• 検索結果がありません。

家族性乳癌におけるBRCA遺伝子診断と臨床病理学的検討 第75巻07号1765頁

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "家族性乳癌におけるBRCA遺伝子診断と臨床病理学的検討 第75巻07号1765頁"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

  原  著

家族性乳癌におけるBRCA遺伝子診断と臨床病理学的検討

星総合病院外科1),いがらし内科外科クリニック2),星総合病院病理診断科3) 野 水   整1)  松 嵜 正 實1)  片 方 直 人1)  佐久間 威 之1) 菅 家 康 之1)  伊 藤 泰 輔1)  二 瓶 光 博2)  山 口 佳 子3)  BRCA遺伝子診断を実施した41家系67例の家族性乳癌および血縁者を対象に,病的変 異の有無と家族歴について検討した.また,乳癌50例を対象に遺伝子変異の有無別に臨 床病理学的検討を行った.病的変異を検出したのは,発端者診断では41家系中11家系 26.8%で,BRCA1 は 4 家系,BRCA2 は 6 家系,BRCA1 とBRCA2 の両者の変異は 1 家系であった.濃厚な家族歴を有する乳癌患者での検出率が高かった.変異の有無別で の臨床病理学的検討では,発症年齢・両側乳癌の頻度・組織型・術式での乳房切除(全 摘)の頻度では差はなく,変異あり群では組織学的リンパ節転移陽性率が高く内分泌反 応陽性率が低く,トリプルネガティブ率が高く組織学的悪性度が高かった.BRCA遺伝 子診断は,遺伝性乳癌の診断や,乳癌および卵巣癌の一次予防,術式や薬物治療選択の 判断に有用である. 索引用語: 家族性乳癌,遺伝性乳癌卵巣癌,HBOC,BRCA遺伝子診断,トリプルネガティ ブ乳癌 緒  言  乳癌が集積する家系があることは古くから知られて おり,遺伝要因の関与が強く示唆されていた1).1990 年にHallらは乳癌多発家系を用いた連鎖解析により, 優性遺伝の若年者家族性乳癌の原因遺伝子の存在部位 を17q21にマッピングし,その遺伝子座をBRCA1 と 名付けた2).また,Narodらは乳癌卵巣癌多発家系で も同じ遺伝子マーカーが連鎖することを示し,BRCA1 遺伝子座が家族性乳癌卵巣癌の原因であることを示唆 し3),その後1994年,MikiらがBRCA1 遺伝子の単離 に成功した4).一方,1994年WoosterらはBRCA1 遺 伝子に連鎖しない家族性乳癌家系の連鎖解析を進め, 13q12-13に新たな家族性乳癌の遺伝子座BRCA2 を報 告し,1995年にBRCA2 遺伝子の単離に成功した5)  家族性乳癌は本邦では臨床的にはTable 11)6)に示す ような定義で考えられている.この基準に合致する例 では遺伝要因の関与が強く示唆され,原因遺伝子とし て はBRCA1 ・BRCA2 の 他 にp53・ATM・ESR・

PTENなどが挙げられるが,特に常染色体優性遺伝と 考えられる家系の乳癌では約50%にBRCA1 あるいは BRCA2 遺伝子の変異が認められ7),家系内には乳癌 のみならず卵巣癌の集積も認められることが特徴であ り,近年ではBRCA遺伝子変異を有する乳癌や卵巣 癌を(たとえ家族歴がなくても)遺伝性乳癌卵巣癌 (Hereditary Breast Ovarian Cancer; HBOC) と 呼

称する.  家族性乳癌の臨床的特徴は,濃厚な乳癌家族歴を有 すること,若年者乳癌の頻度が高いこと,両側乳癌の 頻度が高いこと,他臓器癌重複癌の頻度が高いことな どが挙げられている1)6).一方,HBOCではこれらの 特徴に加え,悪性度の高い乳癌が多いことが報告され ている8) 対象および方法  1996年から2012年までの間に,星総合病院外科で遺 伝カウンセリングののちBRCA遺伝子診断を実施し た当科手術例を発端者とする41家系67例の家族性乳癌 および血縁者を対象に,BRCA遺伝子病的変異の有無 と家族歴について検討した.67例中50例は乳癌患者で あった.なお,BRCA遺伝子診断および関連研究につ いては文部科学省・厚生労働省・経済産業省が示した  2014年 2 月10日受付 2014年 5 月15日採用  〈所属施設住所〉   〒963-8501 郡山市向河原町159- 1

