 取 り 合 う こ と は 、 仕 事 で の 埋 め 込 み ( on  the  job  embeddedness)として継続就業の意識には影響をしないとされており、また、龍野他(2012)は、

感情面および情報面でのサポートなど、職場の先輩ママが復職には必要だと主張し、職場のつ ながりが継続就業にプラスに機能するとしていた。本研究も日本企業の文脈にしたがって職場 とのつながりを持つことが継続就業の意識を高め、そのための学習意欲に影響を与えるという 仮説を立てた。しかし、実際インタビューの語りから聞こえたのは、むしろ学習意欲を減退さ せてしまうということであった。この点については後述する。 

本研究の調査をまとめたのが、以下のプロセス図である(図 2)。調査結果より図 2 は、大き

く不安・継続就業への覚悟・周囲の環境という 3 つカテゴリーと、その語りが見られた時期を

(20)

出産・育休前、産休育休中、復帰と分けたものである。学習意欲が生じるパターンとして 2 つ、

また学習意欲が生じないパターンとして 1 つを示している。以下に示す【】の番号は、図にお ける概念番号と対応している。 

  まず、パターン 1 は、将来的に出産を希望しているが、 【3】現職で育児と両立しているロー ルモデルがいないことが理由に転職をしていることが特徴である。また、子育てと両立できる ことを希望して転職をしたという語りがあることから、転職先として専門性に直結する業種業 務であることも挙げられる。パターン 1 は、早期にスキルアップをすることを決意しているこ とから、育児と仕事の両立に対する不安、葛藤が語られることはなく、 (計画的な)転職を経験 することで、育休中を学習機会と捉え、さらにスキルアップしている例が目立った。 

次に、パターン 2 の特徴は、現職で産休・育休、そして時短勤務をすることで、 【5】昇進昇 格への遅れが発生することがトリガーとなり、【4】生計面での不安と覚悟が、【6】専門性志 向のキャリア観に変化を促すという点である。ただ、パターン2は複数の分岐ルートがある。

【4】生計面での不安と覚悟が【2】育児と仕事の両立の不安を生み出し、 【1】復職への不安 を増大させ、そのことが本人に【6】キャリアの見直しを迫り、そこからキャリアを見直した 結果、学習意欲を失う場合と引き続き専門性を高めようとする姿勢に枝分かれする。生計面で の覚悟は、埋め込みの構成概念の犠牲(Sacrifice)にあたるもので、【4】生計面の覚悟から キャリア観を変更しているのだろう。 

  この時、【9】職場(上司の支援や理解) 【10】職場(子育て中の同僚の有無)が、キャリア 観の変化にモデレーターの役割も果たすことが示唆される。本人のキャリア観が変化し、また 働くステータス(短時間勤務、限定正社員等)に変更になったとしても、そうした制度が使い やすい環境であれば、仕事での埋め込み(構成概念の Link)を強め、職場のために寄与しよう という気持ちが生じ、学習意欲が生じることが予想される。 

  また、パターン 1 とパターン 2 の両者の多くに見られる共通点は、 【7】配偶者の支援もしく は【8】両親の支援があることである。前出の語りにもある通り、両親の支援は、両親の支援 があると回答した対象者のすべてが両親との住まいが立地的に近いと語っており、その中には 自ら両親の支援を得やすいように転居をしたりとした積極的に支援を得る姿勢があった。同様 に配偶者の支援に関しても、配偶者が主体的に支援をするか否かではなく、支援を得られるよ うに工夫しているという語りもある。また、第一子とそれ以降については、学習意欲が生じた 対象者は、より専門性の高い資格を取得し早期に復帰する傾向もみられた。サンプル数は少な いものの、パターン 1 とパターン 2 の経路では、第二子以降についても学習意欲が喚起され、

資格取得がなされていることが多い。 

(21)

最後に、パターン 3 では学習意欲がみられなかった。特徴として顕著なのは、育児休業時に

【12】後任の人事がないことで、業務の引継ぎがなされていない点である。このことから、 【11】

上司や関連部門からの問い合わせが多く、育児をしながら自宅で業務を遂行するような育児休 業を過ごすことになる。これまで育児休業中や職場と上司が職場と連絡を取ったり、職場の近 況を伝えることが本人の育児休業中の不安を軽減すると指摘されている(脇坂, 2002)。また、

育児休業ではないが、出向中の社員と出向元が連絡を取り合うことが、本人の満足度に影響を 与えることも指摘されている(島貫, 2010)。つまり、一般的には何らかの理由で会社を離れて いる従業員に会社が情報を提供したり、連絡を取ることで会社が自分のことを見てくれている という知覚(POS: Perceived Organizational Support)を抱かせることが重要であるとされる

