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生保会社による医療保険の商品開発と 販売における課題

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生保会社による医療保険の商品開発と 販売における課題

宮 地 朋 果

■アブストラクト

少子高齢化を背景として,死亡保障商品の新規契約が伸び悩むなか,社会 保障制度に対する不安や自己責任・自助努力への流れを要因として,第三分 野商品に対するニーズは依然としてある。第三分野,なかでも医療保険は,

国内生保市場で,今後もしばらくは潜在的な成長力が期待される分野となっ ている。

本稿では,2001年度から急速な拡大をみせた医療保険市場を,生保会社に よる医療保険の商品開発の変遷という視点で考察し,保険金等の支払い問題 に代表される保険商品販売上の課題について検討する。不払い等の問題は,

件数の多寡や性質の相違等はあるものの,損害保険業,生命保険業を問わず,

また,保険会社や共済など団体を問わず発生した構造的問題といえるが,本 稿では生保会社による医療保険販売を中心に考察する。

■キーワード

医療保険,商品開発,金融教育

1.はじめに

日本国内では,少子高齢化の進展や昨今の経済状況により,公的医療保険 制度の再構築やナショナルミニマムをめぐる議論が活発化している。また,

/平成22年10月7日原稿受領。

(2)

現役世代の負担能力低下に伴い,今後ますます自己責任・自助努力が求めら れるようになると予測される。医療保険財政の悪化により,健保被保険者の 自己負担率が1997年に10%から20%へ,2003年に20%から30%へと引上げら れたことや,高額療養費の自己負担限度額の見直し ,差額ベッド代 や高 度先進医療の技術料など保険外負担が増していることにともない,民間医療 保険の需要が拡大している。今後,医療費抑制の政策が進めば,医療保障分 野への参入や商品開発も一層促進すると考えられる。

本稿では,生保会社による医療保険の商品開発の変遷をたどり,その販売 上の課題について検討することを目的とする。

2.医療保険市場の現況

2.1 公的保障の縮小と私的保障の拡大

医療の負担と給付をめぐる近年の方向性として,①公的保障の縮小と②私 的保障の拡大(保障内容の拡充)がみられる。

70歳以上の療養病床の食費と居住費の全額が自己負担となり,現役並みの 所得を持つ70歳以上の患者負担は,2006年に 2割 から 3割 へと引き 上げられた。また,70〜74歳の患者負担は,法律上は原則2割となっている が,政府の特例措置により2008年度以降は1割となっている。これを早けれ ば2013年度以降,2割に引き上げる方向で厚生労働省が検討に入った。この

1) 70歳未満で一般的な所得がある場合,高額医療費の自己負担限度額は,(1 ヵ月にかかった医療費−24万1,000円)×1%+7万2,300円であったが,2006 年10月より,(1ヵ月にかかった医療費−26万7,000円)×1%+8万100円に改 正された。

2) 平成16年度厚生労働省保険局医療課調べによると,1日あたりの差額ベッド 代 は,1,000円 以 下11.9%,1,001〜2,000円16.4%,2,001〜3,000円16%,

3,001〜4000円10.4%,4,001〜5,000円12.1%,5,001〜10,000円22.1%,

10,000円超11.1%となっている。差額ベッド代の基準として,①1病室4床以 下,②病室の面積が1人あたり6.4㎡以上,③ベッドごとにプライバシーを確 保するための設備が整っていること,④個人用の私物収納設備や照明,小机,

椅子の設備があることが挙げられる。

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ように医療費抑制の政策がすすむことにより,今後も患者負担は増加の見通 しである。昨今の公的医療保険制度における主な改正内容(表1)をみると,

わが国の医療保障分野における公私の役割分担の考え方が,生活保障の最も 基礎的な部分を公的部門が担い,それ以外は国民の自助努力や私的部門の活 用に委ねる方向性を持つことがわかる。

表1 公的医療保険制度の主な改正内容

改正年次 主な改正内容

1997年

○健保自己負担割合2割へ引き上げ

○政管健保の保険料率引き上げ(月収の8.2%→月収の8.5%)

