山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
身体的認知による理解深化
- 身体化デザインを参照して-
学習開発分野(20821005)杉 山 夏 菜
本稿は,身体化認知理論を教育に応用した身体化デザインを参照し,授業実践を分析す ることを通して,身体的認知による授業づくりの実践的課題と可能性を探るものである。
身体的認知による学習において理解深化を引き起こすためには,学習者が持つ身体的感覚 を活かすこと,身体動作を伴った活動自体が学習者にとってフィードバックを得られる学 習環境になるよう設計されることが重要である。
[キーワード] 身体化デザイン,身体的認知,身体動作,音読,実感
1 はじめに (1)研究の主題
本研究の主題は,身体化認知理論を参照して授 業実践を分析することを通して,身体的認知によ る授業づくりにおける実践的課題と可能性を明ら かにすることである。
今年度,実習を行った学級では児童は日々の宿 題として詩の暗唱に取り組んでいた。しかし,詩 の暗唱ができたかできていないかを確認するのは 教師(筆者)に委ねられており,児童が活動になん らかの手応えを持てているのか疑問を持った。
学習する上で,身体的な実感を重要視する理論 に身体化認知理論がある。Abrahamson & Lindgr- en(2014)は,最も抽象的・形式的と思われている 数学でさえも,身体的な認知を伴って理解される と主張している。彼らは身体化デザインによって,
身体化認知理論を継承し,形式知と身体感覚の接 続を切らない学習を実践において展開している。
本研究では,特に身体化認知理論を教育に応用 した身体化デザインの先行研究を参照し,筆者の 行った授業実践を分析する。本研究の目的は,学 習者の理解深化の過程に着目し身体的認知による 授業づくりの実践的課題と理解深化の可能性を探 ることである。
(2)先行研究の検討
・身体化デザイン
身体化デザインとは,学習の過程において,形 式的な知識と学習者の身体感覚を切り離さずに概 念への理解を深めていくための学習支援アプロー チのことである(Abrahamson & Lindgren,2014)。
Abrahamson & Lindgren(2014)は,学習者が知識
と実感の接続を切らないために,学習環境はフィ ードバック・ループによって身体的行為と学習内 容が結びつくよう設計される必要があると主張し ている。彼らの指摘からは,身体感覚を持って教 材と絶えず対話しそのフィードバックが与えられ ることが,学習者自身が学習の意味を発見し理解 を深めていく上で重要であるといえる。
・身体化デザインの実践の展開
Abrahamson & Lindgren(2014)は,端末システム を用いて比率の概念における学習をデザインして いる。概念理解の過程においては学習者同士の会 話分析より「動的会話」(身振り手振りによって説 明すること)が概念学習への認知を発展させてい ることを明らかにしている。川崎ら(2016)は,中 学生を対象に天文学習の実践を展開している。川 崎ら(2016)は,地上において観察される太陽の動 きと宇宙を俯瞰した視点から見る太陽の動きの 2 つの視点を理解することは難しいと指摘し,理解 への効果的な手段として身体化デザインを採用し ている。学習支援としてはタブレット端末を太陽 に見立て操作することで天体の動きについて理解 することを試みている。こうした実践研究は学習 者の概念理解について実感を伴った理解を生むこ との難しさについて挙げていることから,本稿と 問題意識を共有しているといえる。身体化デザイ ンの実践例の多くはコンピュータ端末を使用し,
コンピュータ端末から得られるフィードバックを もとに学習者の身体感覚を伴った理解を引き起こ しているといえる。
(3)研究の方法
本研究では,主題に迫るために以下の二点の課
- 244 -
題を設定する。
第一に,児童が実感を伴って音読を行うことが できる授業を構想し実践することである。
第二に,身体化デザインの理解をもとに筆者の 行った授業実践を分析することを通し,学習者の 実感を伴った学びの実現に向けて実践的課題と可 能性を明らかにすることである。分析対象は,教 職専門実習Ⅰの山形市内 A 小学校第一学年で行っ た「ことばあそびうたをつくろう」という単元で ある。
2 実感を持てない子どもたち
