• 検索結果がありません。

超高速無線 LAN 規格 IEEE 802.11ac の概要とマルチユーザ MIMO の実 験的検証

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "超高速無線 LAN 規格 IEEE 802.11ac の概要とマルチユーザ MIMO の実 験的検証"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

超高速無線 LAN 規格 IEEE 802.11ac の概要とマルチユーザ MIMO の実 験的検証

浅井 裕介

a)

石原 浩一

村上 友規

工藤 理一

市川 武男

鷹取 泰司

溝口 匡人

Overview of Very High Throughput Wireless LAN Standard IEEE 802.11ac and Experimental Evaluation of Multiuser-MIMO Transmission

Yusuke ASAI

a)

, Koichi ISHIHARA

, Tomoki MURAKAMI

, Riichi KUDO

, Takeo ICHIKAWA

, Yasushi TAKATORI

, and Masato MIZOGUCHI

あらまし 現在,無線LAN標準規格を策定するIEEE 802.11 Working Groupのタスクグループ(TG)acに おいて,2014年の作業完了を目指して次期高速化規格であるIEEE 802.11acの策定が行われている.本論文 は,はじめにIEEE 802.11標準を構成する基礎技術の概説を行う.次に,TGacの標準化作業の状況を紹介す るとともに,最新ドラフト(Draft D6.0)で規定される追加規格について解説する.IEEE 802.11acは,最大

6.933Gbit/sの伝送速度を実現する高速化規定や後方互換性を保ちつつ伝送帯域と空間多重に対する高いスケー

ラビリティをもつ無線フレームフォーマットを規定している.加えて,システムスループットを拡大する下りリ ンク(DL)マルチユーザ(MU)MIMO技術が規定されている.更に,DL MU-MIMO技術について,リアルタ イム動作を行う伝送装置を用いた実伝搬環境における特性評価結果を紹介し,その有効性を示す.

キーワード 無線LAN,IEEE 802.11ac,OFDM,マルチユーザMIMO,フレーム集約

1.

ま え が き

近年,無線

LAN

機能はノートパソコンやスマート フォン,タブレット,テレビ,メディアサーバ,音楽 プレーヤといった多種多様な機器に内蔵されて,広く 普及している.全世界における無線

LAN

チップ出荷 数は

2016

年に約

30

億個に上り,年率約

20%

の成長 を見せるものと予測されており

[1]

,今後も無線

LAN

の普及は続くものと見られている.また,セルラシス テムにおいて急増するモバイル端末トラヒックを無線

LAN

システムに収容し負荷軽減を図るトラヒックオ フロード

[2]

に関する議論も盛んである.

無 線

LAN

の 標 準 規 格 を 策 定 す る 団 体 で あ る

IEEE 802.11 Working Group (WG) [3]

IEEE 802

委員会

(IEEE 802 LAN/MAN Standard Commit-

日本電信電話株式会社 NTT未来ねっと研究所,横須賀市 NTT Network Innovation Laboratories, NTT Corporation, 1–1 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan

a) E-mail: [email protected]

tee)

配下に属し,有線

LAN

標準

(IEEE 802.3) [4]

のケーブルレス化を実現することを目的として

1990

年に設立された.

1997

年に初期のベースライン規格

IEEE 802.11

(以降,

802.11

と略記する)標準を発行 し,その後これを拡張する追加規格が多数策定され進 化・発展を遂げている.特にマイクロ波帯

(2.4GHz

帯 及び

5GHz

)

を用いる高速化規格

802.11a/b/g/n

は ユーザの利便性向上に大きく寄与しており,無線

LAN

の発展の原動力となっている.

802.11

無線

LAN

は,簡易に利用可能である免許不 要帯での運用を前提とした技術仕様が規定されてい る.初期規格

802.11

は,無線媒体として

2.4GHz

帯 及び赤外線の利用を定義している.その後,

1997

年 に米国の

5GHz

帯が免許不要システム向けに開放され た

[5]

.以降多くの周波数帯が無線

LAN

向けに利用可 能となり,これに併せて追加規格が策定されている.

1

に,日本における無線

LAN

が利用可能な周波数 帯の沿革と

802.11

標準の伝送速度高速化規格の策定時 期との関係を示す.

802.11n

のドラフト版製品が普及

(2)

1 日本の無線LAN向け周波数の沿革

Fig. 1 Overview of frequency bands for IEEE 802.11 wireless LANs in Japan.

し始めた

2007

5

月に,

802.11WG

において

11n

の 後継となる高速化標準に関する議論を行う

Very High Throughput Study Group (VHT SG)

が設立された.

VHT SG

ではマイクロ波帯を用いてシステムスルー プット

1Gbit/s

以上を目標とする追加規格を策定する ことで合意形成され,

Task Group (TG) ac

が設立さ れた.その後,

TG ac

における議論を経て規格書のド ラフトが作成され,

2014

2

月の規格発行に向け作 業が行われている.

802.11ac

は,最大伝送速度の拡大及び複数の端末に 対する同時伝送を行う下りリンク

(DL)

マルチユーザ

(MU-)MIMO

技術を規定することでシステムスルー プット拡大を実現している.

802.11ac

標準の高速化機 能について概説されている文献は多数存在する

[7]

[9]

が,高速化規定だけではなく伝送効率改善,後方互 換性機能をサポートするための技術規定について詳細 な解説が行われている文献はほとんど存在しない.ま た,

DL MU-MIMO

技術の実環境におけるハードウェ アを用いた特性評価については,幾つか検討が行われ ているものの

[10]

[12]

,無線

LAN

システムへの適用 を想定した検討はほとんど行われていない.本論文は これらの課題を鑑み,

802.11ac

標準における技術規定 の詳細な解説を行うとともに,

DL MU-MIMO

技術

の実環境における評価結果を示し,その有効性を示す ことを目的とする.

本論文の構成は以下のとおりである.はじめに,

2.

で,

802.11ac

の技術を理解するために必要となる,既 存の

802.11

標準における基礎的な規定について,伝 送速度高速化を実現する

802.11a/b/g/n

を中心に解 説を行う.次に,

3.

802.11ac

標準の策定されるに 至った経緯及びこれまで議論された内容を紹介する.

802.11ac

において規定される高速化・高機能化技術 及びこれを実現するためのフレーム構成については,

4.

で詳細に解説する.

5.

において,

NTT

で開発した マルチユーザ

MIMO

リアルタイム実験装置を用いた 実伝搬環境における伝送特性実験結果を紹介し,無線

LAN

のシステムスループット拡大に効果的であるこ とを示す.最後に,

6.

において全体を総括する.

2. 802.11

無線

LAN

の基礎

2. 1 802

標準,

802.11

標準のプロトコルスタッ ク上の位置づけ

2

に,

OSI

参照モデル及び

TCP/IP

モデル

[13]

802

標準との関係を示す.

802

標準は,データリン ク層を上位の

LLC (Logical Link Control)

層と下部 の

MAC (Medium Access Control)

層とに細分化し,

(3)

これら及び

PHY (Physical)

層の合計

3

層の技術仕様 を規定している.

