博 士 ( 地球 環 境科学 )川畑 弘
学 位 論 文 題 名
PIvIMA 薄膜中における
メチレン鎖連結化合物の光誘起電子移動反応および エネルギー移動反応と外部電場効果
学位論文内容の要旨
20世紀の科学技術の進歩は石油や石炭といった化石資源の利用に基づいており、環境汚 染という負の遺産を我々に残した。また、化石資源の濫掘により、工ネルギーの枯渇問題 が叫ばれている。しかし、太陽光や風カなどの自然エネルギーは無尽蔵であり、かつ万人 が平等にその恩恵を受けることが出来る。既に太陽光や風カによる発電は、一般家庭でも 実用化されてきている。21世紀の科学技術の発展を担う我々は、これまでの消費文化を反 省し、人間にだけでなく地球環境にも優しい新技術を生み出すことを考えなければならな い。そういった新技術は、この自然工ネルギーを利用したグリーンケミストリーと切り放 して考えることは出来ないと思われる。光化学反応を利用した方法はそのようなグリーン ケミス卜リーのーつである。地球環境において光照射後に生じる電子移動反応やェネルギ 一移動反応は重要な役割を果たしている。例えば、植物の光合成に代表される、生物系で のェネルギ一変換は超高速の光誘起電子移動反応(PIET)により生じることが知られてい る。また、そのエネルギー変換は局所電場の効果により非常に高効率になることが指摘さ れている。反応のダイナミクスとその電場効果を明らかにすることはこれらの本質を理解 する上で不可欠であり、地球環境に優しい次世代工ネルギーの開発にも役に立っと思われ る。しかし、生物における分子の構造は複雑で、その規則正しい配向を再現することは非 常に困難であり簡単に取り扱うことは出来ない。そこで本研究では、光誘起電子移動反応 もしくはエネルギー移動反応を生じる芳香族分子をヌチレン鎖で連結した非常にシンプ ルな分子に注目し、反応のダイナミクスとその電場効果を螢光特性とその電場効果から明 らかにし、電場による反応制御の可能性を調べた。
第1章 は 、 本 論 文 の 序 論 と し て 、 本 研 究 の 目 的 と 意 義 に つ い て 述 べ た 。 第2章では、本研究で観測した電場吸収スペクトルおよび電場螢光スペクトルの解析に あたって考慮したシュタルク効果についての基礎的な説明と期待される反応のダイナミ クスヘの電場効果について述べた。さらに光誘起電子移動反応およびェネルギ一移動反応 に関して、他の研究者によってこれまでに行われてきた研究を概括して記すともに、反応 のダイナミクスへの期待される電場効果についても言及した。
第3章では、PMMA薄膜中で、電子受容体(A)であるフェナン卜レン(PH)と電子供与体
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(D) であ る〃 N‑ジ メチ ルア ニリン(DMA)をヌチレン鎖(‑(CH:)‥ ―,nは炭素数)で連結した 化 合 物(PH―(CH: )。 −DMA)の螢 光ス ペク トル お よび その 電場 効 果を 調べ た。PHの 局 在励 起状 態 か ら の 螢 光(LE螢 光 ) が 電 場 に よ り 消 光 さ れ 、 そ の 消 光 量 は 濃 度 の 増 加 と 共 に 増 し た こ と か らPH―(CH: ) 。 ―DMAは 分 子 聞 で 電 子 移 動 を 生 じ 、 そ の 速度 が電 場に より 促 進さ れる こ と を 示 し た 。 ま た 短 い メ チ レ ン 鎖 でPHとDMAを 連 結 し た 分 子(PH‑CH. ―DMA)で は 、 分 子 問 だ け で な く ヌ チ レ ン 鎖 を 介 し て の 分 子 内 電 子 移 動 を 生 じ 、 そ の 速 度 も 電 場 に よ り 促 進 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 外 部 電 場 を 摂 動 と し て 取 り 扱 い 、Marcusの 速 度 式 を 展 開 し 、LE螢 光 へ の 外 部 電 場 効 果 と 螢 光 寿 命 の 解 析 に よ りPMMA薄 膜 中 で の 光 誘 起 電 子 移動 反応の自由工ネルギー変化を 求めた。