(2)

「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に 基づき2001年 7 月30日付で当院倫理委員会の承認を得 ており,参加したいくつかの多施設共同研究について は,その都度,当院倫理委員会の承認を得ている.そ れ以前の症例の遺伝子診断に関しては,家族性腫瘍研 究会倫理委員会の家族性腫瘍における遺伝子診断の研 究とこれを応用した診療に関するガイドライン9)に準 拠した.遺伝子診断に伴うカウンセリングは家族性乳 癌の診療経験の豊富な医師と最近では認定遺伝カウン セラーが担当している.家族性乳癌の診断には本邦家 族性乳癌臨床的定義(Table 1)を用いた.遺伝子診 断はわが国でのいくつかの研究10)11)とファルコバイオ システムズでBRCA1 およびBRCA2 のタンパク質切 断型変異の有無の検出を行った.Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification(MLPA) 法 に よ る 大規模欠失の検討まで行ったのは最近の数例のみであ る.  また,遺伝子診断を行った67例のうち未発症血縁者 診断を行った17例を除く乳癌50例を対象にBRCA遺 伝子変異の有無別に診断時年齢,両側乳癌を含む重複 癌の頻度,病理組織型,組織学的リンパ節転移,内分 泌反応,術式,遺伝形式など臨床病理学的検討を行っ た. 結  果  遺伝子診断  BRCA遺伝子の病的胚細胞変異を検出したのは,発 端者診断では41家系中11家系,26.8%で,BRCA1 に 変異を認めたものは 4 家系,BRCA2 に変異を認めた ものは 6 家系,BRCA1 とBRCA2 の両者に変異を認 めたものは 1 家系であった(Table 2).BRCA1 では L63Xの変異が多かった.また,家族歴がない若年者 トリプルネガティブ乳癌でも 1 例BRCA1 の変異が確 認された.11家系のうちの典型的な 1 家系を示す(Fig. 1).乳癌である発端者および血縁者50例中18例,36.0 Table 2 家族性乳癌に認められた BRCA 遺伝子病的胚細胞変異 遺伝子 病的胚細胞変異 発端者を含む第2度近親者にみられた癌 家系1 BRCA2 nonsence Q2893X BR5 (bil:1), PST1

家系2 BRCA2 frameshift 6491del5 2173X BR4, PC1, ST2 家系3 BRCA2 frameshift 3423del4 1075X BR2, OV1, PST1, CRC1 家系4 BRCA2 splicing 9345G>A BR4, ST1

家系5 BRCA2 frameshift 5903del1 1908X BR4 (bli:2), CRC1, ML1 家系6 BRCA1 nonsence L63X BR4

家系7 BRCA2 nonsence S1882X BR4, OV1

家系8 BRCA1 nonsence L63X BR3 (bil:1), OV2, EM1, ST2, CRC1 BRCA2 frameshift 5804del4 1861X

家系9 BRCA1 nonsence L63X BR2 (bil:2) 家系10 BRCA1 frameshift 3561del1 1154X BR1

家系11 BRCA1 nonsence L63X BR4 (bil:2), OV2, ST1

BR:乳癌,bil:両側,OV:卵巣癌(原発性腹膜癌を含む),PST:前立腺癌,PC:膵癌, EM:子宮体癌,ST:胃癌,CRC:大腸癌,ML:悪性リンパ腫. Table 1 家族性乳癌の定義 A.第1度近親者に発端者を含め,3人以上の乳癌患者がいる場合 B. 第1度近親者に発端者を含め,2人以上の乳癌患者がおり,いずれかの乳癌が次のい ずれかを満たす場合   1)40歳未満の若年者乳癌   2)同時性あるいは異時性両側乳癌   3)同時性あるいは異時性他臓器重複癌 (乳癌=卵巣癌,前立腺癌) 野水・他:乳癌の臨床 1991;6:45-46 野水・他:阿部力哉監修,家族性乳癌,篠原出版,東京,1996,p7-16より一部改変 1991年提唱後,最近ではHBOCの概念が確立し卵巣癌と前立腺癌を関連癌として同等に扱 うことにした.