802.11

標準は,このうちの

PHY

層 及び

MAC

層を規定している.

2. 2 IEEE 802.11

標準の

PHY

2. 2. 1

スペクトル拡散技術を用いる

802.11b

初期の

802.11

規格は

2.4GHz

帯での運用を想定して いるため,同一周波数帯の他システム(

Bluetooth

機 器や電子レンジ,コードレス電話等)及び他ユーザが 利用する

802.11

機器との共存機能が必須である.そこ で,干渉信号耐性の高いスペクトル拡散が採用された.

その後策定された

2.4GHz

帯の高速化規格

802.11b

は,

直接スペクトル拡散

(DSSS: Direct Sequence Spread Spectrum)

を拡張した

CCK (Complementary Code Keying)

技術

[14]

を規定し,最大伝送速度を

11Mbit/s

に向上させた.

2 OSI参照モデル及びTCP/IPモデルと802/802.11 標準との関係

Fig. 2 Relation among OSI reference model, TCP/IP model and IEEE 802/802.11 Standard.

3 802.11aのフレームフォーマット Fig. 3 Frame format for 802.11a.

2. 2. 2 OFDM

技術を用いる

802.11a/g

802.11b

の策定と並行して,

5GHz

帯向けの新規格 となる

802.11a

の標準化作業が行われた.

5GHz

帯 は

2.4GHz

帯とは異なり他システムからの干渉を受 けないため,高速化技術として

OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplex)

技術

[15]

が採用され,

無線フレームごとの処理を可能とするフレームフォー マット(図

3

)が規定された

[16]

802.11a

標準の登場 により

OFDM

技術が

802.11

無線

LAN

高速化に有効 であることが示され,後に策定された

802.11g

におい ても

802.11a

と同様の無線フレームフォーマットが規 定された.

2. 2. 3 802.11n

の高速化技術

802.11n

は,

802.11a/g

の後継規格と位置付けられ,

ユーザの体感速度に近い指標となる

MAC SAP

MAC Service Access Point

.図

2

MAC

層と

LLC

層の 間のインタフェース)におけるスループットを当時主 流であった有線

LAN (100Base-T)

同等の

100Mbit/s

以上に高速化することを目標として,以下の高速化技 術が規定された

[17]

a.

伝送帯域拡大

伝 送 帯 域 幅 と し て ,

802.11a/g

2

倍 と な る

40MHz

チャネルを新たに規定した.これにより,

OFDM

シンボルあたりのデータサブキャリア本数 を従来の

48

本から

108

本に増加させ,伝送速度を

2.25

倍に拡大した.

b.

空間分割多重伝送

802.11a/g

OFDM

信号フォーマットを拡張し,

(4)

4 最大スループット・MAC効率の評価

Fig. 4 Evaluation criteria for maximum throughput and MAC efficiency.

最大

4

空間多重まで実現する空間分割多重

(SDM:

Space Division Multiplexing)

伝送

[18]

が規定さ れた.

c.

誤り訂正符号化率の増大

従来の畳み込み符号の符号化率

(R = 1 / 2, 2/3, 3/4)

に加えて新規に

R = 5 / 6

を規定し,

R = 3 / 4

と比較して伝送速度を

10/9

倍に拡大した.

d.

ショートガードインターバル

802.11a/g

の半分となる長さ

400ns

のショート ガードインターバル

(GI: Guard Interval)

を定義 し,伝搬環境に応じて無線フレームごとに選択可能 とした.シンボル時間を従来の

4us

から

3.6us

とす ることで,伝送速度を

10/9

倍に拡大した.

802.11a/g

の最大伝送速度

(54Mbit/s)

に対して上記

a.

d.

による伝送速度拡大技術の全てを適用すると,

802.11n

の規格上における

PHY

層の最大伝送速度は

600Mbit/s

と計算される.

54[Mbit/s] × 2.25 × 4 × (10/9) × (10/9)

= 600[Mbit / s] .

2. 3 IEEE 802.11

標準の

MAC

2. 3. 1 CSMA/CA

802.11

標準は,

MAC

層として,他システムからの干 渉や他ユーザとの共存を自律分散型制御により実現す るアクセス制御技術である,無線チャネルを複数基地局

(AP: Access Point)

及び端末

(STA: Station)

の間で時 間的に棲み分けて共用する

CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) [19]

を採 用した.

CSMA/CA

は,自律分散制御を用いながら 複数

STA

の同時送信による無線フレーム同士の衝突 を回避する手段として,各

STA

において無作為に送

5 PHY規格ごとのMAC SAPスループット及び MAC効率の比較

Fig. 5 MAC SAP throughput and MAC efficiency evaluation for 802.11a/b/g/n without frame aggregation.

信権獲得までの待ち時間を設定するランダムバックオ フ制御を導入している

[20]

2. 3. 2

隠 れ 端 末 問 題 を 解 決 す る

RTS/CTS

フ レーム

CSMA/CA

を用いる

802.11

無線

LAN

固有の問 題として,隠れ端末問題

[21]

が挙げられる.これは,

STA

同士が互いの無線信号を検出できない位置関係 にある場合に,ある

STA

が送信中に他の

STA

がこれ を認識できずに無線フレームを送信し,その結果衝突 が発生する現象である.この対策として,送信

STA

が送信権獲得後に

RTS (Request To Send)

フレーム を送信し,宛先

STA

はこれに

CTS (Clear To Send)

フレームで返信するシーケンスが規定されている.こ れにより,周囲の端末に無線チャネルの利用を予約し

(5)

6 802.11nで既定される二段階のフレーム集約 Fig. 6 Overview of frame aggregation for 802.11n.

た上でデータ送信を行うことができる.

2. 3. 3

フレーム集約による

MAC

効率改善

802.11n

規格による

PHY

層の伝送速度高速化に伴 い,無線区間のオーバヘッドによる伝送効率低下が課 題となっていた.

802.11a/b/g/n

PHY

層で規定さ れる最大伝送速度を用いた場合の理論上の最大スルー プット・

MAC

効率について,評価条件及び特性をそ れぞれ図

4

,図

5

に示す.

802.11n

MAC

効率が著 しく低下しているが,これは

PHY

層における伝送速 度高速化に伴いデータシンボルの送信時間が短縮化さ れた結果,シーケンス全体の所要時間に占めるオーバ ヘッドの割合が相対的に大きくなるためである.

802.11n

は,

MAC

効率を改善するために多数の

MSDU (MAC Service Data Unit

MAC SAP

にお けるデータ単位

)

を集約し単一の無線フレームとして 送信するフレーム集約

(Frame Aggregation)

を規定し

[22]

.図

6

にフレーム集約形態を示す.再送単位と なるデータ単位を生成する

MSDU

集約と,無線フレー ム全体のデータを生成する

MPDU (MAC Protocol Data Unit

.無線区間における再送単位となるデータ の集合

)

集約の

2

段階から構成される.

A-MPDU

を 受信した

STA

は,

MPDU

ごとの受信成功・失敗情報 を,

802.11e

に規定された複数

MPDU

に対する確認 応答情報を一括で格納する

BlockACK

フレーム

[23]

を用いて返信する.