第4章 で は 、PMMA薄 膜 中 で 、Dと し て 働 く フ ウ ナ ン 卜 レ ン も し く は ピ レ ン(PY)をAと して 働くフタルイミド(PI)とメチ レン鎖で連結した化合物( それぞれを以下にPH―(CH:)。―PI, PY‑(CH:)ハ‑PIと書く)の螢光の電場効果について述べた。PH−(CH:)3―PIの濃度がImo|ワ。以下 で は 電 場 に よ りPHのLE螢 光 の 増 加 が 観 測 さ れ る 。 こ の こ と か ら 電 場 は 電 子 移 動 を 促 進 す る だ け で な く 光 誘 起 電 子 移 動 に よ り 生 成 す る ラ ジ カ ル イ オ ン 対 か らPHの 励 起 状 態 を 形 成 す る 逆 電 子 移 動 に も 影 響 す る こ と を 示 し た 。 ま た 高 濃 度 で は 、LE螢 光 が 電 場 に よ り 消 光 さ れ た こ と か ら 逆 電 子 移 動 速 度 よ り も 電 子 移 動 速 度 の 方 が 電 場 に よ り 促 進 さ れ る こ と が わ か っ た 。 電 場 は 電 子 移 動 だ け で な く 、 逆 電 子 移 動 も 促 進 す る こ と を 示 し 、 逆 電 子 移 動 の 電場 による促進には分子内過程の 存在が重要であることを示 した。
第5章 で は 、 プ 口 バ ン の 両 端 にPYが 連結 して い る分 子(PY‑(CH: )ユ −PY)の 螢光 ス ベク トル お よ び そ の 電 場 効 果 を 調 ベ 、 メ チ レ ン 鎖 に よ る 連 結 効 果 に つ い て調 べた 。PY―(CH: )3―PY は 分 子 間 で ェ キ シ マ ー 状 態 を 形 成 し 、 そ の 構 造 はPYが 部 分 的 に 重 な っ た も の と サ ン ド イ ッ チ 型 に 重 な り 合 っ た も の の 二 種 類 が 存 在 す る 。 ま た 螢 光 の 電 場 効 果 か らLE螢 光 お よ び 二 種 類 の エ キ シ マ 一 螢 光 は 、 そ れ ぞ れ 異 な る 電 場 依 存 性 を 示 す こ と が 明 ら か に な っ た 。 ま た 電 場 を 印 加 す る こ と に よ り 生 じ た 電 界 発 光 は サ ン ド イ ッ チ 型 の エ キ シ マ ー 状 態 か ら の も の で あ り 、 ヌ チ レ ン 鎖 を 介 し て の 高 効 率 の 電 荷 再 結 合 に よ る も の で あ る こ と が 明 ら か に する ことが出来た。
第6章 で 本 研 究 の 総 括 を 行 っ た 。 外 部 電 場 は 光 誘 起 電 子 移 動 お よ び ェ ネ ル ギ ー 移 動 に 影 響 を 与 え 、 メ チ レ ン 鎖 連 結 効 果 や 濃 度 効 果 と 組 み 合 わ せ る こ と に よ り 反 応 を 制 御 が で き る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 本 研 究 で 得 ら れ たPMMA薄 膜 中 に お け る 光 誘 起 電 子 移 動 お よ び ェ ネ ル ギ ー 移 動 の 反 応 ダ イ ナ ミ ク ス ヘ の 外 部 電 場 効 果 の 知 見 は 、 生 物 系 に お け る エ ネ ル ギ ー 変 換 機 構 を 解 明 す る 鍵 と な り 、 光 を 利 用 し た 次 世 代 エ ネ ル ギ ー の 開 発 も 可 能 に す る と考 えている。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 太田信廣 副査 教授 中村貴義 副査 教授 中村 博
副査 教授 山崎 巌(大学院工学研究科)
学 位 論 文 題 名 PIVIMA 薄膜中における
メチレン鎖連結化合物の光誘起電子移動反応および エネルギー移動反応と外部電場効果
地 球環 境 に おい て 光照射 後に生じ る電子移 動反応や ェネルギ ー移動反 応は重 要な 役 割を 果 た して いる 。例えば 、植物の 光合成に 代表され る、生物 系でのエ ネルギー変換は超高速・の光誘起電子移動反応( PIET)により生じることが知られ てい る 。ま た 、 その エネ ルギー変 換は局所 電場の効 果により 非常に高 効率であ るこ と が指 摘 さ れて いる 。反応の ダイナミ クスとそ の電場効 果を朗ら かにする こと は これ ら の 本質 を理 解する上 で不可欠 であり、 地球環境 に優しい 次世代工 ネル ギ ーの 開 発 にも 役に 立つと思 われる。 しかし、 生物にお ける分子 の構造は 複雑 で 、そ の 規 則正 しい 配向を再 現するこ とは非常 に困難で あり簡単 に取り扱 うことは出来ない。そこで本論文では、光誘起電子移動反応もしくはエネルギー 移動 反 応を 生 じ る芳 香族 分子をヌ チレン鎖 で連結し た非常に シンブル な分子に 注目 し 、反 応 の ダイ ナミ クスとそ の電場効 果を螢光 特性とそ の電場効 果から明 らかにし、電場による反応制御を目的とした。
