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Jpn J Psychosom Med 57:44-50, 2017 特集 : 心身医学の臨床における発達障害特性の理解 思春期青年期の自閉症スペクトラム 岡本百合 * / 三宅典恵 / 永澤一恵 抄録 : 精神科 心療内科の臨床場面では, 背景に自閉症スペクトラム (ASD) をもつ成人例が多いと

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はじめに

 1981 年に Wing1)が Asperger の自閉的精神病 質に修正を加え,社会性,コミュニケーション, 想像力の 3 つの領域での障害といった視点 (Wing の 3 つ組)からアスペルガー症候群とい う概念を提唱して以来,アスペルガー症候群が 注目されることとなり,臨床場面でもアスペル ガー症候群を含む広汎性発達障害の診断が増加 してきた.最近では,疾患か否かというカテゴ リー的なものではなく,正常から重症に至るま で連続的に移行する,自閉症スペクトラム (autism spectrum disorder:ASD)といった概念 でとらえられている.精神科・心療内科の臨床 場面では,背景に ASD をもつ成人例が多いとい われている.成人の ASD の有病率は 2007 年の 英国の調査で初めて約 1%であると報告され た2)が,多くは未診断で,合併症(二次障害)も 未治療のままであることがわかった.  特に知的障害のない高機能 ASD 者は,診断が 遅れ,それまでにさまざまな傷つきを経て不適 応に至っている例が多いと思われる.筆者が勤 務する大学保健管理センターでも,メンタルヘ ルス問題を抱えて来談する学生の中に,厳密な 診断における ASD はさほど多くはない.多くは 閾下 ASD 学生たちである.今回は,広い意味で ASD特性をもつ若者の臨床像と支援について 概観したい.

思春期青年期心性との関連

 思春期青年期は,身体の変化の受容,性的エ ネルギーの適度のコントロール,アイデンティ ティの確立など多くの発達課題を抱える時期で ある.若者の多くは,葛藤を伴う変化に関して, 仲間と共有することで不安に対処していく.し かし,ASD 者は,仲間関係をもつことが苦手 で,仲間との共有や不安の処理をしにくくな Jpn J Psychosom Med 57:44-50, 2017広島大学保健管理センター(連絡先:岡本百合, 〒739‒8514 広島県東広島市鏡山 1‒7‒1) 特集:心身医学の臨床における発達障害特性の理解

思春期青年期の自閉症スペクトラム

岡本百合

/三宅典恵/永澤一恵

抄録: 精神科・心療内科の臨床場面では,背景に自閉症スペクトラム(ASD)をもつ成人例が多 いといわれている.特に知的障害のない高機能 ASD 者は,診断が遅れ,それまでにさまざまな 傷つきを経て不適応に至っている例が多いと思われる.われわれは,ASD 特性をもつ思春期青 年期の若者の臨床像と支援について論じた.受診した 42 例について,過去の心身症症状につい て検討したところ,幼少期に心身症症状を呈し,思春期青年期に気分障害,不安障害,摂食障害 などに変化していく例が多かった.また,青年期の適応良好例に前思春期・思春期前期に治療を 受けていた者が多かった.心身症症状として表れる幼少期または前思春期・思春期前期に何ら かの治療や支援があると,その後の適応が良好となる可能性が示唆された.また,摂食障害と ASDは共通点も多い.症例の紹介とともに,関連性について論じた. Key words: 自閉症スペクトラム,思春期,心身症症状,摂食障害

