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Academic year: 2021

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第一章 はじめに  1-1̲ 序

 21 世紀を迎えた現代において、これからの建築のあり方 を導き、精神の拠り所となるようなパラダイムが未だ策定 されずに建築が行われている。このような状況で繰り返さ れる都市開発や建築物の建て替え、特に住宅における風土 をないがしろにした建売りや規格化された商品としての住 宅は、都市に統一性を失った風景の連続を作り上げた。

1-2̲ 研究背景

 “建築とは空間に移し入れられた時代の意思である”*1 1924. ミース・ファン・デル・ローエ  20 世紀の建築は、1920 年代の新しい材料の使い方と新 しい課題のあり方を追求した華々しい活躍期を過ぎ、実用 主義とインターナショナルスタイルの安易な自己満足に低 迷したなか、ミースはこの時代の険悪な混乱のなかから秩 序を創り出すことを追求し、合理的な機械であるばかりで なく、人の生活を包む豊かな建築を教えた。ミースの理念 は、近代建築運動として一つの結晶に収束し、現代までの 発展に至った光明であった。しかし現代は、このような精 神の拠り所を見失った混乱期であり、建築のあり方をいま 一度見つめ直す必要がある。

1-3̲ 研究目的

 生活水準や技術が成熟し、より様々な分野を通して多角 的な視点が必要となった現代において、建築のあるべき姿 は未だに収束することのない混乱期となり、新たなパラダ イムが必要である。結果として近代建築運動をまとめあげ たミースの理念にいま一度立ち返り、現代の要求と照らし 合わせながら設計理念を抽出することで、その場所特有さ を引き出す設計手法を模索し、場所や風土によって特有の 体験とまちの風景をもたらす建築の姿を導き出す。

1-4̲ 研究方法

 ミースの人物研究と同時に、その時代背景および人物相 関から設計理念を丁寧に分析することで、ミースの手法の 有用性を明らかにする。その際ミースが後年に確立し、近 代建築を代表する空間設計手法となった普遍的空間の、興 りとして重要である住宅作品群および計画群を考察対象と し、現代に適応可能な手法に昇華させる。また、時代の要 求が純粋に表れ、誰にでも生活する上で欠かせない建築物 である住宅を見ることは、単なる住まう為の器となった商 品としての住宅ではなく、現代に提案すべき生活形態と、

その場所にしかない住宅を設計する為の手法を導き出すこ とができる。

第二章 ミース・ファン・デル・ローエ 2-1̲ その人と背景

 ミースは 1886 年ベルギー国境に近いドイツの古都アー ヘンに生まれた。そこは中世最古の石造ヴォールト天井を 持つパラタイン礼拝堂のほか、中世の伝統を純粋に残す多 くの建物や街並みを保っているまちであり、どの時代にも 属さず建ち続ける風土的な建築は、彼の晩年時代において も良しとした建築の姿であった。また、小さな石切工場の 職人頭の息子に生まれたことで、中世の伝統に基づく組積 構造の可能性と限界を理解していたことも、ミース独自の 建築観の成長に大きく影響を与えた。このように、建築を 志す以前の生い立ちには半世紀以上に及ぶ建築家としての 活動のなかで、その時々において求めた建築の姿や、根底 にある考えを理解する上で重要な要素である。

2-2̲ 人物関係と作品の変遷

 ミースはライトやコルビュジエら、才能ある建築家と共 に近代の歴史的転換期を生き、その出会いはミースの設計 理念の変遷において大きな影響を与えた。ここではミース の活動を「修業時代」「近代建築運動−初期−」「近代建築 運動−過渡期−」「近代建築運動−成熟期−と大恐慌」「ア メリカ時代」に分けて分析し、時代によって構法や使用す る材、設計理念や空間構成がどのように変遷したかを代表 的な建築作品や計画案を用いてまとめ、その意図を読み取っ ていく。