第1章 は 、 本 論 文 の 序 論 と し て 、 本 研 究 の 目 的 と 意 義 に つ い て 述 べ た 。 第2章 では 、 本 研究 で 観測 し た 電場 吸 収ス ベ ク 卜ル および電 場螢光ス ベクト ルの 解 析に あ た って 考慮 したシュ タルク効 果につい ての基礎 的な説明 と期待さ れる 反 応の ダ イ ナミ クス ヘの電場 効果につ いて述べ た。さら に光誘起 電子移動 反応 お よび ェ ネ ルギ ー移 動反応に 関して、 他の研究 者によっ てこれま でに行わ れて き た研 究 を 概括 して 記すとも に、反応 のダイナ ミクスヘ の期待さ れる電場 効果についても言及した。
第3章 では 、 ポ リヌ タ クリ ル 酸 ヌチ ル(Pl¥Il¥LA)薄膜 中で、電 子受容体 であ
る フェ ナン トレ ン(PH)と 電子 供与 体で ある 丶N宀ジヌチルアニリン(DMA)をメ チレン鎖(ー(CH2)n一,nは炭素数)で連結した化合物(PH―(CH2)n―DlvIA)の螢光 ス ペ ク 卜 ル お よ び そ の 電 場 効 果 を 調 べ た 。PHの 局 在励 起 状 態か らの 螢光(LE 螢 光) が電 場に より消光され、その消光量iま濃度の増加と共に増したことから PH―(CH2)。―Dl¥L‑Yは分子間で電子移動を生じ、その速度が電場により促進され る こと を示 した 。ま た短 いヌ チレ ン鎖 でPHとDI¥IAを 連結 した 分子(PH―CH2− DM心 で は 、 分 子 間 だ け で な くメ チレ ン鎖 を介 して の分 子内 電子 移動 を生 じ、
そ の速 度も 電場 によ り促 進さ れる こと を明 らかにした。さらに外部電場を摂動 と し て 取 り 扱 い 、Marcusの 速度 式を 展開 し、LE螢 光へ の外 部電 場効 果と 螢光 寿 命の 解析 によ りPl¥IMA薄膜 中で の光 誘起 電子移動反応の自由エネルギー変化 を求めた。
第4章では、 Pxへ,Lユ薄膜中で、電子供与体として作用するPHもしくはピレン (PY)を 電子 受容 体と して 作用 する フタ ルイ ミド(PDと ヌチ レン 鎖で 連結 した化 合物(それぞれを以下にPH―(CH2)わ―PI,PY一(CH2)n一PIと書く)の螢光の電場効果 について述べた。PH一(CH2)3―PIの濃度がImol%以下では電場によりf)HのLE螢 光 の増 加が 観測 され る。 この こと から 電場 は電子移動を促進するだけでなく光 誘 起 電 子 移 動 に よ り 生 成 す るラ ジカ ルイ オン 対か らPHの励 起状 態を 形成 する 逆 電子 移動 にも 影響 する こと を示 した 。ま た高濃度では、LE螢光が電場により 消 光さ れた こと から 逆電 子移 動速 度よ りも 電子移動速度の方が電場により促進 さ れる こと がわ かっ た。 電場 は電 子移 動だ けでなく、逆電子移動も促進するこ と を示 し、 逆電 子移 動の 電場 によ る促 進に は分子内過程の存在が重要であるこ とを示した。
第5章で は、 フ口バンの両端にPYが連結している分子(PY‑ (CH2)3ーPY)の螢光 ス ペク トル およ びそ の電 場効 果を 調べ 、ヌ チレン鎖による連結効果について調 べ た。PY‑ (CH2)3―PYは 分子 間で ェキ シマ ー状態を形成し、その構造はPYが部 分的に重なったものとサンドイッチ型に重なり合ったものの二種類が存在する。
ま た螢 光の 電場 効果 からLE螢 光お よび 二種 類のエキシマー螢光は、それぞれ異 な る電 場依 存性 を示 すこ とが 明ら かに なっ た。また電場を印加することにより 生 じた 電界 発光 はサ ンド イッ チ型 のエ キシ マー状態からのものであり、ヌチレ ン 鎖を 介し ての 高効 率の 電荷 再結 合に よる ものであることが明らかにすること が出来た。
第6章で本論文の総括を行った。
審 査員 一同 は、 これらの成果を高く評価するとともに、研究者として誠実か つ熱 心で ある こと なども併せ、申請者が博士(地球環境科学)の学位を受ける のに 充分 な資 格を 有す るも のと 判定 した 。