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る.衝動性が高い者は,性的エネルギーのコン トロールが困難となりやすい.身体の発達に情 緒が伴わないこともある.  また,思春期の発達課題でもあるアイデン ティティ獲得の面でも困難がある.思春期に なって自分を意識するようになると,他者との 違いがみえるようになる.そのとき急に“自分” を意識し,とまどうことも多い.アイデンティ ティの混乱から,時には自己を好きなアニメの キャラクターに投影する.仲間集団に入りにく く孤立すると,より万能的なキャラクターにの めり込みやすいともいわれている.そういった ある意味自己愛的な世界に入らない場合は,孤 独感を強め,ひきこもることもある.  内山ら3)は,アスペルガー症候群における思 春期の症状の変容について報告しており,それ によると思春期は身体的変化,他者の心への出 会い,自己が異質であることの認識,受験や勉 強の重圧など,さまざまな心理的負担が生じや すい時期であり,抑うつ,不安性障害,強迫症 状の悪化など多様な精神科的症状が出現すると 述べている.われわれが大学生を対象とした報 告4)~6)でも,思春期に変化が起こった群では, 自己が異質であることの認識をもつようになっ て抑うつ的になる,または対人緊張が高まり, 不安が生じるといった例が多かった.  また,思春期は自己の容姿が自己評価と結び つきやすい.ASD 者は特に視覚的にとらえやす い外見にこだわる.もともと自己評価が低い者 はなおさらこだわりやすい.女性でやせること にこだわり,摂食障害が発症しやすいのもこの 時期である.

二次障害について

 齋藤7)によると,成人期に問題となる発達障 害とは,発達障害そのものの深刻化ではなく, 二次障害としての併存精神障害の合併と深刻化 によるものである.二次障害については,Tan-tam8)をはじめ,多くの報告でうつ病が最も多い といわれており,特に年齢が高くなるにつれて 多くなると報告されている.われわれが報告し た大学生の調査4)~6)でも,二次障害は気分障害 が最も多く,次いで不安障害であった.大学と いう自由な環境は,時には彼らにとって保護的 な枠組みが少なくなり,安心感をおびやかす状 況にもなりうる.それに加えて,何らかの挫折 体験(他者との関係破綻,レポート提出や研究 室適応の問題,就職活動の失敗など)を契機に 抑うつを呈することも多いことが推測できる.  青年期以降に初めて治療や支援を必要とする 発達障害の人は,幼少期にはまだ発達障害がそ こまで注目されていなかったがゆえに,これま で支援を受けずに多くの困難を抱えてきたこと が推察される.Tantam ら9)によると,ネガティ ブな社会からの孤立体験,特にいじめ体験に遭 遇することが多い.それが成人以降の感情面に も影響を与え,気分障害や不安障害などの二次 的障害の発生と大きく関係する.杉山ら10)は, 診断が遅れた成人期の発達障害は,二次障害も 強く,被害念慮,社会的孤立,ひきこもり,非 社会的傾向,時として攻撃的で反社会的姿勢な どを抱えるものも少なくなく,対応には大きな エネルギーを必要とすると述べている.二次障 害の複雑化を防ぐためにも,早期の介入が重要 である.

幼少期からの心身症症状の変遷

 われわれは幼少期からの心身医学的症状に注 目し,二次障害を抱えて受診した青年期 ASD 例 について幼少期からの症状の変遷を探ること で,早期の介入,支援の可能性を検討した6) 2005~2013 年までに受診した,発達障害が疑わ れる青年期症例 73 例(男性 47 例,女性 26 例) のうち,幼少時からの経時的な情報が入手でき た 42 例(男性 26 例,女性 16 例)を対象とし て,幼少時からの問題の変遷,受診や治療,支 援の有無について検討した.平均年齢は 22.4± 4.2歳であった.統計学的検討にはχ2検定を用