(3)

%にBRCA遺伝子の病的変異を認めた.未発症血縁 者に対する保因者診断では変異陽性は17例中 8 例,47.1 %であった.発端者診断では,第 1 度近親内に乳癌や 卵巣癌患者を 3 人以上有する家系はBRCA変異陽性11 家系中 9 家系,81.8%であったが,一方BRCA変異陰 性でも30家系中 9 家系,30.0%あった.したがって, 第 1 度近親内に乳癌や卵巣癌患者を 3 人以上有する家 系は18家系あったが,そのうち 9 家系,50.0%にBRCA 胚細胞変異を検出したことになり,濃厚な乳癌卵巣癌 家族歴を有する乳癌患者での検出率が高かった.一方, 家族歴のない若年者トリプルネガティブ乳癌(診断時 年齢35歳)で変異陽性となったものが 1 例( 1 家系) あったことは注目すべきことである(Table 3).  Frankら12)とSuganoら7)の検討に当てはめると,わ れわれの検討では被験者に卵巣癌患者はなく乳癌患者 のみであるが,同じような傾向を認めた.ただし,家 系内に卵巣癌や50歳未満乳癌患者がいなくても,被験 者が50歳未満乳癌である場合は米国に比べ高い検出率 であった.これはSuganoらの本邦例での報告7)と同 様であった(Table 4).  臨床病理学的検討  平均年齢は変異あり群(n=19)では47.5歳,変異な し群(n=31)では47.5歳,両側乳癌・重複癌の頻度は 変異あり群(n=19)26.3%(両側乳癌21.1%,重複癌 5.3%)変異なし群(n=31)19.4%(両側乳癌16.1%, 重複癌3.2%)であった.組織型は変異あり群(n=21) では浸潤性乳管癌(IDC)71.4%,非浸潤性乳管癌 (DCIS)23.8%,特殊型4.8%,変異なし群(n=35)で は82.9%,14.3%,2.9%で,変異群のDCISはすべて BRCA2 変異乳癌で発見動機はマンモグラフィ乳癌検 診の微細石灰化と家族歴であった.変異なし群の DCISもすべてマンモグラフィ乳癌検診発見例であっ た.組織学的リンパ節転移陽性(n(+))は変異あり 群(n=21)42.9%,変異なし群(n=35)31.4%であり, 内分泌反応あり(エストロゲン受容体(ER)/プロゲ ステロン受容体(PgR)(+))は変異あり群(n=19) 47.4%,変異なし群(n=32)75.0%,HER2(+)は変 異あり群(n=17)11.8%,変異なし群(n=16)12.5%, トリプルネガティブ乳癌の頻度は変異あり群(n=17) 41.2%,変異なし群(n=16)6.3%であった.組織学 Table 3 BRCA 遺伝子変異検出率 (野水定義) 乳癌患者 家系 A 9/15(60.0%) 9/19(47.4%) B-1 3/13(23.1%) 1/11( 9.1%) B-2 1/6 (16.7%) 0/5 B-3 1/1 0/0 他 4/15(26.7%) 1/6 (16.7%) 家族歴なし 1/3 (33.3%) (うち若年者TN 1/2 (50.0%)) Fig. 1 典型的な家族性乳癌家系(BRCA2 変異)の家系図: 4 世 代 に わ た り 6 名の乳癌患者がおり,両側乳癌,他臓器重複癌,30歳代乳癌が認められる.発 端者の遺伝子検査でBRCA2 にフレームシフト変異が検出された.

(4)