802.11n

における

A-MPDU

の最 大サイズは

65,535octet

と規定されている.この最大 サイズと

PHY

層の最大伝送速度

(600Mbit/s)

を用 いると,

MAC

効率及び実効スループットはそれぞれ

81.0%

486Mbit/s

に改善される.

3. 802.11ac

規格策定の過程

本章は,

802.11ac

標準作成に向けた

802.11WG

(6)

部での議論について,その概要を紹介する.

3. 1 VHT SG

における議論

2007

5

月に,

802.11n

の後継となる高速化規格 策定議論を行う

VHT (Very High Throughput) SG

802.11WG

内に設立され,活動が開始された.その 後の議論の末,既存規格で用いられているマイクロ波 帯における高速化規格を策定する「

TGac (2008

11

月設立

)

」と,これまで

802.11

標準で利用されていな かったミリ波

(60GHz

)

を用いる新規規格を策定す る「

TGad (2009

1

月設立

)

」の二つの

TG

が形成 された.

TGac

で策定される標準化対象範囲を規定し た文書

“PAR + 5C (Project Authorization Request and 5 Criteria) [24]”

には,以下の要求条件が定義さ れた.

1 2.4GHz

帯を除く

6GHz

以下の周波数で運用され る無線

LAN

PHY/MAC

層追加規格を規定.

2

単 一 無 線 リ ン ク の

MAC SAP

ス ル ー プット

500Mbit/s

,複数無線リンクの合計

MAC SAP

スループット

1Gbit/s

以上の実現.

3 5GHz

の 免 許 不 要 帯 で 運 用 さ れ る 既 存 の

802.11a/n

準拠

STA

との後方互換性の確保.

2

において,スループット目標値を単一リンクと複数 リンクとの間で個別に定義している点が特徴である.

これは,複数無線リンクの合計スループットを増大さ せる技術として

DL MU-MIMO

技術の適用を想定し ていたためである.また,その有効性を示す論拠とし て

NTT

による実伝搬環境における試作装置を用いた 特性評価結果

[25]

(注1が用いられている.

3. 2 TGac

における議論

TGac

の初期の議論において,技術提案プロセス

[26]

が作成された.また,これに付随して,技術提案に必 要となる以下の文書が策定された.

a. Channel Models

文書

[27]

室内における

5GHz

帯の

MIMO

チャネルモデ ルを規定する文書である.

802.11n

で定義された

MIMO

チャネルモデル

[28]

を複数

STA

への同時伝 送に利用できるよう拡張している.室内における準 静的環境での伝搬路測定結果

[29]

を元に,ベル型

(bell-shape)

スペクトルで定義されるドップラース プレッドを

0.41Hz

に変更した

[30]

(注1:総務省委託研究「空間軸上周波数有効利用技術の研究開発( 1719)」による研究開発成果.

b. Usage Models

文書

[31]

802.11ac

準拠製品の適用が期待される利用モデル

6

種類に分類した(ディスプレイ映像の無線転送,映 像ストリーミング,大容量ファイル転送,無線バッ クホール,大ホール,工場の無線化).

c. Functional Requirements and Evaluation Methodology

文書

[32]

技術提案の特性評価の条件・評価シナリオを定め た文書である.評価シナリオは,

Usage Models

文 書の利用モデルの中から代表的なものとして,以下 の二つを規定している.

In-home entertainment

:家庭内における複数 の高品質映像ストリームを無線伝送するモデル

Enterprise

:フリーアドレス化されたオフィス 環境

各モデルに対して

AP/STA

の位置,データフロー 等のシステムレベル評価を行うためのパラメータ群 が規定されている.

上記

3

種の文書を策定しつつ,技術領域ごとに細分化し た

PHY

MAC

MU-MIMO

COEX (coexistence)

の合計四つの

ad-hoc

グループが形成された

(2009

11

)

.その後,各

ad-hoc

グループ内で要素技術の 提案・議論が行われ,順次技術仕様を取りまとめる

Specification Framework

文書

[33]

に追加し,これを 元にドラフト案が作成された

(2011

11

)

.以降,

現在に至るまで,電子投票によるドラフトの確認・修 正作業が実施されている.

4. IEEE 802.11ac

規格の概要

本章は,

TGac

の最新ドラフト

(D6.0) [34]

を元に,

802.11ac

に規定される技術仕様について解説する.

4. 1 PHY

層における規定

PHY

層 に お け る 伝 送 速 度 を 高 速 化 す る た め に ,

802.11ac

802.11n

の高速化技術を踏襲した上で,

そのパラメータを拡張している.また,既存規格との 後方互換性を維持しつつ,帯域幅・空間多重数及び

DL MU-MIMO

伝送といった幅広い伝送形態をスケーラ ブルにサポートすることを可能とする無線フレーム フォーマットを規定している点を特徴とする.

4. 1. 1

伝送速度高速化規定

a.

伝送帯域拡大

7

802.11a/n/ac

で規定される周波数チャネ ル配置を示す.従来の

40MHz

チャネル(

108

サブ キャリア)に加えて,新規に

80/160MHz

チャネル

(7)

7 802.11acで既定される周波数チャネル(日本の場合)

Fig. 7 Channelization for 802.11ac in Japan.

8 80+80MHzチャネルの配置例 Fig. 8 Example of 80+80 MHz Channel allocation.

234/468

サブキャリア)を規定している.

160MHz

チャネルの規定により,

40MHz

チャネルと比較して 最大伝送速度を

4.33

(=468/108)

に拡張してい る.加えて,互いに不連続な二つの

80MHz

チャネ ルを同時並行利用する

80+80MHz

チャネルを定義 している.これは,他ユーザのシステムや無線

LAN

よりも優先度の高いレーダシステムが存在するよう な,連続した

160MHz

帯域が確保できない場合にお いても,

160MHz

チャネル相当の伝送速度を実現す る伝送モードである(注2).図

8

80+80MHz

チャ ネルの配置例を示す.

b.

空間多重数拡大

最大

8

空間多重を規定し,

802.11n

(最大

4

空間 多重)に対して

2

倍の伝送速度拡大を実現している.

併せて,

MIMO

チャネルを推定するためのトレー ニング信号

(VHT-LTF)

も拡張している.

c.

変調多値数増加

既存の

BPSK

QPSK

16QAM

64QAM

(最 大

6bit/

サブキャリア)に加えて,新たに

256QAM

(最大

8bit/

サブキャリア)を規定し,最大伝送速度 を約

1.33 (=8/6)

倍に拡張している.

(注2802.11acにおける80+80MHz伝送は,MAC層に入力され る情報系列を二つの80MHzチャネルを使って並列伝送する形態であり,

3GPPのキャリアアグリゲーションのような周波数チャネルごとにセッ ションを張る方式とは異なる.

802.11n

(最大

600Mbit/s

)に対して上記

a.

c.