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い,p<0.05 を有意とした.  Fig. 1に,幼少時期からの問題の変遷につい て示した.幼少期には心身症症状を呈している 例が多く,26 例(59.5%)に認めた.幼少期の 心身症症状については,嘔気,嘔吐,食欲不振 などの胃腸症状,起立性調節障害,頭痛,喘息, アレルギー症状など多彩であった.子どもは, 心身が未分化であることや,環境の影響を受け やすいことなどから,心身症症状を出現しやす いと思われる.  幼少期の心身症症状は,22 例(幼少期心身症 症状出現例の 88%)において,そのまま前思春 期・思春期前期にも心身症症状が持続してい た.前思春期・思春期前期の心身症症状の内訳 については,過敏性腸症候群などの消化器系心 身症が 10 例(38.5%)と最も多く,次いで過呼 吸 症 候 群 な ど 5 例(19.2%), 摂 食 障 害 4 例 (15.3%)であった.  青年期への変化についてFig. 2に示す.青年 期まで心身症症状が持続していた者は 4 例 (16%)であり,抑うつ症状,摂食障害,精神病 症状,不安症状に変化していた.過敏性腸症候 群 10 例のうち,4 例はそのまま症状が持続して おり,あとの 6 例は抑うつ症状,不安症状,摂 食障害に変化していた.過呼吸症候群や起立性 調節障害は抑うつ症状,不安症状に変化してい た.摂食障害は全例が摂食障害のまま持続して いた.その他多彩な身体症状を呈した例は抑う つ症状に変化している例が多かった.  ここで心身症に関連が深いといわれているア レキシサイミアについて考えてみたい.Sifneos が 1972 年に心身症を呈しやすい性格特性とし て,アレキシサイミア(失感情症)を提唱した. アレキシサイミアは,自分の内的な感情や葛藤 への気づきが少なく,内省が苦手といった特徴 がある.対人関係においても,共感的なコミュ Fig. 1 問題,症状の変遷 幼少期 前思春期・思春期前期 青年期 衝動行為(Imp) (1例) 心身症症状(PSD) (26例) 摂食障害(ED) (0例) 強迫症状(OCD) (2例) 抑うつ症状(Dep) (0例) 精神病症状(Psy) (0例) 不安症状(Anx) (5例) Imp (2例) PSD (22例) ED (4例) OCD (4例) Dep (0例) Psy (0例) Anx (7例) No (3例) Imp (1例) PSD (4例) ED (6例) OCD (3例) Dep (19例) Psy (3例) Anx (6例)Anx (6例) Fig. 2 心身医学的症状の変遷 過敏性腸症候群 10例 過敏性腸症候群 4例 抑うつ症状 3例 不安症状 2例 摂食障害 1例 過呼吸症候群 5例 不安症状 抑うつ症状 2例3例 起立性調節障害 2例 抑うつ症状 1例不安症状 1例 摂食障害 4例 摂食障害 4例 その他 5例 抑うつ症状 4例精神病症状 1例 前思春期・思春期前期 青年期

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ニケーションが困難であるともいわれており, ASDとの共通点がある.ASD では,独特の身体 感覚の過敏性がある一方で,身体認知に鈍感な 面があり,心身症症状をより呈しやすい可能性 がある.  幼少期に認められた心身症症状の変遷をた どっていくと,小児期の多彩な身体症状から, 思春期には具体的な症状に変化(器官選択),青 年期になると抑うつや不安症状に変化してい た.ストレス耐性の低さや情緒処理の未熟さか ら,小児期や思春期前期は身体症状として表れ ていたものが,思春期後期や青年期になって, 徐々に感情面に表出されていく症例が多いので はないかと思われた.阿部11)も,成人期にうつ 病を発症した広汎性発達障害の既往歴として, 消化性潰瘍などの心身症を挙げている.  一方,摂食障害は前思春期・思春期前期から そのまま持続している.山下12)は,広汎性発達 障害と摂食障害の類似性について論じており, 集団からの疎外感や自己評価の不安定さを代償 するものとして摂食障害の発症要因となりうる ことを述べている.摂食障害そのものが慢性化 しやすいことに加え,自己評価を補うものとし て症状選択された場合,難治化する可能性が高 いと思われた.