○外来薬剤の一部負担制度創設

2000年

○自己負担限度(高額療養費)の改正

○育児休業中の事業主の保険料負担免除制度創設

○介護保険制度の創設(医療と介護の分離)

○一般保険料率と介護保険料率の分離

2003年

○健保自己負担割合3割へ引き上げ(小学生〜69歳)

○自己負担限度額(高額療養費)の改正

○健保総報酬制の導入及び保険料率の変更

(月収の8.5%→年収の8.2%:政管健保の場合)

○外来薬剤の一部負担制度の廃止

2006年

○高額療養費の自己負担限度額の引き上げ

○出産育児一時金の引き上げ(1児につき30万円→35万円)

○70歳以上の患者負担の見直し

2008年

○後期高齢者医療制度創設

○70〜74歳の医療費窓口負担1割へ

○診療報酬の改定

2010年

○後期高齢者医療制度を廃止し,2013年度の新制度導入をめざす

○70〜74歳の医療費窓口負担2割への検討開始(2013年度から段階

的な適用をめざす)

出典:宮地朋果(2006), 医療保険をめぐる商品開発の動向 (堀田一吉編著 民間医療保険の戦略と課題 勁草書房),p.111に加筆。

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また,生命保険文化センターの 平成21年度生命保険に関する全国実態調 査 によると,自分の医療費を公的医療保険だけでまかなえると考えるかに 関し, まかなえると思わない は65.5%であり,時系列でみるとほぼ増加 傾向にある。

生命保険業においては,近年,死亡保障から生存保障への重点移動が指摘 される。生命保険文化センターの同調査によると,新たな加入意向のある保 障内容に関して,世帯主については医療保障が56.0%,遺族保障が53.6%,

配偶者については医療保障が65.5%,遺族保障が47.7%となっている。前回

(平成18年度)は,世帯主については医療保障が58.3%,遺族保障が53.4%,

配偶者については,医療保障が62.4%,遺族保障が41.2%であったので,前 回よりは若干,医療保障と遺族保障との差が縮小しているが,人びとのニー ズが,従来の生保会社の主力商品である死亡保障商品から医療保障商品へと 転換していることがみてとれる。

しかし,私的保障の拡大だけではカバーすることができないようなリスク も存在する。それらは民間保険の持つ限界 によるものであり,医療保障の 負担と給付に関して, 公的保障の縮小 および 私的保障の拡大 という 方向で国民的合意がたとえ達成されたとしても,公的医療保険制度が持つセ ーフティネットとしての役割の重要性は残る。また,医療単品にせよ特約に せよ,日本の民間生保会社が提供する医療保障商品の特徴として,①高額療 養費制度 など公的医療保険制度が充実しているため,民間保険は公的保障 を補完する役割にとどまっていること,②実際にかかった費用を補てんする

3) 民間保険の限界として主に挙げられることは,①採算がとれないリスクは保 険の対象とならない,②所得や資力の不足のために保険に加入できない,ある いは十分な保険契約ができない者が生じる,③老後の生活などに対して事前に 備えようとしない者が存在する,などである。

4) 昭和48年10月から始まった制度で,高額な医療費による家計への負担にかん がみ,1ヶ月当たりの医療費負担を一定額に抑える効果を持つ。収入により決 められる額を超えたものが,申請に基づいて,各公的医療保険制度から償還さ れる。ただし,申請から実際に支給されるまでに3〜4ヶ月ほどかかる。

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実損型の給付ではなく,定額型の給付が基本であることが挙げられる 。し たがって,米国やドイツ(高所得層)におけるように,民間保険会社が公的 医療制度の代替の役割を担うことは,現在のところ制度上,不可能となって いる。

2.2 自由化以降の医療保険市場

医療単品やがん保険の販売は,2000年12月までは,外資系生保会社と一部 の中小生保のみに許されており,国内大手生保会社や損保会社は販売するこ とができなかった (表2)。

医療単品は,定期保険または終身保険をベースとするが,死亡保障額を低 く抑えて,医療関係給付(入院,手術,看護等)を充実させた商品である。

医療単品としては,1974年11月のアメリカンファミリーの がん保険 を 嚆矢として,アリコジャパン(1976年2月),日本団体生命(1976年5月)