による 高速化規定(

8

空間多重,

160MHz

チャネル,

256QAM (R = 5 / 6)

)を全て適用すると,

PHY

層の最大伝送速 度は

6.933Gbit/s

となる(注3)

(600[Mbit / s] × (468 / 108) × 2 × (8 / 6) 6.9333[Gbit/s]).

4. 1. 2

無線フレームフォーマット

9

802.11a/n/ac

のフレームフォーマットの比 較を示す.

“L/Non-HT”

“HT”

“VHT”

の接頭辞は それぞれ

Legacy/Non-High Throughput (802.11a)

High Throughput (802.11n)

Very High Through- put (802.11ac)

を表す.

a. L-STF, L-LTF, L-SIG

L-STF/L-LTF/L-SIG

20MHz

幅ごとの送信信号 は,図

3

に示した

802.11a

STF/LTF/SIGNAL

と それぞれ同一のフォーマットである.図

10

80MHz

チャネル,

6

空間多重の場合の

VHT

フレームの構成 を示す.

HT/VHT

フレームにおいて

40MHz

以上の 広帯域チャネル,あるいは

2

本以上のアンテナを用 いて空間多重送信する場合は,

802.11a

L-STF/L- LTF/L-SIG

20MHz

ブロック単位で周波数軸及び 空間軸上で並列にコピーし拡張する.更に,各周波数・

空間ブロック毎固有のサブキャリア位相回転及び循環 シフト遅延

(CSD: Cyclic Shift Delay) [36]

を付加す る.これにより,帯域幅によらず任意の

20MHz

ブロッ クの信号を受信することで無線フレームの検出・同期 処理を行うことが可能となる.

また,

HT/VHT

フレームの

L-SIG

部は,

Non-HT STA

HT/VHT

フレームの時間長を正しく読み取 れるように,常に変調モードを

BPSK (R = 1 / 2)

に 設定し,後続の信号の時間長に相当するデータ長を ダミー情報として付加する「

spoofing

(注4)」と呼ばれ る操作を行う.その例を図

11

に示す.これにより,

Non-HT/HT STA

は,

VHT

フレームの時間長を正 確に把握し,

CSMA/CA

に基づいた送信権獲得動作

(注3:上記伝送速度が実現可能となるエリアを802.11acの減衰モデ [27], [28]により評価する.送信電力を17dBm=50mW,最低受 信感度を−39dBm (1空間多重/160MHz伝送/256QAM (R = 5/6) の場合の最低受信感度に対して8倍の受信電力が必要となる),送受信 アンテナ利得を2.15dBiと仮定した場合に距離換算すると約5m(伝搬 損失60.1dB)となる.

(注4L-SIG部のダミー情報でNon-HT/HT STAを「だます」操 作に相当するためこう呼ばれる.802.11nにおいても同様の規定が存在 する.

(8)

9 Non-HT/HT/VHTフレームの比較 Fig. 9 Comparison among Non-HT/HT/VHT frames.

10 VHTフレームの構成例 Fig. 10 Example of VHT frame structure.

11 VHTフレームにおけるspoofingの例 Fig. 11 Example of “spoofing” in VHT frame.

(9)

12 HT-SIG/VHT-SIG-Aの信号点配置及びauto-detectionフローチャート Fig. 12 Constellation points for HT-SIG/VHT-SIG symbols and auto-detection

flowchart.

を正しく行うことが可能となる.

b. VHT-SIG-A

VHT-SIG-A

20MHz

幅ごとの送信信号は,

L- SIG

と同一のサブキャリア配置,変調モード

(BPSK, R = 1 / 2)

をもつ.

L-SIG

1OFDM

シンボルである のに対して,

VHT-SIG-A

は含まれる情報ビット数が

L-SIG

の倍となるため,

2OFDM

シンボルで構成され る.

VHT-SIG-A

を受信した受信機は,

L-SIG

部と同 様に,

L-LTF

部で推定したチャネル推定情報を用いて 復調処理を行う.

VHT-SIG-A

部は以下の二つの役割 を担う.

1. auto-detection

機能

802.11

無線

LAN

CSMA/CA

をベースとしたラ ンダムアクセスである.そのため,後続部分の信号処理 を行う為に無線フレームの種別

(Non-HT/HT/VHT)

をヘッダ部分から高速に判定しなければならない.

HT/VHT

フレームは,

HT-SIG/VHT-SIG-A

を構成 する

2OFDM

シンボルのサブキャリア信号点配置を フレーム種別ごとにそれぞれ固有のパターンとしてい る(図

12

).この信号点配置を用いて,同図のフロー チャートに従い

auto-detection

と呼ばれる手法により 受信フレーム種別を判定する.

2. HT/VHT

フレームの受信処理に必要となる情 報の表示

上記

auto-detection

によりフレーム種別を判定し

た後,受信機は

VHT-SIG-A

部を復号し後続のデータ 部の復調に必要な情報フィールド一覧(表

1

参照)を 取得する.ここで,

SU (Single User)

は単一宛先局へ の「シングルユーザ伝送」,

MU (Multi User)

は複数 の宛先局に対する「

DL MU-MIMO

伝送」を示す.

VHT-SIG-A

に含まれる情報の中で特徴的である のは,「

Group ID(GID)

」フィールド及び「空間多重 数

/Partial AID (Association ID)

」フィールドであ る.

GID

フィールドは表

2

に示される

3

種類の伝送 形態を表示する.

GID

MAC

層で管理され,その詳 細については

4.2.3

にて説明する.

「空間多重数

/Partial AID

」フィールドは,

MU

伝 送の場合は最大

4

台の宛先

STA

ごとの空間多重数を 表示する

(3bit × 4

)

SU

伝送の場合は

3bit

で空間 多重数を表示するとともに,残り

9bit (Partial AID

フィールド

)

を用いて表

3

の情報が表示される.

受信機は

GID

及び

Partial AID

を参照することで,

後続のデータ部分を復調する必要性の有無を判定する ことができる.判定フローチャートを図

13

及び図

14

に示す.

Non-HT/HT

フレームを受信した場合,受信 機は少なくとも一つの

MPDU

を情報系列に復号し,

誤り確認を行った後に宛先アドレスを参照することで 自分宛か否かを判定していた.一方,

VHT

フレーム の判定は

VHT-SIG-A

部を参照することで行える.し たがって,自身宛でない無線フレームが送信されてい

(10)

1 VHT-SIG-Aの情報フィールド一覧(注5 Table 1 Information fields included in VHT-SIG-A.

ることを確認した

STA

は復調機の動作を停止するこ とで低消費電力化が図れる.

VHT SIG-A

に含まれる

DL MU-MIMO

伝送に関 するパラメータの制約条件は,以下のとおりである.

・同時送信

STA

数:

1

4

STA

あたりの空間多重数:

0

4

・同時送信

STA

の空間多重数の合計:

1

8

・全

STA

の無線フレームは同一の帯域幅をもつ

(注5VHT-SIG-A48ビットから構成される.本図に含まれてい ないビットとして,以下が存在する.