第三章 ミースが求めた空間特性 3-1̲ 普遍的空間の本質

 ミースの考えた近代に必要な空間特性とは、個々の空間 機能と組み合わせを、構造柱や構造壁の制約なく、囲まれ た個々の部屋の集合というものから、必要な場所に自由に 存在するものとし、また、それが必要な変化に対応できる 柔軟性を持つ存在であることであり、近代の一般的な生活 の特性が、多様性や流動性を不可欠なものとし建築に求め られる機能がさらに複合化していくという時代の要求に対 して、応答したのが普遍的空間であった。その高い創造性 はすぐに世界中に普及したが、それらの多くに誤った解釈 がされ、ミースの緻密に計算された配置とヴォリューム、

絶妙な中間領域、なにより建築の機能を普遍性によってさ らに効果的なものにする普遍的空間とは、画然と区別され るのであり、普遍性を持ちながらもその場所にしかない空 間体験を生み出すのである。

3-2̲ 流れる空間

 普遍的空間の興りであり 1920 年代後半から 1930 年代

に見られる空間操作は、構造から解放された壁のデ・ステ イル的な自由配置によって空間が区分され、空間のヒエラ ルキーが消失しながら秩序のある全体を生み出し、流れる 空間と呼ばれた。ドイツ時代の一つの到達点である流れる 空間は主に住宅に用いられ、人の動線は室内を流れながら も、壁の操作や家具配置によって折々に生じる淀みで居場 所を作り、視線を操作する。なにより評価できるのは、敷 地の周辺環境や条件を活かし、その場所特有の体験を持つ 住宅を設計していたことであり、内部から外部まで延長さ れた壁によって中庭を作り、自然環境を建築内部でのみ体 験できる風景として切り取り室内に引き込む空間操作は、

空間的にも心理的にも巧みに解かれ、その土地に建つ意味 を最大限に引き出している。

第四章 設計手法の抽出 4-1̲ 現代の要求

 まだ国や風土によって信じる建築の理想像が異なる時代 に、ミースは人々の生活を包み込む柔軟で持続可能な建築 を教え、世界中の建築は一斉に近代化した。しかしその過 程で普遍性の誤った解釈をしたミース風建築によって単な る箱もの建築が普及、次第に風土やその場所に建つ意味ま でないがしろにされた。未だにその状況で建築が行われる 現代で、再び、その場所特有の建築を生み出す手法によっ て建築が設計されることが現代の要求であり、風土的な建 築を良しとしたミースの、本来の意図である。

4-2̲ 分析対象作品

 ミースが手がけた住宅を対象に、建築家としての処女作 であるリール邸から渡米前のコートハウス計画、渡米後の 数少ない住宅作品まで分析する。住宅は公共建築と異なり、

生活を想定することから、その場所における特別な体験を 考慮して設計を行う必要があり、なによりミースは生活を 包み込む空間の豊かさを教えたのである。

第五章 作品分析と設計手法の展開 5-1̲ 作品分析

 分析対象である住宅作品および計画を、建築概要、図面、

外観・内観写真によってデータシートにまとめる。特に流 れる空間の住宅について、その場所特有さがどのように生 み出されたかに着目しながら、手法を抽出することで、時 代によって変化していく設計理念を見ていく。

Fig1. 抽出された 6 つの設計手法

Fig2. データシート 5-2̲ 現代に適応可能な手法

 ミースの手がけてきた住宅は、そのほとんどが例外なく 富裕層による依頼であり、十分な建設資金、広大な土地や 豊かな自然環境のもとに住宅を設計してきた。そのため完 成する住宅は、広い庭をもち、低層低密度な住宅が一般的 である。しかし、現代に適応可能な手法に昇華させるため には、都市部における特別大きくない一般的な土地に、高 密度に設計可能な手法まで昇華させる必要があり、断面的 な空間操作が必要不可欠となってくる。平面的にプランニ ングされ、断面的な操作が用いられてこなかったミースの 設計手法に、断面的な操作を加えたものが、現代に適応可 能な手法である。