山形市内 A 小学校第一学年で,「ことばあそびう たをつくろう」という単元を企画し実践した。本 稿で取り上げる授業実践は単元の 2/4 時間目であ る。授業 45 分間のうち約 30 分間は教科書に採ら れている中江俊夫作「たべもの」という詩を音読 するという活動である。
「あたらしいこくご 一上」東京書籍より
〈できた実感を持てない児童〉
エピソード 1
全員で 1 度通して読んだ後,筆者が「『ことばのアルバム (学級で暗唱に取り組んでいる詩集)』に載っている詩みた いに見なくても言えるくらいまで練習してみましょう。」と 指示を出した。すると,一呼吸の沈黙の後,「えー」と暗唱 することに対し抵抗感を示す声が数名の児童から上がっ た。「じゃあ,2(10 時 10 分)になるまで,ちょっと練習し ましょう。」と時間を提示すると,「えー,できん。」「はや っ。」という声が上がった。児童のほとんどは教師に言われ たとおり練習を始めるが,ビデオ記録に写っている 19 名中 5 名ほどはすぐには音読を始めず,教科書から目を離して いた。その中でもヒナタ君は後ろを向いたり,椅子を傾け たりしておりなかなか音読を始めようとしなかった。筆者 が教室の後ろの方へ机間巡視に入ると,「(暗唱は)できな い。」と児童からの訴えを聞いた。筆者は,「じゃあ,5 回音 読しよう。」と声をかけ,同じ内容を全体にも伝えた。ヒナ タ君の席に近づくと,ヒナタ君は「ほかほかごはん…。覚 えられなくなった。」と筆者に語りかけてきた。筆者は「も う少し,あと 2 回。」と声をかけた。ヒナタ君はそれを聞 き,すぐに机に突っ伏してしまった。
練習時間の終盤あたりには「できた」という声が上がり
始め,教科書を見ずに音読をし始める児童が数名ほどいた。
暗唱できるか確認しているのである。アスカさんは「先生,
できた。」と言い,目を手で覆いながら少し早口で音読をし ていた。その音読を聞くと「かりかりだいこん,かりかり さつまいも」などオノマトペと食べ物の組み合わせがバラ バラな部分があった。また,最後の 4 連は言い淀み,言い 直しをしていた。「あつあつの ふー…ろふきだいこん」と いった具合に上手く言えていなかった。
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツより)
この事例からは,活動の中で自分が詩を暗唱で きているかどうかわからない状況にある児童の姿 が窺える。「先生,できた。」と申告するアスカさ んも「かりかりだいこん かりかりさつまいも」
と,オノマトペと食べ物の組み合わせが間違って おり混乱している。しかし,アスカさんは間違っ ていることに気づいていないか,もしくは気にし ない様子でそのまま音読を続けている。アスカさ んが,「先生,」と筆者を呼んでいたことからも自 分ができているかできていないかが他人の確認な しでは認識できないことがわかる。さらに,この 詩教材に対し短時間での暗唱活動は児童にとって 苦痛を感じるものであったと考察される。「たべも の」という詩は,同じつくりの連が何度も繰り返 される。そのため,順番や組み合わせを覚えるこ とは困難であると推測される。時間を提示したと きの,「はやっ。」という声や「できない」という 声は詩教材に対し活動が不相応であったことが考 察される。ヒナタ君も活動が提示されたときから 教科書から目を背けている。教師が回数を提示し たときに机に突っ伏してしまったことから,漠然 と音読を繰り返すことにそもそも動機づけがない ことがわかる。
3 身体化を通した学習の可能性
エピソード 1 の音読活動の後には,詩を「つる つる うどん」と「くるんくるん こんにゃく」
の部分で区切り,それぞれ赤チームと青チームで 担当して音読を行った。このとき,児童は自分の 読む部分では立つ,読まない部分ではしゃがんで
たべものなかえとしお
もこもこさといもはりはりだいこんぱりぱりたくあんぽりぽりき�うりかりかり��き�うつるつるうどんくるんくるんこん��くしこしこたこし�きし�きはくさいこりこりこうめぷりんぷりんのとまとぴんぴんしたたいあつあつのふろふきだいこんほかほかのごはん
山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
身体的認知による理解深化
- 身体化デザインを参照して-
学習開発分野(20821005)杉 山 夏 菜
