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Academic year: 2021

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 前回(本誌165号)では、犬の咽頭気道閉塞症候群(以下、 PAOS)を提唱し、解剖的基礎と定義について述べた。今回 は、当院呼吸器科での自験例のなかから発症傾向について考 察する。

発症傾向の解析

 2009年1月∼2013年10月の犬の当院呼吸器科初診全例 (n=335)から、図1の手順で解析対象を選出した。まず、 病歴を考慮せず画像所見のみからPAOS症例と非PAOS症例 を識別し、次に診療記録から、各症例の犬種、性別、初診時 年齢、初診時体重、主訴、各種上気道徴候や咳の有無、動脈 血ガス分析値、最終診断、PAOSステージ分類、治療法、初 期治療効果までの期間、転帰の各項目について調査した。各 種上気道徴候や咳は問診、身体検査、血液検査および単純X 線検査所見に基づいた。診断名は既存病名をできるかぎり採 用したが、該当する病名がない場合、「構造的咽頭閉塞」と した。主要な主訴、上気道徴候および診断名の定義について は表1にまとめた。

上気道閉塞性疾患 ⑯

咽頭気道閉塞症候群 2 ー発症傾向ー

城下幸仁(相模が丘動物病院 呼吸器科)

呼吸器科初診(犬のみ、2009年1月∼2013年10月)全例(n = 335) 短頭犬種 (n = 60) を除外 頭部X線または透視ビデオデータ欠損症例 (n = 57) を除外(上気道症状がない肺救急疾患など) 咽頭内腫瘤状病変の症例(n = 4)を除外 解析対象 (n = 214) PAOS症例 (n = 89) 非PAOS症例 (n = 125) 基準を満たさない 基準を満たす 病歴を考慮せず、頭部X線所見にて 1)喉頭の降下(図2) 2)咽頭周囲軟部組織過剰(図3) 3)舌根の口咽頭内への後退(図4) 4)全周性軟口蓋過剰 のうち少なくとも2項目があてはまる 図1 PAOS症例選択の手順 喉頭降下なし 喉頭降下あり 図2 喉頭の降下の判定。甲状軟骨の前縁=甲状舌骨の甲状軟 骨との結合部(図中の破線)が第2∼3頸椎レベル以下にある

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図3 咽頭周囲軟部組織過剰の判定。頭部X線側面像 の吸気時の写真を使用する。Aは「なし」。Bは、喉頭 降下がある場合の判定基準であり、第3頸椎の椎体の 下縁アーチ部分の頂点部(○)から第3頸椎棘突起面 までの長さをd1とし、同じく○から咽頭背側壁の表面 のもっとも咽頭腔内に突出した部分までの距離をd2と し、「d2>d1X1.5」を「あり」とする。また、喉頭降 下がない場合は、Cの写真のとおり、咽頭背側壁が咽 頭気道に入り込んでいる状態のときを「あり」とする A:なし B:あり(喉頭降下がある場合)d2>d1x1.5 C:あり(喉頭降下がない場合) 図4  舌 根 の 口 咽 頭 へ の 後 退 の 判 定。 上は正 常。舌根が口咽頭腔を埋 め(○)、さらに軟口蓋を 挙上させている状態(↑) を、「舌根の後退あり」 とする 舌根の後退なし 舌根の後退あり 図5 気管支軟化症の画 像所見。胸部X線側面像 にて気管分岐部以降の主 気管支が呼気時に虚脱す る 吸気 呼気