第六章 Design Project 6-1̲ 都市型高密度モデル

 敷地は東京都世田谷区羽根木、現在私の自宅がある場所 を対象に、都市型高密度モデルの一戸建て住宅を提案する。 この敷地は特に問題視されるような場所ではない閑静な住 宅街であり、そのような一般的な土地にこそ、その場所特 有の建築の姿を提案する必要があり、この手法自体の一般 性も実証することができる。

主要参考文献

山本学治 稲葉武司「巨匠ミースの遺産」彰国社、1970

高山正實「ミース・ファン・デル・ローエ 真理を求めて」鹿島出版者、2006 渡邊明次「ミース・ファン・デル・ローエの建築言語」工学図書、2003

*1 フランツ・シュルツ ( 著 )、澤村明 ( 訳 )「評伝ミース・ファン・デル・ローエ」鹿島出版 会、2006

ミース・ファン・デル・ローエ「MIES IN BERLIN」2002 ミース・ファン・デル・ローエ 「The Art of Structure」1994 ミース・ファン・デル・ローエ「THE BUILT WORK」2014

流 れ る 空 間 の 再 結 晶 化

‐MIES VAN DER ROHE の住宅設計手法に見る現代適応可能性‐

me15062 竹島 弘樹 指導教員     赤堀 忍 建設工学専攻(修士課程)

建築設計研究

たけしま ひろき

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自由な壁配置 独立柱 ガラス壁

室の幾何学構成 間仕切りなしに連続 プライベートコア 第一章 はじめに 

1-1̲ 序

 21 世紀を迎えた現代において、これからの建築のあり方 を導き、精神の拠り所となるようなパラダイムが未だ策定 されずに建築が行われている。このような状況で繰り返さ れる都市開発や建築物の建て替え、特に住宅における風土 をないがしろにした建売りや規格化された商品としての住 宅は、都市に統一性を失った風景の連続を作り上げた。

1-2̲ 研究背景

 “建築とは空間に移し入れられた時代の意思である”*1 1924. ミース・ファン・デル・ローエ  20 世紀の建築は、1920 年代の新しい材料の使い方と新 しい課題のあり方を追求した華々しい活躍期を過ぎ、実用 主義とインターナショナルスタイルの安易な自己満足に低 迷したなか、ミースはこの時代の険悪な混乱のなかから秩 序を創り出すことを追求し、合理的な機械であるばかりで なく、人の生活を包む豊かな建築を教えた。ミースの理念 は、近代建築運動として一つの結晶に収束し、現代までの 発展に至った光明であった。しかし現代は、このような精 神の拠り所を見失った混乱期であり、建築のあり方をいま 一度見つめ直す必要がある。

1-3̲ 研究目的

 生活水準や技術が成熟し、より様々な分野を通して多角 的な視点が必要となった現代において、建築のあるべき姿 は未だに収束することのない混乱期となり、新たなパラダ イムが必要である。結果として近代建築運動をまとめあげ たミースの理念にいま一度立ち返り、現代の要求と照らし 合わせながら設計理念を抽出することで、その場所特有さ を引き出す設計手法を模索し、場所や風土によって特有の 体験とまちの風景をもたらす建築の姿を導き出す。

1-4̲ 研究方法

 ミースの人物研究と同時に、その時代背景および人物相 関から設計理念を丁寧に分析することで、ミースの手法の 有用性を明らかにする。その際ミースが後年に確立し、近 代建築を代表する空間設計手法となった普遍的空間の、興 りとして重要である住宅作品群および計画群を考察対象と し、現代に適応可能な手法に昇華させる。また、時代の要 求が純粋に表れ、誰にでも生活する上で欠かせない建築物 である住宅を見ることは、単なる住まう為の器となった商 品としての住宅ではなく、現代に提案すべき生活形態と、