本稿は,身体化認知理論を教育に応用した身体化デザインを参照し,授業実践を分析す ることを通して,身体的認知による授業づくりの実践的課題と可能性を探るものである。
身体的認知による学習において理解深化を引き起こすためには,学習者が持つ身体的感覚 を活かすこと,身体動作を伴った活動自体が学習者にとってフィードバックを得られる学 習環境になるよう設計されることが重要である。
[キーワード] 身体化デザイン,身体的認知,身体動作,音読,実感
1 はじめに (1)研究の主題
本研究の主題は,身体化認知理論を参照して授 業実践を分析することを通して,身体的認知によ る授業づくりにおける実践的課題と可能性を明ら かにすることである。
今年度,実習を行った学級では児童は日々の宿 題として詩の暗唱に取り組んでいた。しかし,詩 の暗唱ができたかできていないかを確認するのは 教師(筆者)に委ねられており,児童が活動になん らかの手応えを持てているのか疑問を持った。
学習する上で,身体的な実感を重要視する理論 に身体化認知理論がある。Abrahamson & Lindgr- en(2014)は,最も抽象的・形式的と思われている 数学でさえも,身体的な認知を伴って理解される と主張している。彼らは身体化デザインによって,
身体化認知理論を継承し,形式知と身体感覚の接 続を切らない学習を実践において展開している。
本研究では,特に身体化認知理論を教育に応用 した身体化デザインの先行研究を参照し,筆者の 行った授業実践を分析する。本研究の目的は,学 習者の理解深化の過程に着目し身体的認知による 授業づくりの実践的課題と理解深化の可能性を探 ることである。
(2)先行研究の検討
・身体化デザイン
身体化デザインとは,学習の過程において,形 式的な知識と学習者の身体感覚を切り離さずに概 念への理解を深めていくための学習支援アプロー チのことである(Abrahamson & Lindgren,2014)。
Abrahamson & Lindgren(2014)は,学習者が知識
と実感の接続を切らないために,学習環境はフィ ードバック・ループによって身体的行為と学習内 容が結びつくよう設計される必要があると主張し ている。彼らの指摘からは,身体感覚を持って教 材と絶えず対話しそのフィードバックが与えられ ることが,学習者自身が学習の意味を発見し理解 を深めていく上で重要であるといえる。
・身体化デザインの実践の展開
Abrahamson & Lindgren(2014)は,端末システム を用いて比率の概念における学習をデザインして いる。概念理解の過程においては学習者同士の会 話分析より「動的会話」(身振り手振りによって説 明すること)が概念学習への認知を発展させてい ることを明らかにしている。川崎ら(2016)は,中 学生を対象に天文学習の実践を展開している。川 崎ら(2016)は,地上において観察される太陽の動 きと宇宙を俯瞰した視点から見る太陽の動きの 2 つの視点を理解することは難しいと指摘し,理解 への効果的な手段として身体化デザインを採用し ている。学習支援としてはタブレット端末を太陽 に見立て操作することで天体の動きについて理解 することを試みている。こうした実践研究は学習 者の概念理解について実感を伴った理解を生むこ との難しさについて挙げていることから,本稿と 問題意識を共有しているといえる。身体化デザイ ンの実践例の多くはコンピュータ端末を使用し,
コンピュータ端末から得られるフィードバックを もとに学習者の身体感覚を伴った理解を引き起こ しているといえる。
(3)研究の方法
本研究では,主題に迫るために以下の二点の課
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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
いる。
〈教師の判定に抗議が殺到〉
エピソード 2
T:じゃあ,先生が「たべもの」なかえとしおって言ったら スタートですよ。いきます。
(音読①)
C:こわい,こわい。(緊張感が漂い,静かに教師の判定を 待つ。)
T:じゃあ,先生が決めて良いですか?赤チームの勝ちです。
なんでかっていうと,(教師が言いかけたところで,それを 制止するように子どもから抗議の声が次々と上がる。) C:簡単だからそっち(赤チーム)は。
C:そっち(赤チーム)は簡単!
