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自閉症児における他者へ向けた情動表出に関する研究 〜プレイ場面を通しての検討〜 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)自閉症児における他者に向けた情動表出に関する研究 ∼ プレイ場 面 を通 しての検 討 ∼ キーワード:自閉症児, 情動表出, 他者, 注視 人間共生システム専攻 心理臨床コース 松本 朋子 【問題と目的】 近年、自閉症の社会性の問題について様々な研究がなさ. 【方法】 1.対象児 就学前の自閉症児 A 児、B 児、C 児、D 児。. れ、自閉症児における社会性の問題の特徴として、自閉症 児の自らの情動表出と、他者の情動理解が損なわれている こと(Lord,1997)が報告された。 自閉症児の情動表出に関して、彼らの他者に向けた情動. Table.1対象児の生活年齢と発達検査結果 B児 ( 男児). C児 ( 女児). D児 ( 男児). 生活年齢* 1:09. 対象児. 4:08. 4:01. 5:04. 発達検査** KIDS TypeT. 遠城寺式( 4歳8ヶ月時点)遠城寺式( 4歳1ヶ月時点)遠城寺式( 5歳5ヶ月時点). 表出が量的に少ないとする(Snow,1987)指摘や、自閉症 児の他者に向けた情動表出が平板な感じで、ポジティブな. A児 ( 男児). 運動  1: 8. 移動運動  3: 0∼3: 4 移動運動  3: 4∼3: 8 移動運動  4: 8∼. 操作  1: 0. 手の運動  2: 6∼2: 9 手の運動  2: 6∼2: 9 手の運動  2: 3∼2: 6. 理解  0: 9. 基本的習慣 2: 0∼2: 3 基本的習慣 2: 3∼2: 6 基本的習慣 4: 8∼. ものかネガティブなものかわかりにくく、その為、他者が. 表出  0: 8. 対人関係  2: 0∼2: 3 対人関係  1: 4∼1: 6 対人関係  3: 0∼3: 4. 自閉症児の表情を読み取る際に困難を生じる. 概念  1: 5. 発語 . 対子ども 1: 1. 言語理解  1: 0∼1: 2 言語理解  1: 6∼1: 9 言語理解  1: 6∼1: 9. (Yirmiya,Kasari,Sigman, &Mundy,1989)という指摘が. 0: 5∼0: 6 発語 . 2: 0∼2: 3. 対成人  1: 0 しつけ  1: 5. ある。しかし、これらは実験的に統制された場面における 検討であり、実生活に近い自然な流れの中での検討が必要. 1: 0∼1: 2 発語 . 食事  1: 3 発語. 発声. 発声. であろう。そこで今回はプレイ場面を取り上げ、より自然. 発声 単語 *セッション1の時点での年齢 **セッション1の時点での発達検査. な相互交渉場面の中での検討を行う。 また、Groffman(1998)らは、アイコンタクトを取り上げ、. 2.手続き Fig.1 に示す。. 視線の一致が社会的情動の発達に重要で、自閉症のように アイコンタクトが難しい人にとって、注視のあり方を適切 に指導していくことが必要であると述べたが、自閉症児の. 対象児と担当 Th とのプレイ場面の VTR 録画*. 情動表出とアイコンタクトとの関連について詳細な検討は なされていない。 そこで本研究では4つの事例を通して、以下の3つのこ. ・ 録画されたプレイ場面の中から子どもの表情が映っている 5分間を抽出. 逐行動録の作成. とを検討することを目的とする。 ① 自閉症児が他者に向ける情動表出は量的に変化する ものなのか、また彼らの情動表出のあり方に変化が あるのかについて、縦断的にプレイ場面を分析する。 ② 自閉症児の情動表出と注視との関連。 ③ 自閉症児の情動表出と他者の関わり方との関連。 以上3つの視点で自閉症児の情動表出について検討する ことを目的とし、自閉症児の他者に向けた情動表出が生起 するまでの一考察を行う。また、他者の関わり方の検討を 行うことで、自閉症児の情動表出を促すような発達援助に ついて検討する。. 筆者と大学院生1名で、ビデオ評定**(平均一致率=91.5%) *インテーク後からの 10 セッションを対象 **分析指標 ○Th の自閉症児に対する関わり行動について ・身体接触を伴うような直接的関わり ・身体接触を伴わないような間接的関わり ・声かけ ○Th が関わった時の自閉症児の注視方向と表情 ・注視方向―Th・その他・Th の提示物 ・注視時の表情―肯定・否定・不明確 ◆ 5 分間のプレイ場面について Th がどのような関わりをしたか、 その時の自閉症児の注視方向と情動表出を5秒毎にカウントしていく。 Fig.1 手続きの流れ.