その場所にしかない住宅を設計する為の手法を導き出すこ とができる。

に見られる空間操作は、構造から解放された壁のデ・ステ イル的な自由配置によって空間が区分され、空間のヒエラ ルキーが消失しながら秩序のある全体を生み出し、流れる 空間と呼ばれた。ドイツ時代の一つの到達点である流れる 空間は主に住宅に用いられ、人の動線は室内を流れながら も、壁の操作や家具配置によって折々に生じる淀みで居場 所を作り、視線を操作する。なにより評価できるのは、敷 地の周辺環境や条件を活かし、その場所特有の体験を持つ 住宅を設計していたことであり、内部から外部まで延長さ れた壁によって中庭を作り、自然環境を建築内部でのみ体 験できる風景として切り取り室内に引き込む空間操作は、

空間的にも心理的にも巧みに解かれ、その土地に建つ意味 を最大限に引き出している。

第四章 設計手法の抽出 4-1̲ 現代の要求

 まだ国や風土によって信じる建築の理想像が異なる時代 に、ミースは人々の生活を包み込む柔軟で持続可能な建築 を教え、世界中の建築は一斉に近代化した。しかしその過 程で普遍性の誤った解釈をしたミース風建築によって単な る箱もの建築が普及、次第に風土やその場所に建つ意味ま でないがしろにされた。未だにその状況で建築が行われる 現代で、再び、その場所特有の建築を生み出す手法によっ て建築が設計されることが現代の要求であり、風土的な建 築を良しとしたミースの、本来の意図である。

4-2̲ 分析対象作品

 ミースが手がけた住宅を対象に、建築家としての処女作 であるリール邸から渡米前のコートハウス計画、渡米後の 数少ない住宅作品まで分析する。住宅は公共建築と異なり、

生活を想定することから、その場所における特別な体験を 考慮して設計を行う必要があり、なによりミースは生活を 包み込む空間の豊かさを教えたのである。

第五章 作品分析と設計手法の展開 5-1̲ 作品分析

 分析対象である住宅作品および計画を、建築概要、図面、

外観・内観写真によってデータシートにまとめる。特に流 れる空間の住宅について、その場所特有さがどのように生 み出されたかに着目しながら、手法を抽出することで、時 代によって変化していく設計理念を見ていく。

Fig1. 抽出された 6 つの設計手法

Fig2. データシート 5-2̲ 現代に適応可能な手法

 ミースの手がけてきた住宅は、そのほとんどが例外なく 富裕層による依頼であり、十分な建設資金、広大な土地や 豊かな自然環境のもとに住宅を設計してきた。そのため完 成する住宅は、広い庭をもち、低層低密度な住宅が一般的 である。しかし、現代に適応可能な手法に昇華させるため には、都市部における特別大きくない一般的な土地に、高 密度に設計可能な手法まで昇華させる必要があり、断面的 な空間操作が必要不可欠となってくる。平面的にプランニ ングされ、断面的な操作が用いられてこなかったミースの 設計手法に、断面的な操作を加えたものが、現代に適応可 能な手法である。

第六章 Design Project 6-1̲ 都市型高密度モデル

 敷地は東京都世田谷区羽根木、現在私の自宅がある場所 を対象に、都市型高密度モデルの一戸建て住宅を提案する。

この敷地は特に問題視されるような場所ではない閑静な住 宅街であり、そのような一般的な土地にこそ、その場所特 有の建築の姿を提案する必要があり、この手法自体の一般 性も実証することができる。

主要参考文献

山本学治 稲葉武司「巨匠ミースの遺産」彰国社、1970

高山正實「ミース・ファン・デル・ローエ 真理を求めて」鹿島出版者、2006 渡邊明次「ミース・ファン・デル・ローエの建築言語」工学図書、2003

*1 フランツ・シュルツ ( 著 )、澤村明 ( 訳 )「評伝ミース・ファン・デル・ローエ」鹿島出版 会、2006

ミース・ファン・デル・ローエ「MIES IN BERLIN」2002 ミース・ファン・デル・ローエ 「The Art of Structure」1994 ミース・ファン・デル・ローエ「THE BUILT WORK」2014

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