(佐藤, 2014)。また、本研究でもメインに扱ってきた埋め込み理論でも、仕事での埋め込みが、

組織市民行動と仕事の成果を高めることや少なくとも成果変数に負の影響を与えないとされて いた。 

しかし、今回の調査からはそうした組織的な情報提供(脇坂, 2002)が育児休業中の女性に 相反する2つの効果をもたらしていることが明らかになった。1つは安心感の醸成であり、も う1つは、学習意欲の減衰である。休暇中も会社から連絡がかかってくることで「会社から自 分が必要されている」という感覚や「復職後に戻る居場所がある」という安心感を醸成する一 方で、会社の目先の業務と日々の育児に追われ、将来のキャリアを描き、新しい物事にチャレ ンジしようという能動的な学習意欲を低減させる。言い換えると、育児休業者とやり取りをし て継続的に育児休業者を組織に埋め込んでいく(embedded)ことが、かえって復職に備えた育 児休業期間中の学習意欲を減衰させてしまうのである。この点は既存の埋め込み研究にはない 発見事実である。 

図 2  学習意欲の発生プロセス 

(22)

まとめ 

本研究は、育児休業利用者が復職するにあたり、育児休業中にスキルアップや資格取得に励 む人とそうでない人の違いは何か、その状況要因および心理的プロセスを事前調査とインタビ ュー調査(本調査)から明らかにした。特に本研究は、継続就業や育児休業に関わる諸概念の 中でも、育児休業者が、所属組織と家庭との双方でのバランスを取ることが求められている状 況を鑑み、埋め込み概念からアプローチをした。その結果、学習意欲が生じる(もしくは生じ ない・減衰する)パターンは、大きく3つあり、キャリアの早い段階で将来の子育てのことを 考慮したキャリアチェンジをするパターン 1、生計面での覚悟を伴うことで自らのキャリア観 の変化を伴い、学習意欲が生じるパターン 2、後任人事がいないことで育児休業後も会社との やり取りが発生することで時間をつくって学習しようという意識が減衰してしまう、もしくは 学習意欲が生じないパターン 3 に分けられた。 

本研究の理論的な意義は、第 1 に、育児休業中という事例を用いて埋め込み概念から学習意 欲が生じるプロセスを検討した点にある。 特に、埋め込みの構成概念である 「つながり(link)」 、

「適合(fit) 」、 「犠牲(sacrifice) 」の中でも、パターン 2 は、 「犠牲」のうえに成立している

現象であり、パターン 3 は、埋め込みの下位概念の「つながり」が与える意図せざる結果であ

(23)

ると言える。 

第 1 の点に関連して、第 2 の学術的な貢献は、育児休業者にどのような情報を組織が提供し て、育児休業者を組織に埋め込んでいく(embedded)ことが、復職に備えた育児休業期間中の 学習意欲を促進するのか、埋め込みの持つ 2 面性を明らかにした点である。埋め込みの構成概 念の中でも「つながり方(link)」が育児休業者の学習意欲に影響を与えることが明らかになっ た。 

また実務的な貢献として、本研究は、育児休業者へのつながり方への示唆を与える。育児期、

特に出産直後の子供は、数時間ごとに食事を与え、夜泣きもすることから親は慢性的な睡眠不 足で対応しなければならない。そのためただでさえ時間が足りない中で仕事の電話がかかって くるとなると、追加的なスキルを学ぼうとする時間も意欲もなくなるであろう。こうした休業 が休業でなくなってしまうことを防ぐためには、第1に、仕事の引継ぎについての後任の体制 と引継ぎ体制を休業前に構築しておくことが必要であろう。この点は、脇坂(2002)の休業予 定者の仕事を部署内でどのように振り分けるか、という示唆が参考になる。特に、順送り式と 呼ばれる後輩に仕事を任せることは後輩の能力開発の場として活用することができる。 

第2に、制度の充実である。その際、制度を策定し、普及していくことが望ましいが、もし 制度がなくても運用レベルでカバーできることも多い。例えば、仕事の配分や仕事の連絡の共 有など職場マネジメントにより業務負荷が偏らない仕事の割り当てが求められる。 

第3に、復職への不安の払拭である。インタビュイーの多くが、復職への不安を訴えていた。

本研究が明らかにした学習意欲発生のメカニズムから、復職後のキャリアや働き方を企業(上 司)が提示することで育児休業中の不安を払拭し、学習意欲を高める可能性がある。 