CRCCyclic Redundancy Check)ビット(VHT-SIG-A部の誤 り検出用.6bit

Reservedビット(将来的な拡張のための予約ビット.3bit)

Tailビット(図3SIGNAL部と同様,畳み込み符号化の終端処 理のために付加される.6bit

2 GIDと伝送形態の関係

Table 2 Relationship between GID and SU/MU transmission.

3 Partial AIDフィールドの表示内容 Table 3 Partial AID field information.

13 VHTフレームの受信信号処理要否判定フロー チャート(受信機がAPの場合)

Fig. 13 Flowchart for need of receiver signal process- ing in VHT frame (AP case).

・個別設定が可能なパラメータ:空間多重数,変調モー ド,データ長,チャネル符号化

SU

伝送と

MU

伝送の双方において,空間多重数の上 限値は

8

と規定されており,

DL MU-MIMO

伝送は 無線区間の最大伝送速度向上には寄与しない.した がって,

DL MU-MIMO

は複数

STA

への同時伝送に より

AP

がもつ空間多重リソースの活用機会を増やし

MAC

効率を高めるための技術と位置付けられる.

(注6AID: Association IDSTAAPに帰属する際にAPから 付与されるテンポラリの帰属番号.

(11)

14 VHTフレームの受信信号処理要否判定フローチャート(受信機がSTAの場合)

Fig. 14 Flowchart for need of receiver signal processing in VHT frame (STA case).

15 VHT-LTFの時間・空間軸における符号パターン行列A

Fig. 15 Sign pattern matrixAfor VHT-LTF.

c. VHT-STF

VHT-STF

は,

L-STF

と同様に受信機における利得 調整に用いられる.

VHT-SIG-A

までの部分と

VHT- STF

以降の部分とでサブキャリア本数や

CSD

量等の フォーマットが切り替わるため,

VHT-STF

部におい て再度利得調整が必要となる.

d. VHT-LTF

VHT-LTF

は,各サブキャリアが

BPSK

変調された

1OFDM

シンボル分のパターンを空間・時間

(OFDM

シンボル

)

で構成される二次元空間にマッピングする 形で定義される.マッピングは図

15

に示されるとお り二次元行列

A

として示され,空間多重数に応じて

(12)

16 Staticモードの動作例 Fig. 16 Example of static operation.

スケーラブルに定義されている.

e. VHT-SIG-B

VHT-SIG-B

には宛先

STA

ごとの無線フレームに対 する変調モード,データ長が表示される.

VHT-SIG-B

1OFDM

シンボルで送信できるデータ量は伝送帯 域幅に比例して増加するので,送信データを繰り返す ことで情報量の調整を行っている.

4. 2 802.11ac

規格の

MAC

層の特徴

802.11ac

は ,

MAC

層 の 主 要 規 定 と し て ,

A- MSDU/A-MPDU

の最大サイズ拡大,

RTS/CTS

フ レームの拡張による帯域幅通知機能,

DL MU-MIMO

伝送サポートを規定している.

4. 2. 1 A-MSDU/A-MPDU

の最大サイズ拡大

802.11n

に お け る

A-MPDU

の 最 大 サ イ ズ は

65,535octet

である.この制限を

802.11ac

に適用し,

2.3.3

と同様の条件で最大伝送速度

(6.933Gbit/s)

を 用いた場合,スループット及び

MAC

効率はそれぞれ

1.72Gbit/s

24.9%

に過ぎず,フレーム集約を用いな い

802.11n

と同様,伝送速度高速化の効果がスルー プットに反映されない課題が発生する.これを解決す るために,

802.11ac

MAC

効率改善のために以下の 拡張を規定している.

A-MSDU

最大サイズ:

3,839octet 11,454octet

A-MPDU

最大サイズ:

65,535octet 1,048,575octet

上記最大サイズを用いることで,最大スループット

5.85Gbit/s

MAC

効率

84.4%

を達成し,

PHY

層高 速化の効果をスループットに十分反映させることがで きる.

17 Dynamicモードの動作例 Fig. 17 Example of dynamic operation.

4. 2. 2 RTS/CTS

フレームを用いた帯域幅通知 機能

802.11ac

80/160MHz

チャネルを規定している が,

5GHz

帯において互いに重複しないチャネル数が それぞれ

4

2

と少ない.そのため,

802.11a/n

対応

AP/STA

のみが存在する場合と比較して,同一チャネ ル上に他ユーザが利用する

AP/STA

が存在する頻度 が高まり,隠れ端末問題によるスループット低下が深 刻化する懸念がある.そこで,

RTS/CTS

フレームを 用いた伝送帯域幅通知機能を規定した.

802.11ac

で 規 定 さ れ る

40MHz

幅 以 上 の 帯 域 で

RTS/CTS

フレームを送信する場合,図

3

に示された

20MHz

幅の

Non-HT

フレームを周波数軸上で送信帯 域全体にコピーして送信する.また,

802.11ac

準拠の

RTS

フレームであることを,送信元

MAC

アドレスの

Individual/Group Address

ビット

[37]

Group

(13)

18 GIDテーブルとメンバシップ情報の例 Fig. 18 Example of GID table and membership information.

ドレスに設定することで通知する(注7).加えて,

SER- VICE

フィールドの先頭

7bit

802.11a/n

では常に

0

に設定)に

RTS

フレームが送信される帯域幅を表 示する.宛先

STA

は,送信元の

Individual/Group Address

ビットが

Group

アドレスに設定されている 場合,

802.11ac STA

が送信した

RTS

フレームであ ると解釈し,上記

SERVICE

フィールド先頭

7bit

か ら伝送帯域幅を読み取る.そして,自身が観測した当 該帯域の利用状態に応じて,伝送帯域幅情報を含めた

CTS

フレームを,

idle

状態である帯域全体にコピーし 返信する.伝送帯域幅返信方法として,以下の

2

種類 のモードが規定されている.

Static

モード

: RTS

フレームで通知された帯域全体 が空き状態である場合に限り

CTS

フレームを返信 する簡易なモード.

Dynamic

モード

: RTS

フレームで通知された帯域 のうち全体あるいは一部の帯域が空き状態である 場合に,伝送帯域幅を

CTS

フレームの

SERVICE

フィールドを用いて通知するモード.

Static

モードと

Dynamic

モードの動作例をそれぞれ 図

16

,図

17

に示す.

Dynamic

モードは

Static

モー ドよりも細かな帯域幅制御が行えるため,周波数チャ ネルを有効利用することができる.

(注7RTSフレームが単一STAにより送信されることは,802.11 標準のプロトコル上自明であるため,送信元MACアドレスのIndi- vidual/Group Addressビットは事実上情報量をもたない.

4. 2. 3 DL MU-MIMO

伝送

802.11ac

は,伝搬状態や各

STA

の受信能力を参照 した上で無線フレームごとに

SU/MU

伝送を適応的に 切り替えられるように

PHY/MAC

層を拡張している.

a. Group ID

による

STA

呼び出し

4.1

の表

2

で説明したとおり,

802.11ac

DL MU- MIMO

伝送は,

VHT-SIG-A

GID

フィールドを用 いて無線フレームごとに宛先

STA

を呼び出す.