の3社のみが販売をしていたが,医療保障分野への需要の高まりにともない,

各社が進出をはじめた。

表2 生損保による医療保障分野(医療単品・がん保険)への参入可否 2000年12月まで 2001年1月以降 2001年7月以降

生保 会社

国内大手 ×

○ ○

中小・外資系

○ ○ ○

損保系生保 ×

○ ○

損保 会社

損保 × ×

生保系損保 × ×

出典:宮地朋果(2006), 医療保険をめぐる商品開発の動向 (堀田一吉編 著 民間医療保険の戦略と課題 勁草書房),p.103。

5) 大橋善晃 医療・介護保険の現状と保険および共済の課題 共済と保険 第45巻第2号,2003年,pp.16‑17。

6) 当時,日本における癌の告知率はきわめて低く,治療上も保険販売上も が ん という言葉を用いることには躊躇がみられたが,アメリカンファミリーの

がん保険 販売により,国民の潜在的な需要の顕在化が進んだといえる。

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1995年5月,新保険業法が成立(施行は1996年4月1日)し,規定が整備 されることにより,第三分野が生損保双方に参入可能な領域であると定義さ れた。しかし,外国保険事業者等に当該分野への依存度が高い会社が多くあ ることから,これらの会社の経営環境の激変を避けるため,生損保本体によ る第三分野への乗り入れを段階的に進める措置が講じられた。

2000年12月までは,国内大手生保会社は,医療保障分野において,がん保 険などを販売することができず,死亡・生存保障などの主契約に付随して提 供される 特約 としてのみ,医療保障商品の販売が可能であった。2000年 の日米保険協議により,2001年1月に第三分野への子会社による相互参入が 解禁され,2001年7月に,保険会社本体による相互参入が解禁となった。こ れにより,2001年度から医療保険市場は急速な拡大をみせ,生保,損保,共 済など競合の激化や,新商品の発売が相次いだ。しかし,医療単品・がん保 険の販売の歴史は,少なくとも,国内大手生保と損保にとっては始まったば かりともいえる。

大局的には,現在の日本における医療保険の市場動向は, 保険料は高い が,保障(補償)範囲の広さや,保障(補償)内容の充実をめざす 方向性 と シンプルでわかりやすい保障(補償)内容にしぼり,保険料の安さをア ピールする 方向性とに2極化していると考えられる。そのなかで,各団体 の経営戦略に基づいたポジショニングにより商品開発が進む。

たとえば,昨今の国内大手生保の商品は,保険料はやや高いが,保障範囲 の広さや,保障内容の充実をめざす方向におおむねあると考えられる。入院 や手術に対する給付範囲や1入院限度日数等の拡大,保障内容の充実により,

消費者への安心感の提供を図っている。国内大手生保の販売における強みと して,従来,歴史の古さやブランド価値,営業職員の販売網などが挙げられ てきた。しかし,ネット生保に代表されるチャネルの多様化や在宅率の低下,

ライフスタイル・価値観の変化等により,これらの強みが十分に活かされな い可能性もある。

一方,外資系保険会社の商品の多くは,シンプルでわかりやすい保障(補

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償)内容にしぼり,保険料の安さをアピールする。無配当であること,解約 返戻金や死亡保険金をなくすことなどにより,保険料を割安にする工夫が顕 著にみられる。また,給付内容の絞り込みなどもみられる。家計の圧迫など で,合理的な保険購買行動が進んでいることが,このような商品の優勢を後 押ししている。外資系保険会社の強みとしては,インターネットの活用など チャネルの多様性,成長力(過去の負債がないこと),迅速な商品開発と買 いやすい価格設定などが考えられる。

2.3 医療保険の商品開発における特徴

以下に,昨今の医療保険市場における商品開発の特徴を挙げる。

⑴ 保障(補償)対象範囲の拡大

昨今,医療保険における保障(補償)対象範囲の拡大が進んでいる。たと えば,高度先進医療や移植医療,難病を対象とする新たな保険商品の開発で ある。ガン,急性心筋梗塞,脳卒中の3大疾病が再発しても給付金の受け取 りが可能となる特約の販売や乳房再建手術への対応などもみられる。また,