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表1 主要な主訴、上気道徴候や咳、診断名の定義 徴候 慢性発咳 咳症状が2カ月以上、ほぼ連日みられる 呼吸困難 呼吸数増加(>40回/分)や努力性呼吸あり 睡眠時無呼吸 睡眠時無呼吸発作(苦しそうにいびきをかきながら呼吸が止まり虚脱すること)がみられる いびき Stertor 睡眠時にいびきがあったり、覚醒時に口を閉じズーズー、ブーブー言う ストライダー 開口しガーガー言う 発作性失神、興奮後失神 興奮時にストライダーに続発して失神転倒するが、すぐに意識は回復する gagging retching 飲水後にほぼ確実にむせる、ゲーゲー言うが吐かない 急性/亜急性発咳 咳症状持続期間が2週間以内(急性)∼2カ月以内(亜急性) 症状 いびき 高調(スースー)から低調(ズースー)のいびきを含む スターター 口を閉じズーズーとかズッと言う ストライダー 口を開けガーガー言う 睡眠呼吸障害 夜間に何度も寝場所を変える/睡眠時呼吸不整/睡眠時無呼吸あり/毎日明らかに寝起きが悪い/診察時傾 眠/飼い主が最近犬のいびきが大きくなってきたと言う。夜間咳が続くため睡眠できない場合は、睡眠呼吸 障害に含まない 咽頭炎 問診にて摂食障害/ gagging / CRP増加の急性発症あり、または主訴が咽頭炎 動的頸部気管虚脱 透視およびX線検査(吸気、呼気)にて頸部気管径に差あり 持続性パンティング 受診時終始パンティング続く/高気温でないが、すぐに開口呼吸しようとし閉口に抵抗する/吸気時に合わ せ開口する 咽頭液の喀出 ストライダーに引き続き、白色粘稠液を喀出する 持続性痰産生咳 乾いた咳が持続し、喀痰を出す仕草をして終わる。一度に数分∼数十分続くことがある 乾性発咳 のどに何か引っかかったような咳が数回のみ続く/喀痰を出す仕草のない咳が続く 陰圧性肺水腫 浅速呼吸や持続性パンティングあり+CXRにてび漫性間質影+低酸素血症+酸素療法が必要 誤嚥性肺炎歴 急性発症、夜間発症、浅速呼吸、限局性肺浸潤影、CRP増加/急性発症の肺炎および1∼2週間での回復 熱中症歴あり 問診にて夏期に元気・食欲消失/パンティングが止まらない、受診時高体温(40℃以上)または夏期受診で 持続性パンティングや虚脱 肥満 BCS4/5以上 診断名 構造的咽頭閉塞 上気道閉塞症状に対しほかに該当する診断名がない場合 気管虚脱 X線側面像にて動的または静的に気管のある部位が扁平化する状態 慢性気管支炎 慢性発咳を示し、画像上気管虚脱も気管支軟化症も示さない状態 急性/遷延性気管支炎 急性/亜急性発咳を示し、気管支鏡検査にて起炎菌を検出 慢性鼻炎 鼻鏡検査にてリンパ形質細胞性鼻炎または慢性特発性鼻炎と診断した場合 気管支軟化症 透視または胸部X線検査にて呼気時に主気管支以下が虚脱する状態(図5)

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構造的咽頭閉塞の頭部X線所見分類(図6)

 PAOS症例では、喉頭の降下、咽頭周囲軟部組織過剰、舌 根の口咽頭への後退は大半の症例にみられたが、全周性軟口 蓋過剰は全体の1/4にすぎなかった。

犬種

 図7に解析対象全214例(ピンクとブルー)に対するPAOS 症例(ピンク)の各犬種の頻度を示した。ポメラニアンは総 数に対しPAOS症例が多く、PAOSに罹りやすい犬種であるこ とがわかった。同様に、チワワ、シー・ズー、ヨークシャー・ テリアがほかの犬種に比べPAOSに罹りやすいことが示され た。一方、ミニチュア・ダックスフンドは総数が多いにもか かわらずPAOS症例が少なく、PAOSに罹りにくいことが判明 した。

性別、年齢、体重

 雌49例、雄40例で明らかな性差はみられなかった。発症 図7 犬種発症傾向。解析対象総数に対しポメラニアン、チワワ、シー・ズー、ヨークシャー・テリアはPAOSの発症数の割合が多く、逆 にミニチュア・ダックスフンドは総数に対しPAOS発症は少なかった 非 PAOS PAOS 0 10 20 30 40 ビション・フリーゼ フラッドコーテッド・レトリーバー 秋田犬 アメリカン・コッカー・スパニエル スピッツ アイリッシュ・セッター ワイマラナー ミニチュア・シュナウザー ボーダー・コリー キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル ラブラドール・レトリーバー ミニチュア・ダックスフンド ジャック・ラッセル・テリア シェットランド・シープドッグ トイ・プードル マルチーズ パピヨン 雑種 ビーグル ゴールデン・レトリーバー ウェルシュ・コーギー・ペンブローク ヨークシャー・テリア シー・ズー チワワ ポメラニアン 図6 頭部X線検査所見分類。喉頭の降下、咽頭周囲軟部組織の過剰および舌根の口咽頭への後退は70∼85%のPAOS症例でみられたが、 全周性軟口蓋過剰は25%に満たなかった 68.5% 85.4% 76.4% 23.6% 咽頭周囲軟部組織過剰 舌根の口咽頭への後退 喉頭の降下 全周性軟口蓋過剰

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年齢中央値は9歳齢(四分位範囲7∼12歳齢)であった。 初診時体重は、平均5.0±4.1kg(平均値±SD)であった。

主訴(図8)

 89例のうち2つの徴候を示したものが13例あった。その なかでは、慢性発咳がもっとも多く(31.4%、32/102)、ス トライダーがそれに次ぎ(21.6%)、いびき/Stertor(10.8%)、 睡眠時無呼吸(9.8%)、呼吸困難(8.8%)などがその次に 多かった。

各種上気道徴候や咳(図9)

 全体の65.2%で肥満を示した。いびきと持続性パンティ ングがそれぞれ59.6%と58.4%の症例で認められた。スター ター、興奮時ストライダー、動的頸部気管虚脱、乾咳、およ び持続性痰産生性咳もそれぞれ全体の40%でみられた。