最後に、課題について述べる。第1に、本研究は、筆者と直接もしくは間接的に面識のある 対象者にインタビューを実施したため、サンプルとして偏りがある。またサンプル数としては 課題が残る。今後、よりバランスの良い対象者の選出と、サンプル数の確保が必要である。そ して、今回の調査サンプルは、比較的大企業に所属している女性であることから、人事制度の 充実や法令順守がなされていると考えられる。M字カーブが緩やかになり、子育てをしながら 働く母親が増加する中で中小企業に所属する例は多い。今後は広くサンプルを取り、検討する ことが必要である。 

第2に、本研究は 、 Lee, et al(2004)の埋め込み概念に従い、事例を分析したが、インタビ ュー項目そのものは、Lee, et al(2004)の埋め込み概念である「つながり(link)」、「適合

(fit)」、「犠牲(sacrifice)」を直接的に尋ねたわけではない。またLee, et al(2004)は

定量分析で尺度化されたものであるのに対して、本研究は定性インタビューである。その意味

(24)

で取り扱う概念に齟齬が生じている可能性がある。Lee, et al(2004)は、認知尺度に加えて家 族構成や組織での所属チームの数などのデモグラフィックな特性、さらには持ち家の有無とい ったハードデータも埋め込みの変数として加えており、本研究はLee, et al(2004)らの埋め込 み概念を網羅的に概念化出来ているわけではない。 

第3に、資格取得の有無を従属変数として2値変数化しているが、社内資格といわゆる公的な 資格では外部労働市場への意欲(転職意欲)も異なるし、汎用性も異なる。特に社内資格のた めの学習意欲は、人的資本の特殊性(Lepak and Snell, 1999;小池, 2005;平野, 2006)を高 めることになり、結果として社外に転職するというインセンティブを減少させ、仕事内での埋 め込みを強化する可能性もある。本研究はサンプル数ゆえに公的資格を取得した人のルートと 社内資格を獲得した人の学習意欲のプロセスの違いを追うことが出来なかった。この点は課題 ではあるものの、今後の研究発展の可能性を秘めたテーマでもある。 

謝辞

本研究にあたり、子育てと仕事の両立をしながらインタビューにご協力頂いた女性たちに心 から感謝をしたい。彼女たちの今を良くしたい、今後の働くママたちの役に立ちたいという熱 い思いが、本研究に対する筆者のモチベーションを高めたことは間違えない。 

また、論文の執筆にあたり、首都大学東京大学院社会科学研究科 西村孝史准教授に深く感

謝をしている。本研究のご指導を通して、西村先生が常に説いて下さった、問題意識の追求や

課題に対し論理的に取り組む必要性に関しては、どんな環境に居ようと筆者の今後の人生の糧

となるだろう。ありがとうございました。最後に、働きながら大学院に通うにあたり多大なる

ご理解とご支援を頂いた、富士ゼロックス株式会社、職場の上司、同僚に心より感謝をした

い。 

(25)

参考文献 

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(26)

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(27)

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(28)

【補足資料:インタビューリスト】 

1

https://www.cyberagent.co.jp/news/press/detail/id=8759  (アクセス日:2019 年 1 月

8 日)

表 4  実家との距離と資格取得の有無との関係性    資格取得あり  資格取得なし  合計  実家が近距離・  もしくは同居  4 人(57.1%)  3 人(42.9%)  7 人(100%)  実家が遠い  3 人(42.9%)  4 人(57.1%)  7 人(100%)  9.職場(上司の支援や理解)  ここでは、育児休業中の業務での会社からの連絡ではなく、上司からの内省支援を含むサポ ートや理解を示している。また、以下の語りにも見られるように上司からの支援が組織へのコ ミットメントを深め、専門性

参照

関連したドキュメント

9 日本経済新聞 夕刊 2013 年 2 月 2 日「生まれ変わる歌舞伎座(3)作家松井今朝子氏.

現在の中国において、様々な児童問題が注目されている。本論文は諸問題から、要保護

タイプⅠ「連続就労・公的ケア型」 (典型国:スウェーデン)は,公的

本論文の構成と結論は、以上のとおりである。以上の検討を踏まえた上で、下記の三点

〈 就労による心身面への影響はないと思っている〉 卜10体

例) 産前産後の休暇又は育児休業に伴い中断した期間:3ヶ月 延長期間:1年度 産前産後の休暇又は育児休業に伴い中断した期間:1年 延長期間:1年度

産前休業     産後休業 出産 育   児   休   業 復   職 管 理 職 労 働 者 【産前・産後休業中】 ■

133 け、使用していく。 A” さんは、夫、2 歳の娘、3 カ月の息子と共に生活している女性である。A”