摂食障害と ASD

 1981 年に Wing1)がアスペルガー症候群とい う概念を提唱したときすでに,摂食障害との関 連性についても論じていた.ASD と摂食障害の 併存率については,Huke ら13)がこれまでの報 告をレビューし,摂食障害に ASD が合併する率 は平均して 22.9%であると報告した.特に anorexia nervosa(AN)との関連がいわれてお り,強迫性,固執,認知的柔軟性の乏しさ,対 人関係の困難さなど多くの共通点がある.ま た,社会脳に関連する領域(扁桃体,前帯状回 など)の神経基盤の異常も共通している点が多 い.  ASD の男女比については,Mills ら14)は 3.3: 1と報告している.しかしながら,Mandy ら15) Bargielaら16)は女性のほうが衝動性や多動,行 為障害などの外向きの問題が少なく,抑うつや 摂食障害といった内向きの問題が多いために未 診断や誤診例が多いと述べている.ASD 女性は ある程度のソーシャルスキルを身につけてお り,行動上の問題が少ないがために支援が遅れ る可能性があり,思春期青年期になって摂食障 害として発症する例も多いことが推測される. 摂食障害は治療困難例が多いが,その中に背景 に ASD 特性をもっている例も多いのではない かと思われ,治療にあたる際,生育歴を丁寧に 聞いていく必要がある.  一方で,AN の病相期(特に低体重期)は身 体的な影響(脳萎縮も含めて)も大きく,極端 な強迫性やこだわり,認知的柔軟性の乏しさが より際だってみえることもある.そのため, ASD特性を横断的にのみ拾い上げて診断する ことは危険である.次に,見分けにくい症例を 例示する. 1. 症例提示  症例は小さい頃から手のかからないよい子で あった.友だちは多いほうではないが,特に問 題はなく,クラスでは優等生であった.高校 1 年生の冬休みに風邪をひいて食欲が低下し体重 が 2 kg 減少した.食べないと頭がさえて勉強が できることがわかり,水分もひかえるように なった.体重が 10 kg 減少し,養護教諭の勧め で受診となった.診察場面では,「食べないと勉 強がはかどるので都合がいい.一日に何十回も 体重を量っている」とのことであった.母親か らの情報では,食事量や時間に強いこだわりが あり,一度言い出したらひかない,超頑固であ るとのことであった.入院治療の可能性につい て話しても特に強い抵抗はなかった.しかし, 体重減少が著明となって,いざ入院の段階にな ると「そんなことは聞いていない」,「そんなは

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ずはない」と激しく抵抗した.  やっと入院になったが,「だまされて入院に なった.早く退院したい」と言う.少しでも体 重が増えるとパニックになって泣き叫ぶ.あれ これ他患に話しかけ,トラブルになりかけるこ ともしばしばであった.時間や行動の決まりご とがあり,検査で呼び出されると不満を言う. 食事を捨てる行動もみられるが,誰が見てもわ かるような捨て方であった.しかし指摘される と「誰かが自分のせいにしている」と泣き叫ん で訴える.しかし直後にはけろっとして他患と 楽しそうに話をする場面もみられた.主治医は 行動療法のプロセスを図示し,契約事項や規 則,目標なども具体的に記載して渡したとこ ろ,順調に改善を始めた.しかし,予想どおり の回復がみられないときは混乱しパニックに なった. 2. 症例の考察  この症例をどのようにとらえるだろうか?  おそらく現在の状態だけでは,ある医師は「明 らかに ASD だ」と考えるかもしれないし,別の 医師は「AN の典型的な症状だ」と考えるかも しれない.もっと過去にさかのぼると「ボー ダーラインパーソナリティではないか」と考え る医師もいたであろう.おそらく独特のこだわ り,柔軟性の乏しさ,強迫性,状況への対応困 難など共通点が多いゆえであろう.また簡単な 生育歴だけでは,「手のかからないよい子」,「友 人は少ないが問題はない」は,いわゆる定型発 達ではあるが過剰適応の子どもなのか,ある程 度社会性スキルを身につけた ASD なのかはわ からない.  本症例は,体重の回復と症状の軽減ととも に,心理的葛藤を深い言葉で述べるようにな り,また気の利いた冗談を言うようになった. 結果的には,ASD の診断はつかなかったが,後 から振り返っても,病相期の状態は ASD と考え ても違和感のない状態であったと思われる.  ASD の特性についても,青木17)は,決して固 定しているものではなく,時・所・人によって 現れ方が異なるものではないかと述べている. 置かれた環境や状況によってその特性は変化す るし,併存症の病態や経過によっても異なって くる.そのためワンポイントで判断するのは危 険である.回復に伴い,柔軟性や他者への気遣 いなどがみられるようになるのか,回復後も ASD特性がみられるのかでやっと判断がつく 場合もある.しかしながら回復そのものが難し い例や,慢性・遷延化している例では,長い病 歴の中で社会性が失われていることも多く,丁 寧な生育歴の聴取が欠かせないと思われる.  水田18)は広汎性発達障害(PDD)と摂食障害 の併存について論じている.治療にあたるに は,両者のモデルを取り入れたより包括的な治 療姿勢が求められており,PDD(ASD)に慣れ 親しんだ治療者にとっては神経生物学的問題と 一見無関係にみえる“心的葛藤”に少し思いを はせること,摂食障害の心的葛藤モデルに親和 性の高い治療者にとっては,心的葛藤とは一見 相容れないようにみえる“神経生物学的問題” を少し意識することについて述べている.

