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オロット酸投与がマウスの抗不安作用に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

オロット酸投与がマウスの抗不安作用に及ぼす影響

上 江 洲 香 代 子,甲 斐 玲 奈,熊 副 み ず き,

有 江 幸 花,橋 本 さ と み

Effects of orotic acid on behavior in mice

Kayoko Uezu, Reina Kai, Mizuki Kumazoe, Yuka Arie, Satomi Hashimoto

Abstract

In this study, we examined the effects of orotic acid on behavior in adult mice. Ten weeks old male ddY mice were fed experimental diet containing 0.5% or 0.05% of orotic acid. At the age of 15-17 weeks, several behavioral tests were performed. Mice fed 0.5% of orotic acid showed anti- anxiety effects in open-field test. Mice fed 0.05% of orotic acid showed enhanced memory retention in step-through type passive avoidance test. These results suggest that orotic acid may improve brain function and affect on behavior in mice.

! .緒

オロット酸は牛乳の乳清成分として発見された物質で,核酸中の Pyrimidin 塩基 Uracil の誘導体 である。体内でビタミン様作用を示すことから,ビタミン B 1 3と呼ばれることもあるが,必要量な どは設定されていない。乳汁中成分であることから,幼若マウスやラットの成長促進作用に関する 研究は多く

1,2)

,未熟児の成長に関する報告もある。また,肝機能障害の予防や治療に有効であると いう報告や,高齢動物において記憶を改善するという報告などもある

3)

。今回は,オロット酸を餌 として投与した場合成熟マウスの抗不安作用にどのような影響を及ぼすかを調べる目的で,投与量 を変えて2回の実験を行い,学習記憶についても検討した。

" .実験方法と結果

実験1:オロット酸0. 5%投与の影響 1)動物と飼育条件

動物は1 0週齢雄の ddY/std マウス(日本 SLC,静岡)を使用し,コントロール群(7匹)とオロッ ト酸0. 5%群(7匹)の2群を設定して,実験食で7週間飼育した。表1には,コントロール群の 食餌組成を示した。オロット酸群には,これに重量の0. 5%の割合でオロチン酸一水和物(和光純 薬工業,大阪)を添加したものを与えた。餌の投与は月〜土曜に行い,毎回新しい餌を与えた。飼 育環境は,室温2 5±1℃,1 2時間明暗周期(8:0 0〜2 0:0 0)に保ち,実験期間を通して餌と水は 自由摂取とし,摂餌量を毎日,体重を週2回測定した。動物実験は動物の福祉に配慮して行われた。

活水論文集 第5 3集 2 3

(2)

表1 食餌組成(コントロール群)

カゼイン

α−コーンスターチ スクロース

セルロース ミネラル混合 ビタミン混合 大豆油

24% 42% 21% 2% 5% 1% 5%

計 100%

オロット酸群には,オロット酸を実験1では0.5%,実験2では0.05%重 量比で添加した。

2)行動試験

実験食投与開始後4週目から6週目にかけて,一般活動性試験(!オープンフィールド試験) , 抗不安作用試験(

"

高架式十字迷路試験),学習・記憶試験(

#

ステップスルー型受動的回避試験)

の行動試験を実施した(図1) 。

!

オープンフィールド試験

マウスを全く経験したことのない新しい環境(オープンフィールド)に置いたときのさまざまな 行動は,マウスの運動活動性,探索行動および種々の情動反応を反映するものといわれている。種々 の薬物の行動への影響を見るうえで最も基本的な指標として応用されている。

実験装置(図1:A)は,4 4×4 4×3 3

$

(縦×横×高さ)のダンボール箱の床面に5. 5×5. 5

$

(縦

×横)の区画を2 5個引いたものを使用した。観察時間は,マウスをホームケージから取り出し,箱 の中に入れてから3分間とした。観察項目として,&床面の区画から区画へ移動したときの通過区 画の数(=歩行数とする) ,

'

立ち上がった回数,

(

洗顔・毛づくろいの時間,

)

