賃貸住宅ストックのリノベーションの実態と改修手法に関する研究
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現代適応住宅の提案
—建設工学専攻(修士課程)
ME15083福武
ふ く た け
千沙
ち さ
建築設計研究室 指導教員 赤堀 忍
序論
——研究背景——
建築行為を取り巻く環境は、大きく変化してい る。これまで増加傾向にあった人口は、この先減 少していくことが予想され、すでに多くの空室や 空き家は今後益々増加すると考えられる。バブル 崩壊後は、経済成長の停滞、土地神話の崩壊、非 正規雇用の増大、格差社会の進展、さらに人々の 結婚や家庭に対する意識の変化により、旧来の住 宅政策が想定した一戸建て住宅が最終目標だった 時代が必ずしも主流ではなくなっている。パター ン化した住宅モデルは通用しなくなり、賃貸物件 においても個性を活かしたオリジナルの内装や庭 を
DIYで作る活動が流行し、住宅における新しい 価値観を創造している。空き家の内訳を見ると賃 貸用住宅が過半数となっている。しかし、賃貸住 宅の改修行為は入退去時の原状回復が条件となり、
リノベーションのような大規模な改修行為は未だ 一般的ではない。今後、大量に発生する高経年の 賃貸住宅ストックに対する汎用性のある活用方法 が求められると予想される。
——研究目的——
以上のような認識から、今後の賃貸住宅を有用 な建築ストックとして活用するため、ハード面で は技術的な制約や改修設計手法、ソフト面ではリ ノベーションの阻害要因の把握・改善から効果的 なリノベーションの方法を導き出すことを目的と する。建築再生を単なるメンテナンスとせず、創 造的で魅力的な分野にすることを目指す。
——研究方法——
本研究では、リノベーションされた集合住宅を 対象に事例を挙げ、新築時にはないリノベーショ ン特有の「条件」を探り、比較分析する。
1章では、初めに用語を定義し、次に研究背景 として供給状況と歴史から住宅リノベーションの 変還を辿る。 また海外の認識・現状から日本のリ ノベーションの変還を相対化し、現状を認識する。
2章では、実際にリノベーションを法規・構造
(ハード面
)から考察する。3章では、ハード面で 考察した2章に対してソフト面である対象建築に
関する地域性や活動・物質の精神的な記憶、また 賃貸の管理・支援の現状を捉える。4章では、2 章 と 3章で得られた特徴や課題の相互関係からリ ノベーションの内容が決定されているのかを把握 するため、新建築の事例データシートを作成し、
分析・考察する。5章で本論文のまとめとしてケ ーススタディーを行う。
1章 リノベーションの変還
——日本の現状——
昔、日本では建造物の維持保存方法として「曳 家」が行われていた。しかし第2次世界大戦後、
高度経済成長期において、より多くつくって儲け るため効率的なスクラップ・アンド・ビルドが国 全体で推進された。現在では歴史的価値のある建 築や文化に対し、少しずつ「古い=悪い」の意識 が変化し、積極的に価値を見出す柔軟な姿勢が見 られ、社会を豊かする可能性を見出している。そ の背景に時代と共に変わりゆく「大衆意識の変化」
と「建設市場の変化」が挙げられる。
また、近年各地で空き家問題や中心市街地の空 洞化問題など、余った建築ストックが地域にとっ てマイナスに捉えられる事態も進行している。
——海外でのリノベーション・空き家の実態——
海外、特にヨーロッパでは日本と異なり、リノ ベーションが当たり前のように一般に浸透してい る。住宅寿命について日本は諸外国に比べ、3分 の1から2分の1程度も短いとされている。その 理由は、人々の都市景観・建築に対する意識・価 値観から形成された文化・歴史の違い、建物構 造・法整備の違いなどからくる内的要因、災害・
気候などの違いからくる外的要因が挙げられる。
2章 手法と現実
——リノベーションの建築的特性——
建築再生プロジェクトの事業実現化のプロセス は、通常の新築プロジェクトのプロセスと大きく 異なる。建築再生の発意により、空室対策や耐震 性の問題解決・ライフスタイルの変化による間取