AP

GID

ごとに最大で

4

台登録される

STA

の一覧を

GID

テーブルとして管理するとともに,

GID

テーブルを

STA

ごとのメンバシップ情報に変換し,あらかじめ各

STA

に対して共有した上で

DL MU-MIMO

伝送を行 う.図

18

GID

テーブルとメンバシップ情報の例を 示す.

b. CSI

フィードバック

DL MU-MIMO

伝送を行う

AP

は送信ビームフォー ミングのウェイトを導出するために,自身と全ての宛 先

STA

との間のチャネル情報を必要とする.

802.11ac

は,

CSI (Channel State Information)

を閉ループ制 御で取得するためのフレームシーケンスを規定してい る.

AP

がデータ部分を含まない

VHT

フレームであ る

NDP (Null Data Packet)

を送信し,これを用い て各

STA

CSI

を推定し,規定の圧縮を行った上で ビット情報とし順次

AP

へフィードバックを行う.

c.

複数

QoS

クラスをもつ無線フレームの伝送機能

802.11

MAC

層は,

4

種類の

QoS

クラス(音声,

(14)

19 TXOP Sharing機能の動作例(MAC層)

Fig. 19 Example of TXOP sharing (MAC layer).

20 TXOP Sharing機能の動作例(PHY層)

Fig. 20 Example of TXOP sharing (PHY layer).

ビデオ,ベストエフォート,バックグラウンド)に基 づいた

MSDU

間の優先制御を規定している

[38]

.既 存の

802.11MAC

層は,一度のチャネルアクセス機 会

(TXOP: Transmission Opportunity)

において

1

種類の

QoS

クラス(

802.11

標準ではアクセスカテゴ リー

(AC)

と呼ばれる)のみ送信を行える.

802.11ac

MAC

層は,

DL MU-MIMO

伝送に限りこれを拡

張し,

TXOP

期間において送信権を獲得した

AC

以 外の

AC

をもつ

MSDU

について送信することを許容 する「

TXOP sharing

」を規定している.これにより,

AP

のもつ空間リソースを有効活用することができる

(図

19

,図

20

).

(15)

5. DL MU-MIMO

実験装置による実伝 搬環境評価結果

本 章 は ,

DL MU-MIMO

リ ア ル タ イ ム 伝 送 装 置

[39]

[41]

の構成及びその屋内実験による特性評価結 果を示す.これにより,

DL MU-MIMO

伝送が無線

LAN

のシステムシステムスループット改善に有効で あることを明らかにする.

5. 1 DL MU-MIMO

試作装置の構成

4

に,開発した

DL MU-MIMO

伝送装置の主要 諸元を示す.搬送波周波数は

4.85GHz

,伝送帯域幅 は

80MHz

を用いた.開発した伝送装置は

8

本のアン テナをもつ

1

台の

AP

と各々

1

本のアンテナをもつ

6

台の

STA

群により構成される.本伝送装置で用いら れるフレームシーケンスは

[40]

に示されている.初め に

AP

が下りリンクの

CSI

推定を行うためのサウン ディングフレームを送信する.各

STA

は,これを用 いて

AP

から自身へと向かう下りリンクの

CSI

を推定 し,リアルタイムで

AP

へフィードバックする.

AP

は,フィードバックされた

CSI

を用いてサブキャリア ごとにゼロフォーシング

(ZF)

ビームフォーミング重 みを計算し,下りリンク

MU-MIMO

伝送を行う.各

STA

は,データフレーム先頭のトレーニング信号を 用いてサブキャリアごとにチャネル推定を行い,受信 信号を復調・復号し送信データ系列を得る.本伝送装 置のビームフォーミングアルゴリズムは

ZF

であるた

4 DL MU-MIMO試作装置の諸元 Table 4 Experimental parameters for DL MU-MMO

testbed.

め,

CSI

が理想的に得られれば

STA

間の信号系列の 直交性が保たれる.したがって,各

STA

1

本の受 信アンテナによる

SISO (Single input single output)

伝送と同等の受信信号処理により送信データ系列を復 調・復号することができる.

5. 2

伝送実験の結果

21

に伝送実験の環境を示す.

AP

のアンテナ配 置は一直線上とし,隣接アンテナ間の間隔を

6cm (

1

波長

)

とした.

AP

及び

STA

の床からのアンテナ高 は,それぞれ

1.5m

及び

1.0m

とした.全

STA

に対し て同一のサブキャリア変調方式・チャネル符号化率を 用いた.

22

にサブキャリア変調方式をパラメータとした 平均総送信電力に対する

PHY

層での平均伝送速度の 評価結果を示す.隣接する

STA

間の距離を

2.0m

とし た.

QPSK

16QAM

64QAM

の各変調方式おいて,

それぞれ

4

10

17dBm

以上の平均送信電力を用い

21 伝送実験環境

Fig. 21 Indoor measurement environment.

22 平均総送信電力対平均伝送速度特性 Fig. 22 Average transmission rate as a function of

the total transmit power of DL MU-MIMO.

(16)

23 隣接STA間距離をパラメータとした伝送速度の CDF特性

Fig. 23 CDF of STA throughput with the distance between adjacent STAs as a parameter.

ることで平均伝送速度が最大化されることが分かる.

本結果より,

ZF

送信ビームフォーミングにより

STA

間の相互干渉をほとんど受けることなく多値変調によ る下りリンク

MU-MIMO

伝送が可能であり,全体で

970Mbit/s

(本試作装置のフレームシーケンスにおけ るオーバヘッドを加味したスループットで

525Mbit/s

) 超の伝送速度が得られることを明らかにした.

変調方式を

64QAM

とし,

STA

間隔をパラメータと したときの伝送速度の

CDF

特性を図

23

に示す.

STA

間距離を小さくすればするほど

STA

間のチャネルの 相関が高くなるため,これに付随して各

STA

に対す る送信信号間の直交性が崩れやすくなる.その結果,

平均伝送速度が低下することが観測される.

STA

間隔 を

0.03m

(約半波長)のとき,

CDF = 10%

における 伝送速度は

75Mbit/s

程度まで低下する.しかしなが ら,

STA

間隔を

0.09m

(約

1.5

波長)とした場合,最 大伝送速度からの劣化は小さくなり,

CDF = 10%

に おける伝送速度は

150Mbit/s

程度となる.更に

STA

間隔が広い場合

(0.5m

及び

2.0m)

にはほとんど特性 劣化は見られず,

90%

以上の確率で最大伝送速度であ る

160Mbit/s

を達成している.この結果から,

STA

同士が重なり合うレベルで近接する特殊な環境でない 限り,下りリンク

MU-MIMO

伝送が有効であること を確認した.

6.

む す び

高速無線

LAN

規格

802.11ac

について,既存規格に おける技術の概要,

802.11WG

における議論,

802.11ac

PHY/MAC

層における主要技術について解説を行っ た.

PHY

層は,最大伝送速度高速化を

802.11n

で規 定された空間多重数・伝送帯域幅を拡大することで実 現している.また,既存規格との後方互換性及び多種 多様な伝送モードをスケーラブルにサポートする無 線フレームフォーマットを規定している.