差額ベッド代などアメニティ面の充実のための給付,ベビーシッターや清掃 代行業者を雇い入れる費用を提供する商品もある。

その他には,入院前後の通院を給付の対象とする保険商品,移植手術に対 して給付金を出す特約も出ている。給付金以外のサービスとして,セカンド オピニオンやサードオピニオンを受けるための手配や紹介なども近年,増え ている。

⑵ 入院実態への対応

入院給付金の通算支払限度日数の拡大も進んでいる。たとえば,多くの生 保会社では入院特約の通算支払限度日数を700日から1,095日へと拡大した。

厚生労働省の 患者調査 によると,退院患者の平均在院日数 は,近年,

7) 厚生労働省 平成20年患者調査 ( 平成17年患者調査 )によると,傷病分 類別にみた退院患者の平均在院日数は,以下のとおりである。

(結核60.3(71.9)日,ウィルス肝炎16.9(23.7)日,糖尿病38.6(34.4)

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1990年(総数44.9日)を境に短期化する傾向にあり,2008年においては,総 数35.6日(病院37.4日,一般診療所18.5日)であった。しかし一般的には,

高齢になるにしたがって入院日数が増加する。また,ライフスタイルの変化 などを背景として,入院の長期化や,治療費の高額化をもたらす生活習慣病 が蔓延している。悪性新生物のように,再発の恐れのある疾病も存在する。

これらのことを考慮すれば,高齢化の進む近年において,保障の長期化は望 ましいと考えられる。また一方で,医療技術の進歩による入院期間の短期化 にも対応し,日帰り入院(0泊1日)や1泊2日の入院にも,給付金が支払 われるようになった。

⑶ ターゲットの拡大

保障(補償)のターゲットが拡大していることも,特徴の一つである。た とえば,従来は保険への加入が困難であった50歳以上の健康に不安がある層 を対象にする商品や,医師による診査・告知書の提出を求めない無選択型の 保険商品がある。また,告知の項目が少ない限定告知型の保険商品も増えて いる。持病があるなど,身体状況に不安を抱えている層にまでターゲットが 広がっており,加入できる年齢幅の拡大もみられる。ただし,無選択型の商 品については,医的選択 のある商品と比較すると保険料が割高になってい ること,たとえ保険に加入できたとしても,加入時にかかっている病気,過

日,血 管 性 及 び 詳 細 不 明 の 認 知 症327.7(330.5)日,高 血 圧 性 疾 患 45.8(41.4)日,心疾患24.2(27.8)日,脳血管疾患104.7(101.7)日,肝疾 患29.8(30.0)日,喘 息 12.1(14.8)日,妊 娠,分 娩 お よ び 産 じ ょ く 8.0(7.6)日,悪性新生物<胃26.8(34.6)日,大腸19.2(30.7)日,肝およ び肝内胆管22.4(26.9)日,気管,気管支および肺27.2(34.1)日)>

8) 日本では現在,医的選択は大きく 医師扱い , 面接士扱い , 告知書扱 い の3種類に分類されており,被保険者の年齢や保険金額,保険種類,身体 的状況によって,選択方法が決定される。保険契約者と被保険者は,保険契約 の締結に際して,危険の測定上,重要な事実を保険者に正しく告知することと,

重要な事項について不実を告げないことが義務付けられている。2010年4月に 新しい保険法が施行され,これら契約者の 告知義務 の緩和がなされ,保険 会社の質問に答えることで足るようになった。

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去にかかった病気と関連のある症状および病気に対しては給付金や保険金が 支払われない場合が多いことに留意する必要がある。

⑷ 医療保障の終身化

近年,国内の大手生保および大手損保はすべて,終身医療保険を販売して いる。保険期間が有期である定期型の保険の場合,保険期間が長期化すれば 保険事故の発生率における個人差は小さくなるものの,給付を受ける人と受 けない人が存在する。しかし終身型の保険の場合は,ほとんどの人がいずれ は何らかの形で給付を受け,給付が複数回に及ぶ可能性もある。そのため,

保険会社の引受リスクは,有期の保障(補償)から終身の保障(補償)にな ることにより大きくなると考えられる。また,リスク管理の重要性も高まる ことが指摘される。一般に,死亡保障商品に比べて,医療保険は細かな商品 改訂が生じやすいとされるため,開発にかかる経費も考慮する必要がある。