脱糞の数,

*

尿 の有無について測定した。&と'の数が多いほど探索行動が多いことを示す。一般的にオープン フィールドに置かれた直後は探索行動が活発である。

(

は数が多いほど情動が安定していることを 示す。オープンフィールドに慣れてくると増える。

)*

は強いストレスなどの極端に情動の不安定 な状態で増加する。

"高架式十字迷路試験

高架式十字迷路試験は,げっ歯類が高い位置にある解放された場所を嫌う習性を利用して,マウ スやラットの恐怖心を評価するための装置として開発された物であり,抗不安薬などのスクリーニ ングなどに用いられている。床上6 0

$の高架にある十字路は,一対は高さ1

$の壁のある3

0×5$

の細長い通路(クローズドアーム)が向かい合い,もう一対は壁がない3 0×5

$

の細長い通路(オー プンアーム)が向かい合う装置を使用した(図1:B) (YTS 山下技研,徳島) 。

アームが交わった中央部分にマウスを置いてから3分間を観察時間とし,それぞれのアームへの 進入回数及び滞在時間を計測して,恐怖心の度合いを観察した。オープンアームへの進入回数多け れば,または滞在時間が長ければ,恐怖心が低下している(抗不安作用がある)と判断した。

上江洲 香代子・甲 斐 玲 奈・熊 副 みずき・有 江 幸 花・橋 本 さとみ

2 4

(3)

図1.行動試験装置の模式図

(A)オープンフィールド試験 (B)高架式十字迷路 (C)ステップスルー型受動的回避試験

!

ステップスルー型受動的回避試験

ステップスルー型受動的回避試験は,マウスの 〈暗い場所を好む〉 という行動特性を,電気ショッ クによって抑制することを利用する簡便な学習記憶実験である。実験装置(図1:C)は白色光で 照明した明室(1 0×1 0×1 0

")と床にグリットを取り付けた暗室(1

5×1 5×1 5

")からなり,二室

の間は可動式の上下開閉ドアで仕切られているものを使用した(YTS 山下技研,徳島) 。

マウスを明室に入れて1 0秒後に仕切りのドアを開け,マウスが暗室に移動し,四肢を完全に暗室 に移動したところでドアを閉め0. 2 mA,0. 5秒間の電気ショックを1回付加した(一試行型) 。この 時点で電気ショック回避反応の習得が完成すれば,以後暗室内に入ることはないが,記憶が弱まれ ば暗室に入っていくという考えの下に,同一のマウスについて2 4時間後と1週間後に再生試行を行 い,記憶試験とした。マウスが明室に入れられ暗室へ移動するまでの時間を反応潜時として測定し,

1 8 0秒を最高反応潜時とした。潜時が長い程,記憶が保たれていると判断した。

3)統計処理

データは平均値±標準誤差で表した。有意差検定は Microsoft Excel X を用い,スチューデントの t 検定により行った。

4)結

図2には体重の変化および食餌摂取量を示した。実験期間を通しての体重増加量は,コントロー ル群(9. 6

#±1.

6 0

#)に比較して,オロット酸0.

5%群(6. 5

#±1.

0 7

#)が少ない傾向にあった

が,有意差はなかった。食餌摂取量にも差は見られなかった。飼育期間中の観察では,両群ともに 異常な行動や外観を示す動物はなかった。

図3にはオープンフィールド試験の結果を示した。コントロール群に比較してオロット酸0. 5%

群の方で,歩行数や立ち上がり回数が幾分少なく,探索行動の指標が低い傾向が見られたが有意差 はなかった。情動の指標となる毛づくろい時間はオロット酸0. 5%群が僅かに多く,また脱糞数は オロット酸0. 5%群では皆無で,コントロール群に比較して有意差が見られた。尿の有無の観察で もオロット酸0. 5%群は皆無であった。これらのことから,オロット酸0. 5%群は新しい環境での探 索行動はそれほど活発ではないが,慣れていない場所においての適応能力が優れ,情動が安定して いたと考えられる。

オロット酸投与がマウスの抗不安作用に及ぼす影響 2 5

(4)