C:こっち(青チーム)は言い方難しいところがあるんだよ。
C:頑張ろう,頑張ろう。
C:(赤チームは)ほとんどが 4 文字だから簡単。
T:みんなで呼吸を合わせて,すくっと立つことが大事です。
C:みんなで声合わせて大きくやろう。
C:フウト君,それじゃあ寝っ転がってるでしょ,ちゃんと しゃがんで。
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツ)
授業でのねらいは詩の韻律・リズムを理解する ことであったが,児童からはそれに迫る発言があ ったことがわかる。筆者は,児童の音読に対する フィードバックとして,どちらのチームの音読が よかったかの勝敗を伝えている。すると,後半部 分を担当した青チームは,そもそも自分たちの担 当する部分は「言い方が難しいところがある」と 教師の判定に対して反論している。詩を読むとわ かる通り,「くるんくるん こんにゃく」からの後 半部分は詩の韻律・リズムが複雑になっていくの である。児童の「簡単-難しい」という発言は,
詩を音読して分かった詩の韻律・リズムの特徴を 表現している言葉であると解釈できる。さらに,
「(赤チームは)ほとんどが 4 文字だから簡単」と いう発言は,なぜ(赤チームは)簡単なのかテキス トに立ち返って理由を説明している。座って読ん でいたときには埋もれていた詩の構造が,身体動 作から感じられた子どもの実感として際立って表 現されている。
〈ゲームの勝敗予想と実感の共有〉
エピソード 3 (音読②)
C:絶対こっち(青チーム)だ,絶対。(ゲームの勝敗を予想 している)
T:今のは,青チーム。じゃあ,次,もっとレベルアップし ていいですか?
(説明中略:チームで担当する部分をオノマトペとたべもの の名前に分けて音読を行うという趣旨を実演交えながら説 明する)
(音読③)
(終わった後,笑いが起きる) C:今のどっち勝った?
T:今のは難しいなぁ。青チームはだんだん良くなっていっ
てたね。
C:かな先生,こっち忙しい。
C:スクワットだ,スクワット
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツより)
エピソード 3 での音読はチームで担当する部分 の入替が多いため絶えず屈伸運動をしているよう な状態である。(児童はそれを「スクワット」と表 現している)この事例からは,児童が自分の音読に 対してうまく音読できたかどうか実感する姿が描 出されている。児童の「絶対こっちだ,絶対」と いう発言からは自身の音読の良し悪しを捉えてい ることがわかる。エピソード 2 では,教師は判定 基準として「すくっと立つ」という身体動作を挙 げているが,児童はその基準をもとに屈伸運動で の身体感覚に注目し勝敗を予想し始めていると考 察される。さらに,音読③が終わった後に,顔を 見合わせながら児童の間で笑いが起こっている。
エピソード 2 まで教師から伝えられる勝敗を「こ わい,こわい」と静かに待っていたのに対し,エ ピソード 3 では児童同士で音読した後の感覚を共 有して楽しむ時間が生まれている。エピソード 1 の音読活動では,間違えてもそのまま音読を続け ていたのに対し,エピソード 2,3 では音読がうま くいったかどうか感覚を学習者自身が認識してい ることがわかる。
〈スクワット音読のアンコール〉 エピソード 4
「もう一回筋トレやりたい」「今度,(読む部分の担当を)変 えてやりたい」と屈伸運動をしながらの音読をやりたいと いう児童もいる中,筆者は「もっとレベルアップしてもい いですか?」と手拍子を打ち始めた。児童もそれに次いで 手拍子を始める。そのまま,筆者が詩の音読をしてみせる と児童もぶつぶつそれに合わせて音読を始めた。「じゃあ,
次は手拍子に合わせて音読してみましょう。」と教師が指示 を出し音読を始めた。手拍子だけをする児童や手拍子はせ ず詩の音読だけをする児童が数人いた。また,手拍子をし ながら詩を読み上げるのが難しいからか声の音量が小さく なる児童も多くいた。音読が終わると,少し沈黙があり,
頭を叩きながら音読をしていたヒナタ君は,「頭痛くなった ー。だって僕頭叩きながらやってたんだもん。」と言った。
筆者は「手拍子以外に何かアイディアはありますか?」と 次の活動へと移った。
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツより)
この事例からは,個人の活動や一回きりの活動 のみで実感を形成することの難しさを描出してい る。手拍子をしながらの音読では,一人ひとりが 音読することへ精一杯なようで児童のほとんどは 教科書に目をやっていた。エピソード 2,3 での音 読では,フウト君に「ちゃんとしゃがんで」と注 意していたり,2 人で手をつなぎながら屈伸して