⑸ 女性特化型医療保険の増加

女性の社会進出とともに,婚姻率の低下や晩婚化が進んでいる。また,厚 生労働省の統計によると,平成17年に結婚した人と離婚した人の割合は1対 0.3で,この割合が今後も続くと仮定すると,結婚した人の約3割は離婚す ると考えられる。単身世帯も増加し,個人ベースで生活保障を考える割合が 増えてきているが,これらの動向を要因として,女性特化型医療保険の開発 が増加している。また,女性特有の疾病に関する保障に加えて,特約により 収入保障を提供する商品もある。このような商品発売の背景には,女性によ る分譲マンション購入の増加や,昨今における20〜30歳代女性の独身率の上 昇がある。

⑹ 競合の多さ

生保,損保,共済など競合する団体の多さも,医療保険の特徴の1つであ る。損保会社は近年,若者の自動車離れなどを背景として,主力の自動車保 険において苦戦しており,生保会社では少子高齢化により伝統的な死亡保障 が伸び悩んでいる。これら両者にとって,医療保障分野は魅力ある市場であ る。競合が進む一方で,損保会社と共済など,業界の枠組みを超えた提携や

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生損一体型商品もみられる。

⑺ 支払の多様化と保険料の低廉化

1992年10月に導入されたリビング・ニーズ特約 など,支払時期の多様化 や給付内容にも工夫がみられる。一定の期間中に入院給付金などの請求がな い場合,無事故給付金( 健康祝金 など各社により名称は異なる)が支払 われる商品もある。また,支払方法も一時金,年金払,実損てん補型などさ まざまである。

一方,保険料に関しては,医療保険の多くが無配当保険であることから,

元々,割安と言えるが,さらに保険料を安くする工夫もなされている。たと えば,解約返戻金をなくす,あるいは低くすることや,死亡保険金をなくす こと,インターネット割引の導入等により,保険料を割安にしている。

3.医療保険販売をめぐる課題

3.1 保険金等の支払い問題の背景

保険金等の支払い問題は,件数の多寡や性質の相違等はあるものの,生命 保険業,損害保険業を問わず,また,保険会社や協同組合など団体を問わず して発生した。

2007年12月の調査結果によると,生保38社の不払いは合計で約131万件,

金額にして約964億円であった。生保会社における支払い問題は,医療保障 分野,なかでも特約に関するものに特に顕著であった。

これらの問題は,説明責任なども含めた販売政策上の課題や消費者教育に おける新たな課題を保険会社や監督官庁に提示することとなった。その一方 で,保険の重要性や社会的役割は従前以上に高まっているといえる。各団体 においては,システムの開発・改定や支払管理体制の見直し,教育・研修制 度の強化などの再発防止策がとられると同時に,契約者の不満や不安などに

9) 被保険者が余命6ヶ月以内であると医師による診断がなされた場合,生前に 死亡保険金の全額または一部を請求できる特約である。ほとんどの保険会社が 取り扱っており,特約の保険料は不要である。

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対応する苦情センター設立等の取り組みがなされてきた。生保業界では,過 大な販売ノルマ設定にみられる消費者軽視の姿勢や経営倫理の欠如への反省 をもとに,生保会社の最大チャネルである営業職員の雇用体制や評価方法の 改善への取組みが進むと同時に,わかりやすい約款・商品づくりの動きが出 てきた。

しかし,少子高齢化の進展やそれにともなう公的保障の縮小等を背景とし て,自己責任や自助努力がますます求められるなかでも,消費者の意識に急 激な変化はみられない。加入した保険商品や契約内容の詳細について把握し ていない場合も少なくない。

金融広報中央委員会の 家計の金融資産に関する世論調査 によると,保 険・年金についての知識水準の自己評価として, 知識がないと思う と答 える割合が,29.1%(平成13年度),30.6%(平成15年度),33.2%(平成20 年度)のように,わずかではあるが増加する一方で, 十分知識があると思 う と答える割合は,13.5%(平成13年度),13.6%(平成15年度),13.2%