(2) 3.Th の各関わり方における A 児の注視と情動表出. 【結果】. Th が A 児に対して関わった各関わり方における A 児の A、B、C 児は、セッションの経過の中で、注視対象や注 視数、情動表出、関わり方における情動表出に類似の変化 が見られたが、D 児はそれとは異なる変化を示した。よっ. Th への注視数を示した。 (回数) 30 身体接触を伴わない. て、特徴的なものとして A 児と D 児の結果について以下. 25. に示す。. 20. 身体接触 声かけ. 15 10. Ⅰ A児 1.注視対象と注視数の推移. 5. Th が A 児と関わっている時に、A 児が何に対して注意. 0 1. を向けたかセッション毎に示した。. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10 (セッション). Fig.2- 3 Thの各関わり方における      A児のThへの注視数. (回) 60. Th その他 Thの提示物. 50 40. 身体接触を伴う直接的な関わり方において、A 児の Th に対する注視数に増加が見られた。身体接触を伴わない間 接的な関わり方や声かけのみの関わり方において、A 児の. 30. 注視数に変化はみられなかった。. 20 50 (回). 10 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. Fig.2- 1 A児の注視対象と注視数. 10 (セッション). 関与数 表出数. 40 30. セッション初期の頃は、Th に対してではない、その他. 20. の方向への注視が多かったが、Th への注視が増えていく. 10. につれ、 その他の方向に注視を向ける回数が減少を示した。. 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. Fig.2- 4 身体接触を伴う関わり数と情動表出数(A児). 2.Th を注視した時の情動表出の推移 Th を注視した時の A 児の情動表出について示した。. 10 (セッション). Fig.2-4 は、Th が身体接触を伴う関わり方を行った総数 とそれに対する A 児の Th に向けた情動表出数についてま. (回数) 20. とめたものである。Fig.2-4 より、全セッションを通して. 肯定 否定 不明確. 15. Th は A 児に身体接触を伴う直接的な関わりを多く行い、 間接的な関わり方は少なかったことが示された。このよう な身体接触を伴う直接的な関わり方に対して、A 児はセッ. 10. ション6まで Th に情動表出をほとんど示さなかったが、 セッション7を機に Th に対して情動を表出するようにな. 5. ったことが示された。 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. Fig.2- 2 Thを注視した時の情動表出(A児). 9. 10 (セッション). セッション6まで Th に対して不明確な表情が増えるが、 セッション7を機に肯定的な情動表出は増加を示すように なり、不明確な表情が減少した。.

(3) Ⅱ D児 1.注視対象と注視数の推移. はじめ、Th の声かけにおける注視が増加するが、セッ ション4から身体接触を伴う直接的な関わりにおいて注視. (回) 70. Th その他 Thの提示物. 60 50. が増加を示した。その後は、直接的な関わり方においても 間接的な関わり方においても注視数に同様の変化がみられ た。. 40 (回) 50. 30. 関与数. 20. 表出数. 40. 10 0. 30 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9 10 (セッション). Fig.3- 1 D児の注視対象と注視数. 20. D 児ははじめ、その他への注視が多いが、セッション4. 10. まで Th への注視が増加し、それに伴いその他への注視が 減少した。その後は変化が一定し、注視対象と注視数につ. 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10 (セッション). Fig.3- 4 身体接触を伴う関わり数と情動表出数(D児). いて大きな変化はみられなかった。. また、Fig.3-4 より Th は全セッションを通して身体接触 2.Th を注視した時の情動表出の推移. を伴う直接的な関わり方を多く行うが、それに対しD児の Th への情動表出に変化は見られなかった。. (回数) 15. 肯定 否定 不明確. 【考察】. 10. 1.注視対象の推移について. 5. A、B、C 児は、はじめ Th 以外のその他の方向への注 視が多かったのがセッションの経過の中で、Th に向け. 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. Fig.3- 2 Thを注視した時の情動表出(D児). 10 (セッション). D 児は、はじめ Th に対して不明確な表情が多いが、セ ッション4を機に肯定的な情動表出が増加を示した。その 後も Th に向けて肯定的な情動表出を多く示し、不明確な 表情に変化がみられなくなった。. た注視が増加し、 その他に注視を向けることが減少した。 このことから A、B、C 児の注視が他者に向かうように なることが示唆された。D 児の Th への注視数は大きく 増加しなかったが、少しずつ増加を示しており、変化の 幅は小さいものの、D 児も Th への注視数が増えていく ことが示された。Table1 の発達検査の結果から、A児の. 3.Th の各関わり方におけるD児の注視と情動表出. 対人関係は1歳台、発語も1歳相当であったのに対し、 D 児の対人関係は3歳台、発語は2歳台であることが分 かる。このような発達レベルの違いから、D 児の注視数. 身体接触を伴わない 身体接触 声かけ. (回数). 8 7. に大きな変化が見られなかった可能性がある。 D 児は Th に対して言葉で自分の要求を伝えることができ、Th を. 6. 注視しなくとも言葉で意思伝達していたと考えられるが、. 5 4. A 児らの言語レベルは喃語程度であり、Th を注視して. 3. Th に自分の要求を気づいてもらっていた可能性が考え. 2. られる。. 1 0 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. Fig.3- 3 Thの各関わり方における     D児のThへの注視数. 8. 9. 10 (セッション).

