超高速無線 LAN 規格 IEEE 802.11ac の概要とマルチユーザ MIMO の実 験的検証
浅井 裕介
†a)石原 浩一
†村上 友規
†工藤 理一
†市川 武男
†鷹取 泰司
†溝口 匡人
†Overview of Very High Throughput Wireless LAN Standard IEEE 802.11ac and Experimental Evaluation of Multiuser-MIMO Transmission
Yusuke ASAI
†a), Koichi ISHIHARA
†, Tomoki MURAKAMI
†, Riichi KUDO
†, Takeo ICHIKAWA
†, Yasushi TAKATORI
†, and Masato MIZOGUCHI
†あらまし 現在,無線LAN標準規格を策定するIEEE 802.11 Working Groupのタスクグループ(TG)acに おいて,2014年の作業完了を目指して次期高速化規格であるIEEE 802.11acの策定が行われている.本論文 は,はじめにIEEE 802.11標準を構成する基礎技術の概説を行う.次に,TGacの標準化作業の状況を紹介す るとともに,最新ドラフト(Draft D6.0)で規定される追加規格について解説する.IEEE 802.11acは,最大
6.933Gbit/sの伝送速度を実現する高速化規定や後方互換性を保ちつつ伝送帯域と空間多重に対する高いスケー
ラビリティをもつ無線フレームフォーマットを規定している.加えて,システムスループットを拡大する下りリ ンク(DL)マルチユーザ(MU)MIMO技術が規定されている.更に,DL MU-MIMO技術について,リアルタ イム動作を行う伝送装置を用いた実伝搬環境における特性評価結果を紹介し,その有効性を示す.
キーワード 無線LAN,IEEE 802.11ac,OFDM,マルチユーザMIMO,フレーム集約
1.
ま え が き近年,無線
LAN
機能はノートパソコンやスマート フォン,タブレット,テレビ,メディアサーバ,音楽 プレーヤといった多種多様な機器に内蔵されて,広く 普及している.全世界における無線LAN
チップ出荷 数は2016
年に約30
億個に上り,年率約20%
の成長 を見せるものと予測されており[1]
,今後も無線LAN
の普及は続くものと見られている.また,セルラシス テムにおいて急増するモバイル端末トラヒックを無線LAN
システムに収容し負荷軽減を図るトラヒックオ フロード[2]
に関する議論も盛んである.無 線
LAN
の 標 準 規 格 を 策 定 す る 団 体 で あ るIEEE 802.11 Working Group (WG) [3]
はIEEE 802
委員会(IEEE 802 LAN/MAN Standard Commit-
†日本電信電話株式会社 NTT未来ねっと研究所,横須賀市 NTT Network Innovation Laboratories, NTT Corporation, 1–1 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan
a) E-mail: [email protected]
tee)
配下に属し,有線LAN
標準(IEEE 802.3) [4]
のケーブルレス化を実現することを目的として
1990
年に設立された.1997
年に初期のベースライン規格IEEE 802.11
(以降,802.11
と略記する)標準を発行 し,その後これを拡張する追加規格が多数策定され進 化・発展を遂げている.特にマイクロ波帯(2.4GHz
帯 及び5GHz
帯)
を用いる高速化規格802.11a/b/g/n
は ユーザの利便性向上に大きく寄与しており,無線LAN
の発展の原動力となっている.802.11
無線LAN
は,簡易に利用可能である免許不 要帯での運用を前提とした技術仕様が規定されてい る.初期規格802.11
は,無線媒体として2.4GHz
帯 及び赤外線の利用を定義している.その後,1997
年 に米国の5GHz
帯が免許不要システム向けに開放され た[5]
.以降多くの周波数帯が無線LAN
向けに利用可 能となり,これに併せて追加規格が策定されている.図
1
に,日本における無線LAN
が利用可能な周波数 帯の沿革と802.11
標準の伝送速度高速化規格の策定時 期との関係を示す.802.11n
のドラフト版製品が普及図1 日本の無線LAN向け周波数の沿革
Fig. 1 Overview of frequency bands for IEEE 802.11 wireless LANs in Japan.
し始めた
2007
年5
月に,802.11WG
において11n
の 後継となる高速化標準に関する議論を行うVery High Throughput Study Group (VHT SG)
が設立された.VHT SG
ではマイクロ波帯を用いてシステムスルー プット1Gbit/s
以上を目標とする追加規格を策定する ことで合意形成され,Task Group (TG) ac
が設立さ れた.その後,TG ac
における議論を経て規格書のド ラフトが作成され,2014
年2
月の規格発行に向け作 業が行われている.802.11ac
は,最大伝送速度の拡大及び複数の端末に 対する同時伝送を行う下りリンク(DL)
マルチユーザ(MU-)MIMO
技術を規定することでシステムスルー プット拡大を実現している.802.11ac
標準の高速化機 能について概説されている文献は多数存在する[7]
〜[9]
が,高速化規定だけではなく伝送効率改善,後方互 換性機能をサポートするための技術規定について詳細 な解説が行われている文献はほとんど存在しない.ま た,DL MU-MIMO
技術の実環境におけるハードウェ アを用いた特性評価については,幾つか検討が行われ ているものの[10]
〜[12]
,無線LAN
システムへの適用 を想定した検討はほとんど行われていない.本論文は これらの課題を鑑み,802.11ac
標準における技術規定 の詳細な解説を行うとともに,DL MU-MIMO
技術の実環境における評価結果を示し,その有効性を示す ことを目的とする.
本論文の構成は以下のとおりである.はじめに,
2.
で,
802.11ac
の技術を理解するために必要となる,既 存の802.11
標準における基礎的な規定について,伝 送速度高速化を実現する802.11a/b/g/n
を中心に解 説を行う.次に,3.