(平成20年度)と低く, どちらともいえない も各年度50%台となっている。

また,希望する金融情報の分野(3つまでの複数回答,平成20年度)として,

保険は,年金64.6%,預貯金43.5%に次ぐ39.4%となっている。しかし,学 校における金融教育の経験(平成20年度)として, 受けた はわずか4.0%

であり, 受けたと思うが,よく覚えていない 20.0%, ほとんど受けてな いと思う 75.3%という惨憺たる状況であり,この結果からも金融教育の必 要性が感じられる。

消費者の保険に対する当事者意識の欠如や,他人任せで消極的な姿勢が,

保険金等の請求もれなどを引き起こし,結果として, 請求主義 の下での 保険金等の不払いにつながった側面もあるだろう。また,消費者の保険知 識・情報の不足は,契約内容に対する過信や何でも支払われるという思い込 みを生じさせる可能性もある。

保険の購入に関しては,依然として 受け身 の姿勢を持つ消費者が多く,

営業職員や代理店などから勧められたままに加入する消費者も少なくない。

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生命保険文化センターの 平成21年度生命保険に関する全国実態調査 にお いても,直近加入契約(民保)の加入時の情報入手経路(複数回答)として,

生命保険会社の営業職員 が55.6%と圧倒的に多く, 友人・知人 12.9%,

家族・親類 10.5%, 保険代理店 9.7%と続いている。また,直近加入 契約(民保)の加入時の商品比較経験(複数回答)として, 特に比較はし なかった が67.7%と最も高くなっていることも( 他の民間の生命保険会 社の生命保険(かんぽ生命を除く) が25.0%で続く),消費者の 受け身 の姿勢を裏付けるものと考えられる。

このような状況下では,自分に必要な保障(補償)金額や内容ではなく,

支払可能額や平均加入金額,標準的な保障(補償)内容のような視点で商品 選択を行う可能性もある。保険販売における消費者,保険会社双方の姿勢が,

本来のニーズとはあわない保険商品の購買につながり,請求時に必要な保障

(補償)が十分に得られない場合には,保険会社への不信感を生じさせるお それもある。

3.2 消費者の保険商品選択における課題

共済に先行して不払い問題が顕在化した保険会社に対して,消費者の不信 が高まり保険離れが進んだ。2007年3月末には,都道府県民共済の契約件数 が1,309万件となり,1,296万件の日本生命保険をはじめて上回った。不払問 題の要因として,特約に代表されるような保険商品の内容の複雑さが指摘さ れたため,共済のわかりやすさや,保険と比して割安な共済掛金が一定の評 価および信頼を受けたためと考えられる。

保険金等の支払い問題を背景として,保険においてもシンプルでわかりや すい保障(補償)内容を求める動きとともに,保険商品の標準化や簡素化,

危険選択の簡略化を進める向きがある。つまり, 保険の共済化 あるいは 保険と共済の同質化 が起こっているといえる。しかし,これが消費者に とって真に望ましい方向であるかについては再考の余地がある。同じような 商品ばかり増えると,消費者の多様なニーズに応えることが難しくなるとい

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う課題が生じてくる。また,同じような商品の販売は,単なる価格競争やイ メージ戦略に陥り,最終的には体力の劣る団体が市場から去ることになるお それもある。

消費者の効用を高めるような競争のあり方が現在,模索されており,商品 開発はその核になるものと考えられる。しかし,商品の多様化が過度に進む と,消費者による商品選択が困難となり,商品への理解不足を原因の一つと して,保険金等の支払い問題が生じる可能性がある。このような点を鑑み,

保険会社は消費者の利となる商品開発とは何か,どこまで進めるべきかを再 考しなくてはならない。また,現時点では消費者による商品の比較が困難で あるため,保険商品の標準化・簡素化が進んでいるのか,それともそもそも 保険商品には多様化が適さないのかについてもさらなる検討がなされるべき だろう。

平成21年度生命保険に関する全国実態調査 によると,直近加入契約

(民保)の加入チャネルは, 生命保険会社の営業職員 68.1%, 通信販売 8.7%, 保険代理店の窓口や営業職員 6.4%, 勤め先や労働組合等を通 じて 3.0%, 郵便局の窓口や営業職員 2.9%, 銀行・証券会社を通し て 2.6%, 生命保険会社の窓口 1.9%となっている。