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いたりすることから,他者の動きに注目ができて いたことがわかる。児童は相手のチームがしゃが むタイミングをうかがうため相手チームの動きを 見たり,自分のチームの音読の声が揃うように膝 でリズムをとったりしている姿などが見られた。
このように自分の音読と動きが他者の音読と動き と対応しているのを感じることで音読ができてい る感覚がつくられていたのかもしれない。しかし,
エピソード 4 の音読後の様子が沈黙に変わったこ とから,他者と音読への実感が共有しにくい状況 にあったことが示唆される。
また,屈伸しながらの音読をもう一度やりたい と声が上がっていたことから,何度も活動を重ね ることの必要性が考察される。次の活動に移って からも「筋トレしたい」との声が上がり,授業が 終わった後にも屈伸をしながら音読をしてみる児 童の様子があった。屈伸しながらの音読は合計 5 回行ったが,回数を重ねるごとに児童の声が揃っ ていき声量も上がっていた。一方で,手拍子をし ながらの音読では出だしが揃わなかったり,食べ 物の文字数によっては児童によってリズムが異な ったりしていた。児童はその音読を聞き,前回ま での音読に比べてしっくりこない感覚を覚えてい たかもしれない。手拍子の活動は一回きりで終わ ってしまったため,その後の展開を追うことはで きないが,屈伸しながらの音読のように活動を継 続させることで音読への手応えを徐々に作ってい くことができた可能性がある。事例を通して,学 習への実感は個人でつくられているのではなく,
他者との共有や他者の動きが見える活動によって 作られていたこたことが示唆される。
4 おわりに
本研究では,身体化デザインの理解に沿って,学 習者の理解深化過程に着目し分析することを通し,
学習者の身体的認知による授業づくりにおける実 践的課題と可能性について探ってきた。その結果,
以下の二点が考察された。
第一に,学習者が持っている身体感覚を活かす ことができることにより学習に対する理解が深ま る可能性がある。座ったままの音読活動では暗唱 できているかどうか自分で分かっていなかったの に対し,屈伸をしながらの音読活動では屈伸動作 によって児童が持っている,リズムに合わせると いった身体感覚が活動の中で動員することができ
た可能性が示唆される。児童はその身体感覚をも とに「簡単-難しい」「忙しい」など表現している。
児童の発言からは詩の韻律・リズムに対する理解 が身体認知を伴って深まっている可能性があると いえる。
第二に,身体動作を伴った活動自体が学習者に とってフィードバックを得られる学習環境になる よう設計されることが重要である。屈伸運動を導 入した音読活動の様子からは,児童が相手のチー ムのしゃがむタイミングをうかがうように他者の 動きを見ていたり,うまく音読できるように膝で リズムを取りながら音読したりするような姿がみ られた。このことから,児童は活動の中で他者に合 わせる感覚やリズムに乗れている感覚を感じてい たことが示唆される。音読が終わった後,顔を見合 わせて笑う児童の姿からはその実感を児童同士で 共有できていたことも考察される。
引用文献
Abrahamson & Lindgren (2014) Embodiment and embodied design. R.K. Sawyer, (ed), The Ca mbridge Handbook of the Learning Sciences (2nd ed). Cambridge University Press.
ドール・アブラハムソン・ロブ・リンドグレン (2016)「身体化と身体化デザイン」,R.K.ソーヤ ー(編)大島純・森敏昭・秋田喜代美・白水始(監 訳),『学習科学ハンドブック 第二版 第 2 巻』, 北大路書房,pp.99-105.
Make Understanding by Embodied Cognition : Focusing on Embodied Design
Kana SUGIYAMA
山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
いる。
〈教師の判定に抗議が殺到〉
エピソード 2
T:じゃあ,先生が「たべもの」なかえとしおって言ったら スタートですよ。いきます。
(音読①)
C:こわい,こわい。(緊張感が漂い,静かに教師の判定を 待つ。)
T:じゃあ,先生が決めて良いですか?赤チームの勝ちです。
なんでかっていうと,(教師が言いかけたところで,それを 制止するように子どもから抗議の声が次々と上がる。) C:簡単だからそっち(赤チーム)は。
C:そっち(赤チーム)は簡単!