で802.11ac
標準の策定されるに 至った経緯及びこれまで議論された内容を紹介する.802.11ac
において規定される高速化・高機能化技術 及びこれを実現するためのフレーム構成については,4.
で詳細に解説する.5.
において,NTT
で開発した マルチユーザMIMO
リアルタイム実験装置を用いた 実伝搬環境における伝送特性実験結果を紹介し,無線LAN
のシステムスループット拡大に効果的であるこ とを示す.最後に,6.
において全体を総括する.2. 802.11
無線LAN
の基礎2. 1 802
標準,802.11
標準のプロトコルスタッ ク上の位置づけ図
2
に,OSI
参照モデル及びTCP/IP
モデル[13]
と
802
標準との関係を示す.802
標準は,データリン ク層を上位のLLC (Logical Link Control)
層と下部 のMAC (Medium Access Control)
層とに細分化し,これら及び
PHY (Physical)
層の合計3
層の技術仕様 を規定している.802.11
標準は,このうちのPHY
層 及びMAC
層を規定している.2. 2 IEEE 802.11
標準のPHY
層2. 2. 1
スペクトル拡散技術を用いる802.11b
初期の802.11
規格は2.4GHz
帯での運用を想定して いるため,同一周波数帯の他システム(Bluetooth
機 器や電子レンジ,コードレス電話等)及び他ユーザが 利用する802.11
機器との共存機能が必須である.そこ で,干渉信号耐性の高いスペクトル拡散が採用された.その後策定された
2.4GHz
帯の高速化規格802.11b
は,直接スペクトル拡散
(DSSS: Direct Sequence Spread Spectrum)
を拡張したCCK (Complementary Code Keying)
技術[14]
を規定し,最大伝送速度を11Mbit/s
に向上させた.図2 OSI参照モデル及びTCP/IPモデルと802/802.11 標準との関係
Fig. 2 Relation among OSI reference model, TCP/IP model and IEEE 802/802.11 Standard.
図3 802.11aのフレームフォーマット Fig. 3 Frame format for 802.11a.
2. 2. 2 OFDM
技術を用いる802.11a/g
802.11b
の策定と並行して,5GHz
帯向けの新規格 となる802.11a
の標準化作業が行われた.5GHz
帯 は2.4GHz
帯とは異なり他システムからの干渉を受 けないため,高速化技術としてOFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplex)
技術[15]
が採用され,無線フレームごとの処理を可能とするフレームフォー マット(図
3
)が規定された[16]
.802.11a
標準の登場 によりOFDM
技術が802.11
無線LAN
高速化に有効 であることが示され,後に策定された802.11g
におい ても802.11a
と同様の無線フレームフォーマットが規 定された.2. 2. 3 802.11n
の高速化技術802.11n
は,802.11a/g
の後継規格と位置付けられ,ユーザの体感速度に近い指標となる
MAC SAP
(MAC Service Access Point
.図2
のMAC
層とLLC
層の 間のインタフェース)におけるスループットを当時主 流であった有線LAN (100Base-T)
同等の100Mbit/s
以上に高速化することを目標として,以下の高速化技 術が規定された[17]
.a.
伝送帯域拡大伝 送 帯 域 幅 と し て ,
802.11a/g
の2
倍 と な る40MHz
チャネルを新たに規定した.これにより,OFDM
シンボルあたりのデータサブキャリア本数 を従来の48
本から108
本に増加させ,伝送速度を2.25
倍に拡大した.b.
空間分割多重伝送802.11a/g
のOFDM
信号フォーマットを拡張し,図4 最大スループット・MAC効率の評価
Fig. 4 Evaluation criteria for maximum throughput and MAC efficiency.
最大
4
空間多重まで実現する空間分割多重(SDM:
Space Division Multiplexing)
伝送[18]
が規定さ れた.c.
誤り訂正符号化率の増大従来の畳み込み符号の符号化率
(R = 1 / 2, 2/3, 3/4)
に加えて新規にR = 5 / 6
を規定し,R = 3 / 4
と比較して伝送速度を10/9
倍に拡大した.d.
ショートガードインターバル802.11a/g
の半分となる長さ400ns
のショート ガードインターバル(GI: Guard Interval)
を定義 し,伝搬環境に応じて無線フレームごとに選択可能 とした.シンボル時間を従来の4us
から3.6us
とす ることで,伝送速度を10/9
倍に拡大した.802.11a/g
の最大伝送速度(54Mbit/s)
に対して上記a.
〜d.
による伝送速度拡大技術の全てを適用すると,802.11n
の規格上におけるPHY
層の最大伝送速度は600Mbit/s
と計算される.54[Mbit/s] × 2.25 × 4 × (10/9) × (10/9)
= 600[Mbit / s] .
2. 3 IEEE 802.11
標準のMAC
層2. 3. 1 CSMA/CA
802.11
標準は,MAC
層として,他システムからの干 渉や他ユーザとの共存を自律分散型制御により実現す るアクセス制御技術である,無線チャネルを複数基地局(AP: Access Point)
及び端末(STA: Station)
の間で時 間的に棲み分けて共用するCSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) [19]
を採 用した.CSMA/CA
は,自律分散制御を用いながら 複数STA
の同時送信による無線フレーム同士の衝突 を回避する手段として,各STA
において無作為に送図5 PHY規格ごとのMAC SAPスループット及び MAC効率の比較
Fig. 5 MAC SAP throughput and MAC efficiency evaluation for 802.11a/b/g/n without frame aggregation.