営業職員チャネルは,平成9年調査の88.5%から平成21年度の68.1%へと,

時系列的には減少の傾向にあるが,他チャネルと比して依然として大きな位 置を占めている。また,平成18年度の調査結果の66.3%から平成21年度の 68.1%へと,わずかではあるがポイントの上昇がみられる。次回24年度の結 果次第ではあるが,生保会社各社の営業職員に対する教育訓練や,給与制 度・評価体系の見直しの影響が現れてきたとも考えられる。実際に2008年度 末には,国内生保会社の営業職員数の合計が18年ぶりに増加し,離職者の減 少もみられた。ターンオーバー問題が改善傾向にある背景として,近年の不 況による転職の困難さも挙げられるが,顧客の満足度や安心感を高めるため にも,営業職員の離職を最小化する試みが引き続きなされる必要がある。

保険商品のわかりにくさを遠因として,現在,保険商品を選択する際には,

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保険商品それ自体の中身を吟味するのではなく,会社のイメージや,新聞,

テレビ,ラジオなどの広告,営業職員等の勧めやその人となりを決定要因と する消費者も少なくないと考えられる。テレビや新聞・雑誌などにおける宣 伝広告が連日,盛んになされているが,単なるイメージ戦略ではなく,消費 者の立場にたった,わかりやすさの追求や,現在の広告費が将来の収益性に 与える影響についても検討が必要と思われる。

現在のところ,保険商品の比較に関する情報で一般消費者が入手可能なも のはそれほど多くない。表面的な保険料の比較だけではなく,商品としてど のような相違があるのかを理解した上で,商品を選択することは,一般消費 者には困難といえる。したがって,複数の商品を第三者的な立場から検討し,

顧客のそれぞれのニーズにそった商品選択のアドバイスを提供するようなサ ービスの拡充が求められる。これは個社というよりも,業界や監督官庁,消 費者団体なども含めた対応となるだろう。

日本においては従来,金融商品やサービスに関する情報に金銭的価値を見 出すことは多くなかったが,金融商品の複雑化・多様化が進むなか,ファイ ナンシャルプランナーやブローカーに対する潜在的な需要は増していると考 えられる。また,金融教育の重要性も多く指摘されているが,金融広報中央 委員会の 家計の金融資産に関する世論調査(平成20年) によると,学校 における金融教育の役立ち度合いについて, ほとんど役立っていない 43.5%, 少しは役立っている 49.4%, 役立っている 6.8%という結果 であった。さらに,同調査によると,学校における金融教育の不足を補うた めの情報源(3つまでの複数回答)として, テレビ,新聞,関係書籍,イ ンターネットなどの情報媒体 を挙げた割合が59.7%と一番高く, 大学,

短期大学,専門学校などでの教育 とする割合は6.3%にすぎなかった。

何もしていない という回答も14.1%あり,今後の金融教育のあり方につ いても広く検討が必要となっている。

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4.むすびにかえて

2001年7月以降,第三分野への生損の相互参入が加速し,医療保険市場に おける競合が進んでいる。これにより,商品の多様化をはじめとする多くの メリットが消費者にもたらされると同時に,商品の複雑さに起因する選択と 商品内容の理解における難易度も増すことになった。

金融商品における自由化が進み,その利益を享受する者が増える一方で,

護送船団方式 の下で金融機関とともに手厚く保護されてきた一般消費者 にも自己責任・自助努力がより多く求めることになった。現在の日本は,金 融制度の成熟化への過渡期にあると考えられるが,その過程において金融業 界の様ざまな領域で問題が生じている。金融行政や社会福祉は,不可逆的に 自己責任・自助努力を要求する方向性にあるが,消費者の準備が整っている とは言い難い。望ましい消費者保護のあり方を検討するとともに,消費者の 成熟を促す枠組みとしての金融教育の充実をはかる時期である。

(筆者は拓殖大学商学部准教授)

(本稿は,財団法人かんぽ財団から助成を受け,完成したものである。)

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参照

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