MAC

層は,

PHY

層の伝送速度高速化に併せたフレーム集約サイ ズの拡張,広帯域伝送を安定的に行う為の

RTS/CTS

フレームにおける帯域幅通知機能,システムスルー プットを拡大する

DL MU-MIMO

伝送における

GID

によるユーザ管理等を規定している.

更に,

DL MU-MIMO

伝送試作装置を用いた室内 伝搬環境における特性評価結果を紹介した.

ZF

送信 ビームフォーミングにより

STA

間の相互干渉をキャ ンセルすることで簡易な受信機構成であっても適切に 動作することを確認した.また,

STA

同士が極端に近 接しない限り,チャネル相関による影響は極めて小さ いことを明らかにし,

DL MU-MMO

技術が

802.11ac

におけるシステムスループット改善技術として有効で あることを示した.

謝辞 本論文を執筆するにあたり,有益な助言をい ただいた

NTT

アドバンステクノロジ株式会社第二営 業部門岡田一泰部門長に深謝します.

文 献

[1] “「802.11acの認定プログラムは6月リリース,Wi-Fi Al- lianceが都内で会見」” EE Times Japan,20134月,

http://eetimes.jp/ee/articles/1304/15/news056.html [2] K. Samdanis, T. Taleb, and S. Schmid, “Traffic of- fload enhancements for eUTRAN,” IEEE Commu- nications Surveys & Tutorials, vol.14, no.3, Third Quarter 2012.

[3] IEEE 802.11 Wireless Local Area Networks http://www.ieee802.org/11/

[4] IEEE 802.3 Ethernet working group http://www.ieee802.org/3/

[5] The FCC makes spectrum available for new unli- censed equipment; U-NII devices will facilitate Ac- cess to the National Information Infrastructure (ET Docket No.96-102), Jan. 1997. http://transition.fcc.

gov/Bureaus/Engineering Technology/

News Releases/1997/nret7002.txt

[6]「国内周波数分配の脚注(J165)」,総務省周波数割当計画.

http://www.tele.soumu.go.jp/resource/search/

share/pdf/kkokunai.pdf

[7] 浅井裕介,“無線LANをめぐる最近の標準化動向につい て,90回電波利用懇話会,一般社団法人電波産業会,

Nov. 2011. http://www.arib.or.jp/osirase/seminar/

no90konwakai.pdf

[8] デイブ・シュナイダー,“次世代無線LAN規格IEEE

(17)

802.11ac (前編),”日経コミュニケーション,no.1, pp.36–

41, 2013.

[9] 小松 繁,“第一人者が解説するテクノロジー最前線 次世 代高速無線LAN「IEEE802.11ac」,”日経SYSTEMS,

no.7, pp.68–73, 2013.

[10] D. Samardzija, H. Huang, R. Valenzuela, and T.

Sizer, “An experimental downlink multiuser MIMO system with distributed and coherently coordinated transmit antennas,” IEEE ICC 2007, June 2007.

[11] V. Jungnlcked, M. Schellmann, L. Thlele, T.

Wirth, T. Hausteln, O. Koch, W. Zirwas, and E.

Schulz, “Interference-aware scheduling in the mul- tiuser MIMO-OFDM downlink,” IEEE Commun.

Mag., vol.47, pp.56–65, June 2009.

[12] N. Jalden, S. Bergman, P. Zetterberg, B. Ottersten, and K. Werner, “Cross layer implementation of a multi-user MIMO test-bed,” IEEE WCNC 2010, April 2010.

[13] 竹下隆史,村山公保,荒井 透,苅田幸雄,マスタリング TCP/IP入門編 第5版,オーム社,2012.

[14] J. Mikulka and S. Hanus, “Complementary code key- ing implementation in the wireless networking,” 14th International Workshop on Systems, Signals and Im- age Processing, 2007 and 6th EURASIP Conference focused on Speech and Image Processing, Multimedia Communications and Services, June 2007.

[15] R. Van Nee and R. Prasad, “OFDM for wireless mul- timedia communications,” Artech House Publishers, 2000.

[16] T. Onizawa, M. Mizoguchi, M. Morikura, and T.

Tanaka, “A fast synchronization scheme of OFDM signals for high-rate wireless LAN,” IEICE Trans.

Commun., vol.E82-B, no.2, pp.455–463, Feb. 1999.

[17] 守 倉 正 博 監 修 ,“そ こ が 知 り た い 最 新 技 術 高 速 無 線 LAN802.11n入門,インプレスR&D,2007.

[18] A. van Zelst, R. van NEE, and G.A. Awater, “Space division multiplexing (SDM) for OFDM systems,”

IEEE VTC 2000 spring, May 2000.

[19] G. Bianch, “Performance analysis of the IEEE 802.11 distributed coordination function,” IEEE J. Sel. Ar- eas Commun., vol.18, no.3, pp.535–547, March 2000.

[20] 守倉正博,久保田周治監修,“改訂三版802.11高速無線 LAN教科書,インプレスR&D,2008.

[21] L. Kleinrick and F.A. Tobagi, “Packet switching in radio channels: Part II-the hidden terminal problem in carrier sense multiple access and busy tone solu- tion,” IEEE Trans. Commun., vol.COM-23, no.12, pp.1417–1433, Dec. 1975.

[22] D. Skordoulis, N. Qiang, H.-H. Chen, A.P. Stephens, C. Liu, and A. Jamalipour, “IEEE 802.11n MAC frame aggregation mechanisms for next-generation high-throughput WLANs,” IEEE Wireless Commun., vol.15, no.1, pp.40–47, Feb. 2008.

[23] G.R. Hiertz, L. Stibor, J. Habetha, E. Weiss, and S. Mangold, “Throughput and delay performance of

IEEE 802.lle wireless LAN with block acknowledg- ments,” 11th European Wireless Conference, 2005.

[24] E. Perahia, “VHT below 6 GHz PAR Plus 5C’s,”

doc.IEEE802.11-08/0807r4, March 2007.

[25] K. Nishimori, R. Kudo, Y. Takatori, A. Ohta, and K.

Tsunekawa, “Performance evaluation of 8x8 multi- user MIMO-OFDM testbed in an actual indoor envi- ronment,” IEEE PIMRC 2006, Sept. 2006.

[26] R. de Vegt, “802.11ac proposed selection procedure,”

doc.: IEEE802.11-09/0059r6, Sept. 2010.

[27] G. Breit, et al., “TGac channel model addendum,”

doc.: IEEE802.11-09/0308r12, March 2010.

[28] V. Erceg, et al., “TGn channel models,” doc.:

IEEE802.11-03/0940r4, May 2004.

[29] W. Yamada, K. Nishimori, and Y. Takatori, “Co- herence time measurement in NTT Lab.,” doc.:

IEEE802.11-09/0828r0, July 2009.

[30] 鷹取泰司,西森健太郎,“次世代高速無線アクセスシステ ムへの下りリンクマルチユーザMIMO技術の適用, 学論(B)vol.J93-B, no.9, pp.1127–1139, Sept. 2010.