C:こっち(青チーム)は言い方難しいところがあるんだよ。
C:頑張ろう,頑張ろう。
C:(赤チームは)ほとんどが 4 文字だから簡単。
T:みんなで呼吸を合わせて,すくっと立つことが大事です。
C:みんなで声合わせて大きくやろう。
C:フウト君,それじゃあ寝っ転がってるでしょ,ちゃんと しゃがんで。
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツ)
授業でのねらいは詩の韻律・リズムを理解する ことであったが,児童からはそれに迫る発言があ ったことがわかる。筆者は,児童の音読に対する フィードバックとして,どちらのチームの音読が よかったかの勝敗を伝えている。すると,後半部 分を担当した青チームは,そもそも自分たちの担 当する部分は「言い方が難しいところがある」と 教師の判定に対して反論している。詩を読むとわ かる通り,「くるんくるん こんにゃく」からの後 半部分は詩の韻律・リズムが複雑になっていくの である。児童の「簡単-難しい」という発言は,
詩を音読して分かった詩の韻律・リズムの特徴を 表現している言葉であると解釈できる。さらに,
「(赤チームは)ほとんどが 4 文字だから簡単」と いう発言は,なぜ(赤チームは)簡単なのかテキス トに立ち返って理由を説明している。座って読ん でいたときには埋もれていた詩の構造が,身体動 作から感じられた子どもの実感として際立って表 現されている。
〈ゲームの勝敗予想と実感の共有〉
エピソード 3 (音読②)
C:絶対こっち(青チーム)だ,絶対。(ゲームの勝敗を予想 している)
T:今のは,青チーム。じゃあ,次,もっとレベルアップし ていいですか?
(説明中略:チームで担当する部分をオノマトペとたべもの の名前に分けて音読を行うという趣旨を実演交えながら説 明する)
(音読③)
(終わった後,笑いが起きる) C:今のどっち勝った?
T:今のは難しいなぁ。青チームはだんだん良くなっていっ
てたね。
C:かな先生,こっち忙しい。
C:スクワットだ,スクワット
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツより)
エピソード 3 での音読はチームで担当する部分 の入替が多いため絶えず屈伸運動をしているよう な状態である。(児童はそれを「スクワット」と表 現している)この事例からは,児童が自分の音読に 対してうまく音読できたかどうか実感する姿が描 出されている。児童の「絶対こっちだ,絶対」と いう発言からは自身の音読の良し悪しを捉えてい ることがわかる。エピソード 2 では,教師は判定 基準として「すくっと立つ」という身体動作を挙 げているが,児童はその基準をもとに屈伸運動で の身体感覚に注目し勝敗を予想し始めていると考 察される。さらに,音読③が終わった後に,顔を 見合わせながら児童の間で笑いが起こっている。
エピソード 2 まで教師から伝えられる勝敗を「こ わい,こわい」と静かに待っていたのに対し,エ ピソード 3 では児童同士で音読した後の感覚を共 有して楽しむ時間が生まれている。エピソード 1 の音読活動では,間違えてもそのまま音読を続け ていたのに対し,エピソード 2,3 では音読がうま くいったかどうか感覚を学習者自身が認識してい ることがわかる。
〈スクワット音読のアンコール〉 エピソード 4
「もう一回筋トレやりたい」「今度,(読む部分の担当を)変 えてやりたい」と屈伸運動をしながらの音読をやりたいと いう児童もいる中,筆者は「もっとレベルアップしてもい いですか?」と手拍子を打ち始めた。児童もそれに次いで 手拍子を始める。そのまま,筆者が詩の音読をしてみせる と児童もぶつぶつそれに合わせて音読を始めた。「じゃあ,
次は手拍子に合わせて音読してみましょう。」と教師が指示 を出し音読を始めた。手拍子だけをする児童や手拍子はせ ず詩の音読だけをする児童が数人いた。また,手拍子をし ながら詩を読み上げるのが難しいからか声の音量が小さく なる児童も多くいた。音読が終わると,少し沈黙があり,
頭を叩きながら音読をしていたヒナタ君は,「頭痛くなった ー。だって僕頭叩きながらやってたんだもん。」と言った。
筆者は「手拍子以外に何かアイディアはありますか?」と 次の活動へと移った。
(2020 年 9 月 4 日フィールドノーツより)
この事例からは,個人の活動や一回きりの活動 のみで実感を形成することの難しさを描出してい る。手拍子をしながらの音読では,一人ひとりが 音読することへ精一杯なようで児童のほとんどは 教科書に目をやっていた。エピソード 2,3 での音 読では,フウト君に「ちゃんとしゃがんで」と注 意していたり,2 人で手をつなぎながら屈伸して
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