的悪性度に関しては浸潤癌のみで検討したが変異あり 群(n=16)では全例がG-II/IIIでG-IIIは50%,変異 なし群(n=14)ではG-I 42.9%,G-II 42.9%,G-III 14.3%であり,変異あり群では,n(+)率が高く(χ 二乗検定NS)ER/PgR(+)率が低く(χ二乗検定p< 0.05),トリプルネガティブ率が高く(χ二乗検定p< 0.05),組織学的悪性度が高かった(χ二乗検定p< 0.01).なお,病理学的各因子の検討では,両側乳癌 は 2 例として,また病理情報が得られたもののみで検 討した.術式では温存手術は変異あり群(n=22)22.7 %,変異なし群(n=35)20.0%で,温存手術施行例は 少なかった.すなわち,我が国の乳癌登録2009年(The Japanese Breast Cancer Society Breast Cancer Reg-istry: JBCSBCR)を対照として比較すると,BRCA Table 4 年齢・家族歴と BRCA 遺伝子検査の変異検出率(第2度近親に乳癌,あるいは卵巣癌 が1人以上) 自験例 日本(Sugano K) 米国(Frank TS) 血縁者 被験者 50歳未満 乳癌(-) 卵巣癌(-) 50歳未満 乳癌(+) 卵巣癌(-) 50歳未満 乳癌(-) 卵巣癌(+) 50歳未満 乳癌(+) 卵巣癌(+) 50歳以上 乳癌を発症 0/6 ( 0  %) 3/14 (21.4%) 4/172( 2.3%)  3/6 (50.0%)  2/16 (12.5%) 34/315(10.8%) 2/5 (40.0%) 0/5 ( 0  %) 4/87( 4.6%) ―  1/3 (33.3%) 19/87(21.8%) 50歳未満 乳癌を発症  4/13 (30.8%)  4/26 (15.4%) 55/579( 9.5%)  3/10 (30.0%)  13/33 (39.4%) 206/806(25.6%)  2/3 (66.7%)  4/11 (36.4%) 41/236(17.4%)  3/3 (100  %)  3/5 ( 60.0%) 126/267( 47.2%) 卵巣癌のみ を発症 ―  0/2 ( 0  %)  5/77( 6.5%) ―  0/1 ( 0  %) 25/67(37.3%) ―  1/6 (16.7%) 35/111(31.5%) ― ― 38/71(53.5%) 乳癌と 卵巣癌を発症 ―  1/1 (100  %) 10/52( 19.2%) ― ― 16/39(41.0%) ― 1/1 (100  %) 9/20( 45.0%) ―  1/1 (100  %) 16/24( 66.7%) Table 5 BRCA 遺伝子変異と臨床病理学的因子 変異あり(n=19) 変異なし(n=31) 平均年齢 47.5歳 47.5歳 両側乳がん/重複癌頻度 26.3% 19.4% 組織型 IDC 71.4% 82.9% DCIS 23.8% 14.3% 特殊型 4.8% 2.9% 組織学的リンパ節転移陽性 42.9% 31.4% 内分泌反応陽性 47.4% 75.0% p<0.05 HER2陽性 11.8% 12.5% トリプルネガティブ 41.2% 6.3% p<0.05 HG2/3 100.0% 57.2% p<0.01 温存手術 22.7% 20.0% 遺伝形式 父系 36.4% 26.7% 母系 45.5% 50.0% 判断困難 9.1% 20.0% 家族歴なし 9.1% 3.3%

(5)