信権獲得までの待ち時間を設定するランダムバックオ フ制御を導入している
[20]
.2. 3. 2
隠 れ 端 末 問 題 を 解 決 す るRTS/CTS
フ レームCSMA/CA
を用いる802.11
無線LAN
固有の問 題として,隠れ端末問題[21]
が挙げられる.これは,STA
同士が互いの無線信号を検出できない位置関係 にある場合に,あるSTA
が送信中に他のSTA
がこれ を認識できずに無線フレームを送信し,その結果衝突 が発生する現象である.この対策として,送信STA
が送信権獲得後にRTS (Request To Send)
フレーム を送信し,宛先STA
はこれにCTS (Clear To Send)
フレームで返信するシーケンスが規定されている.こ れにより,周囲の端末に無線チャネルの利用を予約し図6 802.11nで既定される二段階のフレーム集約 Fig. 6 Overview of frame aggregation for 802.11n.
た上でデータ送信を行うことができる.
2. 3. 3
フレーム集約によるMAC
効率改善802.11n
規格によるPHY
層の伝送速度高速化に伴 い,無線区間のオーバヘッドによる伝送効率低下が課 題となっていた.802.11a/b/g/n
のPHY
層で規定さ れる最大伝送速度を用いた場合の理論上の最大スルー プット・MAC
効率について,評価条件及び特性をそ れぞれ図4
,図5
に示す.802.11n
のMAC
効率が著 しく低下しているが,これはPHY
層における伝送速 度高速化に伴いデータシンボルの送信時間が短縮化さ れた結果,シーケンス全体の所要時間に占めるオーバ ヘッドの割合が相対的に大きくなるためである.802.11n
は,MAC
効率を改善するために多数のMSDU (MAC Service Data Unit
.MAC SAP
にお けるデータ単位)
を集約し単一の無線フレームとして 送信するフレーム集約(Frame Aggregation)
を規定した
[22]
.図6
にフレーム集約形態を示す.再送単位と なるデータ単位を生成するMSDU
集約と,無線フレー ム全体のデータを生成するMPDU (MAC Protocol Data Unit
.無線区間における再送単位となるデータ の集合)
集約の2
段階から構成される.A-MPDU
を 受信したSTA
は,MPDU
ごとの受信成功・失敗情報 を,802.11e
に規定された複数MPDU
に対する確認 応答情報を一括で格納するBlockACK
フレーム[23]
を用いて返信する.
802.11n
におけるA-MPDU
の最 大サイズは65,535octet
と規定されている.この最大 サイズとPHY
層の最大伝送速度(600Mbit/s)
を用 いると,MAC
効率及び実効スループットはそれぞれ81.0%
,486Mbit/s
に改善される.3. 802.11ac
規格策定の過程本章は,
802.11ac
標準作成に向けた802.11WG
内部での議論について,その概要を紹介する.
3. 1 VHT SG
における議論2007
年5
月に,802.11n
の後継となる高速化規格 策定議論を行うVHT (Very High Throughput) SG
が802.11WG
内に設立され,活動が開始された.その 後の議論の末,既存規格で用いられているマイクロ波 帯における高速化規格を策定する「TGac (2008
年11
月設立)
」と,これまで802.11
標準で利用されていな かったミリ波(60GHz
帯)
を用いる新規規格を策定す る「TGad (2009
年1
月設立)
」の二つのTG
が形成 された.TGac
で策定される標準化対象範囲を規定し た文書“PAR + 5C (Project Authorization Request and 5 Criteria) [24]”
には,以下の要求条件が定義さ れた.1 2.4GHz
帯を除く6GHz
以下の周波数で運用され る無線LAN
のPHY/MAC
層追加規格を規定.2
単 一 無 線 リ ン ク のMAC SAP
ス ル ー プット500Mbit/s
,複数無線リンクの合計MAC SAP
スループット1Gbit/s
以上の実現.3 5GHz
の 免 許 不 要 帯 で 運 用 さ れ る 既 存 の802.11a/n
準拠STA
との後方互換性の確保.2
において,スループット目標値を単一リンクと複数 リンクとの間で個別に定義している点が特徴である.これは,複数無線リンクの合計スループットを増大さ せる技術として
DL MU-MIMO
技術の適用を想定し ていたためである.また,その有効性を示す論拠とし てNTT
による実伝搬環境における試作装置を用いた 特性評価結果[25]
(注1)が用いられている.3. 2 TGac
における議論TGac
の初期の議論において,技術提案プロセス[26]
が作成された.また,これに付随して,技術提案に必 要となる以下の文書が策定された.
a. Channel Models
文書[27]
室内における
5GHz
帯のMIMO
チャネルモデ ルを規定する文書である.802.11n
で定義されたMIMO
チャネルモデル[28]
を複数STA
への同時伝 送に利用できるよう拡張している.室内における準 静的環境での伝搬路測定結果[29]
を元に,ベル型(bell-shape)
スペクトルで定義されるドップラース プレッドを0.41Hz
に変更した[30]
.(注1):総務省委託研究「空間軸上周波数有効利用技術の研究開発(平 成17〜19年)」による研究開発成果.
b. Usage Models
文書[31]
802.11ac
準拠製品の適用が期待される利用モデル6
種類に分類した(ディスプレイ映像の無線転送,映 像ストリーミング,大容量ファイル転送,無線バッ クホール,大ホール,工場の無線化).c. Functional Requirements and Evaluation Methodology
文書[32]
技術提案の特性評価の条件・評価シナリオを定め た文書である.評価シナリオは,
Usage Models
文 書の利用モデルの中から代表的なものとして,以下 の二つを規定している.・
In-home entertainment
:家庭内における複数 の高品質映像ストリームを無線伝送するモデル・
Enterprise
:フリーアドレス化されたオフィス 環境各モデルに対して
AP/STA
の位置,データフロー 等のシステムレベル評価を行うためのパラメータ群 が規定されている.上記
3
種の文書を策定しつつ,技術領域ごとに細分化し たPHY
,MAC
,MU-MIMO
,COEX (coexistence)
の合計四つのad-hoc
グループが形成された(2009
年11
月)
.その後,各ad-hoc
グループ内で要素技術の 提案・議論が行われ,順次技術仕様を取りまとめるSpecification Framework
文書[33]
に追加し,これを 元にドラフト案が作成された(2011
年11
月)
.以降,現在に至るまで,電子投票によるドラフトの確認・修 正作業が実施されている.