12 10 8 6 4 2 0

進入回数

オープン クローズド

コントロール オロット酸0.5%

進入回数(回)

250 200 150 100 50

0 オープン クローズド

滞在時間

コントロール オロット酸0.5%

滞在時間(秒)行動量(回)

コントロール オロット酸0.5%

250 200 150 100 50

0 歩行 立ち上がり

12 10 8 6 4 2

0 毛づくろい 脱糞

コントロール オロット酸0.5%

毛づくろい時間(秒)または脱糞数(個)

図2.体重の変化(A)と摂餌量の変化(B)

探索行動

図4には高架式十字迷路試験の結果を示した。オロット酸0. 5%群の方がオープンアーム,クロー ズドアームへの進入回数が多く,滞在時間も長い傾向にあった。つまり活発に行動するため,両アー ムへの進入回数と滞在時間共に多くなったと考えられる。十字迷路上での脱糞数においてもオロッ ト酸0. 5%群の方が少ないという結果が見られたことから,オロット酸0. 5%群の方が活動的で情動 性が安定し,恐怖心を抱くことが少ないと思われる。

情動の指標

図3.オープンフィールド試験

図4.高架式十字迷路試験

上江洲 香代子・甲 斐 玲 奈・熊 副 みずき・有 江 幸 花・橋 本 さとみ

2 6

(5)

200 160 120 80 40

0 学習前 24時間後 1週間後

コントロール オロット酸0.5%

反応潜時(秒)

図5.ステップスルー型受動的回避試験

図6.体重の変化(A)と摂餌量の変化(B)

図5に示したステップスルー型受動的回避試験では,2 4時間後,1週間後ともにオロット酸 0. 5%群の方が反応潜時が長い傾向が見られた。このことから,オロット酸0. 5%群の方が記憶保持

能力が優れている可能性が推測される。

実験2:オロット酸0. 5%投与の影響 1)動物と飼育条件

オロット酸は幼若動物の成長促進作用があるという報告が多いが,実験1ではわずかに成長が抑 制される傾向がみられた。そこで今回はオロット酸の含有量を0. 0 5%として実験を試みた。

動物は実験1と同様の1 0週令のマウスを新たに購入し,コントロール群(6匹)とオロット酸 0. 0 5%群(6匹)を設定した。室温は2 2±1℃で,その他の飼育条件は実験1と同様とした。

2)行動試験と統計処理

実験1と同様の方法で実施した。

3)結果

体重の増加(図6:A)は,実験2でもコントロール群で僅かに多い傾向が見られ,オロット酸 の成長促進作用は見られなかった。摂食量(図6:B)は,実験1よりも多くなったが,両群の間 で差はみられなかった。

オロット酸投与がマウスの抗不安作用に及ぼす影響 2 7

(6)

180 160 140 120 100 80 60 40 20

0 歩行 立ち上がり

行動量(回)

探索行動

コントロール オロット酸0.05%

10 8 6 4 2

0 毛づくろい 脱糞

毛づくろい時間(秒)または脱糞数(個)

情動の指標

コントロール オロット酸0.05%

図7.オープンフィールド試験

滞在時間(秒)

140 120 100 80 60 40 20

0 オープン クローズド

滞在時間

コントロール オロット酸0.05%

6 5 4 3 2 1 0

進入回数

進入回数(回)

オープン クローズド

コントロール オロット酸0.05%

図8.高架式十字迷路試験

200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0

反応潜時(秒)

学習前 24時間後 1週間後

コントロール オロット酸0.05%

図9.ステップスルー型受動的回避試験

オープンフィールド試験(図7)では,歩行数,毛づくろいの時間や脱糞数でオロット酸0. 0 5%

群が僅かに多い傾向が見られたが有意差はなかった。

高架式十字迷路試験(図8)では,オープンアームへの進入回数と滞在時間は,両群ともにゼロ で,クローズドアームへの進入回数はコントロール群が多い傾向があったが,有意差はなかった。