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りの変更などが要求される。
問題解決に向け、「法規」・「構造」は「クリア しなければいけない」不可避な条件である。施工 時にクリアしていたが、改修後の建築物は現行の 法規を満たさない場合も少なくなく、既存を活か しつつどのように手を加えていけば、この法規を 遵守できるかが重要である。
——建築的特性における課題——
欧米に比べると我が国では、建築再生に係る専 門家が十分に育っているとは言い難く、建築再生 を発意した企業や個人をサポートする客観性と専 門性を兼ね備えた建築や不動産等の専門家を育成 することが課題である。
3章 新旧の対比と記憶の継承
——既存建築の持つ歴史と影響——
既存建築は、その建物が培ってきた時間・記憶 を包括した歴史を持ち、住民だけでなく地域や周 辺に住む人々にも影響を与えている。これは改修 をする際の手法に大きな影響を与え、継承する
「歴史」という条件はリノベーション特有のもの であるが、前章のハード面とは異なり「クリアす る」ものではなく、深い意味を持つものである。
この条件を無視する場合、この条件を設計意図の 手がかりにする場合がある。
——ソフト面における課題——
空室を抱える多くの賃貸住宅は、住宅ニーズが 発生しない場所に供給されている。それは
2015年 の相続増税対策のため「土地ありき」で建てられ た賃貸住宅が増加したからである。このような建 築ストックには立地的問題・法的な問題・所有者 の高齢化に伴う資金不足や費用的な問題・情報面 や市場問題が生じている。また大規模なリノベー ションは騒音問題などのトラブルや立ち退きが必 要になる場合があり、住民への影響が大きいこと が課題である。近年、従来の個性のない住宅では なく、消費者のニーズに適応した賃貸住宅に人気 が集まっている。差別化を図ることで、空き家問 題を解消する手がかりになるのではないだろうか。
4章 事例分析
——事例の選定——
分析対象とする事例は、リノベーションがメデ ィアに取り上げられ始めた
2000年頃から現在まで に改修された集合住宅作品を対象としている。そ の中から本論の軸である、図面が正確に読み取れ、
設計意図と改修操作が明記されているものを選定
した。
——データシート——
分析対象である事例及び計画を、改修操作、建 築概要、図面、写真によってデータシートにまと める。どのような改修操作が行われたかに着目し ながら手法を抽出することで、時代によって変化 していく社会変化を考察する。
fig.1
データシート例
5章 ケーススタディ
以上の分析をもとに、兵庫県川西市畦野にある 現在祖母が所有する集合住宅の改修を提案する。
1997
年に建設、5 階建、総戸数
24戸、バリアフリ ー仕様のファミリー向け賃貸中層マンションであ る。間取りは
3LDKのみで、子育て世代や中高年 層が入居している。
今後の住まい手の価値観の変化や多様化する住 宅ニーズに合わせるための現代化、賃貸物件とし ての競争力を向上させる差別化に対応する改修提 案を行う。
結章
リノベーションの意義は、新築の住宅とは異なる 属性の住宅が住まい手の選択肢に与えられることだ と考える。新築が重視されてきた日本の住宅市場に おいて、今後はこのような建築行為を入居者が身近 に感じ、生活に新しい価値観を植え付け、多様化に 対応すると予想する。その
1つの手段として本研究 で扱った集合住宅のリノベーションが貢献できるの ではないだろうか。
主要参考文献
松村秀一,馬場正尊,大島芳彦監修『リノベーションプラス:拡張す る建築家の職能』ユウブックス,2016・松村秀一『ひらかれる建築:
「民主化」の作法』筑摩書房, 2016・長田極『住宅におけるリノベ ーションの実態と改修手法に関する研究』芝浦工業大学大学院修
士論文, 2011 年度・三宅理一『近代建築遺産の継承』鹿島出版会,
2004・黒沢隆『個室の計画学』鹿島出版会, 2016
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