[31] R. de Vegt, “802.11ac usage models document,” doc.:

IEEE802.11-09/0161r2, March 2009.

[32] P. Loc and M. Cheong, “TGac functional require- ments and evaluation methodology Rev. 16,” doc.:

IEEE802.11-09/0451r16, Jan. 2011.

[33] R. Stacey, “Specification framework for TGac,” doc.:

IEEE802.11-09/0992r21, Jan. 2011.

[34] IEEE P802.11acTM/D6.0, The 802.11 Working Group of the 802 Committee, July 2013.

[35]「小電力データ通信システムの無線設備の技術的条件」,平 19年総務省告示第48号,平成19131日官報 号外第18号.

[36] A. Dammann and S. Kaiser, “Standard conformable antenna diversity techniques for OFDM and its appli- cation to the DVB-T system,” IEEE Globecom 2001, pp.3100–3105, Nov. 2001.

[37] “Standard group MAC address: A tutorial guide,”

IEEE Standard Association. http://standards.ieee.

org/develop/regauth/tut/macgrp.pdf

[38] S. Mangold, S. Choi, G.R. Hiertz, O. Klein, and B.

Walke, “Ananysis of IEEE 802.11e for QoS support in wireless LANs,” IEEE Wireless Commun., vol.10, no.6, pp.40–50, Dec. 2003.

[39] 浅井裕介,鷹取泰司,石原浩一,姜 聞杰,市川武男,溝 口匡人,“次世代無線LAN向け1Gbit/s超リアルタイム 下りリンクMU-MIMO実験装置の開発,” 2010信学ソ大

(通信),B-5-113, Sept. 2010.

[40] 石原浩一,浅井裕介,工藤理一,市川武男,溝口匡人,“次 世代無線LANにおけるリアルタイム下りリンクマルチ ユーザMIMOの屋内実験結果,信学技報RCS2011-219, Nov. 2011.

[41] K. Ishihara, Y. Asai, R. Kudo, T. Ichikawa, Y.

Takatori, and M. Mizoguchi, “Development and ex- perimental validation of downlink multiuser MIMO- OFDM in gigabit wireless LAN systems,” J. Ad-

(18)

vances in Signal Processing, EURASIP, no.123, June 2013.

(平成25514日受付,88日再受付)

浅井 裕介 (正員)

9名大・工・電気系卒.平11同大大 学院工学研究科修士課程了.同年日本電信 電話(株)入社.以来,MIMO-OFDM ステムの信号処理技術を中心とした研究,

IEEE 802.11 TGn/TGac標準化活動等 に従事.平22 NTT未来ねっと研究所主 任研究員,現在に至る.平19〜21本会無線通信システム研究 会幹事補佐.平22〜IEEE 802.11TGac COEX ad-hoc共同 議長.平15年度本会学術奨励賞,平18,21本会通信ソサイ エティ活動功労賞.IEEE会員.

石原 浩一 (正員)

16東北大・工・通信工学科卒.平18 同大大学院工学研究科修士課程了.同年日 本電信電話(株)入社.以来,無線通信シ ステム及び光ファイバ通信におけるデジタ ル信号処理に関する研究開発に従事.博士 (工学).平21年度本会学術奨励賞,平23 年度無線通信システム研究会活動奨励賞.IEEE会員.

村上 友規 (正員)

18早大・理工・電気卒.平20同大大 学院修士課程修了.同年日本電信電話(株)

入社.現在,NTT未来ねっと研究所にお いてマルチユーザMIMOシステムの研究 開発に従事.平22本学会学術奨励賞.同 AP研若手奨励賞受賞.IEEE会員.

工藤 理一 (正員)

13東北大・理・宇宙地球物理学科卒.

15同大大学院理学研究科修士課程了.同 年日本電信電話(株)入社.以来,MIMO 送信信号処理に関する研究に従事.平24〜

25イギリスブリストル大客員研究員.平 18本会学術奨励賞,平22 IEEE AP-S Japan Chapter若手奨励賞,平23本会論文賞,など.博士

(情報学).IEEE会員.

市川 武男 (正員)

日本電信電話株式会社未来ねっと研究所 ワイヤレスシステムイノベーション研究部 主幹研究員.平5早大大学院理工学研究科 電子工学専攻修士課程修了.同年日本電信 電話株式会社入社.以来,PHSパケット データ通信システム,IEEE 802.11a無線 LANの研究開発に従事.現在,次世代高速無線LANの研究 開発を担当.平11本会学術奨励賞.IEEE会員.

鷹取 泰司 (正員:シニア会員)

5東北大・工・電気卒.平7同大大 学院情報科学研究科修士課程修了.同年日 本電信電話(株)入社.以来,空間信号処 理,高速通信システムの研究開発に従事.

16〜17デンマークオールボー大学客員

研究員.平成21〜22 IEEE 802.11 TGac COEX ad-hoc共同議長.平24 NTT未来ねっと研究所主幹 研究員,現在に至る.工博.平11年度本会学術奨励賞,平23 年度本会論文賞.IEEE会員.

溝口 匡人 (正員:シニア会員)

平元東京理科大・工・電気卒.平3 大大学院修士課程了.同年日本電信電話

(株)入社.以来,パーソナル通信装置,高 速無線LANシステムの研究開発に従事.

現在,NTT未来ねっと研究所ワイヤレス システムイノベーション研究部主幹研究員

(グループリーダ).平9年度本会学術奨励賞,平11,平23 度本会論文賞.平17年度業績賞,平20年度逓信協会前島賞.

IEEE会員.

図 1 日本の無線 LAN 向け周波数の沿革
図 3 802.11a のフレームフォーマット Fig. 3 Frame format for 802.11a.
図 4 最大スループット・MAC 効率の評価
図 6 802.11n で既定される二段階のフレーム集約 Fig. 6 Overview of frame aggregation for 802.11n.
+7

参照

関連したドキュメント

無線 MAN 用規格̶IEEE802.16  WG16 では,基幹ネットワークからエンドユーザまで のラストワンホップを無線接続するための規格を検討し

■結言  上述のように,伝送速度に関していうと,一般的な戸 建住宅や集合住宅では,IEEE802.11a あるいは 11g のほ

◎IEEE802.11ac仕様で、3×3MIMOの高速データ転送に対応

無線 LAN の規格は,IEEE(米国電気電子学会) で LAN 技術の標準化を策定している 802 委員会が定めてい

り,幅広い帯域に微弱な電波を流して高速通信を行うた め,Wi-Fi ベースの無線 LAN とは互換性がない.その ため仕様の標準化にも時間を要している. 2.3 WiMAX 2.3.1

25ps の 160Gb/s 光信号にとっては極めて過酷な伝送環境であるこ とが分かった。 3 フィールド伝送実験 3.1 160Gb/s 単一波長DPSK伝送

MIMO 伝送は同時に伝送を行う通信相手の数に よって,シングルユーザ MIMO ( single user MIMO : SU-MIMO )伝送とマルチユーザ MIMO ( multi-user MIMO : MU-MIMO

7.数値分析と予測(瀬戸大橋)  グラフのように、制度が導入された