ステップスルー型受動的回避試験 (図9) の結果は,2 4時間後,1週間後ともにオロット酸0. 0 5%

群で反応潜時が有意に長く,記憶保持能力が高いことが示唆された。

上江洲 香代子・甲 斐 玲 奈・熊 副 みずき・有 江 幸 花・橋 本 さとみ

2 8

(7)

! .考

今回の実験では,オロット酸0. 5%投与はコントロール群に比較して体重増加が僅かに抑制され る傾向が見られた。投与量を少なくしたオロット酸0. 0 5%では体重増加の抑制がいくらか改善され たものの,成長促進作用は見られなかった。オロット酸は幼若動物の成長促進作用を有することが 知られているが

1,2)

,過剰投与により成長が阻害されることも報告されており

2)

,今回の結果よりオ ロット酸0. 5%は,成熟マウスの体重増加に対しても過剰投与である可能性が考えられる。

一般活動性を調べるオープンフィールド試験では,探索行動はオロット酸0. 5%,0. 0 5%ともに,

コントロール群との差はなく,オロット酸の効果はなかったと考えられる。情動の指標では,オロッ ト酸0. 5%群でコントロール群に比較して脱糞数が有意に少なく,情動の安定性が見られた。脱糞 数は,強いストレス刺激により強い恐怖感を与えた場合に多くなり,恐怖性と脱糞数の間には正の 相関性があるものと考えられている

4)

。抗不安作用を調べる高架式十字迷路試験でも同様の結果が 得られた。オロット酸0. 5%群で,通常は恐怖を感じるであろうと考えられるオープンアームへの 進入回数,滞在時間ともに多い傾向が見られ,迷路上での脱糞数の少ない傾向が見られたことから,

抗不安作用が示唆された。しかし,投与量を少なくしたオロット酸0. 0 5%群では,オープンフィー ルド試験と高架式十字迷路において,コントロール群と比較して差は見られず,情動の安定性や抗 不安作用への効果は見られなかった。オロット酸の抗不安作用に関する研究では,オロット酸を投 与したラットではジアゼパムと類似した抗不安薬様の効果が見られ,それはオロット酸が核酸代謝 に関わっており,神経精神回路を調節した結果であろうという報告や

5)

,鬱状態の患者ではピリミ ジンの生合成が抑制されていたという報告がある。

ステップスルー型受動的回避試験における学習記憶試験では,オロット酸0. 5%群,0. 0 5%群と もにコントロール群と比較して,2 4時間後,1時間後とも反応潜時が長い傾向が見られ,記憶保持 能力が改善される可能性が示唆された。オロット酸の学習記憶改善に関する研究では,ラットに置 ける実験でコリン作動系を介して作用しているという報告や,シナプス長期増強が見られたという 報告

6)

,逆説睡眠に影響を及ぼしたという報告などがある。

今回の実験結果でもオロット酸は抗不安作用があり,学習記憶が改善される可能性が示唆された が,オロット酸がピリミジンの前駆物質として核酸代謝に関わることにより様々な脳機能を調節し ているのであろう。しかし,まだ不明な点は多く,過剰摂取すると成長阻害や脂肪肝などの影響も 報告されており,生理機能を有する物質であっても最適量を摂取する必要があることが推測される。

参考文献

1)牧野 堅 他:オロット酸の研究,ビタミン,6,605‐606,(1953)

2)鳥越謙一:成長因子の研究(!)成長因子としてのオロット酸について,ビタミン,9,463‐468,(1955)

3)Ruthrich HL, et al.: Memory retention in old rats: improvement by orotic acid, Pcychopharmacology, 79 (4), 348-351, (1983)

4)ストレスと脳,平野鉄雄 他:ストレス刺激と情動,34‐39,共立出版,東京,1995

5)Karkishchenko NN, et al.: Anxiolytic effect of potassium orotate, Farmakol Toksikol., 46 (4), 68-71, (1983)

6)Krug M, et al.: Methylglucamine orotate, a memory-improving drug, prolongs hippocampal long-term potentiation, Europian Journal of Pharmacology, 7 (1), 25-32, (1981)

(2 0 1 0年1月3 1日受理)

オロット酸投与がマウスの抗不安作用に及ぼす影響 2 9

参照

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