4. IEEE 802.11ac
規格の概要本章は,
TGac
の最新ドラフト(D6.0) [34]
を元に,802.11ac
に規定される技術仕様について解説する.4. 1 PHY
層における規定PHY
層 に お け る 伝 送 速 度 を 高 速 化 す る た め に ,802.11ac
は802.11n
の高速化技術を踏襲した上で,そのパラメータを拡張している.また,既存規格との 後方互換性を維持しつつ,帯域幅・空間多重数及び
DL MU-MIMO
伝送といった幅広い伝送形態をスケーラ ブルにサポートすることを可能とする無線フレーム フォーマットを規定している点を特徴とする.4. 1. 1
伝送速度高速化規定a.
伝送帯域拡大図
7
に802.11a/n/ac
で規定される周波数チャネ ル配置を示す.従来の40MHz
チャネル(108
サブ キャリア)に加えて,新規に80/160MHz
チャネル図7 802.11acで既定される周波数チャネル(日本の場合)
Fig. 7 Channelization for 802.11ac in Japan.
図8 80+80MHzチャネルの配置例 Fig. 8 Example of 80+80 MHz Channel allocation.
(
234/468
サブキャリア)を規定している.160MHz
チャネルの規定により,40MHz
チャネルと比較して 最大伝送速度を4.33
倍(=468/108)
に拡張してい る.加えて,互いに不連続な二つの80MHz
チャネ ルを同時並行利用する80+80MHz
チャネルを定義 している.これは,他ユーザのシステムや無線LAN
よりも優先度の高いレーダシステムが存在するよう な,連続した160MHz
帯域が確保できない場合にお いても,160MHz
チャネル相当の伝送速度を実現す る伝送モードである(注2).図8
に80+80MHz
チャ ネルの配置例を示す.b.
空間多重数拡大最大
8
空間多重を規定し,802.11n
(最大4
空間 多重)に対して2
倍の伝送速度拡大を実現している.併せて,
MIMO
チャネルを推定するためのトレー ニング信号(VHT-LTF)
も拡張している.c.
変調多値数増加既存の
BPSK
,QPSK
,16QAM
,64QAM
(最 大6bit/
サブキャリア)に加えて,新たに256QAM
(最大
8bit/
サブキャリア)を規定し,最大伝送速度 を約1.33 (=8/6)
倍に拡張している.(注2):802.11acにおける80+80MHz伝送は,MAC層に入力され る情報系列を二つの80MHzチャネルを使って並列伝送する形態であり,
3GPPのキャリアアグリゲーションのような周波数チャネルごとにセッ ションを張る方式とは異なる.
802.11n
(最大600Mbit/s
)に対して上記a.
〜c.
による 高速化規定(8
空間多重,160MHz
チャネル,256QAM (R = 5 / 6)
)を全て適用すると,PHY
層の最大伝送速 度は6.933Gbit/s
となる(注3).(600[Mbit / s] × (468 / 108) × 2 × (8 / 6) 6.9333[Gbit/s]).
4. 1. 2
無線フレームフォーマット図
9
に802.11a/n/ac
のフレームフォーマットの比 較を示す.“L/Non-HT”
,“HT”
,“VHT”
の接頭辞は それぞれLegacy/Non-High Throughput (802.11a)
,High Throughput (802.11n)
,Very High Through- put (802.11ac)
を表す.a. L-STF, L-LTF, L-SIG
L-STF/L-LTF/L-SIG
の20MHz
幅ごとの送信信号 は,図3
に示した802.11a
のSTF/LTF/SIGNAL
と それぞれ同一のフォーマットである.図10
に80MHz
チャネル,6
空間多重の場合のVHT
フレームの構成 を示す.HT/VHT
フレームにおいて40MHz
以上の 広帯域チャネル,あるいは2
本以上のアンテナを用 いて空間多重送信する場合は,802.11a
のL-STF/L- LTF/L-SIG
を20MHz
ブロック単位で周波数軸及び 空間軸上で並列にコピーし拡張する.更に,各周波数・空間ブロック毎固有のサブキャリア位相回転及び循環 シフト遅延
(CSD: Cyclic Shift Delay) [36]
を付加す る.これにより,帯域幅によらず任意の20MHz
ブロッ クの信号を受信することで無線フレームの検出・同期 処理を行うことが可能となる.また,
HT/VHT
フレームのL-SIG
部は,Non-HT STA
がHT/VHT
フレームの時間長を正しく読み取 れるように,常に変調モードをBPSK (R = 1 / 2)
に 設定し,後続の信号の時間長に相当するデータ長を ダミー情報として付加する「spoofing
(注4)」と呼ばれ る操作を行う.その例を図11
に示す.これにより,Non-HT/HT STA
は,VHT
フレームの時間長を正 確に把握し,CSMA/CA
に基づいた送信権獲得動作(注3):上記伝送速度が実現可能となるエリアを802.11acの減衰モデ ル[27], [28]により評価する.送信電力を17dBm(=50mW),最低受 信感度を−39dBm (1空間多重/160MHz伝送/256QAM (R = 5/6) の場合の最低受信感度に対して8倍の受信電力が必要となる),送受信 アンテナ利得を2.15dBiと仮定した場合に距離換算すると約5m(伝搬 損失60.1dB)となる.