早期支援のために

 ASD をもつ子どもは身体感覚の特異性と,周 囲との不適応などのストレス反応として心身症 症状を呈しやすいことがうかがわれる.適切な 対応がなされずにいると,心身症症状が変遷し 多彩になっていくこと,青年期になると抑うつ や不安といった感情面での問題が生じることな ど,より問題が複雑化していく可能性がある. ASDがあり問題行動が出現した子どもは,支援 のルートにのりやすいが,表面上は適応(時に は過剰適応)している場合はサインが見逃され やすい.身体症状が出現すると小児科への受 診,学校では保健室での対応が第一の窓口にな る.  子どもが機能性の身体的不調をもつとき,心

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身相関をまず疑うべきである.年齢が低いほ ど,ストレスを認知したり,感情を言語化する ことは困難であるため,周囲がストレス状況を 把握し環境調整を行うことと,子どもたちの安 心感を保証することが重要である.早期の適切 な支援による,青年期以降の不適応の予防を期 待したい.  前述したわれわれの報告で,前思春期・思春 期における何らかの治療の有無と現在の適応状 況について検討した結果をTable 1に示す.前 思春期・思春期前期の心身症症状を呈した 26 例のうち,前思春期・思春期に何らかの治療を 受けた 11 例中 7 例(63.6%)は学生生活に適応 していたが,治療経験のない 15 例ではわずか 4 例(26.7%)しか学生生活に適応できていなかっ た.症例数が少ないため,統計的有意差は認め られなかった(p=0.059)が,治療経験がある ほうに,適応良好例が多かった.小・中学校時 代に心身症症状を呈した生徒への介入が,その 後の不適応の予防につながるのではないかと思 われた.養護教諭や学校医が最初の窓口になる ことも多い.生徒が示す身体症状について,心 身相関の視点からストレスや環境との関連を考 慮したアプローチが重要であると思われた.  長尾19)は,児童期に始まる精神医学的問題の 成人期へのキャリーオーバーについて,臨床的 観点から,発達障害に関しては乳幼児期から課 題がある場合には,成人期に二次障害をキャ リーオーバーしないための方策を考える必要が あると論じている.過剰適応させず,過大な期 待をせず,その子どもなりの人生設計を想定し た教育的,社会的介入を見つけ提供できるよう にすることが重要であると述べている.  田中20)は,成長による変化について論じてお り,現実との折り合いをつけることの困難に直 面したとき,幼児期や学童期の幾多の失敗体験 に彩られた生活経験によって自己イメージが損 なわれていることを意味しているのではないか と述べている.幼少期の心身医学的症状などの サインを見逃さず,治療や支援を行い,自己イ メージの修復を図ることが,二次障害を防ぐた めに重要である.  本稿に関して申告すべき COI はなし. 文献

1) Wing L:Asperger’s syndrome:A clinical account. Psychol Med 11:115‒129, 1981 2) Brugha T, McManus S, Bankart J, et

al:Epidemi-ology of autism spectrum disorders in adults in the community in England. Arch Gen Psychiatry 