変異陽性乳癌では若年発症の傾向(JBCSBSR:58.1歳 t検定NS),両側乳癌が多く(JBCSBCR:7.3% t検定 NS),組織学的リンパ節転移陽性例が多く(JBCSBCR: 28.0% Z検定NS),内分泌反応陽性例が少なく(JBC-SBCR:78.8% Z検定p<0.01),トリプルネガティブ 乳癌が多く(JBCSBCR:12.3% Z検定p<0.01),温 存手術施行例が少なかった(JBCSBCR:59.3% Z検 定p<0.01).WHO分類でみる限り組織学的特徴はな かった.  発端者からみた遺伝形式は変異あり群(n=11)で は父系36.4%,母系45.5%,判別困難9.1%,家族歴な し9.1 %, 変 異 な し 群(n=30) で は26.7 %,50.0 %, 20.0%,3.3%であった.家族歴聴取の際は,母系のみ ならず父系にも注意を払うべきである(Table 5). 考  察  今回の検討では,乳癌家族歴が濃厚な家族性乳癌に 対しBRCA遺伝子診断を行いHBOCを確定した.対 象は多いとは言えないが,BRCA変異検出率は米国の データ12)と比較しても低くはなく,我が国においても BRCA遺伝子診断の有用性は十分に窺えるものであ る.遺伝子変異検出率は,家族歴が第 1 度近親に 3 人 以上と濃厚なほど高く,特に卵巣癌の家族歴を持つ50 歳未満発症の乳癌患者で高かった.これは既に報告の ある我が国のデータ7)や米国の多数例での検討結果12) と同じであった.未発症保因者診断では17例中 9 例に 変異を認め,常染色体優性遺伝の期待値50%に合致す る結果であった.また,BRCA1 の変異ではL63Xと いう変異が多かったが,既報告でも創始者変異の可能 性が議論されている7)  HBOCの臨床的特徴は,乳癌では濃厚な乳癌・卵巣 癌の家族歴,若年発症,多発乳癌,両側乳癌,他臓器 重複癌(卵巣癌との重複など),男性乳癌,BRCA1 関連乳癌では悪性度が高く予後も悪いなどが挙げられ る8)13).今回の検討で変異の認められた家系でもこれ らの特徴を有していた.また,われわれは未発症血縁 者に対する保因者診断も行ったが,保因者に対するサ ーベイランスとしてNCCNガイドラインでは,乳癌 検診では25歳から 6 カ月に 1 回の視触診,年 1 回のマ ンモグラフィおよびMRI検査が勧められている14)  臨床病理学的検討で,一般乳癌より変異あり群での n(+)率が高くER/PgR(+)率が低くトリプルネガテ ィブ乳癌が高率で組織学的悪性度が高かったのは, BRCA遺伝子変異乳癌では生物的悪性度が高いという ことを反映しているものと思われる8).Ki-67を検索 しているのは最近の症例のみ(n= 3 )ではあるが 34-83%と高値であった.  術式に関しては様々な意見がある.温存手術後の同 側乳房内乳癌発生のリスクはBRCA遺伝子変異の有 無で変わらないとする報告もあるが,予防的卵巣切除 をしている症例を除くとBRCA遺伝子変異を有する 患者の方が高リスクのようである15)16).NCCNガイド ラインではBRCA遺伝子変異を有する閉経前女性で は乳房温存手術は相対的禁忌とされている.同側乳房 内再発のリスクが増大する,あるいは対側乳癌発生の リスクが高く予防的両側乳房切除を検討できるとして いる.今回の検討で全摘例が多かったのは,乳管内進 展多発や家族歴陽性で全摘になった症例が多かったこ とや,全摘がスタンダードであった時期の症例が含ま れていることによる.濃厚な乳癌家族歴を有する乳癌 ではBRCA遺伝子変異のリスクが高いが,家族歴が ない場合でも卵巣癌との重複や,若年者乳癌,トリプ ルネガティブ乳癌ではBRCA遺伝子変異のリスクが あると報告されており,NCCNガイドラインでも遺伝 カウンセリングやBRCA遺伝子検査が勧められてい る14).著者らの検討でも家族歴なしであるが若年者ト リプルネガティブ乳癌でBRCA1 の変異が認められた 症例が 1 例あった17).わが国でも乳癌卵巣癌家族歴が ある場合は当然のこととして,家族歴がなくても卵巣 癌の重複や若年者トリプルネガティブ乳癌に対しては BRCA遺伝子診断を実施し,手術術式や薬物療法の選 択に役立てることを考えるべきである.将来,PARP (Poly ADP-ribose polymerase)阻害剤が出現すれば,

BRCA機能喪失の有無が薬剤効果に重要な意味を持つ のでBRCA遺伝子診断の有用性は大きいと考えられ る18)~20).すなわち,BRCA1 胚細胞変異を有する乳癌 患者のすべての体細胞はBRCA1 遺伝子の一方のアレ ルが既に機能喪失しているが,乳癌細胞ではさらにも う一方のアレルも機能喪失しており,DNA二本鎖切 断を修復する機能が完全に喪失している.このような 患者にPARP阻害剤を投与してDNA一本鎖切断修復 が抑制されると,乳癌細胞のみに選択的に合成致死 (synthetic lethality)が生ずると考えられている.  一方,家族性乳癌の発端者や血縁者でBRCA変異 が確認された場合,我が国でも乳癌や卵巣癌の予防的 リスク低減手術が議論される状況になっており, BRCA遺伝子診断とそれに伴う遺伝カウンセリングは ますます重要となってきている.