(注4):L-SIG部のダミー情報でNon-HT/HT STAを「だます」操 作に相当するためこう呼ばれる.802.11nにおいても同様の規定が存在 する.
図9 Non-HT/HT/VHTフレームの比較 Fig. 9 Comparison among Non-HT/HT/VHT frames.
図10 VHTフレームの構成例 Fig. 10 Example of VHT frame structure.
図11 VHTフレームにおけるspoofingの例 Fig. 11 Example of “spoofing” in VHT frame.
図12 HT-SIG/VHT-SIG-Aの信号点配置及びauto-detectionフローチャート Fig. 12 Constellation points for HT-SIG/VHT-SIG symbols and auto-detection
flowchart.
を正しく行うことが可能となる.
b. VHT-SIG-A
VHT-SIG-A
の20MHz
幅ごとの送信信号は,L- SIG
と同一のサブキャリア配置,変調モード(BPSK, R = 1 / 2)
をもつ.L-SIG
が1OFDM
シンボルである のに対して,VHT-SIG-A
は含まれる情報ビット数がL-SIG
の倍となるため,2OFDM
シンボルで構成され る.VHT-SIG-A
を受信した受信機は,L-SIG
部と同 様に,L-LTF
部で推定したチャネル推定情報を用いて 復調処理を行う.VHT-SIG-A
部は以下の二つの役割 を担う.1. auto-detection
機能802.11
無線LAN
はCSMA/CA
をベースとしたラ ンダムアクセスである.そのため,後続部分の信号処理 を行う為に無線フレームの種別(Non-HT/HT/VHT)
をヘッダ部分から高速に判定しなければならない.HT/VHT
フレームは,HT-SIG/VHT-SIG-A
を構成 する2OFDM
シンボルのサブキャリア信号点配置を フレーム種別ごとにそれぞれ固有のパターンとしてい る(図12
).この信号点配置を用いて,同図のフロー チャートに従いauto-detection
と呼ばれる手法により 受信フレーム種別を判定する.2. HT/VHT
フレームの受信処理に必要となる情 報の表示上記
auto-detection
によりフレーム種別を判定した後,受信機は
VHT-SIG-A
部を復号し後続のデータ 部の復調に必要な情報フィールド一覧(表1
参照)を 取得する.ここで,SU (Single User)
は単一宛先局へ の「シングルユーザ伝送」,MU (Multi User)
は複数 の宛先局に対する「DL MU-MIMO
伝送」を示す.VHT-SIG-A
に含まれる情報の中で特徴的である のは,「Group ID(GID)
」フィールド及び「空間多重 数/Partial AID (Association ID)
」フィールドであ る.GID
フィールドは表2
に示される3
種類の伝送 形態を表示する.GID
はMAC
層で管理され,その詳 細については4.2.3
にて説明する.「空間多重数
/Partial AID
」フィールドは,MU
伝 送の場合は最大4
台の宛先STA
ごとの空間多重数を 表示する(3bit × 4
台)
.SU
伝送の場合は3bit
で空間 多重数を表示するとともに,残り9bit (Partial AID
フィールド)
を用いて表3
の情報が表示される.受信機は
GID
及びPartial AID
を参照することで,後続のデータ部分を復調する必要性の有無を判定する ことができる.判定フローチャートを図
13
及び図14
に示す.Non-HT/HT
フレームを受信した場合,受信 機は少なくとも一つのMPDU
を情報系列に復号し,誤り確認を行った後に宛先アドレスを参照することで 自分宛か否かを判定していた.一方,
VHT
フレーム の判定はVHT-SIG-A
部を参照することで行える.し たがって,自身宛でない無線フレームが送信されてい表1 VHT-SIG-Aの情報フィールド一覧(注5) Table 1 Information fields included in VHT-SIG-A.
ることを確認した
STA
は復調機の動作を停止するこ とで低消費電力化が図れる.VHT SIG-A
に含まれるDL MU-MIMO
伝送に関 するパラメータの制約条件は,以下のとおりである.・同時送信
STA
数:1
〜4
・
STA
あたりの空間多重数:0
〜4
・同時送信
STA
の空間多重数の合計:1
〜8
・全
STA
の無線フレームは同一の帯域幅をもつ(注5):VHT-SIG-Aは48ビットから構成される.本図に含まれてい ないビットとして,以下が存在する.
・CRC(Cyclic Redundancy Check)ビット(VHT-SIG-A部の誤 り検出用.6bit)
・Reservedビット(将来的な拡張のための予約ビット.3bit)
・Tailビット(図3のSIGNAL部と同様,畳み込み符号化の終端処 理のために付加される.6bit)
表2 GIDと伝送形態の関係
Table 2 Relationship between GID and SU/MU transmission.
表3 Partial AIDフィールドの表示内容 Table 3 Partial AID field information.
図13 VHTフレームの受信信号処理要否判定フロー チャート(受信機がAPの場合)
Fig. 13 Flowchart for need of receiver signal process- ing in VHT frame (AP case).
・個別設定が可能なパラメータ:空間多重数,変調モー ド,データ長,チャネル符号化
SU
伝送とMU
伝送の双方において,空間多重数の上 限値は8
と規定されており,DL MU-MIMO
伝送は 無線区間の最大伝送速度向上には寄与しない.した がって,DL MU-MIMO
は複数STA
への同時伝送に よりAP
がもつ空間多重リソースの活用機会を増やしMAC
効率を高めるための技術と位置付けられる.(注6):AID: Association ID.STAがAPに帰属する際にAPから 付与されるテンポラリの帰属番号.