68:459‒465, 2011 3) 内山登紀夫,江場加奈子:アスペルガー症候 群:思春期における症状の変容.精神科治療 学 19:1085‒1092,2004 4) 三宅典恵,岡本百合,黒崎充勇,他:大学メン タルヘルスにおける発達障害について(1)―来 所動機や二次的障害などの背景について―. 総合保健科学 27:9‒14,2011 5) 岡本百合,三宅典恵,黒崎充勇,他:大学メン タルヘルスにおける発達障害について(2)―幼 少期からの問題の変遷とレジリエンスの視点 からみた支援―.総合保健科学 27:15‒22, 2011 6) 岡本百合,三宅典恵,神人 蘭,他:青年期発 達障害における心身医学的症状の変遷につい て.総合保健科学 31:1‒6,2015 7) 齋藤万比古:発達障害の成人期について.心 身医 50:277‒284,2010

8) Tantam D:Aspreger’s syndrome. J Child Psychol

Psychiatry 29:245‒255, 1988

9) Tantam D, Sorhi G:Recognition and treatment of Asperger syndrome in the community. Br Med

Bull 89:41‒62, 2009 10) 杉山登志郎,河邉眞千子:高機能広汎性発達 障害青年の適応を決める要因.精神科治療学  19:1093‒1100,2004 11) 阿部隆明:従来の精神疾患との関連.青木省 三,村上伸治(編):成人期の広汎性発達障害. 中山書店,pp104‒112,2011 12) 山下 洋:従来の精神疾患との関連.青木省 三,村上伸治(編):成人期の広汎性発達障害. Table 1  前思春期・思春期における治療・ 支援の有無と現在の適応状況との 関連 治療・支援 あり なし 適応良好 7例 4例 不適応(不登校等) 4例 11例

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中山書店,pp124‒132,2011

13) Huke V, Turk J, Saeidi S, et al:Autism spectrum disorders in eating disorder populations:A sys-tematic review. Eur Eat Disord Rev 21:345‒ 351, 2013

14) Mills R, Kenyon S:Autism in pink:Prevalence study of females with autism in four participating countries.(http://autismpink.net/)

15) Mandy W, Chilvers R, Chowdhury U, et al:Sex differences in autism spectrum disorder:Evi-dence from a large sample of children and adoles-cents. J Autism Dev Disord 42:1305‒1313, 2012

16) Bargiela S, Steward R, Mandy W:The experi-ence of late‒diagnosed women with autism

spec-trum conditions:An investigation of the female autism phenotype. J Autism Dev Disord 46: 3281‒3294, 2016 17) 青木省三:成人期臨床における広汎性発達障 害を考えるにあたって.臨床精神医学 37: 1511‒1514,2008 18) 水 田 一 郎: 広 汎 性 発 達 障 害 と 摂 食 障 害 の comorbidity.児童青年期精神医学とその近接 領域 52:162‒177,2011 19) 長尾圭造:成人精神医学からみた児童精神医 学の役割.精神神経学雑誌 116:602‒609, 2014 20) 田中 哲:PDD 症状の成長による変化.精神 神経学雑誌 113:1123‒1129,2011 Abstract

Autism Spectrum Disorder in Adolescence

Yuri Okamoto*  Yoshie Miyake  Ichie NagasawaHealth Service Center, Hiroshima University

(Mailing Address:Yuri Okamoto, 1‒7‒1 Kagamiyama, Higashihiroshima‒shi, Hiroshima 739‒8514, Japan)   Many young patients who consult a psychiatrist on a psychosomatic physician are said to have Autism Spectrum Disorder(ASD). Particularly the adolescents with normal intelligence need a proper diagnosis. They have gone through many hardships, and became maladaptive. We discussed clinical features of the adolescents with ASD and the way to support them. We investigated the presence and change of past psychosomatic symptoms in 42 patients with developmental disorder. Many patients presented psychosomatic symptoms in childhood, and the symptoms changed into depressive symptom, anxiety symptom, eating disorder, and so on. Many cases treated in the past showed good adaptation in their youth. It may be possible to prevent secondary psychiatric symptoms in their youth when we find psychosomatic symptoms of the childhood and their early intervention. In addition, there are many similar points in eating disorder and ASD. We presented a case and discussed the relationship between eating disorder and ASD.

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