(4) 2.他者に向けた情動表出の推移について. 覚醒」が位置付けられていた。これは本研究において身. A、B、C、D児ともにセッションの初期のころは Th. 体接触を嫌がるセッション初期の頃から身体接触を伴う. に対して不明確な表情が多く、Yirmiya ら(1989)が示. からだ遊びが楽しいものになる過程を表すものと思われ. した、自閉症児の情動表出が平板な感じで、ポジティブ. る。身体接触を伴う同じ遊びを繰り返しする中で、彼ら. なものかネガティブなものか分かりにくいという特徴に. はその遊びに随伴した快の情動を喚起しやすくなるので. 当てはまる。しかしセッションの経過の中で肯定的な情. はないかと思われる。また、人に触られることの感覚知. 動表出が増えた(Fig.2-2,Fig.3-2)ことから、自閉症児. 覚の異常が快の情動を随伴した遊びを通して軽減されて. の情動表出は、乏しいまま変わらないものではなく、は. いくなかで、自分の身体の感覚が覚醒し、自他の区別が. じめは量的にも少なく不明確なものであるが、肯定的、. できるようになるのではないかと思われる。山上は彼ら. 否定的といった他者の分かる形に変わっていく可能性が. の「身体性」に焦点を当てた心理臨床的アプローチは、. あることが示唆された。. 彼らへの心理的アプローチの重要な柱の一つであると述. このように自閉症児が自分の情動を他者に向けて相手. べたが、本研究においても身体接触を伴う関わり方にお. のわかる形で表出していくことで、他者は彼らの内面が. いて、彼らの情動表出の増加が見られ、彼らの身体に働. 推測しやすくなり、コミュニケーション成立の手がかり. きかけるアプローチの重要性について示唆された。. となるだろう。 5.日常生活について 3.情動表出と注視との関連. 全ての対象児においてセッションの中での変化に伴い、. Dawson(1991)が示した自閉症児が注意の機能に障害. 日常生活の中でも変化がみられた。Th への情動表出の. を持ち、表情や話し言葉といった社会的刺激に注意を向. 増加に伴い、日常生活において他者に向けて、声や表情. けることが難しいという特徴は、Th の関わりに対して. を使って情動表出をするようになったことが示された。. 注意を向けることが少なかったA、B、C児のセッショ. また、母親との身体接触を嫌がらなくなり、落ちついて. ン初期のころに見られた。しかし、Th への注視が増加. きたといった対人関係での変化がみられた。このことか. するにつれてその他を見ることが減少し(Fig.2-1) 、Th. ら子どもの変化が療育場面に限ったものではなく、日常. に向けた注視を多く行うようになった。このような Th. 生活に般化していくものではないかということが示唆さ. への注視の増加を示す中で、彼らの情動表出ははじめ不. れた。. 明確な表情であったのが肯定的な情動表出が増えていっ た(Fig.3-1) 。このように Th への注視数の増加と肯定. 6.今後の課題. 的な情動表出の増加が見られたことから、A、B、C児. 本研究において4人の自閉症児の事例を通して縦断. において、他者への注視と情動表出に関連があるのでは. 的に検討した。しかし、セッションの経過の中で、D児. ないかと思われる。. がほかの3人とは異なる変化を示していたことから、子. しかし、D児は、Th に向けた注視に大きな変化が見. どもによって発達の仕方が異なることが考えられる。こ. られなかったが、Th に向けた肯定的な情動表出に増加. のような発達の個人差が何に基因するのかについて、明. が見られた。セッションの経過において、D 児の発語や. らかにしていく必要があり、今後の検討課題として残さ. Th への自発的関わりの増加が見られたが、A 児らの増. れる。また、今回は4人の事例を通しての検討であった. 加は大きなものではなかった。つまり D 児は Th を多く. ため、今後、事例数を増やし、さまざまなタイプの自閉. 注視せずとも、自発的な関わりや発語によって Th と関. 症児の情動表出について検討していく必要があるだろう。. わっていた可能性が考えられる。D 児は注視以外の行動 によって Th と相互交渉を行い、その中で D 児の情動表 出に増加が見られたことが考えられる。 4.情動表出と関わり方との関連 Th の身体接触を伴う直接的な関わりに対するA、 B、 C児の注視数が増加を示した(Fig.2-3) 。山上(1992) は、自閉症児の身体図式の発達過程モデルを示し、その 中で第1期に「感覚知覚の異常」 、第2期に「身体感覚の.

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