図14 VHTフレームの受信信号処理要否判定フローチャート(受信機がSTAの場合)
Fig. 14 Flowchart for need of receiver signal processing in VHT frame (STA case).
図15 VHT-LTFの時間・空間軸における符号パターン行列A
Fig. 15 Sign pattern matrixAfor VHT-LTF.
c. VHT-STF
VHT-STF
は,L-STF
と同様に受信機における利得 調整に用いられる.VHT-SIG-A
までの部分とVHT- STF
以降の部分とでサブキャリア本数やCSD
量等の フォーマットが切り替わるため,VHT-STF
部におい て再度利得調整が必要となる.d. VHT-LTF
VHT-LTF
は,各サブキャリアがBPSK
変調された1OFDM
シンボル分のパターンを空間・時間(OFDM
シンボル)
で構成される二次元空間にマッピングする 形で定義される.マッピングは図15
に示されるとお り二次元行列A
として示され,空間多重数に応じて図16 Staticモードの動作例 Fig. 16 Example of static operation.
スケーラブルに定義されている.
e. VHT-SIG-B
VHT-SIG-B
には宛先STA
ごとの無線フレームに対 する変調モード,データ長が表示される.VHT-SIG-B
の1OFDM
シンボルで送信できるデータ量は伝送帯 域幅に比例して増加するので,送信データを繰り返す ことで情報量の調整を行っている.4. 2 802.11ac
規格のMAC
層の特徴802.11ac
は ,MAC
層 の 主 要 規 定 と し て ,A- MSDU/A-MPDU
の最大サイズ拡大,RTS/CTS
フ レームの拡張による帯域幅通知機能,DL MU-MIMO
伝送サポートを規定している.4. 2. 1 A-MSDU/A-MPDU
の最大サイズ拡大802.11n
に お け るA-MPDU
の 最 大 サ イ ズ は65,535octet
である.この制限を802.11ac
に適用し,2.3.3
と同様の条件で最大伝送速度(6.933Gbit/s)
を 用いた場合,スループット及びMAC
効率はそれぞれ1.72Gbit/s
,24.9%
に過ぎず,フレーム集約を用いな い802.11n
と同様,伝送速度高速化の効果がスルー プットに反映されない課題が発生する.これを解決す るために,802.11ac
はMAC
効率改善のために以下の 拡張を規定している.・
A-MSDU
最大サイズ:3,839octet → 11,454octet
・
A-MPDU
最大サイズ:65,535octet → 1,048,575octet
上記最大サイズを用いることで,最大スループット5.85Gbit/s
,MAC
効率84.4%
を達成し,PHY
層高 速化の効果をスループットに十分反映させることがで きる.図17 Dynamicモードの動作例 Fig. 17 Example of dynamic operation.
4. 2. 2 RTS/CTS
フレームを用いた帯域幅通知 機能802.11ac
は80/160MHz
チャネルを規定している が,5GHz
帯において互いに重複しないチャネル数が それぞれ4
,2
と少ない.そのため,802.11a/n
対応AP/STA
のみが存在する場合と比較して,同一チャネ ル上に他ユーザが利用するAP/STA
が存在する頻度 が高まり,隠れ端末問題によるスループット低下が深 刻化する懸念がある.そこで,RTS/CTS
フレームを 用いた伝送帯域幅通知機能を規定した.802.11ac
で 規 定 さ れ る40MHz
幅 以 上 の 帯 域 でRTS/CTS
フレームを送信する場合,図3
に示された20MHz
幅のNon-HT
フレームを周波数軸上で送信帯 域全体にコピーして送信する.また,802.11ac
準拠のRTS
フレームであることを,送信元MAC
アドレスのIndividual/Group Address
ビット[37]
をGroup
ア図18 GIDテーブルとメンバシップ情報の例 Fig. 18 Example of GID table and membership information.
ドレスに設定することで通知する(注7).加えて,
SER- VICE
フィールドの先頭7bit
(802.11a/n
では常に0
に設定)にRTS
フレームが送信される帯域幅を表 示する.宛先STA
は,送信元のIndividual/Group Address
ビットがGroup
アドレスに設定されている 場合,802.11ac STA
が送信したRTS
フレームであ ると解釈し,上記SERVICE
フィールド先頭7bit
か ら伝送帯域幅を読み取る.そして,自身が観測した当 該帯域の利用状態に応じて,伝送帯域幅情報を含めたCTS
フレームを,idle
状態である帯域全体にコピーし 返信する.伝送帯域幅返信方法として,以下の2
種類 のモードが規定されている.・
Static
モード: RTS
フレームで通知された帯域全体 が空き状態である場合に限りCTS
フレームを返信 する簡易なモード.・
Dynamic
モード: RTS
フレームで通知された帯域 のうち全体あるいは一部の帯域が空き状態である 場合に,伝送帯域幅をCTS
フレームのSERVICE
フィールドを用いて通知するモード.Static
モードとDynamic
モードの動作例をそれぞれ 図16
,図17
に示す.Dynamic
モードはStatic
モー ドよりも細かな帯域幅制御が行えるため,周波数チャ ネルを有効利用することができる.(注7):RTSフレームが単一STAにより送信されることは,802.11 標準のプロトコル上自明であるため,送信元MACアドレスのIndi- vidual/Group Addressビットは事実上情報量をもたない.