(6)

結  語  BRCA遺伝子診断では,遺伝性乳癌(あるいは卵巣 癌)の診断はもとより,血縁者における未発症保因者 診断で今後の予防的医療介入による乳癌の一次予防の 可能性が考えられる.また,乳癌の生物学特性の推測, 術式や薬物治療の選択の判断に有用である.今後,わ が国でもBRCA遺伝子診断が一般臨床でも可能にな るように,遺伝カウンセリングを含む診療体制の整備 を急がなければならない. 本研究の遺伝子診断の一部は 平成6-11年度文部省科学研究費「がんの戦略的研究」 平成11年度財団法人福島県医学振興会研究補助金 平成12-13年度文部省高度先進医療開発経費「難治癌 を対象とした分子診断・分子治療法の開発」 平成13-15年度文部科学省高度先進医療開発経費「乳 癌の遺伝子診療体系の確立:有効性,効率性の検証, および生命倫理に基づく基盤整備」 平成20-21年度厚生労働科学研究費補助金第3次対が ん総合戦略研究事業「遺伝子不安定性の機能解析及び 遺伝子変異推測モデルの構築による乳癌卵巣癌ハイリ スクキャリアーの同定と発症予防法の確立」 平成23年財団法人星総合病院研究奨励補助金 平成23-24年度がん研究振興財団研究費「若年乳癌患 者とその家族およびハイリスク若年女性に対する包括 的支援プログラムのモデル構築に関するパイロット研 究」補助「日本人の遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC) 症例に対するBRCA1/2遺伝子検査―遺伝子検査費用 の軽減と高リスク群同定に関する研究―」 の補助を受けた. 文  献  1) 野水 整,土屋敦雄,渡辺文明他:家族性乳癌の 臨床. 阿部力哉/監修,野水 整,土屋敦雄/編, 家族性乳癌,篠原出版,東京,1996,p7-16  2) Hall JM, Lee MK, Newman B, et al : Linkage of

early-onset familial breast cancer to chromo-some 17q21. Science 1990 ; 250 : 1684-1689  3) Narod SA, Feunteun J, Lynch HT, et al :

Famil-ial breast-ovarian cancer locus on chromosome 17q12-q23. Lancet 1991 ; 338 : 82-83

 4) Miki Y, Swensen J, Shattuck-Eidens D, et al : A strong candidate for the breast and ovarian can-cer susceptibility gene BRCA1. Science 1994 ; 266 : 66-71

 5) Wooster R, Bignell G, Lancaster J, et al :

Identifi-cation of the breast cancer susceptibility gene BRCA2. Nature 1995 ; 378 : 789-792

 6) Nomizu T, Tsuchiya A, Kanno M, et al : Clinico-pathological features of hereditary breast can-cer. Breast Cancer 1997 ; 4 : 239-242

 7) Sugano K, Nakamaura S, Ando J, et al : Cross-sectional analysis of germline BRCA1 and BRCA2 mutations in Japanese patients suspect-ed to have hersuspect-editary breast/ovarian cancer. Cancer Sci 2008 ; 99 : 1967-1976

 8) Noguchi S, Kasugai T, Miki Y, et al : Clinico-pathologic analysis of BRCA1- or BRCA2-asso-ciated hereditary breast carcinoma in Japanese women. Cancer 1999 ; 85 : 2200-2205

 9) 家族性腫瘍研究会倫理委員会:家族性腫瘍におけ る遺伝子診断の研究とこれを応用した診療に関す るガイドライン.宇都宮譲二/監修,家族性腫瘍, 中山書店,東京,1998,p375-400

10) Katagiri T, Kasumi F, Yoshimoto M, et al : High propotion of missense mutations of the BRCA1 and BRCA2 genes in Japanese breast cancer families. J Hum Genet 1998 ; 43 : 4342-4348 11) Kawahara M, Sakayori M, Shiraishi K, et al :

Identification and evaluation of 55 genetic varia-tions in the BRCA1 and the BRCA2 genes of patients from 50 Japanese breast cancer fami-lies. J Hum Genet 2004 ; 49 : 391-395

12) Frank TS, Deffenbaugh AM, Reid JE, et al : Clinical characteristics of individuals with germ-line mutations in BRCA1 and BRCA2 : analysis of 10,000 individuals. J Clin Oncol 2002 ; 20 : 1480-1490

13) 三好康雄,野口眞三郎:BRCA1,BRCA2乳癌の 臨床病理学的特徴.小山博記,霞富士雄/監修, 乳癌の最新医療,先端医療技術研究所,東京, 2003,p164-174

14) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology 2011/2012, Genetic/Familial High-Risk Assess-ment : Breast and Ovarian

15) Haffty BG, Harrold E, Khan A, et al : Outcome of conservatively managed early-onset breast cancer by BRCA1/2 status. Lancet 2002 ; 359 : 1472-1477

(7)

Ten-yer multi-institutional results of breast –con-serving surgery and radiotherapy in BRCA1/2-associated stage I/II breast cancer. J Clin Oncol 2006 ; 24 : 2437-2443

17) 片方直人,松嵜正實,野水 整他:BRCA1胚細 胞変異が確認されたbasal-like 若年者乳癌の 1 例.乳癌の臨 2012;27:629-636

18) Tutt A, Robson M, Garber JE, et al : Oral poly (ADP-ribose) polymerase inhibitor olaparib in

patients with BRCA1 or BRCA2 mutations and advanced breast cancer : a proof-of-concept tri-al. Lancet 2010 ; 376 : 235-244

19) O’Shaughnessy J, Osborne C, Pippen JE, et al : Iniparib plus chemotherapy in metastatic triple negative breast cancer. N Engl J Med 2011 ; 364 : 205-214

20) 三木義男:BRCA遺伝子と個別化治療.がん分子 標的治療 2012;10:13-18

 

BRCA GENE TESTING AND CLINICOPATHOLOGICAL STUDY OF FAMILIAL BREAST CANCER  

Tadashi NOMIZU1), Masami MATSUZAKI1), Naoto KATAGATA1), Takeshi SAKUMA1), Yasuyuki KANKE1), Taisuke ITO1), Mitsuhiro NIHEI2) and Yoshiko YAMAGUCHI3)

Department of Surgery, Hoshi General Hospital1)

Igarashi Internal Medicine and Surgery Clinic2)

Department of Pathology, Hoshi General Hospital3)  

  We investigated the deleterious germline mutation of BRCA genes and the family history of patients in 67 cases of familial breast cancer and the relatives in 41 of their families. The probands in 11 of 41 fami-lies, 26.8%, were shown to have the deleterious germline mutation of the BRCA genes. The mutations in BRCA1 were observed in four families, BRCA2 in six families, and the double heterozygosity with both BRCA1 and BRCA2 was found in one family. The detection rate of the mutations was higher in breast cancer patients who had dense family history of breast cancer and ovarian cancer. Comparing the clinico-pathological findings of the cases with or without mutations, there was no significant difference in age of onset, the frequency of bilateral breast cancer, pathology, or the frequency of mastectomy. In the cases with deleterious mutations, the rate of node positive cases was higher, the rate of ER/PgR positive cases was lower, the rate of triple negative was higher and histological grade was higher than in those without deleterious mutations. BRCA gene testing is useful in diagnosing hereditary breast cancer, as well as de-termining the primary prevention of breast and ovarian cancers and selection of a surgical method or che-motherapy.

Key words: familial breast cancer,hereditary breast ovarian cancer,HBOC,BRCA gene testing,

triple negative breast cancer

参照

関連したドキュメント

2)医用画像診断及び臨床事例担当 松井 修 大学院医学系研究科教授 利波 紀久 大学院医学系研究科教授 分校 久志 医学部附属病院助教授 小島 一彦 医学部教授.

 神経内科の臨床医として10年以上あちこちの病院を まわり,次もどこか関連病院に赴任することになるだろ

ABSTRACT: To reveal the changes of joint formation due to contracture we studied the histopathological changes using an exterior fixation model of the rat knee joint. Twenty

宮崎県立宮崎病院 内科(感染症内科・感染管理科)山中 篤志

infectious disease society of America clinical practice guide- lines: treatment of drug-susceptible

藤田 烈 1) ,坂木晴世 2) ,高野八百子 3) ,渡邉都喜子 4) ,黒須一見 5) ,清水潤三 6) , 佐和章弘 7) ,中村ゆかり 8) ,窪田志穂 9) ,佐々木顕子 10)

全国の緩和ケア病棟は200施設4000床に届こうとしており, がん診療連携拠点病院をはじめ多くの病院での

がんの原因には、放射線以外に喫煙、野菜不足などの食事、ウイルス、細菌、肥満