最終診断(図10)

 75例で単一の疾患名が診断され、13例で2つの疾患名、 1例で3疾患名が診断された。もっとも頻繁に診断された疾 患は気管虚脱であった。気管支軟化症や慢性気管支炎など慢 性発咳を起こす疾患がそれに次いだ。上気道徴候に対し、既 存の疾患名を診断できず構造的咽頭閉塞を診断せざるを得な かったのは、PAOSと診断された89例中23例(26%)であった。

PAOSステージ分類および選択された治療法

  ス テ ー ジ Ⅱ が も っ と も 多 く、 全 体 の 約 半 数 を 占 め た (図11)。ステージⅠは全体の約1/4、ステージⅢaとⅢbは それぞれ12.4%、10.1%であった。ⅢaとⅢbの現象が同時 に起きた症例が1例あり、Ⅲa+bと表現した(1.1%)。各ス テージにおいて実施された治療法の一覧を図12に示した。 ステージⅠとⅡでは減量が主体であり、Ⅲaでは初期にミル ナシプラン投与を開始し、最終的に永久気管切開を実施した 症例が3例あった。Ⅲbではまず冷温ICUで管理し、呼吸症 状安定後に減量を行う例が多かった。  次号では、ステージごとの動脈血ガス分析値や治療転帰、 個別的な症例経過などを示す。 相模が丘動物病院 呼吸器科 www.sagamigaoka-ac.com  当院は呼吸器科のみの専門診療を行っています。呼吸 器疾患症例紹介を受付けております。まずは、お電話く ださい(TEL:046-256-4351)。  また、「基礎から学ぶ犬猫の呼吸器セミナー」を開催 しております。当院ホームページより参加予約を受付け ています。呼吸器の臨床を基礎から学び直したいという 方にお勧めです。 図8 主訴。慢性発咳とストライダーがもっとも多かった 慢性発咳 ストライダー いびき Stertor 睡眠時無呼吸 呼吸困難 急性 / 亜急性発咳 興奮時チアノーゼ 発作的失神 興奮後失神 食欲低下 / 廃絶 逆くしゃみ gagging retching 0 10 20 30 40 (%)

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59.6% 37.1% 38.2% いびき スターター 興奮時ストライダー 睡眠呼吸障害 44.9% 11.2% 39.3% 10.1% 咽頭炎 動的頸部気管虚脱 興奮後失神 持続性パンティング 58.4% 19.1% 7.9% 15.7% gagging retching 咽頭液の喀出 陰圧性肺水腫 熱中症 19.1% 42.7% 43.8% 20.2% 乾咳 持続性痰産生咳 鼻汁とくしゃみ 肥満 65.2% 図9 PAOS症例(n = 89)で認められた各種上気道徴候や咳。濃いグリーンは各種徴候が認められた比率、中間色部分は不明を意味する。肥 満は全体の65.2%で認められた。いびきと持続性パンティングは半数以上の症例でみられた

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図11 PAOSステージ分類。ステージⅡの症例が もっとも多かったが、ステージⅢaおよびⅢbの重症 例も全体の25% (21/89例)を占めた Ⅲa+b 1.1% Ⅲb 10.1% Ⅲa 12.4% Ⅱ 52.8% Ⅰ 23.6% 図10 最終診断の分布。気管虚脱がもっとも多かった。PAOS89例中23例(26%)で 既存の疾患名を診断できず、構造的咽頭閉塞と診断せざるを得なかった 気管虚脱 構造的咽頭閉塞 気管支軟化症 慢性気管支炎 慢性鼻炎 間質性肺疾患 急性 / 遷延性気管支炎 喉頭虚脱 誤嚥性肺炎 慢性咽喉頭炎 急性咽頭炎 てんかん様発作 咽頭麻痺 軟口蓋過長症 咽頭蓋の後傾 好酸球性肺炎 心拡大 0 10 20 30 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 25 20 15 10 5 0 酸素加冷温 気管内ステント留置 一時的気管切開 ステロイド投与 抗菌剤投与 無処置 気管支拡張剤投与 ICU 在宅酸素療法 上気道開存整復術 ミルナシプラン投与 ネブライザー療法 永久気管切開術 減量 n=11 n=9 n=47 n=21 図12 各ステージにおいて実施された治療内容。初期および後期治療内容を含む。ステージⅠ とⅡでは減量が主体であり、Ⅲaでは初期にミルナシプラン投与を開始し、最終的に永久気管切 開を実施した症例が3例あった。Ⅲbではまず酸素加冷温ICUで管理し、呼吸症状安定後に減 量を行う例が多かった。Ⅲa+bは1例あったが、酸素加冷温ICUとミルナシプラン投与で初期 治療にて安定後、永久気管切開術を行った n=1 Ⅲa Ⅲb Ⅱ Ⅰ Ⅲa+b (%)

参照

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