4. 2. 3 DL MU-MIMO
伝送802.11ac
は,伝搬状態や各STA
の受信能力を参照 した上で無線フレームごとにSU/MU
伝送を適応的に 切り替えられるようにPHY/MAC
層を拡張している.a. Group ID
によるSTA
呼び出し4.1
の表2
で説明したとおり,802.11ac
のDL MU- MIMO
伝送は,VHT-SIG-A
のGID
フィールドを用 いて無線フレームごとに宛先STA
を呼び出す.AP
はGID
ごとに最大で4
台登録されるSTA
の一覧をGID
テーブルとして管理するとともに,GID
テーブルをSTA
ごとのメンバシップ情報に変換し,あらかじめ各STA
に対して共有した上でDL MU-MIMO
伝送を行 う.図18
にGID
テーブルとメンバシップ情報の例を 示す.b. CSI
フィードバックDL MU-MIMO
伝送を行うAP
は送信ビームフォー ミングのウェイトを導出するために,自身と全ての宛 先STA
との間のチャネル情報を必要とする.802.11ac
は,CSI (Channel State Information)
を閉ループ制 御で取得するためのフレームシーケンスを規定してい る.AP
がデータ部分を含まないVHT
フレームであ るNDP (Null Data Packet)
を送信し,これを用い て各STA
はCSI
を推定し,規定の圧縮を行った上で ビット情報とし順次AP
へフィードバックを行う.c.
複数QoS
クラスをもつ無線フレームの伝送機能802.11
のMAC
層は,4
種類のQoS
クラス(音声,図19 TXOP Sharing機能の動作例(MAC層)
Fig. 19 Example of TXOP sharing (MAC layer).
図20 TXOP Sharing機能の動作例(PHY層)
Fig. 20 Example of TXOP sharing (PHY layer).
ビデオ,ベストエフォート,バックグラウンド)に基 づいた
MSDU
間の優先制御を規定している[38]
.既 存の802.11MAC
層は,一度のチャネルアクセス機 会(TXOP: Transmission Opportunity)
において1
種類のQoS
クラス(802.11
標準ではアクセスカテゴ リー(AC)
と呼ばれる)のみ送信を行える.802.11ac
のMAC
層は,DL MU-MIMO
伝送に限りこれを拡張し,
TXOP
期間において送信権を獲得したAC
以 外のAC
をもつMSDU
について送信することを許容 する「TXOP sharing
」を規定している.これにより,AP
のもつ空間リソースを有効活用することができる(図
19
,図20
).5. DL MU-MIMO
実験装置による実伝 搬環境評価結果本 章 は ,
DL MU-MIMO
リ ア ル タ イ ム 伝 送 装 置[39]
〜[41]
の構成及びその屋内実験による特性評価結 果を示す.これにより,DL MU-MIMO
伝送が無線LAN
のシステムシステムスループット改善に有効で あることを明らかにする.5. 1 DL MU-MIMO
試作装置の構成表
4
に,開発したDL MU-MIMO
伝送装置の主要 諸元を示す.搬送波周波数は4.85GHz
,伝送帯域幅 は80MHz
を用いた.開発した伝送装置は8
本のアン テナをもつ1
台のAP
と各々1
本のアンテナをもつ6
台のSTA
群により構成される.本伝送装置で用いら れるフレームシーケンスは[40]
に示されている.初め にAP
が下りリンクのCSI
推定を行うためのサウン ディングフレームを送信する.各STA
は,これを用 いてAP
から自身へと向かう下りリンクのCSI
を推定 し,リアルタイムでAP
へフィードバックする.AP
は,フィードバックされたCSI
を用いてサブキャリア ごとにゼロフォーシング(ZF)
ビームフォーミング重 みを計算し,下りリンクMU-MIMO
伝送を行う.各STA
は,データフレーム先頭のトレーニング信号を 用いてサブキャリアごとにチャネル推定を行い,受信 信号を復調・復号し送信データ系列を得る.本伝送装 置のビームフォーミングアルゴリズムはZF
であるた表4 DL MU-MIMO試作装置の諸元 Table 4 Experimental parameters for DL MU-MMO
testbed.
め,
CSI
が理想的に得られればSTA
間の信号系列の 直交性が保たれる.したがって,各STA
は1
本の受 信アンテナによるSISO (Single input single output)
伝送と同等の受信信号処理により送信データ系列を復 調・復号することができる.5. 2
伝送実験の結果図
21
に伝送実験の環境を示す.AP
のアンテナ配 置は一直線上とし,隣接アンテナ間の間隔を6cm (
約1
波長)
とした.AP
及びSTA
の床からのアンテナ高 は,それぞれ1.5m
及び1.0m
とした.全STA
に対し て同一のサブキャリア変調方式・チャネル符号化率を 用いた.図
22
にサブキャリア変調方式をパラメータとした 平均総送信電力に対するPHY
層での平均伝送速度の 評価結果を示す.隣接するSTA
間の距離を2.0m
とし た.QPSK
,16QAM
,64QAM
の各変調方式おいて,それぞれ
4
,10
,17dBm
以上の平均送信電力を用い図21 伝送実験環境
Fig. 21 Indoor measurement environment.
図22 平均総送信電力対平均伝送速度特性 Fig. 22 Average transmission rate as a function of
the total transmit power of DL MU-MIMO.
図23 隣接STA間距離をパラメータとした伝送速度の CDF特性
Fig. 23 CDF of STA throughput with the distance between adjacent STAs as a parameter.
ることで平均伝送速度が最大化されることが分かる.
本結果より,
ZF
送信ビームフォーミングによりSTA
間の相互干渉をほとんど受けることなく多値変調によ る下りリンクMU-MIMO
伝送が可能であり,全体で970Mbit/s
(本試作装置のフレームシーケンスにおけ るオーバヘッドを加味したスループットで525Mbit/s
) 超の伝送速度が得られることを明らかにした.変調方式を
64QAM
とし,STA
間隔をパラメータと したときの伝送速度のCDF
特性を図23
に示す.STA
間距離を小さくすればするほどSTA
間のチャネルの 相関が高くなるため,これに付随して各STA
に対す る送信信号間の直交性が崩れやすくなる.その結果,平均伝送速度が低下することが観測される.
STA
間隔 を0.03m
(約半波長)のとき,CDF = 10%
における 伝送速度は75Mbit/s
程度まで低下する.しかしなが ら,STA
間隔を0.09m
(約1.5
波長)とした場合,最 大伝送速度からの劣化は小さくなり,CDF = 10%
に おける伝送速度は150Mbit/s
程度となる.更にSTA
間隔が広い場合(0.5m
及び2.0m)
にはほとんど特性 劣化は見られず,90%
以上の確率で最大伝送速度であ る160Mbit/s
を達成している.この結果から,STA
同士が重なり合うレベルで近接する特殊な環境でない 限り,下りリンクMU-MIMO
伝送が有効であること を確認した.6.
む す び高速無線
LAN
規格802.11ac
について,既存規格に おける技術の概要,802.11WG
における議論,802.11ac
の
PHY/MAC
層における主要技術について解説を行っ た.PHY
層は,最大伝送速度高速化を802.11n
で規 定された空間多重数・伝送帯域幅を拡大することで実 現している.また,既存規格との後方互換性及び多種 多様な伝送モードをスケーラブルにサポートする無 線フレームフォーマットを規定している.MAC
層は,PHY
層の伝送速度高速化に併せたフレーム集約サイ ズの拡張,広帯域伝送を安定的に行う為のRTS/CTS
フレームにおける帯域幅通知機能,システムスルー プットを拡大するDL MU-MIMO
伝送におけるGID
によるユーザ管理等を規定している.更に,
DL MU-MIMO
伝送試作装置を用いた室内 伝搬環境における特性評価結果を紹介した.ZF
送信 ビームフォーミングによりSTA
間の相互干渉をキャ ンセルすることで簡易な受信機構成であっても適切に 動作することを確認した.また,STA
同士が極端に近 接しない限り,チャネル相関による影響は極めて小さ いことを明らかにし,DL MU-MMO
技術が802.11ac
におけるシステムスループット改善技術として有効で あることを示した.謝辞 本論文を執筆するにあたり,有益な助言をい ただいた
NTT
アドバンステクノロジ株式会社第二営 業部門岡田一泰部門長に深謝します.文 献
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(平成25年5月14日受付,8月8日再受付)
浅井 裕介 (正員)
平9名大・工・電気系卒.平11同大大 学院工学研究科修士課程了.同年日本電信 電話(株)入社.以来,MIMO-OFDMシ ステムの信号処理技術を中心とした研究,
IEEE 802.11 TGn/TGac標準化活動等 に従事.平22 NTT未来ねっと研究所主 任研究員,現在に至る.平19〜21本会無線通信システム研究 会幹事補佐.平22〜IEEE 802.11TGac COEX ad-hoc共同 議長.平15年度本会学術奨励賞,平18,21本会通信ソサイ エティ活動功労賞.IEEE会員.
石原 浩一 (正員)
平16東北大・工・通信工学科卒.平18 同大大学院工学研究科修士課程了.同年日 本電信電話(株)入社.以来,無線通信シ ステム及び光ファイバ通信におけるデジタ ル信号処理に関する研究開発に従事.博士 (工学).平21年度本会学術奨励賞,平23 年度無線通信システム研究会活動奨励賞.IEEE会員.
村上 友規 (正員)
平18早大・理工・電気卒.平20同大大 学院修士課程修了.同年日本電信電話(株)
入社.現在,NTT未来ねっと研究所にお いてマルチユーザMIMOシステムの研究 開発に従事.平22本学会学術奨励賞.同 年AP研若手奨励賞受賞.IEEE会員.
工藤 理一 (正員)
平13東北大・理・宇宙地球物理学科卒.
平15同大大学院理学研究科修士課程了.同 年日本電信電話(株)入社.以来,MIMO 送信信号処理に関する研究に従事.平24〜
25イギリスブリストル大客員研究員.平 18本会学術奨励賞,平22 IEEE AP-S Japan Chapter若手奨励賞,平23本会論文賞,など.博士
(情報学).IEEE会員.
市川 武男 (正員)
日本電信電話株式会社未来ねっと研究所 ワイヤレスシステムイノベーション研究部 主幹研究員.平5早大大学院理工学研究科 電子工学専攻修士課程修了.同年日本電信 電話株式会社入社.以来,PHSパケット データ通信システム,IEEE 802.11a無線 LANの研究開発に従事.現在,次世代高速無線LANの研究 開発を担当.平11本会学術奨励賞.IEEE会員.
鷹取 泰司 (正員:シニア会員)
平5東北大・工・電気卒.平7同大大 学院情報科学研究科修士課程修了.同年日 本電信電話(株)入社.以来,空間信号処 理,高速通信システムの研究開発に従事.
平16〜17デンマークオールボー大学客員
研究員.平成21〜22 IEEE 802.11 TGac COEX ad-hoc共同議長.平24 NTT未来ねっと研究所主幹 研究員,現在に至る.工博.平11年度本会学術奨励賞,平23 年度本会論文賞.IEEE会員.
溝口 匡人 (正員:シニア会員)
平元東京理科大・工・電気卒.平3同 大大学院修士課程了.同年日本電信電話
(株)入社.以来,パーソナル通信装置,高 速無線LANシステムの研究開発に従事.
現在,NTT未来ねっと研究所ワイヤレス システムイノベーション研究部主幹研究員
(グループリーダ).平9年度本会学術奨励賞,平11,平23年 度本会論文賞.平17年度業績賞,平20年度逓信協会前島賞.
IEEE会員.